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本編後推奨あとがきとオマケの章

番外編短編-6『俺に弟がいるらしい』

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裏ページ □ ○terry: それ、完全なるネタ解答 □から分岐しました

番外編短編-6『俺に弟がいるらしい』

 てっきりそこでも末弟だと思っていた。しかし、正直に言うと弟は欲しい。

 それは、現実における俺、テルイタテマツの抱く……望むに叶う事のない夢だ。


 現実では永遠に叶う事はない。両親がもうそろそろ子供を産むに限界だという、話じゃねぇ。
 実は俺の両親はいない。事故で死んだ。
 だから、物理的に弟は、無いのだ。

 妹じゃダメなのかと、妹を持つヤトが言っていたがぶっちゃ言おう。
 妹は嫌だ。
 家系的にウチの女どもは強い。兄貴らも姉貴には頭が上がらない様子を見ていると、もう女はいいと思ってしまう。あと、姉・兄夫婦の子供らが今のところ女ばっかで年下の女の子は間にあってんだ。

 俺は弟がいい。

 だらか望んだのだろうか。
 叶うはずがないのに俺は、我儘に弟が欲しいと願っている。
 それは、事故で亡くなった両親を現実的には認めたくないという願いも含まれている。
 何でもないように振舞ってるがぶっちゃけ、両親を失ったのは痛かった。
 姉達が号泣し、兄達がぐっと涙をこらえやがるから俺も泣くに泣けねぇで葬儀は、親の写真を見るに見れなくて本当に大変だった。

 理不尽な事故だったんだよ。しかたがねぇと諦められるものじゃなかったんだ。
 誰の所為ともうらめない、怒りの拳も向けられない。
 俺の親は空失した。起こるはずがないはずの宇宙事故で亡くなった。
 次々に起こる空失の原因は未だ究明されず、遺族はひたすら悲しみを耐えるしかねぇ。

 仮想世界の切符は、この俺の中でため込まれたうっぷんを晴らすに手に入れてしまったものだった。

 逃げたかったんだろうなと思う。
 居るはずのものがいない世界を認識するのが辛くて、何か……とにかくいつもの日常をこなすだけが辛くて、何か新しい事をやるしかなかった。
 そういうのは何と言おうと逃げだろうと思う。

 俺は、チキンなヤトの事本当は笑えねぇんだ。

 たどり着いた仮想世界は俺に、そういう自覚していなかった様々な事を訴えてくる。
 すべての物事に意味があるように、目を覚まして反芻する夢に愕然としていたものだ。
 あの世界で、俺には両親がいるのにその存在の仕方が非常に歪だ。正しくない。
 それは、俺の現実ではすでに両親がいないからだ。
 なぜか俺はそのように自分で夢と現実につじつまを合わせたくなってしまう。
 姉と兄がいる。
 それに、現実にいる兄姉達の姿がぶれて見える。

 そして、夢かなって弟がいる。

 歪に思えた。

 同時に俺が現実で、何か強制的に曲げているんじゃないかと気が付けるほどに。

 でも……深く、深くリコレクトを繰り返すうちにそうでもないかもしれないと懐かしい記憶を思い出す。
 歪んでいて何が悪い。歪なものが悪いものだと限った話じゃねぇだろ?
 
 
 *** *** ***


 行きつけの酒場についたら、すでにカウンターに長い茶髪の男が座っているのを見て、俺はにやりと笑った。
「よぅ、ちゃんと今日は素直に来たな」
 頭を叩いて挨拶するに、GMは不貞腐れたように杯を煽りながら顔をそむける。
「……煩い」
 いやぁ、ここまで来るのに長かった。
 なんか気がついたらイジでも仲良くなってやるってあの手この手を使っている俺である。
 所属闘技場に関係なく、若い剣闘士が酒を飲める酒場『手紙』にGMを誘って……ここまで来るのに何か月かかった?
 この日初めてGMは自主的に酒場に顔を出してくれた。それまでは路上で出会うなり強引に連れ込んでいたからな。最初なんて強制拉致だった。
 次はこいつの一人手酌癖をなんとかしなきゃいけねぇ。
 祭りも終わり、長い冬季休暇に入った町は静かだ。昨日の騒ぎの跡がまだ残っている、今日の客は少なそうだな。昨日振る舞われた火酒の所為でみんな潰れてんだろう。
「お前、昨日あんまり飲んでないだろう?」
「そういう兄さんこそいつもこっそり飲まないようにしているじゃんか」
 たった1年の歳の差で、兄さんと呼ばれるになぜだか、俺は照れがあるのだが。悪くないかもしれないと思って放置だ。でもしばらく違和感、だなぁ。
 ずっとお前、とかアンタ、とか呼ばれてたのが、お兄さんと呼んでくれただけでも良しとしなければいけないだろう。

 こいつは、GMは……孤独だ。

 大抵一人で酒場にいるから自分のペースで飲んでいる。回りの調子に合わせて無茶しないから今日も、酒場に繰り出してるんだろう。基本的に自分の巣には居たくないらしい。
 面白い、一度徹底的に潰してやろうじゃねぇか。
 俺はそう目論んで昨日初披露となった火酒をマスターに出すように言った。
「よし、今日は俺もとことん付き合ってやるよ」
「別に、いいよ。いい酒なんだから味わって飲めよな」
 そう言って早速飲んでいる米酒の温燗を自分の盃に注ごうとしたのを取り上げた。
「いいから付き合え、どーせ今日は他に客はこねぇだろ」
 と、言ってマスターに目で指示。今日は他に客は来ない。

 本日俺の貸切という事で。

 なんとか、この態度が軟化したこの時を逃さず、GMと美味く酒を飲める間柄になりたい俺だ。
 なんでかって?
 なんでかって……ルルに命令されたから、というのは正しくない。

 俺は、自分の同類と感じるGMに自分の存在を無視されたくない。
 こいつは強い、この俺に土をつけた唯一の男だ。
 素直に実力を認めている、戦友として今後再び舞台で会い見える事があるなら……戦いを楽しみたいと思う。
 GM、グリーンモンスターという変な名前を持つこいつはなぜ、怪物と呼ばれるのか。
 噂はいろいろ聞いているが本当のところはコイツの口から聞き出したい。
 ま、話したくないならそれまでだけどな。

 俺もまた怪物だ。
 なぜ怪物なのかという事は……正直、辛いから口にはしたくない。

「よし、じゃぁ俺のも注げ」
「……相変わらず強引だよな」
 そう言いつつもいつものように無視はしなかった。うん、だいぶ素直になったぜ。
「しかしなぁ、俺より年下の癖にお前いい成績出してるらしいよな」
「そりゃ、兄さんだってそうだろう?」
「俺は専属だから舞台に上がる回数自体少ねぇが、お前は隷属だからノルマがあるだろう」
「ふぅん、じゃ、次当たったら俺が勝つな」
 3回目の対戦か。
 敗者は死ぬ場合が多いここ闘技場で、3回目の対戦が回ってくるのは奇跡だと言われる。
 奇跡ではあるがきっと……あるだろう。

 俺達を手駒にしたつもりで運命を操ろうとする者がいずれ、その場を作るに違いない。

「ほぅ、聞き捨てならねぇな。たいそうな自信じゃねぇか」
「戦う経験では俺の方が上って事だろう」
 強さにはそれなりにこだわってんだな。しゃべらないから何考えてるか分かんない奴だったが、割と歳相応に血気盛んじゃねぇか。
「俺だって毎日酒飲んで遊んでるわけじゃねぇぞ?」
「それにしたって反則的な強さだと思うんだけどな……俺よりよっぽど怪物ぽいと思ったけど」
 その言葉ににんまり笑ってしまう俺だ。そうか、GMも……俺の事怪物ぽいって思ったんだな。
「嬉しいのか?」
 GMが小首をかしげる。
「強いなぁと言われてうれしくねぇ男がいるか?お前はうれしくねぇのか」
「俺は、アンタを怪物と言ったんだが」
 ああ、そうやって怒らせたかったのか。
「お前だって怪物言われてるだろうが」
「俺は、あんまり嬉しくないぞ」

 ああ、ほんとこいつようやく素直になったよなぁと俺は思う。
 な、マスターもそう思うよな。バーマスターのメェルさんは笑いながら冬で脂の乗った冬鱒のバター焼きと貝の佃煮を静かに置いた。

「……なんでそんな名前なんだ」
 聞いちゃいけねぇ事かもしれない。でも、俺は垂れ流されている噂をいまいち信じられなくてつい、聞いてしまっていた。

 今はエトオノに隷属しているGMだが、元々はグリーンという邪道な複合闘技場で『飼われていた』らしい。その時に、奴の首に今もはまっている黄緑色に光る不思議な金属の首輪を着けられて、グリーンに不当に一生隷属を強要されそうになったんだそうだ。
 GMはそれに反発し、飼い主を殺した。
 その後、忌まわしい経歴の為に引き取り手が現れずついに『怪物』として売りに出され、今のエトオノに買いたたかれたのだと……噂は言っている。
 しかし、俺の飼い主であるルル曰く、エトオノの今の長であるアダムはそう云う事をする人ではないのだそうだ。
 それゆえにルルは正しい事実を知りたがっていた。
 俺もそういう事情をルルに聞かされるに、真実に興味がある。
「知らねぇよ、勝手に付いたんだ」
「じゃ、本当の名前が別にあるんだな」
「…………」
 それを名乗るつもりはない、というようにGMは黙り込んでしまう。
「GMでいいのかよ」
「それで登録されてる、名前なんて、なんでもいいだろ」
「でも怪物はヤなんだろ?」
「嫌じゃなくて、嬉しくないだけだ」
 屁理屈を言いやがる。杯を傾け飲むほすに俺は新たに注いでやった。

 二人でどうでもいい事をひたすら語った。
 なんだ、こいつちゃんと喋れるじゃんか。

 怪物と呼ばれるに野性児で、マトモに話も出来ないんだとかいう変な噂もあったがそんな事はない。

 米酒から外来の麦を使った火酒に切り替える。イシュタル国でここまで強い酒が飲めるのはエズだけだ。遠東方人は酒に弱いらしく土着の酒はがっかりするような酷い代物だという。俺は飲んだ事ないがGMいわくありゃ酒じゃねぇと言う。どこで飲めるんだって聞くと、食堂で飲めるという。なるほど、イシュターラーの役員向けにか。剣闘士の多くは外来種族や人間だから酒場ではちゃんと強い酒が出てくるもんな。
 今度話のネタに探してみよう。

 酒には、それなりに強いと思っていたがそれでもザルじゃねぇ俺。それはどうやらGMも同じだ。

「大体、制度がおかしいだろ」
「だよな、俺もそう思う」

 闘技は戦いの神イシュタルトに捧げる儀式であり、正々堂々が基本だ。それに金儲けの尾ひれがついているのも疑問ではあるが、問題はそこじゃない。
 闘技場制度における中の問題、舞台を盛り上げる為なら何やってもいいはずがない。
 エトオノ内部でも間違いなく、強い剣闘士が生き残るために立場の弱い剣闘士に圧力をかけるような行為があるという。……クルエセルもそうだ。ルルが言っていた。

 ……そういうガチな話をするようになり、ますます酒のペースは早くなる。

 我が神と、イシュタルトに陶酔しているルルは、儀式が公正に行われない事に非常に腹を立てている。
 エトオノとクルエセル、どちらがエズで最大の闘技場かと客と売り上げの数を競う状態を嘆き、このような舞台などいらないのだ、とまで言う。
 ルル・クルエセルは狂人だ。
 奴の望みは狂っている。
 神の捧げるに、恥ずかしい戦いを繰り広げる闘技場など潰れてしまえばいいと本気で思っているし、そのために行動もする。
 現状が回復しないなら奴は、本気で闘技場を潰しにかかるだろう。



 しまいにゃ、GMが潰れた。
 俺も、遠からず近からず。何とか意識を保っているが許されるならその場で突っ伏して寝たい。

「マスター」
 完全の潰れたGMを横にして笑う。
「俺の勝ちだよな」

 こりゃ、帰れねぇや。
 ……フツーに歩けねぇよ。俺はともかくGMをこの状態で返すのはまずいだろう。2階の個室を借りる事にしてそこで休む事にして、俺はGMを叩き起こす。
「……ん?」
「お前、ここ、えーぎょーぼぅがいだから……上、」
 ろれつがまわんねぇ。
 状況俺と同じであるGMは素直に、俺の言う通り急な階段を這うように上がり、狭い部屋に倒れこむ。地下にある酒場と違って小さいとはいえ窓があり、季節は冬で寒い。
 マスターから毛布を2枚もらったが一人1枚じゃ寒くて寝れない。
 狭いしな。

 すでに体を横にして寝転がっているGMに2枚とも毛布をかけ、その中にもぐりこんだ。他人の体温が温い。できれば女がいいんだけど、この際文句は言わん。
 寒いから丸まろうとするGMを抱え込むようにして俺は、毛布奪われないようにしっかり包まる。
「誰?」
「俺だ、寒いんだよ」
「ああ、兄さんか」
 ぼさぼさの髪に触れて見たが嫌がらず、遠慮なく寒いようで身を寄せてくる。
「お前、兄貴でもいたのかよ」
「……ううん、一人だ」
 GMは小さく呟いた。
「じゃ、なんでそんな風に俺の事呼ぶんだ」
 寒くて少しだけ酔いが覚めてきた。
「別に、みんな、そう、呼んでるから……」
 確かに俺のクルエセル取り巻き連中は俺の事、兄さんと呼ぶ。正直取り巻きうぜぇとあんまり意識してない事だったりしたが……なるほど、それの真似だったのか。
「いいな、って」
 ……たぶん、こいつ今しゃべったこと明日まで覚えてないだろうなと、俺は笑った。
 どうやら完全に無防備になっちまったようでずいぶん素直に答えやがる。
 じゃ、俺も一つ素直に答えるか。
「俺も弟欲しかったからなぁ、微妙だと思ったけど案外悪くねぇかも」


 欲しいと願ったものが歪に叶う。

 歪んでいるだろうか?いや、喜ぼうじゃねぇか。
 素直じゃねぇ弟どもがいる事を。

 他人の暖かさを感じるのは気持がいい。
 相手が、男だという事を都合よくしばしお互い忘れて……遠慮を忘れて相手にしがみ付く。

 きっと明日からもっと無遠慮に付き合えるだろう。
 ……悪かねぇ。


             END


 この後に、懺悔を読む ②があったので、続きが気になる方は
 おまけ裏裏ページでご確認ください

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