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番外編 EX EDITION
◆トビラ番外編 EX EDITION『コーヒー魔人と記念日』
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◆トビラ番外編 EX EDITION『コーヒー魔人と記念日』
※何時でも読める セリフ多めの与太話系※
聞いてください奥さん!
10月1日はコーヒーの日 だそうですよ!
知らん!そんなの知らんて!
いつ制定されたんだ!
(レッドからの注釈
:1983年 コーヒーは四季関係ない所で育つ植物ですが、一応国際的に10月を年度区切りにしているのだそうです。つまり9月が年度最後のコーヒー収穫なのでこのように記念日を制定したそうです)
それを知らしめるために コォオオオオヒィイイイイ!と連呼するのはいただけないですよ、コーヒー魔人の人。
ここは日本だからいいが、タイランドではどうなってしまうと思って!タイに旅行に行くときは気を付けてね!
(理由は各自ググりましょうねハレンチですよ★)
以下、コーヒー魔人の人とゆかいな仲間達
『俺の庭にコーヒーは育ちますか?』
*** *** ***
どうも、お久しぶりなような……そうでもないような。
色々とガチに二、三行では収まりきらない波乱万丈な人生の都合につき、人も寄りつかぬ森の中のド田舎に引きこもって暮らしている通称、コーヒー大好きコーヒー魔人です。
もぅ開き直るぞ、開き直って俺は自家栽培計画を実行に移そうと思う!
「何言ってるんですが、開き直る前から珈琲自家栽培計画は着々と練ってたじゃないですか」
細かい事に突っ込みすんな、いいか、これは遊びじゃないんだ。
「はいはい」
コーヒー豆の栽培はとても難しい、環境が合えば必ず収穫が得られるという問題でもない。奴は繊細なんだ、俺やお前と違ってとっても繊細なんだよ。
「貴方が繊細ではないのは同意しますが、僕はこれで結構繊細な方なんですけどね」
黙れ、腹黒魔導師。
なんだよ、お前引きこもった先でさっそくコーヒー栽培から始めてたんじゃないのかって?いやな、俺も真っ先にコーヒー苗を下さいとファマメント国のお偉い人たちとかに強請……いや、お願いしたわけですよ。
そしたらお前、ファマメント国じゃコーヒー豆はあんま生産してねぇってんで、輸入ルートは抑えてあるから豆は手に入るけど苗とかは難しいなぁって言われたんだよ。
なんか、亜熱帯植物だとかで、ファマメント領では栽培適して無いんだと。
天使教のエラい人があてにならないってんで、じゃぁ政治のエラい人になったテリオスさんに、ミスト(南国のミストラーデ国王)に頼んでどうにか頼むよと言ってみた訳です。
散々文句垂れられたけどそこはアレだ、付き合いが長い都合奴の弱みをちらつかせてなんとか……とか目論んでみたけど奴め、逆に俺への現在の援助物資打ち切るぞと切り返されたり。
自給自足してるから別に困らないが コーヒー豆だけは自足出来ないのだ……うん。
でもなんだかんだ言いつつ世話やいてくれるのがテリー兄貴のステキな所だと思います。
一応持ち上げておこうと思います。
きっと忙しくて南国に連絡取ってるヒマ無かったんだろう。たまたま会談があって、それでどうやら俺の話を覚えてくれていたようで……。
「忘れられていただけでは……」
お願いして半年後くらいに
『南国では乾燥しすぎていてコーヒーはやはり向いていないそうだ』
と言われた。
……じゃぁ俺はどうすれば。
打ちひしがれた俺……そんな俺の為に、最初に相談に乗ってもらったナッツ氏からプレゼントが届いた。実は一番色々世話焼いてくれるのは彼だったりする。
そこにいる腹黒魔導師ではない。奴は割とどーでもいいことばかりを俺に伝えてくるだけで割と何もプレゼントとかくれない。
「まぁ、否定はしません」
そこは否定しろ、あと、分かってるならいらん話は持ってくるな。モノを寄越せモノを。
「そう言ってあなたは耳を塞ぎすぎです、ただでさえ浦島太郎状態になるの確実なんですから、引きこもって貴方を一人にする事を回避させるのが僕の役割、何が何でも『世界で何が起きているか』は把握していただきます」
ケッ、そんなら俺は何も出来ない身分なのであーそー へー、とか相槌を打つだけなんですけどね!
まぁとにかくだ、ナッツからは実は今愛用しているサイフォンコーヒー機とか色々嗜好品貰ってるんだけど、この度も俺の唯一の嗜好、コーヒー好きを満足させるべく……一冊の本が届いたわけです。
ご覧ください!
『楽しい家庭菜園 亜熱帯気候編』
「……誰でしょうね、こんなマニアックな本刊行したの」
誰だっていいじゃねぇか、少なくともここに大喜びしている人が一人いるんだし。
「などと、ここで非常に頭の悪い自称コーヒー魔人の人が楽観的に言いますが、実際のところコーヒー栽培というのはそう簡単に始められるものではないのです。割と、あちらの世界と同じ言語と単語が共有されているこちらの世界、当然歴史も相当に重複する事が多い。ともすれば、コーヒーの木の苗や生豆が手に入らない理由についても想像に難しくありません」
なんだよ、コーヒーが手に入らないって……別に、コーヒーは麻薬類とは違うんだし、実際豆は世界に流通してるんだぜ?
「どーでしょうかねぇ?」
まぁ……若干依存性はあるのは認める。
「焙煎された豆やあるいは、乾燥生豆状態ではすでに発芽しない事はわかるでしょう?」
……まさか、葉っぱにヤバい成分があるとか?聞いた事ないな。
「そうじゃありません、コーヒーは嗜好品として世界に広く流通している品目の一つ。しかも軽い常習性すらありますが、人を廃人にするほどの毒性は認められてはおりません。それゆえに広く特に上流階級で好まれていますし、恐らく一番消費しているでしょう魔導都市ランではもてあました外貨グラムを上等の嗜好品にあてていると言っても過言ではない」
お前の話は相変わらずだが回りくどいよな。
「そうですね、その評価は別に結構ですよ、これがウリとしてこのようにコンビ組まされて乱用されているのです。使いやすいのでしょう、出番が増えるのは悪い事ではありません」
……俺はそうは思わんな……まぁ、俺は酷い目にあう側である事が多いからだけど……
「何か言いました?」
ああ、いや何でも無い。
「さて嗜好品、他に何がありますか?」
うん?まずは煙草か、あと酒。
「君は紅茶は飲まないのかね?」
いや、飲みますよ、コーヒーほどじゃないけど……って、あんた誰だ!?
「おや、お久しぶりですね……どっからきましたか」
「どこからだろうな?いつものようにアウルの店で紅茶をごちそうになっていたはずなのだが……気がついたら南国の砂漠とは無縁な森の中に。ふむ、紅茶好き代表として勝手に呼ばれたのかな」
この模様のマントからするとこいつも魔導師か……どうしてこう、魔導師連中は異常な状況をどこまでも冷静に把握できてしまうんだろうな。
「貴方のような人の相手をさせられる事が多いからですよ」
どういう意味だ。
「あと、あなたのような人はさほど嫌いではないのです。魔導師は『普通じゃない』がデフォルトですからね」
「ふむ、的を得ている」
えーと、突然やってきた青いマントの青い髪の人はトリス・ヴァーニスさんだそうだ。
曰く、コーヒーはあんまり好きじゃない、やっぱり発酵茶が一番だ、あとワイン、とかのたまってます。
そうですか、でもお茶にもカフェインは入っているんだけどな?
「大体、そこは酒に転ぶところではないのですか」
「嗜好品が酒やたばこではなくコーヒーに転ぶ所が……」
えっへん、俺が王道嫌いと名言するゆえんである。
ちなみに酒は飲めるけどな、ザルじゃねぇし……夢見が悪くなるのであんまり好きじゃないです。
「あまり寝たくない人のようです」
「コーヒー飲むと眠れなくなるタイプか」
いや、そうでもねぇけど。コーヒー飲んでも俺は爆睡出来るけど!
とにかくそれで、お前の話の続きはどうなったんだ!
「ああ、コーヒー流通の話でしたね。正確にはコーヒー豆の流通ではなく、コーヒー栽培の広がりについて」
「ほう、そこにあるのはコーヒーの苗木だな。よく手に入れた」
トリスさん、そんな関心するトコなんすか?
ちなみにこれ、ようやく念願かなってディアス国の某フィナルなんたら商家経由コウリーリスはマリア市から頂きました。なんでもコウリーリスの南の方、マリアでコーヒー栽培始めるんだそうだ。それで、そこに住んでるアベルから苗木を分けてもらったんだ。
やったねー!やっと念願のコーヒー栽培が出来るぞー!っていう事にようやくなったって訳だよ!
「ふむ?俺の時代にはマリアなんて町はあったかな?」
「トリスさんは今回どこからおいでになっているんです……ああ、あの時(参照:時空を超える番外編『戦いを捧げろ』)よりもっと前、……6期南国時代からですか……貴方も長らくこの世界にフラフラしているんですねぇ……」
6期ったら相当に前じゃね?地形も今とは相当に違うと聞いている。
「じゃぁ一応ご説明しておきましょう、現在は8期でディアス国がセルヴァリナ島に移動しているんですが……」
「……え?そうなのか……あの国も……まぁいい、それで?」
8期っていうエラい未来に迷い来てる事には驚かんのだな、この人……謎な魔導師だなぁ……てか、青マントって居ないんじゃなかったっけか?
「その辺りは今回、ツッこんでいると長くなるので何時もの様に、知らんけどで飛ばしていただきたいのですが」
しょうがねぇなぁ、知らんけど。
「その周辺の黒竜海を隔て対岸のコウリーリス国にマリア、という村落があります。ディアス国の移動に伴いコウリーリス国の黒竜海近辺地域の植民地計画が企てられ云々、という時代背景があるわけです」
「ふむ……そうならざるを得ない都合は想像出来るな……」
「しかしそうしないでフィナル商家が近辺地域に商業指南を行い……当然国からは色々睨まれたりしたようですけれどね……それで気候に合わせた農作物を作るようになりました。ごくごく最近の話です」
「それで、マリアにはコーヒーが適していた訳だな。俺の時代コーヒーは……バセリオンとタトラメルツ、フェイアーンあたりの専売特許で門外不出、軍隊によって厳しくコーヒーの畑が山ごと規制されていたりもしたが」
「今は少々気候や環境が異なり、あの辺りではコーヒー栽培はしなくなってしまった様です」
え?何それ?コーヒーの栽培規制?
「それだけ昔から価値のある嗜好品だったという事ですよ」
……その歴史はごにょごにょ(俺達のリアルでも同じような歴史って事だよなぁ……)……知らなかった。一応、リアルでもコーヒー好きだから、それなりにコーヒーの歴史については知ってるんだぞ、俺。
「実は、マリアで近年まで一大産業だったのはコーヒーじゃないんですよ」
む、トリスさん難しい顔になって少し考えている。
「芥子だな」
「さすが青魔導、生きている時代が違うのによくわかりましたね」
「ディアス国の移動や、植民地という話から……色々と、な」
相当昔から同じ事やらかしてんのかもなぁディアス国。いい国なのか悪い国なのか、まぁ光強けりゃ闇も強い、そういう二面性のある国と言われているだけはある。
「その立て直し事業を我々の友人にして同士である仲間たちがフィナル商家に協力を仰ぎ、今行っている最中なのです」
うーん、その商家?それがもしかして重要なのか?
「そうだな、コーヒー豆は俺の時代、つまり昔から栽培方法や苗木、生豆などの輸出が厳しく規制されていて、その背後には世界にコーヒーを輸出する商家や国が絡んでいる。ちょっと記念にイチジクやリンゴを植えるから、というように簡単に苗木を取り寄せる事は出来ない作物なんだよ」
「コーヒーの流通形態もまた、そういう事情に拍車をかけました。発芽出来ない『死んだ種』でしか流通させる事が出来ない。コーヒー豆はその形状からレッドチェリーとも呼ばれ、果肉は非常に甘く管理が悪ければ簡単に腐敗を招きます。故に、果肉は取り除き、乾燥させた生豆と云う状態でしか流通網に乗せる事が出来ないのです」
ああ、そのあたりはこの『楽しい家庭菜園 亜熱帯気候編』にも書いてあった。
「……誰だ、そんな書物を刊行したのは。物好きというか……平和な時代なのだな」
さすが魔導師だ、言う事同じでやんの。俺にはなぜこの本がそんなマニアックなのかよくわからんけど……
「需要がなければ本なんて、製本だってタダではないのですよ。貴重な技術書となるなら民間ではなく国家で所蔵するでしょう。多分それを作ったのは……」
あ、あとがきにカイエン・ナッツの名前が!気がつかなかった!奴め、相変わらずシャイだな、もっとドーンと名前を載せればよいのに!
「……ナッツさん、そこまで親切に面倒を見なくてもいいと思うのですが」
いやぁ、奴の事だ。多分通常業務に辟易してて、息抜きと称して書類集めて本作ったんだろ?あいつも今亜熱帯気候のマリアに引っ越してんだろうし。伊達に天使教布教マニュアル見直して改定した実績持ってねぇぞ?
*** *** ***
そうかぁ、コーヒーの木一本手に入れるにも本来は簡単な事じゃぁないんだな。
ようやく俺がコーヒーの自家栽培に着手出来るのは……フィナル商家って奴のおかげか。
拝んでおこう、ありがとうフィナル家。
「じゃあ、これでもうコーヒー豆をここに運ぶ必要は無くなったんでしょうかね?」
いや、それがな……コーヒーって簡単に実が成って熟すもんじゃねぇんだよ。花咲いて収穫してコーヒーにして飲むまでガチに1年かかるらしいんだよ。ヘタすると2年周期とか書いてあった。
というわけでしばらくはまだオネガイシマス。
てゆーか、貰った苗木が即花を付けるとは限らんだろうよ。
俺はここで、ゆっくりとコーヒーを増やすんだー うふふふふふ……
「そういえば、収穫が安定するまでかなり時間が掛るという話をナッツさんがおっしゃってましたね。そもそもまだマリアの統治混乱が収まっておりませんし……マリア改善指導は長らく掛りそうです。阿片過もいまだ酷いそうですからね……」
……そうか。うん、今度は赤い花じゃなくて白い花でいっぱいになるわけだ。
きっとアービスも喜んでくれるだろうな……俺もう何も出来ないけど、今度ナッツさんに会ったらがんばれって言っておいて。
「いいですけど、日和見の貴方からそんな事言われたってきっとナッツさんやアベルさんは苦笑いするだけだと思いますけどね」
正論だ……だが、構わないね!奴らは俺がそういう奴だという事はよくご存じのはずだ!
って、トリスさんあんまり森の中フラフラすると危ないッスよ?
「ジャングルの中にある割にずいぶん、開けていて肥沃な土地だな。ここは……緑の森近辺か」
「ええ、正確には少し外れですけれど」
「……俺の記憶違いでなければこのあたり、でっかい木が無かったか?」
思わず目をそらす俺と腹黒魔導師であった。
「……まぁいい、いかなるものも命ある限り、いずれ終わる。はたしてどれだけここが未来か、面白い白昼夢を見たと思って夢から覚めるとしよう……では、」
あ、くいっと紅茶を飲みほしたら……煙のように消えちまった。
さてでは……気を取り直してようやく手に入ったコーヒー苗を植えるとしますかね。
すでに見合う畑の場所は確保し、土の改良も丁重に重ねてある。
コーヒーは葉の病気に気を付けた方がよいのだそうだ。よし、じゃぁさっそく始めるぞぉ!
「ところでヤト、」
呼びかけられ、俺はあと用無し、土いじりを手伝う事など一切しない腹黒魔導師を振り返る。
「今日の日付をご存知ですか?」
日付?面倒だから月の満ち欠けで適当にしか数えてないんだよなぁ……。
「今日は陽歴10月1日、リアルにおいてコーヒー年度の初め、コーヒーの日です」
ははぁ、なるほど……そういう趣旨だったわけですか。うん?今日が10月1日なのか?
「ご存じない、という事は……その苗を今日貴方に届けたナッツさんの、ちょっとした心配りでしょうかね」
そりゃぁご機嫌だ。
実際、そのコーヒーの日なんて記念日、こっちの世界じゃ超絶に関係ねーけど。
でも、俺の庭では今日がコーヒーの大記念日、そういうわけだな。
悪くねぇ。
「最初の木、枯らさないで下さいよ」
ははははー……まぁ、俺も家庭菜園とかプロじゃぁねぇからなぁ……。俺が得意なのはものをぶっ壊す事なわけで、生まれてこのかたそういう事しかしてこなかったわけで。
命を奪わず、逆に育てるなぁんてのはここ最近始めた事だ。
自信は無いな、正直いくつかの苗木をダメにした実績の方が計り知れない。
枯れないで白い花が咲いて、赤い宝石みたいな果実が無事熟すのをお前も祈れ、何?祈りは魔導師の理念としては適切ではない?いいから祈れ!
俺も、今日が記念日として祈っとく。……ええと、誰に祈るんだ?
……もしかして……この庭の主である、俺自身にか?
おわり。
※何時でも読める セリフ多めの与太話系※
聞いてください奥さん!
10月1日はコーヒーの日 だそうですよ!
知らん!そんなの知らんて!
いつ制定されたんだ!
(レッドからの注釈
:1983年 コーヒーは四季関係ない所で育つ植物ですが、一応国際的に10月を年度区切りにしているのだそうです。つまり9月が年度最後のコーヒー収穫なのでこのように記念日を制定したそうです)
それを知らしめるために コォオオオオヒィイイイイ!と連呼するのはいただけないですよ、コーヒー魔人の人。
ここは日本だからいいが、タイランドではどうなってしまうと思って!タイに旅行に行くときは気を付けてね!
(理由は各自ググりましょうねハレンチですよ★)
以下、コーヒー魔人の人とゆかいな仲間達
『俺の庭にコーヒーは育ちますか?』
*** *** ***
どうも、お久しぶりなような……そうでもないような。
色々とガチに二、三行では収まりきらない波乱万丈な人生の都合につき、人も寄りつかぬ森の中のド田舎に引きこもって暮らしている通称、コーヒー大好きコーヒー魔人です。
もぅ開き直るぞ、開き直って俺は自家栽培計画を実行に移そうと思う!
「何言ってるんですが、開き直る前から珈琲自家栽培計画は着々と練ってたじゃないですか」
細かい事に突っ込みすんな、いいか、これは遊びじゃないんだ。
「はいはい」
コーヒー豆の栽培はとても難しい、環境が合えば必ず収穫が得られるという問題でもない。奴は繊細なんだ、俺やお前と違ってとっても繊細なんだよ。
「貴方が繊細ではないのは同意しますが、僕はこれで結構繊細な方なんですけどね」
黙れ、腹黒魔導師。
なんだよ、お前引きこもった先でさっそくコーヒー栽培から始めてたんじゃないのかって?いやな、俺も真っ先にコーヒー苗を下さいとファマメント国のお偉い人たちとかに強請……いや、お願いしたわけですよ。
そしたらお前、ファマメント国じゃコーヒー豆はあんま生産してねぇってんで、輸入ルートは抑えてあるから豆は手に入るけど苗とかは難しいなぁって言われたんだよ。
なんか、亜熱帯植物だとかで、ファマメント領では栽培適して無いんだと。
天使教のエラい人があてにならないってんで、じゃぁ政治のエラい人になったテリオスさんに、ミスト(南国のミストラーデ国王)に頼んでどうにか頼むよと言ってみた訳です。
散々文句垂れられたけどそこはアレだ、付き合いが長い都合奴の弱みをちらつかせてなんとか……とか目論んでみたけど奴め、逆に俺への現在の援助物資打ち切るぞと切り返されたり。
自給自足してるから別に困らないが コーヒー豆だけは自足出来ないのだ……うん。
でもなんだかんだ言いつつ世話やいてくれるのがテリー兄貴のステキな所だと思います。
一応持ち上げておこうと思います。
きっと忙しくて南国に連絡取ってるヒマ無かったんだろう。たまたま会談があって、それでどうやら俺の話を覚えてくれていたようで……。
「忘れられていただけでは……」
お願いして半年後くらいに
『南国では乾燥しすぎていてコーヒーはやはり向いていないそうだ』
と言われた。
……じゃぁ俺はどうすれば。
打ちひしがれた俺……そんな俺の為に、最初に相談に乗ってもらったナッツ氏からプレゼントが届いた。実は一番色々世話焼いてくれるのは彼だったりする。
そこにいる腹黒魔導師ではない。奴は割とどーでもいいことばかりを俺に伝えてくるだけで割と何もプレゼントとかくれない。
「まぁ、否定はしません」
そこは否定しろ、あと、分かってるならいらん話は持ってくるな。モノを寄越せモノを。
「そう言ってあなたは耳を塞ぎすぎです、ただでさえ浦島太郎状態になるの確実なんですから、引きこもって貴方を一人にする事を回避させるのが僕の役割、何が何でも『世界で何が起きているか』は把握していただきます」
ケッ、そんなら俺は何も出来ない身分なのであーそー へー、とか相槌を打つだけなんですけどね!
まぁとにかくだ、ナッツからは実は今愛用しているサイフォンコーヒー機とか色々嗜好品貰ってるんだけど、この度も俺の唯一の嗜好、コーヒー好きを満足させるべく……一冊の本が届いたわけです。
ご覧ください!
『楽しい家庭菜園 亜熱帯気候編』
「……誰でしょうね、こんなマニアックな本刊行したの」
誰だっていいじゃねぇか、少なくともここに大喜びしている人が一人いるんだし。
「などと、ここで非常に頭の悪い自称コーヒー魔人の人が楽観的に言いますが、実際のところコーヒー栽培というのはそう簡単に始められるものではないのです。割と、あちらの世界と同じ言語と単語が共有されているこちらの世界、当然歴史も相当に重複する事が多い。ともすれば、コーヒーの木の苗や生豆が手に入らない理由についても想像に難しくありません」
なんだよ、コーヒーが手に入らないって……別に、コーヒーは麻薬類とは違うんだし、実際豆は世界に流通してるんだぜ?
「どーでしょうかねぇ?」
まぁ……若干依存性はあるのは認める。
「焙煎された豆やあるいは、乾燥生豆状態ではすでに発芽しない事はわかるでしょう?」
……まさか、葉っぱにヤバい成分があるとか?聞いた事ないな。
「そうじゃありません、コーヒーは嗜好品として世界に広く流通している品目の一つ。しかも軽い常習性すらありますが、人を廃人にするほどの毒性は認められてはおりません。それゆえに広く特に上流階級で好まれていますし、恐らく一番消費しているでしょう魔導都市ランではもてあました外貨グラムを上等の嗜好品にあてていると言っても過言ではない」
お前の話は相変わらずだが回りくどいよな。
「そうですね、その評価は別に結構ですよ、これがウリとしてこのようにコンビ組まされて乱用されているのです。使いやすいのでしょう、出番が増えるのは悪い事ではありません」
……俺はそうは思わんな……まぁ、俺は酷い目にあう側である事が多いからだけど……
「何か言いました?」
ああ、いや何でも無い。
「さて嗜好品、他に何がありますか?」
うん?まずは煙草か、あと酒。
「君は紅茶は飲まないのかね?」
いや、飲みますよ、コーヒーほどじゃないけど……って、あんた誰だ!?
「おや、お久しぶりですね……どっからきましたか」
「どこからだろうな?いつものようにアウルの店で紅茶をごちそうになっていたはずなのだが……気がついたら南国の砂漠とは無縁な森の中に。ふむ、紅茶好き代表として勝手に呼ばれたのかな」
この模様のマントからするとこいつも魔導師か……どうしてこう、魔導師連中は異常な状況をどこまでも冷静に把握できてしまうんだろうな。
「貴方のような人の相手をさせられる事が多いからですよ」
どういう意味だ。
「あと、あなたのような人はさほど嫌いではないのです。魔導師は『普通じゃない』がデフォルトですからね」
「ふむ、的を得ている」
えーと、突然やってきた青いマントの青い髪の人はトリス・ヴァーニスさんだそうだ。
曰く、コーヒーはあんまり好きじゃない、やっぱり発酵茶が一番だ、あとワイン、とかのたまってます。
そうですか、でもお茶にもカフェインは入っているんだけどな?
「大体、そこは酒に転ぶところではないのですか」
「嗜好品が酒やたばこではなくコーヒーに転ぶ所が……」
えっへん、俺が王道嫌いと名言するゆえんである。
ちなみに酒は飲めるけどな、ザルじゃねぇし……夢見が悪くなるのであんまり好きじゃないです。
「あまり寝たくない人のようです」
「コーヒー飲むと眠れなくなるタイプか」
いや、そうでもねぇけど。コーヒー飲んでも俺は爆睡出来るけど!
とにかくそれで、お前の話の続きはどうなったんだ!
「ああ、コーヒー流通の話でしたね。正確にはコーヒー豆の流通ではなく、コーヒー栽培の広がりについて」
「ほう、そこにあるのはコーヒーの苗木だな。よく手に入れた」
トリスさん、そんな関心するトコなんすか?
ちなみにこれ、ようやく念願かなってディアス国の某フィナルなんたら商家経由コウリーリスはマリア市から頂きました。なんでもコウリーリスの南の方、マリアでコーヒー栽培始めるんだそうだ。それで、そこに住んでるアベルから苗木を分けてもらったんだ。
やったねー!やっと念願のコーヒー栽培が出来るぞー!っていう事にようやくなったって訳だよ!
「ふむ?俺の時代にはマリアなんて町はあったかな?」
「トリスさんは今回どこからおいでになっているんです……ああ、あの時(参照:時空を超える番外編『戦いを捧げろ』)よりもっと前、……6期南国時代からですか……貴方も長らくこの世界にフラフラしているんですねぇ……」
6期ったら相当に前じゃね?地形も今とは相当に違うと聞いている。
「じゃぁ一応ご説明しておきましょう、現在は8期でディアス国がセルヴァリナ島に移動しているんですが……」
「……え?そうなのか……あの国も……まぁいい、それで?」
8期っていうエラい未来に迷い来てる事には驚かんのだな、この人……謎な魔導師だなぁ……てか、青マントって居ないんじゃなかったっけか?
「その辺りは今回、ツッこんでいると長くなるので何時もの様に、知らんけどで飛ばしていただきたいのですが」
しょうがねぇなぁ、知らんけど。
「その周辺の黒竜海を隔て対岸のコウリーリス国にマリア、という村落があります。ディアス国の移動に伴いコウリーリス国の黒竜海近辺地域の植民地計画が企てられ云々、という時代背景があるわけです」
「ふむ……そうならざるを得ない都合は想像出来るな……」
「しかしそうしないでフィナル商家が近辺地域に商業指南を行い……当然国からは色々睨まれたりしたようですけれどね……それで気候に合わせた農作物を作るようになりました。ごくごく最近の話です」
「それで、マリアにはコーヒーが適していた訳だな。俺の時代コーヒーは……バセリオンとタトラメルツ、フェイアーンあたりの専売特許で門外不出、軍隊によって厳しくコーヒーの畑が山ごと規制されていたりもしたが」
「今は少々気候や環境が異なり、あの辺りではコーヒー栽培はしなくなってしまった様です」
え?何それ?コーヒーの栽培規制?
「それだけ昔から価値のある嗜好品だったという事ですよ」
……その歴史はごにょごにょ(俺達のリアルでも同じような歴史って事だよなぁ……)……知らなかった。一応、リアルでもコーヒー好きだから、それなりにコーヒーの歴史については知ってるんだぞ、俺。
「実は、マリアで近年まで一大産業だったのはコーヒーじゃないんですよ」
む、トリスさん難しい顔になって少し考えている。
「芥子だな」
「さすが青魔導、生きている時代が違うのによくわかりましたね」
「ディアス国の移動や、植民地という話から……色々と、な」
相当昔から同じ事やらかしてんのかもなぁディアス国。いい国なのか悪い国なのか、まぁ光強けりゃ闇も強い、そういう二面性のある国と言われているだけはある。
「その立て直し事業を我々の友人にして同士である仲間たちがフィナル商家に協力を仰ぎ、今行っている最中なのです」
うーん、その商家?それがもしかして重要なのか?
「そうだな、コーヒー豆は俺の時代、つまり昔から栽培方法や苗木、生豆などの輸出が厳しく規制されていて、その背後には世界にコーヒーを輸出する商家や国が絡んでいる。ちょっと記念にイチジクやリンゴを植えるから、というように簡単に苗木を取り寄せる事は出来ない作物なんだよ」
「コーヒーの流通形態もまた、そういう事情に拍車をかけました。発芽出来ない『死んだ種』でしか流通させる事が出来ない。コーヒー豆はその形状からレッドチェリーとも呼ばれ、果肉は非常に甘く管理が悪ければ簡単に腐敗を招きます。故に、果肉は取り除き、乾燥させた生豆と云う状態でしか流通網に乗せる事が出来ないのです」
ああ、そのあたりはこの『楽しい家庭菜園 亜熱帯気候編』にも書いてあった。
「……誰だ、そんな書物を刊行したのは。物好きというか……平和な時代なのだな」
さすが魔導師だ、言う事同じでやんの。俺にはなぜこの本がそんなマニアックなのかよくわからんけど……
「需要がなければ本なんて、製本だってタダではないのですよ。貴重な技術書となるなら民間ではなく国家で所蔵するでしょう。多分それを作ったのは……」
あ、あとがきにカイエン・ナッツの名前が!気がつかなかった!奴め、相変わらずシャイだな、もっとドーンと名前を載せればよいのに!
「……ナッツさん、そこまで親切に面倒を見なくてもいいと思うのですが」
いやぁ、奴の事だ。多分通常業務に辟易してて、息抜きと称して書類集めて本作ったんだろ?あいつも今亜熱帯気候のマリアに引っ越してんだろうし。伊達に天使教布教マニュアル見直して改定した実績持ってねぇぞ?
*** *** ***
そうかぁ、コーヒーの木一本手に入れるにも本来は簡単な事じゃぁないんだな。
ようやく俺がコーヒーの自家栽培に着手出来るのは……フィナル商家って奴のおかげか。
拝んでおこう、ありがとうフィナル家。
「じゃあ、これでもうコーヒー豆をここに運ぶ必要は無くなったんでしょうかね?」
いや、それがな……コーヒーって簡単に実が成って熟すもんじゃねぇんだよ。花咲いて収穫してコーヒーにして飲むまでガチに1年かかるらしいんだよ。ヘタすると2年周期とか書いてあった。
というわけでしばらくはまだオネガイシマス。
てゆーか、貰った苗木が即花を付けるとは限らんだろうよ。
俺はここで、ゆっくりとコーヒーを増やすんだー うふふふふふ……
「そういえば、収穫が安定するまでかなり時間が掛るという話をナッツさんがおっしゃってましたね。そもそもまだマリアの統治混乱が収まっておりませんし……マリア改善指導は長らく掛りそうです。阿片過もいまだ酷いそうですからね……」
……そうか。うん、今度は赤い花じゃなくて白い花でいっぱいになるわけだ。
きっとアービスも喜んでくれるだろうな……俺もう何も出来ないけど、今度ナッツさんに会ったらがんばれって言っておいて。
「いいですけど、日和見の貴方からそんな事言われたってきっとナッツさんやアベルさんは苦笑いするだけだと思いますけどね」
正論だ……だが、構わないね!奴らは俺がそういう奴だという事はよくご存じのはずだ!
って、トリスさんあんまり森の中フラフラすると危ないッスよ?
「ジャングルの中にある割にずいぶん、開けていて肥沃な土地だな。ここは……緑の森近辺か」
「ええ、正確には少し外れですけれど」
「……俺の記憶違いでなければこのあたり、でっかい木が無かったか?」
思わず目をそらす俺と腹黒魔導師であった。
「……まぁいい、いかなるものも命ある限り、いずれ終わる。はたしてどれだけここが未来か、面白い白昼夢を見たと思って夢から覚めるとしよう……では、」
あ、くいっと紅茶を飲みほしたら……煙のように消えちまった。
さてでは……気を取り直してようやく手に入ったコーヒー苗を植えるとしますかね。
すでに見合う畑の場所は確保し、土の改良も丁重に重ねてある。
コーヒーは葉の病気に気を付けた方がよいのだそうだ。よし、じゃぁさっそく始めるぞぉ!
「ところでヤト、」
呼びかけられ、俺はあと用無し、土いじりを手伝う事など一切しない腹黒魔導師を振り返る。
「今日の日付をご存知ですか?」
日付?面倒だから月の満ち欠けで適当にしか数えてないんだよなぁ……。
「今日は陽歴10月1日、リアルにおいてコーヒー年度の初め、コーヒーの日です」
ははぁ、なるほど……そういう趣旨だったわけですか。うん?今日が10月1日なのか?
「ご存じない、という事は……その苗を今日貴方に届けたナッツさんの、ちょっとした心配りでしょうかね」
そりゃぁご機嫌だ。
実際、そのコーヒーの日なんて記念日、こっちの世界じゃ超絶に関係ねーけど。
でも、俺の庭では今日がコーヒーの大記念日、そういうわけだな。
悪くねぇ。
「最初の木、枯らさないで下さいよ」
ははははー……まぁ、俺も家庭菜園とかプロじゃぁねぇからなぁ……。俺が得意なのはものをぶっ壊す事なわけで、生まれてこのかたそういう事しかしてこなかったわけで。
命を奪わず、逆に育てるなぁんてのはここ最近始めた事だ。
自信は無いな、正直いくつかの苗木をダメにした実績の方が計り知れない。
枯れないで白い花が咲いて、赤い宝石みたいな果実が無事熟すのをお前も祈れ、何?祈りは魔導師の理念としては適切ではない?いいから祈れ!
俺も、今日が記念日として祈っとく。……ええと、誰に祈るんだ?
……もしかして……この庭の主である、俺自身にか?
おわり。
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