異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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番外編 EX EDITION

世の不公平の話

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 唐突ですが自己紹介から始めてしまいますが、俺はヤトといいます。
 となりのガラの悪い兄貴がテリーさん。
 とか言って、実はリアル年齢の上では俺のほうが年上な。見た目は明らかに俺より老けてると思わねぇか?ガタイもはんぱねぇし。こいつ、リアルでも趣味格闘技なんだとよ、全くどこまでも格闘バカだぜ。

「……お前、今俺のことガラが悪いとか何とか思ってただろ」

 ぎ、ぎくうッ?鋭いぞテリー、それとも俺の態度でバレバレなだけなのか?
 まぁ、それはともかく、えっとですね。
 そう、本日は……番外編みたいなもんだ。

 メタな話をするとこれは、その日の駄文シリーズって奴でブログに書き散らかしたブツなんだがその日の日付、がだな、アレだった訳よ。
 日本だとアレな日。
 そう、

 聖・バレンタインデー。(2月14日の埋め立てブログ 健在ですがこちら清書版)

 憎らしいこの日について、男である俺の意見を聞いてもらいたい!
 本日、そんな番外編だ。

 テリーさんや、本日二月某日のイベントについての意見を簡潔に述べると何ですか率直に素直に懺悔せよ!

「んぁ?バレンタインデーか?」
 
 ッ!ストレートに言いやがるな!

「言っちゃぁまずい事なのか?」

 と、奴ぁ余裕で耳の穴を小指でホジホジ。
 くそう、こいつ、毎年チョコレートには困ってない人種か!ありうる、ありうるぞ!レッド程美形ってわけじゃねぇが、なんとなくモテてそうな雰囲気がする!

「なんだよ、その恨めしそうな顔は。縁が無い人間だってのがバレバレだぞ?」

 う、うっせー!

「率直に素直にな、はいはい。俺は甘い菓子は食わねぇ、以上」

 くッ、その上女子供にはウケ良く硬派か!
 貴様、キザっぷりにも程があるぞ!何人の女の子を泣かせたんだ?男として、恥を知れ恥を!月夜ばかりと思うなよ?お前なんか、お前なんか、アインの同人誌の餌食にされてしまえーッ!

 流れるような動きでテリーの腕が下に沈んだと思った瞬間両足が時間差で蹴り上げられており、俺は……真面目に宙に舞っていた。
 
 無慈悲に落ちて地にひれ伏す。
 おい、ゲージ4/3くらい持ってかれる技じゃねーかこれ!?ジェノ○イドなんとかじゃねーかおい!!!

「殺す気か!!」
「テンションマックスでヤってねぇだけありがたいと思え。いいか、世の中にはな。言っていい事と悪い事があるだろう」
 ……そうだな。
 俺も、それだけは勘弁だと心の底から思う。

「とにかくだ、認めるな?チョコを貰った経験がある事を認めるんだな?」
「全部姉貴にあげちまうがなー」
「本命チョコも食わずに捨てるというのかッ!」
 俺の涙を流さんばかりの勢いにちょっとだけ、テリーも面食らって頭を掻いた。
「ばぁか、そんなもん俺だって貰った覚えねぇよ」
「とかなんとか言っちゃって、あるんだろう?あるんだな貴様~、それはこっそり自室で食べるんだろう~」
 ごいんと、脳天に一撃拳を立てられる。そのままごりごりと推し込みながら、
「妄想は勝手だが、そういうオマエはどうなんだよ。大体、なんでこんなアホらしい企画に俺が付き合わなきゃならねぇんだ。ナッツはどうした」
 テリーさんや、ナッツならアホらしいと思う企画に参加していいのか?
 言っておくが、『遥かに』お前よりナッツの方が頭がいいからな。お前がアホらしいと思う様な企画に、ナッツが参加すると思うか?
 ……ううむ、言っててなんだか自分が虚しくなってきたぞ……。
「ナッツは俺と義理チョコ同盟だ」
 テリーは疑わしそうな視線を向けるが、ふいと顔を上げる。
「あ、そっか。アベルの奴がいるじゃねぇかよ。なんだお前、義理ならちゃんと貰ってるって事だろ?本命か?本命が欲しいのか」
 ニヤニヤするテリーに、俺は黙れと喚くので精一杯である。
 ほほほ、本命だと?そんなん、もらえるはずねぇだろうが!
 ああ、いや……最近はもう、リアルな義理チョコすら拝んでないんですってマジメに。
「最近アベルも酷いんだわ。俺がバーチャルチョコで喜んでいるのを知って、リアルチョコを渡さなくなりやがってだな」
「何だそりゃ?」
「仮想チョコレート。……ぶっちゃけ、俺の本命はバーチャルだからな」
 ええと、説明するのもイタいのですが。
 俺の本命はリアルキャラではないのでありますよ、とどのつまりそーゆーなわけでして、……そんなバーチャルなキャラクターからイベント的に届くのが、バーチャルチョコレート。
 現実として、口に入れる事の出来ない、データオブジェクトとしてのアイテムだな。

 今や大抵のゲームでイベントでバーチャルチョコ関連があるからな。アベルもな、昔はゲーム界隈の男子らに義理チョコばら撒いてくれてたんだが……最近は金欠なのか、何かトラブルでもあったか、俺とナッツも一緒のサーバーである某ネットゲーム内で流通するバーチャルチョコで済ますようになってきたんよな……。
 いやでも、初めにバーチャルチョコに切り替わった時、愕然とはしたが、嬉しくなかったわけじゃない。
 俺は、彼女の努力にちょっと、感動した。
 というのもアレだ、そのバーチャルチョコを貰ったのが、某MMOファンタジーRPG系ゲームでの事だったんだが、そのゲームでは日用品もガチに作るという仕様であったりする。
 そのうちの一つ、料理っていうクラフト技能でだな、チョコに該当するメニューがあるわけですよ。彼女はそのゲーム内で事もあろうかそのチョコに該当する食事アイテムを俺達(ナッツも含む)に送りつけてきて、バレンタインデーを済ます様になったって話だ。
 これだけ聞けば、何も感動はしないだろう。
 問題なのは、アベルはこの食事アイテムを買ったりしたのではなく、自分で作ったという所だ。材料集めて調理スキルツリー極めて、技能を磨いて……全て、ゲーム内ではあるのだが手作りしたんだよ!
 ゲーム内の仕様にもよるが、そのゲームだと食べ物を作るのは、ソレ相応の経験を繰り返して技能を上げる必要がある。素材だって、買うとなれば結構な値段がするが、集める、作るとなるともっと大変だ。それだけに特化した職人でプレイしている人すらいるくらい。

 その、バーチャルチョコを貰う直前まで……なんで彼女が突然料理系技能をせっせと鍛えているのか、その意図が分かっていなかったが……そういう事だったのかと。
 俺はそのチョコに該当する食事アイテムを貰って、彼女の努力の意味を理解した。

 よって、最初の一回は偉く感動した憶えがある。

 まぁ、その後は当然、酷いやアベルさん状態だったわけだが。
 ……一度作れるようになれば後は素材集めだけでなんとかなるからな……。

 そんなわけでして俺はここ数年、ヘタすると学生卒業してからずっと、リアルチョコを貰った記憶が無いんである。

「はぁーん、そんなもんまであるんだなぁ」
 偉く関心しやがるなテリー。このゲームオタクの俺を、哀れんでるのか?
 間違いなくコイツ、本命と気づいていないながらもそれなりーにチョコを貰ってるタイプかッ くっそー……。
「大体さ、不公平だと思わないか?」
「何がだよ」
「なんで、バレンタインデーなんかあるんだよ」
「そりゃ、チョコメーカーの陰謀だろうな」
 テリーはまじめな顔で答えた。そりゃそうだろうがとにかく!
「なんで、女から男にチョコを配るのが先なんだよ!どうしてホワイトデーに、そのお返ししか男はできないんだよ!」
「……何が言いたいんだお前は」
「だから、なんで女から男っていう流れで限定されてるんだよ!」
「いや別に、いいんじゃねぇ?お前が誰かにチョコをやりたいのなら、バレンタインデーに本命チョコ持ってコクりに行けばいい。今は友チョコって文化もあるそうだし……」
「だぁほッ!俺の本命はバーチャルだから、俺の事はいいんだよ!」
「……いいのかよ……」
 テリーは呆れて腕を組んでいるが、い、良いと言ったらいいんだからね!
 く、悔しくなんか無いんだからッ!
「というか、状況を良く考えろよテリー。女どもは本命と義理とやらに振り分けて、大勢の男にチョコをバラ撒くわけだろ?ホワイトデーのお返し待ちで」
「……ふむ、ああ、そういう事なのか」
 こいつッ、わざとらしくボケやがって!それとも真面目にホワイトデー返した事ねぇのか酷い男だなコイツ!
 俺なんか、アベルからホワイトデーに三倍返しを義務化されてるんだぞ!
「逆にしてみろ?」
「逆?」
 つまりバレンタインデーが、
 女から男にチョコを贈る日、ではなく。
 男から女にチョコを贈る日、であったらどうなるのか。
「男がだなぁ、本命チョコと義理チョコを女に配ったとしたら、どうなる?」
「どうなるって、そりゃぁ……義理チョコだったら彼女は怒るだろうなぁ」
「だろう?だよなぁ!なんで女は男多数に愛想バラ撒いても許されてんだよ!これが逆なら浮気だ何だと酷い事になっちまうだろうが」
 テリーはマジメな顔で眉をひそめた。
「なるほど、そう考えてみると酷く不公平に感じるな……。バレンタインデーが『逆』だったとするなら、だが。とすると、お菓子業界は赤字だな」
「え?何で?」
「本命チョコしか売れないんだ。商売上がったりだろ」
 苦笑を浮かべて言ったテリーの言葉に、俺は……経済学って奴の圧力に押しつぶされた気がするのだった。
「くッ、くそう!やっぱりチョコメーカーの陰謀って事か!」
「ああ、どこまでもな」
 俺は、俺は踊ったりなんかしないからな!
 あとはアベルの三倍請求をどうやって回避するかだ!チョコなんか貰ってませんと断固しらをきるか、もしくは贈られてきたチョコを付き返すか……。

 ああッそう、要らないの。分ったわ。
 もう、一生チョコなんかあげないから。

 ……という、彼女のあまりにもリアルな幻聴が脳内に響き渡る。

 俺は、頭を抱えた。

「男として、貰ったチョコを突き返す行動はどうよ?」
「最低だろうな」
「……やっぱり」

 世の中って、不公平だなぁ。
 好意とも悪意とも取りがたい、あの甘いお菓子の陰謀は、あまりにも奥深い。
 ともすれば男である俺は、もう祈るしかないわけだな。
 どうか、彼女がメーカーの陰謀に踊ったりして悪質にお返しを求めませんように!と。
 ……アベルの奴、ホワイトデーに某ゲームのレアロット枠譲れって言ってくるんだよ。冗談じゃねぇよ、なんでチョコ貰った程度でそんな事しなきゃいけないんだよ。絶対不公平だろ!?

「そんなにホワイトデーが嫌か?チョコ貰いたくないくらい」
 テリーの言葉に、俺は再び頭を抱えた。
 リアルにチョコが欲しいと本当は渇望している俺であるからして、バーチャルチョコでもいいから欲しいというのが実の所本音である以上……それは――
 エラく、微妙な問題である。

 おわり。
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