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番外編 補完記録13章 『腹黒魔導師の冒険』
書の8 上 光の王国記『そこに居る事は分かっている』
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■書の8 上■光の王国記 I know you are there
「ナドゥの息が掛かっている公族、あるいは商人が居るはずです。そこをですね、まず強引にツブします」
「……暴力沙汰は得意だけどよ、良いのかそんな乱暴なファーストコンタクトで」
テリーさん、その横文字NGワードすれすれのゲーム用語ですよ。
さて、これからディアスに殴り込みに行くメンツをご紹介しましょう。
まず、紫魔導師レッド事、この僕。
ファマメント公族のエラい人だった、筋肉戦闘マシーンのテリー・ウィンさん。
ディアス国出身で元四方騎士、道案内のマース・マーズ君。
以上。
ええ、残り面子たったの三人なんです。隠密行動出来るのがほぼ僕一人、この状況で細かい戦略など引く方が無駄というもの。物事は、シンプルに強引に行きましょう。それが出来るメンバーですよ。
「ええっとぉ……まぁ、心当たりのある商人とかエラい人とかは居るけど、僕らだけで強行突破って事?」
「そのエラい人の頭を押さえます」
僕は腰が引けているマース君に向けてにっこり笑って答えました。
「それでどーやって大陸座ユピテルトにたどり着けるんだよ?大陸座についての情報収集はしねぇのか?」
「それは、殴り込んだ先々で行っていきます」
「真面目に作戦もへったくれもねぇな……」
「ええ、今回は僕もかなり強引に行きますのでおもいっきり暴れてください。僕はそっちの方は苦手ですので」
「そりゃいいが」
テリーさん、こういう時何も反論せず云われた通りの仕事をかっつりやってくれる頼りになる人ですよ。ヤトみたいに無駄に考えたりしないんですよね。考える仕事をちゃんと他人に任せっきりに出来てしまう人なんでしょう。
「殴ったって何でもかんでも洗いざらいしゃべってくれる奴ばっかじゃねぇだろ?」
「ははは、紫魔導師舐めちゃいけませんよ。魔導式が入りさえすれば記憶の強引な詮索
くらい訳ないです」
魔導師というイキモノがエゲツナイ部類である事を、思い出したようにテリーさんは露骨に嫌な顔をしましたね。
「今回相手は魔王八逆星側の極めて下っ端です、ナドゥ達はまだ僕らは南国に居るものだと思っているでしょう。そうするつもりであの新生魔王軍をけしかけてきているはずなんですから」
そんなもんか?という風に二人は顔を見合わせて肩をすくめていますね。
仕方が在りませんね、ザックリと説明差し上げましょうか。
「いいですか、ナドゥ達も目的は打倒大陸座です。ディアス国でも大陸座の行方を捜していたはずで、大陸座というものは『倒せないもの』だという事を知っている。故に封印という方向性の舵を切っている事でしょう。彼らはまだ、大魔王を含む大陸座を殺す手段を持ち得て居なくて、殺せる存在を探している状況なのです」
「……その候補としてヤトが上がっちまってるわけだな」
「あと、ランドールぼっちゃん」
そういう事です、と僕は頷きました。
「それをどういう方法で仕上げて来るのか、そこはまだ未知数ですが、最悪僕らが優位になれば、ナドゥという男は僕らを操作する方向でギガースや大陸座の消去に舵を切りなおすでしょう。必ずしも自分の手でやり遂げる事にこだわる男ではない」
攪乱が必要なのです。
ヤトや、ランドールにだけその責務を負わせていては仲間として面目丸つぶれですよ。彼らさえいれば良いと思わせて置いてはいけない。
それは、僕らにだって出来ると云う事を知らしめてやらねばなりません。
「そして、最終的には彼は、僕ら全員に大魔王や大陸座と同等の危機感を持つでしょう」
テリーさんは無言で僕を見ていて、言いたい事を飲み込んだ様ですね。マース君が居るからそれは口には出せないのでしょう、そう、ナドゥは……多分異世界から来た存在全てに向けて敵対的な対応をすることになる。それが『異世界から来た』という情報はよく理解せずとも、この世界から見て極めて異質であるという理由で、排除したいと願うはずなのです。
それこそが彼の世界保全で、世界をままに在るべく正しい方法と考えているはず。異質なものに侵略され、壊れた部分を直すのに荒療治も辞さない。犠牲無くして正常化は難しいと考えていて、その実被害を大きくしてしまっている事に気が付いていない。
その尖った考え方の末、彼自身が異質な存在に近づいている事に気が付いていないのでしょうか?あるいは分かっていて、全ての行動を起こしているのかもしれない。
知らなくていて、知らせてしまえば……それはそれで不幸な気もします。
「僕らが成すべき事は、一刻も早く魔王八逆星の成す世界の破壊を止める事です」
「それは……つまり、彼らがまた何か余計な事をする前に」
「ええ。彼らの敵意を、僕らに向けさせてしまう事で『世界』から目を逸らしてもらうしかない」
世界を救うと願った先に、平和は副産物にすぎないと諦観し、保全のつもりでその実世界を壊す……魔王八逆星。
「だから今回は強引に行く、ってか。それ、奴らのやってる事と大差ねぇと思うのは俺だけか?」
鋭いですねぇテリーさん。思わず今回ばかりは苦笑を零してしまいましたよ。
「ええ、そうですね。僕は本来魔王側に行きたかった方ですから、結局出来る事は似たような事なのかもしれません」
「責めてるわけじゃねぇよ」
「ありがとうございます。……ですから最短距離を壁という壁をぶち抜いて行きます」
テリーは小さく頷き、まぁこのメンツでやるしかねぇならそれが一番『平和』だな、と……ぼやきましたね。
「了解了解、」
「ええっ!?了解してないの僕だけって事?」
マース君はまだ納得いかない様ですが。
「多数決だ、腹を決めろ」
「うえぇぇぇ」
キラからエルエラーサまでは徒歩で1日あるいは2日程の距離です。馬車等もありますが、テリーさんが僕の実験に付き合うのを拒否しましてね、急いでいる旅だというのに。
仕方が無く徒歩で、エルエラーサの地理や世情などをマース君から聞きながら進む事になりました。キラに宿を取った段階でそういう段取りになったので、出発は早朝ですよ。
町を抜けると痩せた田畑が続く景色が広がっています。天候は悪く無く、霞んだ空気の向こうに丘の上に広がる首都エルエラーサが見え隠れします。地図で見るより土地の勾配があって所々迂回したり、視界が遮られたりするのです。
「田畑より、果樹園が多いな」
季節は夏の終わりですね、赤や青の見慣れた果実が実る木々を囲む柵伝いの道を歩きながら、テリーさんは早速道すがら会った果樹園の主からその果実を分けてもらって齧りながら言いました。
お前も食うか?と差し出された……拳大の……リアル記憶と突き合わせるとやや小ぶりな林檎を僕は、形だけ受け取って手に収めたままで応えました。
「土壌の関係でしょうね。それくらいしか適した農作物が無いのでしょう」
エルエラーサで整備した石畳の道もあるんですが、存外そういう道は足を痛めるんですよね。かといって森歩きはもっと大変なのですけれども。マースさんに土地勘があって助かりました。公道では遠回りなので、果樹園の間を抜ける田舎道をメインにして僕らは歩いて居ます。人の行き来で短くなった草が生えているあぜ道です、こういう道を歩くのは楽でよいものですよ。
手持無沙汰なので周りに人がいない事を確認してから、魔法の刃で林檎を切り、キラの宿でお弁当として包んでもらった物の空に受け止める。ちゃんと皮をむいて、芯を切り取って食べやすい様にカットしました。
「お上品な奴だな」
テリーさん、食事の作法には煩いわりに、こういう時は大雑把なんですよね。
「マース君は鎧を脱ぎたくないのですから、こうしないと食べられないでしょう」
「あ、ありがとうございます」
僕の勧めで切った林檎を、重鎧の間から口に入れるマース君。
「あ、美味しいですね、」
「良い水分補給になります。このまま休憩なしで歩き通しますが、マース君大丈夫ですか?」
「僕は全然平気ですよ、以前の森歩きに比べれば……」
と、頭を少し上げて、多分遠い目をしています。
林檎をいくばか頂いた所で、テリーさんは畳んでいた地図を再び取り出しました。
「で、まずどこから行くんだって?」
「ロダナム家ですね」
「……それ、なんかどっかで聞いた気がするんだけど何だっけな?」
よく覚えていましたね、テリーさんもあの一連は隣で見ていた訳ですね。
ロダナムとはナッツさんが使っている薬の一種ですよ。ナッツさんは睡眠剤として使いましたが本来は痛み止めの類だと思います。……薬学に詳しい訳ではありませんが、その名称からして僕が想像している物質で間違いは無いでしょう。
「ぶっちゃけディアスで麻薬王って呼ばれてるよ」
マース君の話にテリーは、眉根を潜めて地図を眺める。その行為にあまり意味は無い様ですが。
「その麻薬ってのは、そうだな……えっと」
リコレクトコマンドで使える単語を探しているのでしょう。
「阿片か?」
「そうです、ディアス国は阿片禍について厳しい情報統制をしているっぽいけど、やっぱりそれってファマメント国にもバレてるのかな?」
テリーさん、マース君から感心されてちょっと焦ってますね。
「いや、俺は暫らく国には帰ってねぇから、なんだろうな、なんかどっかでそーいう話を聞いた事があってだな……そのロダナム、ってのをだな」
「厳しい情報統制、という割にマース君は知っているようですけれども」
「だから僕はディアス国から追い出されたし、然るべき人に見つかったら捕まって牢屋に入れられちゃうんだってば……僕、色々知りすぎてるみたいです。そうだという事には当時は気が付いていなくて」
ディアス国から、正しくは北魔槍団長、アービスから慈悲を受けて国外に逃がされていたマースは、そこを……ファマメント国公族ウィン家の代理当主であるテニーさんに匿われたという訳ですね。間違いなくテニーさんはディアス国の情報目当てでマース君を抱え込んだのでしょう。
「貴方がファマメントにその情報を流してしまってるんですよ、マース君」
「……」
僕の言葉に、マース君は頭を落とす。
「テニーさん……僕には、テニーさんがそんなに悪い人には思えません」
「ウィン家を甘く見ない事だな」
そのウィン家の本来の当主の言葉に、マース君は更に肩を落としていますよ。
「とにかくだ、その……ロダナム家ってのがナドゥに近いってんだな?」
「マース君の持っていた情報を鑑みるに、ナドゥは公族らに直接接点を持っている訳では無さそうだと感じました。国政や情報統括に極めてやり手が居る様ですが、その御蔭で痴態はかろうじて隠蔽されている、といった雰囲気を感じます。国内の者は、国の状勢を肌で感じ流れる出てしまう噂から極めて真実に近い事を感じ取っている。流石にそれを封じる手立てが無いからこそ然るべき機関は、マース君の国外追放という処置に納得が行っていないのでしょう」
詳しい話はどうでもいい、という雰囲気は……ヤトと同じですね。テリーさんは手を振ってそんな話はいいから計画を話せと言う。
「……マース君の話では麻薬禍は、どちらかというと国王側に蔓延している、との事です」
「ほぉん?それで、」
「政治的な主権が法王、国王、どちらにあるのかは下々の者には良く分からない、との事ですが……恐らく国王側であろうと僕は察します。法王側は阿片をばら撒いたり他国との戦争を薦めたりする事でそれを、揺るがそうとしている」
これを聞いて流石に黙ってはいられなかった様で、テリーさんは……極めて小声でつぶやきました。
「稚拙だな、国の事なんかどうでも良いって考えがにじみ出てるぜ」
「しかして国民の意識はそうであるのに、です。実際ディアスから三国緩衝地帯であるバセリオン、フェイアーン、タトラメルツに軍を派遣しているのは国王だというのです」
「いや、国境を守るのと戦争をさせる軍は別なんじゃねーのか?」
「勿論別でしょう、ですが命令形態が変化すれば容易く方向性は裏返る。国王側は大分押し込まれている状況であると見受けられます。阿片禍、については知識があるようなので詳しい事は話しませんが、分かっていますよね」
「ああ、手を出してしまったら抜け出すのは容易くはないって事だろ?」
「恐らくは……ナドゥによって最悪な形態にまで洗練されてしまっているだろうと思います」
それはリアルの方の知識でテリーさんでも理解できるでしょう。そうでなくても、この世界は少なからず薬学レベルが抜きんでて高いという話はナッツさんから聞いていますし、そういう都合意外と学のあるテリーさんはリコレクトで、僕が言いたい事を大凡理解できるのかもしれません。
「マース君は、その麻薬に手を出した事は?」
「僕は無いよ、四方騎士の間ではそれをやるのはご法度だったから、でも……手を出している奴がいなかったとは断言出来ないかな」
「国王軍、オウ軍、でしたか。そちらでは?」
「央軍、平騎士の事だよね?そっちはよく分からないというのが正直な所だけど、派遣から戻って来た騎士が使い物にならなくなって退役した……という話は……聞いた事があるかな」
ディアス国は法王と国王で勢力が二分されている通りで、勿論それに付き従う軍隊、指揮する者としてこれをディアス国では騎士と呼ぶ様ですが、これも二種類ある様です。四方騎士は法王に属し、央軍という多くの軍隊を指揮する平騎士が国王に属します。
「しかしそのロダナム家ってのは、要するに麻薬売りさばいてる様なヤクザな訳だろう?簡単にアタマを抑えられるのか?ブツを押収した所で阿片禍はそう簡単にいは収まらんだろうが」
「そこでウチの薬剤師の出番ですよ」
「その口調だと、ナッツにすでに解毒薬の依頼でも出してる風だな……出来んのか?」
「理論的には簡単ではありませんが、魔導式との合わせ技で行けば試行数は限られますがある程度の治療は可能であろうというナッツさんの話です」
それも含めて奴は別行動って訳か、とテリーさんは地図を畳む。
陽が沈む頃、遠くにあったと思ったエルエラーサ城下が大分近くに迫って来ましたね。勿論ディアス国首都です、大きな街ですよ。そう簡単に麻薬カルテルは尻尾を出さないでしょうがそこは強引に行くと先に言いましたね。
商家ロダナム家の本邸は表立った商売の都合、ちゃんとエルエラーサに在るのです。そこに殴り込んだところで簡単に裏家業までたどり着く事は出来ないものでしょうが少なくとも、裏を存じ上げている人物の一人や二人、あるいはロダナム家当主あたりがのうのうと暮らしている可能性は無きにしも非ず、ですよ。
僕は強引に麻薬関係で記憶を引っこ抜くつもりです、そこからナドゥとの関連を洗い、ディアス国の勢力図を正しく理解すれば……おのずと求めるモノは見えて来るでしょう。
大陸座ユピテルトは誰かに匿われているか、あるいは……すでにディアス国のこの腐った対立図のどこかに身動きが取れぬ様、何らかの形で封じられているものと推測しています。
「早速ですが、都合よく夜になりましたね」
何が都合よくだ、とテリーさんは苦笑してますが。
「えー、このまま乗り込むの?」
襲撃は基本的に、夜と相場が決まっているものですよ、マース君。
状況は、大体僕の想定していた通りの様です。
まずエルエラーサ襲撃初夜、ロダナム家に忍び込んだ僕らは運良く、当主が館に戻っている事を知りました。最高にツイてますよ、商家っていうのは割とあちこち世界を飛び回っている事が多いものでしょう?夜だって会合と称して飲み歩いて然るべき身分ですよ。
極めて強引な方法で、つまり……完全な賊として僕らはロダナム家現行当主であられるチョウキ殿の屋敷へ突撃する事にしました。対魔法防壁もある様ですが紫魔導師の前にはそんなもの、在って無い様な物です。
部屋でくつろいでいたところで侵入、護衛を呼ばれる前にテリーさんが身柄を確保、即座……催眠魔法を入れて情報を抜き出す事に成功しました。
こんな事してるのが世間体にバレたら……魔導師協会の方から大目玉なんですよね。勿論今後強引に行くときにはちゃんと変装しますので御心配には及びませんよ。
結論から申し上げるに、チョウキ殿はナドゥをご存じ無い様ですね。
どうやら表立った外交役として当主はすでにお飾り看板となっている様です。ロダナム家の実権は次期当主である息子と、他の子供達が握っており抜き出した情報によれば一番麻薬側に近いのは次男のエチル氏との事です。
何時でも切り捨てられるように、跡継ぎにはその仕事をやらせていない……という事ですね。次期当主の長兄コール氏と次兄エチル氏の仲はやや険悪だと、父チョウキ殿は察している様であえてこの関係性を放置し、二人を煽るようにして成長を促している所がある様です。
そのほか、ロダナム家の詳しい情報を魔法催眠で引き出しましたが……これといって決定的なものは無いのが分かりましたのでそのまま、夢を見て頂き……この襲撃の事は忘れてもらいましょう。
ロダナム邸を無事脱出した僕らは今後の為の変装を揃え、定宿を定め……今後の動きを決める作戦会議となりました。
エチル氏の屋敷は勿論聞き出して来ましたよ。昼の間にエチル氏の屋敷周辺での情報収集をして分かった事ですが……本人は常に出歩いていて滅多に帰ってこない様ですね。エチル氏の交友関係については父親のチョウキ殿も良く把握していない、完全に麻薬販売ルートは次兄にまかせっきりという形ですか。
とりあえず……エチル氏に近しい側近を一人確保し、そこから情報を抜く事にしましょう。
人物の目星は付くとして、それをどうやって確保するかという問題は……テリーさんがあっさりと解決してくれます。
ちょっとした事で難癖をつけて近づき、裏に連れ込まれたところを全員返り討ち……要人と思われる人物を肩に担いで僕らの所に悠々と帰って来ました。流石、仕事はきっちりこなす人ですねぇ。
さてここから情報を強引に抜き取りまして、人物の名前、人相、今後の予定など分かる範囲の記憶を拝借。
こういうサイコメトリ的な魔法は魔導師にとっては得意分野ではあるのですが、勿論簡単ではありませんよ。僕だってある程度の魔導式による補助は必要とします。人の記憶を理論立てて抜き取るより、意識を戻して催眠魔法に掛けた方がまだ方法としては簡単です。
しかし、今回の襲撃事件によって否が応にも警戒度は高まるでしょう。スピード解決を望む僕らにとって、ちんたら人の名前や場所からアタリを引き当てていくのではらちがあきません。催眠に掛けて誘導尋問するより、術式が入れば一瞬で情報を抜き取れる高度魔法を優先して使うのはそういった理由からです。
有効な情報を得るまで、テリーさんとマース君に活躍してもらって片っ端からエチル氏の近辺人物を総当たりにします。するとその日の午後からは完全に警戒モードになり、これにより……エチル氏の潜伏場所がはっきりと分かる、といった感じですね。
一石二鳥というものです。
しかし今回は泳がせます、どうやら彼はひっきりなしにディアス国の高官と会っている。抜き出したスケジュールはそういうもので埋まっていて、今夜もまた人に会わねばならず、それを後伸ばしには出来ない事情がある様です。
また、分かって来た事には、やはり麻薬を売りさばいているのはロダナム家で間違いないという事ですね。残念ながらエチル氏からもナドゥの情報は得られませんでしたが、植民地で作らせた阿片から極めて高純度の麻薬を生成する方法をご存じの様です。そしてそれを、次男エチル氏はディアスで売りさばく仕事をしているのがはっきり裏が取れました。
今回暴力的に伸した側近達は主に売り子の元締めであり、把握できる限り売り子もまた売り子の中締めでしかない様で……具体的な顧客情報までは引き出せませんでしたね。そういう重要な情報は何か書類に纏められていて大事に保管されている様ですが……とりあえず物的証拠は後回しにします、僕らは麻薬カルテルを完全に壊滅させる方向で動いているわけでは無い。一先ずは大陸座ユピテルトを探す指標として利用しているにすぎません。
二日目の夜、エチル氏が会っていたディアス国高官を確認。次はこちらから情報を抜きましょう。勿論、エチル氏は僕らから探査の糸が付けられ、情報が筒抜けになっている事には気が付いていない。
まずは高官の足取りを確認するべく後を着けましたが……これは、自宅ではありませんね。公族の屋敷が立ち並ぶ方向に向かっています。
流石にこの近辺ともなると魔法による魔法対策等が強化されており、強引に突破という訳には参りません。腐っても国の中心です、他国からの密偵を恐れてしっかりとしたアンチ魔法対策が成されている。
「じゃぁどうする、ここで奴を追いかけるのは諦めるのか」
探査の糸も付けられませんので一旦切りました。今僕らは、白い石畳みの上等そうな館の立ち並ぶ区画の手前、大きな白い門の陰に隠れて足を止めています。
「魔法を使わなければ警戒魔法には引っかかりません、ですので……とりあえずどの屋敷に入って行ったかだけ確認して来て戴けませんか」
「俺が行くしかねぇってか、まぁいい。門兵らしきもんは居無さそうだが、そのあたりはどうなんだ?」
「分かりかねますね、ここから先は魔法での探査も出来ない様にこの対魔法石があちこちに配されていて大変やりにくい」
「分かった、じゃぁお前らは宿に戻って居ろ。後は俺がなんとかする」
「なんとかって、大丈夫?」
マース君は心配そうですが、このお兄さんはやる事成す事メチャクチャではありますが仕事はきっちりこなしてくれるんですよ。
元来、僕らは全員が全員テリーさんレベルのチートキャラです。ただ本編におけるヤトは色々と引きの悪さ……いえ、この場合は良さというべきなのでしょうか?とにかく、彼については貧乏くじを引き過ぎている都合頼りなさそうに見えるだけです。
「とっ捕まりそうなら全部ぶっ飛ばして逃げて来るからよ、俺が宿に戻るとき誰かに付けられてたら対処は頼むぜ」
「了解しました」
果たして、テリーさんは大分夜も更けた頃に宿に戻って来ましたね。
見た感じ怪我をしている風ではありませんが、相当暴れて来たらしい様子が伺えます。
「ほら、約束のモンだ」
テリーさんに渡していた地図には……赤黒い判子の様なものがいくつか押してあります。染料にも使われている果実を潰してそれを目印として押した物の様ですがこれは……想定外ですね。エチル氏と面会していた高官が入った館は一か所ではなく、何箇所にも及んでいます。
「悪いが途中で巡回してた兵隊に見つかっちまってな、怪しまれる前に撤退したんだが結局追いかけられちまってよ」
「大暴れして来た様ですね」
戦った形跡はありますが傷は無い、マントで身を包んで、更にストールで丹念に顔を隠していた訳ですが、それが所々切られていたり、焼け焦げたりしています。巡回兵には魔法使いも混じっていたのでしょうね。全部相手取って倒して来たか、追っ手をある程度撒く為に遠回りをして帰って来たのかで、帰宅は遅くなった様です。
「明日から大分警備が多くなっちまうと思うが……」
「構いません、この情報だけで十分です」
僕は受け取った地図をテーブルに広げて頷いて例によってほくそ笑んでおります。
「どこが誰の館か、という情報は貴方を待つ間に調べてまとめておきました。これでエチル氏の交友関係は絞れます……館に入って出て来るまでの時間は、さほど長くはなさそうですね」
「ああ、手っ取り早い所だと門前で事を済ませてたみたいだな」
と、テリーさんは何かを渡す素振りをする。マース君が眠そうに首をかしげる。
「うん?でも会合で麻薬等を受け渡してる感じじゃなかったんだよね?」
「そうですね、金銭のやり取りも無かった。ただ暗号的な符号を互いに確認し、何かの取引が成立した風の会話の後は……他愛も無い雑談でした」
「じゃぁ……高官は何を配って歩いていたんだろう」
「これをご覧ください、一番最初に入ったのは……この館ですよね」
僕が指さした地図を見て、テリーさんはその通りだと頷く。
「ここは、巧妙に隠している様ですがロダナム家の別館である事は調べがついております。恐らくはここに問題の麻薬が置いてあるのでしょう」
ちなみに、今回の僕の方法、完全に魔法での記憶情報の収集なので物的証拠が無く、他者に向けた説得力は皆無だったりします。
「つまり、そこから必要な分を受け取って……高官はそれを、配って歩いて居る?」
「あの区画の警備が極めて高い事を利用しているのかもしれません。エチル氏の方も万が一の時は自分の存在ごと家から切られてしまう事を理解しているのです。ですから、何か麻薬売買の関連で問題が起きた時には、出来るだけそれとの関係性を切り易くしているのでしょう」
「用心深いこったな、まぁ……そんくらい用心してなきゃ売人は出来ねぇもんか」
「隠す意図があるというのは良い傾向です」
どういう意味だ、という風に二人が顔を上げるので僕は眼鏡のブリッジを押し上げ、笑った。
「それが罪として摘発可能、という事ですからね」
さて首都エルエラーサ入りして三日目の朝です。
流石に城下でおかしな事件が起きている事が、情報紙に載って貼り出される様になりましたね。これは所謂新聞のようなもので、ディアス国では国で管理して発行されていて多くの人が読める様に掲示板を設けていています。情報統制の為の戦略の一つでしょう。他に、民間企業として情報誌を纏めている所もある様ですが、多くは国の息が掛かっていて自由度は低いとの事です。
これは、情報屋エイオールのミンジャンから聞いた話ですね。成る程、ディアスはそうやってしっかりとした民衆の情報操作をしている訳ですか。
とはいえ……これは文字の読み書きが出来るレベルの民衆までに向けた話です。
僕らが宿を取ったのは貧困街とのほぼ境界線に位置しております。そちらに向けてはどうするのかというと、口頭で伝えるべき事を触れ回る役人が居る様ですね。ふむ、徹底しております。
内容については勿論、公族が家を構える白磁通りに賊が出た、という話ですね。
ロダナム家次男の手下が軒並み襲われたという件は乗っていません。勿論そうなるでしょうねぇ。この情報紙がどこの権限から発行されているものか、これでよくわかります。
さらにもう一つ、重大な事が分かりました。
……ログアウト期限が近い様です。
そういう予告をセーブ中に貰った様で、起きざま即座リコレクトしました。そうですね容量的には大分いっぱい一杯ではないかとは思っていました。魔導都市からコウリーリス国横断、この道中を殆どスキップしたとはいえ、そこから死国を経て南国という中々展開の多い場面をクリアしてきましたからねぇ。
「さて、本日は……とりあえず纏めた情報を整理する時間とさせていただきたい」
「てめぇはな、そんで俺達は?」
話が早いですねぇ、このメンツの中でその仕事をできるのは僕だけです。僕は小さな封筒に入れた手紙をテリーさんに差し出しながら言いました。
「テリーさんはそろそろ港に入れたであろうエイオール船に御使いに行ってください。ナッツさんに手紙を渡して……この手紙の返事をもらってきてください。ただし船を見つける所からなので手間取るかもしれません。エイオールは、ディアス国ではあまり大手を振って活動は出来ない、との事なので商船に化けると言っていました。頼りになりそうな情報はこれだけです」
「魔法探査も無理って事か?」
「あの船、そもそも魔法の船なんですよ?勿論数少ない船の中からエイオール船を見つける事は可能です、魔法探査を受け付けない、という意味でね」
つまり探すのはそれなりにデカイ港の中から、って事か……と、テリーは神妙な顔で頷く。
「ま、ナッツの方でなんか手を打ってくれてるだろ」
「僕もそう願う所です」
「じゃ、僕は……?」
マース君、恐る恐るという風に聞いてきますね。どうやら無理難題を吹っかけて、当然とこなしてくる僕らに若干引き始めている感じがします。そういう君も、相当にポテンシャルが高い重戦士なんですがねぇ、自分に向けてあまり自信が無い様で、その辺りはランドールの爪の垢でも煎じて飲んだ方が良いかもしれません。
「現在の四方騎士の事を調べて来て欲しいですね」
「あああああ、やっぱりそれ僕がやるんじゃん!ダメだよ!無理だってば!!」
なんとなく、察して恐れていた訳ですか。
「大丈夫だ、誰もお前が脱走兵のマースだとは思わんだろ、その鎧なら」
「でもでも!無所属の重鎧戦士が騎士駐屯基地をうろつくのなんて怪しすぎるでしょ!」
「何を言ってるんですが、そんな事をしたら流石にばれてしまうでしょう。貴方が行くのはエルエラーサ城です」
「は?」
地理的な事を補足しますと、首都エルエラーサには法王の住む城である西教神殿と、国王が住むエルエラーサ城が大体隣り合って建っています。しかし一応建物としては独立しており、互いの城は塀と堀で隔てられ、互いに背を向ける様に都市のど真ん中にあるとご想像ください。
先の、高官が消えた白磁通りはエルエラーサ城に続く、いわばエリート住宅街。これを囲んで守るように央軍という国王が指揮するディアス国の主戦力の指揮塔があり、テリーさんは昨晩これから睨まれた所囲みを破って逃げて来たと云う訳です。
この真逆の方向に西教というディアス国を建国した聖シュラードを神とする宗教の総本山があり、その聖地とされる廟などが集中して建つ区画があって……管理整備された杜などもある。それに寄り添う形で四方騎士が詰めている駐屯基地があります。
僕は一枚のチラシをマース君に渡しました。
「これは、そうか……兵役案内書……これを持ってエルエラーサ城に行くのなら確かに、僕のこの重鎧は目立たない」
ディアス国は割と定期的に軍人の募集をしている様です。一精順(一週間)に一度は採用試験が開かれており、働きに応じては央騎士見習いへの道も開けるとそのチラシには書いてありますね。一応は身分問わずだそうです。
「実際に試験は受けなくて良いのですよ。分かってますよね?」
「勿論、分かっているよ。追手が掛かってるのは四方騎士からだけど……北魔槍騎士団壊滅の事は色々尾ひれをついてるに違いないんだ。そこから事前に逃げていた僕は央軍でも御尋ね者には間違いないだろうし……そうか、北魔槍」
ようやくマース君も思い至ってくれたようですね。そうです、北魔槍の団長であるアービスは魔王八逆星であり、今はそれを脱退しようとして魔王軍からも、またディアス国からも離脱している。また北魔槍の騎士たちの殆どが魔王軍化され、黒い混沌の獣と化していたのをランドール側が撃退しています。
では、今四方騎士の一角を担う北魔槍騎士団はどうなっているのか?
現アービスは、第一次魔王討伐に向かった北魔槍騎士団長の代替として置かれた『作られた人物』です。あまり話したがりませんでしたが……弟が居る事を話してくれた下りで本来彼はコウリーリス国側にあるディアス国の植民地、マリアに住む小作人の息子だった事が分かっています。そんな人物が騎士団長などまともに務まる訳が無いのですが、最初から『飾り』として求められ、そのように『作られて』いる事をアービス本人も承知していました。
ディアス国側の意図はよく分かりませんが、四方騎士は穴が無い様に埋めておかなければいけない約束でもあるのでしょうかね?誰でも良いのなら魔王八逆星側に代役を求めない方が良いと思うのですが、あるいはお飾りとはいえそれなりに戦える人物を揃える必要性があるのかもしれません。
とにかく、必ず誰か、あるいは『何か』をそこに収めておかなければならないとするならば、また別の、新たな代替が北魔槍に収まっている可能性は高いでしょう。
「央軍側でも四方騎士の事は大方情報が掴めると思いますが、どうでしょう?大体の事で良いのです、多分どっちにしろ北魔槍側がまだ健在であるならば、殴り込みをかける必要性が出て来ると思いますので」
「うぇぇぇ……そうならない様な情報が在る事を祈るよ……」
「ナドゥの息が掛かっている公族、あるいは商人が居るはずです。そこをですね、まず強引にツブします」
「……暴力沙汰は得意だけどよ、良いのかそんな乱暴なファーストコンタクトで」
テリーさん、その横文字NGワードすれすれのゲーム用語ですよ。
さて、これからディアスに殴り込みに行くメンツをご紹介しましょう。
まず、紫魔導師レッド事、この僕。
ファマメント公族のエラい人だった、筋肉戦闘マシーンのテリー・ウィンさん。
ディアス国出身で元四方騎士、道案内のマース・マーズ君。
以上。
ええ、残り面子たったの三人なんです。隠密行動出来るのがほぼ僕一人、この状況で細かい戦略など引く方が無駄というもの。物事は、シンプルに強引に行きましょう。それが出来るメンバーですよ。
「ええっとぉ……まぁ、心当たりのある商人とかエラい人とかは居るけど、僕らだけで強行突破って事?」
「そのエラい人の頭を押さえます」
僕は腰が引けているマース君に向けてにっこり笑って答えました。
「それでどーやって大陸座ユピテルトにたどり着けるんだよ?大陸座についての情報収集はしねぇのか?」
「それは、殴り込んだ先々で行っていきます」
「真面目に作戦もへったくれもねぇな……」
「ええ、今回は僕もかなり強引に行きますのでおもいっきり暴れてください。僕はそっちの方は苦手ですので」
「そりゃいいが」
テリーさん、こういう時何も反論せず云われた通りの仕事をかっつりやってくれる頼りになる人ですよ。ヤトみたいに無駄に考えたりしないんですよね。考える仕事をちゃんと他人に任せっきりに出来てしまう人なんでしょう。
「殴ったって何でもかんでも洗いざらいしゃべってくれる奴ばっかじゃねぇだろ?」
「ははは、紫魔導師舐めちゃいけませんよ。魔導式が入りさえすれば記憶の強引な詮索
くらい訳ないです」
魔導師というイキモノがエゲツナイ部類である事を、思い出したようにテリーさんは露骨に嫌な顔をしましたね。
「今回相手は魔王八逆星側の極めて下っ端です、ナドゥ達はまだ僕らは南国に居るものだと思っているでしょう。そうするつもりであの新生魔王軍をけしかけてきているはずなんですから」
そんなもんか?という風に二人は顔を見合わせて肩をすくめていますね。
仕方が在りませんね、ザックリと説明差し上げましょうか。
「いいですか、ナドゥ達も目的は打倒大陸座です。ディアス国でも大陸座の行方を捜していたはずで、大陸座というものは『倒せないもの』だという事を知っている。故に封印という方向性の舵を切っている事でしょう。彼らはまだ、大魔王を含む大陸座を殺す手段を持ち得て居なくて、殺せる存在を探している状況なのです」
「……その候補としてヤトが上がっちまってるわけだな」
「あと、ランドールぼっちゃん」
そういう事です、と僕は頷きました。
「それをどういう方法で仕上げて来るのか、そこはまだ未知数ですが、最悪僕らが優位になれば、ナドゥという男は僕らを操作する方向でギガースや大陸座の消去に舵を切りなおすでしょう。必ずしも自分の手でやり遂げる事にこだわる男ではない」
攪乱が必要なのです。
ヤトや、ランドールにだけその責務を負わせていては仲間として面目丸つぶれですよ。彼らさえいれば良いと思わせて置いてはいけない。
それは、僕らにだって出来ると云う事を知らしめてやらねばなりません。
「そして、最終的には彼は、僕ら全員に大魔王や大陸座と同等の危機感を持つでしょう」
テリーさんは無言で僕を見ていて、言いたい事を飲み込んだ様ですね。マース君が居るからそれは口には出せないのでしょう、そう、ナドゥは……多分異世界から来た存在全てに向けて敵対的な対応をすることになる。それが『異世界から来た』という情報はよく理解せずとも、この世界から見て極めて異質であるという理由で、排除したいと願うはずなのです。
それこそが彼の世界保全で、世界をままに在るべく正しい方法と考えているはず。異質なものに侵略され、壊れた部分を直すのに荒療治も辞さない。犠牲無くして正常化は難しいと考えていて、その実被害を大きくしてしまっている事に気が付いていない。
その尖った考え方の末、彼自身が異質な存在に近づいている事に気が付いていないのでしょうか?あるいは分かっていて、全ての行動を起こしているのかもしれない。
知らなくていて、知らせてしまえば……それはそれで不幸な気もします。
「僕らが成すべき事は、一刻も早く魔王八逆星の成す世界の破壊を止める事です」
「それは……つまり、彼らがまた何か余計な事をする前に」
「ええ。彼らの敵意を、僕らに向けさせてしまう事で『世界』から目を逸らしてもらうしかない」
世界を救うと願った先に、平和は副産物にすぎないと諦観し、保全のつもりでその実世界を壊す……魔王八逆星。
「だから今回は強引に行く、ってか。それ、奴らのやってる事と大差ねぇと思うのは俺だけか?」
鋭いですねぇテリーさん。思わず今回ばかりは苦笑を零してしまいましたよ。
「ええ、そうですね。僕は本来魔王側に行きたかった方ですから、結局出来る事は似たような事なのかもしれません」
「責めてるわけじゃねぇよ」
「ありがとうございます。……ですから最短距離を壁という壁をぶち抜いて行きます」
テリーは小さく頷き、まぁこのメンツでやるしかねぇならそれが一番『平和』だな、と……ぼやきましたね。
「了解了解、」
「ええっ!?了解してないの僕だけって事?」
マース君はまだ納得いかない様ですが。
「多数決だ、腹を決めろ」
「うえぇぇぇ」
キラからエルエラーサまでは徒歩で1日あるいは2日程の距離です。馬車等もありますが、テリーさんが僕の実験に付き合うのを拒否しましてね、急いでいる旅だというのに。
仕方が無く徒歩で、エルエラーサの地理や世情などをマース君から聞きながら進む事になりました。キラに宿を取った段階でそういう段取りになったので、出発は早朝ですよ。
町を抜けると痩せた田畑が続く景色が広がっています。天候は悪く無く、霞んだ空気の向こうに丘の上に広がる首都エルエラーサが見え隠れします。地図で見るより土地の勾配があって所々迂回したり、視界が遮られたりするのです。
「田畑より、果樹園が多いな」
季節は夏の終わりですね、赤や青の見慣れた果実が実る木々を囲む柵伝いの道を歩きながら、テリーさんは早速道すがら会った果樹園の主からその果実を分けてもらって齧りながら言いました。
お前も食うか?と差し出された……拳大の……リアル記憶と突き合わせるとやや小ぶりな林檎を僕は、形だけ受け取って手に収めたままで応えました。
「土壌の関係でしょうね。それくらいしか適した農作物が無いのでしょう」
エルエラーサで整備した石畳の道もあるんですが、存外そういう道は足を痛めるんですよね。かといって森歩きはもっと大変なのですけれども。マースさんに土地勘があって助かりました。公道では遠回りなので、果樹園の間を抜ける田舎道をメインにして僕らは歩いて居ます。人の行き来で短くなった草が生えているあぜ道です、こういう道を歩くのは楽でよいものですよ。
手持無沙汰なので周りに人がいない事を確認してから、魔法の刃で林檎を切り、キラの宿でお弁当として包んでもらった物の空に受け止める。ちゃんと皮をむいて、芯を切り取って食べやすい様にカットしました。
「お上品な奴だな」
テリーさん、食事の作法には煩いわりに、こういう時は大雑把なんですよね。
「マース君は鎧を脱ぎたくないのですから、こうしないと食べられないでしょう」
「あ、ありがとうございます」
僕の勧めで切った林檎を、重鎧の間から口に入れるマース君。
「あ、美味しいですね、」
「良い水分補給になります。このまま休憩なしで歩き通しますが、マース君大丈夫ですか?」
「僕は全然平気ですよ、以前の森歩きに比べれば……」
と、頭を少し上げて、多分遠い目をしています。
林檎をいくばか頂いた所で、テリーさんは畳んでいた地図を再び取り出しました。
「で、まずどこから行くんだって?」
「ロダナム家ですね」
「……それ、なんかどっかで聞いた気がするんだけど何だっけな?」
よく覚えていましたね、テリーさんもあの一連は隣で見ていた訳ですね。
ロダナムとはナッツさんが使っている薬の一種ですよ。ナッツさんは睡眠剤として使いましたが本来は痛み止めの類だと思います。……薬学に詳しい訳ではありませんが、その名称からして僕が想像している物質で間違いは無いでしょう。
「ぶっちゃけディアスで麻薬王って呼ばれてるよ」
マース君の話にテリーは、眉根を潜めて地図を眺める。その行為にあまり意味は無い様ですが。
「その麻薬ってのは、そうだな……えっと」
リコレクトコマンドで使える単語を探しているのでしょう。
「阿片か?」
「そうです、ディアス国は阿片禍について厳しい情報統制をしているっぽいけど、やっぱりそれってファマメント国にもバレてるのかな?」
テリーさん、マース君から感心されてちょっと焦ってますね。
「いや、俺は暫らく国には帰ってねぇから、なんだろうな、なんかどっかでそーいう話を聞いた事があってだな……そのロダナム、ってのをだな」
「厳しい情報統制、という割にマース君は知っているようですけれども」
「だから僕はディアス国から追い出されたし、然るべき人に見つかったら捕まって牢屋に入れられちゃうんだってば……僕、色々知りすぎてるみたいです。そうだという事には当時は気が付いていなくて」
ディアス国から、正しくは北魔槍団長、アービスから慈悲を受けて国外に逃がされていたマースは、そこを……ファマメント国公族ウィン家の代理当主であるテニーさんに匿われたという訳ですね。間違いなくテニーさんはディアス国の情報目当てでマース君を抱え込んだのでしょう。
「貴方がファマメントにその情報を流してしまってるんですよ、マース君」
「……」
僕の言葉に、マース君は頭を落とす。
「テニーさん……僕には、テニーさんがそんなに悪い人には思えません」
「ウィン家を甘く見ない事だな」
そのウィン家の本来の当主の言葉に、マース君は更に肩を落としていますよ。
「とにかくだ、その……ロダナム家ってのがナドゥに近いってんだな?」
「マース君の持っていた情報を鑑みるに、ナドゥは公族らに直接接点を持っている訳では無さそうだと感じました。国政や情報統括に極めてやり手が居る様ですが、その御蔭で痴態はかろうじて隠蔽されている、といった雰囲気を感じます。国内の者は、国の状勢を肌で感じ流れる出てしまう噂から極めて真実に近い事を感じ取っている。流石にそれを封じる手立てが無いからこそ然るべき機関は、マース君の国外追放という処置に納得が行っていないのでしょう」
詳しい話はどうでもいい、という雰囲気は……ヤトと同じですね。テリーさんは手を振ってそんな話はいいから計画を話せと言う。
「……マース君の話では麻薬禍は、どちらかというと国王側に蔓延している、との事です」
「ほぉん?それで、」
「政治的な主権が法王、国王、どちらにあるのかは下々の者には良く分からない、との事ですが……恐らく国王側であろうと僕は察します。法王側は阿片をばら撒いたり他国との戦争を薦めたりする事でそれを、揺るがそうとしている」
これを聞いて流石に黙ってはいられなかった様で、テリーさんは……極めて小声でつぶやきました。
「稚拙だな、国の事なんかどうでも良いって考えがにじみ出てるぜ」
「しかして国民の意識はそうであるのに、です。実際ディアスから三国緩衝地帯であるバセリオン、フェイアーン、タトラメルツに軍を派遣しているのは国王だというのです」
「いや、国境を守るのと戦争をさせる軍は別なんじゃねーのか?」
「勿論別でしょう、ですが命令形態が変化すれば容易く方向性は裏返る。国王側は大分押し込まれている状況であると見受けられます。阿片禍、については知識があるようなので詳しい事は話しませんが、分かっていますよね」
「ああ、手を出してしまったら抜け出すのは容易くはないって事だろ?」
「恐らくは……ナドゥによって最悪な形態にまで洗練されてしまっているだろうと思います」
それはリアルの方の知識でテリーさんでも理解できるでしょう。そうでなくても、この世界は少なからず薬学レベルが抜きんでて高いという話はナッツさんから聞いていますし、そういう都合意外と学のあるテリーさんはリコレクトで、僕が言いたい事を大凡理解できるのかもしれません。
「マース君は、その麻薬に手を出した事は?」
「僕は無いよ、四方騎士の間ではそれをやるのはご法度だったから、でも……手を出している奴がいなかったとは断言出来ないかな」
「国王軍、オウ軍、でしたか。そちらでは?」
「央軍、平騎士の事だよね?そっちはよく分からないというのが正直な所だけど、派遣から戻って来た騎士が使い物にならなくなって退役した……という話は……聞いた事があるかな」
ディアス国は法王と国王で勢力が二分されている通りで、勿論それに付き従う軍隊、指揮する者としてこれをディアス国では騎士と呼ぶ様ですが、これも二種類ある様です。四方騎士は法王に属し、央軍という多くの軍隊を指揮する平騎士が国王に属します。
「しかしそのロダナム家ってのは、要するに麻薬売りさばいてる様なヤクザな訳だろう?簡単にアタマを抑えられるのか?ブツを押収した所で阿片禍はそう簡単にいは収まらんだろうが」
「そこでウチの薬剤師の出番ですよ」
「その口調だと、ナッツにすでに解毒薬の依頼でも出してる風だな……出来んのか?」
「理論的には簡単ではありませんが、魔導式との合わせ技で行けば試行数は限られますがある程度の治療は可能であろうというナッツさんの話です」
それも含めて奴は別行動って訳か、とテリーさんは地図を畳む。
陽が沈む頃、遠くにあったと思ったエルエラーサ城下が大分近くに迫って来ましたね。勿論ディアス国首都です、大きな街ですよ。そう簡単に麻薬カルテルは尻尾を出さないでしょうがそこは強引に行くと先に言いましたね。
商家ロダナム家の本邸は表立った商売の都合、ちゃんとエルエラーサに在るのです。そこに殴り込んだところで簡単に裏家業までたどり着く事は出来ないものでしょうが少なくとも、裏を存じ上げている人物の一人や二人、あるいはロダナム家当主あたりがのうのうと暮らしている可能性は無きにしも非ず、ですよ。
僕は強引に麻薬関係で記憶を引っこ抜くつもりです、そこからナドゥとの関連を洗い、ディアス国の勢力図を正しく理解すれば……おのずと求めるモノは見えて来るでしょう。
大陸座ユピテルトは誰かに匿われているか、あるいは……すでにディアス国のこの腐った対立図のどこかに身動きが取れぬ様、何らかの形で封じられているものと推測しています。
「早速ですが、都合よく夜になりましたね」
何が都合よくだ、とテリーさんは苦笑してますが。
「えー、このまま乗り込むの?」
襲撃は基本的に、夜と相場が決まっているものですよ、マース君。
状況は、大体僕の想定していた通りの様です。
まずエルエラーサ襲撃初夜、ロダナム家に忍び込んだ僕らは運良く、当主が館に戻っている事を知りました。最高にツイてますよ、商家っていうのは割とあちこち世界を飛び回っている事が多いものでしょう?夜だって会合と称して飲み歩いて然るべき身分ですよ。
極めて強引な方法で、つまり……完全な賊として僕らはロダナム家現行当主であられるチョウキ殿の屋敷へ突撃する事にしました。対魔法防壁もある様ですが紫魔導師の前にはそんなもの、在って無い様な物です。
部屋でくつろいでいたところで侵入、護衛を呼ばれる前にテリーさんが身柄を確保、即座……催眠魔法を入れて情報を抜き出す事に成功しました。
こんな事してるのが世間体にバレたら……魔導師協会の方から大目玉なんですよね。勿論今後強引に行くときにはちゃんと変装しますので御心配には及びませんよ。
結論から申し上げるに、チョウキ殿はナドゥをご存じ無い様ですね。
どうやら表立った外交役として当主はすでにお飾り看板となっている様です。ロダナム家の実権は次期当主である息子と、他の子供達が握っており抜き出した情報によれば一番麻薬側に近いのは次男のエチル氏との事です。
何時でも切り捨てられるように、跡継ぎにはその仕事をやらせていない……という事ですね。次期当主の長兄コール氏と次兄エチル氏の仲はやや険悪だと、父チョウキ殿は察している様であえてこの関係性を放置し、二人を煽るようにして成長を促している所がある様です。
そのほか、ロダナム家の詳しい情報を魔法催眠で引き出しましたが……これといって決定的なものは無いのが分かりましたのでそのまま、夢を見て頂き……この襲撃の事は忘れてもらいましょう。
ロダナム邸を無事脱出した僕らは今後の為の変装を揃え、定宿を定め……今後の動きを決める作戦会議となりました。
エチル氏の屋敷は勿論聞き出して来ましたよ。昼の間にエチル氏の屋敷周辺での情報収集をして分かった事ですが……本人は常に出歩いていて滅多に帰ってこない様ですね。エチル氏の交友関係については父親のチョウキ殿も良く把握していない、完全に麻薬販売ルートは次兄にまかせっきりという形ですか。
とりあえず……エチル氏に近しい側近を一人確保し、そこから情報を抜く事にしましょう。
人物の目星は付くとして、それをどうやって確保するかという問題は……テリーさんがあっさりと解決してくれます。
ちょっとした事で難癖をつけて近づき、裏に連れ込まれたところを全員返り討ち……要人と思われる人物を肩に担いで僕らの所に悠々と帰って来ました。流石、仕事はきっちりこなす人ですねぇ。
さてここから情報を強引に抜き取りまして、人物の名前、人相、今後の予定など分かる範囲の記憶を拝借。
こういうサイコメトリ的な魔法は魔導師にとっては得意分野ではあるのですが、勿論簡単ではありませんよ。僕だってある程度の魔導式による補助は必要とします。人の記憶を理論立てて抜き取るより、意識を戻して催眠魔法に掛けた方がまだ方法としては簡単です。
しかし、今回の襲撃事件によって否が応にも警戒度は高まるでしょう。スピード解決を望む僕らにとって、ちんたら人の名前や場所からアタリを引き当てていくのではらちがあきません。催眠に掛けて誘導尋問するより、術式が入れば一瞬で情報を抜き取れる高度魔法を優先して使うのはそういった理由からです。
有効な情報を得るまで、テリーさんとマース君に活躍してもらって片っ端からエチル氏の近辺人物を総当たりにします。するとその日の午後からは完全に警戒モードになり、これにより……エチル氏の潜伏場所がはっきりと分かる、といった感じですね。
一石二鳥というものです。
しかし今回は泳がせます、どうやら彼はひっきりなしにディアス国の高官と会っている。抜き出したスケジュールはそういうもので埋まっていて、今夜もまた人に会わねばならず、それを後伸ばしには出来ない事情がある様です。
また、分かって来た事には、やはり麻薬を売りさばいているのはロダナム家で間違いないという事ですね。残念ながらエチル氏からもナドゥの情報は得られませんでしたが、植民地で作らせた阿片から極めて高純度の麻薬を生成する方法をご存じの様です。そしてそれを、次男エチル氏はディアスで売りさばく仕事をしているのがはっきり裏が取れました。
今回暴力的に伸した側近達は主に売り子の元締めであり、把握できる限り売り子もまた売り子の中締めでしかない様で……具体的な顧客情報までは引き出せませんでしたね。そういう重要な情報は何か書類に纏められていて大事に保管されている様ですが……とりあえず物的証拠は後回しにします、僕らは麻薬カルテルを完全に壊滅させる方向で動いているわけでは無い。一先ずは大陸座ユピテルトを探す指標として利用しているにすぎません。
二日目の夜、エチル氏が会っていたディアス国高官を確認。次はこちらから情報を抜きましょう。勿論、エチル氏は僕らから探査の糸が付けられ、情報が筒抜けになっている事には気が付いていない。
まずは高官の足取りを確認するべく後を着けましたが……これは、自宅ではありませんね。公族の屋敷が立ち並ぶ方向に向かっています。
流石にこの近辺ともなると魔法による魔法対策等が強化されており、強引に突破という訳には参りません。腐っても国の中心です、他国からの密偵を恐れてしっかりとしたアンチ魔法対策が成されている。
「じゃぁどうする、ここで奴を追いかけるのは諦めるのか」
探査の糸も付けられませんので一旦切りました。今僕らは、白い石畳みの上等そうな館の立ち並ぶ区画の手前、大きな白い門の陰に隠れて足を止めています。
「魔法を使わなければ警戒魔法には引っかかりません、ですので……とりあえずどの屋敷に入って行ったかだけ確認して来て戴けませんか」
「俺が行くしかねぇってか、まぁいい。門兵らしきもんは居無さそうだが、そのあたりはどうなんだ?」
「分かりかねますね、ここから先は魔法での探査も出来ない様にこの対魔法石があちこちに配されていて大変やりにくい」
「分かった、じゃぁお前らは宿に戻って居ろ。後は俺がなんとかする」
「なんとかって、大丈夫?」
マース君は心配そうですが、このお兄さんはやる事成す事メチャクチャではありますが仕事はきっちりこなしてくれるんですよ。
元来、僕らは全員が全員テリーさんレベルのチートキャラです。ただ本編におけるヤトは色々と引きの悪さ……いえ、この場合は良さというべきなのでしょうか?とにかく、彼については貧乏くじを引き過ぎている都合頼りなさそうに見えるだけです。
「とっ捕まりそうなら全部ぶっ飛ばして逃げて来るからよ、俺が宿に戻るとき誰かに付けられてたら対処は頼むぜ」
「了解しました」
果たして、テリーさんは大分夜も更けた頃に宿に戻って来ましたね。
見た感じ怪我をしている風ではありませんが、相当暴れて来たらしい様子が伺えます。
「ほら、約束のモンだ」
テリーさんに渡していた地図には……赤黒い判子の様なものがいくつか押してあります。染料にも使われている果実を潰してそれを目印として押した物の様ですがこれは……想定外ですね。エチル氏と面会していた高官が入った館は一か所ではなく、何箇所にも及んでいます。
「悪いが途中で巡回してた兵隊に見つかっちまってな、怪しまれる前に撤退したんだが結局追いかけられちまってよ」
「大暴れして来た様ですね」
戦った形跡はありますが傷は無い、マントで身を包んで、更にストールで丹念に顔を隠していた訳ですが、それが所々切られていたり、焼け焦げたりしています。巡回兵には魔法使いも混じっていたのでしょうね。全部相手取って倒して来たか、追っ手をある程度撒く為に遠回りをして帰って来たのかで、帰宅は遅くなった様です。
「明日から大分警備が多くなっちまうと思うが……」
「構いません、この情報だけで十分です」
僕は受け取った地図をテーブルに広げて頷いて例によってほくそ笑んでおります。
「どこが誰の館か、という情報は貴方を待つ間に調べてまとめておきました。これでエチル氏の交友関係は絞れます……館に入って出て来るまでの時間は、さほど長くはなさそうですね」
「ああ、手っ取り早い所だと門前で事を済ませてたみたいだな」
と、テリーさんは何かを渡す素振りをする。マース君が眠そうに首をかしげる。
「うん?でも会合で麻薬等を受け渡してる感じじゃなかったんだよね?」
「そうですね、金銭のやり取りも無かった。ただ暗号的な符号を互いに確認し、何かの取引が成立した風の会話の後は……他愛も無い雑談でした」
「じゃぁ……高官は何を配って歩いていたんだろう」
「これをご覧ください、一番最初に入ったのは……この館ですよね」
僕が指さした地図を見て、テリーさんはその通りだと頷く。
「ここは、巧妙に隠している様ですがロダナム家の別館である事は調べがついております。恐らくはここに問題の麻薬が置いてあるのでしょう」
ちなみに、今回の僕の方法、完全に魔法での記憶情報の収集なので物的証拠が無く、他者に向けた説得力は皆無だったりします。
「つまり、そこから必要な分を受け取って……高官はそれを、配って歩いて居る?」
「あの区画の警備が極めて高い事を利用しているのかもしれません。エチル氏の方も万が一の時は自分の存在ごと家から切られてしまう事を理解しているのです。ですから、何か麻薬売買の関連で問題が起きた時には、出来るだけそれとの関係性を切り易くしているのでしょう」
「用心深いこったな、まぁ……そんくらい用心してなきゃ売人は出来ねぇもんか」
「隠す意図があるというのは良い傾向です」
どういう意味だ、という風に二人が顔を上げるので僕は眼鏡のブリッジを押し上げ、笑った。
「それが罪として摘発可能、という事ですからね」
さて首都エルエラーサ入りして三日目の朝です。
流石に城下でおかしな事件が起きている事が、情報紙に載って貼り出される様になりましたね。これは所謂新聞のようなもので、ディアス国では国で管理して発行されていて多くの人が読める様に掲示板を設けていています。情報統制の為の戦略の一つでしょう。他に、民間企業として情報誌を纏めている所もある様ですが、多くは国の息が掛かっていて自由度は低いとの事です。
これは、情報屋エイオールのミンジャンから聞いた話ですね。成る程、ディアスはそうやってしっかりとした民衆の情報操作をしている訳ですか。
とはいえ……これは文字の読み書きが出来るレベルの民衆までに向けた話です。
僕らが宿を取ったのは貧困街とのほぼ境界線に位置しております。そちらに向けてはどうするのかというと、口頭で伝えるべき事を触れ回る役人が居る様ですね。ふむ、徹底しております。
内容については勿論、公族が家を構える白磁通りに賊が出た、という話ですね。
ロダナム家次男の手下が軒並み襲われたという件は乗っていません。勿論そうなるでしょうねぇ。この情報紙がどこの権限から発行されているものか、これでよくわかります。
さらにもう一つ、重大な事が分かりました。
……ログアウト期限が近い様です。
そういう予告をセーブ中に貰った様で、起きざま即座リコレクトしました。そうですね容量的には大分いっぱい一杯ではないかとは思っていました。魔導都市からコウリーリス国横断、この道中を殆どスキップしたとはいえ、そこから死国を経て南国という中々展開の多い場面をクリアしてきましたからねぇ。
「さて、本日は……とりあえず纏めた情報を整理する時間とさせていただきたい」
「てめぇはな、そんで俺達は?」
話が早いですねぇ、このメンツの中でその仕事をできるのは僕だけです。僕は小さな封筒に入れた手紙をテリーさんに差し出しながら言いました。
「テリーさんはそろそろ港に入れたであろうエイオール船に御使いに行ってください。ナッツさんに手紙を渡して……この手紙の返事をもらってきてください。ただし船を見つける所からなので手間取るかもしれません。エイオールは、ディアス国ではあまり大手を振って活動は出来ない、との事なので商船に化けると言っていました。頼りになりそうな情報はこれだけです」
「魔法探査も無理って事か?」
「あの船、そもそも魔法の船なんですよ?勿論数少ない船の中からエイオール船を見つける事は可能です、魔法探査を受け付けない、という意味でね」
つまり探すのはそれなりにデカイ港の中から、って事か……と、テリーは神妙な顔で頷く。
「ま、ナッツの方でなんか手を打ってくれてるだろ」
「僕もそう願う所です」
「じゃ、僕は……?」
マース君、恐る恐るという風に聞いてきますね。どうやら無理難題を吹っかけて、当然とこなしてくる僕らに若干引き始めている感じがします。そういう君も、相当にポテンシャルが高い重戦士なんですがねぇ、自分に向けてあまり自信が無い様で、その辺りはランドールの爪の垢でも煎じて飲んだ方が良いかもしれません。
「現在の四方騎士の事を調べて来て欲しいですね」
「あああああ、やっぱりそれ僕がやるんじゃん!ダメだよ!無理だってば!!」
なんとなく、察して恐れていた訳ですか。
「大丈夫だ、誰もお前が脱走兵のマースだとは思わんだろ、その鎧なら」
「でもでも!無所属の重鎧戦士が騎士駐屯基地をうろつくのなんて怪しすぎるでしょ!」
「何を言ってるんですが、そんな事をしたら流石にばれてしまうでしょう。貴方が行くのはエルエラーサ城です」
「は?」
地理的な事を補足しますと、首都エルエラーサには法王の住む城である西教神殿と、国王が住むエルエラーサ城が大体隣り合って建っています。しかし一応建物としては独立しており、互いの城は塀と堀で隔てられ、互いに背を向ける様に都市のど真ん中にあるとご想像ください。
先の、高官が消えた白磁通りはエルエラーサ城に続く、いわばエリート住宅街。これを囲んで守るように央軍という国王が指揮するディアス国の主戦力の指揮塔があり、テリーさんは昨晩これから睨まれた所囲みを破って逃げて来たと云う訳です。
この真逆の方向に西教というディアス国を建国した聖シュラードを神とする宗教の総本山があり、その聖地とされる廟などが集中して建つ区画があって……管理整備された杜などもある。それに寄り添う形で四方騎士が詰めている駐屯基地があります。
僕は一枚のチラシをマース君に渡しました。
「これは、そうか……兵役案内書……これを持ってエルエラーサ城に行くのなら確かに、僕のこの重鎧は目立たない」
ディアス国は割と定期的に軍人の募集をしている様です。一精順(一週間)に一度は採用試験が開かれており、働きに応じては央騎士見習いへの道も開けるとそのチラシには書いてありますね。一応は身分問わずだそうです。
「実際に試験は受けなくて良いのですよ。分かってますよね?」
「勿論、分かっているよ。追手が掛かってるのは四方騎士からだけど……北魔槍騎士団壊滅の事は色々尾ひれをついてるに違いないんだ。そこから事前に逃げていた僕は央軍でも御尋ね者には間違いないだろうし……そうか、北魔槍」
ようやくマース君も思い至ってくれたようですね。そうです、北魔槍の団長であるアービスは魔王八逆星であり、今はそれを脱退しようとして魔王軍からも、またディアス国からも離脱している。また北魔槍の騎士たちの殆どが魔王軍化され、黒い混沌の獣と化していたのをランドール側が撃退しています。
では、今四方騎士の一角を担う北魔槍騎士団はどうなっているのか?
現アービスは、第一次魔王討伐に向かった北魔槍騎士団長の代替として置かれた『作られた人物』です。あまり話したがりませんでしたが……弟が居る事を話してくれた下りで本来彼はコウリーリス国側にあるディアス国の植民地、マリアに住む小作人の息子だった事が分かっています。そんな人物が騎士団長などまともに務まる訳が無いのですが、最初から『飾り』として求められ、そのように『作られて』いる事をアービス本人も承知していました。
ディアス国側の意図はよく分かりませんが、四方騎士は穴が無い様に埋めておかなければいけない約束でもあるのでしょうかね?誰でも良いのなら魔王八逆星側に代役を求めない方が良いと思うのですが、あるいはお飾りとはいえそれなりに戦える人物を揃える必要性があるのかもしれません。
とにかく、必ず誰か、あるいは『何か』をそこに収めておかなければならないとするならば、また別の、新たな代替が北魔槍に収まっている可能性は高いでしょう。
「央軍側でも四方騎士の事は大方情報が掴めると思いますが、どうでしょう?大体の事で良いのです、多分どっちにしろ北魔槍側がまだ健在であるならば、殴り込みをかける必要性が出て来ると思いますので」
「うぇぇぇ……そうならない様な情報が在る事を祈るよ……」
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