異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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番外編 補完記録13章  『腹黒魔導師の冒険』

書の4前半 生かす為の時間を『それは、僕であるべきだ』

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■書の4前半■生かす為の時間を I`ll buy you some time 

 状況は、現在に戻ります。つまり……半壊した直後のタトラメルツへ。

「アーティフィカル・ゴーストをご存じなのですね」
「同じような手段を研究しているからな」
 僕が警戒しているのを察してか、エルドロウから魔導知識の提供は受けている、極めて近年そういう魔導式が発案された事を知識として知っているだけだから、良ければいろいろと教えて欲しいものだとナドゥは言った。
 事実です、彼は嘘を言っていない。
 アーティフィカル・ゴースト理論は遡れば極めて近年正式発表しました。
 勿論、僕がね。
 解放理論が揃っていない都合、途中経過として上げていた筈です。すでに大陸座から禁忌に近しいという通達があって、その都合発表が遅れていた事も添えてあります。
 万が一ヤトから、アーティフィカル・ゴーストの実在がバレた時、なんらかの詭弁を交える為にある程度の事は世間に公表しておくことにしたからです。

 もしかすれば……大陸座が干渉した魔導技術という所にこの男は反応しているのかもしれませんね。

 今、アーティフィカル・ゴーストを生成できない事情をナドゥは理解しているのでしょう。
 彼で幾ら否定しようとも、ナドゥが魔王八逆星側である事は間違いない。
 アーティフィカル・ゴーストの理論は、一種魔王八逆星が陥っている『バグ』の仕様に近い気がします……その事にドゥは気が付いているのでしょうから、恐らく僕が開発したそれを自分で再現させて、魔王八逆星達が発症している異様な力の、理論的な理解の為の『足し』にしようと思った筈です。
 しかして、すでに理論は予告通りに禁忌に触れているために再現が不可能となっている。
 ともすれば、すでに在った物を彼が、ヤトが何らかの形で所持した……ヤトが魔法に対する異常な反応を示す事を察しているなら、横取りした可能性までも把握しての―――『正解』ですか。

 この男は相当に油断がなりませんね、魔法を使う様には見せませんが、きわめて正確にフォーミュラ(魔導式)を理解している。
 魔法使いではないのにここまで精通している場合、考えられるのは魔法因子を持たない白魔導師か、あるいは……西方国側に多いとされる錬金術師でしょうかね。
 噂では、その錬金術師というのは魔法を使わずにフォーミュラを成立させる事が出来るそうです。完全な技術力だけで魔導式を成立させるなんて、魔導師にしてみれば信じがたい事なのですが……。
 しかし、錬金術師なら魔導師を毛嫌いしている事が多いので、魔導式やらフォーミュラやらの我々の言語や言い回しは避けるはず。

 この男は一体何者だろう?

 今得ている情報から考えられる、この男の正体について僕は思案するに一つの可能性を見出せますね。
 ここは一つ試してみましょうか。

「僕の開発した理論など、大したモノでは無いはずですよ」
「そうだろうか?」
「世の中には後天的に暗黒比種を発動させる技術もあると聞きます」
 ナドゥは顎に手をやって僕をしばらく眺めた後、言った。
「そうだな、そうだった、あの後君達はシーミリオンに連れていかれたのだろうからそういう事は察して居て然るべきか……成程」
「と云う事は、貴方もそれは御存じの様ですね。僕はそういう技術の方がレベル的には上であるし、利便性と云う意味では優れていると考えますが如何ですか?」
「あれは瞬時に、とはいかない技術だ、リスクもそれなりにある。任意で切り替えも出来ないし、精神的な不具合も起こり得るから安定までに時間が掛かる。その辺りの事情を彼らは、君に説明しなかったのかね」
「残念ながら、その技術者がすでにシーミリオンに居ないという事でしたので詳しい事はお聞きできませんでしたね」
「そうか……ふむ、」
 別段、『この話』を避けている風では無いようです。むしろこちらが知っている事を察して会話を重ねた気配すらあります。と云う事は……僕の懸念は『あたり』……ですかね。
 僕がここで、何を懸念したのか、ヤトだって比較的早めに気が付いた位ですからねぇ、僕はもっと早くにはこの可能性について思う所があったのです。
 シーミリオン国の次期国王でありながら、魔王討伐に出かけて戻らない、希代の技術者。

 キリュウの兄、リュステル・シーサイドの行方ですよ。

 何しろ、魔王八逆星というのはエルドロウが存在する都合からして『第一次魔王討伐隊』と何らかの関連を持って居るのはもはや疑いようが無い。
 隠している、という風ではない……となると、今ここでそれを追及する意味は特にありませんね。正解でも、不正解であっても、です。

 一瞬、意識を失って倒れているヤトが身じろぎしたのにナドゥは身を固くした。
 暴走した彼を、中々に警戒している様です。今しばらくは『これ』で、イニシアチブを握るしかないでしょう。

「それでどうだね。彼の中のその力は、君で制御できるものなのか?」
 ヤトの暴走を僕が抑えたように見えている、実際抑えたのだと……嘯いて置く必要があります。
 残念ながらヤトのコレは、僕の知っているアーティフィカル・ゴーストから変異している。ミストレアル結晶を体内に蓄積してしまっている彼の中で、魔法や魔導式が変異しない保証などありません。むしろ異質な魔導的変化を起していても不思議ではない。
 僕からアーティフィカル・ゴーストを無意識に吸収し奪っていった彼ですが、その後ずっと観察を続けていましたが目立った異常は感じられませんでした。力を暴走させている様な出来事は起きていなかった……今回のタトラメルツに至るまでは、ね。
 今まで観察出来た事から察するに、これは僕が知るゴーストではない。
 僕の中に残っているものとの相性はすでに失われていて、完全に別のものに変異している。何より、与えていた筈の形が違います。ゴーストをあえて視覚化させるために蔦の様にのたうつ影の形状が出るのは、まさしく僕が設定した仕様ではありますが、そもそもはヤモリの形を与えていた筈です。ヤトのゴーストにはその面影が無い。しかもそれが体の外にまで這い出して、事も在ろうか物質を分解し、破壊する作用を及ぼしている。すでにヤトの中のアーティフィカル・ゴーストは、彼が求めた力の在り様を表現する形に変異していると考えるしかないでしょう。
 そしてその力は……何故か『僕ら』を拒絶する。
 えり好みをするようです、恐らく無意識的なものでしょうがこの辺りはよくわかりません。
 アーティフィカル・ゴーストは概念なので意思があるはずがない、あるとすればそれはヤトの意思でしょう。

 彼は、願ったのです。

 あらゆる物を破壊できる力としての方向性を求め、取り込んでいたアーティフィカル・ゴーストをついに叩き起こしてしまった。彼をそこまで魔王八逆星は追い込んでしまったという事です。致命傷を与えるだけならば、彼はすでにシーミリオン国でそういう事態に陥いった事でしょう。しかしこの異様な力を発現させることは無かった。
 誰かがスイッチを入れたはず。
 決して入るはずが無いはずの起動プロトコルを、誰かが……押し込んでしまったのです。
「一体彼に何をしたのですか?」
 僕の質問には、何故かギルが困った風に頭を掻きながら答えた。
「何って、いやぁそれは、なぁ?」
 ギルが隣で笑っているのを制してナドゥは言葉を濁す。
「色々試させてもらったのは間違いないが、……まぁいい」
 どうやら僕に色々と話す事について、警戒しましたね、まだ信用は得ていないのですから当然ですか、ね。
「それで、君は彼の状況を、再現する事は可能なのか?」
 
 現状を、とりあえず伝えるとしましょうか。
 言葉で説明した所で疑われているなら時間の無駄になります。ログアウトも近い、今後の予定について『僕』の意識が無くても、取るべき手段を定めて置いて次のログインに備えるべきです。

 その為に僕は、自分の中に残るアーティフィカル・ゴーストを起こしました。

 黒い染みのような、ヤモリの形をした影が体中を這い回る、その苦痛を悟られないようにしながら僕は自分の持ちうる力を開放して彼らに、見せた。

 『起こした』のは久しぶりなので改めてここで状況を把握できますね。
 この技術には、すでにレッドフラグが立っていたのです。
 大陸座から禁止とされ、それでもなお使用し続けるに命を削る、あるいは大陸座の干渉を得てしまったからこそ僕が開発したこの技術にはフラグシステムが適応され、かつ不正利用としての変異が起きている。
 もっとも、魔王八逆星らはこの赤色のフラグが見えているわけでは無い。
 自分達の頭上に赤い旗が立っている事など分かるはずもない事で、僕が自分のゴーストに赤い旗が見いだせる事実に、実は驚いている事にも気がついては居ないはずです。

 逆説的に理解が及びます。
 レッドフラグとは、やはり僕ら異世界の者が齎した弊害なのだろう、と。

 魔王八逆星らは何らかの形で異世界からの干渉者、すなわち大陸座から干渉を受けている。何らかの干渉、それがどの程度のものなのかは分かりません。会話、接触、力の譲渡……何が原因になっているかは今現在、はっきり断言できる状況では無い。
 ウイルス感染するようなものです。どういう手段で相手に感染するか、という事が問題なのですが現段階、それはまだ探っている最中にあります。
 そうしてその後、何かが起こり……変質した。
 大陸座からの干渉を受けたという『事実』を元に存在が変質している。

 ナドゥが、危惧した通りリュステルであるならば、彼はシーミリオンに居た大陸座、ナーイアストを知っている筈ですね、何らかの制限が掛かる前で会話や面識も持てる間柄であった可能性があります。しかし、ここはまずその事はおいて置くとして―――魔王八逆星に干渉した大陸座とは『誰』であるのか。
 そんなもの、この世界の理を知っていれば容易く想像は付きます。

 所で、この世界がエイトエレメンタラティスと呼ばれている事は一般教養ではない。

 ですので、……その事を例えばヤトが理解しているかどうかは微妙な所です。あれで中途半端な学はある様なので存外知っているのかもしれませんが、どうでしょうね。
 八精霊大陸という名称はこの『世界』と、それ以外とを比較する時に必要とされた概念と言えるでしょう。
 この世界は八つの精霊の加護あって存在する世界である、故に古い言語でエイトエレメンタラティスと呼ばれている……という、一種『歴史』が残っていたのですね。そして現在もその名称を使い続けているに過ぎません。
 今、国の数も同じく8つになっていますがそれは偶々でしょう、もう少し遡れば西方はいくつもの国が在った事は確認出来る事です。
 とかくこの世界は8という数字に縁があるのですが、実は世界を作ったのが8精霊とされるとしても……実際にはもう一つ重要とされる精霊が居るのです。

 9番目の精霊は時間を司る者。

 ただし、遡って四期の頃に空の精霊と争った結果、時間の後退が失われてしまった、とされています。故に、時間というものは前に進むしかないものであり、これを魔法などで巻き戻す事は禁忌とされるわけです。

 まぁ、十中八九その9番目が何か事故っている気がしますね。
 僕が好きな『王道』路線で考えれば討伐依頼されている魔王ギガースというのは、9番目の大陸座である可能性は大いにある事で、そういう展開で然るべきだとさえ思って居ますよ。
 それを在り来りだとか、安易だとか言うつもりは勿論ありません。むしろ、この流れであるならそうあるべきだと思うのが僕の『王道趣味』という奴です。
 展開がある程度『読める』からと云って楽しみがなくなると云う訳では無い。例え先が分かっていても、やっぱりそうだったとか、そう思わせておいて少し違ったとか、そういう答え合わせをした時に初めて先を穿てたが故のカタルシスが訪れるものだし、そういう『快感』を味わいたいというのが僕の、王道路線に向ける率直な願いですね。
 その話はこの辺りにして……それで、魔王八逆星という存在を世に排出した経緯については『大魔王討伐』が何らかのカギとなっていると推測します。ともすれば、ヤトの変異も大魔王の所為でしょうか?恐らくは9番目の大陸座、そしてあるいは大魔王ギガース。ギガースが、ヤトの中に存在しながら押し込まれる事は無く、眠っていたスイッチを起動させてしまった……。
 先ほど、とはいっても間に僕の背景についてのリコレクトを挟みましたので、すでに4話区切り分前の話になるんですが……。
 ようやくここでナドゥが口走った言葉の意味が見えてきます。
 ヤトの体質の異常性について、僕が先に目をつけていた筈なのだから横取りされるのは惜しいですと答えた所、即座ナドゥはこう返して来たんですよ。

『その気持ちは分からんでもないが、君が想像している以上に彼は『異常』だぞ。ギガースの力には屈した様だが、我々の干渉を受け付けないなんてこの世界に存在する者として理論的には在りえない事だ』

 恐らくナドゥは魔導師的な気質、すなわち未知なるものへの探求心が大分強いのでしょう。魔導師では無いにせよ、アルチザン的な気質は備えていて思わずヤトが返してくる予測をはるかに超えた『答え』について、共有できる人物を見つけて思わず興奮してしまったのだと思います。
 
 要するに、オタク同士が出会って何らかの事情で、例えば同じ『推し』である事などを知って、思わずテンションが上がって我を忘れて早口になっちゃう、みたいな感じです。

 つまり……魔王八逆星という存在は、すでにヒトのなんらかの『スイッチ』を推し込んでしまう存在と云う事でしょう。大陸座と似たような所に立っている。それは裏返せば大陸座は魔王八逆星と同じく世界の中に在って異端と呼べる、と云う事。

 少なくとも大魔王ギガースは、この世界のあらゆるものへの異常な干渉を起こす。

 ヤトは、どうやら魔王八逆星のソレは退けた様です。しかしギガースからの干渉は受けてしまった状況だとナドゥは、思わず魔導師である僕に『答え』を口走ってしまったという訳ですよ。

 勿論僕も即座理解と云う訳にはいきませんで、色々と順を追って思考論理を並べたわけですが……。だとすれば、僕が今取るべき行動は何であるのか。このまま魔王八逆星に取り入り、彼らの目指す所に歩み寄って行くべきでしょうか。
 ヤト達を裏切る事になってでも、大陸座が気を配る通り、いずれ『セカイ』を破壊する事になってしまっても……自分の滅びを選択する為に、魔王八逆星に従順であるべきか、否か。
 僕のキャラクターとしては悪くない選択です。
 それで、僕が望んでいた『舞台』は整うでしょう、そして僕が目指した僕の物語は完結する。そのエンディングロールに世界の破滅がどーのこーのという話は必要ではありません。恐らく、世界の破壊に付き合う前に僕の舞台は幕が下ろされる。

 例え僕の所為で世界が壊れたとしても、あるいは……このゲームのバグ取り、すなわちデバックに失敗して世界の公正を保てなくなったとしてもそれで、良い?

 ……そのエンディングで良いと思っているのはレッド・レブナントだけですね。

 ダメです、それではダメなんです。

 『僕』の方でその終わり方で納得が出来ない。なんというめんどくさいキャラクターを立ててしまったんでしょうね、『僕』は。
 ブルーフラグのデバッカーとしてこの世界に干渉しているプレイヤーとしての『僕』が、それがレッドというキャラクターの到着点であるのならばもう少し緻密な舞台設定をするべきだと囁いている。

 僕は、『僕』である限り、僕の終わりと『僕』の終わりを極めて近づける努力をする必要に迫られている。
 レッド・レブナントが自らの消滅を迎える時に、出来るだけレッドフラグのバグを解決に導いておく必要が在る。そう、僕が嘘吐きで、裏切りも辞さないキャラクターである為には……最後の最後まで只管に周囲を裏切り、それでいてデバッガーとしての仕事はきっちりこなさなければ『嘘』になってしまうから。
 プレイヤー、イガラシ-ミギワはデバッガーとして、世界を救う為のあらゆる努力をする事を諦めてはいない。
 『僕』は……。

 存在が、この世界において正しくは無いと差し示す赤い旗が灯る、ヤモリを模したアーティフィカル・ゴーストが僕の体中を駆ける。

 一時置いて不快感と、得体の知れない『痛み』が尾を引いて行く。

 体感、数十秒の電撃的な思考は、もしかすると能力値の引き上げを行うアーティフィカル・ゴースト作用でしょうか?僕は、結局自分で開発したこの魔導を存分に解析出来ている訳ではないのですね。使った事が公になれば……そうですね、魔導師ではなく、邪術師として弾圧される可能性もある。それはある意味事実なのだから仕方のない事ですが、何分『面倒くさい』事だと思っているのです。
 邪術師として裁かれ、もしかすればそれで死ねるかもしれない?
 残念ながらそれは、ありませんね。
 邪術師認定されて観念して魔導都市にとっ捕まろうものなら、その後は人権をはく奪されて何をされたって文句は言えない身分になるだけです。容易く死ねるとは思えません。死ぬ事より、ずっとずっとそうなってしまう方が恐ろしい事を魔導師達は承知しているから邪術師認定だけは避けようと法の網目を潜る事に必死なんです。

 なので、あまり長時間開放して置いた事が無かったのですが……それは、この肉体に依存するでも無い、感覚的な『痛み』に耐えられなかっただけかもしれません。

 一度感じてしまった『痛み』は忘れようがない。
 段々と、積み重ねる様に酷くなるその感覚に僕は、思わず耐え切れなくなって術を解いてしまっていました。
 気が着けば荒い息を吐き、肩で呼吸をしている。
 それだけ、僕は今自分の命を削ったはずですが、果たしてこの程度でどれ程削れてくれたものか。 

「こいつは驚きだな、アレを介さなくったって出来る奴は出来るって事じゃねぇか」
「故にこの魔導式は禁忌として封されているのだろう」
「ふーん?コイツ加えてもっかいやり直した方がよくねぇか?」
「良くは無い。それでまた誰かが暴走するリスクを負うのは得策ではない、ひとまずアレはあの措置で良いだろう。根本解決こそ望む所だ」
「そりゃそーだが」

 僕が、彼らと同類である事は認めて頂けたようです。
 一体何の話をしているのかは分かりませんが、ギルが言っている『アレ』というのはギガースで……ヤトは、……ギガースと会って何か良くないスイッチが押されて……無意識的に寄せ集めていた力を変異させてしまった。
 せめて僕と同じ状況ならまだ救いがあるのに。
 彼の体質が、ミストレアル結晶に留まらずアーティフィカル・ゴーストも飲み込んでしまうものだったのが不幸としか言いようがない。そもそも、引きはがす方法を探して唸っていた僕から、それを幾分剥がし取って行くなんて、非常識にも程がある。
 結局はそれがヒントになって、アーティフィカル・ゴーストを剥ぎ取る理論は完成間近の所までは来ているのですが……それだって、今のところは彼の助力が無ければ成立しない、完全な技法とは呼べないものです。
 僕の場合、厳密に言えばレッドフラグが立っているのはアーティフィカル・ゴーストだけ、具体的にはヤモリ型の影にだけですが……彼は既にそういう状況にはない。
 ミストレアル結晶だけではない、彼はアーティフィカル・ゴーストも自分の中に完全に融合させてしまっている。メカニカルかつ、オートマティックに、です。
 厄介極まりない。

 だから、彼の場合は魔王八逆星と同じ。
 その頭上に、その存在そのものにレッドフラグが灯っている。

 僕のゴーストは、ヤトと云う媒体を介してではありますが剥がす事が出来るでしょう。
 ですが、……彼はその理論の外に居る。あの異常な体質を改善できる方法があるなら、ミストレアルも、吸い寄せてしまったゴーストも、吐き出させる事が出来るかもしれませんが体質というのはそう簡単に変える事が出来ないものですからね……。

 今、とりあえずその破壊しようとする影が破壊対象を『えり好みする』らしい特質を生かして抑え込みましたが、いつまでも僕が傍に居るわけにもいかないでしょう。
 シーミリオンに居た大陸座、ナーイアストから預かっていた結晶体を密かに体に埋め込みました。これが無事に『不正を正す道具』として世界に配されるまで、時間を稼ぐ必要が在ります。
 そうしながらなんとか、僕が当初描いていたシナリオへの軌道修正をしなくては。

 砂地に横たわり、意識の無い彼の横顔を振り返る。

 滅ぶべきなのは、貴方ではない。
 僕であるべきなのだから。

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