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番外編 補完記録13章  『腹黒魔導師の冒険』

書の6前半 仕様改変の事『合流対決そして迷子の件』

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■書の6前半■仕様改変の事 Specification change of integrates all

 ヤトの状況を確認する事を一旦諦めて僕は……安全な所に退避する必要がありました。
 ヘタをすれば追撃されると判断しました。
 倒れているナッツさんが、次にどう動くのかを読めなくなったのです。
 予期せぬ致命傷を負って冷静さを欠いてしまった。
 呼吸が乱れるだけで、まともな思考が出来なくなるという経験は中々想像の付かない事ですね、いざその場面に出くわすと本当に何も出来なくなって途方にくれてしまうんですよ。
 僕が今、必死に唱えている様に……彼が即座回復してこちらを殺しに向かってくる可能性が捨てきれない。むしろ、そうであった方が僕としては都合が良いのでなおその展開が気になって仕方が無い。
 しかしそれではあまりにも中途半端な幕切れになってしまう。一番ベストな形でのゲームオーバーとは云い難い。多少なりともゲーマーであるならば、スコアはなるべく高く、高評価でクエストを終えたいものです。
 
 そういう展開になる事から逃れるために……僕は一旦逃げるしかなかった。

 カオスに願ってタトラメルツに戻りました。
 そして人のいない廃墟で毒の浸食を阻む為の魔導式を組み直す。その次に傷を塞ぎそうしてから……ナッツさんへ命を奪いかねない攻撃を加えてしまった……自分の乱れた精神を鎮めるのに数日費やした事を白状します。

 ヤトは、僕が仕組んでいた通りに解凍され、無事カルケード首都ファルザットにたどり着いたアベルさんと合流を果たした様ですね……遠見の魔法で様子を見ていましたよ。
 そうしてナッツさんの無事を確認出来て、そこで漸く僕は心の底から安堵のため息を漏らしました。

 残念ながら、僕はタトラメルツへの案内人にはなれなかった。

 でも、大丈夫です。彼らは必ずここに戻って来る。

 凍結させた彼らの記憶が、そういう風に作用するはず。
 ここで何が起きたのか、知りたいと願うでしょう。特に、ヤトがね。

 その後の展開については、ヤトが無事に『物語』に合流したのです、僕の方で繰り返す必要はありませんよね?

 後から確認するに、ナッツさんは……僕の事を多くは語らず、周りに合わせて黙っていてくれたようですね。具体的には僕らが相応に殺り合った件は上手い事誤魔化して話さずにいる様です。
 彼の信条は、ファルザット郊外にあっただろうオアシスで僕に語った通り『鳴かなければ撃たれない』。
 不都合と思ったのなら、そっと口を噤むという事。
 そうする事で、後に合流する事になる僕と後腐れなく出来る事を良く理解しているのでしょう。同時に、彼は信じる事が得意なのかもしれません。その実、自分が属する宗教の神は信じていない様ですけれども、信仰の力そのものは信じているのではないでしょうか。



 結局僕は、死ねませんでしたね。



 最後にナドゥの毒にも縋ってみましたが、結局の所完成したデバイスツールによって容易く死ねない状況になってしまいました。
 ともすれば、生きるしかないのかと絶望もするも、今はまだ死ねないだけだと思う事にしましょう。
 間違った事を、間違ったと正しく伝えても……それはそこまで間違っているのかと、必死に理解をしようとしてその実、その間違いも受け入れようと努力をしてくれた人が居る。
 見なかった事にしてやるからと、僕の所業を許してくれる人が居る。
 なんて……絶望的な世界でしょうかね。
 これでは死ねない訳です。
 生きている事に歓びなんて無いのに、誰かが死ぬ事が許せなくなっている。
 多分それは……彼も同じなのでしょう。
 僕は、いつしかヤトと同じ価値観を持ってしまっていたのかもしれません。僕は……僕なんかは死んでも構わない。でもヤトが死ぬ事はどうしても受け入れがたい。
 仲間達が死ぬのが耐えられない。
 その理屈が分からない、でもどうしても彼らには生きていて欲しい。
 何時からそう願っていたのか良く分からないですね……でも、そう思う様になってしまった時から僕は、彼に敵う事など無いのでしょう。

 彼は……不思議な人です、そういう認識は多分、他の全員にも在るのだと思いますよ。

 不思議と目を離せない、一種呪いの様な感覚さえ感じます。
 いや、もしかすると……真面目に彼は呪われているのかもしれません。それ相応に酷い人生は歩んできた様ですし。
 あの、異常に秘めた潜在魔力の由来を差し示している緑色の瞳の奥に、彼が忌まわしいと呪う首飾りと同じ黄緑色の色彩が潜んでいる。
 アーティフカル・ゴーストの変形型を発症した彼の暴走時には、その明るい色が特に顕著になる様子は観察出来ていますからね。存外、それが全ての原因でしょうか?

 ナッツさんが監視しているのはもしかしなくても、そっちですかね?




 さてそれで、僕のアーティフィカル・ゴーストは取り除く事になりましたね。
 ナドゥの毒が混入している都合、それを取り除くのにも開発していた魔導式は都合が良い。
 ヤトを術式に招き入れる必要性があり、そうした場合に懸念される事についても魔導都市に戻って来る間に纏めておきました。恐らくこの辺りで一旦ログアトでしょうから、僕も暴走する、なんて展開は回避させておかないといけません。

 アーティフィカル・ゴーストが除去されてしまったら、僕は魔導師としては一つランクが下がる事になりますが……それもいいでしょう。今は、足りない所を補ってくれる仲間がいる。
 僕は漸く彼らを確かな『仲間』として認識出来る様になったのだと思います。
 何でもかんでも自分一人で回しているから手が回らなくなるんですよ、今回の件で皆さんが僕以上にとんでもない事は把握出来ました。その力を、存分に配分して回す事に知恵を回す事こそ僕の役割だとしっかり心得ましょう。


 さて、その後は暫くは全員揃っての行動が続きますが、その後ヤトと離れた展開といえば、そうですね、コウリーリス国のジャングルを進む道中、はぐれますね、ヤトが。

 ナドゥが彼に目をつけている事はもう、僕は十二分に分かっている訳です、ナッツさんにもこの辺りの事情は伝えてあるのですが、ナッツさんはどうにも最初からヤトが『危ない』存在なのは御存じという雰囲気ですね。
 二人でしっかり目を光らせていたというのに、あのおバカは……と、愚痴りたい所ですが、まさかシエンタで仕掛けられるとは、想定していてアインさんを監視に付けたものの本人の気が緩んでいてはどうしようも在りません。

 緊張感というものを、あの男はどっかで落として来たのか?というぐらいには大抵無防備でいますよ、見ているこっちは胃が痛いです。

 ヤトが目をつけられている、どうにもナドゥは彼をギガース掃討に向けた手駒に加えたい様ですが、勿論そう簡単に事が運ぶでもないし説得も出来ない状況、では次にどういう手を打ってくるのか?
 色々考えてはいたのですが、どうにも絞り込めてはいませんでした。
 本人にはまだはっきり告げておきませんでしたが……彼は既に瀕死かあるいは死んでいて、ナドゥが作った代替品で二回目以降のログインをしている状況にあります。彼の方でもどうやら自分が死んだらしい事は薄っすら把握している。
 しかしこうもしっかりヤト・ガザミとして世界に在る現状、体が代替品で本来の体とは違うとか、そんな事はこの際無意味な事かもしれません。
 僕らにとって、ヤト・ガザミはブルーフラグを持つ『彼』なのです。
 ブルーフラグは分裂する訳では無い、つまり……いくら代替品が存在しようとも、その中の一つに降り立つブルーフラグを立てた彼こそがヤト・ガザミです。
 僕らはそれを、間違えようが無い。
 しかし他はそうではないでしょう、ナドゥはフラグシステムなど理解しようがないのだから僕らが絶対間違えない理屈を理解出来ない。

 ともすれば……次に打って来る手段は『複製』でしょうかね。

 彼が持つ『経験値の取得』と合わせ、ヤト・ガザミの複製を用意してこちらを惑わせて来るか、あるいはそっちの複製の方をギガース掃討に調整していくつもりでいるのかもしれません。そうやってこちらのヤトに手出ししないでいるのなら安心でしたが、どうやらそういう訳にはいかなかった様で……シエンタで連れ去られてしまいました。

 警戒すべきは『経験値の取得』ですが……それは、色々と考えてみた所恐らくデータベースへの不正アクセス、みたいな能力ではないかと予測しています。
 『不正』ですね、正しく接するならデータベースの改竄は理論上出来るはずがない。凍結やデータの上書きは出来るとして、すでに積み上がった経験の並び替えや、複製は出来ないようになっているはず。システムで、この世界が在る為の基本的な理論としてそうあるのです。
 しかし……時に魔法という手段がそれを突破するからこの世界はある意味厄介なのです。それほどに厄介な魔法は禁忌として制約されていて行使出来ない、とはいえ。しかしそれを特例として許す場合がある。

 それが大陸座が世界に配した『デバイスツール』。

 今はそういう形に封じられましたが、そもそもは大陸座が開発者権限として持っていた、複数の特例事項です。事も在ろうか譲渡が出来る、分割譲渡も可能であり、それはデバイスツールという形に封じられても物理的な分割などで同じ様に振る舞います。

 レッドフラグは、九番目の消去し損ねてしまった大陸座、バルトアンデルトが世界にもたらした特例事項といえるはずです。
 しかもそれが全ては無かった。
 バルトアンデルトが八つの魔王八逆星の紋でもって封じられている……逆説的に、バルトアンデルトは八つの特例事項をエイトエレメンタラティスに齎してしまったのではないでしょうか。
 魔王八逆星は、ギガースから与えられた力で逆にギガースを封じ込めている。
 あるいは、彼がそうであるように九番目の特例があるのかもしれません。
 そしてそれは……ナドゥの手の中に在って『経験値の取得』という記憶の改竄に近い能力として実に厄介に、この世界を蝕んでいるのかもしれない。

 僕の推測が正しいとすれば、ヤトの立場はひたすらに悪くなるばかりです。

 大陸座ドリュアートの元にたどり着き、無事ヤトを確保しましたが……あまりこの自分の憶測を信じたくはないのですが……この時ヤトのブルーフラグが剥がれていました。
 レッドフラグは更にその頭上、ドリュアートの樹についていましたが、この場合問題なのはブルーフラグの加護が一時でも切れていた、という事です。
 ナドゥが得たいのは、恐らくヤトの『経験値』。
 ブルーフラグが在る限り、この特例は通用しません。ブルーフラグがデータベースの改変を強力に守っている。しかしその加護が無いとすれば、ヤトも僕らもこの世界、エイトエレメンタラティスに在るキャラクターの一人にすぎません。プレイヤーという、特別な存在では無くなる。プレイヤーが居なければ僕らが立てたキャラクターは自身が取るべきルーチンで勝手に振る舞うのです。
 そうなった場合、特例である異常な力は容易くキャラクターを蹂躙する。
 ヘタをすれば『経験値の改変』があって、ヤト・ガザミというキャラクターが変異する事も在り得るのですがその場合問題は……そうやって変異したヤトに、ブルーフラグであるサトウーハヤトはログイン出来ない、という事す。
 そうやってある意味『問題』は『解決』するでしょう。

 問題とは変質した肉体にサトウ―ハヤトがログイン出来てしまった場合、彼を最終的にどう処分するかと云う事。しかしそういう本当に致命的なバグを得た場合はそもそもログイン出来ないから『僕ら』的に彼を『彼』ではないと否定するのは容易いという意味で『解決』するという事。

 勿論、歓迎する状態とは云い難いです。
 サトウ―ハヤトがログイン出来ないとすれば、ヤト・ガザミという正規のキャラクターは消滅したのと同じ。
 ログインする為の鍵と、鍵穴が合致しないのだからログイン出来なくなっている。

 彼は……どうなってしまったのか、ちゃんとログイン出来ているのか。
 内心戦々恐々としていましたが幸い、改変はされなかった様です。
 あるいは、出来なかったのか?
 無事にブルーフラグが戻って意識を取り戻し、彼が問題無く振る舞う様子に心底安堵したものの、この場合考えられる可能性は何であるのか。
 ……『経験値』の現状維持、でしょうかね?
 すなわち元となるデータを改変しないために『経験値の取得』だけを行ったではないのか。
 ともすればやはり……今後迎える展開は……。

 この予測が、当っていて欲しくないと願って逃げてばかりでは僕はまた失敗する。
 段々学習しないと、お粗末ですよレッド・レブナント。

 そしてやっぱり残念ながら……予測、通りでしたね。

 そうして新生魔王軍として、中身がヤト・ガザミの複製というレッドフラグが出現した通りです。
 しかも死なない、時間の巻き戻し機能がついている。更に根本を絶っても連鎖的に消滅しないように、ドリュアートに存在が括りつけられてしまっている。ならば、ドリュアートを枯らせばどうか?
 不安ですね、僕ならばそれに対する対策はしっかりと打つでしょう。
 根本を断たれるのが問題だというのなら、その根本を見えない所に隠されてしまったら、ヤト・ガザミの複製は何時までも無限に湧き続けてしまう。
 更に言ってすでに、大元となる存在にブルーフラグが立てられない程改変が成されているとすれば?
 もう、お手上げですよ。
 絶つべき『本体』がどこに隠されているのかさえ分からない。

 僕が危惧した事情は、もっとシステム的な所で開発者達も危惧したのでしょう。
 対策として分裂したデータベースの統合を開発者達は図った様ですが、だからといってブルーフラグのヤトの方で全ての複製データベースにアクセスしたら混乱どころの話では無い。
 違法コピーされたデータベースがあっちこっちに散乱するとして、それらが一気に繋がり情報の穴を埋めあって同期したら?全ての複製ヤト・ガザミに自動的に致命的なバグが感染するようなものですよ。それにリコレクト出来る記憶の大混乱が起きる事でしょう。

 だからあくまで統合には条件がついていた。
 記憶、すなわちデータベースの統合は一旦、ブルーフラグを経由する事。
 ただしこれで、改変されたデータベースにもサトウーハヤトは乗り込めるようになった。


 なって、しまった。


 認証キーの作り方を変えたのでしょう。
 データベースの照合という方法を止めて、別の何らかの方法に切り替えたのだと思います。その代り、改変してしまったデータにもログインが出来る。
 これはこれで、諸刃の剣です。何故って?ヘタをすれば外部からデータの改ざんが出来てしまうからですよ。所謂解析機やバグを使ったチートが『出来る』事になる。勿論それなりの技術が必要になる分野ではあります。突破するべきプロテクトは堅いのですが、それでも破って来るチーターが世界には居る事情を鑑みていたのでしょう。
 ログインをデータベース照合キーにしていたのは、そういう輩への対応策だったのかもしれません。

 僕がそれをちゃんと確認できたのは、もう少し後の事ですね。

 ヤトの冒険の書が終わった後、ゲーム開発者として仕様書を読む様になってからです。

 一先ず僕の番外編として、最後にヤトと別行動になった展開について僕の記録を案内します。死国を超えて、カルケードに戻ってからその後、ですね。
 展開は少しだけ巻き戻ります。
 まずは、カルケードに新生魔王軍が出てヤトを、魔王八逆星が新たな拠点としているトライアン地方に向かわせる所から、ですかね。



 僕は……やっぱり怖かった。
 ヤトが全ての仕様に気が付いて、自分が何者であるのかを知ってしまう事を恐れていた。
 知らないでいる者は、知らないが故に知りたがる。

 それが自分の存在を大きく揺るがす事を察知……あ、彼はしないかもしれません。
 僕ならともかく彼の場合はそういう『想像』に至っていないからこそ無邪気に自分の状況を正しく把握したいと願っている訳ですか。
 なら、僕の言葉で幾ら説明したって無駄ですかねぇ。
 そーじゃないかもしれないだろ?って言われたら、そーですねと白々しく答えるしかない。
 僕も百パーセント自分が予測している展開を保証する訳ではない。

 つまり、彼自身で真実を見に行ってもらうしかない様です。
 でも僕はその場に居たくない。その修羅場に居合せたくない。

 その、どうしようもない真実を、見たくない。

 彼は……遭遇するだろう現実をちゃんと乗り越えられるでしょうか?
 そこに不思議と不安は無いのです、なんというか、そうなっちゃったもんはしょうがない的に開き直る姿が見えていますよ。
 問題なのは、その状況を高い確率で把握していた僕に向けて無意味な攻撃の矛先が向く事です。そして、そうなっている事を予測していた自分自身の感情が、実際にどう振る舞うのかがよく分からなくて怖い。
 結局の所救えてはいなかった、そこを突かれるとすれば……辛い。
 恐らくタトラメルツで半殺しになり、ただ生きているだけになっているだろう『彼』の前で、僕は何と彼らに声を掛ければ良いのか。
 一体どちらを生かせば良いのでしょう。
 ブルーフラグが立って居る方を『僕ら』が信じて、迷いなく指で差し、こっちがヤト・ガザミだと選んで良いのでしょうか?

 自分が誰で、どれで、何を正解とするのかは自分自身で答えを出すべきです。

 本当はそれは、僕らが決めてはならない問題ではなかったか。
 僕らは迷い無く、貴方がヤト・ガザミだと手を差し伸べるべきでは無かった、そうしてしまって、そう出来る状況であったがためにヤトは、自分の怪しい存在現実を疑っていないのではないか。
 ならば……せめてその時、自分が複数存在する現実に向き合うその瞬間には、彼が救いを求め易い人物を傍に置くべきではない。

 自分自身で決着を付けなければならない事に気付いて欲しい。

 そうした上でいつもと変わりなく、あの無防備な笑みを浮かべて戻ってきて欲しいんです。
 必ず乗り越える事は僕も……今は、信じる事が出来るから。

 

「なんだか煮え切らない言い方だけど……引率するリオさんに向けて、事ははっきり説明しておいた方がいいんじゃないのかな?」
「いえ、あえて何も知らせず送り出したい」
 僕がそう願う意味を、ナッツさんはしばらく考えてから小声で、聞いて来た。
「君はタトラメルツで最後に、何を見たんだ」
 このままだと、心配性の神官殿がヤトに着いて行くと言い出しかねない。ナッツさんには、僕が危惧する状況を話しておくしかない様ですね。

 元来の、混沌とした黒い怪物とは違う。鎧をまとった新生魔王軍、というものがカルケード近辺で確認される様になり、その件でこれから……僕らは隊を分けて行動しよう、そういう事を提案すべく簡単な打ち合わせをしています。例の、カルケード国から与えられた別荘で、しっかりと盗聴対策をしてナッツさんと額を合わせていますね。
 すでに月白城の方へ拠点を移すように要請されていて、重傷を負い今だ意識のないグランソール・ワイズ氏は移動済みで、その護衛としてヤト達も先に城の方に向かった筈。

 僕らは残りの少ない荷物を取りにくるという名目で、こうやって最後の打ち合わせをしているのです。

「……彼が、ギルと打ちあってボロボロになったのを見ました」
「ヤトもその辺り、記憶が在ると言っていたね」
「貴方も少し、察してきているのでは」
「まぁね……もしかすれば、そういう事だろうかと君の態度を見ていて察する所はある」
 ナッツさんは真面目な顔で僕を見据える。
「新生魔王軍は」
「ええ、十中八九彼の粗悪な複製体でしょう」
 そこで互いにため息をつき、意味も無く身を伏せてさらに顔を近づける。
「ランドール達が壊滅させた魔王八逆星の施設、ルドランにあったっていう……そこで複製されていたのは、ヤトか?」
「リオさん、マーズさんはルドラン破壊活動に参加せず、直に状況を見ていないそうです」
 ルドランに行ったのは、ランドール、シリア、テニー、そしてワイズ。あそこに在った施設の詳細を話せる人が今、こちら側に居ないんですよ。
「ワイズは一緒に行っていて、彼の話として情報を得ているリオさんは……三界接合を使った魔王軍の製造ラインの一つだったと言ってたけど」
「僕はあそこも旧式だと思いますね。ただ、魔王軍を作る為に材料として『人』を使う都合、三界接合で増殖させていたというのは在りえる話だと思います。タトラメルツをヤトに壊された為にあそこに在った施設を別に移した事は分かっているのですが……その行く先は、ルドランとトライアン、両方だったのではないかと推測します」
「……それで、ヤトをタトラメルツに向かわせたいっていうのは……そっちが『本命』だと推測しての事か」
「恐らくそこに、もう戦えない程の致命傷を負った……彼が居るのです」

 新生魔王軍がヤト・ガザミの劣化複製であるのなら、複製する前段階のオリジナルがどこかに居る。
 僕らが今隣に許す、あのヤト・ガザミは複製体で、そこにブルーフラグが立っているだけ。

 ナッツさんは、僕が危惧する事を素早く理解し、額に手をやってため息を漏らした。

「成る程、君が何をしたいのかは理解したよ。そしてそれは、彼にしか出来ない。彼だけがどうするかを選べるのだと……そう言いたいんだね」
 彼は、本当に賢明な方ですよね。
 僕が伝えたい事を深く理解してくれている。
 それでも心配だよ、と……ナッツさんは呟きました。それから少し考えて、僕の思いに至ってくれる。
「でも、そうだね……そうかもしれない。僕らが傍に着いて行ったらあいつは容易く僕らに縋りつく。自分を助けてくれる人よりも、自分が守るべき人が傍に居た方が良いんだろう。たとえそれが薄っぺらい彼の見栄であっても、彼が立ちすくんで、崩れ落ちる姿を見たくはない」
「そうなってしまったら、本当に彼の心が折れてしまう気がするんです」
「どうかな、……どうだろう。僕は、こっちではそれほど長い付き合いじゃないんだけど……なんとなく、大丈夫じゃないかなという予感があるけど」
「そうですか、……貴方がそう思うのなら心強いですよ」
「心配性だねぇ、相変わらず」
 思えば、何時しか僕はナッツさんにこうやって弱音を吐いてしまう事が多くなりました。それだけ僕が心を許しているという事だし、ナッツさんも不思議と人の信頼を得るのに特出しているのでしょうね。流石は……神の代行を務めた神官職です。
 彼は、そっと僕の肩に手を置いて、叩く。
「その方向で口裏を合わせる事情は了解したよ。リオさんには悪いけど……君も僕も着いて行けないとすれば、あとは彼女に案内を頼むしかない」
 リオさんには、事情を話さずにトライアンへ行ってもらいたい。
 そこに何が在って、それを何故僕が恐れているのか。推測では無いけれど大体は正解だろう、その後に起こるだろう展開についても全て口を閉ざして、とにかく彼をそこに届けて貰いたい。
「流石にあのメンツだけで送り出すのは怖いですからね」
「……アベルを引きはがすのは……僕も流石に方法が思いつかないからなぁ……心配だ、マツナギにも一緒に行ってもらってもいいかな?」
「了承してくれますか?」
「ヘタすると僕は恨まれるかもだけど……彼女の事だ、最終的には理解はしてくれると思うよ。彼女は瞬間的な沸点は低いんだけど、貴族種だから時間をかけて冷静に考える事には長けているから」 
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