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番外編 EX EDITION
■番外編EX『戦いを捧げろ!』#4/10
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N&SinMFC シリーズ番外編『戦いを捧げろ!』#4/10
※同世界設定同士の物語登場人物による、
俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め
「というわけで、改めましてトーナメントの続きはまだ続きます。これが最後の第一試合」
トーナメント表を指で追いながらレッドの確認。トリスは苦笑気味につぶやく。
「まだ第一試合か、先は長いな」
「わかりませんよ、今後は一瞬で決着がつくって事もあるかもしれませんから」
「僕らがどうでもいい事話している間に決着がつくような?」
「まぁ、無いとはいいきれんが……それで、次は誰と誰だっけ?」
「先に言ったじゃありませんか」
と惚けてみせたトリスに向けてレッドが嗜めるが、
「確かに次はクリスが出る、とは聞いているが。肝心の相手の話はまだ聞いていない」
ハイドローがその横で人数を数えている。
「ん?参加人数的にトーナメントだと初戦で全員ペアが組みきれてないね。一人余るんだけど」
「もちろん、余った方はシード選手という事で。実は初戦も明らかに強いだろうな、という憶測が働いていいてシード枠戦だったりします」
トリスは何時もの苦笑を浮かべて言った。
「シード枠に弱い選手持ってきても盛り上がらないからな」
「その通り」
魔導師連中、言いたい放題。
「じゃ、シードは誰になるんだ?……まさかルイじゃないよな?」
ハイドロウがルイ、と言うのは正式にはルインの事である。SF版だといい加減リーダーやっている人で、FT版だと貧乏くじの人。
ハイドロウと同じく、原初魔法使いの一人だ。
「一人だけ生粋の魔法使いが戦士トーナメントに混じっているってのも、変な感じですよね。ですがシードはルインさんではありません。次の対戦カードは事実上ダァクさんの弟子扱いになっている剣士のクリスさんと、なぜだか魔法使いなのに出場しているルインさんの対戦なのです」
それはなんというカードなんだと、レッドを除く二人の魔導師が思わず額に手を当て天を仰ぎ地を睨む。
「うわー……それ、どういう意図があっての事なの。というかあのバカのお祭り好きは本当にどうしようもないな」
そもそも剣士などの肉体技能者達の中に、それらの技能が全くないような魔法使いが一匹紛れ込んでいるという事自体が間違っているとハイドロウは頭を抱えた。
ルインの事だ、面白半分にこのトーナメントに出たかあるいはオービットあたりに大いにそそのかされたかの二択だろう。
「だが、面白い対戦カードだ、クリスは魔法使いとの対戦経験は……ほとんど無い、か。共闘やらお手伝いはやったようだが……そもそも魔法使い相手に剣士がまともに戦えるという方が異常だ」
その異常戦闘を何度となくやっているのが例の初戦を勝ち進んだダァクだったりするのだが。
これは彼が使っている武器の特性があって出来た事だろう。
「ああ、だからトリスさんはダァクさんが気に入らないわけですか」
「………好きではないのは認めるが、別にそういう意味ではない」
「へぇー」
「ふぅん」
二人の意味深な視線を無視し、トリスは咳ばらいをしてともかく、と話を元に戻した。
「ダァクの真似なんぞクリスにやらせなくともいいだろうに」
「いやでもさ、魔法使いもさし勝負だと剣士に対し無敵って訳じゃないだろ?よほど熟練していない限り無動作で魔法発動は出来ないっていう、縛りがあるからさ」
「ああ、その縛りはルインさんにも適応されているんですか」
「そりゃそうだよ、僕だって一応戦闘ターン制になったらそれは削られる仕様だよ」
戦闘ターン制とか、RPGお約束用語はこっそり使いなさいプレイヤーキャラクター。
「よくは分からんがベータ版になった縛り、という奴だな。じゃぁさしものルイン・クローディアも呪文詠唱が必要だ、と」
「エネルギーチャージするかしないかって違いみたいなもんだろうけど」
遠慮なくハイドロウは元ネタの方も絡めて言った。
「ルインというかそれは、バクライの仕様的な問題では……」
SF仕様におけるルインは『瀑瀬』という機体名のルビだ。これは超攻撃特化機であり、その『性格・属性付け』だけを引っ張らって持ってこられたFT版では攻撃魔法特化、という事になっているわけである。
「……と、何か色々制限なく交えて話してしまいましたね申し訳ありません。とにかく、クリスさんの攻撃が相手の魔法発動よりも速かったりすれば全然勝機はあるという事ですね」
「むしろ、攻撃されたら……ルイ、死ぬんじゃない?あいつ防御系の魔法も一切使えないから」
「うむ、実に仕様だな。一発攻撃を貰ったらアウトだという……ちなみに資料によると回避能力も皆無なので必ず盾役とペアを組まないと出撃出来ないらしいが」
「……大丈夫なんですかそれは、一人で戦って」
クリスさんって手加減とかできるような子でしたっけ?と資料を慌ててめくるレッド。
「だから、奴は一人で戦えるような魔法使いじゃないんだってば」
*** *** ***
自分の身長よりもわずかに『大きい』という巨大な剣、もとい。
巨大な金属らしきものの延べ棒を振りまわすのがクリス・八撃星。
ちなみにハチゲキセイはハチゲキセイでも漢字が一文字違う通り、某魔王連中とは何の関係もありません。
全体的に先に戦ったダークと同じく白っぽい外見をしているクリスであるが、その頭髪はまぎれもない銀髪である。
白髪ではない。ここだけの話明らかに人間の頭髪とは構造が異なっていたりする。
抜けてしまうとただの白髪なのだが、銀糸か、あるいはそれ以上の強度を誇っているまさしく金属的な属性を持っている。
というか、そもそも彼の場合正常な状態である限り拳一つで岩を砕けてしまうのだ。……言ってしまえば怪物級の一人である。
もちろんそんな事本人は知らないし、その情報が世界的に某人により抹消されている関係で本編では正体不明として取り扱われているのだが。
「ぶっちゃけ、彼は遠東方人先祖がえりに近い種族なわけでしょう。もっとぶっちゃけてしまうとむしろ先祖」
「いやぁ、そこまでここで言ってしまってよいものか」
苦笑いでごまかしているが、実は本編で最初っからそれを正確に把握しているのは何を隠そうトリスのみなのである。
「ようするにすでに『現代』にはいない人種です。現代、というのは僕らの時代を指してもいいしトリスさんの生きている時代でもいいのですが……この場合、前例に倣うと怪物ですね」
「……彼、割と他の人達と違って精神が繊細みたいだから聞こえないように言いなよ」
辛辣ではあるがβ版のハイドロウはほんの少しだけ優しさも持っているんだぜ!
……普段はボケ天然キャラにも容赦なく毒舌で接する彼ではあるが。
そんな実は怪物級、に対するは……盗賊の格好をしているが実はあんまり肉体技能は秀でていないと評判の魔法使い、ルイン・クローディア。
いや、周りが怪物級なだけで一応一般的なシーフの肉体技能くらいはあったりする。
あと地味かもしれないがRPGでは割と重宝される道具鑑定とワナ回避、アンロックを、魔法ではなく技術として扱う事が出来たりするのだ。
それからやっぱりあまり目立たない技能かもしれないが、口先担当のオービットと並び話術系技能にも特化していたりしている。
冒険に連れ出すなら結構便利なキャラクターだ!
まぁ、要するに彼を取り巻く他の人たちがそういう地味なスキルを一切持っていないって意味でもあるのだが。
戦闘能力としては攻撃に激しく特化した魔法を使う。
「彼、苦労性っぽいなぁ。しかし、この特性値を見ていると……割とクリスは苦戦するかもしれない」
解説の言葉にどういう事でしょう、とレッドは詳細を求める。
「割と無用に考えて戦おうとする癖がクリスにはあるからな、攻撃されたらまずいと考えるルイン君は、まず最初に言葉によって相手の攻撃を抑えようと動くのではなかろうか」
「なるほど、まず会話でもって懐柔しようと試みるわけですね。それもアリですよ」
「お前に攻撃されたら俺、死ぬから!的な事言われてその理屈にクリスが納得してしまったら……クリスは無用な手加減を強いられる事になるのではないかな……?相手をむやみに傷つけたりするのは好きではない子だし」
「らしいですね、資料にもそのように書いてあります」
「いっそ棄権を選んだりもするのかな?」
「ふぅむ、そこまでクリスさんをルインさんが説得できるかどうか、そこが勝敗のカギなのでしょうか」
静かに二人が闘技場の中央に姿を現した。
一人は大きな武器を左手で引きずりながら、もう一人は軽装のまま何も手にせず定位置に来ると腰に手を当ててわずかに、相手に強い視線を送っている。
俗にいうガン飛ばしだ。
「ん?あれ?なんかルイの奴、闘争心むき出しっぽいけど」
「逆にそれにクリスがひるんでいるな……」
「早速メヂカラに気押されているクリスさん、この試合いったいどうなるのでしょう」
クリスは巨大な剣を片手で構える。一般的な人であれば持ち上げるのが精いっぱい、あるいはそれすら不可能という巨大な剣を片手で扱う……勿論それには理由があった。
クリスは右半身に障害を持っていてほとんど動かせないのである。
足関節もところどころ動かない所があるのでブーツの中から膝に掛けて衰えた筋肉の分しっかりと固定がなされており、動く部分だけを使って歩いているのである。ふつうに見るには違和感が無いかもしれないが、よく見ると少しだけ足を引きずっているのが分かるだろう。
足はまだまともな方で右腕などは肩をわずかに動かせるだけで他は全く機能していない。
だから、剣は左腕一本で扱うのである。
そんな不具をものともしないのは、彼の肉体がそもそも高性能で外見からは想像のつかないようなバカヂカラを持っている為だ。完全に自分のものにしている訳ではないというところが、彼の能力を不安定なものにしている。
クリスは緊張していた。
こういう一対一の、観客に囲まれての戦闘経験は覚えがない。そもそも彼にはいろいろと記憶が無い。肉体の方や無意識の方で覚えている動作や言葉はあるものの、それを理性で制御できないし理解出来ない事だってある。
相手は魔法使いだと聞いた。
魔法使い相手はやっかいよ、とダァクから色々聞いてしまった所為もある。
確かに楽な相手ではないだろう……相手は、どのように出てくるだろうか。
魔法を使われたらどうなるか。想像がつかない。そもそも相手の魔法使いがどんな魔法を使ってくるのかという推測も、全体的な経験不足からクリスには全くの予想がつけられないでいる。
これがヤトやダァクであれば割と、そうではなく相手の放つ魔法の種類を絞り込めたりする。
魔法使い、というと最大火力というイメージがあるかもしれないが実際にはそういう風に働ける魔法使いというのは稀有な存在なのだ。
魔法とは主に奇跡や、間諜、動作補佐に使われるのが主である。
それが現実っ!
魔法はあくまで手段である、火をおこしただけでは相手を燃やせはしない。的確にその炎を相手に投げるつけるという技能がなければ『火の玉』という攻撃魔法は成り立たない。
だから、魔法使いが攻撃に使う魔法というのは割と限られてくるのだ。それをヤトやダァクは知っている訳だが、残念ながら実戦経験が圧倒的に少ないクリスはそうではない。
一撃必殺を狙うなら大抵雷撃。火の玉は主に相手の行動をけん制する理由での使用が多く、氷柱を投げる事もこれに同じくだ。氷柱の場合物理攻撃も伴うので剣で叩き落される危険性もある。
光の矢を放つ者もいるが、そこまで絞り込んだレーザー魔法を使える人物は限られている。
そんな物騒な魔法が使えるなら、その魔法使いの肩書きとして『光の』とか『閃光の』というのがついているだろう。それくらい使い手が限られているものだ。
知っている情報から相手の特性を考える事だね、とダァクからアドバイスされた事をクリスは考えていた。
知っている相手の情報……目の前の目つきの悪い人は、ルインという人で。
知りうる最大の知識を生かせば、ルインというのは『台無し』という意味であって確か……『破壊』の代名詞として使われているよな……という事くらいである。
そのルイン、相変わらず悪い目つきでこちらを睨んでいるのだが……。
「先手必勝ぉぉおおお!」
試合始め、という合図と同時に彼が吠えたので素直にクリスはびびった。
その隙に、ルインは両手を左脇で合わせて魔法発動所動作を完了、行使運動までを終えてしまう。
隙を相手に与えたと知ったクリスは慌てたが、今から攻撃してもその前に相手の魔法が発動する事をなんとなく予感し防御態勢を取る事を選択した。
もしかすると魔法発動前にクリスは動けたかもしれない。
しかし無用に相手を叩く事は無いだろう、という彼特有の配慮によってこの選択肢は消えたのである。
よって、ルインの魔法は成立し、遠慮なく会場にぶち放された。
『破壊魔法』による衝撃波が観客席をも襲う。
「これは酷い、突然レイズ系か」
「トリスさん、解説解説!」
その正体は風、とは少し違う。
すべてを引きちぎり、バラバラにする捻じれに引きずられた空間が反動で今、認識出来る現象として突風を巻き起こしているに過ぎない。
「レイズ系とは北神の加護のもと物質に破壊をもたらすという実は祈願系の破壊魔法だ」
「魔導一般的には正体不明の衝撃波って言われていますが」
「そりゃそうだ、物理的な相対干渉が出来ないのだから一般的には正体不明だ。魔導師は一般的に祈願系は使えない奴が多いからレイズ系を使える者は限られているはず」
「なるほど、かなり貴重な解説ありがとうございまー!!」
その瞬間、司会・解説・ゲストコーナーの机が吹き飛んでいくのであった。
「……と、この場合は物理盾は通じないわけだな、祈願系で盾を作らないとシャットアウトが出来ない」
「流石天衣、魔導師は苦手という魔導式にもちゃっかり精通しているトコロ、侮れませんが助かります」
机は吹き飛んでいったものの、ちゃっかり魔法盾を作って防御を張り巡らせるトリス・ヴァーニス。
それに助けてもらった司会とゲスト。いや、ゲストは最初から破壊魔法をものともせず席に座っていた。この人にはその魔法、効かないのである。
……理論的無事を説明するに、例えで…… つ ドラグス◎イブ。(byスレイヤーズ)
「ああ、だが流石の俺でもスタジアム全部を保護するのは無理だから」
破壊の後に生まれた風は止む気配がなく、むしろ勢いを増して嵐となろうとしている。必死に観客席にしがみついている人々から悲鳴が漏れているが……。
「やれやれ、こういう場合は僕がしりぬぐいをしろ……と。なんかいっつもそう云う事やらされている気がして来たよ……」
ハイドロウが仕方がなさそうに立ち上がり、片手を差し上げ吹き荒れる嵐を逆にかき混ぜるような動作でもってあっという間に沈静化してしまった。
この作業も驚くべきところなのだが。
驚愕すべきは今まで見えていなかった所にもあったりした。
突然嵐が止んだ事に呆然とクリスが顔をあげている。その左手につかんでいるのはすでに剣、ドラゴントースではなく……気絶したルインだったりするのだ。
「どうなったんだ?」
クリスが状況が理解できないという顔で司会・解説席を見上げてくる。
「いや、それは俺がお前に聞くことだから」
子供っぽい仕草で首をかしげたクリスに、トリスは苦笑を返す。
「すいません、僕らもすっかり状況を把握出来ておりませんでしたが……」
「僕は見てたよ」
ルインが起こした破壊魔法の後始末を終え、吹き飛んでいた椅子を拾って来てそれに腰かけながらハイドローはそっけなく言った。
「その剣、例の滅ばずの剣シリーズでしょう?場合によっては魔法不干渉っていうふざけた代物。それでルインが放ったハヴォックを君は回避したんだよ」
良く分かっていないがそうなのか!?という驚愕の顔をしているクリス。
「で、そのあとハヴォックの衝撃波が会場を襲っているのを見て、剣を握っているために破壊衝撃が通じていない君はルイに向かって、何をしている、アレを止めろ!と掴みかかって……」
「……ルインさんは気絶と」
「あ、いや!気絶させるつもりは全然なかったのだが!」
むしろ、クリスが術者を気絶させたために魔法が収まらずに暴走したらしい事をトリスとレッドが把握。
「クリスさんは……ええと、まったく手加減という事が出来ない……と」
「慌てて本気で相手の首を掴んではいけないぞ、クリス」
「………ごめんなさい」
この場合勝敗、どうなるんでしょう。
司会・解説・特別ゲストで話し合った結果……ルインの初撃を回避した段階でクリスの勝ちだろうという協議結果で発表がなされた。
「……いいのかな、俺?」
自分の実力というよりは、装備品による勝利でしかないのだが、だがしかしその稀なる剣を自分の物にした経緯はクリス自身にあるのだから良いんじゃないんでしょうか。
(※エレメンタラティナの冒頭辺りの話参照)
タンカで運ばれていくルインを見送り、クリスは申し訳なさそうに頭を垂れるのだった………。
*** *** ***
「というわけで、ようやく初戦がこれで全て終わった形になります」
再び破壊された闘技場の修理の合間に、しばしの休憩タイムが設けられられている。
だが司会達はその間もしゃべり倒さなければいけない。それが、仕事であるからだ。
「次はシード選手の対戦と第二対戦か。ああそうだ、敗者復活戦とか三位決定戦とかはやるんだろうか」
「いやぁ、流石にそこまではやっているヒマは無いと思いますので」
「作者の都合って奴だね」
「都合はいいけど、さっきのあれは納得いかねぇ……」
「おっとぅ、なんか聞きなれない声の人がいますね。誰でしょう。はい、」
レッドからマイクを向けられ、頭を掻きつつこれに答えるは……先の戦いで気絶に陥ったルインである。
「お前らが好き勝手言うのを止めにやってきてやったぞ、ルインだ!」
「てっきりヤトとか来るかと思いましたが。考えてみたら彼では僕らの言葉を止められませんからね」
「ふむ、我々に向けたツッコミ業はかなりのハードワークかもしれないがその覚悟はあるのかね」
「お前ら、ほんッとーにいいたい事いいやがるな。言っておくが俺はこれで総ツッコミ役なんだよ!覚悟しやがれ!」
「実に心強いお言葉です、ではルインさんは第二解説者として席をご用意いたしましょう」
主に司会にツッコミ仕事が偏っていたのでレッド的には大歓迎であったりする。
「さて、では次の対戦カードについて最後に」
「おいこらまて、折角俺様がやってきてやったってのに、最後ってなんだ最後って」
「実に心強いツッコミです、ありがとうございます……はい。そろそろお気づきの方もおられると思いますが。ページの都合上という終わり、が近付いている訳です」
いたって真面目にレッドが言った言葉の隣で、ようするに『続く』だろ、とハイドロウがぼやく。
「まぁいいや、次もちゃんと俺を呼ぶんだぞ」
「……というか、君は出番が少なかった事が不満なだけではないのか」
「勝ち残るつもりだったんだからそれは当り前だろう」
素直にトリスの言葉を認めてルインは腕を組む。
「俺って一人だけ魔法使いだろ?だったらこの対戦、明らかに俺が最強じゃねぇか」
「その魔法が相手に当たればの話だけどね」
総ツッコミと自負するルインであるが、ハイドロウには若干弱いと見えて口を曲げる。
「そうですねぇ……魔法使いと戦える、という稀有な剣士のダァクさんとの一戦など、みものではあったかもしれません」
「ああ、アレ相手は君では相手にならないぞ」
あっさりトリスから負けを宣言されてルインはさらに口を曲げる。
「なんでだよ。あいつも魔法使いっ気があるってのか?」
「全体的に剣士以外との相性が……悪いというのか、この場合良いと言っていいのかな。ダァクはあらゆるものごとを跳ね返すという裏ワザを持っている。君がさっきのようにレイズ系最上級ハヴォックなんか投げつけたら、そのままそっくり戻ってくるぞ。君には魔法を防ぐ手立てがあるのかな?防御魔法が使えない君には致命傷と思うが」
「げ、そういう奴なのかよ?……じゃ、初戦は手を抜いてたんだな……」
その通り、と司会・解説・ゲストが同時に答える。
某人柱勇者立つ瀬なし。
「そろそろタイムリミットのようです、では次のカードだけ発表しておきましょう。次は初戦突破したブレイズさんと……シード、アベルさんとの対戦です」
少し間があき、トリスが少しだけ手を挙げる。
「いいか?」
「なんでしょう天衣殿?」
「……資料によるとアベルさん、というのは君の所のじゃじゃ馬ツンデレお嬢様と書いてあるがこれは間違い無いな?」
そう、彼女は実は今回の紅一点参加なのである。
「ええ、間違い無いと思われます」
「先の話ではシード対戦は強いと思われる者同士の対戦で、シード選手は同じく……」
「確かに本来であれば強いであろう人を用意いたします」
ルインは資料を全く読む気はないようで、会話の様子からアベルという人物を読み解く。
「って事は、そのアベルってお嬢ちゃんの実力はそんなんでもないって事か?」
「いや……実力に関してはほぼ未知数と僕は評価しますが」
「そうだな、とくに成績が……ん?なんだ。彼女は一度ブレイズと闘っていたらしい事になっているじゃないか。β版で」
「って事は、すくなくともブレイズと戦える……いや、」
ハイドロウは途中で言葉を止め、額を抑える。
「ブレイズはあれでかなりフェミニストっ気があるからね。それが場合によっては失礼だっての把握しない奴だから。ちゃんと闘っていたかどうかは分からないな」
ルインは司会のレッドをうかがう。
「じゃ、強いのか。どういう選手だ」
「資料渡したでしょ、ちゃんと読んでください……まぁ一応言葉で伝えておきましょう。アベルさんは魔法剣士です。魔法を使えるのですが物質を通さないと発動させられないという変な癖がありますので魔法剣士、というカテゴリーになります。イシュターラーの先祖がえり種なので肉体的なポテンシャルは相当に高いようです。ただ、剣の指導を行ったのがヤ………いや、名前は事情があってここでは申し上げあれませんが、ちゃんとした指導は受けていない独学の戦士という事になるようです」
「ふぅん、なんでそれがシードなんだ?」
問題はそこですよね、とレッド。いつもの黒い笑みを浮かべて両手でこの闘技場全体を示すように掌を向ける。
「みなさん、ここの闘技場の名前何だかご存知ですか」
「……いや、興味ないから知らないな」
ハイドロウはそっけなくそのように返したが、トリスはそうではない。
「……俺の時代にもある闘技場の一つで、エズのエトオノだったと思うが」
ついで、ようやく事情に気がついて苦笑いを浮かべている。
「トリスさん正解。つまり、スポンサー権限でアベルさんはシードです」
「……すぽんさぁ?」
一人分かっていないルインに向け、仕方なさそうにハイドロウは教えてやった。
「アベルさんの本名はアベル・エトオノ。彼女はここの闘技場のお嬢さんなんだよ」
「ああ!なるほど……って、ちょいまて!お嬢のくせに戦うのか!?」
「実に的確なツッコミ、ありがとうございます」
◆◆◆◆ その3に続く ◆◆◆◆
※解説※
ここまでが2回目のブログに記載されていた内容です。……やっぱりブログの長さじゃないとか突っ込みは以下略
*** 続く ***
※同世界設定同士の物語登場人物による、
俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め
「というわけで、改めましてトーナメントの続きはまだ続きます。これが最後の第一試合」
トーナメント表を指で追いながらレッドの確認。トリスは苦笑気味につぶやく。
「まだ第一試合か、先は長いな」
「わかりませんよ、今後は一瞬で決着がつくって事もあるかもしれませんから」
「僕らがどうでもいい事話している間に決着がつくような?」
「まぁ、無いとはいいきれんが……それで、次は誰と誰だっけ?」
「先に言ったじゃありませんか」
と惚けてみせたトリスに向けてレッドが嗜めるが、
「確かに次はクリスが出る、とは聞いているが。肝心の相手の話はまだ聞いていない」
ハイドローがその横で人数を数えている。
「ん?参加人数的にトーナメントだと初戦で全員ペアが組みきれてないね。一人余るんだけど」
「もちろん、余った方はシード選手という事で。実は初戦も明らかに強いだろうな、という憶測が働いていいてシード枠戦だったりします」
トリスは何時もの苦笑を浮かべて言った。
「シード枠に弱い選手持ってきても盛り上がらないからな」
「その通り」
魔導師連中、言いたい放題。
「じゃ、シードは誰になるんだ?……まさかルイじゃないよな?」
ハイドロウがルイ、と言うのは正式にはルインの事である。SF版だといい加減リーダーやっている人で、FT版だと貧乏くじの人。
ハイドロウと同じく、原初魔法使いの一人だ。
「一人だけ生粋の魔法使いが戦士トーナメントに混じっているってのも、変な感じですよね。ですがシードはルインさんではありません。次の対戦カードは事実上ダァクさんの弟子扱いになっている剣士のクリスさんと、なぜだか魔法使いなのに出場しているルインさんの対戦なのです」
それはなんというカードなんだと、レッドを除く二人の魔導師が思わず額に手を当て天を仰ぎ地を睨む。
「うわー……それ、どういう意図があっての事なの。というかあのバカのお祭り好きは本当にどうしようもないな」
そもそも剣士などの肉体技能者達の中に、それらの技能が全くないような魔法使いが一匹紛れ込んでいるという事自体が間違っているとハイドロウは頭を抱えた。
ルインの事だ、面白半分にこのトーナメントに出たかあるいはオービットあたりに大いにそそのかされたかの二択だろう。
「だが、面白い対戦カードだ、クリスは魔法使いとの対戦経験は……ほとんど無い、か。共闘やらお手伝いはやったようだが……そもそも魔法使い相手に剣士がまともに戦えるという方が異常だ」
その異常戦闘を何度となくやっているのが例の初戦を勝ち進んだダァクだったりするのだが。
これは彼が使っている武器の特性があって出来た事だろう。
「ああ、だからトリスさんはダァクさんが気に入らないわけですか」
「………好きではないのは認めるが、別にそういう意味ではない」
「へぇー」
「ふぅん」
二人の意味深な視線を無視し、トリスは咳ばらいをしてともかく、と話を元に戻した。
「ダァクの真似なんぞクリスにやらせなくともいいだろうに」
「いやでもさ、魔法使いもさし勝負だと剣士に対し無敵って訳じゃないだろ?よほど熟練していない限り無動作で魔法発動は出来ないっていう、縛りがあるからさ」
「ああ、その縛りはルインさんにも適応されているんですか」
「そりゃそうだよ、僕だって一応戦闘ターン制になったらそれは削られる仕様だよ」
戦闘ターン制とか、RPGお約束用語はこっそり使いなさいプレイヤーキャラクター。
「よくは分からんがベータ版になった縛り、という奴だな。じゃぁさしものルイン・クローディアも呪文詠唱が必要だ、と」
「エネルギーチャージするかしないかって違いみたいなもんだろうけど」
遠慮なくハイドロウは元ネタの方も絡めて言った。
「ルインというかそれは、バクライの仕様的な問題では……」
SF仕様におけるルインは『瀑瀬』という機体名のルビだ。これは超攻撃特化機であり、その『性格・属性付け』だけを引っ張らって持ってこられたFT版では攻撃魔法特化、という事になっているわけである。
「……と、何か色々制限なく交えて話してしまいましたね申し訳ありません。とにかく、クリスさんの攻撃が相手の魔法発動よりも速かったりすれば全然勝機はあるという事ですね」
「むしろ、攻撃されたら……ルイ、死ぬんじゃない?あいつ防御系の魔法も一切使えないから」
「うむ、実に仕様だな。一発攻撃を貰ったらアウトだという……ちなみに資料によると回避能力も皆無なので必ず盾役とペアを組まないと出撃出来ないらしいが」
「……大丈夫なんですかそれは、一人で戦って」
クリスさんって手加減とかできるような子でしたっけ?と資料を慌ててめくるレッド。
「だから、奴は一人で戦えるような魔法使いじゃないんだってば」
*** *** ***
自分の身長よりもわずかに『大きい』という巨大な剣、もとい。
巨大な金属らしきものの延べ棒を振りまわすのがクリス・八撃星。
ちなみにハチゲキセイはハチゲキセイでも漢字が一文字違う通り、某魔王連中とは何の関係もありません。
全体的に先に戦ったダークと同じく白っぽい外見をしているクリスであるが、その頭髪はまぎれもない銀髪である。
白髪ではない。ここだけの話明らかに人間の頭髪とは構造が異なっていたりする。
抜けてしまうとただの白髪なのだが、銀糸か、あるいはそれ以上の強度を誇っているまさしく金属的な属性を持っている。
というか、そもそも彼の場合正常な状態である限り拳一つで岩を砕けてしまうのだ。……言ってしまえば怪物級の一人である。
もちろんそんな事本人は知らないし、その情報が世界的に某人により抹消されている関係で本編では正体不明として取り扱われているのだが。
「ぶっちゃけ、彼は遠東方人先祖がえりに近い種族なわけでしょう。もっとぶっちゃけてしまうとむしろ先祖」
「いやぁ、そこまでここで言ってしまってよいものか」
苦笑いでごまかしているが、実は本編で最初っからそれを正確に把握しているのは何を隠そうトリスのみなのである。
「ようするにすでに『現代』にはいない人種です。現代、というのは僕らの時代を指してもいいしトリスさんの生きている時代でもいいのですが……この場合、前例に倣うと怪物ですね」
「……彼、割と他の人達と違って精神が繊細みたいだから聞こえないように言いなよ」
辛辣ではあるがβ版のハイドロウはほんの少しだけ優しさも持っているんだぜ!
……普段はボケ天然キャラにも容赦なく毒舌で接する彼ではあるが。
そんな実は怪物級、に対するは……盗賊の格好をしているが実はあんまり肉体技能は秀でていないと評判の魔法使い、ルイン・クローディア。
いや、周りが怪物級なだけで一応一般的なシーフの肉体技能くらいはあったりする。
あと地味かもしれないがRPGでは割と重宝される道具鑑定とワナ回避、アンロックを、魔法ではなく技術として扱う事が出来たりするのだ。
それからやっぱりあまり目立たない技能かもしれないが、口先担当のオービットと並び話術系技能にも特化していたりしている。
冒険に連れ出すなら結構便利なキャラクターだ!
まぁ、要するに彼を取り巻く他の人たちがそういう地味なスキルを一切持っていないって意味でもあるのだが。
戦闘能力としては攻撃に激しく特化した魔法を使う。
「彼、苦労性っぽいなぁ。しかし、この特性値を見ていると……割とクリスは苦戦するかもしれない」
解説の言葉にどういう事でしょう、とレッドは詳細を求める。
「割と無用に考えて戦おうとする癖がクリスにはあるからな、攻撃されたらまずいと考えるルイン君は、まず最初に言葉によって相手の攻撃を抑えようと動くのではなかろうか」
「なるほど、まず会話でもって懐柔しようと試みるわけですね。それもアリですよ」
「お前に攻撃されたら俺、死ぬから!的な事言われてその理屈にクリスが納得してしまったら……クリスは無用な手加減を強いられる事になるのではないかな……?相手をむやみに傷つけたりするのは好きではない子だし」
「らしいですね、資料にもそのように書いてあります」
「いっそ棄権を選んだりもするのかな?」
「ふぅむ、そこまでクリスさんをルインさんが説得できるかどうか、そこが勝敗のカギなのでしょうか」
静かに二人が闘技場の中央に姿を現した。
一人は大きな武器を左手で引きずりながら、もう一人は軽装のまま何も手にせず定位置に来ると腰に手を当ててわずかに、相手に強い視線を送っている。
俗にいうガン飛ばしだ。
「ん?あれ?なんかルイの奴、闘争心むき出しっぽいけど」
「逆にそれにクリスがひるんでいるな……」
「早速メヂカラに気押されているクリスさん、この試合いったいどうなるのでしょう」
クリスは巨大な剣を片手で構える。一般的な人であれば持ち上げるのが精いっぱい、あるいはそれすら不可能という巨大な剣を片手で扱う……勿論それには理由があった。
クリスは右半身に障害を持っていてほとんど動かせないのである。
足関節もところどころ動かない所があるのでブーツの中から膝に掛けて衰えた筋肉の分しっかりと固定がなされており、動く部分だけを使って歩いているのである。ふつうに見るには違和感が無いかもしれないが、よく見ると少しだけ足を引きずっているのが分かるだろう。
足はまだまともな方で右腕などは肩をわずかに動かせるだけで他は全く機能していない。
だから、剣は左腕一本で扱うのである。
そんな不具をものともしないのは、彼の肉体がそもそも高性能で外見からは想像のつかないようなバカヂカラを持っている為だ。完全に自分のものにしている訳ではないというところが、彼の能力を不安定なものにしている。
クリスは緊張していた。
こういう一対一の、観客に囲まれての戦闘経験は覚えがない。そもそも彼にはいろいろと記憶が無い。肉体の方や無意識の方で覚えている動作や言葉はあるものの、それを理性で制御できないし理解出来ない事だってある。
相手は魔法使いだと聞いた。
魔法使い相手はやっかいよ、とダァクから色々聞いてしまった所為もある。
確かに楽な相手ではないだろう……相手は、どのように出てくるだろうか。
魔法を使われたらどうなるか。想像がつかない。そもそも相手の魔法使いがどんな魔法を使ってくるのかという推測も、全体的な経験不足からクリスには全くの予想がつけられないでいる。
これがヤトやダァクであれば割と、そうではなく相手の放つ魔法の種類を絞り込めたりする。
魔法使い、というと最大火力というイメージがあるかもしれないが実際にはそういう風に働ける魔法使いというのは稀有な存在なのだ。
魔法とは主に奇跡や、間諜、動作補佐に使われるのが主である。
それが現実っ!
魔法はあくまで手段である、火をおこしただけでは相手を燃やせはしない。的確にその炎を相手に投げるつけるという技能がなければ『火の玉』という攻撃魔法は成り立たない。
だから、魔法使いが攻撃に使う魔法というのは割と限られてくるのだ。それをヤトやダァクは知っている訳だが、残念ながら実戦経験が圧倒的に少ないクリスはそうではない。
一撃必殺を狙うなら大抵雷撃。火の玉は主に相手の行動をけん制する理由での使用が多く、氷柱を投げる事もこれに同じくだ。氷柱の場合物理攻撃も伴うので剣で叩き落される危険性もある。
光の矢を放つ者もいるが、そこまで絞り込んだレーザー魔法を使える人物は限られている。
そんな物騒な魔法が使えるなら、その魔法使いの肩書きとして『光の』とか『閃光の』というのがついているだろう。それくらい使い手が限られているものだ。
知っている情報から相手の特性を考える事だね、とダァクからアドバイスされた事をクリスは考えていた。
知っている相手の情報……目の前の目つきの悪い人は、ルインという人で。
知りうる最大の知識を生かせば、ルインというのは『台無し』という意味であって確か……『破壊』の代名詞として使われているよな……という事くらいである。
そのルイン、相変わらず悪い目つきでこちらを睨んでいるのだが……。
「先手必勝ぉぉおおお!」
試合始め、という合図と同時に彼が吠えたので素直にクリスはびびった。
その隙に、ルインは両手を左脇で合わせて魔法発動所動作を完了、行使運動までを終えてしまう。
隙を相手に与えたと知ったクリスは慌てたが、今から攻撃してもその前に相手の魔法が発動する事をなんとなく予感し防御態勢を取る事を選択した。
もしかすると魔法発動前にクリスは動けたかもしれない。
しかし無用に相手を叩く事は無いだろう、という彼特有の配慮によってこの選択肢は消えたのである。
よって、ルインの魔法は成立し、遠慮なく会場にぶち放された。
『破壊魔法』による衝撃波が観客席をも襲う。
「これは酷い、突然レイズ系か」
「トリスさん、解説解説!」
その正体は風、とは少し違う。
すべてを引きちぎり、バラバラにする捻じれに引きずられた空間が反動で今、認識出来る現象として突風を巻き起こしているに過ぎない。
「レイズ系とは北神の加護のもと物質に破壊をもたらすという実は祈願系の破壊魔法だ」
「魔導一般的には正体不明の衝撃波って言われていますが」
「そりゃそうだ、物理的な相対干渉が出来ないのだから一般的には正体不明だ。魔導師は一般的に祈願系は使えない奴が多いからレイズ系を使える者は限られているはず」
「なるほど、かなり貴重な解説ありがとうございまー!!」
その瞬間、司会・解説・ゲストコーナーの机が吹き飛んでいくのであった。
「……と、この場合は物理盾は通じないわけだな、祈願系で盾を作らないとシャットアウトが出来ない」
「流石天衣、魔導師は苦手という魔導式にもちゃっかり精通しているトコロ、侮れませんが助かります」
机は吹き飛んでいったものの、ちゃっかり魔法盾を作って防御を張り巡らせるトリス・ヴァーニス。
それに助けてもらった司会とゲスト。いや、ゲストは最初から破壊魔法をものともせず席に座っていた。この人にはその魔法、効かないのである。
……理論的無事を説明するに、例えで…… つ ドラグス◎イブ。(byスレイヤーズ)
「ああ、だが流石の俺でもスタジアム全部を保護するのは無理だから」
破壊の後に生まれた風は止む気配がなく、むしろ勢いを増して嵐となろうとしている。必死に観客席にしがみついている人々から悲鳴が漏れているが……。
「やれやれ、こういう場合は僕がしりぬぐいをしろ……と。なんかいっつもそう云う事やらされている気がして来たよ……」
ハイドロウが仕方がなさそうに立ち上がり、片手を差し上げ吹き荒れる嵐を逆にかき混ぜるような動作でもってあっという間に沈静化してしまった。
この作業も驚くべきところなのだが。
驚愕すべきは今まで見えていなかった所にもあったりした。
突然嵐が止んだ事に呆然とクリスが顔をあげている。その左手につかんでいるのはすでに剣、ドラゴントースではなく……気絶したルインだったりするのだ。
「どうなったんだ?」
クリスが状況が理解できないという顔で司会・解説席を見上げてくる。
「いや、それは俺がお前に聞くことだから」
子供っぽい仕草で首をかしげたクリスに、トリスは苦笑を返す。
「すいません、僕らもすっかり状況を把握出来ておりませんでしたが……」
「僕は見てたよ」
ルインが起こした破壊魔法の後始末を終え、吹き飛んでいた椅子を拾って来てそれに腰かけながらハイドローはそっけなく言った。
「その剣、例の滅ばずの剣シリーズでしょう?場合によっては魔法不干渉っていうふざけた代物。それでルインが放ったハヴォックを君は回避したんだよ」
良く分かっていないがそうなのか!?という驚愕の顔をしているクリス。
「で、そのあとハヴォックの衝撃波が会場を襲っているのを見て、剣を握っているために破壊衝撃が通じていない君はルイに向かって、何をしている、アレを止めろ!と掴みかかって……」
「……ルインさんは気絶と」
「あ、いや!気絶させるつもりは全然なかったのだが!」
むしろ、クリスが術者を気絶させたために魔法が収まらずに暴走したらしい事をトリスとレッドが把握。
「クリスさんは……ええと、まったく手加減という事が出来ない……と」
「慌てて本気で相手の首を掴んではいけないぞ、クリス」
「………ごめんなさい」
この場合勝敗、どうなるんでしょう。
司会・解説・特別ゲストで話し合った結果……ルインの初撃を回避した段階でクリスの勝ちだろうという協議結果で発表がなされた。
「……いいのかな、俺?」
自分の実力というよりは、装備品による勝利でしかないのだが、だがしかしその稀なる剣を自分の物にした経緯はクリス自身にあるのだから良いんじゃないんでしょうか。
(※エレメンタラティナの冒頭辺りの話参照)
タンカで運ばれていくルインを見送り、クリスは申し訳なさそうに頭を垂れるのだった………。
*** *** ***
「というわけで、ようやく初戦がこれで全て終わった形になります」
再び破壊された闘技場の修理の合間に、しばしの休憩タイムが設けられられている。
だが司会達はその間もしゃべり倒さなければいけない。それが、仕事であるからだ。
「次はシード選手の対戦と第二対戦か。ああそうだ、敗者復活戦とか三位決定戦とかはやるんだろうか」
「いやぁ、流石にそこまではやっているヒマは無いと思いますので」
「作者の都合って奴だね」
「都合はいいけど、さっきのあれは納得いかねぇ……」
「おっとぅ、なんか聞きなれない声の人がいますね。誰でしょう。はい、」
レッドからマイクを向けられ、頭を掻きつつこれに答えるは……先の戦いで気絶に陥ったルインである。
「お前らが好き勝手言うのを止めにやってきてやったぞ、ルインだ!」
「てっきりヤトとか来るかと思いましたが。考えてみたら彼では僕らの言葉を止められませんからね」
「ふむ、我々に向けたツッコミ業はかなりのハードワークかもしれないがその覚悟はあるのかね」
「お前ら、ほんッとーにいいたい事いいやがるな。言っておくが俺はこれで総ツッコミ役なんだよ!覚悟しやがれ!」
「実に心強いお言葉です、ではルインさんは第二解説者として席をご用意いたしましょう」
主に司会にツッコミ仕事が偏っていたのでレッド的には大歓迎であったりする。
「さて、では次の対戦カードについて最後に」
「おいこらまて、折角俺様がやってきてやったってのに、最後ってなんだ最後って」
「実に心強いツッコミです、ありがとうございます……はい。そろそろお気づきの方もおられると思いますが。ページの都合上という終わり、が近付いている訳です」
いたって真面目にレッドが言った言葉の隣で、ようするに『続く』だろ、とハイドロウがぼやく。
「まぁいいや、次もちゃんと俺を呼ぶんだぞ」
「……というか、君は出番が少なかった事が不満なだけではないのか」
「勝ち残るつもりだったんだからそれは当り前だろう」
素直にトリスの言葉を認めてルインは腕を組む。
「俺って一人だけ魔法使いだろ?だったらこの対戦、明らかに俺が最強じゃねぇか」
「その魔法が相手に当たればの話だけどね」
総ツッコミと自負するルインであるが、ハイドロウには若干弱いと見えて口を曲げる。
「そうですねぇ……魔法使いと戦える、という稀有な剣士のダァクさんとの一戦など、みものではあったかもしれません」
「ああ、アレ相手は君では相手にならないぞ」
あっさりトリスから負けを宣言されてルインはさらに口を曲げる。
「なんでだよ。あいつも魔法使いっ気があるってのか?」
「全体的に剣士以外との相性が……悪いというのか、この場合良いと言っていいのかな。ダァクはあらゆるものごとを跳ね返すという裏ワザを持っている。君がさっきのようにレイズ系最上級ハヴォックなんか投げつけたら、そのままそっくり戻ってくるぞ。君には魔法を防ぐ手立てがあるのかな?防御魔法が使えない君には致命傷と思うが」
「げ、そういう奴なのかよ?……じゃ、初戦は手を抜いてたんだな……」
その通り、と司会・解説・ゲストが同時に答える。
某人柱勇者立つ瀬なし。
「そろそろタイムリミットのようです、では次のカードだけ発表しておきましょう。次は初戦突破したブレイズさんと……シード、アベルさんとの対戦です」
少し間があき、トリスが少しだけ手を挙げる。
「いいか?」
「なんでしょう天衣殿?」
「……資料によるとアベルさん、というのは君の所のじゃじゃ馬ツンデレお嬢様と書いてあるがこれは間違い無いな?」
そう、彼女は実は今回の紅一点参加なのである。
「ええ、間違い無いと思われます」
「先の話ではシード対戦は強いと思われる者同士の対戦で、シード選手は同じく……」
「確かに本来であれば強いであろう人を用意いたします」
ルインは資料を全く読む気はないようで、会話の様子からアベルという人物を読み解く。
「って事は、そのアベルってお嬢ちゃんの実力はそんなんでもないって事か?」
「いや……実力に関してはほぼ未知数と僕は評価しますが」
「そうだな、とくに成績が……ん?なんだ。彼女は一度ブレイズと闘っていたらしい事になっているじゃないか。β版で」
「って事は、すくなくともブレイズと戦える……いや、」
ハイドロウは途中で言葉を止め、額を抑える。
「ブレイズはあれでかなりフェミニストっ気があるからね。それが場合によっては失礼だっての把握しない奴だから。ちゃんと闘っていたかどうかは分からないな」
ルインは司会のレッドをうかがう。
「じゃ、強いのか。どういう選手だ」
「資料渡したでしょ、ちゃんと読んでください……まぁ一応言葉で伝えておきましょう。アベルさんは魔法剣士です。魔法を使えるのですが物質を通さないと発動させられないという変な癖がありますので魔法剣士、というカテゴリーになります。イシュターラーの先祖がえり種なので肉体的なポテンシャルは相当に高いようです。ただ、剣の指導を行ったのがヤ………いや、名前は事情があってここでは申し上げあれませんが、ちゃんとした指導は受けていない独学の戦士という事になるようです」
「ふぅん、なんでそれがシードなんだ?」
問題はそこですよね、とレッド。いつもの黒い笑みを浮かべて両手でこの闘技場全体を示すように掌を向ける。
「みなさん、ここの闘技場の名前何だかご存知ですか」
「……いや、興味ないから知らないな」
ハイドロウはそっけなくそのように返したが、トリスはそうではない。
「……俺の時代にもある闘技場の一つで、エズのエトオノだったと思うが」
ついで、ようやく事情に気がついて苦笑いを浮かべている。
「トリスさん正解。つまり、スポンサー権限でアベルさんはシードです」
「……すぽんさぁ?」
一人分かっていないルインに向け、仕方なさそうにハイドロウは教えてやった。
「アベルさんの本名はアベル・エトオノ。彼女はここの闘技場のお嬢さんなんだよ」
「ああ!なるほど……って、ちょいまて!お嬢のくせに戦うのか!?」
「実に的確なツッコミ、ありがとうございます」
◆◆◆◆ その3に続く ◆◆◆◆
※解説※
ここまでが2回目のブログに記載されていた内容です。……やっぱりブログの長さじゃないとか突っ込みは以下略
*** 続く ***
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