異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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番外編・後日談 A SEQUEL

◆トビラ後日談 A SEQUEL『本能のIN-TX』

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◆トビラ後日談 A SEQUEL『本能のIN-TX』

※本編終了後閲覧推奨、完全なる後日談です※


 乱れ咲く花を指し、どれが良いかと望みを聞かれる。

 この赤い花にしようと誰かが選び、手折られ地に落ち、その機能は停止する?

  いいや、そんな事は無い。

 花は花、枯れるまでの僅かの間にたくましくも自立して種を残す。

 本能だけが切り離されて、本能だけで彼は咲く。

 枯れ萎れる僅かの間に。
 彼志折る微かな合間に。


 *** *** ***


 この世界にも慣れてきた所だ、ベータ版から引き続きやっている連中が経験値の僅かの多さで幅を利かせているがそれも、そのうちに気にならなくなるだろう。
 今はまだ、この世界の仕様に慣れていなくて僅かな違和感で躓いては、上手く前に進めて居ない。そんな気がする。
 ファーストテストプレイヤーのアドバイスを受け入れるならば……余計な事には迷わない事、世界のあるがままに騙されてしまう事。
 やりたい事をやる事だ……とか言っていただろうか。

 そうして、本能を解放した先に現れた自分に愕然と来るプレイヤーも居るという。
 俺もまぁ、分類するならそういうタイプかな。

 きっとこの世界に来たらハデな事をするんだと心に決めていた。
 普段出来ない事、現実と呼べる世界で叶わない事がこの、夢の間に見る世界では自在だと聞いた。もっともそれは望む心がそれほどに強ければ、の話であるらしいけれども。

 しかしいつかは叶う様になる、その手ごたえは確かにあった。
 そしてその前に、自分が本当に何を望んでいるのかどうかを突きつけられとりあえずは……躓くんだと思ったりする。

 世界の名は、八精霊大陸。
 俺は、その世界に降り立った異世界の住人だ。立ち位置的には侵略者だろうな、この世界の住人達は俺達『フラッガー』に物理的かつ精神的な干渉が出来ない。
 俺達フラッガーは完全に蹂躙する側だ。そう思う。
 八精霊大陸側に不利すぎる、とも思っていたけれど別にそんな事は無かった。
 フラッガーは自在に八精霊大陸世界に干渉出来る、強い望みが在れば本当に自由に振舞える。けれども、そうしたいと望む願いの対極に、絶対的に相対する望みを持つ者があって、それと上手い具合に因縁を結んでしまうというシステムが働いているようだ。
 このシステムは……このゲームの仕様だと説明されたけど、本当に実装したものか?

 この、リアルすぎる異世界に居るほどに、システムという神の摂理は『用意されている』ものではなく……世界という『神』が合理性を求めて敷いたもののようにも思ったりする。

 ふぅ、と一つ深いため息をついて俺は頭を振った。

 そんな事をここで考えるのは、止めよう。そう思った矢先にそういう思考に捕らわれている。こんなんじゃダメだ、一向に前に進めない。グランドオペレーターの人もそういう事を言っていたはず。

 この、夢を見る間に訪れる異世界。目を覚ました先にある現実と、一切交わる事の無い世界だ、それとこれとを一緒に考えるのは極めて不毛で、極めて無意味だと知っている。

 知っていても考えてしまう。だから、考えるな。

 とはいっても、そう簡単にその思考は止められないのがこの世界の面倒な所だと彼は、笑っていた様に思う。
 そしてそれこそがこの世界でフラッガー……『フラグを持つ者』の陥る最大の罠だ、とも。

 いずれそういった事を考えなくても行動できるようになった時、世界は自分にとって真に自在になるんだと彼は言った。

 大分慣れてきた、と思う。
 彼の言っていた意味が解って来たのはその証拠に違いない。

 *** *** ***

 フラッガー、あるいは……トビラ人、とも呼ばれているかな。
 一つ余計なレイヤーを通した世界を見る事が可能で、共通している現実という名前の夢を見ている者。
 俺達はあの『現実』という世界の名前を知らないよな。そう云う事を、名前ある世界であるここ『八精霊大陸』に来て改めて気付かされる。
 そうして、フラッガー達はいつしか現実を『トビラ』と呼んだ。
 本当は『トビラの向こう側』の事で、ようするに目が覚めた先……現実世界の事だ……それを向こう側と揶揄するうちにようするに、俺達はトビラの向こう側の人だと自覚するようになった。とそれで『トビラ人』というわけだ。

 現実で、世界の事をトビラのこっち側、などと呼ぶ事はないだろう。
 現実という世界の名前など、追及する必要もないに違いない。だから、向こう側に名前なんてないんだ。

 ではどうして、この世界には名前があるのだろう。そんな疑問も湧くのだけれど、そういう事を考えていると俺達の脚は一向に前に進まなくなるんだ。
 こっちとあっち、その比較をしだしてしまうと切りが無い。
 多くのトビラ人がそのように、無駄な哲学をするに思考の罠にハマるようだ。
 そうして無駄に容量を使い、経験値を得る時間を失う。

 この世界、八精霊大陸で自分のしたい事を『現実』としたいなら、まずは経験値を上げるしかない。そうしてこの世界に深く刺さり込んで行くしかないんだ。
 緑色の旗が示した探求の果て、黄色いフラグの導きの先にあるゴールを目指す。今回の依頼は人探しだ、首尾よく情報は集める事が出来ている。無駄な問答などせず大人しくこの世界の摂理に従い、自らで定めたロールを続ければ問題なくクエストは終わる。

 と、手掛かりを探して一つ余計なレイヤー越しに世界を眺めている俺は、実に奇妙なものを見つけてしまった。

 見た瞬間、奇妙だと思ったしヤバいな、とも思った。

 瞬間的にフラグレイヤーをオフにし、まばらに点在するフラッガーである事を示す情報もオフにする。

 すると途端に違和感も立ち消えた。

 そう、これがこの世界の正しい状態だ。フラッガーは余計なものが見えすぎる。だから、きっと余計な事を考えてしまうんだろう。
 とはいえ、この状態で手掛かりを探すのは至難の業だ。ノーヒントでのゲームクリアは難しいけれど達成不可能ではないらしい。本来ならばこういう何も視覚的なヒントの無い状態でクエストは進めるべきだとも思う。
 けれどそれでは『優しくない』からと、最近の温いゲーマーの為に俺達『トビラ人』にはフラグというものが差し込まれている。
 探求に迷った時の道しるべとしてフラグの在りなしを見る事が出来る、それがフラッガー。

 俺は、多分温い方のゲーマーだな。フラグを追いかけるだけでクエストが終わるから、ついついレイヤー頼みで事を進めてきた。そういうゲームの進め方にリスクはない、らしいが。

 そう云うわけでもないと、思う。

 時たまに見てはいけないものを見てしまうのだ。
 もしそれを見たとすれば、見なかったふりをするかあるいは、見た事をしかるべき機関に通達する手間が増える事になる。

 それはバグプログラムを指し示す、赤いフラグだ。

 今、一瞬赤いものが目の前に在った。
 どれに付いていた?街をゆく人々を大雑把に眺めてみたが…やはり、一瞬ではよくわからない。いや、まじまじと見つめてしまうのも危険だ。もし赤いフラグと縁を結んでしまったら……何が起こるか解ったものではない、最悪アカウント無効でゲームやり直しだと聞いている。
 せっかく慣れてきた所なのにそれは勘弁してもらいたい。
 とにかく、場面を切り替えて赤い旗など見えない所に移動しよう。
 踵を返し、暫く歩いて場所を変えてから…恐る恐るとフラグレイヤーをオンにする。違和感はない、このあたりにはフラッガーが少ないようだ、今進めているクエストの関連もほぼ皆無。このまま進めば町のはずれに出てしまう。
 俺は、そう思って立ち止まり、振り返った。

 その先に、またしても赤い花がある。

 見間違えじゃない。それは見慣れたやや蛍光色のフラグではなく、まがまがしい赤い花だった。その花は一見百合の花の様でもあるが……百合にこんなに鮮やかな赤い品種があったかどうか。いや、百合にしては花弁が広く、大きく開きすぎている……

 などと、俺はその奇妙な光景をまじまじと見つめ、観察してしまっているのだった。

 気が付けば花を生やした男を目を合わせてしまっている。

 焦りを顔に出さないように気をつけて、もはやそらしようもない視線の言い訳にと口を開く。レイヤーをオフにするべきか迷う、いや、もしそうしてこの赤い花を途端見失ってしまったとしたら、どうなんだ?

 赤い旗よりまがまがしい、赤い花を生やした者との接触は極めて致命的だと決定づけるようなものだ。それが怖くて、俺は視界の上の方にその不思議な赤い花を見たまま口を開いたのだった。

「俺に、何か用事か?」

 すると男は少しだけ笑った。屈託のない、無邪気と形容できる笑みをこぼして、そうして声だけが不思議と届かない。けれど唇の動きで何を言ったのか、何故か解る。

 コノハナミエル?

  否定も、肯定もしようのない問い。
 次の瞬間赤い花が枯れ、花弁は萎れてガクが落ちる。
 むき出しの雌しべだけが肥大して、膨らんだと思った途端に破裂したのを……確かに見ていた。
 種が飛んだ。
 飛んだと、思う。

 そして多分、多分……だけれど。

 その飛散した種の粒が俺の中に入っていたのだと……思う。


 *** *** ***


  何年とその世界で、俺は『俺』をやっていたのかはよくわからない。
 トビラ世界、現実に戻れば八精霊大陸での出来事などただの夢だ。いつまでも、覚えておける事じゃない。

 何かヘマをしたか、とにかくアカウント消滅となって『俺』は、俺を作りなおす状況となった。気が付いたらログアウトしてエントランスレイヤーに退避していた。
 そうしてコマンド画面を開き……自分がキャラクターロストしたのを把握する。
 ロストした瞬間までのセーブデータはグランドセーブまでリコレクト出来ないが、自分だったキャラクターを失ってしまった所為か、何故か清々した気分でエントランスに立ちつくしていたものの、見慣れない表記を見つけてタップ。
 今まで得た経験値は条件転生というもので繰越になっている。
 条件転生!
 どういうロジックで発生するのかがまだはっきりしていないだけに、どうやら条件を満たしていたらしい事に俺は素直に喜んだ。
 そのお陰で前よりも自由にキャラクターの設定が出来るはずだ、そう思って……当然のように選んだ自分の名前が、いきなりエラーではじき返されたのに戦いた。
 どういう事だ?
 二度目の新規ログインで、同じ名前、同じIDを使ってはいけないというルールは無かったはず。
 何度か試したけれどどうしても同じIDが使えない。それなのに、以前のデータを引き継いだキャラクター・メイキングが可能であるとクレジットされている。
 右往左往している所に、神出鬼没の管理人がやってきた。
 最初のテストプレイヤーにて、このゲームの開発者として名を連ねている……まぁ、この世界では有名人だな。神出鬼没だが出会えない人ではない。けれど、こうやって単独に向けて接触してくる事は珍しいと思う。

「なんかトラブってるみたいだが、どうした?」
「ええと、なんかIDと名前がエラーではじき返されてしまって……それ以外は通るんですが」
「ふぅん、条件転生してんな……ちょっと待ってろ」
 そう言って、管理人にしてはやや口の悪い彼は瞬間的に姿を消し、またすぐに現われた。ここでは時間の概念はあてにならない。すぐ、とは思ったがもしかすればすぐではなかったのかもしれない。
「原因はダブルアカウントだ、どうにもアンタのアカウントがまだ死んでない事になっている」
「え?いや、でも実際こうやって……エントランスにはじき出されて、初期設定からやり直しを要求されている訳ですし」
「残念ながらバグの一種だ、これを見ろ」
 そう言って、彼は小さなウインドゥを開いて俺に見せた。
 見慣れてはいない、何しろ自分の姿をこうやって俯瞰する場面はあまり、ない。しかし覚えている。

 あれは、俺だ。

「見ての通り、赤い旗ぶったててるんだけど……なんか心当たりあるか?」

 俺では無い、けれど確かに俺の頭上に在る、バグを示した赤い旗を茫然と見ていた。俺は、こうやって俺から追い出されているというのに。俺は、バグを示す赤い旗を立て未だ八精霊大陸で……生きている?

「どうしてだ……?」
「いや、それがわかればこっちもそうだと答えを言えるんだが……実はあんたに限った話じゃなくてな」
「!?」
「こういう案件、ここん所増えてやがってな……。見ての通り解りやすくバグだからまだ対処の仕様もあるわけだが、出来れば発生させないようにしたいわけだ、運営の上では」
「……はぁ」
 俺は気の抜けた返答を返すしかない。ここの所増えている、バグ?
 エントランスの会話はリコレクト出来ないから、運営はここでぶっちゃけた話をしてしまっても問題無いのだろう。でも、そんな不安になる様な事は言わないでほしいなぁ。
「じゃぁ、条件転生はその見返りという事ですか?」
「いやいやいや、そうじゃない。今調査してあんたがダブルアカウント状態になっててバグってるのが判明したんだって。俺達が恩恵付けてんじゃない、どうにもこのバグケースは条件転生も含めてセットな事が多いっぽいな」
「解除は!?」
「勿論する、とりあえずアレをぶっ潰せばあんたは正規アカウントでログインし直せるわけだろ、すぐに対処するから少しだけ待っていてくれ」

 そういって、俺に小さなウインドゥを渡して彼は、消えた。

 次にどこに現れるのだろう、と思いながら窓の中を覗いていると、不思議な事に窓の向こう側につい先ほどまで居た彼が現れていた。

 神出鬼没、俺はそう小さくつぶやいて苦笑いを漏らしていた。
 神の庭の番人にて、エントランスの案内人。

 八精霊大陸の中では、伝説の『人柱勇者』にして恐るべき魔王『八逆星』。

 これは、ものすごくレアなものを見ているかもしれない。
 残念なのは、まだ正式にキャラクターを作ってログインしていない状態なので……このログを取っておけない事だ。要するに、さっきの会話と同じでリコレクトが出来ない。
 夢として、おぼろげ記憶する事は出来るんだろうけど……それじゃぁこの貴重な映像の真偽は誰とも共有出来ない。

 それじゃぁこのゲームの上では意味が無いのに。

 *** *** ***

 赤い花を咲かせている、彼の頭上を見上げて俺は、ため息を漏らした。

 この花を摘んだのは、これで一体何回目だ?苦情が来てID取り直しが嫌だというクライアントに向けては、もはやこいつらはつぶしてやるしか方法がない。

 出来るなら、許されるなら俺は……。
 彼らには、赤い旗を立て存在がバグであると指し示されていたとしても……そのまま存在し続けて欲しいと願っているのに。

「おい、そこの、お前!」

 乱暴に呼びかけて、彼らを振り向かせる。
「そこの、右から数えて4番目のお前、お前だ!」
 自分か?というふうにわざとらしく自らに指を指し、見慣れた顔が状況に気が付いて……少し笑った。
 武器を抜く、迷いなく……そうして突然と挑みかかってくるのを俺は、当然と抜刀した剣で往なした。

「抵抗するか」
「それは、当然だろう」

 本能だ。

 そのように吠えて再び切り掛ってくるのを弾き飛ばす。

 本尊に向かって所詮劣化コピーが、何をほざくか。

 そうして、一方的な殺戮を終えて俺は剣を鞘にしまう。これで……彼は再び正規ログインが出来るだろう。そうして再びログインした後で再びバグが出ない、という事までは調査済みだ。

 突然仲間を殺された事に、今さら的に反応する者達に向け俺は睨みを利かせた。
 この俺が、何者のであるのかをまだ彼らは知らないから騒ぎたてている。
 とりあえず、目的は達したからこれにて撤退だ、彼らも……いずれ俺の正体には気がつくだろう。そしてある程度の納得をするはずだ。

 俺は、そういう仕組みの為に世界に在る。

 目を開けて、インティクス!

 死者に取りつき、赤い花を咲かせて起き上がっていた者の名を聞き……ほんの少し立ち止まる。

 インティクス、ええと、確かそれは。本能、だったか。


 エントランスレイヤーに戻ると、またしても発生したバグ案件のデータ収集係が待ち構えていた。そいつに今しがたのログを渡し、俺は再びログイン。
「やっぱり、貴方が原因のようですね」
「まぁ、そりゃあの顔してるんだからそうなるだろうな」
 暗転し、自動的に空間が転移した先で投げかけられた言葉に向け、ぞんざいに答える。
 俺は少しふてくされ、深いため息を漏らした。

「本能か、」

 花を咲かせ、種を撒き散らし、増え続けるのは本能とほざくか。

 ただただコピーを増やすだけで、そうしてひたすら世界を蹂躙するだけの本能など、一体どこで穿たれたものだろう。
 そういう疑問を見透かしたように俺を世界のあらゆるところに運ぶ紫色の風が答える。

「生命の本能です、同時にそれは貴方が死人ではなく、生きているという証でもある」
 僕にはすでに無いものです、と余計な事を付け加えたのに悪態をついてやった。
「どうだっていい、それで、どうすんだよ。この問題は……どうやって片づけるんだ?」
「レッドフラグなので一般的な討伐対象には出来ません。そも、退治を仕向けた所で逆にレッドフラグに感染する。恐らくは、そういうループです」
「だろうな、今回の件でそうだとはっきりした、か?」
「裏が取れました、ナッツさんの方でそう言っています。今回の被害者の彼が保持していたログから、確かに赤い花との接触の記録が確認取れたそうです」
 俺は、こちらでも相棒を務めているすでに死人の、魔導師に向けて視線を投げた。
「完全回収は不可能のレベルだろう?」
「種は多く撒かれ過ぎているので、潜在的にレッドフラグを保有するアカウントの数は測り知れないでしょう」
「ま、アカウントロストしなきゃ発現しねぇわけだし。先に探知は出来ないのか?」
「巧妙な所です、今のところ難しいという回答が上から出ています」
「で、どうするって」
「ダブルアカウントまでは容認しようか、という方向で調整が行われていますよ」
「ふぅん」

 それにしても、今回はやけに積極的に事情をお聞きになるのですね?と含み笑いで聞かれて鼻で笑う。

「なんか……忙しいのがめんどくせぇだけだっつーの。このまま俺が俺退治ばっかりエンドレスなのかと思ってさ」
「それが一番手っ取り早いんですけどねぇ」
「……レッド」
「はい?」
「めんどくさいとは言ったものの、上の都合で言えば放置出来る問題でもないんだろ。ぶっちゃけ、どーすんだ」

「どうにかしますよ、原因もある程度は特定出来てきたわけですしね」

 ま、そもそも貴方が。

 本能という花を手折らなければ起きていない問題ではあるのですけれど。

 と、今しばらくの無償奉仕にくぎを刺されて俺は、視線を泳がせて自分が愛でている庭を見やる。すでにあのいけすかない魔導師の姿はない。
 庭を作って適当に、俺は遊んでいる。
 誰も訪れる事の無いへき地で、好きなように生きるためにまず食うものが取れる畑を作った。そうして余裕が出来たら少しずつ畑を増やし、余計な土を掘り返してそこに、沢山の花の種を撒いた。
 そうして遊んでいるうちに……俺は、花を咲かせることを思い出したとでも言うのだろうか。

 ただ緑の葉を茂らせるだけの俺の、本体と言える木に突然いくつもの花が咲いたんだ。

 色とりどりに、種も何もかもを無視したかのように無秩序に咲いた花に、俺はそらーもぅ何が起きたのか呆然となったよ、驚いたなんてどころの話では無い。

 何が起きているのか、自分の事なのかはっきりいってよくわからない。

 ふいと目にとまった赤い花に手を伸ばし、何という意味も無く俺は、それを手折ってしまった。

 そいつの花の名前は、その花を手にした瞬間に俺で解ったんだ。

 本能だ。

 本能のままに、俺はふいと咲き、自らで手折り、枯れ果てるようにと願いながらも本能に従い……増え栄える事を望む。

 その先に在るのは増殖の破滅だけだってぇのにな。

 
 *** おわり *** 
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