異世界創造NOSYUYO トビラ

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番外編 EX EDITION

■番外編EX『戦いを捧げろ!』#12/10

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N&SinMFC シリーズ番外編『戦いを捧げろ!』#12/10

※同世界設定同士の物語登場人物による、
 俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め
 ファイナル

「……甘い……な」
 GMは呟き、両手に力を込める。
 とはいえ石壁3枚破って刺さりこんでいる黒剣を抜くのは容易ではないのだが。


 GMが今取っている体勢的に、彼が今の状態から自力で抜け出すのは難しいだろう。
「勝敗は、ついたな」
 ダァクが舞台を降りたのを確認しトリスは言ったが……レッド、さてそれはどうでしょうと……何やらぎらぎらした目でGMを見続けている。
 トリスはため息をついてようするに何が問題なのか解説。
「確かに、戦う闘志は折れていないというのは認めるが、明らかに勝敗はついた。ダァクにその意思があれば彼の首は落ちている」
 慈悲を垂れたのだ。勝者が舞台を降りた以上、GMはそれに生かされた事になる。
「ええ、儀式の上ではね」
 びしり、という低い音にルインは目を見張り、顔を上げる。オービットが舞台に体を乗り出した。
「げ、石壁に亀裂が入ったぞ!」
 びし、びし、という非常に嫌な音が続き、亀裂は……黒剣に貼り付けにされたGMを中心に広がり続ける。隙間なく組まれている石の舞台に歪みが生じ……
「……揺れて……ないか?」
 オービットの言葉にルイン、明らかに舞台そのものが小刻みに揺れ始めたのを察して司会と解説に勢いよく振り返る。
「おい、ちょっと!なんかヤバそうだぞ!?」
「地震では、なさそうだな」
「どうやらGMを中心に舞台が、崩れ始めたようです」
 ……全く動じていない2人、むしろ悪のりしはじめた気配に額を押さえる。
 それでも仕事は忘れていない。
「冷静に言ってるんじゃねぇよ!おい、これブレイズの時や俺が魔法ぶっぱなした時よりヤベぇんじゃねぇのかッ!?」
「さぁて、何が始まるんでしょう。揺れています、舞台が不気味に揺れております!」
 揺れはだんだん大きくなる。
 何事かと、舞台裏にいた者達が袖に集まり始めた。
「観客の皆さん、危険ですので速やかにGMとは反対側方向に避難ください~」
「いいからもう舞台を開放して、逃げろと伝えろよ!でなきゃあいつをどうにかしろ!」


 亀裂は今大きく広がり、広がっている理由が明らかになりつつあった。
 GMは背後の石壁をいくつか崩しようやく自分の首を絞めていた剣を引き抜き……それと同時に白っぽいものが思いっきり壁をぶち破る。
 亀裂を押し広げているのは何なのか、オービットは険しい表情で確認して叫ぶ。
「木の根、だ!やっぱり、だからハイドロウはこの場から逃げたな!」 
「何?……まさか」
 事態をようやく察したルインは表情を曇らせた。
 真剣だ、ふざけている場合ではない。
「待てよ、なんであいつがそれを発動させる?」
「そもそもオービットさんはなぜ、あれが彼に備わる『切り札』と知っていたんでしょうかね」
 レッドの言葉にオービット、険しい表情のまま答えた。
「ま、伊達にファースの名前を貰ってるわけじゃない、ってトコだな。俺はちょっくら余計な事を知り過ぎているもんでね……って、ほっとくのかお二人とも」
 あくまで冷静に席につき続けている解説と司会にオービットは怪訝な表情を向ける。
「何言ってます、これからが本番じゃないですか」
 しれっと答える司会役。
「本番だとぅッ!?」
 お決まりにツッコむルイン。
 そして……オービットも状況を把握。
「あああぁ、なるほど!オーケー把握!」
 彼は一応肩書に軍師がついている。状況把握くらいは正確に出来る。
 把握できてしまう、とも言う。
「何だ?何が起きてるんだ!」


 GMは乱暴に自分を縛りつけていた黒剣を引き抜き、無造作に投げ捨てた。
 そして、険しい表情で戻ってきた対戦者にゆるやかに視線を合わせる。長い前髪の隙間から、際立って緑、いや黄緑により近い瞳が覗いているのがきっと見えるだろう。


 それを見下ろし、あくまで冷静に司会は状況を語るのだった。
「ラスボスは変態して二戦目があるのが、お約束」
「暴走バージョンアップキター!!!」
 一転、好奇の叫びをあげるオービットをルインは例によってスリッパで殴った。
「キター!じゃねーだろ!ヤベーだろあれ、明らかにえ……モがッ」
「ルイン、それは色々都合があるから言うべきではない」
 トリスはルインの口を強引に塞ぎ、彼から睨まれながらも適切に状況を解説する。
「いわゆる、これが『彼』が持っている『裏ワザ』と言えるだろう。どうにも生まれた時から備えている……いうなれば、かさぶたの下、だろうな」
 知りうる最大限の比喩を使ってトリスは言った。
 そんな彼はルインと同じく、今発現しているものが『何』であるのかは知っている。知っているが、レッド達の時代では失われているべきものであって『何』であるのかは伝承されていてはまずい事までをトリスは知っているのだ。
 ゆえにトビラ本編ではこれが何なのか、上の人が詳しい説話を入れるのを止めたくらいだ。
 いや、まぁページの都合もあるけれど。
「……あれは、絶対に使わないからな、とヤト君は宣言していたモノな訳だが。彼は遠慮なく使うというわけか」
「そもそも、ヤトは使おうとして使える訳ではないですし……使おうとするなら、」
 レッドはGMに向けて少し同情的な視線を投げてから言葉を続ける。
「あのように、全ての弱みを打ち捨てて孤独に無くてはいけません」
「なるほど、使わないと宣言したからこそこうやって、彼は『GM』としてお呼び立てされてしまった訳だな」


 *** *** ***


「……まだ続きをやろうっての?」
 ダァクは無言で誘われているのを察し、いたしかたなくもはや原型のない舞台の上へゆっくり歩み出す。
 投げ出されていた黒剣を拾い上げた。
「ディフレクトは折れたしなぁ、」
 とはいえ、剣としては機能しないがディフレクトは使える。そこはあえて隠すように工作しながら……不気味に突っ立っている男の前に立つ。
 口を力なく開いてGMはこともなげに言った。
「悪いがあんた、死んでくれ」
 そこに、明らかな殺意を感じてダァクは目を細めた。
「……何か機嫌そこねちゃったのかしらね」
 しかし何が悪かったかという理屈は答えず、GMが問答無用で躍りかかってくる。
 ダァクは一瞬項垂れた。
 求めていた勝敗はついたのではないのか?それとも、上の解説席の奴らが無遠慮に言ったようにこれが『本番』なのだろうか?
 今目の前にいるのが、どうにも手に負えない部類の正真正銘『怪物』である事は察していた。
 そもそもディフレクトは怪物か、同等の力に対し振るわれるべきもの。
 これが本性だというのなら……また勝負はついたとはいえないのだろうか。

 しかし、この延長戦に応えるのは命を投げるに等しい行為だ。
 この戦い、受けなきゃいけないものか……と、仕方がなく顔を上げる。

「……ほんと、ティナがここにいなくて良かった」

 剣を打ち合わせる、ところがあまりにもあっけなくダァクはその一撃に吹き飛ばされ、歪んだ床に投げ出され転がってなんとか立ちあがった。
 迫りくる次の一撃は受けるのをやめて避けた。
 GMの無造作な一撃が地面をえぐり、ありえない具合に陥没させる。
「おいおい、なんだそれは!」
 剣が無造作に横に走る。
 ただそれだけで壁に亀裂が走ってその後、煙を上げて粉砕されて崩れ去った。
 見えない力にGMの長い前髪が乱れる。挙動一つ一つに破壊の衝撃が伴い、舞台に見えない力の嵐が巻き起こりつつある。
 ダァク、ここは出し惜しみをしている場合ではない……と、刃が折れてすでに無いディフレクトの柄を構えた。ディフレクトの本体はこっちである。
 ここさえ残っていれば魔法『ディフレクト』は発動するのだ。
 迫りくる見えない脅威をそれで弾き飛ばした。
 無遠慮な破壊はそのままGMに返るはずなのだが……それを上回る破壊で返って来た攻撃をねじ伏せた、その衝撃は目には見えないが、そうとしか考えられない。

 気配だけで分かる、横から掬いあげられるような感覚から逃げて気がつけば壁際まで追い詰められている。
 覆いかぶさってくる攻撃をディフレクトで逸らす。
 ダァク近辺を除いて闘技場の分厚い石壁が吹き飛んだ。
 その破壊の規模に……闘っているのが自分一人でよかったとダァクは心底思った。
 他に庇わなければいけないものがあったら確実に手が回らない。

 自分の身を守るに精一杯でもちろん、攻撃に転じる隙もあったもんではない。
 カウンターさえ無力化されては打つ手もない。

 ……どうしろというのだ。

 
「……俺が使った魔法そのものだ」
 ルインが小さく呟く。
 俗に、正体不明の衝撃波と呼ばれる北神祈願系の特殊魔法。物理による相対干渉作用が確認されないにも関わらず物体を木端微塵に破壊する力である。
 レイズ系、と呼ばれ魔導書『青の霹靂書』にも記載され、ある程度の体系化がされているが魔導師には扱う事が難しい魔法だと、霹靂書の原本筆者であったりもするトリスが解説した通りである。
「おい、あいつは魔法なんぞ使えねぇんじゃなかったのかよ?」
 ルインの問いにレッドは冷静に答えた。
「ええ、彼は魔法は使いません。使わないという『主義』なのです。誓いにも近いでしょう。多大な素質を抱えながらその『主義』にて蓋をしている……その蓋の下に何があるのか彼は知らないし知ろうとも思っていない。知ってはいけないのでしょう。知ってしまえばこうなってしまう、貴方はご存知の様ですけれど」
 その言葉にルインは舌打ちし、先ほどまで隣に座っていたハイドロウがこの場を逃げ出した理由を遅ればせながら悟った。
「破壊衝動か、あのクソ厄介なもんはお前の時代まで残ってるのかよ」
「……みたいですね」
「止めないのかよ!?」
「止められるものであれば」
 達観したようなレッドの言葉にルインは強くテーブルを叩く。
 そして立ち上がり、席を外そうとしたのをオービットが慌てて止めた。
「何、どこいくのさ!逃げんの?」
 即座オービットは殴られた。そうなる結果くらい彼は分かっているだろうに、流石チキン軍師と呼ばれているだけはある。動作的には限りなく某人と同じバカ仕様だな……と、トリスはちょっと関心気味に思うのだった。
「バカか!お前も来い、ハイドロウを探して来るんだ!奴じゃねぇとこれ止められねぇだろ!」
 トリスは冷静に、……闘って追い詰められているのがダァクだから冷淡な態度であったりするのだが、ハイドロウを探しに行こうとした2人を言葉で止める。
「ルイン、お前はハイドロウと同じ始祖魔法使いだろう」
 舌打ちして振り返りルインは吐き捨てる。
「ああ、俺に言わせるのか!?」
 トリスが何を言いたいのか、何を望まれているのか分かって悪態を突く。
「確かに俺は始祖の一人だがご存知の通り、この俺の名前にある通りだ!俺はあいつと同じで破壊しか与えられない不器用な奴なんだよ!攻撃特化だ、止められるとするなら手段は限られている。俺に出来るのはあいつにトドメを刺す事だけだ!」
「それでいいのかもしれませんよ」
 レッドの言葉にルイン、止める間も無く……もっともここでは止める人は誰もいないのだが……レッドの胸倉をつかみ上げる。
「お前でどうにか出来ないのに俺に始末を押しつけんのかよ!?」
「そうです」
 レッドは冷静に視線だけで頷いた。
「貴方にお願いします、貴方は彼がどうしてこうなるのか、その理由までご存じだとお聞きしました」
「誰からだよ」
「あ、俺から?」
 隣でオービットが手を挙げたのを即座ルインは殴った。勿論魔法的攻撃手段スリッパで。
「お前もほいほい人の都合を他人にしゃべるんじゃねぇ!」
「いいじゃないか、減るもんじゃないだろ?ラスボスの仕様と対策って尋ねられたから答えただけじゃん」
「俺の精神力がすり減ってんだよバァカ!あと、ラスボス言うなボケ!」
 もっかいスリッパで殴られてオービット、ちょっと半泣き。
「そんなポカポカ殴るなよ!俺の頭、商売道具なんだからな!」
「うるせぇ、じゃ何か!お前ら最初っから俺を……」
 怒りの矛先、すなわちスリッパを高く掲げてレッドに向き直ったルインに、司会はあくまで冷静に言った。
「そうです、貴方に最後に見せ場をご用意しようかとサプライズしたんですけどね」

 ルイン、そこで怒りの勢いが止まる。

 この勝負……レッドの勝ちだな、とトリスはこっそり苦笑いを浮かべた。

「……なら、最初からそう言え」
 くるりと方向を変えてルイン、司会・解説席を軽々と飛び越えてすでに人のいない観客席に着地、そのままさらに壁を飛び越えた。
 元々のジョブが盗賊、身のこなしは人が思っているよりも軽い。
「うぉらああああ!」


 吹き荒れる破壊の衝撃に、なすすべもなく舞台袖に押し込められている戦士一同は見た。
 同じく一方的な攻撃に、すでに地面に伏して辛うじて息を潜めているダァクも天を仰ぐ。

 大雑把に振り上げた拳とともに同じく、破壊の衝撃をともないながら舞台に踊りこんできた攻撃特化魔法使いの姿を。

 力を力で強引に相殺し、その所為で舞台を形作っていた石壁の一部が砂になるまで破壊され空へと吹き飛ぶ。
 それはどっかで見た事がある現象だ、と……袖で額を抑えている約一名。
 それが割とトラウマなのであんまり見たくないらしい。

「加勢してやるぜ、立てるかお前」
 ルインから声を掛けられ、すでに破壊の方向性が失われていた所為でダァク、特に致命的なダメージは無いと主張するように地に這っていた所立ちあがる。
 ところが力があまり入らない。
 よろめきそうになった所なんとか剣を杖にして体勢を維持した。
「ひどい攻撃だ、晒されているだけで体力を奪うっての?」
 そんなもあるのかと、元来魔法の種類に精通しているわけではないダァクはぼやく。
「そういう理屈を超えた『破壊』なんだよ、全く……振り回されてるだけじゃねぇか」
 打ち消された力にやや驚き、手を止めていたGMをルインは睨みつける。


 *** *** ***


「これは楽しい事になってまいりました」
 殴られる心配を解消したオービット、レッドに代わって実況を始める。

 頼まれたからだ、頼まれたからにはやらないとだよね?という事で……無言でマイクを渡され彼は軍師という肩書の都合全てを把握したのである。

「ここにきて全員での共同戦線が勃発!闘いの結末は今、友情の名の元に美しく結束を結ぼうとしています!」
 胡散臭い実況にトリス、呆れ気味にこっそり問う。
「……レッド、あいつにマイク渡してよかったのか」
「もちろんです。僕あんなおバカな実況出来ませんから」
 レッドのその言葉はオービットに聞こえていない訳ではない。
 しかし彼の実況は止まらないのであった。なぜならば、オービットにとってバカはある意味褒め言葉に匹敵する都合による。レッドは巧妙にもチキン軍師のやる気を煽っているのだ。
「闘技場に突如現れた破壊神、もはやこれは儀式の形状を成しておりませんむしろ、汚しています!破壊しております!流石は破壊神様です!」
「褒めるか貶すかどっちかにしたらどうだ」
 トリス、いたしかたなく突っ込み業を受け持つ事に。
「人外パワーの持ち込みはフェアじゃありません!これは汚い、そこまでして勝ちたいのかGM!……っとぅ、怒った?!怒ったかもしれない!」
 確かに、GMが何やら吠えている様子が見える。
 その前に舞台が壊れる音とオービットの実況解説の方がうるさくて何を言っているのか分からない。
 いや、トリスとレッドは魔法『遠聴』で把握しているのだが少なくとも魔法使いではないオービットには聞こえていないのだ。

 ま、どっちでもいいだろ。
 魔導師2人はそのように思いフォローを投げた。


 GMが武器を構え、前に踏み出しそれと同時に彼の足もとが膨らみ、爆発する。
 勢いよく飛び出した木の根がダァクの元に集い加勢を決めた一同に叩きつけられる。

「問答無用の一撃を、おおっとぉ!流石時空列を飛び越えて集った強者の皆さん、それぞれに叩き落とし避けては破壊して押し返す、押し返す!!」
 ブレイズによるフレイアのひと振りが迫りくる木の腕を灰に変え、伴う衝撃をルインが相殺。それでも伸びてくる鋭い枝をバンクルドの剣のひと振りと、テリーの衝撃波が吹き飛ばす。

「……もしかして全部これで進めるつもり何だろうか……」
 トリス、都合上カメラと呼んでいる『視点』がここから動かない事に気がついて不審に呟いた。
「隙間を縫って、飛び出したのはヤト氏だ!リベンジか!リベンジなのか!その後をアベルとクリスが追いかける、再び襲いかかった破壊の腕をヤトは綺麗に避けた!流石危険感知特化!後二人は力任せに吹っ飛ばすゥー!」

 そして、突きだされた剣の切っ先がGMの胸に届いた。
 なぜならそれを阻もうとしたGMの右腕および剣は、ダァクが再び投げつけた黒剣に今度こそ撃ち抜かれているからだ。そして左腕は席を外していた『ダーク』の方が、場外から乱入し咄嗟に掴んでいた。
 白い人食い鬼が、ヤトの右肩から首に差し入れられようとしていたGMの攻撃をを止めている。
 だからこそヤトが突き入れたサガラの剣がGMに届いている。

「ありがとよ!」
 ヤトは最後の最後で戻って来て加勢してくれたダークに向けてそのように言ったのが魔導師2人には確認できている。それにダークは無言で、加勢するように命じた人物……
 すでに多くが逃げ去った舞台でつまらなそうに頬杖ついているハイドロウを窺っている。

 枝が伸びる。

 蔦のように撓る破壊の腕がGMの背後、あるいは足元から吹き出し襲いかかろうとしたのを追いついた、アベルとクリスが再び力任せに吹き飛ばした。

「素晴らしい連携!」
 興奮してオービットは今や机に足を片方掛けて身を乗り出していた。
「届いた剣先が今、緩やかに、胸を突き刺したァ!」
 握りこぶしを固めて実況するオービット。
「ああ、なるほど」
 トリスは黙って戦いを見守っていたレッドを見やった。
「こうでもしないと、とてつもないシリアス展開になってしまうからか」

 そこまでしてコメディにしなくてもいいんじゃないか、というツッコミは……入れるべき人が参戦していないので入らない。

 レッド、張り出した根を枯らし倒れたGMを見やって目を閉じて穏やかに笑いながら答えた。
「何度も倒されてしまう彼にはごくろうさまですと、一つ労いの言葉を掛けておきましょう。お疲れ様です。我らが……」
 言葉に一瞬迷い、そうした上で定めて続ける。
「……我らが王よ。お約束展開にお付き合いいただいた事誠に、恐縮です」




「あー、すっきりした」
 と、言っているのは……すでに事切れ寸前のGMである。
 胸に剣が突き刺さっているので明らかに、死ぬだろう。流石に本編程にしぶとくは無い。
 その口調、態度に一同ややあきれ顔を返した。
 非常にさっぱりとした表情で笑って、口からは例外なく血を噴き出しながらGMは集まってきた戦士達に言ってやった。
「あのなー、せっかく俺が大嫌いなお約束で出てきてやってんだから。なんで俺が茶番打たなきゃいけねぇんだよ。空気読めよバーカ」
 ダァク、額に手を当てて笑いを堪える。
「……それ言わないでシリアスに〆るつもりは無い、わけね」
「あるかよそんなの、冗談じゃねぇ、本編で終わってんだよそんなの。これ蛇足だろうが、ここまできてやってられるか」
 その様子に逆に怒ったアベルをヤトとテリーは止めた。
「お遊びとは言え、お前の仕様はシャレになんねぇんだよ。俺に……いや俺らにとってはな」
 そういってルインはどこに行っていたのか、最後の最後で戻ってきた無言の食人鬼を隣に窺いながらGMを睨む。ダークは小さく傾ぎ、確かにあまり遭遇したい事ではないと同意を示した。
 なんだかやけっぱちなGMの態度にヤトは深くため息を漏らし、アベルをテリーに任せた上でもう一度、一番見たくない自分と対面する事にする。
「で、お前は何しに来たのだ」
「……言われないと分からんお前の為に、しかたがねぇから言ってやる」
 自分の事はもちろん良く分かっている、GMは少し笑って……すでに右腕は機能しない、左腕はダークに抑えられたままで動かせない。その為体だけを強引に前に乗り出してヤトを下から睨み上げる。

「俺を『無かった事』にしたところでお前は、これを『無かった事』にしたわけじゃねぇんだからな?」

 ヤト、GMを睨み返すのをやめて目を閉じて小さくため息を漏らした。

「ああ、分かっている」

「覚えてろ、忘れるな、忘れたお前を食い破ったってしょうがねぇんだからな!」
 非常にサディスティックな表情を浮かべて言い捨てて……GMは力無く項垂れた。
 それを見下ろしもう一度ため息をつき、頭を掻いてヤトは振り返る。
「……なんか、どっかで見た事があるようなやりとりだったような?」

 ※解説※
 さてどこでだろう?誰と誰だったかなー?

「何かお前さん、二重人格だとか?」
 今いる自分と『中の自分』。
 そういう奇妙な認識を持つ者達は、ダァクの言葉に苦笑いを浮かべた。ダァクが言葉を向けたヤトだけではなく、苦笑いを零してしまう人物はここに、少なからず揃っている。
 俺と『俺』が必ずしも同じではない都合、ある意味二重人格も間違いではない。
「似たようなものかしらね」
 アベルはため息を漏らしダァクに答えた。
「しっかし、ここで釘刺されてもしょうがないだろうが。ここ、蛇足だしその前に番外編なんだから。このログどっちにも持ってけねぇだろ」
 現実的な事をぼやくテリーに、ブレイズが静かに言う。
「だからこそ余計に展開したんじゃないのかな」
 余計に、ね……と一同納得させられた気分で深いため息を漏らす。
「全く、趣味が悪いぜ」
 ルインは頭の後ろで手を組んでボロボロで、もはや観客もほとんど残っていない闘技場を見渡した。
「今度こそお開き、だな」
 解説席の3人が能天気に手を振っているのを見つけて睨んでやった。
「……帰りたい」
 ティナの所に帰りたい。
 ……クリスは遠慮なく小さな弱音を吐く。
 そんな彼の保護者は苦笑い、このとんでもない戦いに巻き込まれた事に同情し、帰ろうかと肩を叩くのだった。


 *** *** ***


 砕けてしまったディフレクトの刃を柄から落とし捨てて、ディフレクト本体と言えるものを握りダァクはまじまじと見つめている。
「ちぇ、また壊れたのかよ」
 声に驚いて振り返る。
 それが誰なのかは分かってはいるが、姿を確認してダァクは苦笑いを零した。

 剣を肩に担いだバンクルドが立っている。

「何よ、もしかしてまだリベンジ目論んでた訳?」
 バンクルドはダァクと、リンクスレイヤーであるダァクとの戦いを望んでいた。
 しかし、彼らの居るべき世界のおいて、黒剣を手にしたダァクに向けてはそれが……叶わなくなったのだ。
 この世界なら望みが歪でも叶うかと思っていたのかもしれない……と、再びダァクはディフレクトの柄に視線を落とす。
 挨拶したって何したって、属する世界に戻ってしまったらここでの話は無しになる。
 分かっている。
 別れを惜しむ訳ではない。
 別れを惜しむなら何よりも……この相棒に向けてだとダァクは一人、破壊された闘技場に残っていたのだった。

「もう、あっちじゃ影も形もないからね」
「なんだよ、まだ依存してんじゃねぇか」
「ディフレクトがある限り俺の、こいつに向ける依存だって生きているわよ」
 バンクルドが不意に担いでいた剣を構えた。
「しけた顔してんじゃねぇぞ」
「うーん、そんなしけてる顔?」
 苦笑して顔をあげ、不器用な永久の好敵手に振り返る。
「この際ディフレクトにはこだわらねぇ、ついでだ。もう一戦ここで、遊んでいかねぇか?」
「……そこまでして俺にこだわる必要はないだろう?なんで俺がGMと戦うハメになったのよ。アンタでもよかったんじゃないのか?」
「俺の見る限り剣士じゃ間違いなくお前が一番強い」
 バンクルドが断言し、剣を突き差してなお言う。
「ヤトって野郎もまぁ、そこそこだがあいつは……見ての通り強さが分離してやがる」
「……まあ、ね」
 分離した強さが独立し、GMとして現れていた……そういう理屈をこのバンクルドも理解しているのか。理論理屈で分かってるわけじゃない、ただ戦いを好むに匂いだけでそのように判別したのかもしれない。
 そのようにダァクは思う。
「対しお前は一つにまとまっている。過去を切り離さなかった、暗闇として背負っただろう」
「無かった事には出来ないからねぇ……彼も言ってた通りだ」
 無造作に、左手にあった剣の柄を投げ捨てた。
 石畳に金属の転がる音がして、それにダァクは踵を返す。
 そして黒剣を抜いて構える。
「ここで勝敗ついてもそれは意味は無いのだし。ここなら誰も邪魔はしない。それでもアンタは構わないのね?」
 バンクルド、心底嬉しそうな顔で頷いた。
 なまじ顔だけは綺麗な分、こうやって笑うと年齢不詳も相まって無邪気な少年のようだ。
「そういうこった、おもいっきりきやがれ」
 その眩しすぎる微笑みにダァクは笑い返す。

 殺すか、殺されるか。そういうレベルでの戦いもこの舞台の上、許されている。
 自らに呆れ天を仰ぎ、決して許される事は無い戦いを諦めきれない自分の気持ちを呟いた。

「ティナ、やっぱり俺も戦いバカの一人だ」


 ***  終 ***
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