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番外編・後日談 A SEQUEL
◆トビラ後日談 A SEQUEL 背丈の低い花の園
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◆トビラ後日談 A SEQUEL 背丈の低い花の園
※本編終了後閲覧推奨、完全なる後日談です※
*** *** ***
世のパソコン持ちの人が時に無駄な時間を無駄に消費するゲーム、某地雷撤去運動。
同じものに、一人遊びという直訳のカードゲームがある。近年のバージョンだと5種位遊べてさらに時間泥棒この上ないし、アプリケーション起動になったからゲームの幅がもっと広がって大変だ。
古い話だと、ボールゲームやパズルゲーム、あと……戦艦魚雷ゲームとか?流石にその辺りまでに成って来ると知ってる奴は極めて少ないものだとは思うが。
えっとな、これ、バージョンにもよるんだが……地雷じゃなくてお花畑にできるのがあってな。
これ、なんかいいよなって思って。
緑の原に、うずもれているのは地雷ではなく……白い小さな一輪の花。
それを踏まないように、周囲の花の数を数えながら慎重に進んで行く、そんな自分を幻想しながらこんな……番外編だ。
*** *** ***
「おとーさん、何やってるの?」
間延びした声に驚いてカイエンは振り返った。
「あ、ダメ!そっから入ってきちゃダメ!」
腰のあたりまである柔らかい草の生い茂る草原へ、限りなく白に近い翼を追いかけて分け入ろうとしたソリアルは足を止めた。
この森に置いて『森守』である父の命令は絶対だ。
普段あまり何をやっても口を出さない分、的確な指示がある場合従わないと大変な事になる。
この森は危険なのだ、人が住んでいない分、人と関わり合わないものが多く潜んでいる。
危険な動植物だけなら良いのだが、この近辺は周辺国家から一種保護区域認定をされていて、各国から追われているありとあらゆる方向性の『キケン生物』が自然と集まってきてしまっているらしい。
何か一定のルールがあって、その中で暮らしている以上それを順守しないと……危ない、と父は言っている。
実際巨大な魔物や、たやすく人に危害を与えるような凶暴な動物が跋扈していて、そういうものに遭遇してしまった事もままあるソリアルは、都度森を覆う『ルール』が自分の周囲の平和を守ってくれているのだなと実感するものだった。
その『法』こそが父の命令だ。
……しかし、実のところ父の指示に従わない場合本当に致命的なのは、夕飯のおかずが一品減ったり、余計なおつかいを言い使ってしまったり、場合によっては遠慮なくげんこつが飛んでくる事であったりする。
御飯が少ないのも悲しいが、ぶたれるのも嫌だ。
何より父も好きで叩いている訳ではない。やってしまった後の表情を見るだけでそれが分かる。
……ソリアルは何よりそんな父の顔を見るのが嫌だった。
そこまでしてでも、森にある法から逸脱する事を父が許さないという事だ。
破ってしまうと……危険が近づく……それだけはソリアルにも良く分かっている。
「何?……ここ、なんかヘンな生物でも住んでるとか?」
「うん、すごい地雷がいっぱい埋まってるからお前はこっち来ちゃダメ」
「ジライ?ジライって何?」
やや遠くで父カイエンはため息を漏らし……腕に抱えていた長い枝をいくつか足元に差し込んだ。そうしたうえでやや前かがみになり背中に折りたたんでいた大きな翼を広げる。
草原を渡る風を翼でつかみ、ふわりと浮きあがる。大きく羽ばたいて草原を脱出し、そのままソリアルのいる森の入口まで戻ってきた。
唐突に森が切れて……広い草原が広がっている。
深い森におおわれたこのあたりでは珍しい光景だ。
「まいったね、いつの間にこんなに草が生い茂っちゃったんだろう」
カイエンは頭を掻きながらその草原を振り返り見た。
「この先何か用事があるの?」
その為にここをつっきらなければならない理由はソリアルにもよくわかる。このあたりは地形が複雑ですぐ近くに渓谷もあるし、淵と呼ばれる脱出不可能の裂け目も多く開いているのだ。この広がる向こうに見える地形を目指しているのなら、周囲の森を抜けるよりこの草原地帯を越えるのが一番楽な道だろう。他から回ろうとすると倍以上の労力がかかるのは間違いない。
「でもさ、おとーさんなら飛んできゃいいわけじゃない?」
「お前は、歩いていかないとだけどな」
空を飛ぶ事が出来る大きな翼を持つ有翼種のカイエンは渓谷も淵も森さえ関係なく空を飛んでいけばいいのだが……娘ソリアルはそうはいかない。まだ未成熟の為、翼が開花していないのだ。
未だ固い殻のようなものに覆われた背中のでっぱりをソリアルは。撫でながら口を閉じる。
「一人くらいなら抱えて飛べるけど、それ以上となると僕には無理だし……大体」
「大体?」
「……いや、別にお前を向こう側に連れていきたいわけじゃないんだけどな」
カイエンは言葉を誤魔化し、ソリアルの肩を叩いたのち……にっこりとほほ笑む。
父がこのように微笑む時は要注意だ。
逃げようとしたがすでに、叩かれたと同時に肩を掴まれていて逃げられない。
「ところで娘よ。ここ準立ち入り禁止区域なんですけどどーしてお前はここにいるのかな?」
「あーと、ええとー……迷っちゃった?」
実際、ソリアルは森で育った癖にとかく道に迷う。
盛り育ちなのに森を歩けないのでは話にならない、というわけで色々工夫して日々鍛練を欠かさないソリアルであったが、そうやって時にこうやって変なトコロまでやってきてしまうわけだ。
カイエン・ナッツ。およびその娘ソリアル・ナッツはここ『緑の森』で管理人をやっている。
正確にいえばソリアルはその見習い。
だが父カイエンは、国々が正式に立ち入り禁止を決めている『森』を囲む区域の、正式な番人を務めているようだ。
……ようだ、というのは正しくはソリアルの推測であるからである。
父は詳しく自分の背負う肩書を教えてくれない。
何か都合があるのか、話たくないのか。娘から見てもどうにも謎が多い。
例の微笑みを浮かべながら秘密、とか言われてごまかされることの多さは計り知れない。
どうにも森守の仕事は各国の認定を受けている訳ではないようなのに、各国との連絡パイプは持っているようでタダものではないような人が突然訪ねてくる事があるし、なんだか随分豪華な封書がどっさり届くこともあった。話を聞いていると南はカルケードから北はシーミリオン、果ては遠東方イシュタル国の高官ともやりとりをしているような気配がある。
こっそり手紙を読んでみたが、東方からの手紙は難しい字が多くて読めなかったり魔導師が使うような古代語が使われていてさっぱり内容が分からない。
そう云う文字を使わない西、北方の手紙は読めるかというとこちらは何か特有な暗号文だったり魔法で文字が見えないものだったりする。
南方は特有の言い回しが多くてやはり意味不明。
……手紙を盗み見しているのがその後、ばれてしまったようだ。父はそれを咎めるでも無く、以来手紙はひっそりと、どこか探し出せない場所に隠されてしまってしまう有様。
各国が森守を定めたとして、これを支援、保護をするなら父に一任なのはおかしいのではないか?頑張って考えるに、各国の足並みがそろっているわけでは無い社会情勢を知っているので、そこで全員森の管理を父にまかせっきりなのはどうにも納得できない。
この『立入禁止規制』された危険な森で暮らしていくのに、各国は安全など全く保障はしていない。守を囲む国々は、森守に安全札を与えている訳でも無い。。
森守として自分達がこの森に許されるのは、この森の主がそれを許しているからだ。
それだけは父から聞いている。
では、森の主とは誰だろう?
「準立ち入り禁止って事は、こっから先はその」
「うん、僕の持つ権限の及ばない危険区域だ。まったく、どこをどう歩いたらここに来るんだよ?」
「あー……そろそろヤバいトコに来てるかなーって、戻ろうとしてたトコだったの。そしたら見た事がある背中が見えたからさぁ」
それで何をしてたの?
尋ねられ、カイエンは答えるべきか迷うようにため息を漏らす。
「……酷い間抜けな話なんだけど」
「うん?」
「あそこね、一種の畑みたいなトコだったらしい。人為的に開いてそれで……」
カイエンはそこで多大に迷い言葉を切る。暫らく考えてからソリアルをその場に残し、やけに背の高い柔らかい草をそっと掻き分け……ご覧と足元を示す。
「あ、お花」
背の高い草の根元、ロゼットを形成し背丈の低い白い小さな花が咲いているのを見つけ、ソリアルは目を丸くした。こんな草の根元で花を咲かせるなんて……やわらかく、細い草は思いの外地面まで日差しを届けるらしい。
「このあたりには自生してない、西の方のもっと涼しい地方の植物だよ」
「そうなんだ、イチゴの花に似てるけど」
「うん、同じ科だろう。で、とある馬鹿が……いや、なんというか管理とか種の保存とかに全く理解のない奴がだね」
言いなおしたがはっきり馬鹿と言った、ソリアルはそんな父の言葉に少し笑う。たまにそうやって無遠慮に話す友人が家に訪ねてくる事があるのを思い出している。
「……西方で見られるような花畑をここに作ろうと思い立って、開墾したあげく種をばらまいたんだけど」
「上手くいかなかったんだ」
環境が違うと育たない植物がある。種がまかれた1年は花を咲かせても、その後土着せずに絶えてしまうという事もあるのだ。
「それで、すっかりこういう有様。ばらまいた種の種類は数多かったみたいだけど今も生き残っているのはこの背の低い花だけ」
カイエンはその花の近くに抱えていた長い枝を差し込んだ。
なるほど、ようやく何をやっているのかソリアルは把握する。
「花を踏まないように目印付けてるんだね。…でも誰の為に?あたしはこの先いっちゃダメなんでしょ?」
「……そこはノーコメント」
「ぶぅ、」
*** *** ***
頭上にいる赤いドラゴンが首を回し、小さな頭を巡らせる。
ドラゴンのくせに異常に利く鼻を鳴らし、足元に生える珍しい花のにおいをかぎ分ける。
「うーんと、周囲にあるわね……3つ分くらい」
「ええと、そこから2つでここから3つか……だめだ、わからん。次」
「こっからだとー……4つ?」
「くそ、どんだけ密集して生えてんだ」
足元に生える花を探し、背の高い草をかき分け悪態をつく。
そんなこんなで男、草原を進めないで立ち往生。
「……諦めてズンズン踏んづけて通ればいいじゃない。足もとの生物一切殺さずに歩くなんて無理なんだから」
「そりゃそーだが、やっぱりあんなちっちゃい花ふんづけちゃったらなんか、気分悪いじゃねーか!」
「いいこと思いついた。上の草だけ焼き払っちゃえばいいんだ!」
そう言って小さな赤いドラゴン、鼻から火炎の吐息を吐きだしたのを男は慌てて払いのける。
「バカやめろ!お前の火力には自重ってもんがねぇんだよ!地面まで焼け焦げるに決まってる」
「あー、じゃぁ制御訓練も兼ねて」
「だーめーだーッ!」
*** *** ***
立て札でも立てておくかな。
キリのない作業にやや飽きてきて、カイエンは広い草原を眺めやる。
『 ここは魔王八逆星の花畑です
故に、踏み荒らすべからず 』
などと。
仮にも魔王、その住居の周辺にあるべきトラップとしてはあまりにも微笑ましすぎるわけだが。
*** *** おわり *** ***
※本編終了後閲覧推奨、完全なる後日談です※
*** *** ***
世のパソコン持ちの人が時に無駄な時間を無駄に消費するゲーム、某地雷撤去運動。
同じものに、一人遊びという直訳のカードゲームがある。近年のバージョンだと5種位遊べてさらに時間泥棒この上ないし、アプリケーション起動になったからゲームの幅がもっと広がって大変だ。
古い話だと、ボールゲームやパズルゲーム、あと……戦艦魚雷ゲームとか?流石にその辺りまでに成って来ると知ってる奴は極めて少ないものだとは思うが。
えっとな、これ、バージョンにもよるんだが……地雷じゃなくてお花畑にできるのがあってな。
これ、なんかいいよなって思って。
緑の原に、うずもれているのは地雷ではなく……白い小さな一輪の花。
それを踏まないように、周囲の花の数を数えながら慎重に進んで行く、そんな自分を幻想しながらこんな……番外編だ。
*** *** ***
「おとーさん、何やってるの?」
間延びした声に驚いてカイエンは振り返った。
「あ、ダメ!そっから入ってきちゃダメ!」
腰のあたりまである柔らかい草の生い茂る草原へ、限りなく白に近い翼を追いかけて分け入ろうとしたソリアルは足を止めた。
この森に置いて『森守』である父の命令は絶対だ。
普段あまり何をやっても口を出さない分、的確な指示がある場合従わないと大変な事になる。
この森は危険なのだ、人が住んでいない分、人と関わり合わないものが多く潜んでいる。
危険な動植物だけなら良いのだが、この近辺は周辺国家から一種保護区域認定をされていて、各国から追われているありとあらゆる方向性の『キケン生物』が自然と集まってきてしまっているらしい。
何か一定のルールがあって、その中で暮らしている以上それを順守しないと……危ない、と父は言っている。
実際巨大な魔物や、たやすく人に危害を与えるような凶暴な動物が跋扈していて、そういうものに遭遇してしまった事もままあるソリアルは、都度森を覆う『ルール』が自分の周囲の平和を守ってくれているのだなと実感するものだった。
その『法』こそが父の命令だ。
……しかし、実のところ父の指示に従わない場合本当に致命的なのは、夕飯のおかずが一品減ったり、余計なおつかいを言い使ってしまったり、場合によっては遠慮なくげんこつが飛んでくる事であったりする。
御飯が少ないのも悲しいが、ぶたれるのも嫌だ。
何より父も好きで叩いている訳ではない。やってしまった後の表情を見るだけでそれが分かる。
……ソリアルは何よりそんな父の顔を見るのが嫌だった。
そこまでしてでも、森にある法から逸脱する事を父が許さないという事だ。
破ってしまうと……危険が近づく……それだけはソリアルにも良く分かっている。
「何?……ここ、なんかヘンな生物でも住んでるとか?」
「うん、すごい地雷がいっぱい埋まってるからお前はこっち来ちゃダメ」
「ジライ?ジライって何?」
やや遠くで父カイエンはため息を漏らし……腕に抱えていた長い枝をいくつか足元に差し込んだ。そうしたうえでやや前かがみになり背中に折りたたんでいた大きな翼を広げる。
草原を渡る風を翼でつかみ、ふわりと浮きあがる。大きく羽ばたいて草原を脱出し、そのままソリアルのいる森の入口まで戻ってきた。
唐突に森が切れて……広い草原が広がっている。
深い森におおわれたこのあたりでは珍しい光景だ。
「まいったね、いつの間にこんなに草が生い茂っちゃったんだろう」
カイエンは頭を掻きながらその草原を振り返り見た。
「この先何か用事があるの?」
その為にここをつっきらなければならない理由はソリアルにもよくわかる。このあたりは地形が複雑ですぐ近くに渓谷もあるし、淵と呼ばれる脱出不可能の裂け目も多く開いているのだ。この広がる向こうに見える地形を目指しているのなら、周囲の森を抜けるよりこの草原地帯を越えるのが一番楽な道だろう。他から回ろうとすると倍以上の労力がかかるのは間違いない。
「でもさ、おとーさんなら飛んできゃいいわけじゃない?」
「お前は、歩いていかないとだけどな」
空を飛ぶ事が出来る大きな翼を持つ有翼種のカイエンは渓谷も淵も森さえ関係なく空を飛んでいけばいいのだが……娘ソリアルはそうはいかない。まだ未成熟の為、翼が開花していないのだ。
未だ固い殻のようなものに覆われた背中のでっぱりをソリアルは。撫でながら口を閉じる。
「一人くらいなら抱えて飛べるけど、それ以上となると僕には無理だし……大体」
「大体?」
「……いや、別にお前を向こう側に連れていきたいわけじゃないんだけどな」
カイエンは言葉を誤魔化し、ソリアルの肩を叩いたのち……にっこりとほほ笑む。
父がこのように微笑む時は要注意だ。
逃げようとしたがすでに、叩かれたと同時に肩を掴まれていて逃げられない。
「ところで娘よ。ここ準立ち入り禁止区域なんですけどどーしてお前はここにいるのかな?」
「あーと、ええとー……迷っちゃった?」
実際、ソリアルは森で育った癖にとかく道に迷う。
盛り育ちなのに森を歩けないのでは話にならない、というわけで色々工夫して日々鍛練を欠かさないソリアルであったが、そうやって時にこうやって変なトコロまでやってきてしまうわけだ。
カイエン・ナッツ。およびその娘ソリアル・ナッツはここ『緑の森』で管理人をやっている。
正確にいえばソリアルはその見習い。
だが父カイエンは、国々が正式に立ち入り禁止を決めている『森』を囲む区域の、正式な番人を務めているようだ。
……ようだ、というのは正しくはソリアルの推測であるからである。
父は詳しく自分の背負う肩書を教えてくれない。
何か都合があるのか、話たくないのか。娘から見てもどうにも謎が多い。
例の微笑みを浮かべながら秘密、とか言われてごまかされることの多さは計り知れない。
どうにも森守の仕事は各国の認定を受けている訳ではないようなのに、各国との連絡パイプは持っているようでタダものではないような人が突然訪ねてくる事があるし、なんだか随分豪華な封書がどっさり届くこともあった。話を聞いていると南はカルケードから北はシーミリオン、果ては遠東方イシュタル国の高官ともやりとりをしているような気配がある。
こっそり手紙を読んでみたが、東方からの手紙は難しい字が多くて読めなかったり魔導師が使うような古代語が使われていてさっぱり内容が分からない。
そう云う文字を使わない西、北方の手紙は読めるかというとこちらは何か特有な暗号文だったり魔法で文字が見えないものだったりする。
南方は特有の言い回しが多くてやはり意味不明。
……手紙を盗み見しているのがその後、ばれてしまったようだ。父はそれを咎めるでも無く、以来手紙はひっそりと、どこか探し出せない場所に隠されてしまってしまう有様。
各国が森守を定めたとして、これを支援、保護をするなら父に一任なのはおかしいのではないか?頑張って考えるに、各国の足並みがそろっているわけでは無い社会情勢を知っているので、そこで全員森の管理を父にまかせっきりなのはどうにも納得できない。
この『立入禁止規制』された危険な森で暮らしていくのに、各国は安全など全く保障はしていない。守を囲む国々は、森守に安全札を与えている訳でも無い。。
森守として自分達がこの森に許されるのは、この森の主がそれを許しているからだ。
それだけは父から聞いている。
では、森の主とは誰だろう?
「準立ち入り禁止って事は、こっから先はその」
「うん、僕の持つ権限の及ばない危険区域だ。まったく、どこをどう歩いたらここに来るんだよ?」
「あー……そろそろヤバいトコに来てるかなーって、戻ろうとしてたトコだったの。そしたら見た事がある背中が見えたからさぁ」
それで何をしてたの?
尋ねられ、カイエンは答えるべきか迷うようにため息を漏らす。
「……酷い間抜けな話なんだけど」
「うん?」
「あそこね、一種の畑みたいなトコだったらしい。人為的に開いてそれで……」
カイエンはそこで多大に迷い言葉を切る。暫らく考えてからソリアルをその場に残し、やけに背の高い柔らかい草をそっと掻き分け……ご覧と足元を示す。
「あ、お花」
背の高い草の根元、ロゼットを形成し背丈の低い白い小さな花が咲いているのを見つけ、ソリアルは目を丸くした。こんな草の根元で花を咲かせるなんて……やわらかく、細い草は思いの外地面まで日差しを届けるらしい。
「このあたりには自生してない、西の方のもっと涼しい地方の植物だよ」
「そうなんだ、イチゴの花に似てるけど」
「うん、同じ科だろう。で、とある馬鹿が……いや、なんというか管理とか種の保存とかに全く理解のない奴がだね」
言いなおしたがはっきり馬鹿と言った、ソリアルはそんな父の言葉に少し笑う。たまにそうやって無遠慮に話す友人が家に訪ねてくる事があるのを思い出している。
「……西方で見られるような花畑をここに作ろうと思い立って、開墾したあげく種をばらまいたんだけど」
「上手くいかなかったんだ」
環境が違うと育たない植物がある。種がまかれた1年は花を咲かせても、その後土着せずに絶えてしまうという事もあるのだ。
「それで、すっかりこういう有様。ばらまいた種の種類は数多かったみたいだけど今も生き残っているのはこの背の低い花だけ」
カイエンはその花の近くに抱えていた長い枝を差し込んだ。
なるほど、ようやく何をやっているのかソリアルは把握する。
「花を踏まないように目印付けてるんだね。…でも誰の為に?あたしはこの先いっちゃダメなんでしょ?」
「……そこはノーコメント」
「ぶぅ、」
*** *** ***
頭上にいる赤いドラゴンが首を回し、小さな頭を巡らせる。
ドラゴンのくせに異常に利く鼻を鳴らし、足元に生える珍しい花のにおいをかぎ分ける。
「うーんと、周囲にあるわね……3つ分くらい」
「ええと、そこから2つでここから3つか……だめだ、わからん。次」
「こっからだとー……4つ?」
「くそ、どんだけ密集して生えてんだ」
足元に生える花を探し、背の高い草をかき分け悪態をつく。
そんなこんなで男、草原を進めないで立ち往生。
「……諦めてズンズン踏んづけて通ればいいじゃない。足もとの生物一切殺さずに歩くなんて無理なんだから」
「そりゃそーだが、やっぱりあんなちっちゃい花ふんづけちゃったらなんか、気分悪いじゃねーか!」
「いいこと思いついた。上の草だけ焼き払っちゃえばいいんだ!」
そう言って小さな赤いドラゴン、鼻から火炎の吐息を吐きだしたのを男は慌てて払いのける。
「バカやめろ!お前の火力には自重ってもんがねぇんだよ!地面まで焼け焦げるに決まってる」
「あー、じゃぁ制御訓練も兼ねて」
「だーめーだーッ!」
*** *** ***
立て札でも立てておくかな。
キリのない作業にやや飽きてきて、カイエンは広い草原を眺めやる。
『 ここは魔王八逆星の花畑です
故に、踏み荒らすべからず 』
などと。
仮にも魔王、その住居の周辺にあるべきトラップとしてはあまりにも微笑ましすぎるわけだが。
*** *** おわり *** ***
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