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完結後推奨 番外編 妄想仮想代替恋愛

◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -4-』

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◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -4-』
 ※本編終了後閲覧推奨、古谷愛ことアインさんメインの後日談です※

 久しぶりにトビラを潜ってみようかな。
 テストプレイが終わった後は自由参加で、依頼されない限り積極的には触っていなかった。
 なんでかって?私の場合……良質な睡眠時間がぶっちゃけ無かったから。
 最低4日から一週間に一度はちゃんと寝るんだけどその時は、もう寝ることしか頭になくてトビラに入る為のちょっとした設定をする手間さえ惜しんで布団にダイブしちゃってる事が多い。
 別に睡眠の質とかはゲームプレイには関係ないみたいなんだけどね~。
 眠っている間に遊ぶゲームで睡眠の質が悪くなる訳ではない……らしい。どちらかというと改善するかもしれないという事を研究しているチームとかもあって、そこの報告曰く『睡眠の質はむしろ向上する』らしいけど。
 理論じゃないわね。キモチの問題。
 なんとなく、4時間しか寝ない二重生活をしていると『かもしれない』というおまじないはリスクに感じてしまったりもする。いやまぁ、その前にそんなにギリギリな生活するな、って話しなのかもしれないけれども。

 そもそも4時間しか寝ない……寝れないかもしれない二重生活って何か、ですって?

 分からないか、そうか。一般的じゃないものね。ここは詳しく説明しておきましょう。
 ……私は『同人者』なのね。同人誌という自費出版を愛好する者なんだけどそれの、発行者の方。同人好きな人の中には自分では発行しない、あるいは出来ないんだけど『買う』っていう人もいて、これも等しく同人者と呼んで差し支えないと私は思って居るわ。専門用語で『買専』って呼ばれていたりする。もちろん、発行者も『買う』のよ、逆に発行者で殆ど買わないっていう作家もいないでもないけど、まぁ大抵は発行者はそーいうのが読みたいから自分も発信するわけだから同時に『買う』方でもあるわ。
 私達は同人誌を発行する方なの。
 ようするにマンガや、小説なんかを通常の生活に隠れて書いては本にして同人誌即売会という会場で販売するという生活をしている。
 人によってはこれ、副業として成り立つ場合もあるけれど基本、趣味の一環なのよね。私達はそのつもりでいる。儲けとかのためじゃないの、好きだからやってる。儲かってしまったら確定申告必要だし、副業禁止の仕事してたらバレたらヤバいし。活動しているのが二次創作っていう親となる創作物に版権が在る場合、ガイドラインがあって色々と面倒だったりするし。
 勿論、勤めてる会社には黙っている同人者が多い。カインちゃんはおおっぴらにしているみたいだけど。そういうのは人や会社の都合それぞれ。
 当然会社に勤めている間は同人誌に関わる作業は一切、出来ない。当たり前よね。
 会社勤めが終わった後、趣味に掛けれる時間を確保して、ようやく趣味の作業が始まる。
 だから二重生活を送る事になっている、そういう訳。
 カインちゃんだって会社に理解されてるからといって、原稿を会社で描いてもいいというわけではない。当たり前の事だけど。趣味本の為、原稿作業があるので残業及びお前らの酒の誘いはお断りする事が在るヨロシク!という感じでカインちゃんは上手い事会社と折り合いつけてやってるってワケ。

 幸い、今急ぎ『趣味』の為にやらなければならない事はなかった。
 大きなイベントに向けた原稿は入稿し終えている。あとは当日までの細かな作業があるだけ。私は、その次に向けた準備をしている所。

 ヤト氏に相談したアレがまさしくそういう作業の一つだわね。

 そうだ、実際にヤトちゃんに意見を聞いてみよう。
 勿論、快い返事は期待してない。間違いなく怒られて拒否されるだろう。
 トビラの中のヤト・ガザミに、このあたしの如何わしい妄想はどれくらい『許し難い』ものなのか、直接聞いて見ちゃおう。
 ヤト氏とどう反応が違うのか、どんだけ嫌か、実際それらしい経歴は無いのかとか。知りたいでしょ?
 私はとても興味がある。



 あたしはいつも通り、籠の中で目を覚ました。

 目が覚めた理由は、丸めていた首を伸ばした途端にリコレクトする。
 良い匂いが脳天を貫き途端、おなかが鳴った。

 朝だ、ご飯だ、今起きないと朝ご飯を食べ損ねちゃう。

 食べ損ねたら今の生活、自給自足と言われいるので自分で獲物を探さないといけない……だから、あたしは本能的に目を覚ましたのだ。
 朝からこの空腹を抱えたまま狩りなんて、無いわー。
 完全に野生を忘れた家畜なドラゴンですみません~。

 通草で編んだ頑丈な籠に綿と藁を敷きつめて、上に毛布を一枚。これがあたしの寝床。籠はヤトが作ってくれたもの。
 彼、元々田舎暮らしをしていたのでこういう作業は得意みたい。意外な一面よね。本人も長らくこういう事は必要に迫られる事は無く、作ったりはしていなかったそうだ。そりゃそうよね、長らくエズで隷属剣闘士やってたわけだし。
 そういう経歴を経て大人になって、文明に別れを告げ、手つかずの自然が広がるだけの森に暮らすようになって……早くも4年。
 子供の頃属していた田舎での自給自足生活を思い出しながら、色々な作業にチャレンジしてみてるヤトは、まず小屋を建て生活に必要な雑貨を作ったりしながら畑を開墾してる。今もその作業中。結構のんびり、自由気ままに、時に不便な事を面白がって生活してるみたい。あたしは、それにお付き合いしてここで一緒に暮らしてるの。
 籠編みなんか、最初は上手く作れるとは思ってなかったみたい。
 十数年昔の記憶をゆっくりと手繰り寄せ、なんとか作り上げた最初の一品が……今のあたしの寝床。思っていたより良くできたって嬉しそうにしてた。
 とはいえ、ちょっと大きく作りすぎちゃったみたいね。形もちょっと歪だったりして。
 それが逆にあたしにはぴったりだったの。

 粘土壁に埋め込んである棚の上からあたしは、ぶら下がっているハンモックをワンクッションにして地面に降りた。
 中空に揺れているハンモックを見上げる。
 そうそう、ついでにリコレクトしたからバラしちゃお。
 自給自足生活初めて暫くして……今はマリア方面にナッツと一緒に暮らしてるアベちゃんが一緒にここに遊びに来てさ、そんでヤトったらこの籠編みとか諸々自慢したら墓穴掘っちゃったのよね。
 アベちゃん家もコウリーリス国の田舎村だからさ、結構自給自足の生活に近いらしいのよ。で、アベちゃんはこういうのに興味津々で教えてよ、とか言い出したのね。
 ヤトは鼻高々に教えてやらんでも無い、とかなんとかレクチャーしたんだけど……。
 手先の器用さにおいてアベちゃん、あっちでもこっちでも天賦の才を持っている。それで、あっという間に先生の技量を超えて行っちゃった。

 大の大人一人寝そべってもびくともしない巨大なハンモック。
 これ、アベちゃんがあっという間に編みあげた『初作品』だったりする。
 教えてくれたお礼に、ってこれをヤトは貰ったみたいだけど……なかなか微妙な顔をしていたわ。嬉しいには間違いないのだろうけれど……前からそうだけど、ヤトって、素直じゃないのよね。


「おーはーよー」
 炭のくすぶる白い煙の上がる先に私は急いだ。
 まだ、あたしの分朝ご飯残ってるわよね?
「おはようアインさん、あいかわらずギリギリだなぁ」
 とかって、ちゃぁんとあたしの分残してくれてるんだもん。
 ヤトは笑って木の根っこを掘り起こし、ひっくり返して台座にして、ガラス板を置いたテーブルを顎で差す。
 そういうトコ大好きだよ!
 匂いからして中身はいつものコーヒーみたい、マグを片手に沼の方をぼんやり眺めていたヤトはあたしの方へと戻ってきた。
 あたしは彼の頭上を見る。
 ……プレイヤーが『入っている』印が無い。
 って事は……あら、ヤト氏は不在か。

 お互い、こういう風にトビラの中では会えない事も今では良くある事だ。

 というか、あたしはどうしてそんな事を気にしたんだっけ?
 別にここでは、中の人が居るか居ないかを必ずしも気にする必要はないのに。
 リコレクトではなくフツーに思い出す。
 ああそうだ、ちょっといかがわしい同人誌を作る為の準備してるんだった。ネタ探しに来たのよね。こっちのヤトはそういうの、どうなのとか聞こうと思ってたんだった。
 ヤト氏不在なら丁度良い……のよね?

 大きくて少し深い皿に、鴨の香草詰めの残りを櫛から引き抜きナイフで裂いてくれる。それに木の実のクッキーに羊の乳の……カフェオレ。カフェオレって言ってもこの世界じゃそれと通じないんだ。けどあたしの中の人が要するにカフェオレだって言ってる。
 コーヒーは嫌いじゃないけどあたし、ブラックよりはお砂糖とバターを入れて貰った方が好きだわ。この通り、あたしってば見るからにお子様でしょ?自分でも食欲旺盛だと思う。毎日ヘタすると自分の体重と同じくらい食べているし。
 おかげでヤト達と出会った頃より大分大きくなったみたい。
 出会った当時はまだ人の頭の上に乗れる位のサイズだったのに、今は頭に手を置いて肩に足掛けて背中に乗っかってる状態だものね。
 よくテリーの肩の上に乗っかっていたけど今は……どうだろう?ちゃんと乗れるのかな?
 蕪や葉野菜をたっぷり詰めた鴨肉の匂いが強烈にあたしの敏感な鼻孔を擽る。
「今日は朝から豪勢なのね~」
「豪勢というか、これ試作品なんだ。わりかし上手くいったなぁと思うんだけどどうよ?こんくらいなら人に喰わせても文句は言われないかな?」
「なぁに、食堂でもやるつもり?」
 あたしは冗談を言いながら前足を揃えて西方風に糧となる者への感謝を捧げる。これはテリーから躾られたのよねぇ。
 と、唐突にリコレクトする。
「あ、こういうのを彼にごちそうするつもりんだ?」
「不味い、とは言われたくないからな」
 マグを持ったまま軽く腕を組み、笑うヤト。
 思い出した。
 システムで組まれている思い出すコマンドで今、この世界で起きている事を把握する。
 あたし、今ヤトとほぼ二人暮らしを展開中。
 人が迷い込むことはまずないだろう、深い森のど真ん中で自給自足して自由気ままにその日暮らし。でも、世間から遠く離れ俗世とは接点が無くなった……訳じゃないのね。
 来客は結構ある。なぜって?
 こうやって世間体から隠れてひっそりと暮らしている割に、世間体はヤトを放ってはおかないから。

 こういう隠居生活を営むに至った理由を知れば、多くは当然だとか思うかもしれない。あるいは、そんな所に隠れて何をしているのだと訝しむかもしれない。
 彼は、今世間体に向けては……ええと『魔王』として認識されているからね。
 適切な言葉が無いのよねぇ、正確にはかつて西の大国ファマメントを中心として好き勝手を働いた『魔王八逆星』一味として数えられているというのが正しいかな。
 どうしてもね……その疑いをはっきりと晴らす方法が無かったんだよ。

 具体的にヤトが何か悪い事をした訳ではないんだよね。
 したのではないか、と疑いを掛けられていたり、あるいはヤトの仕業ではないのだけれど一般的に疑いを晴らす事が出来ない事件が有りすぎて、ヤトは『世界』で生き辛くなっちゃったんだ。
 魔王八逆星の所業や、ヤトと思わしき者の事件は世界に、大きな傷跡を残している。
 今も全部片付いている訳じゃないんだ。
 誤解は簡単には解けない、だから彼はいずれ悪い事をするように成るのではないか……そうやって恐れられている、それは間違いない。
 そうやって彼は『魔王』というレッテルを貼られている。
 あと、貼られてしまう事を容認し、それで決着が付くならそうしてしまえと解決を投げてしまった。
 むしろ彼はその魔王八逆星を下した方だというのに。
 魔王を倒した勇者として世界に迎え入れられるべきなのに、王道嫌いのヤトは……英雄となる事を『選べなかった』のかもしれない。
 選べたと思う。
 魔王と呼ばれちゃう状況が彼の『運命』だとは思わない。
 ヤトは自分でこうやって人から避けられる事を選んじゃったのだと思うな。
 生き辛いかもしれないけれど、努力すれば彼はちゃんと英雄になれたと思うよ。でも、英雄になる努力をヤトは投げたし、必ずしも英雄や勇者と呼ばれる事は自分にとって喜ばしい事じゃないって、分かっちゃってたんだ。
 ランドールっていう『作られた』英雄がいて、魔王も勇者も都合世界には必要だと『作られて』行く事を……あたし達は見てきたから。
 で、ヤトは下げずまれる事を選んだ。
 でも、その選択をしたから沢山の絆が生きてるんだよ。
 世界はヤトを忘れてない、これからずっと忘れない。
 みんな、そういう選択をしたヤトの事が好きなんだわ。
 いずれそれが本物の憎悪になったとしても、無関心になって忘れ去られるよりかは幸せかもしれない。
 一人じゃない、それだけはずっと感じていられる。

 それで本当に彼は満足なのかって?

 それは、あたしはヤトじゃないから分からないけど。
 ……良いんじゃない?嫌だと思ったらその時はその時だよ。
 というかその前に、彼を一人にしてしまう事をあたし達……ようするに『世界』が許してないからね。
 だから結構な頻度で人が尋ねてくる訳じゃない。
 本当の事を知って居る人たちが、世界に平和と呼べる時間を作ったヤトの事を忘れるわけにはいかないのだ……って、何かって理由付けては会いに来るんだ。
 それに、寿命がないとも言われるドラゴンのあたしが一緒に暮らしていたりするしね。
 大丈夫、これからずっと暫く、彼はこんな僻地で暮らしているけど全然、一人じゃないよ。

 そして明日、またお客さんが来るんだ。

 この新作料理は、それを出迎えるための準備って事。
 寝ぼけていた所完全に覚醒したようにあたしはその事を『思い出した』。

 早速だけどその新メニュー頂きま~す。
 熱いコーヒーに絞りたてのラムミルクの疑似カフェオレ、それにお砂糖も入ってる。当たりを引き当てたみたいに嬉しくなっちゃうな、その日の台所事情でコーヒーは、ミルク入り、お砂糖入りが変化するの。ブラックの時もあるのに今回はフルコースですもの。それは嬉しくなるわよね。
 完全に家畜なあたしだけど、顎の力はドラゴン相応。
 皿の上に残っている鴨の骨ごとばりばり食べちゃうわよ。皿に出されたって事は全部、食べて良いって事なの。
 骨とか食べ屑とかって、自給自足生活の一環で始めた家庭菜園の肥料に使うこともあるみたいでね、一度空腹に堪えかねて取り置かれてあった獣の骨しゃぶってたらもの凄く怒られた事があったりする。
 それで、皿の上のものは食べてもよいというルールが出来たの。
「どうだ?」
 ドラゴンながら、長らく人と同じモノを食べていたせいか……それとも、元々ドラゴンの味覚は人と近いのかしら?
「うぅーん!鴨、グッジョブ!」
 あたし、味オンチじゃないよ。
 むしろ、鼻が利く事もあって細かい調味料の組み合わせとか結構分かっちゃったりして。これで味見係として信用は得ている。
「おいおい、調理した俺の事は褒めないのか?」
「うん」
「って、即答かよ」
「だって、あたしこれ一度食べた事ある」
 あたしの言葉にヤト、苦笑いして頭を掻いた。
 ったく、お前の舌にゃ敵わねぇな、とかぼやいて立ったままこちらの様子を伺っていた所、丸太を転がしただけの椅子に座り込んだ。
 そして、昔みんなと一緒に旅をしていた時に教わった料理だと白状する。
「……いつだっけな。何時だったかは良く憶えてねぇんだけど……マツナギと一緒にメシ当番の時にな。俺も一通り野外生活知識はあるつもりだったが香草とか調味料についちゃお粗末なもんで、そんで色々教えて貰ったりしたんだ」
「そういうのには興味あったんだ?」
「んー……というか。……初めは確かにさほど興味もなく、メシ作るっても言われた事をするだけだったんだけど……」

 何時からかこうなる事を意識し始めちまったんだよ。

 そう言って、ヤトが沼のある方角へ視線を投げてるのをあたしは、骨をかみ砕きながらぼんやり見ていた。

 ……不思議だね。
 向こうでは、あんなにこのちょと寂しそうな横顔にキュンキュンしてるのに。チビドラゴンの中にいる『私』は別段、彼自身にこれと言った感情は持ち合わせていないのがよく分かるんだ。
 なんだろう、嫌いではないけど……好きだけど……それは『番いたい』っていうのとか、『愛してる』という感情じゃない気がする。
 ここらへん、人間じゃなくドラゴンだからしょうがないとは思うけど……なんだろうなぁ?
 あたしは『一方的に』彼が好きなのかもしれない。
 恋っていうのとはまた違う。
 なんというか……別に、彼自身はあたしの事、好きになってくれなくても良いや、みたいな。というか……いずれ彼とはお別れするから、ずっと一緒には居られないから……っていうような感覚が一番近いかな?
 そういう少しドライな感覚が心の何処かにあるのが分かる、分かってるんだ。
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