異世界創造NOSYUYO トビラ

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番外編 補完記録13章  『腹黒魔導師の冒険』

書の7後半 海を統べる船『最短ルートをぶっとばせ』

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■書の7後半■海を統べる船 The ship ruler of the eight sea


 テリーさんがフェイアーンにちょっとひとっ走り行って来たかった理由ですか?
 ほら、彼フェイアーンで僕と対峙してログイン妨害で変な具合にバグりましたよね?それで大暴れして町をしたたか壊した後、カオスに捕まえられたのはいいけれど、カオスのあの『人間の事は理解している』という顔をしながら実際には全然分かって無いっていう……『悪魔』という性質の所為で説明不足が多大にあったそうです。
 誤解を招きに招いてヤトと接触してログイン妨害が解けるまで、散々な事になっていたと聞いています。
 まぁ、全部僕の所為なんですが。
 それで心配を掛けたから町の様子を見て来たかったんでしょう。

「どういう事後処理になったかは聞いてるけど、君は近づかない方が良いんじゃないの?」
「どーしてだよ」
 ナッツさんの言葉にふてくされ、結局出港まで港に積まれた樽を机にして酒を飲んでいますね。
「歓迎はしないだろう?どう考えても」
「……だろうけど、よ」
「何より突然押しかけるのがダメだと思わない?ワンクッション置くべきだよ」
「正式に謝罪の文章を出してしかるのち訪問、ってか。クソ面倒臭ぇ方法だが、そうすべきっていう事態は……理解出来なくもないな」
 一応は大国ファマメントの政治家に育った息子さんですね、そういう手順が必要だという事は知っている様です。
「クソ、そういう作法ばったやり方は気に食わねぇんだが……確かにフェイアーンについて俺は、そういう手段を踏むべきなのかもしれねぇ」
 僕はあんまりお酒強い方ではないので、ナッツさんのペースに巻き込まれてまた酔いつぶれたりしないように注意しながら二人の会話を黙って聞いていました。

 口を出したらいけません、途端に矛先が僕に向いてしまうのを知っている。

 何しろフェイアーンが被った被害の原因はそもそも僕ですし、それを勿論悪かったと反省していない訳ではありませんが、だからと言って責任を何でもかんでも背負う程僕は義理堅い性格じゃないのです。出来れば面倒は避けたい方です。

「今はまだ時期尚早じゃないかな、今の魔王騒動が落ち着いてからでも正式な謝罪訪問は遅くは無いよ」
「……そうか」
「ルート的に言えば、トライアンに行く途中でヤト達が通ってるはずだから、後でどんな風だったか聞けばいいじゃないか」
「……そうか、そうだな」
 大分冷静に戻った様です。騒ぎを起こした事を反省したように、静かにラム酒を仰ぐ。
「一応僕らの身分は伏せて、テリーは政治的な状況が分かっていない人としてバセリオン兵を納得させておいたよ」
 と云ってナッツさんもラム酒を呑んでいるんですがテリーさんのに比べグラスのサイズが倍なので、水でも飲んでいるのかという感じですね……この神官は酔えない酒を飲む必要があるんでしょうかね?ちょっと僕はその辺り、かなり疑問ですよ。
「今日の夜には出港です、一応物資調達として立ち寄り僕らは東に川を下る事になっています」
「実際にゃ川に潜って、西に昇る……ってか」
 油漬けの魚をアテに摘まみながら、テリーさん……ナッツさんにつられてペースが速い様な気がするんですがもしかして、
「このまま酔いつぶれて船酔いを回避しようとしていますか?」
「どっちで酔おうが同じだからな」
 ナッツさんが苦笑してますね、どうやらどんなに上手く調合した薬を飲んでも船酔いを回避出来ないでいるようで、軽減するのが限度との事です。ならば最初から三半規管は狂わせておいて寝て居ようという魂胆ですか。
「魔導師殿、ちょっと」
 と、船の方で副船長のラガーさんが僕を手招きしていますね。
「どうしましたか?」
 ラガーさんは声を潜めて言った。
「この辺りは昼夜の寒暖の差が大きいからよく朝には霧になるが、今日はどうにも……」
「ああ」
 何を求められているか、勿論僕は即座理解出来ましたよ。
「わかりました。お任せください」


 出港予定時刻の前に、渋るテリーさんを船に乗せる。

 僕は船の甲板に出て……まずは辺りに余計な事を感知する同業者がいないかどうかを探査魔法で探りました。今や魔導師は色々な場面で雇われているものですからね、ファマメント国のバセリオン軍が駐屯している都合、やはり周囲の異常を探知魔法で張っている魔導師の存在は関知出来ます。
 まずはそれらに僕がこれから使う魔法が探知されないように、閉じた空間を作る必要性があるのです。
 当然ですが魔法探知を遮断する魔法、というのはトンデモの類いですよ。
 僕位の上位魔導師でなければこのトンチキな魔導式を組む事は難しいでしょう。
 仕様としてはですね……要するに、こちらを探知してくる魔法使いを全員一つの結界的な空間に閉じ込めるんですよ。形は色々です、箱型にする人、円錐型にする人、多角形でもよい。そこは魔導師のセンスでお好きなように。
 問題なのは近辺の魔法使いとその魔法使いの関知範囲全部を囲い込める程の結界を、作れるかどうかです。
 力技でやるのも良いですが、より効率的なフォーミュラを組めるか否かでこのトンデモ魔法は成立します。
 そして自分ひとりだけこの結界から抜ければいいのですよ。
 僕はその空間で、誰にも探知されずに魔法を使える、という訳です。

 僕は、魔導都市で自分のラボにこの結界を張っていました。辺り一面魔導師だらけの魔導都市ランで、魔法の探知を遮断する為に、魔導都市ランとその周辺をすっぽり覆ってしまう結界というものを張っていたんです。流石に魔導都市全域ともなると大変なのは分かりますよね?だから、僕は自分に巣食うアーティフィカル・ゴーストを発動させるにあたり、その大層な結界を張る準備がしてある自分のラボに戻る必要があったのです。

 軍が駐屯しているとはいえ、そこに含まれる魔導師の質や規模など高が知れています。僕は容易くその魔法探知遮断の為の結界を張り終えて、ようやく目的の魔法を使いました。
 あたりの空気の摩擦を減らし、熱を奪って気温を下げる。対し川の水を振動させて熱を産む。この二つを過剰反応しない程度に撹拌すれば……蒸気した水が細かな水滴となって辺りを漂い始める。
 そうです、霧を発生させています。
 もともとこの辺りは霧が良く出る地域の様です。一応僕は心配性なので魔法による霧生成である事を魔法探査遮断で徹底的に隠しましたが……ここまでしなくても良かったかもしれませんね。

 曇りがちとはいえ、星が瞬く空が段々と消えていく。月の光が陰り、傘を差す頃……静かに……エイオール船は出港の為に錨を上げました。
 
 すると霧に隠された魔法の船が、音も無く淡い光を帯び始めたのです。

 これは、魔法の様で……魔法ではありませんね。魔法が動いている歪みが探知できません。何でしょう、この僕にもよくわからない。
 情報屋のエイオール船が何か青白い光を放ちながら……ゆっくりとワイドビヨン川に沈んで行く。
 シーミリオンで見た、魔法で空気の膜を作った潜水とは違う。
 濃い霧の中、船の構造自体が変わり始めました。それに音は無く、太い帆柱が短く縮んで行き、船員達は音を立てないようにすでに畳んで置いた帆を外し甲板の下にある格納庫を開けて仕舞い込む。
 船員達からの合図もあり、僕は霧生成の魔法を辞めて結界も解きました。

 潜水にあたり甲板から、船内に入らなければいけない様です。

 魔法探知遮断を解除しましたが、エイオール船が潜水すべく何らかの力を働かせているのが魔導師達に察知されている気配はありませんね。それはそうです、その船に乗っている僕があきらかに魔法的な変態をしている船に、それらしい歪みを感じられないのですから。
 成る程、これならまさか船が海中を潜水出来るとは誰も見抜けない訳ですねぇ。
 唯一目視だけがこの船の真実を穿つ、だからどうにか霧を発生させてほしいと願われた訳です。

「……」
「魔導師殿、どういう仕組みか気になってる所ですかい?」
 船長のミンジャンが、色々思案していた僕の隣にやってきて少し笑っています。僕は、窓から見える夜の川底としての闇をぼんやり眺めながら、彼の言う通りこの船の事を考えていました。
「ええ、ですが全くよくわからないですね。しかし大変危険な船だというのはよく分かりました。良かったですね、僕が魔法アイテムに対してあまり興味を持たない魔導師で」
 情報をすっぱ抜かれる事を嫌った国に追われるだけでなく、興味を持った魔法使いからも追いかけ回された過去を持つそうですが、確かにこれは興味深い案件である事は十二分に理解出来ます。しかし、作成者が魔導都市で禁忌である青魔導師長兄ですからねぇ、追及するのも危険かもしれませんが。
「ぶっちゃけ俺らももう、何がどうなって潜水可能なのかもよくわからねぇんだわ。秘伝の操作説明書はあるけどな、そりゃ仕組みが書いてある訳じゃねぇし」
 潜水モードになると甲板には出れないし、そもそも扉や窓が動かなくなってしまうそうです。物理的に開けたらどうなるのか?それは、理論的には不可能です。
 そもそも、この船は不可思議な魔法によって数世紀ほぼメンテナンス不要なんですよ?後付けで装備を増やせないという都合は、そもそもこの船をあらゆる意味で傷つける事が出来ないという事なのです。
 外見は普通の船を装っていますが、木の板を剥がせば不可思議な青く光る鉄板で出来た船の本体がある。
 この鉄板を強引に打ち破る事は、恐らくよっぽどの事をしない限り無理でしょう。ただの鋼ではないし、物理法則も完全に無視していて魔法でなければ実現し得ないはずなのに魔法探査には一切引っかからない。エイオール船を魔法的、あるいは精霊使い的な『感覚』で触れようにも、外見に貼ってある木の材質しか見えない事でしょう。
 実際、この僕がそうですし精霊使い気のあるマツナギさんも、この船が何かおかしい存在である様には感じないそうですから。
「もしかすれば……」
 ミンジャンが興味を持って僕の言葉に首を伸ばして来ましたね。
「もしかすれば、何だよ、」
「いえ、推測を述べるのはやめましょう。あるいは雷が落ちる」
「……?」

 この船の本体、時間が止まっているのではないでしょうかね?

 もしかすれば、ですが……そもそも、時間を操作する魔法が禁忌であるのに時間を『止めておく』なんて、一体何をどうすれば実現するのか僕でもさっぱり見当がつきません。
 ですが……そういう伝承があるんですよね、これも大分情報が無くて良く分からない話の一つなのですが……世界には『方位神』という、世に不都合と判断されたものに蓋をする、神様の様な概念があります。歴史の上では実在した様に書いてあるものが多いですが『神』という存在になっても実在し続けているのかは微妙な所です。
 それは大陸座と違い、方位神と会った、話した、という様な説話が一切存在しないからです。
 この方位神にはですね、準方位神的な存在として『方位神眷属』というものが付随しているのですが、この眷属は確実に世に実在した事が分かっています。本人がそうである事を語る場合が少ない様ですが、明らかに世の摂理に逆らった存在があり、それが方位神眷属であるというのですね。
 方位神眷属は『時に見放された』存在だという説話があります。これは具体的にどういう事なのか研究した魔導師の報告書を読むに、どうやら時間の流れが違っているらしい。
 時間の流れが違うなら、そもそも同じ世界に居ないと思うのですが、これは僕のリアル知識の上での話です。こちらでは、魔法という得体の知れない力がまかり通っている。だから時間の流れが違うもの、そういうものが平気で世の中に存在出来てしまうのでしょう。
 時間の流れが速いのならば、物体の劣化もまた早くなる。逆に止まっている様に見える程ゆっくりであればどうか?
『変化』をしない、あるいは出来ないという次元にあるものを、世の普遍的な次元を生きる僕らは正しい干渉が出来るものでしょうか?
 これはあくまで推論ですね、魔導理論を引いてもまだまだツッコミどころがありすぎる。エイオール船はまさしく世に残された神の工芸品です。
 ……ともすれば、またそこで一つの疑問が生じてしまうんですよ。
 エイオール船を作ったのが魔導都市長兄、トリス・ヴァーニスであるならば、です。
 まさしくトリスこそ『方位神眷属』であるとされているのだから、その眷属の方が神の様な御業を世に残している事になります。なんだかよく分からない事になってきてしまうんですよね。


 問題のサンデルトに流れるワイドビヨン川の源流を、地下から黒竜海に抜けるという荒技は、結局良く分からないうちに終わってしまいました。

 夜の航海であった事もあり、海底を航行している都合から劇的な様子が知れるわけでは無い。小さな窓からは到底外の様子などうかがい知れません。

 ともすれば、どうやって舵を取っているのかも疑問ですが……多分ソナー的なものでもあるのでしょうねぇ。簡単に言いましたが、水中音響探知というのは地形や海流、水温に深度、様々な条件で変化するデータを『読む』ものなのです。それらをオートメーション化した装置に落とし込むとなれば……かなり複雑で高度な魔導式が必要かと思いますが。

 水の上ではなく、水の中を進むのでさほど揺れも無く……と、思っていたのですがそうでもない様ですね……。
 船酔いの、もはやプロと呼んでも差し支えの無さそうなテリーさんはこの度も体調不良で撃沈しています。
「黒竜海に出た様ですよ、間も無く海上に出るそうです。停泊していますから、外の空気でも吸えば少しは気が楽になるのでは?」
 ……返事が在りませんね、ただのしかばね、ですか。
「何時もの船酔いですか?それとも二日酔いですか?」
「……もうよくわからん……」
 このテリーさんの状態異常、復旧させるのに結構手間なんですよねぇ。上陸すれば即座治ると云う訳でもないんですよ、数日間は不調が続いている様で大抵不機嫌になります。
 今、僕らは部隊を二つに分けていて、先頭に立って攻撃するのを殆どテリーさんに任せなければならない状況です。目を覚まさないワイズをエイオールに任せる事が出来るとしても、マース君は案内役として僕ら後方支援の盾になって貰う必要があります。
 ディアス国に上陸するにあたり、即座戦闘行為に事が発展する事は無いとは思いますが……どうなるかはディアスが現在敷いている政策に左右されます。情報が流れてこない状況、どう転ぶのかなんとも言えません。
「提案、なのですが……」
「……」
「僕の魔法の実験体になりませんか?」
「あ?」
 どすの利いた声で全否定的な返事が返ってきましたね。ぶっちゃけ足元を見るので、懐柔するような気の利いた事を言うつもりはありませんよ。
「僕も船酔いする方なのでどうにか魔法的に船酔い回避出来ないものか、ちょっと魔導式を構築してみたんです。その実験台になりませんか、と」
「……ぅう」
 堅い枕を両腕で抱き、うつ伏せになって寝ているテリーさんから唸り声の様な声が聞こえてきましたね。
「てめぇ……その言い方もうちょっと何とかなンねぇのかよ……」


 幸いな事に、僕のドキドキワクワク魔法実験は上手く行きましたよ。

 黒竜海に出てディアス本土に向かうまでの数時間ではありますが、テリーさんはついに船酔いから解放されたと云う事です。ナッツさんから処方された薬もしっかり効いて、極めて快適に上陸を果たした様ですね。
 いえ、そう悪く捉えないでください、方法論としては極めて単純かつ明快なものなので、脅すような事を言わなくても良い内容だったりするんですよ。ちょっと意地悪しただけですね。
 要するに……出前です。
 器から汁や中身がこぼれないように運べる出前用ミニカブをきっと皆さん、ご存じだと思います。あれはもはや四半世紀以上前の発明でありながら、現在もなお同じ姿、もとい……同じ規格のものが存在し現役を務める極めて希少かつ有用な運搬用車両です。
 乗り物酔いというものは、必ずしも平衡感覚の狂いだけで生じる訳ではありません。視覚や嗅覚などなど、普段とは違う環境に置かれた者が受けたあらゆる情報を最終的に処理している脳の方で、キャパシティオーバーを起し、それが原因で自律神経系の乱れを生じさせて発症する体調不良です。
 すでにナッツさんの方であらゆる方向性から乗り物酔いを軽減させるべく薬の調合が行われています。その為、ある程度は原因が分かっているのですよ。事テリーさんの場合、極めて高い身体能力を処理する敏感な神経が過剰反応を起し、自律神経を著しく乱している。そこに酔ってしまうというトラウマと、自己暗示的なものが相乗効果を成して、動いていない馬車に乗る事さえ嫌悪し、またその感情が乗り物酔いを悪化させるという悪循環となっている……との事。
 なので、まずテリーさんの鋭すぎる感覚を常に平行に居る様に『騙す』魔法に掛かってもらい、その後ナッツさんが調合した精神安定効果のある薬を飲み、酔いが軽減したという感覚を実感してもらってその思いを高める様働きかける……精神的な問題も多く絡むのが乗り物酔いですからね。
「酔ってねぇ、普通に下船だ!」
 両手を上げ、勝利のポーズを決めてますがねテリーさん。
 僕の魔法実験はまだ 始 ま っ た ば か り ですよ?
「理論的には有効な事が分かりました。ですが、この方法は常時使えません」
「は?何だって?だって、現に船酔いから開放されたぜ?」
「コストが高すぎです。魔力消費もバカに出来ない量でした、まだまだ改良が必要ですので次は、低コスト魔導式の開発の為に調整実験を行いましょう」
「……え?」
 状態を持続させる魔法って、方法をよく考えないと魔力消費が激しく使い物にならないんですよね。飛行魔法なんてそのもっとも顕著なものですよ、便利には便利なんですがねぇ。今回テリーさんに使った魔法は、そういうずっと掛け続けるタイプの魔法なんですよ。
「この実験が終了した暁には、乗り物酔い防止魔導回路を整えて最適化した魔法道具の作成をお約束しますよ」
「は?つまり何か!?それまで俺に実験に付き合えと!?」
「実験台になってくれると貴方、了承したじゃぁありませんか」


 といった話もあった訳ですがとにもかくにも僕らは無事、梟船の情報屋、エイオールの力添えがあって無事にディアス国の湊町の一つ、キラに着きました。月白城を追放されてからたったの3日です、驚異的な航海ですよ。
 ここから真っ直ぐ陸路で首都エルエラーサに向かいます。
 行って、何をするのかという事ですが、僕らは大陸座ユピテルトを探すつもりですがとりあえず国の偉い人にその辺り、状況を聞くのが手っ取り早いでしょう。その取っ掛かりとして……四方騎士関係者から攻めてみる予定ですね。
 ディアス国の大陸座はどうやら魔王八逆星側に存在が露見していない様だ、と僕は考えています。しかしディアスには確実に魔王八逆星の手が入っている。……これはどういう事か、この辺りから探ってみるつもりです。
 四方騎士というものは『法王』の管轄ですから、ナドゥら魔王八逆星に繋がりを持って居るのはそっちの方でしょう。

 ああ、ディアス国について少し詳しい話をしておきましょうか。

 もともとディアス国は西方大陸を全制覇し、一つの国に制定した事も在る歴史ある大国なのですがそれが、今やほぼ西方大陸から追いやられ、南西にあるセルヴァリナ島と翼竜半島に引っ越しをしてしまった国です。
 かつての大国を維持出来ず、解体を目論む戦争が多く起こってこれを治めきれずにこういう顛末になった様です。あまり歴史の授業をやってしまうとまたしても行数が足りませんのでこの程度でご勘弁ください。
 さてそれで、そういった経緯から『ディアス大国』という名前でも呼ばれるこの国には王様が二人居る事になっています。
 二王体制が昔からの習わしとしてありまして、これが与党野党あるいは衆院参院の様な働きを成し、どちらかの独裁にならないように、しかし一つの物事を決めるに……極めて面倒な形式を重んじる政治を行う所なのです。

 勿論、長い歴史の中ではどちらかに権力が集中したり、一方の王が不在となった歴史もある様ですよ。

 それで現在はどうなのか?あまりディアス国内の事が聞こえ来ない所からして……恐らくは両王健在で、内部でゴタゴタしているのではないかと思っていますが……さてはて。

「マース君はディアス国の政治状況はどの辺りまで御存じですか?」
「政治かい?うーん……」
 僕、そもそもランドール坊ちゃんに拾われるまでディアス国から出た事が無かったんですよ、と元四方騎士北魔槍の重鎧戦士、マース君は小さくぼやきましたね。
「国の外に出て見て色々分かった事には……僕は国の常みたいに思っていた四方騎士と央騎士の軋轢みたいな関係って、外ではあんまりないんだなーって」
「双王政は健在、というわけですね」
「はぁ、外に戦争吹っかけてる場合じゃないんじゃないの?って思うくらいには、」
 似たような質問を北魔槍騎士団の団長を務めていた筈の魔王八逆星、アービスにもしたんですが彼からはまともな答えが帰って来ませんでした。彼は大真面目にも、政治的な事など全く関知せずを守り、与えられた役割を演じるに留まる程度でしか『団長』をやっていなかったのです。そして、そういうアービスの世話を焼くようになってしまったのがこのマース君なんですよね。
 彼は鱗鬼種という人間から見ると外見が良くない、鱗の生えた皮膚を持った魔物種です。本人もその外見にコンプレックスを抱いていて常に重鎧で身を隠しています。
「他国との戦争をしたがっているのは、法王なのですね?」
「そうだね、それを必死に止めているのが国王側なんだけど、だからと言って国王側がマトモかと云えばそうとも言えず……」
 マース君、やはり頼りになりそうですね。世間知らずだったとはいえ、自国の内情は少なくともアービスなどよりは良く知っている様です。

 重傷を受けて昏倒したままのワイズさんを情報屋に任せておきたい所なのですが、どうにも体調が予断を許さない様でナッツさんは割と、そちらに付きっ切りですね。
 そうなってしまう事は在る程度互いに予測していたので、ナッツさんとエイオール船には、一番大きな湊町であり首都エルエラーサに近いメランストリートの方で待機してもらうようにお願いしました。
 僕らもそこからエルエラーサを目指せば良い、と思うかもしれませんが……ミンジャン曰く、メランストリートの港に入るのに手続きだけで一日余計にかかるとの事でしたので手っ取り早く漁港が多いキラで降りた形です。ここならば湊守に袖の裏が効く、とかで煩雑な手続きをすっ飛ばして上陸が可能だったのですね。
 情報屋エイオールは全世界に支店を置いている様ですが、国によっては活動が制限され、地下に潜らざるを得ない場合もあるようです。

 ディアス本島、元の名前はセルヴァリナ島と云うのですが、こちら船が着ける港が極めて限られています。断崖絶壁が続く台地の島で、ディアス国がここに首都を移してからかなり大規模な軍事的改造が成され、かつてあったと云われる豊かな森はほぼ皆無、貧弱な土の平原が広がるばかりとなっています。翼竜半島と呼ばれるミシャル平原から上がって来る農作物や、近隣特にコウリーリス国側を強引に切り取って作った植民地からの上りで貿易をし、国力を蓄えて来た国なのです。
 世界的に有数の資産家、フィナル家が在る事も一つに数えられると言いますが、フィナル家は戦争加担はしなくなって久しい、という話も聞きます。具体的な所は良く分かりませんが、他国への慈善事業や銀行業での盤石な基盤の礎にはフィナルの名前をよく聞きますね。

 ひとまず、作戦会議を兼ねてキラに宿を取って今後の方針についてざっくりと話すとしましょう。
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