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本編後推奨あとがきとオマケの章
番外編短編7『マリアの戦士達』
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番外編短編7『マリアの戦士達』
一面に咲き誇る赤い花の房が揺れている。
去年までは小麦を作っていた畑だ。
いつもなら緑色の草原となっているはずの風景が今年は、やけに華々しい。
そうだ。
バーリは赤い花畑をぼんやり眺め、ようやく泣きやんだ弟を背負いなおす。
仕事に忙しい両親に放っておかれ、乳も飲めずにやせ細った腕を振り回していた弟が静かに寝息を立てている。……何か食べるものを用意しなくては。
名を与えられなかった弟に、小麦と名前を付けてあげよう。
東方に向けるという麻袋に書いてあった読めない文字を、まだ優しかった頃の両親がバーリに教えてくれたのを思い出す。
バーリ、大麦という意味だという。
後に小麦の需要が高まって小麦畑に替わった今の畑は……オピウムという花であふれているけれども。
小麦は……確か、ウィート。
ウィート、ウィート。
それがいい。
眠っているのを起こさないようにそっと背中で弟を背負いなおし、バーリは花畑を眺めながら家へ……戻る事にするのだった。
両親は仕事と言って出て行ってなかなか帰ってこない。その間バーリはあの花畑に水をやる仕事と、弟の世話に明け暮れている。
家には食べれるようなものは……ろくに残っていなかった。分かってはいた事だ。両親が戻っていなければ家の状況は変わらない。仕方がないので弟をそっと、汚れたままのベッドに下ろしてバーリは森へ入る。
森は遠くなっていた。
昔はすぐ裏手に豊かな自然のある森があったが、今は伐採が進んで花畑が広がるばかり。
赤い花が揺れている。
バーリはこの花が好きだ。
緑色を見飽きた所為か、一面の赤を見ていると不思議と高揚する。
赤い花に元気をもらい、遠くなった森へと駈けて行く。
何か良い獲物が取れればいい、それを祈りながら。
罠にかかった野兎を、バーリは鼻をほじくり口を半開きにしてつったっているウィートに見せてやった。
「……うさたん」
「うん、そうだ。これはウサギ」
よくみてるんだぞ、そう言って切れ味の悪いナイフでまず野兎の腹を割いて内臓を掻き出し、次に皮を剥ぎ取って……骨を抜く。
「必ず血抜きをしてからだ。内臓は傷つけないように」
恐らく、よく分かってないとは思う。ようやく言葉を発せるようになったばかりのウィートに、バーリは必死に色々な事を教えている。
そうしないと生きていけないだろう。
両親たちが何やら、怪しい話をしているのをバーリは聞いてしまったのだ。
母親のお腹には3人目の兄弟が宿っているらしいが、なんでも『手に負えない』らしい。
どこか遠くに連れていかれる。端的な事しか理解できなかったバーリだったが……一つ確実に決めた事があった。
それは弟たちを遠くにはやらないという事。
弟たちを遠くに行かせるくらいなら自分が行こう。きっと、遠くに行かせられるのは嫌に違いないとバーリは信じた。それよりも家にいた方がきっと良いに決まっている。
弟たちをこの家に残す事になるだろう。
ウィートが一人で生きていけるように、無理でも出来る限りを教えてやらなければいけない。
赤い花を育てるに注意する事、仕事が終わったら森へ誘い、食べれるものと食べられないものを教える。とはいってもバーリもそれほど詳しい訳ではなかったのだが。
父から教わった事もいくつかあったが、自分で色々試したからこそ知った事だからあまり多くはない。
「にいちゃん」
切株から生える白いキノコを指さし、ウィートが呼んでいるのにバーリは首を振る。
「キノコはダメだ、毒だから食べない方がいい」
「きのこ、どくって?」
「ええと、まずくて、お腹が痛くなるんだ」
「いたいのやーだ」
慌てたように手に持っていた棒で白いキノコを粉砕し、ウィートは最後に切株を蹴りつける。
「こら、乱暴だぞ」
「いたいのやーもん」
食べられる種類もある事は分かっているのだが、いまいち判断が付かないようで何度か酷い目にあた事がある。
それでも飢えには耐えられない。
壊されたキノコを拾い上げるバーリの手をウィートが払いのけた。
「何するんだ」
「いたいよ」
「……食べなければ大丈夫だよ」
心配してくれたのだろう。その気持ちが分かって、キノコの判別は素直に諦め立ち上がった。
餓えているのは自分達だけではない。
わかりやすい、食べられるものは近辺では取りつくされている。
赤い花は枯れ、収穫は終わり……じき冬が来るだろう。
家があるのが救いだ。
家からどこか遠くに弟をやるわけにはいかない。家にいるのが一番に違いない。
「……とりあえず、今日はもう遅くなるし……帰ろうか」
「もうかえるの?」
「……寒くなってきただろ」
手を差し出す。その手に、喜んでウィートがぶら下がるのをバーリは微笑んで見守った。
「にいちゃんのて、あったかいよ」
「うん、ウィートの手も暖かい」
このぬくもりを感じられるだけで今は、どんなに辛いも我慢できるとバーリは信じている。
今度また家族が増えるなら、暖かさはもう一つ増えるんだ。
なぜそれが祝福されないようになってしまったのか、バーリにはよくわからなかった。
そして、コウリーリス南東の町マリアに冷たい冬が来る。
本当の豊かさを忘れさせられた町に、代替としての黄金を携えた男が降り立つのは……それからしばらくたっての事である。
END
ここまでお付き合いいただき、ほんとうにありがとうごさいました!!!
番外編短編7『マリアの戦士達』
一面に咲き誇る赤い花の房が揺れている。
去年までは小麦を作っていた畑だ。
いつもなら緑色の草原となっているはずの風景が今年は、やけに華々しい。
そうだ。
バーリは赤い花畑をぼんやり眺め、ようやく泣きやんだ弟を背負いなおす。
仕事に忙しい両親に放っておかれ、乳も飲めずにやせ細った腕を振り回していた弟が静かに寝息を立てている。……何か食べるものを用意しなくては。
名を与えられなかった弟に、小麦と名前を付けてあげよう。
東方に向けるという麻袋に書いてあった読めない文字を、まだ優しかった頃の両親がバーリに教えてくれたのを思い出す。
バーリ、大麦という意味だという。
後に小麦の需要が高まって小麦畑に替わった今の畑は……オピウムという花であふれているけれども。
小麦は……確か、ウィート。
ウィート、ウィート。
それがいい。
眠っているのを起こさないようにそっと背中で弟を背負いなおし、バーリは花畑を眺めながら家へ……戻る事にするのだった。
両親は仕事と言って出て行ってなかなか帰ってこない。その間バーリはあの花畑に水をやる仕事と、弟の世話に明け暮れている。
家には食べれるようなものは……ろくに残っていなかった。分かってはいた事だ。両親が戻っていなければ家の状況は変わらない。仕方がないので弟をそっと、汚れたままのベッドに下ろしてバーリは森へ入る。
森は遠くなっていた。
昔はすぐ裏手に豊かな自然のある森があったが、今は伐採が進んで花畑が広がるばかり。
赤い花が揺れている。
バーリはこの花が好きだ。
緑色を見飽きた所為か、一面の赤を見ていると不思議と高揚する。
赤い花に元気をもらい、遠くなった森へと駈けて行く。
何か良い獲物が取れればいい、それを祈りながら。
罠にかかった野兎を、バーリは鼻をほじくり口を半開きにしてつったっているウィートに見せてやった。
「……うさたん」
「うん、そうだ。これはウサギ」
よくみてるんだぞ、そう言って切れ味の悪いナイフでまず野兎の腹を割いて内臓を掻き出し、次に皮を剥ぎ取って……骨を抜く。
「必ず血抜きをしてからだ。内臓は傷つけないように」
恐らく、よく分かってないとは思う。ようやく言葉を発せるようになったばかりのウィートに、バーリは必死に色々な事を教えている。
そうしないと生きていけないだろう。
両親たちが何やら、怪しい話をしているのをバーリは聞いてしまったのだ。
母親のお腹には3人目の兄弟が宿っているらしいが、なんでも『手に負えない』らしい。
どこか遠くに連れていかれる。端的な事しか理解できなかったバーリだったが……一つ確実に決めた事があった。
それは弟たちを遠くにはやらないという事。
弟たちを遠くに行かせるくらいなら自分が行こう。きっと、遠くに行かせられるのは嫌に違いないとバーリは信じた。それよりも家にいた方がきっと良いに決まっている。
弟たちをこの家に残す事になるだろう。
ウィートが一人で生きていけるように、無理でも出来る限りを教えてやらなければいけない。
赤い花を育てるに注意する事、仕事が終わったら森へ誘い、食べれるものと食べられないものを教える。とはいってもバーリもそれほど詳しい訳ではなかったのだが。
父から教わった事もいくつかあったが、自分で色々試したからこそ知った事だからあまり多くはない。
「にいちゃん」
切株から生える白いキノコを指さし、ウィートが呼んでいるのにバーリは首を振る。
「キノコはダメだ、毒だから食べない方がいい」
「きのこ、どくって?」
「ええと、まずくて、お腹が痛くなるんだ」
「いたいのやーだ」
慌てたように手に持っていた棒で白いキノコを粉砕し、ウィートは最後に切株を蹴りつける。
「こら、乱暴だぞ」
「いたいのやーもん」
食べられる種類もある事は分かっているのだが、いまいち判断が付かないようで何度か酷い目にあた事がある。
それでも飢えには耐えられない。
壊されたキノコを拾い上げるバーリの手をウィートが払いのけた。
「何するんだ」
「いたいよ」
「……食べなければ大丈夫だよ」
心配してくれたのだろう。その気持ちが分かって、キノコの判別は素直に諦め立ち上がった。
餓えているのは自分達だけではない。
わかりやすい、食べられるものは近辺では取りつくされている。
赤い花は枯れ、収穫は終わり……じき冬が来るだろう。
家があるのが救いだ。
家からどこか遠くに弟をやるわけにはいかない。家にいるのが一番に違いない。
「……とりあえず、今日はもう遅くなるし……帰ろうか」
「もうかえるの?」
「……寒くなってきただろ」
手を差し出す。その手に、喜んでウィートがぶら下がるのをバーリは微笑んで見守った。
「にいちゃんのて、あったかいよ」
「うん、ウィートの手も暖かい」
このぬくもりを感じられるだけで今は、どんなに辛いも我慢できるとバーリは信じている。
今度また家族が増えるなら、暖かさはもう一つ増えるんだ。
なぜそれが祝福されないようになってしまったのか、バーリにはよくわからなかった。
そして、コウリーリス南東の町マリアに冷たい冬が来る。
本当の豊かさを忘れさせられた町に、代替としての黄金を携えた男が降り立つのは……それからしばらくたっての事である。
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ここまでお付き合いいただき、ほんとうにありがとうごさいました!!!
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