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完結後推奨 番外編 妄想仮想代替恋愛

◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -3-』

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◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -3-』
 ※本編終了後閲覧推奨、古谷愛ことアインさんメインの後日談です※

「でねー、ヤト氏からは総スカン貰っちゃったのー」
「当たり前でしょ?てかあんた達まだ諦めてなかったの!?」
「諦める訳ないじゃない、てゆーか、禁じられると逆に燃えるっていうか萌えるっていうか」
 ぼちぼちといつものメンバーが集まってきて話も盛り上がった所で私は、先ほどの内緒話を遠慮無く場に投入。
 ヤト氏、テーブルの端で固まってる。
「何の話をしているのかさっぱりわからん」
 何でもかんでも興味津々で首突っ込んでくるのは照井氏。
「いやぁ、知らない方がいいかもよ。ヤトも言ってたと思うけど」
 やんわりと事情を察する事が出来るようになったナギちゃんが照井氏の突撃を防ごうとしているけれど……ふふっ、ナギちゃんったらまだ恥ずかしいのかしら、初々しくていいわぁ。
 そんなナギちゃんの心配とはよそに、照井氏は完全にこちらの投入したエサに食らいつい来てくれますよ。
「こいつは単なる恥ずかしがり屋なだけだろ?なんでマンガだかのモデルになるのをこんなに嫌がってるんだ?」
 端っこで固まっているヤト氏を指しながら照井氏は、自分が把握している事でそのように言うけれども……。
「だから、その内容が問題なんだって!」
 ヤト氏はてんで分かっていないテリー氏に喚いて返す。
「そんな酷い話に使われるのか?」
 双方における酷いのベクトルが違うみたいね。
「おま、酷いなんてもんじゃねぇぞ!」
「ええと、ぶっちゃけていいのでしょうか」
 隣でレッド君が眼鏡のブリッジを押し上げて出番待ちしてる。あたしは満面の笑みでもって出撃OKサインを出しちゃうんだぞ。
「もちろんよレッド君、この分かってないお兄さんにぶっちゃけて教えてやって!」
 ふぅ、と一つため息を漏らしてレッドはお得意の解説節を披露してくれる。
「……ようするにですね、アインさんおよびルイコさんの姉であるカインさんのサークルは一般的に言われる『フジョシ』属性があるのです。取り扱うマンガの内容は基本的に恋愛もの」
「恋愛ねぇ」
 フジョシ、という言葉は知っているようで、しかしよく把握していないようで思案している照井氏にレッド君は、約束通りとぶっちゃけて言ってくれた。
「ただし、同性同士恋愛ほぼ限定ですが」
「……は?」
「だから、男同士の恋愛もの話を彼女たちは創作するのが大好きかつ大得意とし、それのみに特化した創作を、ですね」
 これ以上の説明は必要ですかね?というようにレッド君は言葉を切って照井氏の理解力を試している。
「……悪ぃ……意味わかんねぇんだけど。フジョシってアレだろ、オタクな女の事じゃなかったのか」
「違います」
 冷酷に冷静に即座否定するレッド君。
「オタクとは一定のジャンルなどに熱狂し、執着、および蒐集を行う者を差しますが、フジョシは腐った女子と書きましてフジョシと読みます。文字通り、ちょっと腐っている趣味を持っている女子という成立当時紆余曲折のあげく謙遜語の一種として落ち着いたもので……」
「今は称号あるいは属性になってるわよねー」
 アベちゃんが呆れて口をはさん出来たけど、彼女はカインちゃんとは違って腐属性は無い。至って健全に……ヤト氏を好きになっちゃったのは健全かしらん?……とりあえず健全としておくとして。
 アベちゃんはあたし達の趣味は大嫌いと憚らず、結構ぼろくそに言う。
「腐っている趣味というものにも色々あるようですが、一般的には同性同士、主に男性同士の恋愛を好む属性をそのように」
 照井氏、おもむろに悟ったように項垂れているヤト氏の肩を叩いた。
「まぁあれだ、お前も選んだ女が男装趣味とか、そりゃ仕方ねぇと思うぜ?勘違いされても」
「バカか貴様!分かってない、貴様は何も分かってない!」
 確かに何も分かっておりませんね照井氏、ふふふふ……。ヤト氏の方がよぉくわかってらっしゃる。
 何も言ってないのに分かってしまう彼も相当にイタタなのだけれど、元よりイタいあたしとしましては同類が増えるのは楽しい事かな。
 もちろん、冷静に解説かましてくれたレッド君も分かっている。彼女はさり気なく自分や自分の持ちキャラが使われる事は無いとのを察しているから気前よく解説してくれているのね。
 とはいえ、あたし達にその趣味がないだけで、実は女の子とか男装キャラは一定の人気があるからこれから要注意だと思うけど、レッド君……もちろんそれは分かっているのよねぇ?
 さてはて照井氏、ナギちゃんからの同情を寄せる視線に気が付き、少し考えるように腕を組んでから……。
「……あ?」
 と、私に向けて威嚇じみた視線を投げ寄越している。
 うん、どうやら……ようやく彼も『理解』しれくれたみたいだ。
 動じたりするもんですか、にこやかに受け流しちゃうわよ?
「いやぁ、だって、男同士の友情っていいよね!」
「何爽やかに笑いながら、待て、マジ意味がわからん!」
「だから世の中には知らない方が良い事があるのだと!」
「ナツメは!?」
「あ、貴様、自分可愛いからってナッツを売るのか!」
 この会話全体について興味がないを体で現すようにアベちゃんがぼやく。
「そういえばなっつん、遅いわねぇ……」
「そしてお前は相変わらず空気を読まない発言を!」
 ヤト氏、いいノリツッコミだわ。普段はこんなに元気じゃないんだけど、遅刻してきたその他が来る前に例の会話でヤト氏の引っ込み思案は破壊しておいた。
 リアル顔合わせだと、なかなかこうはならない内弁慶のヤト氏。内心思っている言葉を実際口に出させるに、彼のテンションを上げておく必要があったりする。
 普段だと黙りなヤト氏が色々吹っ切れて一々細々ツッコミを入れてしまう状況を見てレッド君、今にも笑い出しそうに楽しそうな顔してるよ。この子も割と普段は仏頂面だからねー。
「僕、オペレーターでよかったと心から思いました」
 きっとバカバカしいだろうやり取りに、メージンは苦笑いを混ぜながらこっそり呟く。
「いやねぇ、流石に18禁になるかもしれない本に18歳未満は出せないわよ、この業界色々あるんだから」
「何バカ言ってんの、とにかくその野望はいい加減捨てなさいって」
「カインちゃんも超ノリノリなのよ、彼女友情シチュ超ツボだから。ガチ戦闘痴話ゲンカとか大好物だから」
「あのバカ姉めぇ……」
 気が付けば酷い乱痴気騒ぎをしているところへようやくナツメ氏が到着。
 彼は転職するに周辺の引き継ぎ作業やらをしているらしく忙しいみたい。
「随分盛り上がってるねぇ、何の話?」
「あ、聞きたい?」
 私が微笑んで振り返ったのを見て勘の鋭いナツメ氏は事情を把握したと見える。上着を脱ぎつつ即座目を逸らす。
「……聞かない方がよさそうだ」
「なっつん、お疲れ~」
「おう、先に喰ってんぜ。腹減ってんならそこら辺の勝手に摘め」
 照井氏は残っているポテトやら何やらをナツメ氏の方へまとめて送る。
「……む、そうかヤトちゃん抜きでもお二人は同郷だからそれはそれで美味しい……!?」
 さり気なく混ぜ込んだ私の呟きを聞きつけてナツメ氏は苦笑いで私の言葉を無視した。が、照井氏は即座反応。
「お前の頭腐ってんのか!?って、ああ、だから腐女子かよ!」
「照井氏~、気付くの遅~い」
「おかしくね?お前、その趣味異常だぞ?」
「ばかん、そんなの分かってるわよぅ」
 のらりくらりと照井氏の攻撃を躱す私。
「そんなの、所詮代替恋愛だろ」
 その照井氏の一言に、最近腐趣味に染まったばかりのナギちゃんは思わず固まり、アベちゃんは理解はないけど把握はしているだけに、その通りよと冷たく私を一瞥。
 ……うん、これだからパンピー相手に暴露は危険なのよね。
 分かってないヤト氏は、小さな声でそーなのか?とかレッド君に聞いている。それ聞いてレッド君は額に手をついてため息。
「僕からはなんともご説明差し上げられませんね。それは人それぞれの事です」
 レッド君は中の『レッド氏』とは違って気配りが出来て腹黒い事は言わない健気な子よね……。
「あらあら、いいのよそんな空気読んで貰わなくたって」
 照井氏の何気ないであろう一言、そこに含まれている攻撃には致死性がある事をレッド君は知っている。
 でも大丈夫、私にはもう耐性がついているから。
 怯んだりしないわ。
 事実を指摘されて私、無様に否定出来ないもの。
 分かっててやっているのはね、救いようが無い事だってのも分かってる。
「世の中には疑似恋愛しか興味がない異常者もいるって事」
 照井氏に向けて私は、いつもの調子で笑いながらそのように返した。
「……お前」
 あ、今のはちょっと大人げなかったかな?
 即座反省し、変わらない笑い顔を返す。
「ま、実際にはアレだよ、既婚者や彼女持ちでもエロ画像は見たい、みたいな」
 その例は在る意味穿っていたようで即座、照井氏とヤト氏、およびウブなメージンが口を閉ざしてしまった。
 はっはー、お姉さんを甘く見るなよ?
「……そういうもの?」
 男友達は多いけど男の事情はよく分かっていない有る意味純粋なアベちゃんがナツメ氏を一瞥。
「一号が言っていた通り人それぞれだよ」
 流石だ、ナツメ氏だけは平然と聞き流した。
 アベちゃんからのツッコミもさらっと躱しましたよ、流石ミスターポーカーフェイス。
 あ、ナツメ氏の言う一号っていうのはレッド君の事ね。
「ヤトあたりだと浪漫だとか言ってたかな」
「ナーッツ!何を言い出す!」
「だって、エロは浪漫だろって言ってたじゃん」
「そういうお前だって……ああ、もう!だからなんでこんな話になってんだ!お前だ、お前が悪い!」
 多分、ヤト氏これが『本来』なんだと思う。
 リアルだと……割と引っ込んだままで引っ張り出すのに苦労する、そんなヤト氏から指を刺さた私はもちろん微笑んでお答えしましょう。
「ええ、あたしが悪いっ★」
「開き直るなー!!」



 お馬鹿な大騒ぎもしたけどそれなりに、集まる理由があっての会合、必要な議題会議を無事終えて、余り遅くならないうちに本日は解散となった。
 最寄り駅でそれぞれと別れると……帰る方向的に私は照井氏やメージン、ナギちゃんと一緒になる。
「僕、明日腹筋とかが筋肉痛になるかも」
「お前笑いすぎだ、他人事だと思って」
 すみません、と今だに腹を押さえている、笑い顔が剥がれないメージン。
「ちょっとお店的には迷惑だったかもよ?」
 ナギちゃんは少し心配そうに、でもやっぱりメージンに釣られて笑いながら言った。
「お酒入れてないのに酔っぱらいのテンションだったものねぇ」
「……お酒なんか入ったらもっと酷くなるんじゃない?あ、でも酔っぱらうとヤトとかどうなるんだろ?興味在る」
 と言って笑うナギちゃんに、一応照井氏も居る事だしおねーさんがたしなめて置いてあげますね。
「ナギちゃんはどーして酒飲み話に付いてこれるのかなー?」
 私の指摘に未成年、学生のナギちゃんは慌てて目を逸らした。
 照井氏から聞くに、彼女はかつてなかなかの不良少女だったらしい。
「お前らが同行する限り絶対酒場になんぞ連れてかねぇよ、俺が力尽くでも止めてやる」
 そんな不良少女を更生させたのはこの、外見からすると不良っぽいと言われても仕方がない照井氏なのだと言う。ナギちゃん、かつては飲酒喫煙どちらも平然とやってのけるような家出っ子だったらしく、それを照井氏で『保護』して改善させるべく一方的な面倒を見て、現在は保護観察中なんですって。
 これ、照井氏の仕事関係ないらしい。完全に『照井家』の趣味なんだって。面白いことする人って居るものだねー。
「なんか未だにギャップ、照井氏率先してお酒呑んでそうな風体なのに」
「人を外見で判断すな」
「知ってる?ゲイってマッチョな人が多いのよ?」
「人を外見で判断すんなっつってんだろ!」
 この人もからかうと面白かったりする。どんなにからかっても女性には絶対手なんか上げない正義漢だしね。
「しかしなぁ、あんたがそんな趣味だとは……」
 そんな趣味って言われちゃったよ、てへ。なんか嬉しいね。
「意外だった?」
「そりゃな、」
「でもね、乙女は誰しもそういう属性を隠し持っていたりするのよ?」
 真っ直ぐ照井氏を見つめて瞳を心なしかキラキラさせながら言ってみた。
 胡散臭そうに目を細めて照井氏、心当たりでも見つけたようでそろそろとゆっくり、目を逸らす。
「……そう言うのは普通、隠しておくだろう」
 ナギちゃんが俯きがちに無言で居る所、多分あたしが貸したいかがわしいマンガ本を読んでいる所とか、必死に隠したり誤魔化そうとしているのとかと照井氏、遭遇した事でもあるのかもしれない。
 それとも、お姉さんや甥っ子がいるらしいから……彼女らがそういう本とか持ってたりとか?
 あ、うん。さり気なくナギちゃんを腐の道に洗脳中の私です。強引じゃないよ?ナギちゃんがそういうのに興味無くは無いんだけど、オススメとかある?って聞いて来たから全力でチョイスして貸してるだけ!
 それはさておき、笑って照井氏の気持ちに同調してみよう。
「そうね、暴露したら変態って思われるからね」
「……自分で言うなよ」
「隠し通す事も出来るよ、実際会社では隠してフツーのOLしてたし。あたしが腐女子なのも、ゲームオタクなのも誰も知らなかったと思うな。でも……旅の仲間には現実でまで偽りたくないじゃない。ホントの事を知っておいて貰いたいだけだよ」
 電車が入ってくるというけたたましいアナウンスと、照井氏の深いため息が重なった。
 すぐに轟音と風圧をともなって電車がホームに入って来る。
「それで、後悔はしてねぇんだな」
 あはは。後悔って何?
「あたしはねー、後悔なんてしないで生きてるトコあるよ」
 ようやく照井氏も私の正体にちゃんと気が付いてくれたから、ちょっとサービス過剰に心の内を暴露してみる。
 電車の扉が開いて、左右から乗り込みながら他愛もない会話が続いた。
「他人から……俺らから引かれるのも覚悟の上か」
「だって、これが真実だもの」
「あ、僕は薄々察してましたよ、はい」
 ちょっと異様な私達の雰囲気を察してか、メージンが僕らも話を聞いていますからねと主張するように口を挟んでくる。
「ナツメも分かってるって感じだったよな?って事は、分かって無かったのって俺だけか?まさか、俺に暴露したくて一芝居打ったんじゃぁないだろうな?」
「あら何?そう思っちゃう?」
 ちょっと混んでる電車の座席を二つ確保し、ほぼ強引に私とナギちゃんを座らせる照井氏。彼の場合当然というように優先席の空席は無視する。本当によく出来た正義漢君だ。
 そうしてから、あたりの視線なんかを気にしつつも照井氏は話を続けた。
「……言っただろう、あんたのそれは代替恋愛だろうが、って。嫌われたいからそうしたっていう気配は俺には感じられない」
「ならそれでいいんじゃない?」
 目の前で照井氏はため息をつく。
「お前、よく分かんない奴だなぁ……」
 困った様子の照井氏に、ナギちゃんは当然だという様に言う。
「アイン姉さんは深いよ、なんかどこまでも潜っていく感じ。いつまでも追いつけない、みたいな」
「在る意味、経験豊富そうですよね」
「同感だ、現実と、夢の中で随分長いこと一緒にいたはずなのにこいつはさっぱり分からん」

 だから、分かって貰いたいのかな?

 何でもかんでも分かってる訳じゃない。ナツメ氏みたいに時には何でもないように微笑んだまま、感情は隠して。大切な事にはその刹那、刹那で気が付いて、そうか成る程そうだったんだと納得して、飲み込んで自分のものにしていってるだけなんだけどな。

「そっか、あたしってよく分かんない不思議なお姉さんってトコ?」
「……お前、中と外であんまり変わり無くね?」
「それ言ったらレッドとかもあんまり変化無いように思ったりするけど……あ、あれは性別が違うか」
 ナギちゃんの言葉を照井氏は聞き流した。いや、反応しないという事はほぼ同意という意味になるみたいね。
「お前はチビドラゴンって立場で何もかも誤魔化したりしてるだろ」
 そうかもね、実はそうかも。
 そう言う事を多分、分かって貰いたいのかな、私。
 私は今都合、何もかもを誤魔化そうとしていたりするかもしれない。
 でもはっきりとした答えなんか教えてあげないよ。
「誤魔化しが無いとは言えないなぁ」
 だから脈ありみたいな答えを返してみる。
「よく分からない女を演じてるだけじゃねぇのか?」
 そのように見えるかも知れないけれどでも、わざとそうしているつもりはないんだよね。
 無いんだよ?あたしは、結構これで思った事を素直に口に出しているつもりんだんだって。
「わかんないよ、」
 だから、これは本音。
「だって私、自分が腐女子なのを暴露した人、同業の人以外だとあんまり居ないから。今回そういう感想を聞けたのが新鮮だったりするよ?」
「……激しい誤解を受けるから?」
「でもこれが本性だからさ」
「俺はそうは思わんと言ってる」
 照井氏、なかなかにしつこい人みたいです。ヤト氏が嫌がってる理由がなんとなく把握出来てきた、曲がった事や逸脱した事が許せない性分として、あたしの『変態』的な趣味をなかなか理解出来ないのだろう。自分の尺度で、もっと別の『意味』があるのではないかと疑っている。
「もしかして、私も更生出来るとか思ってる?」
「更生ねぇ……そりゃ、フツーの恋愛経験すれば直るんじゃねぇかとか思ってるけど甘い考えかな?」
 と、なぜか照井氏はナギちゃんに聞いてみている。
「どうかなぁ……それをあたしに聞かれても……」
 聞かれた方はいろいろな意味で困って視線を逸らして応答出来ずにいる。
 甘い甘い、そんな事で足が抜ける程、温くこの沼に踏み込んでない。ナギちゃん程度ならまだしもね~。
「ふふふ……照井君、別腹って言葉を知ってる?」
「……姉さん、ガチで底が見えないよ」


 私の本性はさて、どれでしょう?


 『ソコ』にあるのは多分、私の本性。
 ナギちゃんはそれが見えない、分からないよと言っているのだと思う。
 そしてテリーもそれが見えなくて、一生懸命あたしの足元の泥沼を掻き出しては、埋まっているはずの脚の先を見ようとしている。

 他人が分からないのは致し方ない。
 だって、私も『よく分からない』もの。
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