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本編後推奨あとがきとオマケの章

番外編短編8『エイトエレメンタラティスの守り人』

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番外編短編8『エイトエレメンタラティスの守り人』


 混沌を願わないのは事実だが。
 何かを縛るに魔導師は不向きだ。

 ある程度の手ごたえは感じたがはたして、どこまで信用して良いものか。
 レッドはため息を漏らし長兄会、と呼ばれる会議会場を後にする。

 勘の良い魔導師達は気がついている。
 この世界にあった神の摂理が失われた事。
 それは魔導師にとって『不条理』と呼ばれている。
 理論的に正しい事を邪魔する物事だからだ。

 そういう不条理に邪魔された理論の事を『禁術』と呼ぶ。
 この禁を破るに、時に魔導師達は地下にもぐって秘密の研究に明け暮れる事も少なくない。

 幸い……レッドが属する長兄会は束縛に関しては強い権限を持っていた。
 制約による平和という意味では理解は得られやすい連中が集っているのだ。基本的にフリーダム尊重の次兄会ではこうはいかないだろう。

 禁呪として不条理の罷り通っていた世界は終わった。
 だからと言って今まで禁じられていたものが解放されてよいわけではない……と、その理解は得る事が出来た。
 だが、封じるが良しという結論ではない。

 あくまで現状では混乱が起こるのを阻止するに、規制を掛けて調和を図る。
 それが長兄会の目指す所だ。
 この意見にレッドも肯定的な意見を持っている。

 が、その思いを伝える事は出来ないと、転位門をいくつかくぐりぬけてたどり着く、青い空を見上げた。
 世界は封印を望むだろう。永久に、神が封じた多くの技術がよみがえる事を恐れている。
 今までなかった事がアリになるのだ。
 端的な例をあげれば三界接合技術も本来あった正しい形で生かされるのだろうが、この研究が進めば、最悪死人が蘇るようになってしまう日も来るだろう。

 いずれ全て自由に。

 それは自由の名の元に集った魔導の祖、青の魔導3兄弟の掲げた言葉だ。
 しかし3兄弟で微妙に性格が異なる。
 長兄は秩序を組んで平等を望み、末弟は成長を第一に混沌を容認する。
 次兄は知識への貪欲と自由を唱える。

 空の青は、魔導師達に受け継がれるそれらの意志を思い出させた。

 全て自由に、そうなった時に訪れる混沌と、乱れ入る世界を律する秩序を内包する自由。
 難しいバランスだったろう。3兄弟の関係を『騙る』説話が決して平穏ではないらしいという裏報告書をレッドは読んだ事がある。
 しかしその難しい事をしなければ真の自由は訪れない。

 いずれ、この世界には自由があふれる。
 トビラが開き、多くの異世界の者がこの世界を自由に変えるだろう事はよく理解している。

 レッドは顔を前に戻して……魔導都市から少し離れた丘の上から、遠く海まで見渡せる景色を眺めやった。

 山の天候は変わりやすく、季節によっては海まで見えない。
 今日は珍しく風が穏やかで、その割に空気は淀まず、冴えていた。

 恐らく世界を管理していた神々、神と呼ばれる事を良しとしなかったともいう方位神という存在は……。
 第三の扉。
 この世界の中では合法的に存在するものであり、レッドが本来属する世界的には説明のしようがないもの。その謎の扉が開くのを待っていたのだろうと、レッドは思う。ヤトもそれらしい事を聞いたと言っていた。

 その扉をくぐる事により、世界を縛り、縛られた者達はようやく自由になるのだろう。

 レッドが本来属する世界において、異なる世界へ迷い込む事が大抵現実からの逃避であるように。
 扉をくぐり、たどり着く先に多くの者は逃げ込みたいのだろうと目を細めて笑う。

 神々は去ったのではない、きっとこの世界から逃げたのだ。
 背負っていた責任を放って異世界へ逃げて行った。
 そう思えばこの突拍子もなく世界につきつけられた現実に辻褄が合う。
 去っていくには理由がいる。この世界に居たくないという理由が必要だ。

 ようするに、この世界から逃げたい。

 そう云う事だろう。

「まったく、どこの世界でも異世界目指すに動機が同じというのは、困ったものですね」

 さて、この守り手を失った世界はどうしたいのか。どのように辻褄を合わせていくのだろう。
 ここでレッド、ようやく逆説的に世界の求める意味を感じ取る。

 ああ、ようするに神々は逃げたかった。
 逃げるにトビラを開くを待っている。
 だから世界はその逃げ出したい連中が開きたいトビラが開かれてしまう前に……我々のような新しい形の守り手を呼び込んだのだろうか?

 世界の守り手は今、人に託された。
 そのように多くお膳立てをしたのでしょうね、とレッドは笑う。
 魔導師協会というものもその一つなのだろう。世界にある全ての物事がそのように集約されているのかもしれない。
 世界にイトを巡らし辻褄を合わせる、世界たる彼女の仕事は絶大だ。
 それともトビラを開いて逃げる算段をしたのは別なのだろうか?

 レッドは目を閉じ、風を感じてマントを翻す。

「実に、準備の良い事です」

 独り言を呟いて静かに、町はずれに用意してある転移門を起動させる。

 とにかくしばらく忙しくなりそうだ……と、まずは一方的な報告をするべく。
 彼が望んだ魔王の元へ、音もなく消え行った。

 

               END

 ここまでお付き合いいただき、ほんとうにありがとうごさいました!!!
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