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番外編 EX EDITION

■番外編EX『戦いを捧げろ!』#11/10

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N&SinMFC シリーズ番外編『戦いを捧げろ!』#11/10

※同世界設定同士の物語登場人物による、
 俗に言うパラレルの様なそうでもないような番外編です やや長め

「おやおやぁ?分母数からはみ出してますよ?なんでしょう、バグでしょうか」
「惚けるなよ、こういうのは お や く そ く って言うんだろ?」
「むしろ、上の人の仕様とも言う。必ず最後は一つ余計にやる。鉄則だ」

 ……鉄って程じゃないんだけどな☆

「白い星飛ばしたってダメですよ、もうバレバレなんですから」
 はいはい、わかってますって。開き直っていきましょう。

 さぁ、始まりますよ蛇足シリーズ。
 ついに蛇足シリーズが文章になった!

「いや、蛇足クオリティはいつもこのノリだろう。変わりは無いと思うがな」
 トリスが苦笑を洩らす隣でハイドロウが呆れのため息を漏らし片肘をついている。
「僕はまだコレに付き合わないとなのか?」
「嫌なら退席されても良いですが、強要は致しません」
「まぁそう言うなよ、お前がいないとこいつら果てしなくボケ倒しちまうだろ?」

 そこに現れたもう一人の声。
 そう、解説席にも蛇足が一人。
 司会レッド、解説トリス、ゲストハイドロウ、ツッコミルインの背後に立っていたのは……前髪を立たせたちょっとグリグリな眼鏡の青年。

「ダークまで出しといて俺が出ないのはさ、俺が腑に落ちないじゃん!」
 カメラ目線になって青年、笑って勝手に自己紹介。
「天然領主ブレイズの片腕、オービット・ファース見参ッ!強引に乱入させてもらうぜ!」
 それを見て、いたって冷めた目でハイドロウは言った。
「あー、β版ってそっちのビジュアルなんだ」
 
 ※解説※
 そっち、というのは第四期バージョンという意味である

「だって、そうしないと判別が付けにくいんだろ」

 ※解説※
 オービットの中の人のビジュアルはどこまでも某チキン勇者と同じである
 茶髪の爆発頭。趣味も同じくゲームオタクですが、オービットの中の人の方がよりオタクで頭がバカな方向性に向けてすごく良いです。

「そうか?だってこれ小説だぞ?」
 ビジュアル関係ねーじゃん、というもっともなツッコミをルインは入れた。
 もちろんハイドロウはそういう都合含めどーでもいい事として尋ねたのだ。
 が、ふとレッドは……思い出したように眉をひそめる。
「それ言ったらブレイズさんだってウチのトコ(トビラ)の爆裂勇者と全く同じなんですけどね」
「いや、あいつら性格が全然違うから雰囲気で別と分かるだろう。ところがコイツはそうはいかねぇんだ」
 らしいねー、上の人いい加減すぎじゃんーとか笑っているオービット。
 初顔合わせとなるトリスは話の前後からこの人がその『ヤト氏に軍師という肩書をつけたような人』なのだろうと納得して頷いた。
「では、今後はここで5人でわいわいやるつもりか。流石にそれではメインコンテンツを完全に食ってしまうのではないかと思うがね」
「いんじゃねー?どーせお遊び番外編じゃん。俺も混ぜろ!混ぜてくんなきゃやだ!」
「椅子を置くスペースが無いな、立ってろオービット」
「なんだってルイ君。俺に立ってろ?俺君の上官だよね?4期とβ版的に」
「うるせー、SF本編ではどこまでも俺がリーダーだろうが。あと、お前一番若いんだからな。おじちゃんおばちゃんに席を譲れ若い人」
「何言ってんの。大した歳の差じゃないのに」
 いや、実はここでは大した歳の差なのだ。
 外見はともかく中身が完全におじちゃん通り越してジジイであるトリスは苦笑いし、同じくリアルの倍数歳をとっているレッドは眼鏡のブリッジを押し上げちょっと不機嫌な表情を隠した。
「デスクワークの人に肉体労働強いるのかよ?」
「体力成績はぶっちゃけお前より下だぞ俺?」
 二人の不毛な言い争いにハイドロウ、深くため息。
「ならちょうどいい、僕はここで退席しよう」
 立ち上がったハイドロウに、トリスは目を瞬かせる。
「いいのか?」
「もちろんいいよ、ぶっちゃけこれでもう終わりだろ?ダークと一緒に外で待ってる事にする。お前らのノリにもう付いて行きたくない僕の気持も汲んでくれ」
「いいのか?」
 続けてトリス、その奥に座るルインに問いかけた。
「あ?なんで同じ事を俺に聞く?」
 邪険に睨み返されたがトリス、いたって真面目に続けた。
「ツッコミはもはや君だけの仕事になるだろう。大変な負担となるぞ?」
 うんうん、とレッドが頷いている。

 どこまでもボケ倒してやろうという真っ黒い悪意でいっぱいだ。

 ……いやぁ、それってそんな真顔で問う事なのかなぁとオービットは思ったが、楽しい状況最優先のオービットは黙ってルインの応答を待つ事に。
「オールツッコミ要因をなめんなよ?」
 不敵に笑って斜に構えるルイン。
「素晴らしい覚悟です。流石は攻撃特化」
「何しろ覚悟だけが取り柄の人だからね、この人。」
「そいつぁ、誰のおかげだと思っているッ!」
 オービット相手だと突っ込みと一緒にスリッパも飛ぶのだ。
 どっから出したスリッパだと思われるだろうがこれは、攻撃特化魔法使いが魔法的に取りだした魔法的ツッコミ道具と心得ていただきたい。
 ルインの手に、現れべくして現れたものである。

 スパーン、といういい音が……会場に響き渡った。


 その音を、青空を眺めていた男は目を閉じて聞き入っている。


「響くな」

 男が目を閉じた事を多くは知らないだろう。
 何しろ前髪が長すぎて顔が見事に覆い隠されている。
 視界が遮られて邪魔だろうにそのスタイルを貫く。
 果てに、男は視界をふさがれても戦えるという特色を備えるに至る。

 ※解説※
 ついでに目に傷を負ったりしてもその事情が分かりにくい事も起因している

「再びここに立つ事になるとは」

 しかも、この姿で。

 両手に枷を嵌め、鎖を引きずった男が……遅れ出てきた対戦者に振り返った。
「どこ行ったのかと思ったら」
「ああ、懐かしくてな」


「と、僕らがいつもの漫才を繰り広げている間に今回の、蛇足対戦者が舞台上に出そろったようです」
「俺の仕事か」
 どうやら詳しい描写を避けたな?とやや空を見やってトリスは顎に手をやる。
「エクストラだからろくに資料がそろっていないんだがな。とりあえず分かるところから解説するなら……今遅れ出てきたのは……ふむ、怪我全部直してもらったみたいだな。剣3本を帯びているダァク・S・バメルダだ」
 先の最終決戦で右腕をテリーに壊されたはずだが、今問題なく右手に鞘におさめたディフレクトを握っている。
 他、受けていたはずの細かい傷なども見当たらない。
「という事は、最終戦の結果は彼が勝ち残ったって事か?そんでオマケ対戦付きだとか」
 オービットの言葉にどうだろう、とトリスは腕を組む。
「あれはその後どう転んでもおかしくない状態だったからな」
「ええ、単純に『彼』とテリーさんとの対戦はすでに4回あったので今回はやらなくてもいいだろう、的配慮と思われます」
 トリス、腕を組んだまま司会を振り返った。
「アレに関してはお前の方から解説した方がいいんじゃないのか」
「いえいえ、僕さっぱり彼の事なんか知りませんし。テリーさん達から噂で漏れ聞いただけです」
 限りなく黒い笑みでにこやかに返答され、トリスはまぁいいかとため息を漏らした。
「……資料が少ない、どうにも意図的に抹消されたかあるいは……すでに不要なものとして処分されたか。とにかく辛うじて提出された資料にはこのように書かれている」
 前髪が長く、顔の表情のうかがえない東方人の男をトリスは見下ろす。
「彼の名前はグリーン・モンスター。その頭文字をとって一般的にはGM、と呼ばれている。数年前エズで罪人として処刑された、驚異の戦歴を持つエトオノ所属だった剣闘士だそうだ」
「訳アリの匂いがプンプンだな」
「もとからそうではあるけれど、完全ッに時空列飛び越えてやってきたわけだ」
 ルインとオービットの言葉にレッド、わざとらしい爽やかな笑みを浮かべて答えた。
「それどころかちょっと別次元方向から引っ張ってきた気配もします。資料による所彼は享年20歳前後であるべきですから」
「あー、確かにちょっとその年齢には見えないなぁ」
 過去から集ったにとどまらず、並行『可能性』世界から呼び込まれてしまった可能性もあるという事か……と、オービット顎をさすりながら分厚い眼鏡の奥の目を細める。
「しかもなんか……」
「なんか、なんだ?」
 言葉をそこで止めて黙り込んだオービットにルインは続きを促したが、オービットはそこで黙りこみ何かを険しい表情で考え始めた。
「なんなんだよ」
「いや、な。どうしてハイドロウがここから退席したのかなぁと思って」
 なんでここでハイドロウの話になるのか、ルイン首をかしげてオービットのおでこを叩いた。
「それが何だ?あいつは俺達……というより、お前らのアホ話につきあうのが嫌だから退席したんだろ」
 おでこを叩かれ、怪訝な表情をルインに投げながらオービットはため息をついた。
「それだけならいいんだけどねぇ……」


 *** *** ***


 そんな解説席の会話と同時、下ではこれからのオマケ対戦に向けた事前確認が行われていた。ダァクはディフレクトを鞘に入れたまま手に持ち、構える前に話しかけた。
「で、謎の剣闘士GMさんと戦って来い言われてきた俺ですけど。……お前さんがGMで間違いないのね」
「GMか、まぁ、ここではそのように呼ばれてしまうのは仕方がない事だろうな」
「……嫌なら本名を名乗るべきね」
「そういうお前はどうなんだ?ダァクというのは……本名か」
 問われ、ダァクは苦笑を洩らした。
「真実の名前とは何を指して言うのかと、お前さんは俺にそう問いたい訳だ。……ディフレクトと共に黒剣を握る俺はそれに答える事が出来る。真実の名は、俺をこの世に出現せしめた人がつけてくれた名前だと俺は、思っているね」
「…………」
 GMは口を閉じて沈黙を返す。
 対するダァク、常にこのセリフを誰にでも言える訳ではない。
 本編においては相当に後半、黒剣を代替えとしてその手に握る事になった時初めて、そのような考えを胸を張って言えるようになるのだ。
「そうと分からないかもしれない。だが確実にあった、無償の愛。その絆の元に与えられた名前が真実でしょ。俺にとってそれは確かにダァクじゃない。俺の名前はシン・バメルダが正しい」
 けど、俺ははじめから本名含めて名乗ってるからな、とダァクは笑う。
「ダァク・S・バメルダ、紛れもない俺の名前よ。リンクスレイヤーなんて肩書もすでに俺には無い状態、俺は俺の意志で左曰く剣を折る。ディフレクトの因縁に引きずられる事もない。そしてあんたは……俺に、ディフレクトをただの道具として使って闘うに見合う相手だと聞いているわ。だからここにもう一度上がったのよ」
 決勝戦に近いかそれ以上、ティナ嬢の手前あまり見せる事がない非常に好戦的な表情を浮かべダァクは、左手でディフレクトを鞘から抜き放つ。
「俺の本気を受けるに上等と聞いているわよ、怪物さん」

 『怪物』……ダァクの時代においてもその後の第八期においても価値観は同じだ。

 この世界にありえない、あるいは相応しくないという意味での生命体に向ける最大級の『褒め言葉』に当たる。

 だが、その挑発はやはり不発だ。
「……聞きあきた」
 GMは小さく漏らし、首を回して……腰に帯びていた短い闘剣の柄に手を遣る。
「それで俺を挑発したつもりか?」
 確かに挑発行為だった。ダァクがそれをしなければいけない理由がある。

 GMは両手でそれぞれの柄を握ってゆるやかに、抜き身の鋼の棒を構える。
 短めで、頑丈な剣闘士の為の鋼の鈍器、グラディウスと分類される一番低ランクのカタナだ。現文明においては殴りつける武器寄りで、切断能力は一応ある、程度である。

「闘いを望まれ、血を望むなら存分に与えてやろう……イシュタルト」
 イシュタル国、および特にエズで信仰されている独自の神、闘技の女神にGMは呟き構えた双剣を胸の前で交差させる。
 その後ゆっくりと身構えた。
 しかし……纏う雰囲気は変化しない。
「……あんたは戦いたくないの?」
 ダァクはディフレクトを左に、右に黒剣を抜いて同じく双剣のスタイルを取って身構えながら問いかけていた。
「なんでそう思う」
「戦おう、という気迫が薄い。そもそも俺が戦った『彼』からしてそうだったからねぇ。出来るなら戦いを忌避しようとしていた」
「アンタからそれを言われたくは無いな。今でこそそうやって闘う気満々だがアンタは、『俺』に向かって本気は出さなかったし敵意も向けなかったじゃないか。なんで今はそれを俺に向ける?」
 ダァクは苦笑を返す。
 前髪で隠れているが……今、対峙するこのGMという男がすなわち、ヤト・ガザミである事くらいは気配でダァクには分かっているのだ。

 しかし先にダァクが戦ったあの、ヤトではない。

 それとは別の、何か根本的に違う……明らかに、怪物の気迫を持っている……別の何か。

「彼には悪いがあんたはどうにも、圧倒的に彼よりも強者だ。ちょっとばっかり俺も本気にならなきゃいけないと思わせるから、だね」

 戦いの火ぶたは瞬時、おとされた。

 お互いの右の武器が、左に構えられている『盾』に弾かれる。
 ディフレクトで反撃を返したのだが、返される事を分かっているGMは左の剣でダァクの黒剣を受け止めたまま。見えない斬撃だけの攻撃を避けた。
 GMはダァクの頭を狙っていた、頭を狙ったから頭を狙った攻撃が返ってくる事を承知していたように首を回すだけで避ける。
 そのわずかな動作に、結果待ちのダァクが気を取られているうちに……剣を打ち合わせている一点を重心として、GMの回し蹴りがダァクの首を狙う。
 間一髪ダァクは体をのけぞってこれを避け、強引に黒剣で相手の剣をはじき飛ばして背後に逃げる。
 GMは追いかけてくる、続けざまの連撃を器用にもダァク、黒剣とディフレクトではじく。ディフレクトを使う場合はもちろん魔法剣を発動させるのを忘れてはいない。
 とはいえディフレクトは元来受けた攻撃を『逸らす』が基本性能。
 自動的に相手に跳ね返す事は出来ない。いや、そういう魔法剣で無い方がよかったのだ。それではあまりにもネタが割れ過ぎている。
 時にそらすだけ、返さないという選択肢があるからこそダァクの剣は多様性を帯びている。
 逸らす作用には乱数が絡む。
 だがそれには確実に、自分に戻ってくるという数値は含まれていない。
 それだけはきっちりと無い事にする技量がダァクにはある。
 意図されていない斬撃が跳ね返り弾けるのがあわよくば、GMに当たればいいと思っていた訳だが……その考えがやや甘い事をダァクは思い知らされた。
 ダァクはあっという間に背後の壁際まで追い詰められ、そこでようやくGMは追い詰めるのをやめた。
 ここまで何回打ち合ったか数は数えられない。その全てをダァクは全てはじいたが、その半数をディフレクトでGMに戻してやったはずだ。それなのに、GMは一切攻撃を受けた気配がない。

 両手の剣で隙無く攻撃をし続けておいて一方で自分に当たる驚異を全部躱したという事だ。

 あるいは、ディフレクトによる乱数反撃が全て外れたか、だ。

 どっちにしろ『返される』という危険性の中遠慮なく前に突っ込んでくるその度胸にダァクは呆れた。

 そういえばテリーから聞いていた……と、ダァクは呆れの籠った苦笑いを浮かべる。

 この『男』の真骨頂は逃げる事だ、と。
 危機回避能力が異常発達していて、生き残る能力に掛けてが事『怪物級』。

「……で、なんで攻撃を止めたのかな?」
 壁際に追い込み、逃げ場を絶てば確実にダァクは不利だ。剣を振る余地が無くなり壁に阻まれ、確実に一撃貰う事になっていたに違いない。
 ところがそうなる前にGMは自主的に突進を止めて攻撃を止めた。
 GMは返答しない。
 言葉にして返す必要はない、という事かね……と、ダァクは壁際から空間のある方へゆっくり逃げて剣を構えなおす。

 恐らくGMは危険を察知した。このまま壁際に追い込んではいけない……と。
 その通りだ、ダァクは手数が足りないと把握して次の一手を企み、あえて……壁際に追いつめられる事を選んだのだ。
 傷を負う事を覚悟し、その代り間違いなく相手に攻撃を入れようとしていたのだが……相手へ有利を送って油断を与えるつもりが……これに完全に失敗した形だ。完全に危険察知されたと見るべきだろう。

 これは厄介な相手だとダァク、黒剣を背後にディフレクトを前にして構えなおす。

「じゃ、一丁邪道な手段でもとりますかね」
 次はダァクから切りかかっていく。ディフレクトの魔法を使わず剣として、GMに斬りかかっていった。
 GMの双剣が同じ長さの同じ剣であるのに対しダァクの両手にある武器のリーチはまちまちである。
 ディフレクトはごく一般的なブレードソードの刃がついており、黒剣は異常に刀身が長く細い突きに特化したもの。


 斬撃と衝撃をないまぜにする戦術は一種、どこかで見た事がある闘い方だと……解説席でレッドが眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ああ、槍と剣を同時に両手に握って闘っているのに近いのですね」
 ようするにヤトの通常戦闘スタイルに近い、という事だ。
「あいつ利き腕右じゃなかったのかよ」
 見ている限り左でも十分に戦える技量だとルインがトリスを振り返る。
「小賢しいな、普段左を使える事を隠している訳だ」
 明らかに憎々しくトリスが呟いたのに、事情はよく分からないがそこにある感情だけは把握したオービットが笑う。
「重要っしょ、あのお兄さんは戦術的にまっとうな事をしているだけだと思うけどな」
「ふぅ……という事はハナから両利き暴露しているウチのヴァカ勇者の立場はどうなるのでしょう」
 レッド、今更ながらもう一度失望の愛の鞭を送る。
「だから『暴』勇者なのではないのか」
「なるほど確かに」
 納得すんなよとルインが呆れの声を投げる。
「けどまぁこうなると、後は単純に技量の差だよな。俺はぶっちゃけこういうのド素人だから見ててもおーすげー、くらいしか分かんないんだけど」
 と、下で繰り広げられているすさまじい攻防戦にむけてオービットは適切な解説を望んだのだが。
「何言ってる、魔導師連中が剣について詳しく語れるはずなかろう」
「全くです、僕らおしゃべりという特性だけで司会と解説なんですから」
「エラそうに言うなそれをッ」
 ルインの突っ込みを聞き届け、オービット、腕を組んで一瞬間を置いて言った。
「じゃ、あれどっちが技量上なのかな?」
 司会・解説席一同押し黙る。
「見た感じ、拮抗しているようには思うが」
 そう、ダァクが押されているように見えるが彼の顔に緊迫感はまだない。
「どっちも押し込まれてる、って気配はまだないよな……というかどんだけ続いてんだよ下」
「あとは……忍耐力が勝負でしょうか」


 二人はほぼ中央に戻り、そこで両足を踏ん張り両手でそれぞれ操る武器を振るい一撃与えようとしては跳ね返され、振って来る一撃を打ち返し……
 すさまじい打ち合いの嵐を展開している。
 すでにGMは足技を入れるヒマがない。両足で重心をしっかり取っておかないとあっという間に切り崩されてしまうのだろう。
 両足で踏ん張ってお互い上半身だけで剣を振るっているので一撃一撃は互いを吹き飛ばすほど重くはならないはずだ。だが、徐々に打ち合いは見るからにペースを落とし、その分重く相手の剣にぶつかって跳ね返る。
 長期の斬り合いは事集中力を消費する。集中力が途切れた方が負けだ。
 お互いに荒い息をつき、途切れそうになる緊張の糸をかろうじて繋ぎとめ互いに睨みあい、剣を振る。
 重く、ディフレクトの刃にGMのグラディウスの鈍い刃が組み合わさり拮抗し、跳ね返る。
 次の瞬間黒剣の切っ先が付き出されたのをGMは反対側の手に持つグラディウスで巧みに受け、軌道を逸らすに鋼がこすれ火花が散った。
 ダァクが深く突き出した黒剣の鍔が最終的に組み合わさりそこで止まる。
 その逆の手でGMが戻した剣をダァクの首元に差し入れようと突き出せば、ディフレクトでその一撃を跳ね返す。
 黒剣の鍔を噛んでいた剣を強引に上に引き上げ、GMは返ってきた攻撃を左の剣の噛みあう重点にあてて弾き飛ばした。

 これでようやく互いに一歩背後に下がり、その機会を逃さないように踏みしめ、剣を振りかぶる。

 衝撃を伴ってお互いの右の一撃がぶつかり足もとの白い砂が吹き飛んだ。

 互角、再び二人は背後にたたらを踏むが……もう一度足元を踏み込み直しお互いに重い一撃を上下から見舞い剣が交差し、衝撃を伴って互いに吹っ飛ぶ。

 距離が生まれた、互いの攻撃範囲からようやく抜け出した二人はそこで一息つき、乱れた吐息を整える。

「何よ、ずいぶん重たい一撃入れてくるじゃない」
「お前こそ、見かけによらず力が強いんだな」

 軽口を交わし合った後……すぐにも闘いは再開されている。
 今度はGMが、相手の息の乱れているうちにと仕掛けた。
 ダァクはディフレクトを高く掲げ、GMの攻撃圏内に入る前に地面に思いっきり叩きつける。

 撒かれていた白い砂が、さらに足もとの土が、その下にあった石畳までもがまるで水のように波打ち四散した。

 ダァクはGMが向かってくるのを待っていた。
 自分から仕掛け、まっとうな斬り合いを展開し、こちらが待ちに入れる体制を待っていたのだ。

 見慣れない攻撃に足元をすくわれ、なすすべもなくGMは飲み込まれ吹き飛ばされる。
 衝撃の中央にいるダァクはひたすらディフレクトを地面に向けている。
 ぴたりと波打つ地面に剣を叩きつけているだけなのだが……その剣はわずかに地面の上にあり、そこからまるでこれ以上下に切り込めないかのように切っ先が震えていた。
 その震えをダァクはまっすぐ見据えていたが……。
 爆発音があってディフレクトの刀身が砕け散る。
 その細かい破片がダァクの頬をひっかいて血が舞う。もちろん、彼の習慣として戦闘前に下ろしていたゴーグルのおかげで目などへの損傷はない。

 すっかり闘技場中央に穴を開け、その中心でディフレクトを折ったダァクは素早く顔を上げた。
 エトオノの闘技場は壁がある。場外、という判定がない。
 GMはディフレクトによるダァク曰く、邪道な攻撃……衝撃循環による広域攻撃によって壁まで吹き飛ばされていた。
 明らかに予想外の攻撃だったのだろう、頭は庇ったようだがその分、背中を強かうちつけて一瞬気を失い、更に迫りくる衝撃に壁に貼り付けにされている。
 そのGMに向けてダァクは右腕を振りかぶる。
 瞬間、GMは正気に戻り僅かな反応を返したが……遅い。
 ダァクは距離を詰める一瞬さえ致命的と判断しすでに攻撃に出ていた。

 邪道とはよく言ったものだ。

 ダァクは黒剣をGMに向かって投げつけたのである。

 その手の中にあるのが槍であるならそういう使い方もありだろう。事もあろうか武器を手放す、それは最終手段としてまだ竜牙という短剣がのこされているからこその一撃だ。

 黒い巨大な矢となった剣は全く無遠慮にGMの、胸へと迫る。
 危機への超反応、GMは広げていた両手を縮めてとっさに剣を交差。
 黒剣の切っ先をそこに受け止めた。そして、わずかに逸らす。いや、わずかにしか逸らす事は出来なかったというのが正しい。

 胸を狙っていた一撃をわずかに上に逸らし、黒剣はGMの肩の上、首の隣に刺さりこんだ。
 その衝撃は強く分厚い3重構造の石の壁を容易く貫通、ついでそのように軌道をそらそうとした両手の剣を巻き込み刀身に比べ大きな鍔が双剣を絡めてGMの首元を抑えていた。

 交差する自分の剣で、自分の首を絞めるハメになっている。
 無理な体勢で両手の剣が引きずられるのをGMは抑えたが……どうにも引き抜く事が出来ない。
 暗い影に気がついて顔を上げる。

「ここじゃぁ、相手を殺す勢いが必要だ……ってね」

 ほぼ根本まで刺さりこんだ黒剣の、柄尻にダァクは足を添えていた。
 いつでも押し込み、お前の首を絞める事が出来るぞと脅しながら……笑う。
「観念なさい、命取っても良いとは言われているが……」
「いや、とるべきだな」
 GMはダァクが浮かべるのと同じ笑みを口元に浮かべて即答した。
「押し込め、俺はここに居てはいけない者だ。……大人しく舞台から去らせてくれ」
 ああ、やりにくい奴だとダァクは困った顔で頭を掻いた。
「そうは言われましてもねぇ、流石にそこまではしたくないのが本音なんだけど」
 そう言って黒剣の柄尻から足をのけた。

 勝敗は明らかだろう。
 その場合、あとは舞台を下りればいいんだったな、と作法を思い出してダァクはさっさとGMに背を向けた。


 *** 続く ***
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