異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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12章  望むが侭に   『果たして世界は誰の為』

書の6前半 最後の崖『勇者が勇者たる所以』

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■書の6前半■ 最後の崖 Final Fight

「お前、先にここに来てた……んじゃないんだよな?」
 ギガースと一緒に共同生活が長かったという俺の事情をリコレクトする。
 俺が記憶する所、この谷に現れた客人は俺、俺の瀕死体、目の前の鎧の怪物、の順番で3人だけである。
 先にギルの案内でギガースの所に向かったはずだというランドールもアービスも……この谷には現れていないのだ。奴らは意識を失った俺を放置して先にギガースの所に向かった筈なのに。
 って事は、ドコで何をしていたんだろうか。疑問なのでそのまま聞いておこう。
「何してたんだ?」
「………」
 ところがアービス、明らかに俺をうさんくさい目で睨んだで来た。
 何か不穏な空気を感じる。あの天然なお兄さんがここまで俺に敵意むき出しになったの……初めてじゃないか?
「な、なんだよ」
「私は君が『君』だと見分ける事は出来ない」
 それは……。
「だから、悪いが近くに来ないでくれ」
「……どういう意味だよ」
「……これが終わったら次は、俺なんだろ」
 ぶっきらぼうに言い切ってアービス、距離を取って離れた所に幽鬼のごとく突っ立っている怪物に向き直ってしまった。
「ヤト、あれは彼に任せてしまいましょう。……というか、まず状況がよく理解出来ませんが」
 流石のレッドでも状況理解出来ない時ってのはあるんだな。笑っちまうぜ。
 が、まぁ。

 まさかこのタイミングに合わせて俺がここにいる、ってのも。そりゃぁもうえらくご都合だよな。

 勇者らしいといえば勇者らしいじゃん。
 はぐれても、ちゃんと最終決戦には間に合う、っていう。


 マツナギが背負っていた荷物を解く。そこには……青かあるいは紫か、光の角度で不思議な金属反応を示す鎧と籠手が収まっていた。
 アベルから剣を渡される。
 俺の剣、サガラ工房作の剣だ。
「回収して、持ち歩いていたのかよ」
 取り急ぎコウリーリス国の大陸座ドリュアートの所に戻る事になり、その時俺はこの装備を全部中央大陸に置きっぱなしにしちゃったんだよな。ギルとの決着をつけた時、全部脱いじゃったんだよ。俺の意思じゃないんだけど。
「預ける所もなかったし、どこで会えるとも分からない。私は、信じないかも知れないけど。またお前に会えると信じていた」
 籠手を拾い上げマツナギから手渡され、俺は……何と言葉を返していいのか分からず黙ってしまった。
 嬉しいんだ。間違いない、悲しい訳ではない。
 でもちょっと照れているのもある。照れるって事は嬉しいって事だ。
 そこは素直に認めて良いと思うぜ俺。
「マツナギの勘は当るからねぇ」
 ナッツが苦笑する、アインが俺の顔を覗き込みながら小さな口を開けた。
「あたしも信じてたわよ!」
 対し、アベルは呆れたように言いやがる。
「あんたの事だからまた、どっかあり得ない所からひょっこり現れるような気はしていたわ」
「ホントかよ」
 アベルにはそのように茶化せる俺だ。
「ホントよ?だって……そうやってアンタがあたしの前に戻ってきたの、これが初めてじゃないじゃない」

 それは、イシュタル国首都レイダーカでもって、テリーとアベルと俺の3人で連む事になった時の事か。
 魔導都市を目指した珍道中の始まりでもある。
 俺は詭弁的に死んだ事になり、永久的にアベルの目の前から去った……はずだった。
 しかしレイダーカで顔を合わせてしまい、そこで俺は『ヤト・ガザミ』として初めて……アベルと出会った事になった。

 俺の都合ではそう云う事になっている。
 それは譲れないと何度もアベルに説明したというのにこの女!まだ理解しないのかッ!?
「……いや、だからな、あれは」
「同じよ」
 アベルは言い切る。
「アンタの理屈は一応分かった。でも、私の中ではやっぱり同じ。変わらないもの」
「……じゃぁ俺も変えんぞ」
 お前とは絶対仲良くなんかならないんだからなッ!?
「いいわ、そんな事だろうと思ったし」
 思いの外あっさり言い切ってアベルは腕を組み、目を瞬く。顔を反らさず、真っ直ぐ俺を見据えて言いやがる。
「どうせアンタは思いを違えないんでしょ。なら、あたしも変えない。ただそれだけ。おあいこだわ」
 俺は、色々都合がありましてナッツさんを伺ってしまいます。
「いいのかよ」
「僕が強要出来る事じゃないからねぇ」
 惚れた女にゃ勝手を許すってか?ナッツ、奴の気の強い所含めて好きらしいからなぁ。仕方がないよ、みたいに肩をすくめやがった。
 あー、いいんですかそーですか。
 そりゃ前途多難ですな、がんばってください。
 俺は彼女を振る努力したからな、精一杯努力したからあとは、お前でがんばれよ。
 そのように俺がナッツに向けて呆れている事情を察していない、アベルは強く言い切った。
「アンタは昔っからヤト・ガザミでしょ」
 何を当たり前の事をと俺は不審な顔で奴に振り返る。
「ずっと前から、あたしがアンタを知った時から、出会った時から。アンタはヤトよ。名前とか関係ない。アンタが違うと否定してもあたしはそんな都合知らないわ。あれもアンタよ」
 あれ、とは……イシュタル国エズで死んだ事になった人の事。
 記号の名前、GMの事だろう。
 エズでアベルは素直に認めやがった。
 アベルはそいつの事が好きだったという。直接的にそうだとは聞いていないけど、さり気なく探りを入れるに否定はしなかったもんなぁ。

 なら、俺も言葉にはしないで心の中でこれに答えよう。

 きっとアイツはお前の事が好きだった。
 でもそれは恋人同士のそれとはちょっと違う。
 種族の違い、立場の違い、年齢層の激しい違い。
 アイツがアベルに向けて抱いた思いは恋や愛とは少し違っていて……もっともっと自分の内側に抱え込んで、大切なものとして大事にしたい。そういう感情だったんだって。
 お前なんか好きじゃない、いつかこの酷いエトオノから独立してやると都度宣言しては反発していたけど……本当はそうじゃない。
 アイツはアベルの側を離れたくなかった。
 そういうのが愛であり、そういう一方通行が恋なのだって?ははは、知らん、それがそうだとは認めない、認めたくない。
 いずれ醒める夢のように、感情で割り切る事は出来ない、したくない、そう思ったらこれは愛じゃない。

 俺も、アイツも、そう信じているんだ。
 そして……

「あたしに対する感情は別に変えなくても良いわよ。分かった、アンタはあたしの事が好きというわけじゃない。……うん、分かったわよ」
 ……相変わらず強情な意見をぶつけられているのは変わりないのだがどうにも、いつもと違う事に気が付く。
 ん?……つまり、ようやくこの複雑な感情をアベルが理解してくているって事?
 それを理解して俺は……ちょっと、面食らっているかもしれない。
「でも、いい加減あんたも認めたら?過去を死んだと切り捨てないでさ」

 あ……。
 そうか、アイツと俺は違う。
 そのように、今……否定出来ない事に……気が付いてしまったよ俺。

 俺は……複数の違った『俺』を経由したあげく今、それらも間違いなく『俺』であったとログを統合させてしまってここにいる。
 いらない記憶、出来れば切り捨てたい記憶もリコレクト出来る。
 あれは俺じゃなかった。
 今、そのように過去を否定出来ない立場になった。
 タトラメルツでとっつかまった俺、魔王八逆星に逆らって暴走するハメになった俺、その後氷漬けで南国に送りつけられた俺、新生魔王軍の俺。
 死んでは代替で目を覚ます、その都度前の俺は『俺じゃなかった』とは……言えない、よなぁ今は。

 イシュタル国エズで過ごした時間は、俺は長らく『俺』ではなく別人だったとのだと……言い張ってきた。
 そしてそいつは別人として都合、死んだ事になったんだ。
 だから一緒にするな、あれは俺じゃない。
 ……そんな事、もはやアベルに……俺は強く言えない。
 やっぱりそれは俺にとっては都合の良い言い訳でしかなかったわけだ。
 お膳立てか、アベルを愛で受け入れない為の、奴から逃げ出すための言い訳だったんだよなと今、それをはっきり認識してしまう俺である。
 ……遅いとか言うな。実際遅いけど。
 いや、でも問題なのはそこじゃないぞ。
 俺が拘っているのは結局、それを理由にして奴の思いを否定するってトコなのだ。

 でもアベルはそこも……理解してくれたんだよな。

 ……なら俺もアベルに理解を示そう。
 顔を上げる。
「……確かに、今なら素直にあれは俺だったと認めるしかない」
 仕返しとばかりに俺はアベルの言葉で言ってやる。
「それでも俺はお前なんか大嫌いだ」
 感情論だぜ。
 俺が好きなものなんてごくわずかだ。詭弁で誤魔化さないぞ、嫌いで良いんだ。
 アベルからは……げんこつは飛んでこなかったけどしこたま睨まれてしまった。
「あのねヤト。だからってそんなはっきり言ったら女の子は傷つくのよ」
 アインさんがそのように頭上で俺に諭すが。
「知らんな、俺の中ではあいつは女ですらないような気がす」
 流石にそこまで言うと殴られるな。
 はい、自業自得。


 殴られた頬を腫せたたまま、鎧の装着作業をする。
 その視界の先では俺達の都合を一切無視してアービスと……怪物が対峙していた。

「……ウィート」
 呼びかけた、それは名前か?怪物が少し肩を振るわせて反応を示す。
「憶えているんだな、……よかった」

 ウィートか、アービスの例の弟君、ウィートという名前だったのか。
 そうなんだ。
 昨日から谷を彷徨い歩いてた鎧のアレは、いつか大蜘蛛に『封じられていた』らしいウリッグに引き連れられていた少年なんである。
 曰く、アービスの実弟らしい。

 二人が再び黙って睨み合っているのを俺達は見守っている。
 ……黙ってないで何とか声かけてやれよ。
 お兄さん、会話とか苦手らしいもんな。……実際、名前の他に何って声かけて良いのかわからんのかもしれない。

 俺はそんな様子を見守りつつも手早く、装備を調えている。
 リコレクトするにこのシーミリオン国で貰った鎧および籠手。構成している金属がよく分からんが暴走に付き合って変形し、鱗状になって最終的に剥がれ落ちたよな。
 しかし、形状記憶合金の一種なんだろうと思っている。全く元の形に戻って今俺の手元に戻って来た。ほら、籠手だって槍になったり盾になったりするもんな。どういう理屈かというと、レッドに何やら説明されたらしいが俺はよく思い出せない。
 形状記憶合金みたいなもんだろ、と一蹴したかも。
 では形状記憶合金とはどういう物質なのかご存じなのですかってレッドから突っ込まれた気がするが、もちろんリアルの俺でもよく分からんそんな事情は『形状を記憶している合金だろ』という事でレッドを呆れさせて終わったと思う。
 ええと、魔法的に形状を変化させるらしいとか何とか。
 形を変えるように魔法付加されている籠手らしい。……しかし、鎧にもそのような作用があるとは聞いていないな。
 この不思議な色の金属に魔法的因子による状態変化が起こるのなら……俺が潜在的に抱える膨大な魔力とやらで案外、多大な影響を与えてしまうのかもしれない。俺が『暴走』と取れる状態に入っている時、無意識だが魔力を大放出している可能性があるんだろうな。
 俺自身で考えられるのはこれくらいまでだし、これ以上の明確な答えは俺は、求めない。
 鎖帷子を装着し終えた頃にようやく、睨み合ったままだったアビースらに動きが見られる。
 因縁の兄弟対決であることは俺達、ちゃんと把握しているからな。だから、ヘタに手出しも口出しも出来ないでいるのだ。
 アービスは剣を右手に握ったまま構えないでじっと、奴が弟だと言った鎧を纏った怪物を見据えている。アービスの弟だというウィート君もそれを黙って受止めている。
 斬り合う、殺し合うという緊張は無い。
 少なくともまだアービスがそれを望んでいないのもあるのだろう。

 武器を手にしたまま大雑把に、アービスは鉄仮面を脱ぎ捨てた。
 現れた顔を見ても怪物は無反応だ。致し方ない。

 もし怪物……アービスの弟ウィートに、しっかりウィートという自意識や記憶が残っていたとしても、実はアービスの方がすでに本来の姿をしていないのだ。今のアービスが顔晒した所で、ウィートに兄だと理解して貰える訳ではない。
 だが兜を脱いだ。その意味は……。
 恐らく、対峙している相手にも兜を取るように言いたいのだろう。
 ……なら口で言えよ。……言っても従わないのかもなぁ。どっちみち兜を脱ぐというのは一応意味があったはず。
 イシュタル国では『降伏』に似たような意味になる。他の国では知らないし、サトウーハヤトの本国や世界のどっかの作法がどうであるのかは知らない。
 ショルダープレートを手早く装着しながら俺は、ナッツおよびレッドに小声で尋ねた。
「ディアスじゃ兜取ると、どういう意味になるんだ?」
「うん?ああ……意味か」
 何か意味がある行為なのかとナッツは今更気が付いたように顎を押さえる。
「ディアスの軍隊の作法は分からないけど、西方と同じなら……話し合いを望むという意味だと思うよ」
「降伏じゃないんだな、」
「確かにイシュタル国では降伏になりますね」
 レッドの言葉にナッツは国によって違うんだね、それは知らなかったと頭を掻く。
「西方で降伏するのは武器を捨てる、だよ」
 そうか、日本語に忠実なのな。
 いや、この世界の言語が何であるのかなど比較は出来ない。出来ないが、結局この世界を異世界ではなく、俺の世界として収まっている以上相当する言葉に置き換わるのは当たり前か。
 鎧を装着し終わって立ち上がり、マツナギからマントをつけるのを手伝って貰う。
 結構ボロボロだが、新品よかサマになってんじゃねぇの。
 最期に籠手を装着しながら、進展のない二人を顎でしゃくりながら小声で問いかけた。
「で、お前らどこでアービスと合流した。……ランドールは」
「そこは憶えてないか」
「……何を憶えているんだ」
 レッドとナッツは黙って目配せする。
「どこまで憶えていますか」
「何を」
「……僕らは貴方とコウリーリス国で別れました」
「憶えている」

 俺は、あそこで見限って貰うように願った。
 肉体的な限界も近かったしな。

「その後、どこまで憶えていますかと聞いています」
 俺は腰にぶら下げていた剣のベルトを調整しながらリコレクトする。
 ようするに他に経由している『俺』がいるんじゃないのかとレッドらは聞きたいのだろう。
 ふむ……リコレクト。
「……多分、まっすぐここだな」

 今の俺は誰か。
 そういえば、まだそれを言ってなかったかもしれない。
 俺はいつからここにいるのか。時空列は頭の中でめちゃくちゃになっている。……けど、今は全てが現実で全て俺だったと理解出来る。
 俺は分裂して多数になっている。これを否定はしない。
 ところが分裂した全部と記憶が合流している訳じゃないんだよな。
 俺が、というと間違っている気がする。
 ようするに『俺』というものを保証する青い旗、サトウーハヤトが迷い込んだログだけ回収してしまう。
 なんでこうなるのだと問いかけたらきっと、メージンからは『仕様』だと言われるだろう。そもそも異なった時空列にある別の記憶を合流させるというのは色々問題ありまくりだろう。ありまくりなのだが、そもそもそうやって多数分裂する事態が想定されていないのだからこの『仕様』は仕方がない。
 この世界に向けて、ゲーム世界として接しているサトウーハヤトには、このゲーム世界に流れる時間軸は意味が無い。全ては記憶の積み重なり情報によって処理される。
 なぜなら、奴には奴の世界における正しい時間軸があるからだ。
 これを脳意識的に騙す事は出来も、実際干渉する事は出来ない、って事だな。
 こんな事を考える俺は、サトウーハヤトだけど。
 だから、多数分裂してログが分岐している場合、別の記憶に接したとたん時間軸なんぞ無視して自動的に『俺』の記憶と合流してしまうのだろう。そうする事で異なる時間軸を生きているように脳を騙すんだからな。

 長い長い夢を見ていた。
 過去形じゃないな、今もずっとそうなんだよな……サトウーハヤト。
 いつか目を覚まし、俺の事なんか夢だったって過去形にするんだろう。
 それが悔しい訳じゃない。
 それが奴にとって現実だというのならそれでもいい。
 たとえ夢でも、夢の中で『今ここにある全ては夢じゃない、現実だ』と認める事が出来るなら俺は、それでいい。

 俺は長い夢を見ている。

 タトラメルツをぶっ壊したのも、魔王八逆星に片足突っ込んでしまったのも、満身創痍で生かされていたものを肉片に変えて証拠隠滅してしまったのも、新生魔王軍として目覚めて自分自身を否定されてしまう立場を味わったのも。
 全部夢だったけど俺にとっては現実だ。

 俺は、俺だ。ヤト・ガザミだ。ホンモノもニセモノもない。
 何を基準にして決められる事じゃない。もしそれでも何かで決めなきゃいけないというのなら他人が証明してくれてもいい。ひたすら一人で俺はホンモノなんだと虚しく叫んでいてもいい。
 周りが何と言おうと、俺が過去を鑑みてどう思おうとそんなのは今、関係ねぇ。

 俺は言い切る。俺は、俺だ。

 それでも今ここにいる俺についての答えが欲しい人に向けて言うならば……俺は、魔王八逆星にとっつかまった時点でもはやどーとでもなる状況になっているんだぜと言っておく。
 一人離れて孤立してしまったから、誰も俺の相対的なログを取れない。俺が気絶していたら、俺が気絶している間に起った出来事は一切ログに残らないのだ。
 ……リアルに考えるに当たり前の話だな。
 だから意識が無いって言うんだし、それで二度と目を覚まさないのなら死んでいる、だ。

 俺が分裂したのは何時のタイミングか、これもぶっちゃけタトラメルツその後だとは言い切れないよな。
 タトラメルツに拘束されていた時間はあんまり、長くなかったはずだしナドゥも『時間がない』と言った。ここはリコレクト出来る。

 では時間がない間に俺はどのように分裂したというのだ。
 そもそも、新生魔王軍の連中はどのように生成されている?
 試験管ベイビーとはいえ育成というのは時間が掛かるものだ。一昼一夜で大人にはならない。ナッツも言ってた、ハツカネズミじゃねぇんだからって。
 事実等身大俺が分裂している状況、そうなった都合があるという事は確実な事だがやっぱり、一昼一夜じゃ無理で結構大掛かりな施設が必要だったと思う。
 それが、たとえばトライアンの地下施設だったり、ランドールがぶっ潰したというどっかの施設だったりするんだろう。

 俺は、タトラメルツで束縛されてから増えてんじゃない。
 もはやあの段階で代替は用意されていたと考えるのが妥当だ。そう思わないか?
 俺を増やすのに何が必要なのか、俺には専門的な事は分からん。が、俺のパーソナルな情報を取得するなら少なくとも血肉は必要とするだろうなと思う。
 サトウーハヤトの知識的に言うなら『遺伝子情報』だ。
 髪の毛からも採取出来るらしいよな。それを元に同じモノを再生する魔法が存在するなら恐ろしい事に思える。
 ところがその恐ろしい技術、ちゃっかりこの世界には在る。
 それが三界接合理論だ。
 この技術の一部分で肉体のコピー技能というのがある。もちろん、恐ろしいと思った通りこれは禁忌の力で、研究するだけで魔導師協会は追い払われるという。元白魔導のリオさんがそうだった。

 遺伝子情報かぁ……そんなもんいつの段階でナドゥに提供しちゃったんだろうって考えるに。
 あるじゃねぇか。しかも超初期。
 俺、シーミリオン国で血ィ大量に吹き出して死にかけていたりするじゃんか。

 まさか血の一滴で分裂させられるハメになるとはあの時、いやその後も想像出来てない。できたとしてもその場合は……。
 動かない、ただの人形だと言っていたな、リオさんは。
 三界接合理論により肉体の複製は出来るけどその場合、生命として破綻している、とか何とか。
 魂がない。肉体・精神・幽体という三界の結合が生命であるという理論の前に、肉体だけ増やしても他の二つが伴わない、とか何とか?

 それなのに動いちゃった、まずそこで存在のイレギュラーが存在し、さらにそれらが分裂を果たしている。
 挙げ句の果てに『俺』はそれらを渡り歩く。
 お前は何だ?なぜなのだとナドゥは俺にその事情を尋ねていたんだ。
 でもやっぱり答えようがない。
 青い旗があるからだといった所で奴には理解されない、

 俺が『俺』として動かせるのはたった一人。
 何かの都合で大量に動き出したのが新生魔王軍という『新しい不具合』だったりするのだろう。まぁ、あれは赤い旗がついてた。ようするにすでに赤旗つけててバグっている俺を分裂させたものが新生魔王軍という事になるんじゃなかろうか。
 赤い旗ついちゃったらもはや、なんでもアリだ。
 ホストから赤い旗の感染がありその旗でもってもたらされる何らかの力がある。
 魔王軍化を行う条件が限られているよな、必ず相手は人でなければいけないって。
 本来三界接合による肉体の複製は、すなわち生命体としての人の複製じゃない。それなのにナドゥは……なぜかその手段で魔王軍や新生魔王軍を不当に増やしている。
 ……何かもう一つカラクリがあるっぽいな。
 ついでに言っておけば、赤い旗を最初にこの世界に植え込んだのはギガースだ。奴が何らかの方法で力を与えた者はシステム的にはバグってしまって赤い旗が点灯する。本来ならば世界に許されていない方法で、だからこそ、その仕様を理解するのに酷く時間が掛かってしまった。
 ナドゥは恐らくデバイスツールを手に入れてしまっている、と聞いている。ナドゥだけじゃねぇ、魔王八逆星はみんなそれを持ってやがったんだ。赤い旗をばら撒くホストの正体はずばりそれだと俺は思う。
 ようするに悪さをしているのは9人目、大陸座バルトアンデルトのギガーズが持つデバイスツールなんだろ?
 それをナドゥが使うと『何か』が起こる。俺達がまだ把握していない力の使い方があるに違いない。

「俺は、まだ他にいるって事なのか?」
 俺はドリュアートの木に命がくくられ、連なるものとして詭弁的に不死が与えられていた。が、その根本となる木は死んだはず。連なっている俺、つまり新生魔王軍は全部死んだ……いや、消滅した可能性が高いよな?
 それでもまだいるって事か?まだ生きている奴がいる……?
 そいつが何かやらかしたのか。だからアービスそれで、俺を睨んでいるのか?

 アービスは分からないもんな。
 俺の頭上に立っているらしい青い旗が見えない。だからどれが俺なのかってのを、本来この世界にある正しい手段で迷ったんだ。
 本当は迷うべきなんだよ。
 でも迷ってたらこの話もっとややこしくて長くなってると思うから。ってどこの都合で言ってるんだ俺。
 それならもっと真っ当な、この世界に相応しい決着がついていたのかもしれない。
 俺には到底受け入れられない酷い結末だった可能性もあるだろう。
 一つのホンモノを探し出す手立てがないなら全部ファルス、そうやってやっつけられる事になった可能性もある。

 そうはならなかった今がある。俺を、俺と保証してくれる奴らがいる。

 俺はそんな仲間達によりかかってなんとか俺をやっている。
 俺は俺だ、そう言い切れるのは……仲間が側にいてくれるからだよな……うん。

「そちらの都合は……憶えていない訳ですね」
「何をした」
 嫌な予感がするな。俺は額を抑えて苦笑う。
「……君はアービスとランドールをだまし討ちしたらしいよ。アービス曰くね。それで、」
「……ランドールは死んだってか」
 ナッツの言葉を先回りしてみる。
「いや、はぐれただけで……消息不明なだけだって」
「どういう事だ?」
「アービスはお前から崖に突き落とされたそうだ。こことは別の、なんかあっちこっちにこういう穴がぼこぼこ開いてるんだよね。そういう土地みたい。で、僕らはたまたまアービスが崖下にいるのを見つけて合流しただけなんだ。比較的ここから近くだ、アービスはここにギガースがいるのをギルからちゃんと教えて貰ってたから……案内してもらうに、突然アインがお前の匂いがするって言い出してね」
 そういう状況か、ようやく把握。
「一応探したんだけど……ランドールの匂いは見つけられなくて」
 テリーの肩の上に移っているアインは少し項垂れた。
「行方とか、さっぱりわかんねぇのかよ」
 俺はナッツにそのように尋ねた。何かで察知してるんじゃねぇかと聞いている。
「分からないよ、まぁ……無条件で居場所が分かるとすればワイズの方だね。僕はランドールには探査の糸はつけてない」
 じゃぁ誰の居場所を把握すべく任意で、探査の糸をつけているんだろう?いつぞやは俺につけてたと言ってたな。
 けどまぁ、それは問いただす所じゃないだろう。どうでもいい。少なくとも俺は知らなくていい。
「貴方がここにいると察しなければ僕らはランドールを探していたでしょう」
 大魔王に挑むに万全を期す訳だな。
 しかしよりにもよって俺が、ギガースのいる谷にいるとなりゃ放置は出来んと駆けつけてくれた訳だ。
 ……匂い判別ならそれが、俺とは限らんと思うのだが。
 青い旗が見えないなら判別に困る所だ。
 だからアービスは……迷いさえ捨てて俺を、全面的に信用しないと言った。
 で、まだ睨み合っているよこの御兄弟。じれったいが手出しはできん。

 これはアービスが望んだ決着だ。とどめを刺すのか、それとも……他にどんな救いの手段があるというのだ。
 ……そうか、別に殺す必要はもうないんだよな。
 赤旗だから殲滅する、って考えはすでに俺にはない。
 ただ、問題がはある。
 アービスの弟は間違いなく、精神が病んでいる。いや、病んでいる訳ではないのかもしれない。意図的にあれは怪物として育てられてしまっている所がある。ウリッグに引き連れられ彼が望んでかどうか分からないが人に襲いかかり以下自主規制。
 自分の行いを彼はどう思っているのだろう?やってはいけない事を理解して、彼の心は……保たれるだろうか?
 心が強く自らの誤りを受け入れられるならば救いがある。
 それとも、このまま人食い鬼としての人生を認めてしまえばいいのだろうか。
 うーん、それでもいいかもしれないけど。

 手に持つ武器を構える出もなくぶら下げ、ぼぅっと突っ立っていた鎧の怪物。
 ウィートは無造作に……剣を落とした。
 そして……ずいぶん遅れてアービスに倣い兜を脱ぐ。

 そこには、コウリーリス国のシエンタで見た少年の顔はない。
 焦げ茶色の髪は整えられてはいなくて、兜を脱いだ途端溢れて顔を覆い隠した。もはや少年という顔ではなかった。
 邪魔な前髪をウィートは払いのけ、見開いた黒い瞳でアービスを……無感情に見ている。
「……ウィート、……ぼくのなまえだ」
 姿格好からしてもう少年じゃないよな、とは思っていた。
 少し見ない間にがっちり育っている。でも、その口調がなんだか合わない。ズレてる。
「お兄ちゃんがぼくにつけてくれたなまえだ」
「ああ……」
 アービスは僅かに頷いている。
「兄の事、憶えているのか?」
 自分がその兄なんだと、アービスは言わないつもりなのかもしれない。
「おぼえているよ」
 ウィートは軽快に答えて……笑った。
 口の端を引きつらせ、見開いていた目を僅かに細めて。
 歪な微笑みだ。なんだ、どうしてこんなに薄気味悪く感じるのだろう。
「お兄ちゃんはぼくらを置いてどっかにいってしまったんだよ」
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「お前は出来損ないだ」——家族に見捨てられた令嬢が、最強の冒険者と出会い、真の力に目覚める異世界ファンタジー! 公爵家に生まれたエリアナは、幼い頃から魔法の制御ができず、家族から冷遇されてきた。 唯一の味方は執事のポールだけ。 人前で魔法を使わなくなった彼女に、いつしか「出来損ない」の烙印が押される。 そして運命の夜会—— 婚約者レオンハルトから、容赦ない言葉を告げられる。 「魔法も使えないお前とは、婚約を続けられない」 婚約破棄され、家からも追放されたエリアナ。 だが彼女に未練はなかった。 「ようやく、自由になれる」 新天地を求め隣国へ向かう途中、魔物に襲われた乗り合い馬車。 人々を守るため、封印していた魔法を解き放つ——! だが放たれた炎は、常識を超えた威力で魔物を一掃。 その光景を目撃していたのは、フードの男。 彼の正体は、孤高のS級冒険者・レイヴン。 「お前は出来損ないなんかじゃない。ただ、正しい指導を受けなかっただけだ」 レイヴンに才能を見出されたエリアナは、彼とパーティーを組むことに。 冒険者ギルドでの魔力測定で判明した驚愕の事実。 そして迎えた、古代竜との死闘。 母の形見「蒼氷の涙」が覚醒を促し、エリアナは真の力を解放する。 隠された出生の秘密、母の遺した力、そして待ち受ける新たな試練。 追放された令嬢の、真の冒険が今、始まる!

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
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HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

異世界転移物語

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このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

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  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

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