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完結後推奨 番外編 妄想仮想代替恋愛

◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -12-』

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◆トビラ後日談 A SEQUEL『妄想仮想代替恋愛 -12-』
 ※本編終了後閲覧推奨、古谷愛ことアインさんメインの後日談です※

「というわけで、不倫ものになりました」
「はあああああ?」
 同時に照井氏とヤト氏が喚いて惚けたのに、私はこれ現物、と言いながら中身が見えないように袋詰めされたものを取り出した。
「もうね、カインちゃんノリノリでやってくれたから」
 ヤト氏は条件反射であたしが差し出した紙袋、差し戻して来た。
「奥さんも子供もいる元彼氏の為にね、彼は必死で身を引くんだけどそれが、逆に相手を引き留めちゃうっていう……悲恋話?」
「……こいつ、何言ってんのかよくわかんねぇんだけど」
「俺に聞くな!俺だって理解不能だ!」
 新刊は無事入稿され、刷り上がり通販用の自宅分が入ってきたのでご報告って訳。
 要件が何なのかは前もって言わなかったけど、逃げずによく来たわねぇ二人とも。タイミング的に察して来ないかとも思ったんだけどな。
 ……同人誌新刊発行タイミングなんてパンピー(一般人)には分からんか。
 割と大きな即売会が行われる時期が決まってるから、ある程度こういう日付は決まってくるんだけどね。
「一応ネタ協力と言うことで現物支給を」
「いるかよそんな本!てゆーか、協力っつーならこっちをよこせ」
 そう言って照井氏は現ナマ要求するに、ヤト氏は必死に止めに入る。
「ばか!カネ受け取っちまったら俺達抵抗する術が無くなるんだぞ!」
「だって癪じゃねぇか、俺達ネタにしてこいつらカネ稼いでるんだろ?」
「稼いでないよ、あくまで趣味だって。大手じゃないんだから。装丁凝って無料配布オマケグッズ作ってトントンでやるのよ。稼いじゃうと納税義務とか出てきて面倒なんだから」
 同人誌業界も色々あるのよぅ。
「とにかく受け取らないからな、俺は!俺は何も関与してません、してませんから!」
 そんなヤト氏を見て照井氏も前ならえ。
「確かにそれが一番賢そうだな……そうだ、本人らには一切関係有りません、フィクションですとか入れてるんだろうな?」
「入れてるよ、遊んでるんだってのを把握出来ない子とかもたまーに居るからね」
 それもまた、生々しいけど現実。
「お、恐ろしい……」
 ヤト氏は顔を背けてる。
 それとは裏腹に照井氏は私が差し出した一冊を手に取ろうとしている。
「げ、何、お前見るの、見ちゃうのっ!?」
「折角くれるってんだし、そもそも俺良く状況が分らんし……てっとり早いのは実物見ることだろうなぁと思ったんだが」
「あ、じゃぁここに表紙を隠した奴がありますのでこれでー」
 こんな事もあろうかと、某コーヒー屋さんの非常に奥まったスペースに私達はいるぞ。
 見本誌として用意してあった一冊を手に取り、照井氏、無言で……パラパラと捲った。……無表情だね。
 で、無言でそれを閉じる。静かに机に置く。
 そして無言で財布を取り出し札を一枚置いた。
「じゃ、俺、帰るわ」
 先ほど手に取った本もそのままにして、そそくさと……店を出て行くのを私とヤト氏は思わず見送ってしまった。

「……逃げたあああああっ!?」

 勝った!
 私は胸の中で高らかに笑い、勝利宣言を行っていた。
 妄想の勝利だ。
 あの照井氏が無言で逃げ出す程のクオリティをお届け出来た事に私は、会心の手応えを感じて思わずガッツポーズしてしまう。
 そしてその隣でがっくりと逃げ損なったヤト氏は項垂れている訳だけど……
「お前、本当に何がしたい訳」
 脱力したままそのように問われ、私は素で答えるわよ。
「え?何って、こういう本が作りたいだけだけど」
「本当にそれで良いのか?」
「いいに決まってるじゃない」
 何を言うのか、まったくヤト氏ったら。
「ヤト・ガザミとテリオス・ウィンは俺達にとって、他人のようで他人じゃねぇんだぞ。こんな事されたらぶっちゃけ、……嫌なんだけど」
 あたしは……小さく首をかしげてから答えた。
「うん、嫌かもね」
「……嫌がらせがしたい訳か?」
 首を横に振った。別に、悪意は無いってば。
「でも実質嫌がらせだぞ?」
 ……そうね、無理にこうやって見せるのは嫌がらせだったかも。
 私、それについてはちょっと反省した。
 今回は、ちょっと真面目に。
「確かに見せる準備はしてたけどまさか、本当に見るとは」
 でもまぁ、本当に見るの?と挑戦状を叩き付けるみたいな事しちゃったかもしれない。
「……理解したかったんだろうなぁ……」
「え?」
 何が?何を……理解?
「あ、いや。俺には真似出来ない事ながら、健気だよなぁあいつ。むしろバカっていうか。でもそういうのがアインさん、ウザいと思ってたんなら効果は抜群だったんじゃねぇの?」

 これであいつはもうお前には手を出さない。

 出せなくなった。

 理解出来ないと、そう知ってしまったのならば。


 私って、何をしたかったのかな?


 本の出来は上出来なのに、なんだか意気消沈しちゃったよ。
 ほんと……私、何がしたかったんだろ。

 もしかして、理解して貰いたかったって事かな?
 私の異常な趣味を理解して、認めて貰いたかったって事?
 ヤト氏はやっぱりは拒否して最後まで本を見てくれなかった。んじゃ照井氏は?
 本を見て、理解しようとチャレンジして……有無を言わさず逃げていった。
 これは手に負えない、そう思って逃げるしか無くなったって事、かな。

 何にこんなに鬱っているのか自分でもよく分らず、私は鬱々としたまま最寄り駅に向かって歩いていた。
 ……と、ポケットの奥の携帯が鳴るので慌てて取り出す。
 季節はすっかり冬だ。手が悴んでて上手く取り出せず危うく落としそうになってお手玉する。
 その間に呼び出しは、切れてしまった。
「あらら、悪いコトした」
 慌ててかけ直そうとしてボタン操作し、驚いて立ち止まっちゃう。
 やだ、照井氏からじゃないの。
 直接電話なんて……珍しいな。

 そんな具合にあたしは逡巡をし、その間に……短いメッセージが届く。

 さっきはごめん、だってさ。



「もしもし、なぁに、ごめんなさいって」
『ああ、アインか』
 イニシアチブなんか渡さないわよ。通話の向こうで照井氏の声が少し慌ててるのが感じられる。
『……何も言わずに逃げ出したのは悪かったな、と思ったから』
「ふぅん、それで?」
『考えてみたが』
 考えてみたんだ。私は思わず苦笑しちゃう。アレを見て照井氏は何を考えたというのだろう。
『やっぱ、お前の事はよく分らんな』
「何それ」
 私は笑って、貴方のそう言う所こそ私にはよく分らないと思った。
『分らないのを分らんと言って悪い事はないだろう?俺の精一杯の答えだ、受け取れ』
「受け取ってどうしろって言うの?じゃ何?あたしは今後も貴方に向けて腐女子理解を求めていかがわしい本を案内してもいいのかな?腐男子入門する?」
『ああ?何に入門するって?』
「ふ・だ・ん・し!同性恋愛ものを好む殿方の事を言うんだけど」
 こんな会話、堂々とするのも何だから……私は駅の近くにあった公園に足を向けてる。
『ばか、あんなもん好きになれるか』
 ううん、本気で嫌がってるわね。
 でも、本気で嫌ならどうしてさっさと距離を置かないのかしら?

 それでいいのよ。それでいいのに。

『俺が知りたいのはどうしてお前があんなもん、好きかって事だ』
 ……知りたいんだ。
 そうかぁ……今も知りたいと思ってるんだね。だからこうやって電話してくるって訳なんだ。
「好きに理由は要るの?」
 私は彼を突き放すべく決まり文句を述べてみる。
『そんなん、知らねぇな』
 すると、同じく突き放した返答が返ってきたのでこれは強敵だと携帯を強く握っていた。
「あたしは好きよ。同性恋愛見てるのが好き」
『そうか、よかったな』
 随分ぞんざいに答えるのねぇ、ちょっとムカつくけど多分、それって相手のペースだろうから流されないわよ、私。
「理由なんて無い、好きだから好きって言う、それだけだよ」
『俺は恋愛なんぞしたことがねぇ』
 何を言い出すのか、ちょっと驚いて私は目を瞬いた。
『家の都合もあって硬派張ってたしな。外見もあってヘタに怖がられてた事もある、だから俺は、……恋愛なんかした事ぁ無ぇし。好きに理由が要るかどうかなんぞも知らんと、そう言ってる』
 貴方の都合を聞かされてもねぇ……それとも、恋愛相談のつもりかしら?
 お姉さん、腐った返答しかしないけどそれでもいいなら相談乗るぞ?
「それで?」
『さっき、お前から呼び出し喰らってあんたを待つ間、ヤトと話してたんだが……奴から何か聞いてないか?』
 私しは照井氏が逃げ出して後、ヤト氏と何を話したのか思い出してみたけど……これといって思い当たりもなく、別に何もと答えた。
『ちっ、チキンを頼った俺もバカだった』
「何話してたの?」
『お前の趣味について、ヤトは理解があるんだろ』
 理解?確かにヤト氏は理解してるけど……。理解している事はすなわち、受け入れることじゃないわよね?
「彼は腐女子の生態を把握してるだけだと思うけど」
『俺にはそれすらよく分らん。お前みたいなのが居る事自体ようやく理解を始めた所だ。お前の事がよく分らん』
 それ、再三言うけど……だから何なんだろう。
「そりゃ、あたしは理解してくれた方が嬉しいけど。理解したくなければ理解なんかしなくても良いと思うよ」
 そうやって理解を投げて距離を置く人が多いことくらい想像に難しくない。だから、普段、普通に向けてはこういう趣味、隠してる訳でしょ?
 いいんだよ、それが普通の人の反応だ。そうやって逃げてくのは何も悪くない、悪いのは、私。
『ヤトと一緒にすんな。……したくねぇとは言ってねぇ』
 ……普通の人は引くんだって、貴方だって同意したじゃない。
 そんで、逃げていくのが……普通だと思うんだけど。
 私はため息を交えて笑って返す。
「照井氏も大概しつこい人だね、」
『お前、本当は理解して欲しいんだろ。だから俺にああいうのを見せるんだろうが……逃げて悪かったよ、確かにちょっと、許容範囲軽く超えてたもんでな』
 照井氏ってはウブだなぁ。
 あ、そっか。恋愛したこと無いって暴露したもんね。この人、嘘を付くような人じゃない。
 ホントの話か。
『しつこいについてはヤトからも言われちまったよ。お前、なんでそうしつこい訳って、ナギからもよく言われる』
「そうなんだ」
『お前、アインの事好きなんじゃねぇの?とか言われて』
 あらやだ、私ったらちょっと息呑んでるよ。
 ちょっと……どきどきしてきた?
『そんなら、俺は何でもかんでも好きって事になるだろうがって話をだな……。……アイン?』
「ああつまり、しつこく構う相手なら誰でも、ナギちゃんもヤト氏も大好きって事になるって事ね。おいしいなぁ照井氏」
『……ホントよく分らんなお前』

 同じ言葉を返してあげたくなってきたよ。
 ほんと、私もよく照井氏の事わかんない。

『お前みたいな奴は初めてだ』
「あたしも、……照井氏の事よく分んなくなって来ちゃったな」
『……そうか?』
 理解されてるつもりがあったのかしら?
「それで照井氏、あたしに何が言いたいの?」
 そこで、相手は黙り込んだ。
『……それは、ようするに』
「ようするに?」
 お姉さん、イニシアチブ渡さないんだぞ?
『……あんたの事を理解したい』
「それは、ようするに?」
『好き、かもしれん』
 きっぱり言われてしまって私は思わず、その場で、笑いを堪えるのに必死になってしまった。
『……おい、どうした?』
「いやね、携帯越しでも腐女子もとい喪女にそいつぁキツいんだわ~!いやぁ、お姉さん、ちょっと参ってきた!」
『……あん?何だって?モジョ?』
「降参だ!お姉さん、全面降伏するからこれ以上その話は勘弁して!」
 笑いながらの私の言葉に、照井氏は否定的な意見を嗅ぎ取ったみたい。警戒した口調になる。
『そこまで現実を否定するってか』
「というか、あのね分って。ここは一つ勘違いしないで理解しといて」
 私は、笑いが止められず笑いながら言った。

「あたしも恋愛なんかしたこと無いの」

 私が知っているのは……所詮、代替恋愛だよ。
 よくわからないんだって。こうやって笑ってるのだって、どうやって笑いを止めればいいのかだって。
 好きに理由は要るのかな?
 知らないわ、私、恋愛する夢ばかり見て、それで満足しようとしているだけで現実なんて。

 てんで見ていない。

「いやー……ほんと、よく分んないね」
『ほんとよくわかんねぇな』
「分んないよ」
『俺もさっぱりわからん』

 んじゃ、一緒に理解する努力でもしますか。

 そういう協定が密かに、私と照井氏の間で結ばれる事になるのはそれから暫らくしてから。
 密かだねー、あたしもカインちゃんの都合もあり、他には暫くはこの事、暴露出来そうにない。
 ああでも、腐女子は止めないわよ。
 だって、これは別腹だもの。
 だから照井氏、私の前ではエロビデオ見るのにコソコソしなくてもいいからね。
 いっそ堂々と見ればいい。
 私もそれ、興味有るんだ、実は。
 一緒に理解する勉強だよ。ね?
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