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番外編・後日談 A SEQUEL
◆トビラ後日談 A SEQUEL『トビラのムコウ』
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◆トビラ後日談 A SEQUEL『トビラのムコウ』
※本編終了後閲覧推奨、オール リアルパートです※
ひょんな事で昔の友人に再開するってのは、あるもんだな。
学生時代の同級生で、その後見事に引きこもって音信不通になった友人と、俺は会社のエントランスですれ違ったのにワンテンポ遅れて気がついた。
あわてて足を止め振り返った先、そいつの丸めた背中が遠ざかっていこうとする。
「わったー?」
「なんですかそれ、新しいかわいい系モンスターの名前ですか」
即座ボケて返す同僚にちげぇよと突っ込みを入れつつ、中央エスカレーターへ登ろうとする昔の友人から目を離さないようにする。
「俺の同級生、渡辺っつって……加藤とも同期だぜ、ていうか同じ科だ」
「組み込み系ということですか」
しかしわったーさんとはまた安易なあだ名ですね、などと。うるせぇよ。俺だって加藤だって安易だろうよ!
まぁそれはともかくどうしたんだと追いかけようとしたのを同僚のコイツに止められてしまった。
同僚とはいえ、厳密には所属部署が違うんだけどな。仕事の関係上バイパスはあるので何かと連れ出されては一緒にいる事が多い。
「なんだよ、いいじゃん一言挨拶くらい」
「確かに、普段は激しく人見知りである貴方が積極的に声をかけようというのですからよっぽどレアな再会で、加藤さんくらい仲がよかったという事情は察します」
「おう、察したならなぜに止める」
同僚の五十嵐は分厚い眼鏡のブリッジを押し上げる。
「私の記憶が正しければ、今程すれ違ったのはリス部と人事部の方達です。あなたが『わったー』とお呼びしたのは、私服の方ではないですか」
ちゃっかりすれ違った人が誰だったのか、コイツ把握してんのな。見間違えだろ、という指摘は俺にはできない。こいつの記憶力やら観察力やらはハンパねぇんだ。それに、この能力を見込んで今やってる業務部系から人事部へ引き抜こうって話もあるらしい。
散々俺の事をいいやがるが、人見知りはお互い様。
「リス部って何だよ」
「リスクマネジメント、ですよ」
うへ、それと人事部の組み合わせって……なんかいやな予感な組み合わせだな。
「リス部に顔を覚えられたくはないですねぇ、」
「そ、そうだな……」
渡辺を追いかけるのはあきらめることにした。
それより、なんで渡辺がウチの会社に私服で、怪しい部署の人に引き連れられていたのか。
コイツに相談してみるか。
「建設的な考えを述べれば……ご就職おめでとうございます、ではないのですかね」
フツーに考えればどうなるよな。が、こいつが素直にそう考えない理由は俺にもよくわかっている。
どーせ俺と同じ穴のむじなだと思ってんだろう。ははは、その通りだ。
「あいつ、大学出たのかな?成績悪くなかったけど途中から授業出なくなって、たぶん単位足りてないって加藤が心配してたな。言っとくが、俺はまだそのころ多少はマシだったんだからな」
「はいはい、そういう事にしておきましょう。まぁ大体僕はそれに対しては強く言えないのですし」
だよな、お前は完璧なニートだったもんな。
俺にも引きこもり歴がある。ってもまぁ、規模的にはかわいいもんだろうよ。コイツの方が圧倒的に引篭もっていた歴が長い、胸を張って断言する位の堂に入ったニートである。
しかし俺の趣味を知れば、結局の所似たような万年引きこもりじゃないかと笑うやつもいるかもしれん。俺の趣味はゲームだ。引きこもっていようがいまいが年中部屋から出ないでゲームをする生活を送っている。
そんな俺も最早いい年ですし、ゲームのし過ぎが度を超えてゲーム会社所属の肩書きを貰うに至った。何事も趣味越えて人生とまで極めてしまえばなんとやら、だ。
で、今は会社のお墨付きをもらって俺はゲームをひたすらやる人、というのをやっている。
広報部というのが名刺についている肩書きだ。実際、俺は社の代表でゲームプレイヤーという役職についているのである。おかしな役職だが、ゲーム人生の俺には願ったりかなったりではあるな。
そろそろ御察しいただけたとは思うが、俺たちが所属している会社ってのはそもそも、ゲームを開発しているゲーム会社だ。それの開発も兼ねてる販売会社である。
それはともかくだ。
俺がゲームが好きすぎて引きこもっていた事情を知っている五十嵐にしてみりゃ、そんな俺の友人なんてどんな趣味趣向であるかなど想像するに容易いだろう。
そうさ、同じ穴のむじなだよ。
渡辺も俺や加藤と同じでゲームが趣味だった。
「ネット廃人路線ですか」
「どうかな、そこまで厨じゃなかったと思うんだけど……まあ、思い出してみると確かに自分勝手なトコはあったかもしれんな」
「……自分を棚上げするのはよくないですよ」
「うるせぇ」
昼休みはまだもう少し余裕があるし、外回りの後なのでもうちょっとグダグダしていても問題はない。休憩室でインスタント飲料を飲みながら話を続けている。
さっきも言ったが所属部署が違うんでな、違うけど仕事の都合一緒になる事は多いけど。
「負けず嫌いってトコだと割と加藤の方が融通利かないし」
「なるほど、あなたは加藤さんと渡辺さんの間に挟まれて敗者に甘んじ、ドMの道を歩まれたんですね」
「……そ、そうかな」
それ、否定はできないよなー。勝敗がどーのこーのって話になると加藤さんてば結構しつこくなるのですよ。で、俺はめんどくさいのが一番めんどくさいので、割とあっさり負けを認めてしまったりする。
「気になりますね、もし同じ職場で働くのであれば間違いなく加藤さん所にいくわけでしょう?」
「別に……あいつら仲が悪いわけじゃねぇはずだけど」
「もし、違うとすれば何でしょうか」
ふぅむ、なんだろうな。……わったー……何かやらかしたのか?
加藤が中締めをしているシステム開発部は、何故か人格的に難ありって奴がゴロゴロしている。そいつらと個人的にコミュニケーションが取れるシステム管轄広報部の俺と、同じく肩書きは違うが管理業務を任されている五十嵐はよくこの休憩室で情報交換をしているんだ。
「あ、やっぱりここでサボってるし」
っと……うるさいのが来たぞ、俺はあからさまにいやな顔をしてやったが通用しねぇからな。あ、でもちょうどいいか。
俺と同じ部署の一応、後輩ということになっている阿部に向けて命令。
「お前だってヒマだからここに来たんだろう、ちょうどいい、加藤呼んでこい」
「はぁ?突然何言うのよ、先輩職権乱用!イヤよ。職場で顔合わせるのなっつんシャイだから嫌がるもん」
「俺が行っても忙しいで門前払いされるんだよ、」
それはまぁ、俺がいつもどーでもいい話をしに加藤ん所に押し掛けているという都合もあるのだが。
「わったーさん、という人が来社しているようですよ、と伝えてくるだけでいいのです」
「え?誰それ」
「ええ、私もよく存じ上げませんが、加藤さんの同級生だという事ですから。詳しいお話をお聞きしたいという事です」
「……こいつじゃなくて五十嵐さんが聞きたいのね」
にっこりと笑って奴は頷いた。笑顔が輝いている?違うぞ。相変わらず真ッ黒だ。
「しょうがないなぁ」
おい!先輩の言う事は聞けなくて他部署のソイツの言うことは聞くのかよ!
腑に落ちねぇ、仁徳の差ですね、とか何ニコニコしてやがんだよ!そーいうのは仁徳って言わねぇんだよ!
*** *** ***
しばらくして凝り固まっている肩を回しながら、計画に対してシステムの主任を任されることが多くなって来てしまったと云う、加藤がやってきた。
「あれ、阿部は?」
一人で来たな、あのうるさいのも一緒に戻ってくるものと思っていたが。
「帰したよ」
あ、会社では一緒にいたくない恥ずかしい、ってのはガチなんだな。へー、ほー。
こいつら社内恋愛・交際中だからな。ハズカシって言ってももうバレバレなんだよおまえらッ!
「それ、本当にワッターだったのか?」
自動販売機でカスタム・ソイラッテを注ぎながら加藤は聞いてくる。
「間違いない、」
「リス部と人事にサンドイッチされてましたが、」
五十嵐の言葉に加藤は深いため息を漏らした。
「……お前、何か知っているのか」
「1号も知っているとは思うけど」
あ、1号というのは五十嵐のあだ名の事な。
会社勤めなのでなるべく人の名前は愛称では呼ばない、というのを仕事中は徹底するべく努力しているのだが、システムこもりっきりであまり外部の人との会話をする必要がない加藤にはそういうの徹底する必要はないらしい。魑魅魍魎跋扈のシステム部最下層ではなおの事。
俺もできれば昔の通り気軽に呼びたいのだが。いかせん俺は外部に向けたパフォーマンスを行う広報部……。ヘタな時にヘタな事を言わないように今は、名前呼び意識を徹底している。
「国内模造品の問題があるだろ」
それだけで五十嵐はすべてを把握したようだ。
「……まさか」
「そのまさかだよ。ワッターは昔から改造ゲームを楽しんでいたからな。その後どうなったのかわからないけど……たぶん、一人で楽しむという枠は超えてしまっていると思う」
「え?何?」
俺、一人会話についていけてません。
そも、ゲームってのは商売に向いていると思うか?
そんな事は考えた事もないだろうし考える必要もないことだ。俺も長らくそんなヤボったい事はなるべく考えないようにしてきた。
けど、数多くゲームをこなしていると、なぜこういう演出をしなければいけないのか、に始まる微妙な疑問とかが浮かぶようになる。まれに作品とシナリオが合致していなかったり、音楽やらキャラクターやらの調和が上手くいっていなかったり。
ゲームとしてはクソなのに絵がスゴくてだまされちゃったり。
逆にゲームとしてもイマイチで絵もパッケージだけで以下略って時もあったりするし当然、それらの逆もある。
ああ、ようするにゲームっていうのは今や商売道具で、売れるための戦略でもって開発されているんだという事に気づかされる。
本当はそんな事考えもしないで俺は、ゲームという娯楽にだまされて浸っていたいのに。
ゲームなら何でも大好きな俺は、商売としてのゲームという娯楽が少々、許し難いものであったりもするのかもしれない。
それなのに今ゲーム会社勤めって、矛盾してねぇかって?まぁこれもいろいろあるんだよ。
俺がかかわっている部署はちっと特殊なんだ。
……それはともかく、ちょっとガチにゲーム開発会社の当たり前な歴史を振り返ってみよう。
まず、ゲームっていうのはこの場合家庭用コンシューマーを前提にして話を進めるぜ。商業ゲームの販売ケースも様々あるし、今は携帯端末のアプリゲームも多い。とりあえずは一昔前の、家庭用据え置き、あるいは携帯ゲーム機のモデルで考えるとしよう。
今はゲームハードとソフトは一対一の時代じゃねぇ。ソフトに対し、対応するハードはいくつかあるし、ハードに対しソフトの規格も様々なものを読み込める時代だ。
今の日本におけるゲームの普及は、ゲームを楽しめる専用のゲームハードを開発するところから始まった。そしてその次に、そのハードで走らせるゲームソフトの開発が続くんだ。
ハード開発を行う所と、ソフト開発を行う所は別会社になる。
さて、ハードとソフト開発、どちらが儲かる?
今でこそハードありきという商業モデルが勝利を収め、一定の確かな過去として積み重ねられた状況だ。
けどな、その過去をひも解いていけば、勝利を収められずに消えていったハードというのも存在するんだよ。
ハード開発ができれば一方的な勝利とはならない。ハードを開発せしめなおかつ、それでもって楽しめるゲームソフトが存在しなければまたハードの普及には至らない。
当たり前だな。
ではハード開発よりもソフト開発のほうがスゴいのかってーとそういうわけでもない。もちろんソフトがすごかったからハード普及に一役買った、という場合もある。
ところがゲームソフトの商売としての寿命は短いんだな。ある程度普及したらそのソフトは売れなくなる。そんなんで、今はアップデートされる限り新しいが続くアプリゲーが主流になりつつあるのかもしれんが……とにかく、据え置き機の場合は『新規』として遊べる寿命が短い。だから、その後、というのが必ずある。
優秀なソフトによってハードの普及が進んだその後世界において、もはや新しくハードを買う層は少なくなる。対してソフト開発者はハードで遊んでもらえるように新しいソフトを開発すりゃいい。
ハード開発は次にどうするか。
新しいハードを開発するんだ。
この繰り返しで何世代経っただろう。そう何度も繰り返されるとだな、消費者も勉強し始めるんだ。
いかに自分たちの資産を使わずにゲームという娯楽をむさぼるか、って。
ところがゲーム開発は会社で、ゲームを売ることで商売をしている。消費者の動向に合わせてサービスし続けるわけにはいかない。歴史を学んだ消費者に対して金を支払わせる新しいシステムを組み、新しいゲームの提供の仕方を考えるようになるだろう。当然だな。会社だかんな。それで給料もらっておまんま食って生きてんだからそういうことになる。
さてそこに、ゲームという娯楽は出来るだけタダで享受されるべきモノと考える連中が現れた。
ハードとソフトを解析し、もたらされた娯楽であるゲームをさらに改造する事を楽しむという人が出るようにもなっっていった。……供給された娯楽であるゲームを、個人として使用する分には問題ない。それを公にしなければ、何をやったっていいだろう、パッケージ買い切りなんだし。しかし、問題がないゆえに手出しができず、改造に伴うゲーム解析というのも着実にゲームの歴史の裏には寄り添い歩んできた訳である。
「他国でコピーが出回っているでしょう」
一人とぼけた俺に向けて、五十嵐は大抵の場合わかりやすい解説をしてくれる。悔しいけどわかりやすいからこいつのこういう技能は重宝しているのだ。
ちなみに、俺はそのコピーに対して良い思いがないな。
「……まさか、また新型コピーが出たとかいうんじゃないだろうな」
なぜなら、公認プレイヤーである俺は基本的にそーいうパチもんのテストプレイを率先してやらされるからだ!
そもそもロニイをコピーするなんて無理だろう!
怪しいパチもんのテストプレイを強行され、案の定エラいヒドい模造品である事が判明し現在、販売と開発中止を申し立てているが…………ええと、独占販売禁止法だかに抵触するんじゃないのかとか、まぁ色々上でゴチャゴチャやっているようだ。
よくわからんが、法律をかわすためにロニイ、俺らがおもにがかかわっているゲームハードはあくまでゲームという市場において一形態である、という姿勢を崩していない。
「今新たに問題になっているのは、違法ログインですね」
それもまた厄介な問題なんだよな。
「違法ログインといっても様々にあります。一番安易なのは、すでにあるキャラクターを乗っ取る形式でこれが一番多い。セキュリティホールを見つけて情報を盗む、不正にアクセスする。これはロニイのシステム上難しいので案件は少ないのですが……無い訳ではない」
「それよりも一番やっかいで重篤な問題に発展するのはパラメータの改ざんだ」
「それ、まっすぐレッドフラグ行きだからな」
どんなにセキュリティを掛けてもパラメータを違法に改ざんするアホが現れる。そういう装置を開発して違法に売っている連中もいるようだが、もちろん販売・所得・使用すべて違法として遠慮なく取り締まることになっている。
今までのゲームハードやソフトであるとすべてを違法、とする事が様々な社会形式の状況できなかったがロニイでは違法になる。
現実世界での話ではない。現実では一部グレーゾーンで取り締まれない個所があるので……
ロニイというゲームの中では遠慮なく違法と設定して取り締まっている現状があると云うのに、それでも使用するバカがいる。
「で、今回現れたのはね。新しいトビラを作っちゃうって奴」
紙コップを取り上げ、加藤は振り返る。
「……ようするにそれ、正式ログインになりすますってのか?」
「鍵の取得まで行うことができる、違法のエントランスレイヤーを作った奴がいたようだ」
ようやく話がつながってきた。
「それをわったーが?」
「プログラマーを捕まえた、という話は鈴木さんからきいてる。ただ……相変わらずすさまじいと思うんだけど……そいつを告発しないで懐柔しようか、って話があるところだ」
「マジか、すげぇな高松さん」
関心のため息を漏らしながら俺たちのトップの人に称賛の念を送った訳だが、五十嵐はあなたが思うほど簡単な話ではないですよ、と言いやがる。
「エントランスレイヤーを違法に作って接続するなんて、相当の技術者になるでしょう」
へぇ、そうなのか?俺中身の仕様書は一応読めるんだけど、個人的にはさほど見ないからな。
「なんで俺のところにそういう話が来ると思う?ようするに、俺が情報外部に漏らしてるんじゃないのかって疑われてるってことじゃないか。俺に来るんだぞ?つまりそいつは俺の知り合いって可能性が高い」
「そこまでして違法開発に躍起になるのはなぜでしょうね?金もうけのためでしょうか?私は違うと思いますよ」
加藤と五十嵐が同時にため息を漏らした。
おお、相変わらずだがお前ら、そこまで気づくなんてすごいな……俺、すいませんさっぱり察しませんでした。
「でもお前、お前が情報を流す様な事、事するはずないじゃん」
俺は笑って加藤の肩を軽くたたく。
「……ああ、勿論」
なんだか暗い顔してんなぁ。どうしたよ。
「いや、そうやってどこまでも能天気にお前が信じてくれるのに俺は、思いの外助けられているんだなぁと思って」
「はぁ?」
「誓って情報の横流しなんて、そんな事はやっていない。でもそうじゃないか、という重圧はあるよなぁって、ちょっと困ってたんだよ」
熱いソイラッテの湯気が、クーラーの効いた休憩室にゆらめいている。
「そうか、やっぱりワッターだったか」
いっきに場が冷えたな。
俺は久しぶりに懐かしい顔を見た、という事で盛り上がるんだと思ったのに。
「いいじゃねぇか、懐柔策で」
しかたねぇ、俺はどこまでも能天気に言うぞ?
「そう簡単に行くでしょうか。渡辺さんの人となりがどういうものであるのかは存じ上げませんが、場合によってはつけあがるだけでしょう。多くはそのようにして高松さんの意見を封じているのでは」
「1号の言うとおりの懸念を鈴木さんがしてたよ。俺も、正直……」
「俺たち友人同士だろ」
どうにも気弱な加藤に、俺は小さく足の先で小突いてやる。
「違法解析がいかに厨かってのを言ってやればいいじゃねぇか」
「たぶん、ワッターはそんなのわかった上でやっていると思うよ」
「わかった上で俺スゲェ、とか思っているならはいはい、スゲェスゲェとか手を叩いてやればいいんだ」
「………」
「けど所詮、すでにあるものを解析してコピっただけだろ、って挑発を決めてやれ。悔しかったらここで、新しい何かを作って見やがれって煽ってやりゃぁいい。わったーの事だ、乗ってくるに違いないぜ」
「俺は渡辺とケンカしたくない」
加藤はそう言って目をそらした。ううん?何か、お前ら何か因縁でもあったか?
「喧嘩別れになってたからな。だから、もしかしてあいつが引きこもったのって俺のせいかな……とか」
苦笑いの顔を上げる。
「もちろん俺の気の所為だろう。そう思う。その後連絡付けられなくなったからもう、どうしようもなかったし。……もしかしてお前の面倒見てたのってその反動なのかなぁ……」
なんだよそれ、しらねぇよ。そんなの、どこまでもお前の都合じゃないか。
もちろん、一時引きこもった俺の面倒を見てくれた節はありがたく思っている。加藤がいなきゃ俺は今ここでこうやって会社勤めもできてなかったかもしれない。
でもだからって、俺はわったーに感謝なんかしねぇぞ。
それより前にやる事があるだろうと俺は思う。
「わかった、」
立ち上がり腕を組む。
「五十嵐、わったーが行くとすればどこの部署だ」
肩をすくめ、諦めたように五十嵐は笑う。
「受付の古谷さんに問い合わせてみましょう、事情は説明すれば彼女の事ですから教えてくれるはずです」
「よし、行くぞ加藤」
「いくぞって、」
「乗り込んでわったーに一発説教くれて来ようぜ」
「今から?」
「もしかしたら俺の見間違いって事もある。事ははっきりさせて、そんでもし本当にアイツだったら……友人として、悪い事は悪いって言ってやらないとな。それを諭せるのは俺たちだけだろ?」
ようするに俺も一緒に行きますよ、というのに加藤は笑った。
そのあと紙コップのソイラッテを一気に飲み干す。
「一緒に仕事しようって言って、あいつ素直に受けると思うか?」
「そこは説得だろ。大丈夫、あいつは自分で扉を叩いてここに来た」
なるほど、そういう考え方もできなくもありませんと五十嵐は笑っている。
笑うなよ、俺はどこまでもまじめなんだぞ。
もうずっと前に切れた縁であっても友人は大切だ。
俺が友人に救われているなら俺も、いつかそうやって誰かを救いたいじゃねぇか。
「扉を開けてやりゃいいんだ、あいつは中に入りたいから扉をたたいたんだろ」
まぁ、その扉のたたき方が一般的じゃぁなかったわけだけどな。
扉に向けてミサイル発射して木端微塵に吹き飛ばしたようなもんだ。
「迎え入れてやろうぜ。そんでぶっこわした扉の弁償ふっかけてやるんだ」
終わり
※本編終了後閲覧推奨、オール リアルパートです※
ひょんな事で昔の友人に再開するってのは、あるもんだな。
学生時代の同級生で、その後見事に引きこもって音信不通になった友人と、俺は会社のエントランスですれ違ったのにワンテンポ遅れて気がついた。
あわてて足を止め振り返った先、そいつの丸めた背中が遠ざかっていこうとする。
「わったー?」
「なんですかそれ、新しいかわいい系モンスターの名前ですか」
即座ボケて返す同僚にちげぇよと突っ込みを入れつつ、中央エスカレーターへ登ろうとする昔の友人から目を離さないようにする。
「俺の同級生、渡辺っつって……加藤とも同期だぜ、ていうか同じ科だ」
「組み込み系ということですか」
しかしわったーさんとはまた安易なあだ名ですね、などと。うるせぇよ。俺だって加藤だって安易だろうよ!
まぁそれはともかくどうしたんだと追いかけようとしたのを同僚のコイツに止められてしまった。
同僚とはいえ、厳密には所属部署が違うんだけどな。仕事の関係上バイパスはあるので何かと連れ出されては一緒にいる事が多い。
「なんだよ、いいじゃん一言挨拶くらい」
「確かに、普段は激しく人見知りである貴方が積極的に声をかけようというのですからよっぽどレアな再会で、加藤さんくらい仲がよかったという事情は察します」
「おう、察したならなぜに止める」
同僚の五十嵐は分厚い眼鏡のブリッジを押し上げる。
「私の記憶が正しければ、今程すれ違ったのはリス部と人事部の方達です。あなたが『わったー』とお呼びしたのは、私服の方ではないですか」
ちゃっかりすれ違った人が誰だったのか、コイツ把握してんのな。見間違えだろ、という指摘は俺にはできない。こいつの記憶力やら観察力やらはハンパねぇんだ。それに、この能力を見込んで今やってる業務部系から人事部へ引き抜こうって話もあるらしい。
散々俺の事をいいやがるが、人見知りはお互い様。
「リス部って何だよ」
「リスクマネジメント、ですよ」
うへ、それと人事部の組み合わせって……なんかいやな予感な組み合わせだな。
「リス部に顔を覚えられたくはないですねぇ、」
「そ、そうだな……」
渡辺を追いかけるのはあきらめることにした。
それより、なんで渡辺がウチの会社に私服で、怪しい部署の人に引き連れられていたのか。
コイツに相談してみるか。
「建設的な考えを述べれば……ご就職おめでとうございます、ではないのですかね」
フツーに考えればどうなるよな。が、こいつが素直にそう考えない理由は俺にもよくわかっている。
どーせ俺と同じ穴のむじなだと思ってんだろう。ははは、その通りだ。
「あいつ、大学出たのかな?成績悪くなかったけど途中から授業出なくなって、たぶん単位足りてないって加藤が心配してたな。言っとくが、俺はまだそのころ多少はマシだったんだからな」
「はいはい、そういう事にしておきましょう。まぁ大体僕はそれに対しては強く言えないのですし」
だよな、お前は完璧なニートだったもんな。
俺にも引きこもり歴がある。ってもまぁ、規模的にはかわいいもんだろうよ。コイツの方が圧倒的に引篭もっていた歴が長い、胸を張って断言する位の堂に入ったニートである。
しかし俺の趣味を知れば、結局の所似たような万年引きこもりじゃないかと笑うやつもいるかもしれん。俺の趣味はゲームだ。引きこもっていようがいまいが年中部屋から出ないでゲームをする生活を送っている。
そんな俺も最早いい年ですし、ゲームのし過ぎが度を超えてゲーム会社所属の肩書きを貰うに至った。何事も趣味越えて人生とまで極めてしまえばなんとやら、だ。
で、今は会社のお墨付きをもらって俺はゲームをひたすらやる人、というのをやっている。
広報部というのが名刺についている肩書きだ。実際、俺は社の代表でゲームプレイヤーという役職についているのである。おかしな役職だが、ゲーム人生の俺には願ったりかなったりではあるな。
そろそろ御察しいただけたとは思うが、俺たちが所属している会社ってのはそもそも、ゲームを開発しているゲーム会社だ。それの開発も兼ねてる販売会社である。
それはともかくだ。
俺がゲームが好きすぎて引きこもっていた事情を知っている五十嵐にしてみりゃ、そんな俺の友人なんてどんな趣味趣向であるかなど想像するに容易いだろう。
そうさ、同じ穴のむじなだよ。
渡辺も俺や加藤と同じでゲームが趣味だった。
「ネット廃人路線ですか」
「どうかな、そこまで厨じゃなかったと思うんだけど……まあ、思い出してみると確かに自分勝手なトコはあったかもしれんな」
「……自分を棚上げするのはよくないですよ」
「うるせぇ」
昼休みはまだもう少し余裕があるし、外回りの後なのでもうちょっとグダグダしていても問題はない。休憩室でインスタント飲料を飲みながら話を続けている。
さっきも言ったが所属部署が違うんでな、違うけど仕事の都合一緒になる事は多いけど。
「負けず嫌いってトコだと割と加藤の方が融通利かないし」
「なるほど、あなたは加藤さんと渡辺さんの間に挟まれて敗者に甘んじ、ドMの道を歩まれたんですね」
「……そ、そうかな」
それ、否定はできないよなー。勝敗がどーのこーのって話になると加藤さんてば結構しつこくなるのですよ。で、俺はめんどくさいのが一番めんどくさいので、割とあっさり負けを認めてしまったりする。
「気になりますね、もし同じ職場で働くのであれば間違いなく加藤さん所にいくわけでしょう?」
「別に……あいつら仲が悪いわけじゃねぇはずだけど」
「もし、違うとすれば何でしょうか」
ふぅむ、なんだろうな。……わったー……何かやらかしたのか?
加藤が中締めをしているシステム開発部は、何故か人格的に難ありって奴がゴロゴロしている。そいつらと個人的にコミュニケーションが取れるシステム管轄広報部の俺と、同じく肩書きは違うが管理業務を任されている五十嵐はよくこの休憩室で情報交換をしているんだ。
「あ、やっぱりここでサボってるし」
っと……うるさいのが来たぞ、俺はあからさまにいやな顔をしてやったが通用しねぇからな。あ、でもちょうどいいか。
俺と同じ部署の一応、後輩ということになっている阿部に向けて命令。
「お前だってヒマだからここに来たんだろう、ちょうどいい、加藤呼んでこい」
「はぁ?突然何言うのよ、先輩職権乱用!イヤよ。職場で顔合わせるのなっつんシャイだから嫌がるもん」
「俺が行っても忙しいで門前払いされるんだよ、」
それはまぁ、俺がいつもどーでもいい話をしに加藤ん所に押し掛けているという都合もあるのだが。
「わったーさん、という人が来社しているようですよ、と伝えてくるだけでいいのです」
「え?誰それ」
「ええ、私もよく存じ上げませんが、加藤さんの同級生だという事ですから。詳しいお話をお聞きしたいという事です」
「……こいつじゃなくて五十嵐さんが聞きたいのね」
にっこりと笑って奴は頷いた。笑顔が輝いている?違うぞ。相変わらず真ッ黒だ。
「しょうがないなぁ」
おい!先輩の言う事は聞けなくて他部署のソイツの言うことは聞くのかよ!
腑に落ちねぇ、仁徳の差ですね、とか何ニコニコしてやがんだよ!そーいうのは仁徳って言わねぇんだよ!
*** *** ***
しばらくして凝り固まっている肩を回しながら、計画に対してシステムの主任を任されることが多くなって来てしまったと云う、加藤がやってきた。
「あれ、阿部は?」
一人で来たな、あのうるさいのも一緒に戻ってくるものと思っていたが。
「帰したよ」
あ、会社では一緒にいたくない恥ずかしい、ってのはガチなんだな。へー、ほー。
こいつら社内恋愛・交際中だからな。ハズカシって言ってももうバレバレなんだよおまえらッ!
「それ、本当にワッターだったのか?」
自動販売機でカスタム・ソイラッテを注ぎながら加藤は聞いてくる。
「間違いない、」
「リス部と人事にサンドイッチされてましたが、」
五十嵐の言葉に加藤は深いため息を漏らした。
「……お前、何か知っているのか」
「1号も知っているとは思うけど」
あ、1号というのは五十嵐のあだ名の事な。
会社勤めなのでなるべく人の名前は愛称では呼ばない、というのを仕事中は徹底するべく努力しているのだが、システムこもりっきりであまり外部の人との会話をする必要がない加藤にはそういうの徹底する必要はないらしい。魑魅魍魎跋扈のシステム部最下層ではなおの事。
俺もできれば昔の通り気軽に呼びたいのだが。いかせん俺は外部に向けたパフォーマンスを行う広報部……。ヘタな時にヘタな事を言わないように今は、名前呼び意識を徹底している。
「国内模造品の問題があるだろ」
それだけで五十嵐はすべてを把握したようだ。
「……まさか」
「そのまさかだよ。ワッターは昔から改造ゲームを楽しんでいたからな。その後どうなったのかわからないけど……たぶん、一人で楽しむという枠は超えてしまっていると思う」
「え?何?」
俺、一人会話についていけてません。
そも、ゲームってのは商売に向いていると思うか?
そんな事は考えた事もないだろうし考える必要もないことだ。俺も長らくそんなヤボったい事はなるべく考えないようにしてきた。
けど、数多くゲームをこなしていると、なぜこういう演出をしなければいけないのか、に始まる微妙な疑問とかが浮かぶようになる。まれに作品とシナリオが合致していなかったり、音楽やらキャラクターやらの調和が上手くいっていなかったり。
ゲームとしてはクソなのに絵がスゴくてだまされちゃったり。
逆にゲームとしてもイマイチで絵もパッケージだけで以下略って時もあったりするし当然、それらの逆もある。
ああ、ようするにゲームっていうのは今や商売道具で、売れるための戦略でもって開発されているんだという事に気づかされる。
本当はそんな事考えもしないで俺は、ゲームという娯楽にだまされて浸っていたいのに。
ゲームなら何でも大好きな俺は、商売としてのゲームという娯楽が少々、許し難いものであったりもするのかもしれない。
それなのに今ゲーム会社勤めって、矛盾してねぇかって?まぁこれもいろいろあるんだよ。
俺がかかわっている部署はちっと特殊なんだ。
……それはともかく、ちょっとガチにゲーム開発会社の当たり前な歴史を振り返ってみよう。
まず、ゲームっていうのはこの場合家庭用コンシューマーを前提にして話を進めるぜ。商業ゲームの販売ケースも様々あるし、今は携帯端末のアプリゲームも多い。とりあえずは一昔前の、家庭用据え置き、あるいは携帯ゲーム機のモデルで考えるとしよう。
今はゲームハードとソフトは一対一の時代じゃねぇ。ソフトに対し、対応するハードはいくつかあるし、ハードに対しソフトの規格も様々なものを読み込める時代だ。
今の日本におけるゲームの普及は、ゲームを楽しめる専用のゲームハードを開発するところから始まった。そしてその次に、そのハードで走らせるゲームソフトの開発が続くんだ。
ハード開発を行う所と、ソフト開発を行う所は別会社になる。
さて、ハードとソフト開発、どちらが儲かる?
今でこそハードありきという商業モデルが勝利を収め、一定の確かな過去として積み重ねられた状況だ。
けどな、その過去をひも解いていけば、勝利を収められずに消えていったハードというのも存在するんだよ。
ハード開発ができれば一方的な勝利とはならない。ハードを開発せしめなおかつ、それでもって楽しめるゲームソフトが存在しなければまたハードの普及には至らない。
当たり前だな。
ではハード開発よりもソフト開発のほうがスゴいのかってーとそういうわけでもない。もちろんソフトがすごかったからハード普及に一役買った、という場合もある。
ところがゲームソフトの商売としての寿命は短いんだな。ある程度普及したらそのソフトは売れなくなる。そんなんで、今はアップデートされる限り新しいが続くアプリゲーが主流になりつつあるのかもしれんが……とにかく、据え置き機の場合は『新規』として遊べる寿命が短い。だから、その後、というのが必ずある。
優秀なソフトによってハードの普及が進んだその後世界において、もはや新しくハードを買う層は少なくなる。対してソフト開発者はハードで遊んでもらえるように新しいソフトを開発すりゃいい。
ハード開発は次にどうするか。
新しいハードを開発するんだ。
この繰り返しで何世代経っただろう。そう何度も繰り返されるとだな、消費者も勉強し始めるんだ。
いかに自分たちの資産を使わずにゲームという娯楽をむさぼるか、って。
ところがゲーム開発は会社で、ゲームを売ることで商売をしている。消費者の動向に合わせてサービスし続けるわけにはいかない。歴史を学んだ消費者に対して金を支払わせる新しいシステムを組み、新しいゲームの提供の仕方を考えるようになるだろう。当然だな。会社だかんな。それで給料もらっておまんま食って生きてんだからそういうことになる。
さてそこに、ゲームという娯楽は出来るだけタダで享受されるべきモノと考える連中が現れた。
ハードとソフトを解析し、もたらされた娯楽であるゲームをさらに改造する事を楽しむという人が出るようにもなっっていった。……供給された娯楽であるゲームを、個人として使用する分には問題ない。それを公にしなければ、何をやったっていいだろう、パッケージ買い切りなんだし。しかし、問題がないゆえに手出しができず、改造に伴うゲーム解析というのも着実にゲームの歴史の裏には寄り添い歩んできた訳である。
「他国でコピーが出回っているでしょう」
一人とぼけた俺に向けて、五十嵐は大抵の場合わかりやすい解説をしてくれる。悔しいけどわかりやすいからこいつのこういう技能は重宝しているのだ。
ちなみに、俺はそのコピーに対して良い思いがないな。
「……まさか、また新型コピーが出たとかいうんじゃないだろうな」
なぜなら、公認プレイヤーである俺は基本的にそーいうパチもんのテストプレイを率先してやらされるからだ!
そもそもロニイをコピーするなんて無理だろう!
怪しいパチもんのテストプレイを強行され、案の定エラいヒドい模造品である事が判明し現在、販売と開発中止を申し立てているが…………ええと、独占販売禁止法だかに抵触するんじゃないのかとか、まぁ色々上でゴチャゴチャやっているようだ。
よくわからんが、法律をかわすためにロニイ、俺らがおもにがかかわっているゲームハードはあくまでゲームという市場において一形態である、という姿勢を崩していない。
「今新たに問題になっているのは、違法ログインですね」
それもまた厄介な問題なんだよな。
「違法ログインといっても様々にあります。一番安易なのは、すでにあるキャラクターを乗っ取る形式でこれが一番多い。セキュリティホールを見つけて情報を盗む、不正にアクセスする。これはロニイのシステム上難しいので案件は少ないのですが……無い訳ではない」
「それよりも一番やっかいで重篤な問題に発展するのはパラメータの改ざんだ」
「それ、まっすぐレッドフラグ行きだからな」
どんなにセキュリティを掛けてもパラメータを違法に改ざんするアホが現れる。そういう装置を開発して違法に売っている連中もいるようだが、もちろん販売・所得・使用すべて違法として遠慮なく取り締まることになっている。
今までのゲームハードやソフトであるとすべてを違法、とする事が様々な社会形式の状況できなかったがロニイでは違法になる。
現実世界での話ではない。現実では一部グレーゾーンで取り締まれない個所があるので……
ロニイというゲームの中では遠慮なく違法と設定して取り締まっている現状があると云うのに、それでも使用するバカがいる。
「で、今回現れたのはね。新しいトビラを作っちゃうって奴」
紙コップを取り上げ、加藤は振り返る。
「……ようするにそれ、正式ログインになりすますってのか?」
「鍵の取得まで行うことができる、違法のエントランスレイヤーを作った奴がいたようだ」
ようやく話がつながってきた。
「それをわったーが?」
「プログラマーを捕まえた、という話は鈴木さんからきいてる。ただ……相変わらずすさまじいと思うんだけど……そいつを告発しないで懐柔しようか、って話があるところだ」
「マジか、すげぇな高松さん」
関心のため息を漏らしながら俺たちのトップの人に称賛の念を送った訳だが、五十嵐はあなたが思うほど簡単な話ではないですよ、と言いやがる。
「エントランスレイヤーを違法に作って接続するなんて、相当の技術者になるでしょう」
へぇ、そうなのか?俺中身の仕様書は一応読めるんだけど、個人的にはさほど見ないからな。
「なんで俺のところにそういう話が来ると思う?ようするに、俺が情報外部に漏らしてるんじゃないのかって疑われてるってことじゃないか。俺に来るんだぞ?つまりそいつは俺の知り合いって可能性が高い」
「そこまでして違法開発に躍起になるのはなぜでしょうね?金もうけのためでしょうか?私は違うと思いますよ」
加藤と五十嵐が同時にため息を漏らした。
おお、相変わらずだがお前ら、そこまで気づくなんてすごいな……俺、すいませんさっぱり察しませんでした。
「でもお前、お前が情報を流す様な事、事するはずないじゃん」
俺は笑って加藤の肩を軽くたたく。
「……ああ、勿論」
なんだか暗い顔してんなぁ。どうしたよ。
「いや、そうやってどこまでも能天気にお前が信じてくれるのに俺は、思いの外助けられているんだなぁと思って」
「はぁ?」
「誓って情報の横流しなんて、そんな事はやっていない。でもそうじゃないか、という重圧はあるよなぁって、ちょっと困ってたんだよ」
熱いソイラッテの湯気が、クーラーの効いた休憩室にゆらめいている。
「そうか、やっぱりワッターだったか」
いっきに場が冷えたな。
俺は久しぶりに懐かしい顔を見た、という事で盛り上がるんだと思ったのに。
「いいじゃねぇか、懐柔策で」
しかたねぇ、俺はどこまでも能天気に言うぞ?
「そう簡単に行くでしょうか。渡辺さんの人となりがどういうものであるのかは存じ上げませんが、場合によってはつけあがるだけでしょう。多くはそのようにして高松さんの意見を封じているのでは」
「1号の言うとおりの懸念を鈴木さんがしてたよ。俺も、正直……」
「俺たち友人同士だろ」
どうにも気弱な加藤に、俺は小さく足の先で小突いてやる。
「違法解析がいかに厨かってのを言ってやればいいじゃねぇか」
「たぶん、ワッターはそんなのわかった上でやっていると思うよ」
「わかった上で俺スゲェ、とか思っているならはいはい、スゲェスゲェとか手を叩いてやればいいんだ」
「………」
「けど所詮、すでにあるものを解析してコピっただけだろ、って挑発を決めてやれ。悔しかったらここで、新しい何かを作って見やがれって煽ってやりゃぁいい。わったーの事だ、乗ってくるに違いないぜ」
「俺は渡辺とケンカしたくない」
加藤はそう言って目をそらした。ううん?何か、お前ら何か因縁でもあったか?
「喧嘩別れになってたからな。だから、もしかしてあいつが引きこもったのって俺のせいかな……とか」
苦笑いの顔を上げる。
「もちろん俺の気の所為だろう。そう思う。その後連絡付けられなくなったからもう、どうしようもなかったし。……もしかしてお前の面倒見てたのってその反動なのかなぁ……」
なんだよそれ、しらねぇよ。そんなの、どこまでもお前の都合じゃないか。
もちろん、一時引きこもった俺の面倒を見てくれた節はありがたく思っている。加藤がいなきゃ俺は今ここでこうやって会社勤めもできてなかったかもしれない。
でもだからって、俺はわったーに感謝なんかしねぇぞ。
それより前にやる事があるだろうと俺は思う。
「わかった、」
立ち上がり腕を組む。
「五十嵐、わったーが行くとすればどこの部署だ」
肩をすくめ、諦めたように五十嵐は笑う。
「受付の古谷さんに問い合わせてみましょう、事情は説明すれば彼女の事ですから教えてくれるはずです」
「よし、行くぞ加藤」
「いくぞって、」
「乗り込んでわったーに一発説教くれて来ようぜ」
「今から?」
「もしかしたら俺の見間違いって事もある。事ははっきりさせて、そんでもし本当にアイツだったら……友人として、悪い事は悪いって言ってやらないとな。それを諭せるのは俺たちだけだろ?」
ようするに俺も一緒に行きますよ、というのに加藤は笑った。
そのあと紙コップのソイラッテを一気に飲み干す。
「一緒に仕事しようって言って、あいつ素直に受けると思うか?」
「そこは説得だろ。大丈夫、あいつは自分で扉を叩いてここに来た」
なるほど、そういう考え方もできなくもありませんと五十嵐は笑っている。
笑うなよ、俺はどこまでもまじめなんだぞ。
もうずっと前に切れた縁であっても友人は大切だ。
俺が友人に救われているなら俺も、いつかそうやって誰かを救いたいじゃねぇか。
「扉を開けてやりゃいいんだ、あいつは中に入りたいから扉をたたいたんだろ」
まぁ、その扉のたたき方が一般的じゃぁなかったわけだけどな。
扉に向けてミサイル発射して木端微塵に吹き飛ばしたようなもんだ。
「迎え入れてやろうぜ。そんでぶっこわした扉の弁償ふっかけてやるんだ」
終わり
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