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完結後推奨 番外編 妄想仮想代替恋愛
◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -5-』
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◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -5-』
※本編終了後閲覧推奨、古谷愛ことアインさんメインの後日談です※
木の実のクッキーを疑似カフェオレの中に砕いて入れて、柔らかくする。
あたし専用のマグは口が大きくなってて鼻がすっかり入るの。特注品だよ、えへへ。
で、あたしの口って犬みたいに縦に長いから咀嚼して砕けてしまうものを食べるのには適してないのね。本来なら肉の塊を引きちぎりながら飲み込むって『食事』スタイルが正しいのだろう……ドラゴン的に。
という訳で、こうやってクッキーを柔らかくして啜り上げて食べるようにしている。こうすればカスを口から零さなくて済むってワケ。
小さな手でクッキーを砕き入れる作業をしながら、あたしは……ヤトの事を考える時に感じる『気持ち』は何だろうなぁって『向こうのあたし』に問いかけてみた。
すると、向こうのあたしは少し悩んでから答えをくれるんだ。
ああ、そっか。そうなんだ。
あたし、ヤトについてはお父さんかお母さんみたいな感じで接しているのかも。
……ドラゴンの生態なんかドラゴンであるにもかかわらずあたしはよく分からない。何しろ立派なドラゴンのお父さんとお母さんがあたしには居ない。
シコクに流れ着いた卵から孵ったあたしは、シコクでペレーちゃんとパスお姉ちゃんに育ててもらった。所が何が原因か良く分からないけどシコクの外に出てしまい、東国ペランストラメールに流れ着いて捕まって、魔導都市に売りさばかれて実験動物として扱われそうになって居た所、エズ3人組ってくくる事が多いヤトとアベちゃんとテリーの3人に助けてもらったんだよね。それ以来彼らと一緒に居る。
あたし、ドラゴンとしてはまだまだ生まれたてなのは間違いないらしい。レッドとナッツが一般的なドラゴンについて調べてそう教えてくれた。
ドラゴンなのにドラゴンから育てられた経歴が無いので今、この通りよ。自分の事なんて何一つさっぱり分からない。
有る程度の大きさに育つまで、ドラゴンって子育てするのかな?
あたしはね……巣立ちが出来てないんだよ。それで、そうと知らずに育ての親を求めていて今はまだ、その庇護の下にいるつもりなんだ。
「アイン、クッキー溢れてるぞ」
「あ、いけない」
疑似カフェオレが今にもあふれ出そうな程に、クッキーをマグに入れそうになっていたのを慌てて止めた。
入りきらないのは直接口に砕いて放り込んで飲み込んじゃう。
食べかす、溢すのもったいないもん。
「どうした、まだ寝ぼけてるのか?」
「ううん、今日はちゃんと起きてるよ……あのね。好き、について考えていたの」
ヤト、ちょっと驚いたような顔をする。
考えていた事全部は話せないなぁ、だって彼の中に今『ヤト氏』が居ないし。居ないとなると、向こうの世界の話は出来ないのよね。というか、してもいいけど相手が理解してくれない。
そんでもってペナルティがついて経験値が削られちゃう。
ただでさえ経験値が低い私、ヘタなことはおしゃべり出来ないよ。
なんであたしの経験値が低いかって?それは、あたしがチビドラゴンだから。
言語を操れるはずがない生命が人格を有し言葉を喋る……あたしは、そういう種族を超えた特別なクラスなんだ。
条件転生と呼ばれるこの『ゲーム』の特別ルールを使っている。ナッツは『裏技相当』だと言ってたかな。あたしみたいな事を誰かがしないように、ゲームの正規版で少し修正が入ったらしいよ。
裏技相当、その都合……あたしの経験値は正規の値になっていない。
ゲーム始めた当初っから整数値ギリギリ。
おかげでこれといって戦闘能力がある訳でもない完全なお荷物か、小道具みたいな扱いになっている。
その上経験値はなかなか溜まらない、これも最初から背負っているペナルティ。その事をちゃんと知ってるのは……仲間内ではメージンくらいかな。
「スキってなんだ?誰に隙があるって?」
「?、そのスキじゃないよ。スキ、キライの好き」
「……なんでまたそんな事を。まだチビのくせに早くも発情期って奴か?」
「そうじゃなくて、前にさ。あたしの事好きだとかなんとか言ったじゃない」
途端、ヤトはばつが悪そうな顔でそっぽを向く。
「それは……あれだ。……逃避の末というか……少なくともキライじゃぁない。可愛い小動物は愛くるしいぁという事だ、うん」
最終的には開き直ったように言うんだなぁ。
てっきり、今でも大好きだと言ってくれるのかと思ったのに。
「んじゃ、あたしが大きくなって愛くるしいとは呼べない、立派なドラゴンになったらもう好きじゃなくなるの?」
……何故か顎を引き、くしゃみしそうなのを必死に我慢してるみたいな顔になるヤト。
ん?ああ、あたしってば無意識に小首をかしげてたわ。
これは彼が『萌えている』顔ね。にやけそうになる顔を必死に押さえ込んでいるの。バレバレなんだから大人しくにやけてしまえばいいのに。
彼で言った通り、そういうのが大好きで堪らないってのは事実なんだからさ。
「だ、大丈夫だ。安心しろ、男の子はカッコイイのも大好きだからな!お前がデカくなったらそれはそれでイイと思うぞ!」
その前に、あたしが大きく育つまで……この共同生活は続くのかしら?
続けばいいなぁ、何事もなくずっと平和に。
ただそれだけを今は願ってる。
「なんか、外にスキな人でもあったとか、会いたい奴がいるとか……どっか行きたいトコでもあるのか?」
少しだけ不安そうな顔で聞かれてあたしは長い首を横に振った。
「そういうわけじゃないよ。……もうちょっと大きくなったら自力でシコク参りはしたいけどね」
「本当か?実はもっとハデな人生、もとい竜生を送りたいとか思ってたんじゃないのか?」
お前、こんな何もない田舎で引き籠もり生活が嫌なんじゃないのか?
俺に付き合う必要なんか無いんだ、お前の人生はお前のモノなんだから。
……頼むからもう誰も俺に構わないでくれ。
そんな声がバレバレだよヤト。
バレバレだからみんな貴方に構いたいんだって。
「トラブルはこりごりよ、魔導都市で骨身にしみたもん。あたしはここで、まったり暮らすのが一番幸せ」
「そっか、」
ちょっとまだ疑ってる顔だなぁ。
あたしがここで暮らすに満足しているのは本当なのにな。
「いつか、大きくなったらヤトを乗せて飛びたいって思ってるよ。いっつも乗せて貰ってたしね」
「ドラゴンに乗るかぁ……お前、亜竜擬きとは違うガチドラゴンってお墨付きもらってたもんな。ドラゴンに乗れるってのはそうそう無い事だよなぁ……悪くねぇ」
「でしょー?」
「で、そんな前はどうして俺の頭に乗るんだよ?」
それは、そこが一番安定してるからだよ。
マグに入りきらないクッキーを丸飲みにしながらあたしは頭を左右に振る。
「テリーみたいに肩じゃダメなのか?」
「ヤトの肩、乗りにくいもん」
実はちょっとね、ヤトが着ていた鎧が苦手だったんだ。
なんかあの金属、触れるとぴりぴりするの。後で聞いた話、ヤトがシーミリオン国から貰ったあの鎧はナーイアスト、水属性だったんですって。あたしはこの赤い鱗の通り炎竜、イーフリートは火属性だから相性悪かったみたい。それで、首に巻いているマントに足をのっけて頭に掴まるっていう、鎧の金属部分に触れない乗り方をしていた。
今ヤトはは鎧なんか勿論付けてない。あの鎧は事もあろうかランドールにあげちゃったらしいよ。籠手と剣だけは手元に置いてるけど……。
鎧は無いけど今も、あたしは彼の頭に乗っかってる。
だって、ヤトってば薄着なんだもの。ヘタに乗ると爪で怪我させちゃったりするでしょ?だから結局頭乗りしちゃうんだって。
「ほら、さっさと片付けろ。俺は明日の料理の下ごしらえしないとなんだ」
「気合い入ってるんだね」
最後のコーヒーを飲み干し、立ち上がりながらヤトは笑う。
「どーせ奴の事だ、散々田舎だのなんだの、お前はやっぱり田舎が似合うだの言うに決まってる。あんな山の上で何喰ってるのか知らないが、ぎゃふんと言わせてやりたいからな!」
確かに、彼はここに来る時大抵ここの事をぼろくそに言うわよねぇ……。
「お料理くらいしか自慢できる事が無いもんね」
「料理舐めんな!新鮮なモンを新鮮な内に、これ程素晴らしい贅沢はないという事を僻地レズミオで干からびたモンでも喰ってるだろう奴に教えてやるわ!」
そう明日、テリーが来るの。
いや、今はテリオス・ウィンって呼ばないとなのかな?
ここではどっちで呼ぼうが構わない、とか言ってたかもしれない。
「テリー、何の用事なのかな?」
それについて聞いた気もするけど……うまくリコレクト出来ない。ただ話がしたいから来るのかな?
ふふ……なんだかそういうのは他人事なのにやっぱり嬉しい。
「あ?用事?……そういや何か言ってたな」
来る、という事を伝えてくれたのはレッドなんだけど……。
「……なんだっけ」
この通り、どうでもいい事と受け取るときれいさっぱり忘れてしまうダメな子達ばっかりで暮らしている訳で。
……だからレッドが頻繁に訪ねてきては世話焼いてくれる訳だ。
「ま、いいじゃねぇか。別に大した用事じゃねぇだろ、どーせグチ聞いてくれとかそんなんじゃね?あ、酒も用意した方が良いのかな……。今のうちに割り水しておくか」
「わぁい、お泊まりなの?」
機敏に反応したあたしに向け、たまにこうやってあたしが『変な妄想』を働かせる事を承知しているヤトは胡散臭い顔を向けてくる。
「知らねぇ、転移門で来るんだろうしレッドも一緒だろ。こんな田舎で寝泊まりなんてするはずねぇだろ」
「そう言わないで飲み明かして夜明けのコーヒーでも飲めばいいのに!」
「なんで」
中の人がいないからか、その理由については即座理解出来ない今回のヤト・ガザミ。
うーんそうか、こっちの世界では夜明けのコーヒーを一緒に飲むのにこれ以上の意味は無いか。
……って事は危ない、ペナルティ一歩手前発言だ。マイナスにならないようにフォローしなきゃ!
「だからね、つい飲み明かして夜が明ける訳。なんだかんだやってて朝まで起きてちゃう訳よ!そんでこれからテリーはお仕事が待ってるの。寝てないの、眠いんだけど寝れないの。だから、早朝からコーヒー淹れてあげて一緒に飲むって訳」
あたし的には『なんだかんだ』の所に色々期待するわけだけど。
「そもそもそんな夜が開けるまで飲むとか無理だろ。俺達ナッツみたいなザルじゃねぇ」
確かに、ナッツは毒素耐性が極めて強いという特性を取った都合、あとリアルを反映しているのか酒に酔うという概念が存在しないみたいなザルの人だ。水みたいにラム酒を飲んでいるのをあたしも目撃した事があります!
「飲み明かすっても……エズでも朝方まで意識保つとか、そんな事ぁ無かったと思うけどなぁ……」
「……!そこ、詳しく知りたい!」
エズ時代、つまりヤトとテリーの『闘士時代』話は色々と美味しいと認識しております!ネタ的に!
本人らにとってはどうでもいい話でも、腐女子の『私』には美味しすぎるエピソード満載なんだから、是非とも聞きたい!
でも、都度あたしがこうやって無駄に食いつくからか、それとも、克服したつもりでやっぱり、過去と向き合うのは完全には無理なのか。
未だにあんまり話したがらないのよねぇ。
「詳しくも何も……とにかく、お前の妄想には付き合ってられないって。さっさとテーブルから退け」
ほら、体よく追い払われちゃった。
いけず、じゃぁテリーちゃんに色々聞いちゃうんだもんね。
それで……もう、はやくテリオス氏来ないかしら?とかワクワクしてたらその間の事はスキップしちゃったみたい。
朝に弱いあたしはいつもの通り、朝ご飯の良い匂いを嗅ぎつけて夢うつつと目を覚ました。
ここ、夢の中なのに夢を見るのよね。
こちらの世界で起きた事はリコレクトによって有る程度は思い出せるけど、こちらの世界で見た夢はいくらリコレクトしても反応はない。稀に覚えてる事もあるけど、少なくともリコレクトコマンドには対応してないみたいだ。
あたし、どんな夢見てたのかな。
……そんな事をぼんやりと考えていたあたし、気が付いたら何時も通り朝のおかゆを啜ってた。
糊のついた鼻先を上げる。
すでに、沼のほとりでコーヒー片手に雑談をしている二人の影を見つけてはっとなって覚醒した。
……完全に寝ぼけてご飯食べてたみたい。
自覚は無いんだけど……ヤト曰く、こうやって時に半分寝たまま朝ご飯だけは食べるんだって、あたし。
やだ、あたしってばちゃんと朝の挨拶したのかしら?
慌てて残りのおかゆを啜り上げる。
専用のコーヒーマグには……今回はお砂糖入りのコーヒーがまだ湯気を立てていた。
灼熱の炎を吐き出す事が出来るあたしはもちろん、猫舌という事はない。でも熱を感知出来ない訳じゃないのよ?
コーヒーはまだ少し熱めだったけど、早く二人が話している間に乱入したくて首を突っ込んで一気に飲み干した。
「ごちそうさま」
寝ぼけていたから頂きます、を怠っていたかもしれない。
あれで天使教の敬虔な信者であるテリーから叩き混まれた礼節作法。その重要さを思い出し、せめて最後の挨拶はしっかりと手を合わせて行う。
さ、お椀を片付けやすいように重ね置いてっと。
さっそく二人の所に飛んで行くわよ!
※本編終了後閲覧推奨、古谷愛ことアインさんメインの後日談です※
木の実のクッキーを疑似カフェオレの中に砕いて入れて、柔らかくする。
あたし専用のマグは口が大きくなってて鼻がすっかり入るの。特注品だよ、えへへ。
で、あたしの口って犬みたいに縦に長いから咀嚼して砕けてしまうものを食べるのには適してないのね。本来なら肉の塊を引きちぎりながら飲み込むって『食事』スタイルが正しいのだろう……ドラゴン的に。
という訳で、こうやってクッキーを柔らかくして啜り上げて食べるようにしている。こうすればカスを口から零さなくて済むってワケ。
小さな手でクッキーを砕き入れる作業をしながら、あたしは……ヤトの事を考える時に感じる『気持ち』は何だろうなぁって『向こうのあたし』に問いかけてみた。
すると、向こうのあたしは少し悩んでから答えをくれるんだ。
ああ、そっか。そうなんだ。
あたし、ヤトについてはお父さんかお母さんみたいな感じで接しているのかも。
……ドラゴンの生態なんかドラゴンであるにもかかわらずあたしはよく分からない。何しろ立派なドラゴンのお父さんとお母さんがあたしには居ない。
シコクに流れ着いた卵から孵ったあたしは、シコクでペレーちゃんとパスお姉ちゃんに育ててもらった。所が何が原因か良く分からないけどシコクの外に出てしまい、東国ペランストラメールに流れ着いて捕まって、魔導都市に売りさばかれて実験動物として扱われそうになって居た所、エズ3人組ってくくる事が多いヤトとアベちゃんとテリーの3人に助けてもらったんだよね。それ以来彼らと一緒に居る。
あたし、ドラゴンとしてはまだまだ生まれたてなのは間違いないらしい。レッドとナッツが一般的なドラゴンについて調べてそう教えてくれた。
ドラゴンなのにドラゴンから育てられた経歴が無いので今、この通りよ。自分の事なんて何一つさっぱり分からない。
有る程度の大きさに育つまで、ドラゴンって子育てするのかな?
あたしはね……巣立ちが出来てないんだよ。それで、そうと知らずに育ての親を求めていて今はまだ、その庇護の下にいるつもりなんだ。
「アイン、クッキー溢れてるぞ」
「あ、いけない」
疑似カフェオレが今にもあふれ出そうな程に、クッキーをマグに入れそうになっていたのを慌てて止めた。
入りきらないのは直接口に砕いて放り込んで飲み込んじゃう。
食べかす、溢すのもったいないもん。
「どうした、まだ寝ぼけてるのか?」
「ううん、今日はちゃんと起きてるよ……あのね。好き、について考えていたの」
ヤト、ちょっと驚いたような顔をする。
考えていた事全部は話せないなぁ、だって彼の中に今『ヤト氏』が居ないし。居ないとなると、向こうの世界の話は出来ないのよね。というか、してもいいけど相手が理解してくれない。
そんでもってペナルティがついて経験値が削られちゃう。
ただでさえ経験値が低い私、ヘタなことはおしゃべり出来ないよ。
なんであたしの経験値が低いかって?それは、あたしがチビドラゴンだから。
言語を操れるはずがない生命が人格を有し言葉を喋る……あたしは、そういう種族を超えた特別なクラスなんだ。
条件転生と呼ばれるこの『ゲーム』の特別ルールを使っている。ナッツは『裏技相当』だと言ってたかな。あたしみたいな事を誰かがしないように、ゲームの正規版で少し修正が入ったらしいよ。
裏技相当、その都合……あたしの経験値は正規の値になっていない。
ゲーム始めた当初っから整数値ギリギリ。
おかげでこれといって戦闘能力がある訳でもない完全なお荷物か、小道具みたいな扱いになっている。
その上経験値はなかなか溜まらない、これも最初から背負っているペナルティ。その事をちゃんと知ってるのは……仲間内ではメージンくらいかな。
「スキってなんだ?誰に隙があるって?」
「?、そのスキじゃないよ。スキ、キライの好き」
「……なんでまたそんな事を。まだチビのくせに早くも発情期って奴か?」
「そうじゃなくて、前にさ。あたしの事好きだとかなんとか言ったじゃない」
途端、ヤトはばつが悪そうな顔でそっぽを向く。
「それは……あれだ。……逃避の末というか……少なくともキライじゃぁない。可愛い小動物は愛くるしいぁという事だ、うん」
最終的には開き直ったように言うんだなぁ。
てっきり、今でも大好きだと言ってくれるのかと思ったのに。
「んじゃ、あたしが大きくなって愛くるしいとは呼べない、立派なドラゴンになったらもう好きじゃなくなるの?」
……何故か顎を引き、くしゃみしそうなのを必死に我慢してるみたいな顔になるヤト。
ん?ああ、あたしってば無意識に小首をかしげてたわ。
これは彼が『萌えている』顔ね。にやけそうになる顔を必死に押さえ込んでいるの。バレバレなんだから大人しくにやけてしまえばいいのに。
彼で言った通り、そういうのが大好きで堪らないってのは事実なんだからさ。
「だ、大丈夫だ。安心しろ、男の子はカッコイイのも大好きだからな!お前がデカくなったらそれはそれでイイと思うぞ!」
その前に、あたしが大きく育つまで……この共同生活は続くのかしら?
続けばいいなぁ、何事もなくずっと平和に。
ただそれだけを今は願ってる。
「なんか、外にスキな人でもあったとか、会いたい奴がいるとか……どっか行きたいトコでもあるのか?」
少しだけ不安そうな顔で聞かれてあたしは長い首を横に振った。
「そういうわけじゃないよ。……もうちょっと大きくなったら自力でシコク参りはしたいけどね」
「本当か?実はもっとハデな人生、もとい竜生を送りたいとか思ってたんじゃないのか?」
お前、こんな何もない田舎で引き籠もり生活が嫌なんじゃないのか?
俺に付き合う必要なんか無いんだ、お前の人生はお前のモノなんだから。
……頼むからもう誰も俺に構わないでくれ。
そんな声がバレバレだよヤト。
バレバレだからみんな貴方に構いたいんだって。
「トラブルはこりごりよ、魔導都市で骨身にしみたもん。あたしはここで、まったり暮らすのが一番幸せ」
「そっか、」
ちょっとまだ疑ってる顔だなぁ。
あたしがここで暮らすに満足しているのは本当なのにな。
「いつか、大きくなったらヤトを乗せて飛びたいって思ってるよ。いっつも乗せて貰ってたしね」
「ドラゴンに乗るかぁ……お前、亜竜擬きとは違うガチドラゴンってお墨付きもらってたもんな。ドラゴンに乗れるってのはそうそう無い事だよなぁ……悪くねぇ」
「でしょー?」
「で、そんな前はどうして俺の頭に乗るんだよ?」
それは、そこが一番安定してるからだよ。
マグに入りきらないクッキーを丸飲みにしながらあたしは頭を左右に振る。
「テリーみたいに肩じゃダメなのか?」
「ヤトの肩、乗りにくいもん」
実はちょっとね、ヤトが着ていた鎧が苦手だったんだ。
なんかあの金属、触れるとぴりぴりするの。後で聞いた話、ヤトがシーミリオン国から貰ったあの鎧はナーイアスト、水属性だったんですって。あたしはこの赤い鱗の通り炎竜、イーフリートは火属性だから相性悪かったみたい。それで、首に巻いているマントに足をのっけて頭に掴まるっていう、鎧の金属部分に触れない乗り方をしていた。
今ヤトはは鎧なんか勿論付けてない。あの鎧は事もあろうかランドールにあげちゃったらしいよ。籠手と剣だけは手元に置いてるけど……。
鎧は無いけど今も、あたしは彼の頭に乗っかってる。
だって、ヤトってば薄着なんだもの。ヘタに乗ると爪で怪我させちゃったりするでしょ?だから結局頭乗りしちゃうんだって。
「ほら、さっさと片付けろ。俺は明日の料理の下ごしらえしないとなんだ」
「気合い入ってるんだね」
最後のコーヒーを飲み干し、立ち上がりながらヤトは笑う。
「どーせ奴の事だ、散々田舎だのなんだの、お前はやっぱり田舎が似合うだの言うに決まってる。あんな山の上で何喰ってるのか知らないが、ぎゃふんと言わせてやりたいからな!」
確かに、彼はここに来る時大抵ここの事をぼろくそに言うわよねぇ……。
「お料理くらいしか自慢できる事が無いもんね」
「料理舐めんな!新鮮なモンを新鮮な内に、これ程素晴らしい贅沢はないという事を僻地レズミオで干からびたモンでも喰ってるだろう奴に教えてやるわ!」
そう明日、テリーが来るの。
いや、今はテリオス・ウィンって呼ばないとなのかな?
ここではどっちで呼ぼうが構わない、とか言ってたかもしれない。
「テリー、何の用事なのかな?」
それについて聞いた気もするけど……うまくリコレクト出来ない。ただ話がしたいから来るのかな?
ふふ……なんだかそういうのは他人事なのにやっぱり嬉しい。
「あ?用事?……そういや何か言ってたな」
来る、という事を伝えてくれたのはレッドなんだけど……。
「……なんだっけ」
この通り、どうでもいい事と受け取るときれいさっぱり忘れてしまうダメな子達ばっかりで暮らしている訳で。
……だからレッドが頻繁に訪ねてきては世話焼いてくれる訳だ。
「ま、いいじゃねぇか。別に大した用事じゃねぇだろ、どーせグチ聞いてくれとかそんなんじゃね?あ、酒も用意した方が良いのかな……。今のうちに割り水しておくか」
「わぁい、お泊まりなの?」
機敏に反応したあたしに向け、たまにこうやってあたしが『変な妄想』を働かせる事を承知しているヤトは胡散臭い顔を向けてくる。
「知らねぇ、転移門で来るんだろうしレッドも一緒だろ。こんな田舎で寝泊まりなんてするはずねぇだろ」
「そう言わないで飲み明かして夜明けのコーヒーでも飲めばいいのに!」
「なんで」
中の人がいないからか、その理由については即座理解出来ない今回のヤト・ガザミ。
うーんそうか、こっちの世界では夜明けのコーヒーを一緒に飲むのにこれ以上の意味は無いか。
……って事は危ない、ペナルティ一歩手前発言だ。マイナスにならないようにフォローしなきゃ!
「だからね、つい飲み明かして夜が明ける訳。なんだかんだやってて朝まで起きてちゃう訳よ!そんでこれからテリーはお仕事が待ってるの。寝てないの、眠いんだけど寝れないの。だから、早朝からコーヒー淹れてあげて一緒に飲むって訳」
あたし的には『なんだかんだ』の所に色々期待するわけだけど。
「そもそもそんな夜が開けるまで飲むとか無理だろ。俺達ナッツみたいなザルじゃねぇ」
確かに、ナッツは毒素耐性が極めて強いという特性を取った都合、あとリアルを反映しているのか酒に酔うという概念が存在しないみたいなザルの人だ。水みたいにラム酒を飲んでいるのをあたしも目撃した事があります!
「飲み明かすっても……エズでも朝方まで意識保つとか、そんな事ぁ無かったと思うけどなぁ……」
「……!そこ、詳しく知りたい!」
エズ時代、つまりヤトとテリーの『闘士時代』話は色々と美味しいと認識しております!ネタ的に!
本人らにとってはどうでもいい話でも、腐女子の『私』には美味しすぎるエピソード満載なんだから、是非とも聞きたい!
でも、都度あたしがこうやって無駄に食いつくからか、それとも、克服したつもりでやっぱり、過去と向き合うのは完全には無理なのか。
未だにあんまり話したがらないのよねぇ。
「詳しくも何も……とにかく、お前の妄想には付き合ってられないって。さっさとテーブルから退け」
ほら、体よく追い払われちゃった。
いけず、じゃぁテリーちゃんに色々聞いちゃうんだもんね。
それで……もう、はやくテリオス氏来ないかしら?とかワクワクしてたらその間の事はスキップしちゃったみたい。
朝に弱いあたしはいつもの通り、朝ご飯の良い匂いを嗅ぎつけて夢うつつと目を覚ました。
ここ、夢の中なのに夢を見るのよね。
こちらの世界で起きた事はリコレクトによって有る程度は思い出せるけど、こちらの世界で見た夢はいくらリコレクトしても反応はない。稀に覚えてる事もあるけど、少なくともリコレクトコマンドには対応してないみたいだ。
あたし、どんな夢見てたのかな。
……そんな事をぼんやりと考えていたあたし、気が付いたら何時も通り朝のおかゆを啜ってた。
糊のついた鼻先を上げる。
すでに、沼のほとりでコーヒー片手に雑談をしている二人の影を見つけてはっとなって覚醒した。
……完全に寝ぼけてご飯食べてたみたい。
自覚は無いんだけど……ヤト曰く、こうやって時に半分寝たまま朝ご飯だけは食べるんだって、あたし。
やだ、あたしってばちゃんと朝の挨拶したのかしら?
慌てて残りのおかゆを啜り上げる。
専用のコーヒーマグには……今回はお砂糖入りのコーヒーがまだ湯気を立てていた。
灼熱の炎を吐き出す事が出来るあたしはもちろん、猫舌という事はない。でも熱を感知出来ない訳じゃないのよ?
コーヒーはまだ少し熱めだったけど、早く二人が話している間に乱入したくて首を突っ込んで一気に飲み干した。
「ごちそうさま」
寝ぼけていたから頂きます、を怠っていたかもしれない。
あれで天使教の敬虔な信者であるテリーから叩き混まれた礼節作法。その重要さを思い出し、せめて最後の挨拶はしっかりと手を合わせて行う。
さ、お椀を片付けやすいように重ね置いてっと。
さっそく二人の所に飛んで行くわよ!
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穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
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