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12章 望むが侭に 『果たして世界は誰の為』
書の5前半 現実になる夢『致命的なバグの主要』
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■書の5前半■ 現実になる夢 Take a risk
何でこんな事になっているか?
知るか、誰か教えてくれ。
俺は……気が付いたらここにいた。
で、魔王八逆星であるはずのナドゥがいたので背に腹は替えられずどういう事だ?と事情を聞く事になった。
するとおっさん、ため息を漏らしてこう答えやがったのだ。
我々はここに閉じこめられている、と。
当時の事をリコレクトする、か。
よし、状況整理だ。
状況が哀れだったなぁと、まず思い出せる。
飲める水はあるし、谷底とはいえ結構広い事もあって一応陽は差す。その関係で植物は生えているし有限だが動物もいる。
ところが、ナドゥはそれらを利用し生きる能力に乏しいと見た。
サバイバル能力が皆無なのな。
元から弱そうなイメージあったけど、初めてここに俺が来た時奴はげっそり痩せてて今にもぶっ倒れそうな有様だったぜ。我々は食べる必要が無いのだ、とか言ってたけど……魔王八逆星連中はさ、それでもやっぱり食えない訳ではないのだから食べないと精神的にこう、それが外見にも出てしまうんじゃねぇのか?理論上食わなくても良いとはいえ、空腹を感じないワケでは無いらしいからな。
で、それより酷い状況だったのが……ギガースだな。
鉄の檻みたいなのに閉じこめられていて未だにそっから出られない。
お二方、仲が良いという訳ではなかったようだ。
……俺だって別に魔王八逆星であるナドゥと推定大魔王なんかと仲良くする立場には亡い。
俺は青旗を持つ魔王討伐隊の、自称イタい勇者であったりする。
しかし……イタいという属性はまずかったかもしれない。
とにかく、出来る事やるしかねぇってんで俺は持ち前の田舎人としての知識を生かし、精一杯のサバイバルを始める事になった。俺は、食わないと死ぬからな、うん。
谷は閉じている、というナドゥの話は本当で、結構広い癖に出口らしいものは一切無かった。登って上に出れそうな場所も一切無く、自力脱出はほぼ絶望的なのは確かだ。
縄でも作って上に投げようにも……人間の腕力では崖の上まで何かを投げる事は無理だろう。目測で1キロは無いだろうがとにかく、凄まじい崖がぐるりと覆っているんである。しかも手が届く範囲が地層的に脆く、楔を打ち込んで登っていく事も出来そうにない。
これは大人しく助けを待つしかないだろう。
状況を把握するに、俺はそのように自力脱出を諦めた。で、サバイバルを始めたという訳だ。
勿論助けが来るまで生き残るつもりで、だな。
ところが、そのようにいたって前向きな俺にナドゥは、俺が落ちいっているであろう状況を絶望的に語りやがってな。
助けなど来ない、と奴は言う。言い切る。
その理由が変だった。変というか、嘘を付くならもっとマシなのをつけよと思ったかな。
奴は俺にこう言った。
助けは来ない。
この俺を、仲間達は探さない。
……なぜなら、俺が分裂していて恐らくそっちの方を仲間は『俺』だと認識するからだ、とか。
そんなまさかと思った訳だけど……どうにも。
真実らしい事がじきに、分かってしまう。
閉じこめられている男、ギガース、ようするに大魔王だろ?と聞いたらナドゥ、間違っていないと答えて否定はしなかった。
檻の中で椅子に腰掛け俯いて微動だにしない、こいつが……俺達が倒すように命じられていた魔王。
ところが俺は今、剣などの武器は一切持っていない。
いつもの装備も無い状態だ。確か……魔王八逆星連中にとっつかまってそれで、拘束されていたと思ったが。気が付いたらここにいた。武器防具一切没収されたままで、である。
出来れば魔王を倒したい所だがギガースに手が届かん。奴は檻の中にいて隔離されている。
檻に入っているのは奴だというのに、それによって奴はある意味、守られている状況なのだな。
会話も通用せず奴は、黙って閉じている鉄の扉の前に置いてある椅子に腰掛け、扉に額をつけて俯いていてこちらを見ようともしないのだ。
所がナドゥに例の『代替が外にいるから誰も助けには来ないぞ』という状況説明されるうち、突然微動だにしなかったギガースが顔をあげ、目の前の扉を凝視した。
と、思ったら目の前にしている扉が何の前触れもなく……開きやがったんだ。
そして、その向こうに……非常に見覚えのある人物が立っているのを俺、見てしまったんである。
俺だ、フル装備した俺が、ギガースがいる鉄格子の中を覗き込んでいる。
どういう事だ?
状況の奇妙さに俺は動けず、扉の向こうから覗き込んでいる俺もまた、状況に混乱しているようで対峙しているギガースを凝視していた。
こっちの俺には気が付かなかったようだ。
完全に目の前に居たギガースに気を取られてしまっている。
俺がこういうのも何だが、実にアホ面全開で何かを言おうとして何やら口ごもったのが見える。その途端、身じろぎ一つしなかった男、ギガースが動いた。
てっきり死んでんのかと思ってたよ、俺。
灰色の長いストレートの髪を振り払い、ギガースは顔を上げる。
「待っていた、」
『俺』の頭をギガースのガリガリになった腕が捕えたのを見た。
『俺』ってば、びっくりしていてそれを安易に許してしまっている。
「懐かしい、匂いがする」
匂い?俺は、つい自分の服の臭いを嗅いでしまう。
あれは『俺』だろ?俺も『俺』だけど。
だったら、同じ匂いを纏っていてしかるべきだと思うが。
「私も連れて行け、私を か え せ !」
……ところがその後、容赦なく扉は外側から閉じてしまった。
俺は驚き、今しがた開いていた筈の扉に回り込んでみる。
……無い、あるのは鉄の壁だ。鉄格子から中を覗く。間違いない、今ギガースが必死に叩いて何か悲嘆に喚いている鉄扉にはドアノブがあるのに、反対側、外にはこれがついていない。
……どういう事だ?
ナドゥ曰く、あれはあちらに繋がっているものだという。
じゃぁ、こちらは何なんだ?
ここはどこ?
ナドゥ、これには答えなかった。奴自身分かってないのかもしれない。
とにかくワケが分からん状態ではあるが、ナドゥの言っている事は嘘というわけでもない事は理解できた。
本当だ、俺はアッチの世界にもいる。
だから俺を、仲間達が助けに来る事はない、か。
ははは……。
確かにな、そうなのかもしれない。
これは俺が1人先走った罰だ。
死んでも構わない、人柱になっちゃっても仕方ない、そのように仲間達を裏切った罰なんだろう。
俺は、そのように状況を受け入れる事が出来た。
少なくともそれで絶望して、死のう……とは、思わなかった訳だな。
閉じこめられているが状況を見渡すに、それ程酷い状況じゃないぞ。
生き繋ぐには十分な環境が整っている。
なら俺はここで生きよう。人間生きてりゃ何か、展望があるだろう。
でも、生き繋いでどうするんだろう?
そんな疑問が無い訳じゃない。
ところが日々生きるために無い知恵絞り、罠作ったり喰える植物採取したり、株分けしてなんとか増やしてみたり……そういう作業をするに必要な道具作ったりさ。気が付いたら俺はそういうのに夢中になっていて、このたわいもない繰り返しの生活がそれ程悪いものには思えなくなってしまったりしていた。
遥か昔に、自分から捨てた生活スタイルだ。
今、物資が限られている分、子供の頃、ド田舎シエンタでの暮らしは結構恵まれていたのかもしれないとぼんやりと思い返したりする。
決して美味くはない。
メシの前に手を合わせ頂きますと、命を繋ぐに命を落としたものに感謝する。
悪かねぇ。
一時の至福、困難をやり遂げた達成感に俺は自分が外にもう1人いるらしい、なんて事態すっかり忘れてしまう事の方が多くなっていた。
だからなんだ、俺は、俺だ。
仲間がどっちを選ぼうが俺は今、俺なんだからそりゃどーしたってしょうがねぇ。
そんで、気が付いたらナドゥのおっさんが俺のサバイバル生活にこっそり片足を突っ込んで来やがってな……。
この草食えるかな?とか悩んでたらそれ猛毒だから食うな、とか勝手にアドバイス入れてきやがったんだ。
実際薬草の知識など俺よりも詳しかったり、力学的な道具作成アドバイスなんかも割と役に立ってしまったと思いねぇ。
魔法とか使えないのかと聞いたら、残念ながらあまり素質はないとのお答えであった。
気が付いたら共同生活していた。
で、質素ながらちゃんとメシ作って喰っているのについに、無反応だったギガースが反応を示し始める。
物欲しそうな奴の視線に耐えられなくなった為……仕方が無く、ただメシ喰らいにお目こぼしをしているという訳だな。
そうやって共同生活をする事になってしまったってのが……ようするに、イタい勇者という属性的に引き起こされているようにも思う。
俺、状況に妥協しすぎ!
そんな具合で割と平穏に暮らしてしまっていたかもしれない。
たまに、いや、これじゃぁいかんよなと思う瞬間もあるんだが。
しかし現実的にはどうしようもないという事も理解出来ている。状況に対する諦めの早さは割と潔いのだ。特に言えば『俺自身』の事なら尚更すっぱり決まる。他人の事だと……あまり、考えた事がないからよく分からない。
逆に諦めは悪いかも知れないな。
とりあえず誰かがこの谷を覗き込んで来てくれるのを待つか、あのギガースの目の前にあるトビラが再び開く日を待つしかねぇんだよなぁ……と、状況納得するようにしていた。
一つ納得が行かないとすれば……。
元々あまりお盛んな方ではないとは言え、やっぱり……面子が男3人ってのは辛いという所か。
いや、今のは聞かなかった事にしてくれ!
考えるだけでも涙が出そうな状況だ。忘れよう。
そうやって暮らすに順応していたある日。
ついに、状況の変化って奴がこの閉じた世界に訪れる事となった。
やっぱり生きて待っていれば展望は開けるもんだな。
比較的最近の出来事である。日付を数えられる……5日前、だ。
俺は明るくなる前に目を覚ますんだぜ。逆におっさんは寝起きが弱いらしい。知りたくもない一面を知るになんだかがっかりだ。
共同生活してるが馴れ合いたい訳じゃねぇ。それ相応の立場に戻ったら遠慮無く敵対関係に戻るんだから。
その日、俺は朝日が眩しくて目を覚ました。
いや、それはおかしい。
目を覚まし、辺りは何時も通り薄暗い事を確認し、陽が頬に当ったと思ったのは夢だったのかと……辺りを見回しながら起き上がった。
うん、夢……だな。勘違いだ。
起きあがり、ギガースのいる檻を覗き込んでみたが変化はない。寝てる間に扉が開いた気配も無い。奴は、椅子の下で呑気に寝てやがる。
全く、こいつの所為で俺達は……ああ、もうこの思考はうんざりだ、やめよう。
朝一番に目を覚まして、唯一の水場で昨日掻いた汗を流すのが日課になっている。とはいえ、この水もあまり多くは無い。拳二つ分くらいの隙間からちろちろと流れ出ていて、この水を一時的に溜めるプールは俺の自作だ。
考えたくないが、この湧き水が枯れるような事になったら生活は、相当にシビアになるだろう。
雨は降るけどな、それ程多くはないし。
……正直言うと日付はあえて数えていない、ここで暮らすようになって数ヶ月は立っているだろう。季節的な変化はあまりないんだ。それは植物の状況を見てもよく分かる。
木の太い枝を折るに年輪が見られない。つまり、この谷に季節は無いって事だ。
どこだか分からんが、南の方かもしれない。そんな風に想像している。
じきに朝日、実際には昼前だろうけど……直射日光が降り注いでくる。かなり頭上に太陽が来ないと光は谷間まで来ない。ここ、深い谷底だかんな。
汚れを落とした水でもって俺は、自作の畑に水を撒く作業にとりかからにゃならん。陽が入り込む前に、だ。
それが終わってようやくメシの準備に入る。準備、すなわち獲物の確保だな。罠を仕掛けた所を調べに行く。
稀に崖の上から落ちてくる生物もいる。虫なんかもぶっちゃけ、重要な食材だ。俺はゲテモノ喰いに抵抗は無いぞ。
そうやって余り広くはない、谷を歩きに行く。
日々同じ事の繰り返しである俺の、生活の一部だ。
それで、朝日を感じた様に目を覚ましたこれは、先日の話な。……奇妙な事があった。
変な夢で目を覚ました日の転…夕方だ。珍しく谷には風が入ってきて……。なんだか嫌な雰囲気だと思いながら広くはない谷を歩いていた。夕飯の準備の為だ。
そうして、谷に落ちてくるモノの中では最高の珍客を目の当たりにする事になった。
それは、つまり……満身創痍状態の、俺だ。
……そういえば、外には俺以外の俺がいるんだって話だったな。
そんな事をようやく思い出すがさて、どうすればいいのか。
そう思いつつ怪我してるしとりあえず手当てかなと思い、俺は遠慮無くソレに駆け寄っていた。
とりあえず怖くは無い。自称暴勇を舐めんな!
ところが、一時顔を上げて元気そうに見えたそいつは途端、急激に力を無くして……結局、ナドゥのおっさんを呼んで戻った頃にはすでに息絶えてたな。
これは、しょーがないだろう。
俺は、仕方がねぇから次の日、穴掘って俺を埋めてやる事にした。
同じ顔した奴が倒れているのも良い気分じゃねぇ。
装備品は遠慮無く引っぺがし……おお、ナイフ発見、これは使える。とか何とかやりながら。
良い肥やしになれよ、俺。
大きな木の下に一日掛かりで大穴を深く堀り、蹴落として土と落葉などを混ぜ合わせたので埋める。バクテリア分解されて半年すりゃ骨だけになってるだろ。
幸いな事にこの谷の土、悪い状態じゃない。やせ細っているかと思いきやそうでもない、良い土だ。
埋めた後一応、作法に則り手を合わせる。
で、先日から俺の日課にはもう一つ作業が加わった訳だ。
それは、死んだ俺に向けて手を合わせるという事。
俺はよく分からんが、弔い作法的に重要なんだと。どういう縁でもって死んだのか分からない以上、死霊化する危険性は最低限に抑えた方が良い、とか何とか。
とにかく手を合わせて冥福祈っておけばいいらしい。
そうやって毎日墓を拝むに……。
一昨日である。
墓を拝みに行って俺は度肝を抜かれた。
なんと、俺を埋めた所から一晩のうちに新しい木が生えていてすでに、俺の身長ほどにもなっていたのだ!
まさか、と思ったが良く見るに……緩やかに、明らかに普通の速度よりも何倍も早く、俺の墓から生え出た木が育っているじゃねぇか。
目の前で緩やかに、枝が伸び、葉がゆっくりと分岐して広がる。
夕方もう一度見に行ったら幹の太さが倍になっていて、なおかつ高さは、すでに周りに生えている木と同じ程にもなっている。
……流石の俺でも一つ、思う事がある。
これ、このままの勢いで育ったらヘタすると、かなりの高さになりやがるんじゃねぇの?……と。
もし、崖の上まで届くなら。
脱出出来る。ここから、外へ……!
その状況を俺は、まだ確信していた訳ではなかったので、今しばらくはナドゥやギガースには黙っている事に決めた。
ヘタに希望持たせてもしかたがねぇし、そもそも、外に出たら敵になる相手に教えてやる義理はねぇよな。
そして昨日。
どんな具合になっているだろうと思い、わくわくドキドキしながら見に行って、俺は大きく立派に育った木を見上げ……。
残念ながら成長は程々で止まってしまったらしい事を把握してちょっとがっかりした。
かなり高く育っているが崖の上までは無理かぁ。
しかし、見上げると……枝に何かがついているのが見える。
ああ、蕾だな。
それが、俺が見上げている間に静かに割れて花を咲かせたのを目の当たりにする事になった。
結構大きな花だ。もしかすると、喰える果実でも実るかもしれない。……完全にサバイバル思考な俺。
陽が落ちる前にもう一度ここに来て収穫に来ようと思う。ついでに、崖の上に届かないならもぅいいや。
ナドゥとギガースに変な木について話す事にする。
案の定ギガースは興味を示さないが、実が生りそうだ、というトコには食いついてきている。全くただ飯食いのダメ大魔王め。この事実にも俺はがっかりですよ。
俺やギガースと違ってナドゥは慎重だ。そうだなぁ、本来そんくらい慎重であるべきだとは俺も思う。
「どうしたよ、何か心当たりでもあるのか?」
神妙な顔で考えているのでそう尋ねるに、
「……いや、そう云う訳ではないが。何らかの形で外から持ち込まれたものだ。用心して悪いと云う事は無いと思うがね」
「心配性だな、あんた」
心配してくれるのは結構だが、俺は結局そのようにおっさんを笑い飛ばしてしまうのであった。
暴走癖のある勇者な俺が心配性ではないのは……ご周知の通りである。
心配性のおっさんは実の収穫をしようとした俺についてきたな。そして、数日のうちに巨大に育った木を目の当たりにし、呆れて口を開けている。俺をここに埋めるのナドゥも手伝わせたからな、墓の上から木が生えてる事はすぐ理解出来た様だ。
一抱えほどもある実が頭上高く実っているのを俺は確認。
「……しかし、どうやって採るつもりかね」
「どうって、登って採るしかないだろ」
至極当然の事、と答えた。
落ちてくるのを待ってる訳にはいかないし、落ちる頃には熟しすぎて腐っていると言う事もある。
ところが、俺がそうやって見上げているうちに……。
困った事にその果実は、静かに落下を始めた。
鍛えられた反射神経のお陰で俺は、その大きな果実を見事キャッチすることに成功した……というか。
まちがいなくこれ、今、俺の手の中に落ちてきた様な気がしねぇか……?
ここに来て流石に俺も妙な気持ちになってきた。
実は、見た所これ1個しか見あたらない。
緑色の丸い物体で大きさは俺の頭ほどもある。表面は……ちょっとザラついているかな。何の実なのかよくわからん。そも木の種類も覚えがない。
正体が分からないのだから喰えるかどうかは中身を割ってみなければ分からない。叩いてみる。果実特有の弾力を感じる。
俺は迷いなく所持していたナイフを取り出した。
「……いや、待て」
ナイフを入れようとした所、ナドゥが止めてきやがる。
「なんだよ、」
「……君はそれが何かわかるか?」
えっと、木の種類を聞いているのだろうか。
「……いや、わからんけど」
「私は少し覚えがある、夢で見た」
「夢ぇ?」
それって、当てになる話なのか?
……いや、俺も。
何か……長い夢を見ていた気がする。
種類のよく分からない木をもう一度見上げていた。
ん?……なんか様子がおかしい。
みるみるうちに頭上高くにある枝が、葉が茶色く変色し、それがはらはらと舞い落ちてきた。
俺は慌てて木の幹に手を当ててみる。そんなんしても木の状態がわかる訳じゃねぇけど。
じゃぁどうすれば状況が分かるかといえば、こうするんだ。取り出していたナイフの柄で幹を叩く。表皮を剥いで硬い幹に切れ目を入れてみればいい。
木だって生命体だ。傷がつけば血が流れる。
……樹液が少なからず出るはずなのだがその気配はない。
木はすでにすっかり乾いていた。
実を結び終えた木は……急速に枯れ始めたんだ。
結局その実はどうしたか?
リコレクトを終えて、俺は少し混乱した頭のまま答えよう。
昨日の夕餉に喰いました。割と美味かったです。
何、と比較すればいいかと言ったらあれだ。アボカドかな?似ているけどそのものじゃない。黄緑色の果肉には独特の甘いにおいがあって、もっちりしたそれは実際生だと淡白すぎる。火で炙ってみるにパンの実みたいな甘みが出たな。栄養価高そうだったから当然、実の中にあった種は綺麗に取って水の中につけてある。これでまた数日で育ち、結実するなら食料難時に備えられるはずだ。
なんで木が枯れてしまったのか、よくわからないが今度は枯らさないように……。
……木が枯れる?
俺は、額を抑えた。
木をくり抜いて作った水桶の中に沈めてある大きな種を覗き込む。
……俺は、何か重要な事を忘れている気がする。
……何、だっけ?
う、なんか頭痛がしてきた。
風邪でもひいたんだろうか?最近ちょっと朝晩冷えるもんな。季節は無いと思っていたが最近、やけに冷たい風が谷にも吹き込んでくる。
いそいそと寝床に戻った。割とギガースの檻がある付近、丁度良く雨避け出来る横穴になっているのだ。
「ヤト君」
椰子系の葉を積み重ねたものに転がろうとした所、呼びかけられて顔を上げる。飯時以外は寝てる事が多いギガースがこっちを覗きこんで来ている。
「なんだよ、」
「君……懐かしい匂いがするな」
懐かしい匂い?
それ、どっかで聞いたな?
……あれだ、前にギガースの目の前のトビラが開いて、覗き込んで来た『俺』に向けて、ギガースが言ってた言葉か。
「今までそうとは感じなかったのに。風に乗って懐かしい匂いがする」
「何だよ、その懐かしい匂いって」
「私が帰りたい所の匂いだよ」
……帰りたい所。
こっちにきてくれないか、そう言われて俺は……仕方が無くギガースが閉じこめられている檻の所まで歩いていった。
細く種火が燃えている。明りはそれだけで十分だ。
「何だ?」
鉄格子から腕が伸び、前に『俺』にしたように頭に向けて手を伸ばしてくる。
「なんだよ、何するんだ」
当然驚いて逃げる俺。
「変なのがついているんだよ。とってやろうと思って」
「変なの?」
俺は……目を眇める。
本当だ。
変なものが、ギガースの頭上にもくっついている。
白い、これは……旗、か?
さぁっと、普段入ってこない風によって種火が揺れた。
風が吹いたくらいで消えたりはしないが一応、心配でそっちを見やる。
するとすでに横になってたナドゥのおっさんが目を覚まし、額を抑えて起き上がっているいた。
「……嫌な夢見だ」
……何か変だ。何が変なんだ?
「どうした?」
深いため息を漏らし、ナドゥは完全に起き上がる。
「ヤト、急いで出来る限りの武装をしろ」
ああ分かった、おっさんの頭上に……こっちは、赤い旗がくっついているのが見えるからか。
しかし、それは何だと聞く前に状況が変化している。
谷が……何やらざわつき始めた。
……何かが来ている……?
俺は先日倒れていた『俺』がつけていた装備品を纏い、ナイフを腰に隠して精一杯の武装を行う。
ナドゥが隠れていろ、というから木々の隙間にしゃがみ込んだ。
なぜか、例の木桶に入った例の種を手渡される。
「……何?」
「君にとってそれは必要なものだろう」
「……は?」
鼻で笑うように聞き返すに、ナドゥは俺に苦笑いを返してきた。
「必ず、かえせ」
かえせ。
そのフレーズに俺は、黙って木桶を受け取ってしまった。
「前に……君に言ったな。誰も君を助けには来ない、と」
「……外に他の俺がいるみたいだもんな」
「だが、先日やってきて死んだだろう」
……なるほど、確かに。
装備品が貧そうだったが確かに5日前『俺』が倒れていて間もなく息絶えた。
「状況は変わったようだ。もしかすれば君の仲間が助けに来るかもしれない。いや、その可能性はかなり高いだろう」
何をもってナドゥはそのように確信して言うのかよく分からんが……。この狭い谷の中、武器もろくにない状況でヘタな怪物なんか放たれたら俺、絶体絶命だぜ?
もちろん大人しくやられてしまうつもりはない。
ナイフ一本、上等だ。やってやる。
「ここからヘタに動かない方が良いだろう、ギガースの側に居ろ」
「まさか、アイツを守れってんじゃねぇだろうな?」
「守る必要ないだろう、あいつだけ安全な鉄格子の中にいる。多くは奴を目指してくるはずだ」
そういってナドゥ、立ち上がった。
「……まてよ、じゃぁアンタはどうするんだ?」
「……君は私の心配をする立場にはないだろう」
そりゃ確かにそうだ。
ナドゥは魔王八逆星、俺はそれをやっつける勇者の方。
「問題はない」
ナドゥ、口の端を引き上げて笑う。
「また会おう、その時は遠慮無く私に剣を突きつける事になるだろうが、問題はない」
……ああ、そうだな。そうだよ?そうなんだから俺ってば、情なんか湧かないんだからね?
「言われるまでもない、お前が魔王八逆星なら俺は、そうするって決めてる」
ではなぜ今、そして今まで、そうしなかったのだ?そういう疑問をナドゥはあえて俺に投げずにいてくれた。
うん、やめてくれ。
何度か殺してやろうかと思ったが、それで食扶持は減るけどはたしてその行為に意味はあるのだろうかと、無い頭で悩んだ末に出来ずにいたんだ。
こいつは魔王八逆星か?
その印が見あたらないから俺は迷った。
……印?印、シルシとは……何だ。
赤い旗だ……。
ギガースの頭上にある白い旗が赤く染まったもの。それが今は奴の頭上に見いだせる。
なぜか俺にはそれらが見えるんだ。
そしてその旗でもって魔王八逆星かそうでないかを判断していた。
赤旗はバグだ、世界に許してはならない。
バグ、バグとは……虫だ。
精密機器の中に入り込んだイレギュラー。規律された世界を狂わす異端。
思い出す。
俺もそうだ。この世界に紛れ込んだ青い旗を持つ異端者なんだ。
思い出してしまう。
俺は、この世界の完成具合を試す為に送り込まれたテストプレイヤー。
そして見慣れぬ赤い旗を見つけ、それはこの世界を狂わせると信じて、バグを取り除く為にデバッカーという役割を負っていた。
隠れている茂み、木の根本に昆虫がしがみついている。
青い光を放つ甲虫を……俺はどこかで見た事があると思いながら摘み取り、ぐねぐねと暴れる6本の手足の様子を呆然と見ていた。
虫取り役であるはずなのに、実は俺も虫だった。
頭上に掛かる蜘蛛の巣で手足の長い蜘蛛が俺を見下ろしているような気がする。
本当のデバッカーはあいつ、なんだろうな。
あいつは、世界の中で虫を集め、捕え、縛る役割を持っている。
自分ではそうと分かっていないのだろう。自分が虫を補食しているのだとは一々認識していない。
誰から振られた役割ではない。奴はそれを『運命』と言った。そうなのかもしれない。
世界、神と呼ぶに呼べない何かよってたぐり寄せられた運命。
『それ』が紡ぐイトの元、結ばれる縁の先。
それは恐らく手段の一つ。
精密機器の中に入り込んだ虫を『生かす』か『殺すか』という手段の一つなのだと俺は把握する。
この世界がコンピュータじゃなくて、たとえば。
1人の生身の人間であればどうだろう。
人間と考える必要はない。とにかく、何かの生物だと考えてみる。
思考し、判断しているのが電子回路じゃなくて生身の脳味噌なら……どうだ?
体の中に何かが入って来た、例えば寄生虫の類と考えて貰っていいだろう。体の中に入ってきて……悪さをするならやっつけるだろう。やっつける為に方法を考えるはずだ。
ところが別段体に毒を与える訳でもなく、何となく共存出来てしまったとするなら?それでも迷惑だからと倒そうとすると、逆に暴れて手に負えないとか。
そうしたら、寄生虫に寄生された事を前向きに処理していくしかない。ようするに……共存する方法を考えるだろう。
寄生されている事にそいつは気が付いてない。
頭では、実はまだ分かってなかったりする。
でも体は知っている。何か違うのが入り込んでいるのを漠然と知っていて、そいつとどうやって折り合いつけるのか色々やるんだ。
人間というより生物の体はそうやって異種生物を取り込んで反映してるって学校で聞いた事があるぞ。エネルギーを作り出す機関、ミトコンドリアだっけ?
生体の仕組みに例えたらそれは『システム』で片が付く。
だが、しかし。
生物のその『システム』は誰が書いたものだ?
言い換えれば人間は誰が創作した『生物』と言える。
誰がこんな風に作ったのか、答えなんか出ない。
神だ、と答えるのは楽だ。
神とはそういう無理難題に答えるために用意された都合のよい合言葉でしかないのだから。
話を戻そう。この世界、トビラの話に。
この世界はゲームだ。今の俺には現実だが、アッチの俺、すなわちサトウーハヤトにとってみれば仮想世界、幻でただの夢で、そして……ゲームだ。
誰かによって作られた世界と云う意味とイコールである。
ならば、サトウーハヤトにとってこの世界トビラは全てシステムであり、整然と並んだデータの集合体でなきゃいけない。あらゆる事がゼロとイチによって事前に答えが無くちゃ、サトウーハヤトの世界のゲームという規格に当てはまらない。
そうであるはずなのだ。
ところが……どうしても『それ』が見あたらない。
この幻想世界に浸っている俺には、そのあるべきものがどうしても見つけられない。
騙されている、どこまでもリアルだと。この世界がゲームであるなど信じられない。
信じたくない。信じてたまるか。
戦士ヤト・ガザミが『俺』の価値観を受け入れて叫んでいる。
俺はこの世界に生きている。誰かの都合で作られたのでも、お前の都合で生まれ出たのでもない。
俺は俺だ、ヤト・ガザミだ。
お前の価値観を持ち込むな。
ここは俺の世界だ。
お前の都合で世界を混ぜるな。
染まれ、浸れ、騙されろ。
お前はここではサトウーハヤトじゃない。
ヤト・ガザミだ。
何でこんな事になっているか?
知るか、誰か教えてくれ。
俺は……気が付いたらここにいた。
で、魔王八逆星であるはずのナドゥがいたので背に腹は替えられずどういう事だ?と事情を聞く事になった。
するとおっさん、ため息を漏らしてこう答えやがったのだ。
我々はここに閉じこめられている、と。
当時の事をリコレクトする、か。
よし、状況整理だ。
状況が哀れだったなぁと、まず思い出せる。
飲める水はあるし、谷底とはいえ結構広い事もあって一応陽は差す。その関係で植物は生えているし有限だが動物もいる。
ところが、ナドゥはそれらを利用し生きる能力に乏しいと見た。
サバイバル能力が皆無なのな。
元から弱そうなイメージあったけど、初めてここに俺が来た時奴はげっそり痩せてて今にもぶっ倒れそうな有様だったぜ。我々は食べる必要が無いのだ、とか言ってたけど……魔王八逆星連中はさ、それでもやっぱり食えない訳ではないのだから食べないと精神的にこう、それが外見にも出てしまうんじゃねぇのか?理論上食わなくても良いとはいえ、空腹を感じないワケでは無いらしいからな。
で、それより酷い状況だったのが……ギガースだな。
鉄の檻みたいなのに閉じこめられていて未だにそっから出られない。
お二方、仲が良いという訳ではなかったようだ。
……俺だって別に魔王八逆星であるナドゥと推定大魔王なんかと仲良くする立場には亡い。
俺は青旗を持つ魔王討伐隊の、自称イタい勇者であったりする。
しかし……イタいという属性はまずかったかもしれない。
とにかく、出来る事やるしかねぇってんで俺は持ち前の田舎人としての知識を生かし、精一杯のサバイバルを始める事になった。俺は、食わないと死ぬからな、うん。
谷は閉じている、というナドゥの話は本当で、結構広い癖に出口らしいものは一切無かった。登って上に出れそうな場所も一切無く、自力脱出はほぼ絶望的なのは確かだ。
縄でも作って上に投げようにも……人間の腕力では崖の上まで何かを投げる事は無理だろう。目測で1キロは無いだろうがとにかく、凄まじい崖がぐるりと覆っているんである。しかも手が届く範囲が地層的に脆く、楔を打ち込んで登っていく事も出来そうにない。
これは大人しく助けを待つしかないだろう。
状況を把握するに、俺はそのように自力脱出を諦めた。で、サバイバルを始めたという訳だ。
勿論助けが来るまで生き残るつもりで、だな。
ところが、そのようにいたって前向きな俺にナドゥは、俺が落ちいっているであろう状況を絶望的に語りやがってな。
助けなど来ない、と奴は言う。言い切る。
その理由が変だった。変というか、嘘を付くならもっとマシなのをつけよと思ったかな。
奴は俺にこう言った。
助けは来ない。
この俺を、仲間達は探さない。
……なぜなら、俺が分裂していて恐らくそっちの方を仲間は『俺』だと認識するからだ、とか。
そんなまさかと思った訳だけど……どうにも。
真実らしい事がじきに、分かってしまう。
閉じこめられている男、ギガース、ようするに大魔王だろ?と聞いたらナドゥ、間違っていないと答えて否定はしなかった。
檻の中で椅子に腰掛け俯いて微動だにしない、こいつが……俺達が倒すように命じられていた魔王。
ところが俺は今、剣などの武器は一切持っていない。
いつもの装備も無い状態だ。確か……魔王八逆星連中にとっつかまってそれで、拘束されていたと思ったが。気が付いたらここにいた。武器防具一切没収されたままで、である。
出来れば魔王を倒したい所だがギガースに手が届かん。奴は檻の中にいて隔離されている。
檻に入っているのは奴だというのに、それによって奴はある意味、守られている状況なのだな。
会話も通用せず奴は、黙って閉じている鉄の扉の前に置いてある椅子に腰掛け、扉に額をつけて俯いていてこちらを見ようともしないのだ。
所がナドゥに例の『代替が外にいるから誰も助けには来ないぞ』という状況説明されるうち、突然微動だにしなかったギガースが顔をあげ、目の前の扉を凝視した。
と、思ったら目の前にしている扉が何の前触れもなく……開きやがったんだ。
そして、その向こうに……非常に見覚えのある人物が立っているのを俺、見てしまったんである。
俺だ、フル装備した俺が、ギガースがいる鉄格子の中を覗き込んでいる。
どういう事だ?
状況の奇妙さに俺は動けず、扉の向こうから覗き込んでいる俺もまた、状況に混乱しているようで対峙しているギガースを凝視していた。
こっちの俺には気が付かなかったようだ。
完全に目の前に居たギガースに気を取られてしまっている。
俺がこういうのも何だが、実にアホ面全開で何かを言おうとして何やら口ごもったのが見える。その途端、身じろぎ一つしなかった男、ギガースが動いた。
てっきり死んでんのかと思ってたよ、俺。
灰色の長いストレートの髪を振り払い、ギガースは顔を上げる。
「待っていた、」
『俺』の頭をギガースのガリガリになった腕が捕えたのを見た。
『俺』ってば、びっくりしていてそれを安易に許してしまっている。
「懐かしい、匂いがする」
匂い?俺は、つい自分の服の臭いを嗅いでしまう。
あれは『俺』だろ?俺も『俺』だけど。
だったら、同じ匂いを纏っていてしかるべきだと思うが。
「私も連れて行け、私を か え せ !」
……ところがその後、容赦なく扉は外側から閉じてしまった。
俺は驚き、今しがた開いていた筈の扉に回り込んでみる。
……無い、あるのは鉄の壁だ。鉄格子から中を覗く。間違いない、今ギガースが必死に叩いて何か悲嘆に喚いている鉄扉にはドアノブがあるのに、反対側、外にはこれがついていない。
……どういう事だ?
ナドゥ曰く、あれはあちらに繋がっているものだという。
じゃぁ、こちらは何なんだ?
ここはどこ?
ナドゥ、これには答えなかった。奴自身分かってないのかもしれない。
とにかくワケが分からん状態ではあるが、ナドゥの言っている事は嘘というわけでもない事は理解できた。
本当だ、俺はアッチの世界にもいる。
だから俺を、仲間達が助けに来る事はない、か。
ははは……。
確かにな、そうなのかもしれない。
これは俺が1人先走った罰だ。
死んでも構わない、人柱になっちゃっても仕方ない、そのように仲間達を裏切った罰なんだろう。
俺は、そのように状況を受け入れる事が出来た。
少なくともそれで絶望して、死のう……とは、思わなかった訳だな。
閉じこめられているが状況を見渡すに、それ程酷い状況じゃないぞ。
生き繋ぐには十分な環境が整っている。
なら俺はここで生きよう。人間生きてりゃ何か、展望があるだろう。
でも、生き繋いでどうするんだろう?
そんな疑問が無い訳じゃない。
ところが日々生きるために無い知恵絞り、罠作ったり喰える植物採取したり、株分けしてなんとか増やしてみたり……そういう作業をするに必要な道具作ったりさ。気が付いたら俺はそういうのに夢中になっていて、このたわいもない繰り返しの生活がそれ程悪いものには思えなくなってしまったりしていた。
遥か昔に、自分から捨てた生活スタイルだ。
今、物資が限られている分、子供の頃、ド田舎シエンタでの暮らしは結構恵まれていたのかもしれないとぼんやりと思い返したりする。
決して美味くはない。
メシの前に手を合わせ頂きますと、命を繋ぐに命を落としたものに感謝する。
悪かねぇ。
一時の至福、困難をやり遂げた達成感に俺は自分が外にもう1人いるらしい、なんて事態すっかり忘れてしまう事の方が多くなっていた。
だからなんだ、俺は、俺だ。
仲間がどっちを選ぼうが俺は今、俺なんだからそりゃどーしたってしょうがねぇ。
そんで、気が付いたらナドゥのおっさんが俺のサバイバル生活にこっそり片足を突っ込んで来やがってな……。
この草食えるかな?とか悩んでたらそれ猛毒だから食うな、とか勝手にアドバイス入れてきやがったんだ。
実際薬草の知識など俺よりも詳しかったり、力学的な道具作成アドバイスなんかも割と役に立ってしまったと思いねぇ。
魔法とか使えないのかと聞いたら、残念ながらあまり素質はないとのお答えであった。
気が付いたら共同生活していた。
で、質素ながらちゃんとメシ作って喰っているのについに、無反応だったギガースが反応を示し始める。
物欲しそうな奴の視線に耐えられなくなった為……仕方が無く、ただメシ喰らいにお目こぼしをしているという訳だな。
そうやって共同生活をする事になってしまったってのが……ようするに、イタい勇者という属性的に引き起こされているようにも思う。
俺、状況に妥協しすぎ!
そんな具合で割と平穏に暮らしてしまっていたかもしれない。
たまに、いや、これじゃぁいかんよなと思う瞬間もあるんだが。
しかし現実的にはどうしようもないという事も理解出来ている。状況に対する諦めの早さは割と潔いのだ。特に言えば『俺自身』の事なら尚更すっぱり決まる。他人の事だと……あまり、考えた事がないからよく分からない。
逆に諦めは悪いかも知れないな。
とりあえず誰かがこの谷を覗き込んで来てくれるのを待つか、あのギガースの目の前にあるトビラが再び開く日を待つしかねぇんだよなぁ……と、状況納得するようにしていた。
一つ納得が行かないとすれば……。
元々あまりお盛んな方ではないとは言え、やっぱり……面子が男3人ってのは辛いという所か。
いや、今のは聞かなかった事にしてくれ!
考えるだけでも涙が出そうな状況だ。忘れよう。
そうやって暮らすに順応していたある日。
ついに、状況の変化って奴がこの閉じた世界に訪れる事となった。
やっぱり生きて待っていれば展望は開けるもんだな。
比較的最近の出来事である。日付を数えられる……5日前、だ。
俺は明るくなる前に目を覚ますんだぜ。逆におっさんは寝起きが弱いらしい。知りたくもない一面を知るになんだかがっかりだ。
共同生活してるが馴れ合いたい訳じゃねぇ。それ相応の立場に戻ったら遠慮無く敵対関係に戻るんだから。
その日、俺は朝日が眩しくて目を覚ました。
いや、それはおかしい。
目を覚まし、辺りは何時も通り薄暗い事を確認し、陽が頬に当ったと思ったのは夢だったのかと……辺りを見回しながら起き上がった。
うん、夢……だな。勘違いだ。
起きあがり、ギガースのいる檻を覗き込んでみたが変化はない。寝てる間に扉が開いた気配も無い。奴は、椅子の下で呑気に寝てやがる。
全く、こいつの所為で俺達は……ああ、もうこの思考はうんざりだ、やめよう。
朝一番に目を覚まして、唯一の水場で昨日掻いた汗を流すのが日課になっている。とはいえ、この水もあまり多くは無い。拳二つ分くらいの隙間からちろちろと流れ出ていて、この水を一時的に溜めるプールは俺の自作だ。
考えたくないが、この湧き水が枯れるような事になったら生活は、相当にシビアになるだろう。
雨は降るけどな、それ程多くはないし。
……正直言うと日付はあえて数えていない、ここで暮らすようになって数ヶ月は立っているだろう。季節的な変化はあまりないんだ。それは植物の状況を見てもよく分かる。
木の太い枝を折るに年輪が見られない。つまり、この谷に季節は無いって事だ。
どこだか分からんが、南の方かもしれない。そんな風に想像している。
じきに朝日、実際には昼前だろうけど……直射日光が降り注いでくる。かなり頭上に太陽が来ないと光は谷間まで来ない。ここ、深い谷底だかんな。
汚れを落とした水でもって俺は、自作の畑に水を撒く作業にとりかからにゃならん。陽が入り込む前に、だ。
それが終わってようやくメシの準備に入る。準備、すなわち獲物の確保だな。罠を仕掛けた所を調べに行く。
稀に崖の上から落ちてくる生物もいる。虫なんかもぶっちゃけ、重要な食材だ。俺はゲテモノ喰いに抵抗は無いぞ。
そうやって余り広くはない、谷を歩きに行く。
日々同じ事の繰り返しである俺の、生活の一部だ。
それで、朝日を感じた様に目を覚ましたこれは、先日の話な。……奇妙な事があった。
変な夢で目を覚ました日の転…夕方だ。珍しく谷には風が入ってきて……。なんだか嫌な雰囲気だと思いながら広くはない谷を歩いていた。夕飯の準備の為だ。
そうして、谷に落ちてくるモノの中では最高の珍客を目の当たりにする事になった。
それは、つまり……満身創痍状態の、俺だ。
……そういえば、外には俺以外の俺がいるんだって話だったな。
そんな事をようやく思い出すがさて、どうすればいいのか。
そう思いつつ怪我してるしとりあえず手当てかなと思い、俺は遠慮無くソレに駆け寄っていた。
とりあえず怖くは無い。自称暴勇を舐めんな!
ところが、一時顔を上げて元気そうに見えたそいつは途端、急激に力を無くして……結局、ナドゥのおっさんを呼んで戻った頃にはすでに息絶えてたな。
これは、しょーがないだろう。
俺は、仕方がねぇから次の日、穴掘って俺を埋めてやる事にした。
同じ顔した奴が倒れているのも良い気分じゃねぇ。
装備品は遠慮無く引っぺがし……おお、ナイフ発見、これは使える。とか何とかやりながら。
良い肥やしになれよ、俺。
大きな木の下に一日掛かりで大穴を深く堀り、蹴落として土と落葉などを混ぜ合わせたので埋める。バクテリア分解されて半年すりゃ骨だけになってるだろ。
幸いな事にこの谷の土、悪い状態じゃない。やせ細っているかと思いきやそうでもない、良い土だ。
埋めた後一応、作法に則り手を合わせる。
で、先日から俺の日課にはもう一つ作業が加わった訳だ。
それは、死んだ俺に向けて手を合わせるという事。
俺はよく分からんが、弔い作法的に重要なんだと。どういう縁でもって死んだのか分からない以上、死霊化する危険性は最低限に抑えた方が良い、とか何とか。
とにかく手を合わせて冥福祈っておけばいいらしい。
そうやって毎日墓を拝むに……。
一昨日である。
墓を拝みに行って俺は度肝を抜かれた。
なんと、俺を埋めた所から一晩のうちに新しい木が生えていてすでに、俺の身長ほどにもなっていたのだ!
まさか、と思ったが良く見るに……緩やかに、明らかに普通の速度よりも何倍も早く、俺の墓から生え出た木が育っているじゃねぇか。
目の前で緩やかに、枝が伸び、葉がゆっくりと分岐して広がる。
夕方もう一度見に行ったら幹の太さが倍になっていて、なおかつ高さは、すでに周りに生えている木と同じ程にもなっている。
……流石の俺でも一つ、思う事がある。
これ、このままの勢いで育ったらヘタすると、かなりの高さになりやがるんじゃねぇの?……と。
もし、崖の上まで届くなら。
脱出出来る。ここから、外へ……!
その状況を俺は、まだ確信していた訳ではなかったので、今しばらくはナドゥやギガースには黙っている事に決めた。
ヘタに希望持たせてもしかたがねぇし、そもそも、外に出たら敵になる相手に教えてやる義理はねぇよな。
そして昨日。
どんな具合になっているだろうと思い、わくわくドキドキしながら見に行って、俺は大きく立派に育った木を見上げ……。
残念ながら成長は程々で止まってしまったらしい事を把握してちょっとがっかりした。
かなり高く育っているが崖の上までは無理かぁ。
しかし、見上げると……枝に何かがついているのが見える。
ああ、蕾だな。
それが、俺が見上げている間に静かに割れて花を咲かせたのを目の当たりにする事になった。
結構大きな花だ。もしかすると、喰える果実でも実るかもしれない。……完全にサバイバル思考な俺。
陽が落ちる前にもう一度ここに来て収穫に来ようと思う。ついでに、崖の上に届かないならもぅいいや。
ナドゥとギガースに変な木について話す事にする。
案の定ギガースは興味を示さないが、実が生りそうだ、というトコには食いついてきている。全くただ飯食いのダメ大魔王め。この事実にも俺はがっかりですよ。
俺やギガースと違ってナドゥは慎重だ。そうだなぁ、本来そんくらい慎重であるべきだとは俺も思う。
「どうしたよ、何か心当たりでもあるのか?」
神妙な顔で考えているのでそう尋ねるに、
「……いや、そう云う訳ではないが。何らかの形で外から持ち込まれたものだ。用心して悪いと云う事は無いと思うがね」
「心配性だな、あんた」
心配してくれるのは結構だが、俺は結局そのようにおっさんを笑い飛ばしてしまうのであった。
暴走癖のある勇者な俺が心配性ではないのは……ご周知の通りである。
心配性のおっさんは実の収穫をしようとした俺についてきたな。そして、数日のうちに巨大に育った木を目の当たりにし、呆れて口を開けている。俺をここに埋めるのナドゥも手伝わせたからな、墓の上から木が生えてる事はすぐ理解出来た様だ。
一抱えほどもある実が頭上高く実っているのを俺は確認。
「……しかし、どうやって採るつもりかね」
「どうって、登って採るしかないだろ」
至極当然の事、と答えた。
落ちてくるのを待ってる訳にはいかないし、落ちる頃には熟しすぎて腐っていると言う事もある。
ところが、俺がそうやって見上げているうちに……。
困った事にその果実は、静かに落下を始めた。
鍛えられた反射神経のお陰で俺は、その大きな果実を見事キャッチすることに成功した……というか。
まちがいなくこれ、今、俺の手の中に落ちてきた様な気がしねぇか……?
ここに来て流石に俺も妙な気持ちになってきた。
実は、見た所これ1個しか見あたらない。
緑色の丸い物体で大きさは俺の頭ほどもある。表面は……ちょっとザラついているかな。何の実なのかよくわからん。そも木の種類も覚えがない。
正体が分からないのだから喰えるかどうかは中身を割ってみなければ分からない。叩いてみる。果実特有の弾力を感じる。
俺は迷いなく所持していたナイフを取り出した。
「……いや、待て」
ナイフを入れようとした所、ナドゥが止めてきやがる。
「なんだよ、」
「……君はそれが何かわかるか?」
えっと、木の種類を聞いているのだろうか。
「……いや、わからんけど」
「私は少し覚えがある、夢で見た」
「夢ぇ?」
それって、当てになる話なのか?
……いや、俺も。
何か……長い夢を見ていた気がする。
種類のよく分からない木をもう一度見上げていた。
ん?……なんか様子がおかしい。
みるみるうちに頭上高くにある枝が、葉が茶色く変色し、それがはらはらと舞い落ちてきた。
俺は慌てて木の幹に手を当ててみる。そんなんしても木の状態がわかる訳じゃねぇけど。
じゃぁどうすれば状況が分かるかといえば、こうするんだ。取り出していたナイフの柄で幹を叩く。表皮を剥いで硬い幹に切れ目を入れてみればいい。
木だって生命体だ。傷がつけば血が流れる。
……樹液が少なからず出るはずなのだがその気配はない。
木はすでにすっかり乾いていた。
実を結び終えた木は……急速に枯れ始めたんだ。
結局その実はどうしたか?
リコレクトを終えて、俺は少し混乱した頭のまま答えよう。
昨日の夕餉に喰いました。割と美味かったです。
何、と比較すればいいかと言ったらあれだ。アボカドかな?似ているけどそのものじゃない。黄緑色の果肉には独特の甘いにおいがあって、もっちりしたそれは実際生だと淡白すぎる。火で炙ってみるにパンの実みたいな甘みが出たな。栄養価高そうだったから当然、実の中にあった種は綺麗に取って水の中につけてある。これでまた数日で育ち、結実するなら食料難時に備えられるはずだ。
なんで木が枯れてしまったのか、よくわからないが今度は枯らさないように……。
……木が枯れる?
俺は、額を抑えた。
木をくり抜いて作った水桶の中に沈めてある大きな種を覗き込む。
……俺は、何か重要な事を忘れている気がする。
……何、だっけ?
う、なんか頭痛がしてきた。
風邪でもひいたんだろうか?最近ちょっと朝晩冷えるもんな。季節は無いと思っていたが最近、やけに冷たい風が谷にも吹き込んでくる。
いそいそと寝床に戻った。割とギガースの檻がある付近、丁度良く雨避け出来る横穴になっているのだ。
「ヤト君」
椰子系の葉を積み重ねたものに転がろうとした所、呼びかけられて顔を上げる。飯時以外は寝てる事が多いギガースがこっちを覗きこんで来ている。
「なんだよ、」
「君……懐かしい匂いがするな」
懐かしい匂い?
それ、どっかで聞いたな?
……あれだ、前にギガースの目の前のトビラが開いて、覗き込んで来た『俺』に向けて、ギガースが言ってた言葉か。
「今までそうとは感じなかったのに。風に乗って懐かしい匂いがする」
「何だよ、その懐かしい匂いって」
「私が帰りたい所の匂いだよ」
……帰りたい所。
こっちにきてくれないか、そう言われて俺は……仕方が無くギガースが閉じこめられている檻の所まで歩いていった。
細く種火が燃えている。明りはそれだけで十分だ。
「何だ?」
鉄格子から腕が伸び、前に『俺』にしたように頭に向けて手を伸ばしてくる。
「なんだよ、何するんだ」
当然驚いて逃げる俺。
「変なのがついているんだよ。とってやろうと思って」
「変なの?」
俺は……目を眇める。
本当だ。
変なものが、ギガースの頭上にもくっついている。
白い、これは……旗、か?
さぁっと、普段入ってこない風によって種火が揺れた。
風が吹いたくらいで消えたりはしないが一応、心配でそっちを見やる。
するとすでに横になってたナドゥのおっさんが目を覚まし、額を抑えて起き上がっているいた。
「……嫌な夢見だ」
……何か変だ。何が変なんだ?
「どうした?」
深いため息を漏らし、ナドゥは完全に起き上がる。
「ヤト、急いで出来る限りの武装をしろ」
ああ分かった、おっさんの頭上に……こっちは、赤い旗がくっついているのが見えるからか。
しかし、それは何だと聞く前に状況が変化している。
谷が……何やらざわつき始めた。
……何かが来ている……?
俺は先日倒れていた『俺』がつけていた装備品を纏い、ナイフを腰に隠して精一杯の武装を行う。
ナドゥが隠れていろ、というから木々の隙間にしゃがみ込んだ。
なぜか、例の木桶に入った例の種を手渡される。
「……何?」
「君にとってそれは必要なものだろう」
「……は?」
鼻で笑うように聞き返すに、ナドゥは俺に苦笑いを返してきた。
「必ず、かえせ」
かえせ。
そのフレーズに俺は、黙って木桶を受け取ってしまった。
「前に……君に言ったな。誰も君を助けには来ない、と」
「……外に他の俺がいるみたいだもんな」
「だが、先日やってきて死んだだろう」
……なるほど、確かに。
装備品が貧そうだったが確かに5日前『俺』が倒れていて間もなく息絶えた。
「状況は変わったようだ。もしかすれば君の仲間が助けに来るかもしれない。いや、その可能性はかなり高いだろう」
何をもってナドゥはそのように確信して言うのかよく分からんが……。この狭い谷の中、武器もろくにない状況でヘタな怪物なんか放たれたら俺、絶体絶命だぜ?
もちろん大人しくやられてしまうつもりはない。
ナイフ一本、上等だ。やってやる。
「ここからヘタに動かない方が良いだろう、ギガースの側に居ろ」
「まさか、アイツを守れってんじゃねぇだろうな?」
「守る必要ないだろう、あいつだけ安全な鉄格子の中にいる。多くは奴を目指してくるはずだ」
そういってナドゥ、立ち上がった。
「……まてよ、じゃぁアンタはどうするんだ?」
「……君は私の心配をする立場にはないだろう」
そりゃ確かにそうだ。
ナドゥは魔王八逆星、俺はそれをやっつける勇者の方。
「問題はない」
ナドゥ、口の端を引き上げて笑う。
「また会おう、その時は遠慮無く私に剣を突きつける事になるだろうが、問題はない」
……ああ、そうだな。そうだよ?そうなんだから俺ってば、情なんか湧かないんだからね?
「言われるまでもない、お前が魔王八逆星なら俺は、そうするって決めてる」
ではなぜ今、そして今まで、そうしなかったのだ?そういう疑問をナドゥはあえて俺に投げずにいてくれた。
うん、やめてくれ。
何度か殺してやろうかと思ったが、それで食扶持は減るけどはたしてその行為に意味はあるのだろうかと、無い頭で悩んだ末に出来ずにいたんだ。
こいつは魔王八逆星か?
その印が見あたらないから俺は迷った。
……印?印、シルシとは……何だ。
赤い旗だ……。
ギガースの頭上にある白い旗が赤く染まったもの。それが今は奴の頭上に見いだせる。
なぜか俺にはそれらが見えるんだ。
そしてその旗でもって魔王八逆星かそうでないかを判断していた。
赤旗はバグだ、世界に許してはならない。
バグ、バグとは……虫だ。
精密機器の中に入り込んだイレギュラー。規律された世界を狂わす異端。
思い出す。
俺もそうだ。この世界に紛れ込んだ青い旗を持つ異端者なんだ。
思い出してしまう。
俺は、この世界の完成具合を試す為に送り込まれたテストプレイヤー。
そして見慣れぬ赤い旗を見つけ、それはこの世界を狂わせると信じて、バグを取り除く為にデバッカーという役割を負っていた。
隠れている茂み、木の根本に昆虫がしがみついている。
青い光を放つ甲虫を……俺はどこかで見た事があると思いながら摘み取り、ぐねぐねと暴れる6本の手足の様子を呆然と見ていた。
虫取り役であるはずなのに、実は俺も虫だった。
頭上に掛かる蜘蛛の巣で手足の長い蜘蛛が俺を見下ろしているような気がする。
本当のデバッカーはあいつ、なんだろうな。
あいつは、世界の中で虫を集め、捕え、縛る役割を持っている。
自分ではそうと分かっていないのだろう。自分が虫を補食しているのだとは一々認識していない。
誰から振られた役割ではない。奴はそれを『運命』と言った。そうなのかもしれない。
世界、神と呼ぶに呼べない何かよってたぐり寄せられた運命。
『それ』が紡ぐイトの元、結ばれる縁の先。
それは恐らく手段の一つ。
精密機器の中に入り込んだ虫を『生かす』か『殺すか』という手段の一つなのだと俺は把握する。
この世界がコンピュータじゃなくて、たとえば。
1人の生身の人間であればどうだろう。
人間と考える必要はない。とにかく、何かの生物だと考えてみる。
思考し、判断しているのが電子回路じゃなくて生身の脳味噌なら……どうだ?
体の中に何かが入って来た、例えば寄生虫の類と考えて貰っていいだろう。体の中に入ってきて……悪さをするならやっつけるだろう。やっつける為に方法を考えるはずだ。
ところが別段体に毒を与える訳でもなく、何となく共存出来てしまったとするなら?それでも迷惑だからと倒そうとすると、逆に暴れて手に負えないとか。
そうしたら、寄生虫に寄生された事を前向きに処理していくしかない。ようするに……共存する方法を考えるだろう。
寄生されている事にそいつは気が付いてない。
頭では、実はまだ分かってなかったりする。
でも体は知っている。何か違うのが入り込んでいるのを漠然と知っていて、そいつとどうやって折り合いつけるのか色々やるんだ。
人間というより生物の体はそうやって異種生物を取り込んで反映してるって学校で聞いた事があるぞ。エネルギーを作り出す機関、ミトコンドリアだっけ?
生体の仕組みに例えたらそれは『システム』で片が付く。
だが、しかし。
生物のその『システム』は誰が書いたものだ?
言い換えれば人間は誰が創作した『生物』と言える。
誰がこんな風に作ったのか、答えなんか出ない。
神だ、と答えるのは楽だ。
神とはそういう無理難題に答えるために用意された都合のよい合言葉でしかないのだから。
話を戻そう。この世界、トビラの話に。
この世界はゲームだ。今の俺には現実だが、アッチの俺、すなわちサトウーハヤトにとってみれば仮想世界、幻でただの夢で、そして……ゲームだ。
誰かによって作られた世界と云う意味とイコールである。
ならば、サトウーハヤトにとってこの世界トビラは全てシステムであり、整然と並んだデータの集合体でなきゃいけない。あらゆる事がゼロとイチによって事前に答えが無くちゃ、サトウーハヤトの世界のゲームという規格に当てはまらない。
そうであるはずなのだ。
ところが……どうしても『それ』が見あたらない。
この幻想世界に浸っている俺には、そのあるべきものがどうしても見つけられない。
騙されている、どこまでもリアルだと。この世界がゲームであるなど信じられない。
信じたくない。信じてたまるか。
戦士ヤト・ガザミが『俺』の価値観を受け入れて叫んでいる。
俺はこの世界に生きている。誰かの都合で作られたのでも、お前の都合で生まれ出たのでもない。
俺は俺だ、ヤト・ガザミだ。
お前の価値観を持ち込むな。
ここは俺の世界だ。
お前の都合で世界を混ぜるな。
染まれ、浸れ、騙されろ。
お前はここではサトウーハヤトじゃない。
ヤト・ガザミだ。
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)
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