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番外編 EX EDITION
■番外編EX『戦いを捧げろ!』#3/10
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N&SinMFC シリーズ番外編『戦いを捧げろ!』#3/10
※同世界設定同士の物語登場人物による、
俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め
お互いに手の届かないギリギリな距離を保ち、テリーはまず天使教の作法に習い一礼する。
ダークにはそういう形式も作法もない。
力でねじふせ、押し倒し、半殺しにした上で相手の行動力を奪い(以下自主規制)
「いや、何だよ、何が自主規制だよ」
言葉以外にツッコミをするとはいい度胸ですねテリーさん、いいでしょう書きましょう。
はっきりばっちり事実を書いてしまいますよ?
今まであえてはっきり彼(ダーク)の仕様を書いてきませんでしたが。
彼はれっきとしたは 食 人 鬼 です。
別に精神的に病んでいる訳ではありません。種族的に一般的な『人間』ではない彼らは、フツーに人間も獲物の一つにラインナップされている……ようするに食人鬼です。
人を食べる種族であります。
故に人じゃありません。
自分達より弱くて捕食しやすいと人間を『獲物』として捉えていらっさいますよ★
「そいつぁ好都合だ……つまり、遠慮なくぶん殴れるって事だろ」
実は人間相手だとそれなりの手加減をしてしまうテリーである。
それは叩き込まれた彼の『作法』だ。本編でもまだ語られていな事をここでやっていいのかって、まぁ語る必要がなければこうやって番外編を組むだけなのでいーんじゃない?という事にしてやってしまいますが。
そもそもテリーが武器を使用しない事にこだわり、戦法的に必ず相手の武器・防具から破壊していくというのは……本体の方になるべくダメージを与えない為に彼が編み出した……。
「いやまて、そこからはNGだ、俺からストップかけておく」
だからテリーさん!セリフ以外にツッコミ入れないでくれってば!
「なんか、さっきから一人でブツブツ言ってますが」
「骨付き肉でも欲しいんでしょうか」
「何それ?」
「こういうネタ絡められるの僕だけですか……ふぅ、一応カギカッコで補足しておきます」(ゼルダの伝説:初代)
深く腰を落とし両手の拳を中段に構えたテリーに向け、ダークは構えるでもなく相変わらずの猫背姿勢のままだ。
そもそも最初から彼は人間から見れば『怪物』という位置づけになる。人間を食うからといって人間より思考・精神・文化的に高等という訳ではない。
戦うという事は獲物をしとめるという事であり、これといって機能的なファイティングポーズなんて錬り込まれてはいない。……いや、だからこそ無駄が無いのかもしれないが。
普段であれば相手の出方を見てから動くテリーであるがすでに、挑発行為なども通用しないと把握したのか自分から仕掛けていく。
低い姿勢、地を這うような疾走。
一瞬のうちにダークの背後に突き抜けたテリーの拳はわずかな摩擦熱を帯びている。
走るという行為、これは人間の肉体的な構造上常に、瞬間的にトップスピードを出す事は出来ない。
地面を力強く蹴りどれだけ早い動きを最初に作っても、次に大地を蹴るまでの間が極めて短い人間には最初と同等のエネルギーを接地面に叩きこめないのだ。
ならば、走らない。
テリーは一瞬で空間を文字通り『跳躍』し、相手の背後に跳びぬけた。
その間軽いジャブを顎、鳩尾、関節などに見舞ったはずなのだが全て、相手の平手で叩き落とされた感覚を遅れて把握し、テリーは苦笑う。
のっそりと猫背の男が振り返った。
この一見だらけきった緊張のない姿勢は、同時に何の縛りも課していない完全な自然体でもある。
全てを動物的な感で捉え、人間を通り越した反応速度でもって肉体に応答させる為の『構え』なのだと悟ってテリーは、苦笑いを浮かべる。
こういう手合は決まって一つ決定的なものが欠落している。その代り、余計なものに能力が特化しているのだ。
人間も獣も関係ない。むしろ人間や獣の方がやりやすい。
「俺が一番嫌いなスタイルだな」
小さく呟き、しかし顔には明らかな強者と相まみえる事への喜びが垣間見える好戦的な笑みが浮かべられている。
「彼が嫌いなスタイル、とは。一体どんなものなのでしょうトリスさん」
「難しいこと俺にふるなよ」
「何言ってるんです、解説でしょ」
やっぱり最初の挨拶は単なる社交辞令か、と苦笑いしながらトリスは仕方がなく顎に手をやりながら答えた。
「そうだなぁ、推測の域は出ないが先の対戦カードであるヤト君とダァクの戦いにヒントがあると思うがどうだろう。俺はヤト君はよく知らないがダァクの事はよく知っている。あ、ここでも一応言っておくがダークとダァクは名前が似ているけれど別人だ。ダァクはオネェ言葉でしゃべる剣士の方だな。……それはともかく、ダァクという男はあの実にやる気のないスタイルとは裏腹にかなりの修羅場をくぐり抜けている、ケンカバカのバンクルドが対戦を楽しみにしてしまうような、一応それなりの猛者だ」
この人の場合、ツンデレじゃなくて純粋に嫌っているからこの言葉だよな、とハイドロウは口の中だけで小さくそんな事を呟くのだった。
別に聞かれてもいいのだが。
これ以上話の腰を折るとなかなか進まないので多少の考慮はした模様である。
「実は戦ったり、都合とはいえ仕方がなく共闘したりもした俺であるが」
「詳細は長編小説、エレメンなんたら参照」
さりげなくCM行為を挟むレッド。
「あれは普通とは違う、俺は魔導師だから剣士の戦いはよくわからないが……どういう局面においても緊張が感じられない。すなわち、バンクルド曰く自分の命の危険性を全く認識していない……と言っていたかな。自分の命に危険が迫っていても、口では危険を察知しているような事は言っているのに実際にはそうではない、という雰囲気か。まぁ、例外はあるんだが」
「例外、何でしょうか」
「自分以外が絡むとこれが割とそうでもなかったりする。だから先の対戦、自分一人で戦うという局面においてダァクはとても戦いにくい存在になっていただろう。気迫が無いのだ。だからヤト君も面喰らってああいうよくわからない戦法に出てしまったわけだと思うよ。なんとしても相手の気迫、殺気とも言うかな。そういうものを引き出そうとして完全に失敗した、と」
「なるほど」
実に解説らしいいい仕事です、とレッド、ここは持ち上げておく。
「それで、ヤト君と今下で行くばかの牽制をしながらにらみ合っている片方の、テリー君は闘技場闘士時代からのライバルという事になっているらしいが」
「そのようです、正式な対戦で4回当たったそうですよ。相手を殺してもよいルール上4回当たるってのはかなり珍しいらしく因縁対決と散々言われたらしいです」
「お互い勝敗ついた後、選手生命まで奪わなかったってわけか」
ハイドロウの言葉にレッドは笑う。
「それが互いに戦いバカだったという事らしいです」
「……さて、殺気のないダァクとヤト君の戦いはダァクの勝ちに終わってしまったが。殺気が無いなら無いでもっと闘い方があるだろうに、ヤト君は相手の殺気を引き出す事を優先した結果失敗してしまった。その様子から……ヤト君はそういう危険察知という方面に特出した剣士ではないかなと俺は推測するのだが」
「ああ、それはあるかもしれません。案外小心者なんですよあれで」
「そんなヤト君を好敵手と認めているテリー君のあのセリフなのだから……おそらく。今戦っているダークもヤト君と似たようなタイプ、すなわち……」
「野生の勘だけで動いているのは確かかも」
ハイドロウの言葉にレッドもうなずく。
「なるほど、ダークさんはこの戦いにおいて狩りのスタイルを持っている訳ですね。獲物を狩るに殺気全開では、たとえばウチの人柱のように本性小心で小動物でニワトリみたいな危険察知に特化している生物はあっという間に敵の存在を察知して逃げてしまいます」
ヤトの悪口を言う時は無駄に早口になる紫魔導師。
「殺気を最小限に留める能力、というのがあるのだろう」
「とはいえ、狩る方と狩られる方では違うんじゃないの?」
「うーん、どうなのでしょうね。いずれダークさんとヤトで戦わせてみれば分かるかもしれません」
「いやぁ、それはやらない方がいいと思うが」
「…………」
もちろんレッドもハイドロウも把握している。
それは、ネコとネズミを戦わせるようなものだから、だ。
「……不憫だな、君ん所の剣士」
「不幸街道まっしぐらなので。それが彼のアイデンティティなので僕はもう何とも言いません」
「そこまで言ってしまって、君は怒られたりしないの?」
「問題ないでしょう。図星なので彼はきっと何も言い返せないと思います」
そんな悠長な解説をやっている間に下では、本格的な『狩り』が開始されていた。
ダークにとって挑みかかってくる相手というのは『稀有』である。しばらくテリーの出方をうかがっていたのは相手を狩っていいのか、という判断をするためであったのだ。
ちなみに、SF本編の彼とは少々考え方が異なる所もありますがこっちはβ版メインという事でご了承ください。
闘争が発生する場面は彼の場合、非常に限られている。
つまり捕って食う相手か、自分に害をなす相手かという事。それを判断していたのだ。
ただ最近これに『守るべき相手に害を成すモノの除去』という考え方も加わっているはずなのだが今現在、その守るべきものが自分以外特にないのでこの思考は排除されていると上の方から解説しておく。
彼の中でテリーの属性が定まった、相手は捕食を必要とするモノではない。
こちらに、一方的な敵意をぶつけてくる排除すべきものだ。
自分に害をなそうとする者であるという認識が完了する。
今まで動きがほとんどなかったダークがゆっくり腕をこちらに伸ばしてくるのを察しテリーは遠く飛びのく。
今まで何の感情もなかった動作に初めて、得体のしれない威圧感が乗せられていたのを敏感に感じ取っている。
ゆっくり延ばされたその手が実際よりも何倍にも感じるような……殺気だ。
ようやく補足しやすくなったが……少々手こずりそうな怪物だと抱いた不安をもみ消した。
どうやらここから仕切り直しが必要だと構えを深める。
「まずは、小手調べだ!」
十分に開けた間合いで右の拳を構え、ゆっくりと引き上げた。
今までの行為は結局すべて、テリーにとっては挑発だったわけである。
つまり相手から排除対象として認識されるようにするためのお膳立て。
テリーは挑発は主に言葉で行う事が多い。
普段それほど不用意な事を言わないだけに、戦闘になると人が変わったように汚い口調で相手を罵ったりする。これには第一に相手の先手を引き出す目的があり、相手の理性を吹き飛ばし、ペースを乱す目的でも使っている。
しかしダーク相手に言葉の挑発は効かない、と早く把握したテリーは行動によって挑発する事に切り替えた。まれに耳の遠い相手もいるし、無駄に挑発に乗ってこない相手もいるのである。
そういう手合には行動で挑発を行う。
本気を出していません、お前とは遊んでいるんだというイメージを送り込む。もっともテリーにそれが出来るだけの技量がある事が大前提ではあるものの。
しかしダークが今こちらに向けているのはどうにも怒りとは違う。
その異なった感覚を敏感に察知し、テリーはここから始めて小手調べに入った。
地面に拳を打ち立てる、いや、それはそのように見えるが実際には地面擦れ擦れを掬い上げるような動作である。最終的に床に拳が接した瞬間そこから床の石版に亀裂が入り、見えない衝撃波がダークを直撃していた。
遠距離からおおざっぱに放たれた衝撃波は、やや放射状に広がるため非常に避けにくい。
この場合耐えるよりは攻撃に甘んじて距離を稼ぐ方が正解だ。それだけ威力は弱まる。
ところがそのような戦術的な判断は一切しないダークはその場で攻撃を耐え忍ぶ事を選んだ。
「大したダメージはいってねぇようだな……ッ!」
正面で顔をかばっている両腕に向けてテリーは再び空間を跳躍。
初めて蹴りを使い両足で相手を背後に転倒させる事を目的として思いっきり蹴り飛ばす。
ところが相手はまるで分厚い鉄の盾を構えているような手ごたえを返して来た。
危険、相手に接近した事をテリーはそのように察知している。
両足で蹴ったそのあとに着地して腹に数発打撃を加え、その後回し蹴りで叩きこんでやろうと考えていたのだが……その動作をキャンセル。
両足で鉄の盾のような相手の両腕を蹴りつけて再び距離を置いた。
案の定、いつの間にか右手がこちらに延びている。
あやうくそれに捕まる所だったのだと察してテリーは苦笑いを漏らしてしまう。危険を感じて咄嗟に取った行動とはいえ……またしても自分は逃げている事に気が付いたからだ。
剣闘士などを相手にするなら組手や寝技もいいだろうが、自分より体格が勝っていて力も強いであろう相手にそれは選びにくい選択肢である。
もちろんそういう自分より優位な相手だからこそ獲れる組手戦略というものあるには在るが……今はまず相手の動作を把握する所からだ……と、テリーは再び低く構えた。
武器破壊、相手が人間であれ武装戦士であれ獣であれ怪物であれ、テリー最大の戦術にして戦闘スタイル。
この場合主に相手の武器に相当するのはあの、腕と把握。
しかし先ほどの蹴りの手応えからはどうにも、人間の強度は超えているかそれ以外の何かの力が働いているとしか考えられない抵抗を感じた。それらをどうやって破壊に持って行くかというのを考える。
上の司会・解説・特別ゲストらからはさんざん言われているが、戦士だってバカじゃぁやってけないんである。
バカでも問題ないのは最初からポテンシャルが高くて力だけで全部ぶち壊せるようなダークや、ギルみたいな者に限られている。
ヤトだってあれで色々考えて戦っているのだ。一応。
「しゃぁねぇな……危険だが背に腹は変えられねぇし」
テリーは瞬間構えを変える、両肘を引いたスタイルになり……ふっと小さく息を吐きだした。
瞬間飛びかかったのはダークの方だ。今やすでに相手を排除対象と完全に認識したダークは相手の隙を見逃さない。それがチャンスだと頭で分かっているのではなく、感性でそのようにとらえて反射的に動いている……テリーにはその相手の反応を『読み通り』とほくそ笑む余裕は与えられていない。
今までの無動作は何だったのだろう、という機敏な突進になんとかギリギリ合わせる形で右の拳を叩きこむ。
動作が間に合っていなければ、相手の攻撃が先にテリーを穿っているだろうが……かろうじて間に合った形だ。もちろん相手にクリーンヒットするとは考えていない。最初に思い描いていた通り繰り出した右手の一撃は相手の左手の中に抑え込まれた。完全に拳を握られ、そのままオレンジを握りつぶされるような重圧を感じる。だがこの危険は無視、左は囮であって目的は、相手のメイン武器であろう右腕。
相手の右手を完全に捉えた事でダークも安心はしない。
そのまま首を取ろうとして伸ばそうとした右手を狙ってくる殺気を察知、首は諦めて相手の腕を先に落とす必要があると把握。
下から掬い上げるように襲いかかってきた一撃をダークははたき落そうとした。途中で目標を変えた為に掴む事はまず無理と判断し、いったん相手の動作を止めてから改めてと思っての動作だったのだが……。
思いのほかその一撃が重く、はたき落そうとした右腕はパン、という軽い音を立ててなぜか上に、ダークの右腕の方が上に払われる形になってしまう。
腕の力点をピンポイントで実に正確に狙ったテリーの技だ。
力だけの存在に、技術力はある程度応用が利くし時に巨大な力をもねじ伏せる事があるものだ。
初めて自分の動作を封じられた、それは理解不能な出来事として……実はとっても頭の悪いダークを瞬間混乱させる事になっていた。
それは危険な行為とは分かっていても、完全に獣となりきれていないだけに理解を優先させようとしてしまう。そのわずかな思考が動作の停止を招き、致命的な隙となってぽっかりと鉄の盾に穴をあけたのだ。
その穴から決して重くは無い……今までの一撃に比べれば特に致命傷とは言い難い攻撃が肉体へと到達する。
そこでダークは我に返った。
つかんだままの相手の右拳を握り潰す。
遠慮のない攻撃、嫌な音とともに血飛沫が上がったがそれをテリーは無視。
最初から肉が切られる事は把握しての攻撃だったのだから仕方がないと割り切り、今しがたダークの腹に到達させた左の拳を引っ込める。
先の攻撃の所為で勢いは全く載せられなかったが別に、一発腹を殴ったくらいで相手は倒れないだろう事は察している。
すべては陽動だ。相手にわずかでも危機感を抱かせ守りに入らせる。
目に見えない武器や防具を手折るのは大変なのだ。
実態がどこにあるのかわからない。
だからその見えないものを見つける所から始めないといけない。
はっきりと姿を見せろ、まずはその貴様の盾をぶっ壊してやる。
ダークはテリーの右拳を完全に握りつぶし再起不能にした上で放して一旦、自主的に距離をとる。
腹に入れられてしまった小さな攻撃に、テリーの読み通りダークは警戒を強めた。
守りの態勢、攻撃を捨てて一瞬構えたその完全な盾の動作にテリーが動く。
こちらが守りに入っているのに接近してくる、相手の意図が測りきれずダークは攻撃という手段を選べない。
回し蹴りが防御に構えた両腕に叩きこまれた。
それは雑な攻撃力だけを叩きつけたものではない。
ダークは面食らっていた、最初の回し蹴りに勢いがない。
こういう攻撃は『虚』といい『実』の前のフェイントでしかないのだがそんな事、ダークは知る由もなかった。何しろ野性児、磨き抜かれた技には疎い。
完全に防御したと思った瞬間、テリーの実となる攻撃がわずかに下方から襲いかかってくる。
テリーのフェイントを受け流してしまったダークは知らなかったのだ。
攻撃には流れというものがあって一撃必殺がすべてではない、という事を。
今まで貰った事がない熱い衝撃が両肘を叩き、腕の感覚を吹き飛ばす。
テリーはダークの両肘の破壊に成功していた。
つまりそれは、彼の肘より先の腕、手、指までもを動作不能にしたという事でもある。
*** *** ***
「えー、ただ今闘技場はすさまじい歓声につつまれております」
「うん、興奮する気持ちも分かるな」
「僕は不快だけどね」
ハイドロウは片肘をついて明らかに不貞腐れている。
「まぁそう拗ねるな、こういう結論にしておかないとレッド君の立場ってものが」
ダークの敗退に拗ねているハイドロウをなだめるように、こっそり囁いたトリスであったが魔導師というものは押し並べて地獄耳なのだ。
「ご心配には及びません。そもそも僕らのパーティはそこまで怪物級がそろっている訳ではありませんので」
「君もさりげなくキツい事を言うな……まぁ、方位神眷属も旧世界人種も現代においては怪物という分類でも間違いではない。すでに存在しない種族で、今存在する事が間違っているたりするのだからな」
「その前に、突然場面が飛んだ事に面喰らっている皆さんの為に司会として解説を所望いたします」
「うん、そうか。では」
トリスは苦笑してカメラ目線を送る。
「結果から言うとテリー君の勝ちだ。実に良い試合だったと、会場はいまだに沸き立っている。どちらが勝っていても不思議は無かった試合だったろう。テリー君は右拳を損傷したがその代替えにダークの両腕を不能に持ち込んだ。この時点でだな、ダークはこれ以上に戦いは不利であると判断してしまった。これ以上の損傷を貰うのは未来不都合であると判断したようだ。きっとお前の事が脳裏にちらついたんだろう」
そう言ってトリス、ハイドロウを窺う。
「べ、別にそんな事言われたって嬉しくなんかないんだからな!」
「おおぅ、テンプレートで出るとは思いませんでした」
感心しているレッドに、何がテンプラだ?とハイドロウは少し顔を赤らめて喚いている。からかわれている事は分かっているようだ。
その間でトリスはいつもの苦笑を洩らしながら腕を組むのだった。
「というわけで、次の試合だ。ああ、ちなみに二人の致命傷についてはちゃんとウチの救護班で責任を持って治療しよう。それでもあの怪我の具合だと、トーナメントでは不利が残る形だが……」
「まぁ、それがトーナメント制の特徴でもあるのですが。完全に治せるのでしょうか」
「一応はな、でも100%は無理だろう」
「そう言うところはご都合主義は持ってこないんだ」
一応はそういうご都合は一番嫌いな作者さんですから、とレッドがフォロー。
「表には出てきませんが、僕達の方からはナッツさんが、トリスさんの所からはエイトさんが……ん?ハイドさんの所からは貴方が救護班に回るべきなのでは。オービットさんは戦術解析が主であって戦力にもならないし後方補助も出来ない人と聞いていますが」
「その、エイトっていう医者がいれば十分だろ?あと魔法使いのヒーラーがいれば」
トリスは腕を組んだままふいと空を見上げる。
闘技場は吹き抜け構造で屋根は観客席の一部までしかないので青空が見えるのだ。
「まぁ、ご都合主義を持ってくる場合はハイド君の出番なんだろうな」
「なるほど、流石は魔法使い始祖の人」
要するにハイドロウならば元通りまで一瞬で元に戻す、治療するという荒業もやってのけるという意味である。
「それだったらルイでもいいと思うけど……いや、そうだった。彼はβ版縛りの所為で回復魔法は使えないんだった……」
「ん?それだとβ版でヤトと戦った時のあれはどうなるんですか?」
「……ぶっちゃけ描写忘れたそうだが、シーラーで仕込んでいた僕の回復魔法……ようするに道具を使っているんだよ。だからヤト君も回復に走ったって行動で把握出来たって訳」
「それは、重大な書き忘れですね」
……すいませんねもぅ。あとから補足加筆しておきましたよぅ。
*** 続く ***
※同世界設定同士の物語登場人物による、
俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め
お互いに手の届かないギリギリな距離を保ち、テリーはまず天使教の作法に習い一礼する。
ダークにはそういう形式も作法もない。
力でねじふせ、押し倒し、半殺しにした上で相手の行動力を奪い(以下自主規制)
「いや、何だよ、何が自主規制だよ」
言葉以外にツッコミをするとはいい度胸ですねテリーさん、いいでしょう書きましょう。
はっきりばっちり事実を書いてしまいますよ?
今まであえてはっきり彼(ダーク)の仕様を書いてきませんでしたが。
彼はれっきとしたは 食 人 鬼 です。
別に精神的に病んでいる訳ではありません。種族的に一般的な『人間』ではない彼らは、フツーに人間も獲物の一つにラインナップされている……ようするに食人鬼です。
人を食べる種族であります。
故に人じゃありません。
自分達より弱くて捕食しやすいと人間を『獲物』として捉えていらっさいますよ★
「そいつぁ好都合だ……つまり、遠慮なくぶん殴れるって事だろ」
実は人間相手だとそれなりの手加減をしてしまうテリーである。
それは叩き込まれた彼の『作法』だ。本編でもまだ語られていな事をここでやっていいのかって、まぁ語る必要がなければこうやって番外編を組むだけなのでいーんじゃない?という事にしてやってしまいますが。
そもそもテリーが武器を使用しない事にこだわり、戦法的に必ず相手の武器・防具から破壊していくというのは……本体の方になるべくダメージを与えない為に彼が編み出した……。
「いやまて、そこからはNGだ、俺からストップかけておく」
だからテリーさん!セリフ以外にツッコミ入れないでくれってば!
「なんか、さっきから一人でブツブツ言ってますが」
「骨付き肉でも欲しいんでしょうか」
「何それ?」
「こういうネタ絡められるの僕だけですか……ふぅ、一応カギカッコで補足しておきます」(ゼルダの伝説:初代)
深く腰を落とし両手の拳を中段に構えたテリーに向け、ダークは構えるでもなく相変わらずの猫背姿勢のままだ。
そもそも最初から彼は人間から見れば『怪物』という位置づけになる。人間を食うからといって人間より思考・精神・文化的に高等という訳ではない。
戦うという事は獲物をしとめるという事であり、これといって機能的なファイティングポーズなんて錬り込まれてはいない。……いや、だからこそ無駄が無いのかもしれないが。
普段であれば相手の出方を見てから動くテリーであるがすでに、挑発行為なども通用しないと把握したのか自分から仕掛けていく。
低い姿勢、地を這うような疾走。
一瞬のうちにダークの背後に突き抜けたテリーの拳はわずかな摩擦熱を帯びている。
走るという行為、これは人間の肉体的な構造上常に、瞬間的にトップスピードを出す事は出来ない。
地面を力強く蹴りどれだけ早い動きを最初に作っても、次に大地を蹴るまでの間が極めて短い人間には最初と同等のエネルギーを接地面に叩きこめないのだ。
ならば、走らない。
テリーは一瞬で空間を文字通り『跳躍』し、相手の背後に跳びぬけた。
その間軽いジャブを顎、鳩尾、関節などに見舞ったはずなのだが全て、相手の平手で叩き落とされた感覚を遅れて把握し、テリーは苦笑う。
のっそりと猫背の男が振り返った。
この一見だらけきった緊張のない姿勢は、同時に何の縛りも課していない完全な自然体でもある。
全てを動物的な感で捉え、人間を通り越した反応速度でもって肉体に応答させる為の『構え』なのだと悟ってテリーは、苦笑いを浮かべる。
こういう手合は決まって一つ決定的なものが欠落している。その代り、余計なものに能力が特化しているのだ。
人間も獣も関係ない。むしろ人間や獣の方がやりやすい。
「俺が一番嫌いなスタイルだな」
小さく呟き、しかし顔には明らかな強者と相まみえる事への喜びが垣間見える好戦的な笑みが浮かべられている。
「彼が嫌いなスタイル、とは。一体どんなものなのでしょうトリスさん」
「難しいこと俺にふるなよ」
「何言ってるんです、解説でしょ」
やっぱり最初の挨拶は単なる社交辞令か、と苦笑いしながらトリスは仕方がなく顎に手をやりながら答えた。
「そうだなぁ、推測の域は出ないが先の対戦カードであるヤト君とダァクの戦いにヒントがあると思うがどうだろう。俺はヤト君はよく知らないがダァクの事はよく知っている。あ、ここでも一応言っておくがダークとダァクは名前が似ているけれど別人だ。ダァクはオネェ言葉でしゃべる剣士の方だな。……それはともかく、ダァクという男はあの実にやる気のないスタイルとは裏腹にかなりの修羅場をくぐり抜けている、ケンカバカのバンクルドが対戦を楽しみにしてしまうような、一応それなりの猛者だ」
この人の場合、ツンデレじゃなくて純粋に嫌っているからこの言葉だよな、とハイドロウは口の中だけで小さくそんな事を呟くのだった。
別に聞かれてもいいのだが。
これ以上話の腰を折るとなかなか進まないので多少の考慮はした模様である。
「実は戦ったり、都合とはいえ仕方がなく共闘したりもした俺であるが」
「詳細は長編小説、エレメンなんたら参照」
さりげなくCM行為を挟むレッド。
「あれは普通とは違う、俺は魔導師だから剣士の戦いはよくわからないが……どういう局面においても緊張が感じられない。すなわち、バンクルド曰く自分の命の危険性を全く認識していない……と言っていたかな。自分の命に危険が迫っていても、口では危険を察知しているような事は言っているのに実際にはそうではない、という雰囲気か。まぁ、例外はあるんだが」
「例外、何でしょうか」
「自分以外が絡むとこれが割とそうでもなかったりする。だから先の対戦、自分一人で戦うという局面においてダァクはとても戦いにくい存在になっていただろう。気迫が無いのだ。だからヤト君も面喰らってああいうよくわからない戦法に出てしまったわけだと思うよ。なんとしても相手の気迫、殺気とも言うかな。そういうものを引き出そうとして完全に失敗した、と」
「なるほど」
実に解説らしいいい仕事です、とレッド、ここは持ち上げておく。
「それで、ヤト君と今下で行くばかの牽制をしながらにらみ合っている片方の、テリー君は闘技場闘士時代からのライバルという事になっているらしいが」
「そのようです、正式な対戦で4回当たったそうですよ。相手を殺してもよいルール上4回当たるってのはかなり珍しいらしく因縁対決と散々言われたらしいです」
「お互い勝敗ついた後、選手生命まで奪わなかったってわけか」
ハイドロウの言葉にレッドは笑う。
「それが互いに戦いバカだったという事らしいです」
「……さて、殺気のないダァクとヤト君の戦いはダァクの勝ちに終わってしまったが。殺気が無いなら無いでもっと闘い方があるだろうに、ヤト君は相手の殺気を引き出す事を優先した結果失敗してしまった。その様子から……ヤト君はそういう危険察知という方面に特出した剣士ではないかなと俺は推測するのだが」
「ああ、それはあるかもしれません。案外小心者なんですよあれで」
「そんなヤト君を好敵手と認めているテリー君のあのセリフなのだから……おそらく。今戦っているダークもヤト君と似たようなタイプ、すなわち……」
「野生の勘だけで動いているのは確かかも」
ハイドロウの言葉にレッドもうなずく。
「なるほど、ダークさんはこの戦いにおいて狩りのスタイルを持っている訳ですね。獲物を狩るに殺気全開では、たとえばウチの人柱のように本性小心で小動物でニワトリみたいな危険察知に特化している生物はあっという間に敵の存在を察知して逃げてしまいます」
ヤトの悪口を言う時は無駄に早口になる紫魔導師。
「殺気を最小限に留める能力、というのがあるのだろう」
「とはいえ、狩る方と狩られる方では違うんじゃないの?」
「うーん、どうなのでしょうね。いずれダークさんとヤトで戦わせてみれば分かるかもしれません」
「いやぁ、それはやらない方がいいと思うが」
「…………」
もちろんレッドもハイドロウも把握している。
それは、ネコとネズミを戦わせるようなものだから、だ。
「……不憫だな、君ん所の剣士」
「不幸街道まっしぐらなので。それが彼のアイデンティティなので僕はもう何とも言いません」
「そこまで言ってしまって、君は怒られたりしないの?」
「問題ないでしょう。図星なので彼はきっと何も言い返せないと思います」
そんな悠長な解説をやっている間に下では、本格的な『狩り』が開始されていた。
ダークにとって挑みかかってくる相手というのは『稀有』である。しばらくテリーの出方をうかがっていたのは相手を狩っていいのか、という判断をするためであったのだ。
ちなみに、SF本編の彼とは少々考え方が異なる所もありますがこっちはβ版メインという事でご了承ください。
闘争が発生する場面は彼の場合、非常に限られている。
つまり捕って食う相手か、自分に害をなす相手かという事。それを判断していたのだ。
ただ最近これに『守るべき相手に害を成すモノの除去』という考え方も加わっているはずなのだが今現在、その守るべきものが自分以外特にないのでこの思考は排除されていると上の方から解説しておく。
彼の中でテリーの属性が定まった、相手は捕食を必要とするモノではない。
こちらに、一方的な敵意をぶつけてくる排除すべきものだ。
自分に害をなそうとする者であるという認識が完了する。
今まで動きがほとんどなかったダークがゆっくり腕をこちらに伸ばしてくるのを察しテリーは遠く飛びのく。
今まで何の感情もなかった動作に初めて、得体のしれない威圧感が乗せられていたのを敏感に感じ取っている。
ゆっくり延ばされたその手が実際よりも何倍にも感じるような……殺気だ。
ようやく補足しやすくなったが……少々手こずりそうな怪物だと抱いた不安をもみ消した。
どうやらここから仕切り直しが必要だと構えを深める。
「まずは、小手調べだ!」
十分に開けた間合いで右の拳を構え、ゆっくりと引き上げた。
今までの行為は結局すべて、テリーにとっては挑発だったわけである。
つまり相手から排除対象として認識されるようにするためのお膳立て。
テリーは挑発は主に言葉で行う事が多い。
普段それほど不用意な事を言わないだけに、戦闘になると人が変わったように汚い口調で相手を罵ったりする。これには第一に相手の先手を引き出す目的があり、相手の理性を吹き飛ばし、ペースを乱す目的でも使っている。
しかしダーク相手に言葉の挑発は効かない、と早く把握したテリーは行動によって挑発する事に切り替えた。まれに耳の遠い相手もいるし、無駄に挑発に乗ってこない相手もいるのである。
そういう手合には行動で挑発を行う。
本気を出していません、お前とは遊んでいるんだというイメージを送り込む。もっともテリーにそれが出来るだけの技量がある事が大前提ではあるものの。
しかしダークが今こちらに向けているのはどうにも怒りとは違う。
その異なった感覚を敏感に察知し、テリーはここから始めて小手調べに入った。
地面に拳を打ち立てる、いや、それはそのように見えるが実際には地面擦れ擦れを掬い上げるような動作である。最終的に床に拳が接した瞬間そこから床の石版に亀裂が入り、見えない衝撃波がダークを直撃していた。
遠距離からおおざっぱに放たれた衝撃波は、やや放射状に広がるため非常に避けにくい。
この場合耐えるよりは攻撃に甘んじて距離を稼ぐ方が正解だ。それだけ威力は弱まる。
ところがそのような戦術的な判断は一切しないダークはその場で攻撃を耐え忍ぶ事を選んだ。
「大したダメージはいってねぇようだな……ッ!」
正面で顔をかばっている両腕に向けてテリーは再び空間を跳躍。
初めて蹴りを使い両足で相手を背後に転倒させる事を目的として思いっきり蹴り飛ばす。
ところが相手はまるで分厚い鉄の盾を構えているような手ごたえを返して来た。
危険、相手に接近した事をテリーはそのように察知している。
両足で蹴ったそのあとに着地して腹に数発打撃を加え、その後回し蹴りで叩きこんでやろうと考えていたのだが……その動作をキャンセル。
両足で鉄の盾のような相手の両腕を蹴りつけて再び距離を置いた。
案の定、いつの間にか右手がこちらに延びている。
あやうくそれに捕まる所だったのだと察してテリーは苦笑いを漏らしてしまう。危険を感じて咄嗟に取った行動とはいえ……またしても自分は逃げている事に気が付いたからだ。
剣闘士などを相手にするなら組手や寝技もいいだろうが、自分より体格が勝っていて力も強いであろう相手にそれは選びにくい選択肢である。
もちろんそういう自分より優位な相手だからこそ獲れる組手戦略というものあるには在るが……今はまず相手の動作を把握する所からだ……と、テリーは再び低く構えた。
武器破壊、相手が人間であれ武装戦士であれ獣であれ怪物であれ、テリー最大の戦術にして戦闘スタイル。
この場合主に相手の武器に相当するのはあの、腕と把握。
しかし先ほどの蹴りの手応えからはどうにも、人間の強度は超えているかそれ以外の何かの力が働いているとしか考えられない抵抗を感じた。それらをどうやって破壊に持って行くかというのを考える。
上の司会・解説・特別ゲストらからはさんざん言われているが、戦士だってバカじゃぁやってけないんである。
バカでも問題ないのは最初からポテンシャルが高くて力だけで全部ぶち壊せるようなダークや、ギルみたいな者に限られている。
ヤトだってあれで色々考えて戦っているのだ。一応。
「しゃぁねぇな……危険だが背に腹は変えられねぇし」
テリーは瞬間構えを変える、両肘を引いたスタイルになり……ふっと小さく息を吐きだした。
瞬間飛びかかったのはダークの方だ。今やすでに相手を排除対象と完全に認識したダークは相手の隙を見逃さない。それがチャンスだと頭で分かっているのではなく、感性でそのようにとらえて反射的に動いている……テリーにはその相手の反応を『読み通り』とほくそ笑む余裕は与えられていない。
今までの無動作は何だったのだろう、という機敏な突進になんとかギリギリ合わせる形で右の拳を叩きこむ。
動作が間に合っていなければ、相手の攻撃が先にテリーを穿っているだろうが……かろうじて間に合った形だ。もちろん相手にクリーンヒットするとは考えていない。最初に思い描いていた通り繰り出した右手の一撃は相手の左手の中に抑え込まれた。完全に拳を握られ、そのままオレンジを握りつぶされるような重圧を感じる。だがこの危険は無視、左は囮であって目的は、相手のメイン武器であろう右腕。
相手の右手を完全に捉えた事でダークも安心はしない。
そのまま首を取ろうとして伸ばそうとした右手を狙ってくる殺気を察知、首は諦めて相手の腕を先に落とす必要があると把握。
下から掬い上げるように襲いかかってきた一撃をダークははたき落そうとした。途中で目標を変えた為に掴む事はまず無理と判断し、いったん相手の動作を止めてから改めてと思っての動作だったのだが……。
思いのほかその一撃が重く、はたき落そうとした右腕はパン、という軽い音を立ててなぜか上に、ダークの右腕の方が上に払われる形になってしまう。
腕の力点をピンポイントで実に正確に狙ったテリーの技だ。
力だけの存在に、技術力はある程度応用が利くし時に巨大な力をもねじ伏せる事があるものだ。
初めて自分の動作を封じられた、それは理解不能な出来事として……実はとっても頭の悪いダークを瞬間混乱させる事になっていた。
それは危険な行為とは分かっていても、完全に獣となりきれていないだけに理解を優先させようとしてしまう。そのわずかな思考が動作の停止を招き、致命的な隙となってぽっかりと鉄の盾に穴をあけたのだ。
その穴から決して重くは無い……今までの一撃に比べれば特に致命傷とは言い難い攻撃が肉体へと到達する。
そこでダークは我に返った。
つかんだままの相手の右拳を握り潰す。
遠慮のない攻撃、嫌な音とともに血飛沫が上がったがそれをテリーは無視。
最初から肉が切られる事は把握しての攻撃だったのだから仕方がないと割り切り、今しがたダークの腹に到達させた左の拳を引っ込める。
先の攻撃の所為で勢いは全く載せられなかったが別に、一発腹を殴ったくらいで相手は倒れないだろう事は察している。
すべては陽動だ。相手にわずかでも危機感を抱かせ守りに入らせる。
目に見えない武器や防具を手折るのは大変なのだ。
実態がどこにあるのかわからない。
だからその見えないものを見つける所から始めないといけない。
はっきりと姿を見せろ、まずはその貴様の盾をぶっ壊してやる。
ダークはテリーの右拳を完全に握りつぶし再起不能にした上で放して一旦、自主的に距離をとる。
腹に入れられてしまった小さな攻撃に、テリーの読み通りダークは警戒を強めた。
守りの態勢、攻撃を捨てて一瞬構えたその完全な盾の動作にテリーが動く。
こちらが守りに入っているのに接近してくる、相手の意図が測りきれずダークは攻撃という手段を選べない。
回し蹴りが防御に構えた両腕に叩きこまれた。
それは雑な攻撃力だけを叩きつけたものではない。
ダークは面食らっていた、最初の回し蹴りに勢いがない。
こういう攻撃は『虚』といい『実』の前のフェイントでしかないのだがそんな事、ダークは知る由もなかった。何しろ野性児、磨き抜かれた技には疎い。
完全に防御したと思った瞬間、テリーの実となる攻撃がわずかに下方から襲いかかってくる。
テリーのフェイントを受け流してしまったダークは知らなかったのだ。
攻撃には流れというものがあって一撃必殺がすべてではない、という事を。
今まで貰った事がない熱い衝撃が両肘を叩き、腕の感覚を吹き飛ばす。
テリーはダークの両肘の破壊に成功していた。
つまりそれは、彼の肘より先の腕、手、指までもを動作不能にしたという事でもある。
*** *** ***
「えー、ただ今闘技場はすさまじい歓声につつまれております」
「うん、興奮する気持ちも分かるな」
「僕は不快だけどね」
ハイドロウは片肘をついて明らかに不貞腐れている。
「まぁそう拗ねるな、こういう結論にしておかないとレッド君の立場ってものが」
ダークの敗退に拗ねているハイドロウをなだめるように、こっそり囁いたトリスであったが魔導師というものは押し並べて地獄耳なのだ。
「ご心配には及びません。そもそも僕らのパーティはそこまで怪物級がそろっている訳ではありませんので」
「君もさりげなくキツい事を言うな……まぁ、方位神眷属も旧世界人種も現代においては怪物という分類でも間違いではない。すでに存在しない種族で、今存在する事が間違っているたりするのだからな」
「その前に、突然場面が飛んだ事に面喰らっている皆さんの為に司会として解説を所望いたします」
「うん、そうか。では」
トリスは苦笑してカメラ目線を送る。
「結果から言うとテリー君の勝ちだ。実に良い試合だったと、会場はいまだに沸き立っている。どちらが勝っていても不思議は無かった試合だったろう。テリー君は右拳を損傷したがその代替えにダークの両腕を不能に持ち込んだ。この時点でだな、ダークはこれ以上に戦いは不利であると判断してしまった。これ以上の損傷を貰うのは未来不都合であると判断したようだ。きっとお前の事が脳裏にちらついたんだろう」
そう言ってトリス、ハイドロウを窺う。
「べ、別にそんな事言われたって嬉しくなんかないんだからな!」
「おおぅ、テンプレートで出るとは思いませんでした」
感心しているレッドに、何がテンプラだ?とハイドロウは少し顔を赤らめて喚いている。からかわれている事は分かっているようだ。
その間でトリスはいつもの苦笑を洩らしながら腕を組むのだった。
「というわけで、次の試合だ。ああ、ちなみに二人の致命傷についてはちゃんとウチの救護班で責任を持って治療しよう。それでもあの怪我の具合だと、トーナメントでは不利が残る形だが……」
「まぁ、それがトーナメント制の特徴でもあるのですが。完全に治せるのでしょうか」
「一応はな、でも100%は無理だろう」
「そう言うところはご都合主義は持ってこないんだ」
一応はそういうご都合は一番嫌いな作者さんですから、とレッドがフォロー。
「表には出てきませんが、僕達の方からはナッツさんが、トリスさんの所からはエイトさんが……ん?ハイドさんの所からは貴方が救護班に回るべきなのでは。オービットさんは戦術解析が主であって戦力にもならないし後方補助も出来ない人と聞いていますが」
「その、エイトっていう医者がいれば十分だろ?あと魔法使いのヒーラーがいれば」
トリスは腕を組んだままふいと空を見上げる。
闘技場は吹き抜け構造で屋根は観客席の一部までしかないので青空が見えるのだ。
「まぁ、ご都合主義を持ってくる場合はハイド君の出番なんだろうな」
「なるほど、流石は魔法使い始祖の人」
要するにハイドロウならば元通りまで一瞬で元に戻す、治療するという荒業もやってのけるという意味である。
「それだったらルイでもいいと思うけど……いや、そうだった。彼はβ版縛りの所為で回復魔法は使えないんだった……」
「ん?それだとβ版でヤトと戦った時のあれはどうなるんですか?」
「……ぶっちゃけ描写忘れたそうだが、シーラーで仕込んでいた僕の回復魔法……ようするに道具を使っているんだよ。だからヤト君も回復に走ったって行動で把握出来たって訳」
「それは、重大な書き忘れですね」
……すいませんねもぅ。あとから補足加筆しておきましたよぅ。
*** 続く ***
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