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番外編 補完記録13章 『腹黒魔導師の冒険』
書の8 下 光の王国記『そこに居る事は分かっている』
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■書の8 下■光の王国記 I know you are there
テストプレイ最後のログインして……まずリコレクトした事は『やはり北魔槍騎士団は新生魔王軍に置き換わっている』でした。
僕は殺生が出来ない、という事は……前にも書きましたね。
故に、出来るのは足止め的な攻撃が限度です。勢い余って命を取る様な事もありますが、そうしてしまうと……精神的なダメージが入って色々と能力が制限されるハメになったりします。具体的には思考回路が混乱して上手く物事を考えられなくなったり、魔導回路の繋ぎ替えに在りえないファンブルを出したりします。
その混乱を上手い事誤魔化してきましたが、基本的にはそう成らない様な支援をするしかないので、僕は本当に後方型のキャラクターなのです。
さて……僕の目の前には体の半分、氷漬けにされた騎士がいます。
下半身を地面に、両腕を柱から伸ばした氷に閉ざして……身を捻る事も出来ない状況で固定しています。
これ以上拘束を強めれば命を奪う、かと言って緩めれば……この黒い騎士、自分の手足を引きちぎってでも脱出しようとするでしょう。
すでにそうやって自分の手足を容易くもぎ取り、逃げ出してちぎれた手足を呼び戻してくっつける、という異常なリカバリーを何度かやられた後の状況です。
今ようやく狭い通路におびき寄せて拘束に成功していると……リコレクト。
この狭い通路の奥に、法王である教皇が立て籠もっている館が在ります。
勿論そこから別の逃走ルートもあるでしょうから、出来るだけ早くこの立ちはだかって来た魔王軍を倒して法王の身柄を確保しなくてはいけません。
この騎士……北魔槍騎士団の長を殺せば四方騎士舎に徘徊する新生魔王軍全てを止める事が出来るのかもしれませんが……いくら相手が怪物でもやっぱり僕には、それが、出来そうにない。
テリーさんかマース君がこちらに戻ってくるのを待つしかありません。
肩から固めているので、騎士が動かせるのは頭だけなんですが……なんか、ものすごい勢いで頭を回し始めましたね、ちぎれるかというほどにヘッドバンギング始めましたが……いやな予感がします。
被っている重鎧と鉄仮面とを留めていた金具がはじけ飛び、次の瞬間騎士の首が飛びました。いや、それは錯覚で、鉄仮面だけが勢いよく外れて飛んでいったんですが……その拍子に耳とか鼻とか一緒に削げたと見えて派手な血を吹き上げたので、僕は一瞬首が飛んだのかと思ってしまった。
僕の精神に見えないダメージが少なからず入った形となりまして……途端、拘束している氷の魔法に亀裂が入る。
首は飛んでいない、という情報を確認しダメージを即座回復。
鉄仮面を脱ぐも、削げ落ちた肉を即座再生して……男が異様な笑い声を立て始めました。
「……顔を出しても出さなくても、僕にはさほど変わりはありませんよ」
男は嗤い続けている、今まで会話らしいものは一切成立しませんでしたが、成る程中身の精神状態がすでにマトモでは無い様ですね。薬がキマッてしまった人の様に、笑い声と唸り声を上げながら、ひたすら動く首を動かし抵抗している。
そのうちに無駄な抵抗と悟ったのか、動きを止めて笑い声と唸り声もくぐもった様に静かになっていく。
と、大分辺りは静かになりましたね。先ほどまでは随分煩かったものですが。
北魔槍騎士団に入り込んでいた新生魔王軍は、僕ら三人の襲撃に即座本性を晒しませんでした。
しかし予定通り遠慮なく、テリーさんが巡回していた黒鎧の騎士の頭を落としましたね。相手が新生魔王軍である事を僕らは、ブルーフラグが立って居なくともフラグの色は分かります。故に迷いの無い攻撃が出来るのです。
頭を落としても簡単には死なない、攻撃された事でまるでスイッチが入ったかのように、北魔槍騎士は凶暴化し辺り構わず暴れ出しました。
南国で確認した通り、頭を潰すか切り離すと再生が止まる事を確認。
まず早朝巡回で動いていた北魔槍騎士を倒し、騒ぎに駆けつけて来た他の騎士達に向けてはあえて腕や足をふっ飛ばして異様な再生をする様を見せつけて……この通り、北魔槍騎士団は魔王軍にすり替わっているから『逃げる様に』と触れ回る事になりました。
彼らに一緒に戦えと言った所で戦わない事は分かっています。
四方騎士団の多くは、すでにお飾り色で実戦出来る人材がほぼ居ないに等しい……彼らは、央軍や騎士ではない兵卒を指揮する側であり、自分で剣を振るう必要が無いのです。
逃げてください、魔王軍だから騎士は手出し無用、逃げて良しと云えば……大義名分を得たとばかりに逃げ出すのが四方騎士というものだと……言っていたマース君の話は大体当たっていましたね。稀にヘタな自信に満ちた騎士が加勢するなどと言って抜刀しましたが、足手まとい以外の何物でもありませんでした。
そういう騒動がいつの間にか落ち着いて、恐らく……残りの新生魔王軍もテリーさんらで黙らせた後なのでしょう。
「けれど少なくとも俺達には分かる!」
静かになったからでしょうか、はるか遠くで……そう叫んだ誰かの声が僕の所まで届きましたね。
「分かっているぜ、お前が確かにそこにいるって事は、な!」
今回は意識して声に耳をすませました、テリーさんですね……今、誰かと話しながら殴り合いをしていると見えて再び暴力的な音も響いてこちらに届きます。
声が届けば魔法的な橋が掛けやすくなる、意思伝達魔法を構築、テリーさんにひと段落ついたらこちらに戻って来てこの目の前の騎士に止めを刺してもらいたいと伝えましょうか。
しかし……誰と話をしているのか。相手と思われる者の声は拾えませんね。
聞こえて来たセリフからするともしかして、
「まだ逃げんなよ!俺はそれ、許さねぇからな!」
……ヤトに向けて、叫んでいる様に思えますね。
「お前とはまだちゃんと、決着付けてねぇんだからなぁ!」
何かが潰れるような音がして……再び静かになりましたね。いや、重鎧が石の廊下を歩く音が聞こえて来る。僕の伝達魔法を無事受け取ってくれたと見えて、走って近づいて来る音も。
「レッドさん、」「レッド!」
マース君とテリーさんが同時に、僕が居る狭い通路に到達。
すでに何をして欲しいのかの伝達は済んでいます、それはテリーさんにしか向けていませんでしたが……マース君は迷いなく血肉に濡れた剣を上段に構え、笑い続ける男の首を刎ねました。そして、転がったそれをテリーさんが容赦なく踏み抜きましたね……いやはや、他人がやった事とはいえそれでも僕には少なからず精神的ダメージがあるんですよ、思わず目を逸らし、見ないようにしていましたが……どうしたって音が的確に状況を伝えてくるんですよね。
僕が本当に殺生現場が苦手な事に、テリーさんは気が付いてたみたいです。
ええ、実は皆さんの背後に居る事が多い僕は、ヤトらが魔王軍を屠るその様子をなるべく見ないようにと努力し続けて居たりしたんです。で、テリーさんは大分前からそれに気が付いていたらしい。
「終わったぞ、今黒い染みになった」
その声ではっとなって目を開ける。
「……お手数おかけします」
「楽な仕事だったぜ」
と言って、黒い染みが今も絶え間なく煙となって立ち上る、腕や足を振るテリー。
「よくわかんねぇが殆ど……なんつーの、寝てたとは違うな……起動してねぇ、って感じだった」
「成る程……興味のある話ですね、旧式のように元になっただろう人間に擬態させておく事は出来ない、という事でしょうか」
「擬態出来るったって、一度成ったら元に戻れない訳だろ?」
「新生魔王軍は元になった形のままで怪物化している、それゆえに何か……貴方の言う所の『起動』させておくに何らかのコストが掛かるのかもしれません」
故にその起動と停止を司っている統率体が居る可能性がありますね、この……今は鎧だけになってしまった北魔槍騎士団団長の様に。
アービスが着けている黒い鎧に似ていますが……同じではないですね。僕が鎧を観察していると知ってマース君が教えてくれましたが、ここに落ちている抜け殻の鎧が正式な北魔槍騎士団長の鎧だ、との事です。細かいデザインが決まっている訳ではない様ですが、確かに所々にそれらしい紋章のモチーフが見られます。
「さて……では、早い所法王を捕まえて話を伺いましょうか」
「もう逃げたんじゃねぇのか?」
「逃げられないように妨害するのは得意です」
僕がにっこり笑ったのに、そーだったなとテリーさんは頭を掻いてそっぽを向きましたね。
隠し通路等から逃げ出しても、必ず同じ扉から戻って来てしまう様にですね、西教教皇の間には反芻空間転位結界というものを張っておいたのですよ。
一定の空間を超えると強制的に空間転位し、必ず定めた所に戻されてしまうという、閉じた結界を貼った訳ですが……無事に閉じ込めに成功しています。某天使教の上級神官殿の様に、ちょっと魔法の心得があるなどと容易く突破されるような事態にならずに良かったです。
何とも逃げられないと悟ったらしい、高齢のご老人が出口とした扉の前で蹲っていました。
遠東方国イシュタル、ひいては南国からも正式な魔王討伐隊として認定されている旨を告げ、北魔槍騎士団との関係性を迫ったところ、十代目ロニキス法王は素直に魔王八逆星ナドゥの名前を出しましたね。
ようやくここで彼の名前を聞き出せた形です。
然るべき処へ突き出す前に、まずは魔王討伐隊としての尋問を願い、それが許された所からして法王も……かなり現状に向けて疲労していたのかもしれません。漸く全てが暴かれて安堵している様にも見えます。
「ナドゥとは、何時から手を組むようになったのですか」
「その前に弁解するが、彼が魔王八逆星であるとは私は認識していなかった」
「ほー、この期に及んでまだそんな事を言うのかよ」
と、拳を固めようとするテリーさんを僕とマース君で押さえながら、話を続けてくださいと皺と髭にまみれた顔の法王に勧めるも……下手をすれば問答無用で命を取られると思っていてそれを恐れていたのでしょう。テリーさんの気配に委縮して口を閉じてしまいました。
「……」
「ロニキス法王、確かにナドゥは自分は魔王八逆星では無いなどと言う所がある様です。しかし確実に彼は魔王八逆星側に在り……魔王も、大陸座も倒そうと企んでいる者なのです。見方によっては毒にも薬にもなったでしょう。貴方から見れば、多いなる救いに見えたかもしれませんがその様に劇薬を飲ませるのが彼の手口です」
「……彼は、アービスが死んだと伝えに来た」
神に選ばれた戦士が、死んで戻った事などどうしても認められない。
アービスの死を認められる証拠となる物も無い、彼が勇敢に戦って死んだ事を証明する者も居ない、そのような騎士の死は到底受け入れる事は出来ない……と、私はナドゥの言葉を突っぱねたのだと、ロニキス法王は俯いままで漸く話を続けてくれました。
その後の話は、要約するとこうです。
するとナドゥは、アービスの死体が在れば良いのかと聞いて来た。
勿論そうではなく、理想とするならば魔王討伐から生きて戻って来た方が良いと法王は、望んだ様ですね。ナドゥは、死んでいた方が良いのではないのかと尋ねて来た様ですが……やはり予想していた通り、でしたか。
『神』である大陸座ユピテルトからのお告げによって魔王ギガースを倒すべく兵を送れと命じられ、これに従った法王ロニキス十世は、間違いなく魔王を屠る事が出来る様に……一番強い者がその役に着く習わしとなっていた北魔槍騎士団に魔王討伐を命じた訳です。
それが、死んで戻って来たというのは自分の沽券に係わる問題だったわけですね。
魔王を倒せず死んだという結果は、ロニキス十世の頭の中に初めから無かった、それくらいには魔王という存在を甘く見ていた事を今は認められる様です。
ナドゥが持ってきた話に混乱し、錯乱気味になった事を今は……認める事が出来る、と云う。
とにかく、混乱があって法王は一旦、ナドゥという謎の男を門前払いしたのですが……その後に、法王のやや錯乱した話から何を考えついたものか。
ナドゥは、北魔槍騎士団長アービスを生きて連れて帰って来た―――と、云うのです。
十中八九それは、今の元魔王八逆星、マリア出身の……経歴を全て失った男、僕らが知るアービスでしょう。
そうして、ナドゥこう言ったというのです。
第一次魔王討伐隊は悉く全滅し、今やそれらは魔王八逆星と名乗ってこの世に仇成す存在と成り下がった。世界は、討伐隊が破れた事は知っているが、彼らのその後の顛末を認めようとはしない……と。
そうして第一次魔王討伐隊として旅立ったはずの北魔槍騎士団団長を指し……これもまた、そういう可能性が在る存在であるが、貴方が私の云う事実を認めてくれるというのなら、あるいはこの騎士は世界に仇成す存在を打ち破る力となるかもしれない。
その頃西国では破壊魔王と呼ばれる存在が暴れている話が在り、南国の王が心変わりして他国に侵略戦争をしようとしているという情報がディアス国にも入って来たそうです。
どこからともなく、南国の王は魔王八逆星に乗っ取られてしまったのだという噂があり、それを聞いて法王は……『それら』を、自分が手にした力である『北魔槍騎士団』を使って討つべきなのだと『悟った』と、云うのです。
それは、完全にそういうお膳立てをされていたダケですよ。
幸いというか何というか、その前に僕らが南国がおかしい事に気が付いて、殺されそうになっていた王子を助け、偽王を討ってしまった。
しかしロニキス法王には、南国の偽王討伐の話はまともに耳に入って行かなかった様だ。
弟王が偽王に成り代わり、あまつさえ魔王八逆星だった事は南国王家の醜態である都合、あまり詳しくは世に伝えられていなかった事情もあるでしょう。
入ってくる情報を、いつからか自分の都合の良い方向に受け取るようになってしまっていたと法王は、頭を抱えて涙しましたね……何時から自分はナドゥから、良い助言を得ていると信じていたのか。奴の言いなりに成っていたのか……記憶の整合性が保てずに苦悩するばかりの様です。
彼の謎の能力『経験値の取得』が記憶操作の類であるとするなら、ロニキス法王は完全に彼の手の上で踊らされていたという事でしょう。
ナドゥは、ロダナム家には自分の存在を完全に消して何らかの干渉をした様ですが、ロニキス法王には利用する予定無く会った経験がすでに在って、それをどうしても書き換えられず……むしろ自分自身を鍵として操る事にしたのでしょうね。
これ以上の尋問は負担が大きい、下手をすれば……法王の意識が壊れかねない。
僕はそう判断し、鍵となっている魔王八逆星、ナドゥの名前を意図的に忘却させる魔導式を用い、ロニキス法王の記憶改竄の整合性の帳尻を合わせました。
途端、何が起きているのか良く分からない風に惚けた様になってしまいましたが……法王もすでに御歳ですし、精神が壊れるよりかは何か大事な事を忘れてしまったぼけ老人であった方が救いがあるでしょう。
そう、こんな記憶の危うい人物を頂点にするべきでは無いのです。
それで、肝心の大陸座ユピテルトですが……それはこのディアス国に間違いなく存在するシュラード神に並ぶ神であるという認識で間違いではない。ところが、その存在を信じているのは法王だけの様ですね……話を聞くに。
「つまり、夢の中でユピテルトのお告げが何度かあって、それは法王にしか現れなかったというのですね」
ロニキス十二世が僕の確認に頷いて答えてくれました。
……彼はまだ三十代で、ディアス国の権力者としては十二分に若いそうです。きっちりとした聖職者の法衣に身を包んだ清潔そうな彼は、しかし終始機嫌が悪そうな顔をしていますね。
魔王討伐隊、それにフィナル家当主を交えた席がその日の夜にも設けて頂きました。
それはこの若きロニキス十二世、新たな法王の力添えで実現したものです。というよりは、早速強権を発動させて今回の首謀者たちを名指して呼び寄せた、という言い方も……出来なくはないのかもしれません。
「法王の語る夢のお告げを、多くは信じていませんでした。しかし予言としての不思議な夢は何度もあって、多くの真実を言い当ててしまった。何より法王がその奇跡を信じ、喜びました」
で、しょうねぇ……ユピテルトも人が悪い。人を操る技に中々長けている。
「しかし、このシュース君の父上は耄碌法王を一刻も早く引きずりおろしたくてしょうがなかったもんでねぇ、ユピテルトのお告げによって、色々裏で画策してる事がバレちゃってすっかり弱みを突かれちゃって」
「父は、早々と疲れて引退宣言をされてしまいました。その後心労が祟って亡くなってしまったのですが……僕はそんな親世代をずっと見て育った所為か出来れば法務に着く事も嫌だったのですよ。そうやって腐って居た所、レイから……大変にしつこく説得されていましてね」
フィナル家当主に向けて更にも増して不機嫌な顔を向けましたねシュース・ロニキス十二世。
向けられた方は無邪気に笑っています。
「私だってロニキスの血を引くのですよ?未来同じように耄碌しないとは限らないでしょう?」
「歴代ロニキス法王はどっちかって言えば、有能だったって語られてるじゃない」
「それは都合よく歴史が改竄されて、その様に伝わっているだけでしょう……多分」
「わかってないわねシュース君、そういう反骨精神こそがロニキス法王家ってもんよ。どうせ美化されて正しく伝わっていないのなら、自分こそは正しくあろうとした、だからこそ法王はずっとロニキス一家が担ってるのだと俺は思うわね」
すでに、世代交代は免れないと悟った法王サイドは、同じく一斉粛清と後継者問題でもめている国王サイドが責任問題を持ち出す前に……シュース・ロニキスを新しい法王に指名しまして、先ほどそれがほぼ全会一致かという即決で決まったばかりです。
ディアス国の仕来たりはよく分かりませんが……法王はこれを退ける権利が無い様でシュース氏は完全に仏頂面のままでしたね。とにもかくにも、彼は西教主神シュラードに終身仕える事を誓わざるを得なくなったようです。
そのお膳立てを密かに根回ししていた……レイ・フィナルにしてやられたという顔で、しかしそれ以上に何か先ほどからため息ばかりついてます……年代が近い所からして二人は、若いころから交友があった様な気配ですね。
「で、お前の目論みで国王は……まさかあの男を選んだんじゃないだろうな?」
あ、もう一人腐れ縁が居る気配ですか。僕は眼鏡を押し上げてお約束展開に内心ワクワクしていたりします。
レイ氏は肩をすくめて笑う。
「俺は選べない方だからねぇ」
「白々しい……、お前だけですよ、昔の話をいつまでも真面目に叶えようとしているのは」
「それは違うわよ、お前さんが一番最初に諦めただけよ」
「……だから、大いに戸惑っている所ですよ……」
新しい法王はよっぽど現状が気に入らない様で、呼吸するたびにため息を吐くいてますね。
愚痴を言いたくてフィナル家当主や魔王討伐隊の僕らを呼んだ訳ではないと思うのですが。そろそろ水を差すべきか、いや国王候補とやらの腐れ縁関係も大いに気になる処ではありますが……追及したら逆にはぐらかされるような気配も在り、ならばレイ氏に詳しい事を聞いた方が良いかと視線を動かしたところ、どうやら僕らが展開に戸惑っているとでも思ったのでしょうか。
「ああ、すまないわねぇ法王のグチばっかりで。お前さんらは急ぐ旅だと情報屋から聞いていたわね、本題に入ろう」
否定する訳にも行かず、僕は発言を飲み込まざるを得ませんでした。そんな僕を、ナッツさんがやや苦笑を向けている所……何でもかんでも色々『知りたい』僕の内心色々穿たれている気配です。
「彼らはロニキス十二世にお聞きしたい事があるらしい、これからウチは儀式やら何やらで忙しくなるだろうから今のうちに聞いておくと良いわ」
「では、……僕ら魔王討伐隊は、魔王討伐の為に大陸座を巡っております」
その理由は、僕らデバッカーの都合ですから説明する訳にはいきませんので例によって、嘘をでっち上げてそれらしく話しましょう。
「そもそもは大陸座が発した魔王討伐、それが現魔王八逆星の出現に繋がった理由や原因などを聞き回り、魔王討伐の為の助言を求めております」
「大陸座か……」
そこで法王はまたしても深いため息を漏らす。
それは……知らない、という意味では無い様に感じます。何か知っているからこその杞憂が在る様だ。
「大陸座は、見えなくなって久しいな。私の方でもずっと探していますが見事に身をくらませてしまって今もこの国に居るのかどうか保障は出来ない」
「ロニキス法王は……大陸座ユピテルトをご存じなのですか?」
再びため息を漏らし、額に手を置いて……暫らくしてから法王は口を開きました。
「先代と父の無謀な諍いを、止める様にユピテルトに願ったのは私なのです」
シュース・ロニキス法王は、元法王である祖父十世をあの手この手で引き摺り下ろそうと画策する父の行いに、当時、大変な失望を為さったのだそうです。
なんとかして父の暴走の様にも思える行為を止めようとしたものの、父が築いた影響力の構造を崩す事は難しく、まただからと言って祖父に味方して父を追い詰める様な事もしたくなかった。
なんとか穏便に事を治めるにはどうすればいいのか、何をすれば父の法王にならんとする野心を抑える事が出来るのか。どうせ法王が崩れれば自然とその座は父の物だ、ロニキス十世は持ってあと十年程だと囁かれているのだからそれまで、なんとか待ってもらう説得が出来ずに居たシュースは……ある時、不思議な人と出会ったのですね。
どういうきっかけだったかは忘れたそうですが、その人物と偶然席を共にしてお茶を飲んでいたという。
何気ない会話を重ねるうちに、心に積もった重圧を口に出し……なんとか法王の身内での争いを治める方法は無いだろうかと色々話をしてしまったのだそうです。
例えば、国王が光の剣によって確実に選ばれる事が在るように……法王にも何か印があって、その絶対的な印で定めて在れば、と。
ならば、私がこの国について知っている事を、法王の耳元に囁くとしよう。
大陸座ユピテルト、彼はディアス国首都エルエラーサに住まう一人の人間として紛れて暮らしているという。
半信半疑であったシュース氏でしたが、後にそれは法王に夢の予言として現れ……最終的には予言は父の卑劣を暴く事となってしまった。
そうして父が病を得て、死んでも尚シュース氏は大陸座ユピテルトのお告げが、自分が望んだせいで起きてしまった事だと誰にも言えなかったのですね。そうして自分が法王になる事にも引け目を負って、身を引こうと考える様になった訳ですか。
「そして、法王は魔王討伐の予言を齎され、北魔槍騎士団を遣わしたのですね」
「その予言が最後だったのです……祖父はそうだとは言わず以後も、何かと都合を通す為に予言でユピテルトから聞いたのだなどと言っていましたが……それが最後であったはずです」
大陸座が封じられ、姿を消したからでしょう。
エルドロウが画策し、大陸座ジーンウイントが便乗して放った魔法によって大陸座は、世界への干渉力を奪われてしまった。シュース氏は市井に紛れているユピテルトが探せなくなった時から、同時に祖父法王の予言が怪しいものに変わった事を察したのでしょうね。
ユピテルトを語る法王にナドゥが近づいた理由がこれでよく分かりました。
しかし、夢で会ったとしか言わない法王から、ついに大陸座ユピテルトがどこに居るのか……探し出すことが出来ずに居た訳です。
「というわけで、今ユピテルトとやらを探すのを情報屋に頼んである」
レイ氏の手回しの速さには頭が下がりますねぇ、ナッツさんから今は、大陸座は見える様になっているはずだからどこかに居るという話を聞いたのでしょう。
「どうやって探すつもりだ?」
「大陸座ユピテルトを探している事を先方に知ってもらえば良いんです。魔王討伐隊が助言を求めている、そうすれば……彼はちゃんと僕らの前に姿を現してくれるはずだ」
なるほど、ナッツさんの発案でしたか。国に巣食った魔王八逆星を退治しきった今なら確かに、ユピテルトの方で僕らの所に……。
唐突にリコレクトし、僕は思わず席を立ちあがっていました。
「あの御人か!」
「どうしたレッド、」
「なんてことでしょう、僕は宿の近くの喫茶店でその人に会っているんですよ、まさか……ユピテルトは本当に人が悪い」
シュース・ロニキス十二世が西教から遠ざかっていた理由の一つには……法王ロニキス十世が何時しか大陸座ユピテルトそのものを求める様になったから、というのもあったそうです。
シュース氏はナドゥという魔王関係者の事は全く気が付けずにいたものの、どうにも大陸座がどこに居たか、それが誰の所為で、何を成したかを……祖父にも、誰にも知られたくないと思っていた。
しかし心が弱れば誰かに漏らしてしまいそうだと感じて身を引いていた訳です。しかしそうとは知らないフィナル・レイ氏から、いずれは自分達がこの国を背負って立つのだと確認し合った仲であろうと、西教に戻るように説得され続けていた様ですね。
何度大陸座ユピテルトの事を話してしまうべきか、悩みに悩んできたという。
「お前に話をしなくて正解だった、この話をするべきは、彼らに向けてだったのだろう」
「そうかねぇ、俺に話といたって何ら問題無かったんじゃない?」
「いえ、フィナル公は魔王八逆星が大陸座を探している事を知らずに居たとすれば……その力は大いに利用可能だと不用意にその姿を探そうと動いていたでしょう」
僕の指摘に、フィナル家当主はそーかもしれないと頭を掻いて苦笑いしています。
そうしていれば、どうなっていたか想像出来ない訳ではないのでしょう。笑うのをやめ、苦い顔になって俯いた。
「本格的に魔王八逆星から手入れされるハメになってたかも、って事か」
「今僕の助言でユピテルトを探しに行ってくれている情報屋も、かつては要らぬ疑いを魔王八逆星に掛けられて、危うく取り込まれる所だったのですよ」
「そういう縁で、貴方達はあの八海巡りの船から信頼を得ている訳ですね……」
若き法王は、神妙な顔で頷く。
「我らディアス、二つの王が互いに互いを監視し合うを常とするのに、そうやって外から見られる事を良しとせず、自国の内に堂々巡りとする所があります、その最も足るのに梟看板の情報屋に厳しく当たって国の出入りを自由に許してこなかった。これからは国王側ともよく相談をし、少しずつ窓を開け……風通しを良くしていかねばならないですね」
町の様子は、国の頂上双方どちらとも頭が挿げ変わる大転換をしていた事をまだ良く知らず……いつも通り穏やかに、時に騒がしく日常を回しておりました。
夕暮れ時にもそれはまだ変わらず、早ければ明日にでも……事を知らせる新聞が発行されてそれは国の中だけに限らずディアス島の外にも……世界全てに向けて正しく発信されていく事でしょう。
大ニュースなんだから速報でも出るかと思いましたが、情報統制をしている機関は結局最後まである意味『健全』に保たれていた所為でしょうかね。タイミングや文面をギリギリまで練っているのでしょう。
二つの王が、互いに合意して国民に向けるべき正しい情報を精査し、この穏やかな日々を乱さぬように上手い事やってくれる事を祈っておきましょうか。
「やぁ、また会えたね。今日は私のおごりだよ」
大陸座ユピテルト、マツミヤさんと云うそうです。
僕が昼ご飯を食べ損ねたと入った喫茶店で会った初老の御仁です。
どこかでこの顔を見たと思った筈ですよ、そうです……このゲームの開発者チーフ、タカマツ-ミヤビさんにそっくりなんですから。あ、眼鏡は掛けていらっしゃらないですね、この世界何故か眼鏡の文化レベルが低いのでアイテムとして高価なのです。だから眼鏡かけてるのは金持ちとかエラい人に限られます。
こざっぱりとした身形で、小金持ちではあれどディアス国民の一人として国に紛れていた大陸座は笑って、僕と会った店に案内する。
「勿論話は知っているんだ、キシの封が解けてすぐ横の連絡も一応は付けていてねぇ。魔王八逆星との接触は成るべく起こさないようにしていたから、用心をして名乗るに遅くなってしまったね……謝ろう」
「いえ、結果的には上手く行ったのですし……まぁ、法王は自分が願った事を悔いている風ではありましたけれど」
「私たちは良かれと思って事を成しても、大抵の事は万事が万事、上手くはいかないようだね……私達の存在が世界に近すぎたのだろう、それを今更後悔してもしょうがないのかもしれないが」
マツミヤさんは僕らを席に付け、自分は立ったままで寂しく笑う。
「いや、残念だねぇ。もうここのケーキもお茶も食べれないんだよ。心残りはそれだけだと言ったら、君達はきっと呆れる事だろう。あとは君達に全てを託す事になってしまう」
そう言って……バゲットカットされた宝石を取り出す。
「迷惑掛けてすまないね……頼んだよ」
一番近くに居たテリーさんがその、宝石の形をしたデバイスツールを受け取りました。マツミヤさんはそのまま外に続く扉を開けて……店を出て行きました。いえ、その姿はすでに確認できません。
窓から姿を目で追っていたレイ氏は、キツネにつままれたような顔で窓の外と、店内を見比べる。
「……消えた?」
「この宝石っぽいのを手放すと、連中はこの世界から消えちまうんだとよ」
テリーさんが、中心に黒い光を灯した不思議な宝石を手の中で回しながら言いました。
「おいおい、大陸座に魔王討伐の助言を貰うんじゃぁなかったの?」
「貰いましたよ」
僕らは、大真面目に頷いて……こちらにはこちらの都合が在る事を暗に、フィナル・レイ氏に訴える。
「これで、僕らのこの国での仕事は終わりです。もう魔王八逆星がこの国にちょっかいを出す事は無いでしょう」
奴らもソレが狙いなんだな、と察した風にレイ氏は頷く。と、ふいと怪訝な顔をするので伺っている方を見やるに、いつの間にかそこに立っている人物がいますね。
もはやこの唐突な登場には慣れてきました。慣れていないのは……。
「え、誰?」
テリーさんが即座立ち上がって胸倉を掴みに行ったのを、マース君は展開に着いて行けずに止め損ねましたね。
「ちょっと!テリーさん」
「おぅおぅ、俺はこの野郎には言いたい事が沢山在るぜ」
ナッツさんが致し方なく立ち上がり、テリーさんの肩を掴み……カオス・カルマとの間に入る。
「その気持ちは分かるけど、そもそも君が暴走したのはレッドの所為なんだから、彼を殴っても変な縁を結ぶだけだから止めるべきだ」
「ちっ……こいつアレだって話だったからな……」
と言って……テリーさんちょっと僕を睨みましたね。ははは、もしかして本当に誰の所為で暴走してフェイアーン半壊させたのか、失念してたんでしょうかね。ナッツさんてば黙ってテリーさんに悪魔一発殴らせて気晴らしさせていれば良かったのに。どうせカオスの事だから黙って一発位殴られてくれますよ。無心の悪魔ですからね、頭に血が昇るという言葉は彼の辞書には無いに決まっています。なんで殴られたか分からずになんで殴った?って聞き返してくるだけです。
「さて、今回はどういう御用でしたか」
「お前達の片割れが仲違いとなっている」
レイ氏は状況が良く分からず、素直に驚いて目を白黒させていますが……何しろ相手は正真正銘の『悪魔』ですから……このまま、何もわからない内に退散させるのがベストでしょう。
「それは、ご親切にどうも、どういう状況なのでしょう」
皮肉は通じないと知っていても、ついそういう口調になってしまいますね。
「途方に暮れている、連絡のつけようが無く私を頼った様だ。タトラメルツで保護している」
「では、急ぎエイオール船で迎えに行くようにミンジャンに頼みましょう。僕らはこの国の後始末にもう少しかかります」
頷いた、様な動作をして白いローブ姿がぼんやりと薄れ、消えていく。
「え?今の何?」
もしかするとレイ氏、幽霊系ダメな人でしょうかね?さっきのユピテルトもそうですが、全く予測出来ない動きをするモノに恐怖を覚えるタイプなのかもしれません。明らかに顔色が悪い。
「フィナル公、あれは出来れば縁を繋がらない方が良い存在です。残念ながら僕らは魔王討伐の関係で少なからず、縁を結んでしまったのでこの通り近辺に出現する、見なかった事にしてください」
賢明ですねレイ氏は、紫魔導師である僕の言葉でアレが何であったのか理解出来たと見えてさらに顔が青ざめた気がします。
「貴重なモンを見てしまった様が……成程、だからお前さんらは出来るだけエラい奴らとの接触を拒もうとするのね。……わかったよ、面白そうだとお前さんらに着いて行くのは諦めよう」
「何しれっと俺らについて来ようとしてんだテメェは」
「魔王討伐の冒険譚だろう?きっと普段は御目に掛かれない様な不思議な事がいっぱい見れるだろうと思って強引にここまで着いて来て、ついに大陸座ユピテルトとかいうのも見れたのよ?あと……今のとかもな。金銭的な事くらいしか俺、援助できないんだけど、要らない?金銭的な援助とか」
魅力的な誘いではあるのですよ、でも残念な事にお金には余り困って居ないのですよね。もう少し前に会っていれば、ある程度利用価値という意味で仲良くしておいても損は無かったのですが。
「さて……ヤト達の足取りも気になる処だけど、とりあえず膿は出し切っておかないとね」
ユピテルトのマツミヤさんが、一方的な奢りとして……用意してくれていた美味しいケーキを堪能した僕らはすっかり陽が暮れたエルエラーサの町に出ました。
夜闇にまみれ、これからの国についての会合があちこちで行われている事でしょう。
その裏で前体制からの生き残りをかけた悪あがきをしている者達が少なからず、残っている事を僕らは知っています。
新しい国王が誰になったのか、法王側に居ると国王側の事が良く分からないのですがレイ氏曰く、国王側はある程度揉めてるだろうから『古い約束』を持ちだす必要があると言っています。
僕らはそれを『でっち上げ』に行くんですよ、ええ……これからね。
ディアス国の光の剣が引き抜かれ、王を示したその事件は……夜が明ける頃爆発的に語られる事となるでしょう。
多くの人が目撃してしまったのですから、それを国王側は否定する事が出来なくなる事でしょう。勿論それが狙いです。
しかし、正式な発表には今しばらくの時間が掛かりそうですね。
夜を切り裂く一条の光は、黒竜海の向こう側、タトラメルツでも見る事が出来たそうですよ。
ディアス国の宝、シリウス剣を模した国王選定の儀は滞りなく終了しました。
国王を問答無用で選ぶと伝わる宝剣が、すでに実物としては存在しない事を僕は、魔導師という都合知っていますね。故にこのディアス国の神事は、密かに魔導師協会のエラい人を呼んで行われているパフォーマンスに過ぎない。……紫位となったので、そういう国の重大な機密についても知る事となっている訳ですね、僕は。
しかし実際、魔導師が借り出されてこの儀式が行われた例はさほど多くは無い。
国王が変わる度に必ずやる儀式、というわけでは無い様だ。結局の所、国王となるべく人を法王側が強引に選ぶ時に使われる奥の手です。
とはいえ何時でもその強権を振える訳ではない。
シリウス剣での神事が執り行えるのは、国王不在が確定して居る時のみ。
また、法王側が魔導師協会にちゃんと誼を通しておかないと大事な時に、強い光線魔法を行使出来る高位魔導師を召喚出来ない。
法王ロニキス側は近年それをちゃんと守って無いので魔導師協会としては、シリウス剣模倣の話は今後は出ないだろうと言われてました。実際、僕は紫魔導師心得として色々話を聞いた時にそういう風に説明されていましたよ。
フィナル公が情報屋を駆使して集めたロダナム家の麻薬売買の事、他植民地での非人道な行いや、国王側への秘密裡に行っていた金銭的支援とその見返りの話……。諸々きっちり耳を揃えて現国王突き付けてやったそうです。
その指揮を捕ったのは、央軍の指揮を執っている一部の騎士達、穏健派として口封じに麻薬を配られていた有力者です。
彼らの中から国王が決まるとして、では誰にするかというので少なからず揉める事は、フィナル公は分かっていた様です。しかし国王側を一斉に追い詰める為には現国王と敵対する、それぞれは相容れない勢力を纏めてぶつけるしかなかったのでしょう。
ディアス国が例の強権を発動させたいというので……急ぎ連絡を取り、見返りとして今後はディアス国に魔導師が自由に出入りして商売でも何でも出来る様に規制を緩めてもらう事を法王側に約束してもらいました。
僕はこれで紫魔導師なのです、遠く離れていても、魔導都市と意思疎通を図る方法は魔法で幾らでもあります。
若き法王、シュース・ロニキス十二世が指し示した方向へ、強烈な光線魔法を放つ。
この魔法は具体的に言えばレーザーレベル4以上なので当然と、障害物に当ればそれなりのダメージを与えますが……それでも、伝承の上で語られているシリウス剣の威力程ではないですね。あと、科学的に得られるレーザーと光線魔法は理論的に全く同じでは無いので、見え方やらも大分違うと思います。
実際攻撃性のある光魔法として使われているレーザーではなく、あくまでシリウス剣を模倣したレーザーで……いや、これがとんでもない話なんですが……この光、反射しないんですよ。反射しない光の光線って何なんでしょうね?この異様な光は、宝剣と呼ばれる魔法道具が引き起こす現象として語られており、すでに実物が無いとすれば……研究の仕様も無いのでよくわかりませんが。
あらゆる全てを光の軌道で、視界の届く範囲どこまでも貫く、というのが……ディアス国が求めるレベルだそうで。並半端な魔導師ではいくらフォーミュラが整っていたって再現不可能でしょうね。
すでに失われたシリウス剣が、どうやってこの光の選定を行う事になっているかというと……空の上から目標を貫く、という事になっています。秘伝とされていますが、かつては地上で引き抜かれた剣の光が遥か天まで貫いていたそうでそれにちなんだ魔法演出を求められるわけです。
僕らはこの儀式を、もう逃れようのない物として近隣諸国からも良く見える様にする事にしました。本来はそこまで徹底的にやる必要はありません。
ナッツさんから付加魔法の重ね掛けで昇れる限界まで上空に飛んで頂きまして……そこから目的の館に向けて光線魔法を放つ。
目標とした人物には探査の糸をつけました、誤って本人を貫かないように、しかし誰もが彼が『差された』と分かる様に……。
「すごいねぇ、この世界にも『宇宙』はあるらしい」
防御魔法無しでは気圧の関係でこんな所に来るのは難しいでしょう、どれくらいの高さまで来たのかは計測器が無いので良く分かりませんが、ヘタすると成層圏まで来てるんじゃないでしょうか。
相当な上空に居ます。
この世界が僕らのリアルと同じ球体の上に在り、その星の外に宇宙と呼べる空間があるのは間違いないでしょう。この圧倒的『空』を支配しているとされるのが精霊ファマメントです。
「この世界では、宇宙って概念はあんまり定着してないよね」
そうですね、リコレクトする限り無い、というわけでは無い。言葉自体は存在し、瞬く星や太陽や、恒星との関係性を研究している魔導師も少なからずいます。いや、魔導師ではなく単なる学者で調べている人の方が多いかもしれません。
「余り悠長にしている暇は無さそうと見ますが、大丈夫ですかナッツさん、大分寒く感じる様になってきましたけど」
「いやぁ、思っていたより空気圧が低くて防御壁整えてるのでいっぱい一杯になってきた。太陽が昇るまで、もう少しこの空の上に居たい気持ちはあるけど無理っぽいねぇ」
「ではさっさと済ませましょう」
「大丈夫?この距離からでも届きそう?」
「障害物が無いのですから簡単ですよ、問題は出力ですね、一定時間の照射をお願いされていますから出来るだけ収束させて衝撃波の発生を抑えないと大爆発になりますので……」
「よし、集中」
ほんの少しのズレが、大惨事につながる事も在り得る。
こんな時、アーティフィカル・ゴーストがまだついていれば少しは演算も、魔力出力的にも楽なのかもしれません。とりあえず、紫魔導師とはいえここまでの大技をあえて出そう、という僕らの意地に応えてもらうべく……少しばかりユピテルトの力をお借りしましょうか。
情報屋の船は本当に早いですよね、一つの海をまたぐの位一呼吸だと云わんばかりに、夕方に僕らの依頼を受けたミンジャンは即座船を動かし、次の日の朝には戻って来たのだそうです。
湊町メランストリートも、首都エルエラーサも『光の剣』の話で持ち切りで賑わい立つ中、僕らは一仕事終えてミンジャンと合流すべくディアス国側のお偉いさん方のあれこれとしためんどくさそうな式典出席を断り……メランストリートに着いた頃にはアベルさんが仁王立ちで、遅いと待ち構えていました。
「お久しぶりですね……カオスの話では仲違いだ、という事でしたが」
エイオールがタトラメルツから連れ帰って来たのは……アベルさんとマツナギさんだけでした。ふむ、では逸れたのはまたしてもヤトですか?
「他は、どうしたんだい」
「それが、二人の話じゃ全く要領を得ねぇんだ、とにかく早くヤトを見つけての一点張りでよぉ」
それで興奮するアベルさんをなんとか宥めすかして話を聞くに、空間転位してしまったがこの二人はそれから逸れた、という事の様ですね。
トライアンには間違いなく魔王八逆星の施設があり、事も在ろうかそこにギルを要として封印があった、とのマツナギさんの話です。
その封印もろとも、ちょっと二人が距離を取って目を放している隙に、封印ごとごっそりと消えてしまったというのです。
魔法的に空間がどこかに消えた、という気配は精霊使いであるマツナギさんにも分かった様です。問題なのはどこに消えたのかという事。
とりあえずカオスの仕業だろうと、トライアンからは隣の領土となるタトラメルツに移動、この二人なら……国境を超える事位訳無いでしょう。
そうしてタトラメルツ領主の所に推し掛け、カオスに……あれは悪魔ですから呼ばれたら応えますね、それはちょっと危険な行為である事を後でしっかり教えておきましょう。この二人、不要な縁を結びそうで怖いですねえ……。
願われれば答えるのが悪魔というもの、代償については『先払いされている』とか何とか云われたそうです。
それでカオスが、僕らの所に現れた訳です。
誰がカオスに先払いしたものか、怪しいですねぇ。
とりあえず、ディアス国で仕入れた情報もありますので取り急ぎ、エイオール船には遠東方を目指してもらう事にしましょう。
あとは、ヤトと合流して本編の通りですね。
僕がメインとなって動いた話は以上となります。一つの話というよりは、穴埋め的な話がメインになったかと思いましたが皆さん、実にこの文体に辟易為さったことでしょう。
とりあえずはこれにて13章、僕のお話は終わりです。
結局の所僕の、リアルの方の内面的な話は無いのかって?
それはだから、本編だけでいいじゃないですか。あと、番外編とか後日談でもお読みください。
あの通り、割と末永く腐れ縁となって日々……楽しく、僕の方は一方的にかもしれませんが楽しんでいますよ?
こんなゲームに手を出して後悔した事も、振り返れば……勇気を出して、例え致命的な嘘を付いていようとも……良かったと思っていますから。
結果論なんですね、終わりが良ければ全てそれで良いのです。
僕は彼ほど捻くれていませんからね、王道と呼べるお約束というものに集約されていく事は嫌いでは無い。
同時に、彼がどんなに拒否してもお約束、あるいは王道と呼べる展開に転落していくのを、ちょっと羨ましくも思っているのですよね。
本当は……そう在りたかったのは僕だ。
でも今は……王道と僕が言う容易くは無い道を選べたのは彼だからこそだと分かっているんです。だから僕は彼に魅かれ、自分でも異様と感じる執着をしている。
そしてそれは、別にやましい事では無い。きっと許されている……この世界から。
もう、その思いについては嘘で隠す事はもうしないでしょう。
何をしたって、それだけは彼に嘘が吐けない。
いつだって何故か、ばれてしまうんですからね。
終わり
テストプレイ最後のログインして……まずリコレクトした事は『やはり北魔槍騎士団は新生魔王軍に置き換わっている』でした。
僕は殺生が出来ない、という事は……前にも書きましたね。
故に、出来るのは足止め的な攻撃が限度です。勢い余って命を取る様な事もありますが、そうしてしまうと……精神的なダメージが入って色々と能力が制限されるハメになったりします。具体的には思考回路が混乱して上手く物事を考えられなくなったり、魔導回路の繋ぎ替えに在りえないファンブルを出したりします。
その混乱を上手い事誤魔化してきましたが、基本的にはそう成らない様な支援をするしかないので、僕は本当に後方型のキャラクターなのです。
さて……僕の目の前には体の半分、氷漬けにされた騎士がいます。
下半身を地面に、両腕を柱から伸ばした氷に閉ざして……身を捻る事も出来ない状況で固定しています。
これ以上拘束を強めれば命を奪う、かと言って緩めれば……この黒い騎士、自分の手足を引きちぎってでも脱出しようとするでしょう。
すでにそうやって自分の手足を容易くもぎ取り、逃げ出してちぎれた手足を呼び戻してくっつける、という異常なリカバリーを何度かやられた後の状況です。
今ようやく狭い通路におびき寄せて拘束に成功していると……リコレクト。
この狭い通路の奥に、法王である教皇が立て籠もっている館が在ります。
勿論そこから別の逃走ルートもあるでしょうから、出来るだけ早くこの立ちはだかって来た魔王軍を倒して法王の身柄を確保しなくてはいけません。
この騎士……北魔槍騎士団の長を殺せば四方騎士舎に徘徊する新生魔王軍全てを止める事が出来るのかもしれませんが……いくら相手が怪物でもやっぱり僕には、それが、出来そうにない。
テリーさんかマース君がこちらに戻ってくるのを待つしかありません。
肩から固めているので、騎士が動かせるのは頭だけなんですが……なんか、ものすごい勢いで頭を回し始めましたね、ちぎれるかというほどにヘッドバンギング始めましたが……いやな予感がします。
被っている重鎧と鉄仮面とを留めていた金具がはじけ飛び、次の瞬間騎士の首が飛びました。いや、それは錯覚で、鉄仮面だけが勢いよく外れて飛んでいったんですが……その拍子に耳とか鼻とか一緒に削げたと見えて派手な血を吹き上げたので、僕は一瞬首が飛んだのかと思ってしまった。
僕の精神に見えないダメージが少なからず入った形となりまして……途端、拘束している氷の魔法に亀裂が入る。
首は飛んでいない、という情報を確認しダメージを即座回復。
鉄仮面を脱ぐも、削げ落ちた肉を即座再生して……男が異様な笑い声を立て始めました。
「……顔を出しても出さなくても、僕にはさほど変わりはありませんよ」
男は嗤い続けている、今まで会話らしいものは一切成立しませんでしたが、成る程中身の精神状態がすでにマトモでは無い様ですね。薬がキマッてしまった人の様に、笑い声と唸り声を上げながら、ひたすら動く首を動かし抵抗している。
そのうちに無駄な抵抗と悟ったのか、動きを止めて笑い声と唸り声もくぐもった様に静かになっていく。
と、大分辺りは静かになりましたね。先ほどまでは随分煩かったものですが。
北魔槍騎士団に入り込んでいた新生魔王軍は、僕ら三人の襲撃に即座本性を晒しませんでした。
しかし予定通り遠慮なく、テリーさんが巡回していた黒鎧の騎士の頭を落としましたね。相手が新生魔王軍である事を僕らは、ブルーフラグが立って居なくともフラグの色は分かります。故に迷いの無い攻撃が出来るのです。
頭を落としても簡単には死なない、攻撃された事でまるでスイッチが入ったかのように、北魔槍騎士は凶暴化し辺り構わず暴れ出しました。
南国で確認した通り、頭を潰すか切り離すと再生が止まる事を確認。
まず早朝巡回で動いていた北魔槍騎士を倒し、騒ぎに駆けつけて来た他の騎士達に向けてはあえて腕や足をふっ飛ばして異様な再生をする様を見せつけて……この通り、北魔槍騎士団は魔王軍にすり替わっているから『逃げる様に』と触れ回る事になりました。
彼らに一緒に戦えと言った所で戦わない事は分かっています。
四方騎士団の多くは、すでにお飾り色で実戦出来る人材がほぼ居ないに等しい……彼らは、央軍や騎士ではない兵卒を指揮する側であり、自分で剣を振るう必要が無いのです。
逃げてください、魔王軍だから騎士は手出し無用、逃げて良しと云えば……大義名分を得たとばかりに逃げ出すのが四方騎士というものだと……言っていたマース君の話は大体当たっていましたね。稀にヘタな自信に満ちた騎士が加勢するなどと言って抜刀しましたが、足手まとい以外の何物でもありませんでした。
そういう騒動がいつの間にか落ち着いて、恐らく……残りの新生魔王軍もテリーさんらで黙らせた後なのでしょう。
「けれど少なくとも俺達には分かる!」
静かになったからでしょうか、はるか遠くで……そう叫んだ誰かの声が僕の所まで届きましたね。
「分かっているぜ、お前が確かにそこにいるって事は、な!」
今回は意識して声に耳をすませました、テリーさんですね……今、誰かと話しながら殴り合いをしていると見えて再び暴力的な音も響いてこちらに届きます。
声が届けば魔法的な橋が掛けやすくなる、意思伝達魔法を構築、テリーさんにひと段落ついたらこちらに戻って来てこの目の前の騎士に止めを刺してもらいたいと伝えましょうか。
しかし……誰と話をしているのか。相手と思われる者の声は拾えませんね。
聞こえて来たセリフからするともしかして、
「まだ逃げんなよ!俺はそれ、許さねぇからな!」
……ヤトに向けて、叫んでいる様に思えますね。
「お前とはまだちゃんと、決着付けてねぇんだからなぁ!」
何かが潰れるような音がして……再び静かになりましたね。いや、重鎧が石の廊下を歩く音が聞こえて来る。僕の伝達魔法を無事受け取ってくれたと見えて、走って近づいて来る音も。
「レッドさん、」「レッド!」
マース君とテリーさんが同時に、僕が居る狭い通路に到達。
すでに何をして欲しいのかの伝達は済んでいます、それはテリーさんにしか向けていませんでしたが……マース君は迷いなく血肉に濡れた剣を上段に構え、笑い続ける男の首を刎ねました。そして、転がったそれをテリーさんが容赦なく踏み抜きましたね……いやはや、他人がやった事とはいえそれでも僕には少なからず精神的ダメージがあるんですよ、思わず目を逸らし、見ないようにしていましたが……どうしたって音が的確に状況を伝えてくるんですよね。
僕が本当に殺生現場が苦手な事に、テリーさんは気が付いてたみたいです。
ええ、実は皆さんの背後に居る事が多い僕は、ヤトらが魔王軍を屠るその様子をなるべく見ないようにと努力し続けて居たりしたんです。で、テリーさんは大分前からそれに気が付いていたらしい。
「終わったぞ、今黒い染みになった」
その声ではっとなって目を開ける。
「……お手数おかけします」
「楽な仕事だったぜ」
と言って、黒い染みが今も絶え間なく煙となって立ち上る、腕や足を振るテリー。
「よくわかんねぇが殆ど……なんつーの、寝てたとは違うな……起動してねぇ、って感じだった」
「成る程……興味のある話ですね、旧式のように元になっただろう人間に擬態させておく事は出来ない、という事でしょうか」
「擬態出来るったって、一度成ったら元に戻れない訳だろ?」
「新生魔王軍は元になった形のままで怪物化している、それゆえに何か……貴方の言う所の『起動』させておくに何らかのコストが掛かるのかもしれません」
故にその起動と停止を司っている統率体が居る可能性がありますね、この……今は鎧だけになってしまった北魔槍騎士団団長の様に。
アービスが着けている黒い鎧に似ていますが……同じではないですね。僕が鎧を観察していると知ってマース君が教えてくれましたが、ここに落ちている抜け殻の鎧が正式な北魔槍騎士団長の鎧だ、との事です。細かいデザインが決まっている訳ではない様ですが、確かに所々にそれらしい紋章のモチーフが見られます。
「さて……では、早い所法王を捕まえて話を伺いましょうか」
「もう逃げたんじゃねぇのか?」
「逃げられないように妨害するのは得意です」
僕がにっこり笑ったのに、そーだったなとテリーさんは頭を掻いてそっぽを向きましたね。
隠し通路等から逃げ出しても、必ず同じ扉から戻って来てしまう様にですね、西教教皇の間には反芻空間転位結界というものを張っておいたのですよ。
一定の空間を超えると強制的に空間転位し、必ず定めた所に戻されてしまうという、閉じた結界を貼った訳ですが……無事に閉じ込めに成功しています。某天使教の上級神官殿の様に、ちょっと魔法の心得があるなどと容易く突破されるような事態にならずに良かったです。
何とも逃げられないと悟ったらしい、高齢のご老人が出口とした扉の前で蹲っていました。
遠東方国イシュタル、ひいては南国からも正式な魔王討伐隊として認定されている旨を告げ、北魔槍騎士団との関係性を迫ったところ、十代目ロニキス法王は素直に魔王八逆星ナドゥの名前を出しましたね。
ようやくここで彼の名前を聞き出せた形です。
然るべき処へ突き出す前に、まずは魔王討伐隊としての尋問を願い、それが許された所からして法王も……かなり現状に向けて疲労していたのかもしれません。漸く全てが暴かれて安堵している様にも見えます。
「ナドゥとは、何時から手を組むようになったのですか」
「その前に弁解するが、彼が魔王八逆星であるとは私は認識していなかった」
「ほー、この期に及んでまだそんな事を言うのかよ」
と、拳を固めようとするテリーさんを僕とマース君で押さえながら、話を続けてくださいと皺と髭にまみれた顔の法王に勧めるも……下手をすれば問答無用で命を取られると思っていてそれを恐れていたのでしょう。テリーさんの気配に委縮して口を閉じてしまいました。
「……」
「ロニキス法王、確かにナドゥは自分は魔王八逆星では無いなどと言う所がある様です。しかし確実に彼は魔王八逆星側に在り……魔王も、大陸座も倒そうと企んでいる者なのです。見方によっては毒にも薬にもなったでしょう。貴方から見れば、多いなる救いに見えたかもしれませんがその様に劇薬を飲ませるのが彼の手口です」
「……彼は、アービスが死んだと伝えに来た」
神に選ばれた戦士が、死んで戻った事などどうしても認められない。
アービスの死を認められる証拠となる物も無い、彼が勇敢に戦って死んだ事を証明する者も居ない、そのような騎士の死は到底受け入れる事は出来ない……と、私はナドゥの言葉を突っぱねたのだと、ロニキス法王は俯いままで漸く話を続けてくれました。
その後の話は、要約するとこうです。
するとナドゥは、アービスの死体が在れば良いのかと聞いて来た。
勿論そうではなく、理想とするならば魔王討伐から生きて戻って来た方が良いと法王は、望んだ様ですね。ナドゥは、死んでいた方が良いのではないのかと尋ねて来た様ですが……やはり予想していた通り、でしたか。
『神』である大陸座ユピテルトからのお告げによって魔王ギガースを倒すべく兵を送れと命じられ、これに従った法王ロニキス十世は、間違いなく魔王を屠る事が出来る様に……一番強い者がその役に着く習わしとなっていた北魔槍騎士団に魔王討伐を命じた訳です。
それが、死んで戻って来たというのは自分の沽券に係わる問題だったわけですね。
魔王を倒せず死んだという結果は、ロニキス十世の頭の中に初めから無かった、それくらいには魔王という存在を甘く見ていた事を今は認められる様です。
ナドゥが持ってきた話に混乱し、錯乱気味になった事を今は……認める事が出来る、と云う。
とにかく、混乱があって法王は一旦、ナドゥという謎の男を門前払いしたのですが……その後に、法王のやや錯乱した話から何を考えついたものか。
ナドゥは、北魔槍騎士団長アービスを生きて連れて帰って来た―――と、云うのです。
十中八九それは、今の元魔王八逆星、マリア出身の……経歴を全て失った男、僕らが知るアービスでしょう。
そうして、ナドゥこう言ったというのです。
第一次魔王討伐隊は悉く全滅し、今やそれらは魔王八逆星と名乗ってこの世に仇成す存在と成り下がった。世界は、討伐隊が破れた事は知っているが、彼らのその後の顛末を認めようとはしない……と。
そうして第一次魔王討伐隊として旅立ったはずの北魔槍騎士団団長を指し……これもまた、そういう可能性が在る存在であるが、貴方が私の云う事実を認めてくれるというのなら、あるいはこの騎士は世界に仇成す存在を打ち破る力となるかもしれない。
その頃西国では破壊魔王と呼ばれる存在が暴れている話が在り、南国の王が心変わりして他国に侵略戦争をしようとしているという情報がディアス国にも入って来たそうです。
どこからともなく、南国の王は魔王八逆星に乗っ取られてしまったのだという噂があり、それを聞いて法王は……『それら』を、自分が手にした力である『北魔槍騎士団』を使って討つべきなのだと『悟った』と、云うのです。
それは、完全にそういうお膳立てをされていたダケですよ。
幸いというか何というか、その前に僕らが南国がおかしい事に気が付いて、殺されそうになっていた王子を助け、偽王を討ってしまった。
しかしロニキス法王には、南国の偽王討伐の話はまともに耳に入って行かなかった様だ。
弟王が偽王に成り代わり、あまつさえ魔王八逆星だった事は南国王家の醜態である都合、あまり詳しくは世に伝えられていなかった事情もあるでしょう。
入ってくる情報を、いつからか自分の都合の良い方向に受け取るようになってしまっていたと法王は、頭を抱えて涙しましたね……何時から自分はナドゥから、良い助言を得ていると信じていたのか。奴の言いなりに成っていたのか……記憶の整合性が保てずに苦悩するばかりの様です。
彼の謎の能力『経験値の取得』が記憶操作の類であるとするなら、ロニキス法王は完全に彼の手の上で踊らされていたという事でしょう。
ナドゥは、ロダナム家には自分の存在を完全に消して何らかの干渉をした様ですが、ロニキス法王には利用する予定無く会った経験がすでに在って、それをどうしても書き換えられず……むしろ自分自身を鍵として操る事にしたのでしょうね。
これ以上の尋問は負担が大きい、下手をすれば……法王の意識が壊れかねない。
僕はそう判断し、鍵となっている魔王八逆星、ナドゥの名前を意図的に忘却させる魔導式を用い、ロニキス法王の記憶改竄の整合性の帳尻を合わせました。
途端、何が起きているのか良く分からない風に惚けた様になってしまいましたが……法王もすでに御歳ですし、精神が壊れるよりかは何か大事な事を忘れてしまったぼけ老人であった方が救いがあるでしょう。
そう、こんな記憶の危うい人物を頂点にするべきでは無いのです。
それで、肝心の大陸座ユピテルトですが……それはこのディアス国に間違いなく存在するシュラード神に並ぶ神であるという認識で間違いではない。ところが、その存在を信じているのは法王だけの様ですね……話を聞くに。
「つまり、夢の中でユピテルトのお告げが何度かあって、それは法王にしか現れなかったというのですね」
ロニキス十二世が僕の確認に頷いて答えてくれました。
……彼はまだ三十代で、ディアス国の権力者としては十二分に若いそうです。きっちりとした聖職者の法衣に身を包んだ清潔そうな彼は、しかし終始機嫌が悪そうな顔をしていますね。
魔王討伐隊、それにフィナル家当主を交えた席がその日の夜にも設けて頂きました。
それはこの若きロニキス十二世、新たな法王の力添えで実現したものです。というよりは、早速強権を発動させて今回の首謀者たちを名指して呼び寄せた、という言い方も……出来なくはないのかもしれません。
「法王の語る夢のお告げを、多くは信じていませんでした。しかし予言としての不思議な夢は何度もあって、多くの真実を言い当ててしまった。何より法王がその奇跡を信じ、喜びました」
で、しょうねぇ……ユピテルトも人が悪い。人を操る技に中々長けている。
「しかし、このシュース君の父上は耄碌法王を一刻も早く引きずりおろしたくてしょうがなかったもんでねぇ、ユピテルトのお告げによって、色々裏で画策してる事がバレちゃってすっかり弱みを突かれちゃって」
「父は、早々と疲れて引退宣言をされてしまいました。その後心労が祟って亡くなってしまったのですが……僕はそんな親世代をずっと見て育った所為か出来れば法務に着く事も嫌だったのですよ。そうやって腐って居た所、レイから……大変にしつこく説得されていましてね」
フィナル家当主に向けて更にも増して不機嫌な顔を向けましたねシュース・ロニキス十二世。
向けられた方は無邪気に笑っています。
「私だってロニキスの血を引くのですよ?未来同じように耄碌しないとは限らないでしょう?」
「歴代ロニキス法王はどっちかって言えば、有能だったって語られてるじゃない」
「それは都合よく歴史が改竄されて、その様に伝わっているだけでしょう……多分」
「わかってないわねシュース君、そういう反骨精神こそがロニキス法王家ってもんよ。どうせ美化されて正しく伝わっていないのなら、自分こそは正しくあろうとした、だからこそ法王はずっとロニキス一家が担ってるのだと俺は思うわね」
すでに、世代交代は免れないと悟った法王サイドは、同じく一斉粛清と後継者問題でもめている国王サイドが責任問題を持ち出す前に……シュース・ロニキスを新しい法王に指名しまして、先ほどそれがほぼ全会一致かという即決で決まったばかりです。
ディアス国の仕来たりはよく分かりませんが……法王はこれを退ける権利が無い様でシュース氏は完全に仏頂面のままでしたね。とにもかくにも、彼は西教主神シュラードに終身仕える事を誓わざるを得なくなったようです。
そのお膳立てを密かに根回ししていた……レイ・フィナルにしてやられたという顔で、しかしそれ以上に何か先ほどからため息ばかりついてます……年代が近い所からして二人は、若いころから交友があった様な気配ですね。
「で、お前の目論みで国王は……まさかあの男を選んだんじゃないだろうな?」
あ、もう一人腐れ縁が居る気配ですか。僕は眼鏡を押し上げてお約束展開に内心ワクワクしていたりします。
レイ氏は肩をすくめて笑う。
「俺は選べない方だからねぇ」
「白々しい……、お前だけですよ、昔の話をいつまでも真面目に叶えようとしているのは」
「それは違うわよ、お前さんが一番最初に諦めただけよ」
「……だから、大いに戸惑っている所ですよ……」
新しい法王はよっぽど現状が気に入らない様で、呼吸するたびにため息を吐くいてますね。
愚痴を言いたくてフィナル家当主や魔王討伐隊の僕らを呼んだ訳ではないと思うのですが。そろそろ水を差すべきか、いや国王候補とやらの腐れ縁関係も大いに気になる処ではありますが……追及したら逆にはぐらかされるような気配も在り、ならばレイ氏に詳しい事を聞いた方が良いかと視線を動かしたところ、どうやら僕らが展開に戸惑っているとでも思ったのでしょうか。
「ああ、すまないわねぇ法王のグチばっかりで。お前さんらは急ぐ旅だと情報屋から聞いていたわね、本題に入ろう」
否定する訳にも行かず、僕は発言を飲み込まざるを得ませんでした。そんな僕を、ナッツさんがやや苦笑を向けている所……何でもかんでも色々『知りたい』僕の内心色々穿たれている気配です。
「彼らはロニキス十二世にお聞きしたい事があるらしい、これからウチは儀式やら何やらで忙しくなるだろうから今のうちに聞いておくと良いわ」
「では、……僕ら魔王討伐隊は、魔王討伐の為に大陸座を巡っております」
その理由は、僕らデバッカーの都合ですから説明する訳にはいきませんので例によって、嘘をでっち上げてそれらしく話しましょう。
「そもそもは大陸座が発した魔王討伐、それが現魔王八逆星の出現に繋がった理由や原因などを聞き回り、魔王討伐の為の助言を求めております」
「大陸座か……」
そこで法王はまたしても深いため息を漏らす。
それは……知らない、という意味では無い様に感じます。何か知っているからこその杞憂が在る様だ。
「大陸座は、見えなくなって久しいな。私の方でもずっと探していますが見事に身をくらませてしまって今もこの国に居るのかどうか保障は出来ない」
「ロニキス法王は……大陸座ユピテルトをご存じなのですか?」
再びため息を漏らし、額に手を置いて……暫らくしてから法王は口を開きました。
「先代と父の無謀な諍いを、止める様にユピテルトに願ったのは私なのです」
シュース・ロニキス法王は、元法王である祖父十世をあの手この手で引き摺り下ろそうと画策する父の行いに、当時、大変な失望を為さったのだそうです。
なんとかして父の暴走の様にも思える行為を止めようとしたものの、父が築いた影響力の構造を崩す事は難しく、まただからと言って祖父に味方して父を追い詰める様な事もしたくなかった。
なんとか穏便に事を治めるにはどうすればいいのか、何をすれば父の法王にならんとする野心を抑える事が出来るのか。どうせ法王が崩れれば自然とその座は父の物だ、ロニキス十世は持ってあと十年程だと囁かれているのだからそれまで、なんとか待ってもらう説得が出来ずに居たシュースは……ある時、不思議な人と出会ったのですね。
どういうきっかけだったかは忘れたそうですが、その人物と偶然席を共にしてお茶を飲んでいたという。
何気ない会話を重ねるうちに、心に積もった重圧を口に出し……なんとか法王の身内での争いを治める方法は無いだろうかと色々話をしてしまったのだそうです。
例えば、国王が光の剣によって確実に選ばれる事が在るように……法王にも何か印があって、その絶対的な印で定めて在れば、と。
ならば、私がこの国について知っている事を、法王の耳元に囁くとしよう。
大陸座ユピテルト、彼はディアス国首都エルエラーサに住まう一人の人間として紛れて暮らしているという。
半信半疑であったシュース氏でしたが、後にそれは法王に夢の予言として現れ……最終的には予言は父の卑劣を暴く事となってしまった。
そうして父が病を得て、死んでも尚シュース氏は大陸座ユピテルトのお告げが、自分が望んだせいで起きてしまった事だと誰にも言えなかったのですね。そうして自分が法王になる事にも引け目を負って、身を引こうと考える様になった訳ですか。
「そして、法王は魔王討伐の予言を齎され、北魔槍騎士団を遣わしたのですね」
「その予言が最後だったのです……祖父はそうだとは言わず以後も、何かと都合を通す為に予言でユピテルトから聞いたのだなどと言っていましたが……それが最後であったはずです」
大陸座が封じられ、姿を消したからでしょう。
エルドロウが画策し、大陸座ジーンウイントが便乗して放った魔法によって大陸座は、世界への干渉力を奪われてしまった。シュース氏は市井に紛れているユピテルトが探せなくなった時から、同時に祖父法王の予言が怪しいものに変わった事を察したのでしょうね。
ユピテルトを語る法王にナドゥが近づいた理由がこれでよく分かりました。
しかし、夢で会ったとしか言わない法王から、ついに大陸座ユピテルトがどこに居るのか……探し出すことが出来ずに居た訳です。
「というわけで、今ユピテルトとやらを探すのを情報屋に頼んである」
レイ氏の手回しの速さには頭が下がりますねぇ、ナッツさんから今は、大陸座は見える様になっているはずだからどこかに居るという話を聞いたのでしょう。
「どうやって探すつもりだ?」
「大陸座ユピテルトを探している事を先方に知ってもらえば良いんです。魔王討伐隊が助言を求めている、そうすれば……彼はちゃんと僕らの前に姿を現してくれるはずだ」
なるほど、ナッツさんの発案でしたか。国に巣食った魔王八逆星を退治しきった今なら確かに、ユピテルトの方で僕らの所に……。
唐突にリコレクトし、僕は思わず席を立ちあがっていました。
「あの御人か!」
「どうしたレッド、」
「なんてことでしょう、僕は宿の近くの喫茶店でその人に会っているんですよ、まさか……ユピテルトは本当に人が悪い」
シュース・ロニキス十二世が西教から遠ざかっていた理由の一つには……法王ロニキス十世が何時しか大陸座ユピテルトそのものを求める様になったから、というのもあったそうです。
シュース氏はナドゥという魔王関係者の事は全く気が付けずにいたものの、どうにも大陸座がどこに居たか、それが誰の所為で、何を成したかを……祖父にも、誰にも知られたくないと思っていた。
しかし心が弱れば誰かに漏らしてしまいそうだと感じて身を引いていた訳です。しかしそうとは知らないフィナル・レイ氏から、いずれは自分達がこの国を背負って立つのだと確認し合った仲であろうと、西教に戻るように説得され続けていた様ですね。
何度大陸座ユピテルトの事を話してしまうべきか、悩みに悩んできたという。
「お前に話をしなくて正解だった、この話をするべきは、彼らに向けてだったのだろう」
「そうかねぇ、俺に話といたって何ら問題無かったんじゃない?」
「いえ、フィナル公は魔王八逆星が大陸座を探している事を知らずに居たとすれば……その力は大いに利用可能だと不用意にその姿を探そうと動いていたでしょう」
僕の指摘に、フィナル家当主はそーかもしれないと頭を掻いて苦笑いしています。
そうしていれば、どうなっていたか想像出来ない訳ではないのでしょう。笑うのをやめ、苦い顔になって俯いた。
「本格的に魔王八逆星から手入れされるハメになってたかも、って事か」
「今僕の助言でユピテルトを探しに行ってくれている情報屋も、かつては要らぬ疑いを魔王八逆星に掛けられて、危うく取り込まれる所だったのですよ」
「そういう縁で、貴方達はあの八海巡りの船から信頼を得ている訳ですね……」
若き法王は、神妙な顔で頷く。
「我らディアス、二つの王が互いに互いを監視し合うを常とするのに、そうやって外から見られる事を良しとせず、自国の内に堂々巡りとする所があります、その最も足るのに梟看板の情報屋に厳しく当たって国の出入りを自由に許してこなかった。これからは国王側ともよく相談をし、少しずつ窓を開け……風通しを良くしていかねばならないですね」
町の様子は、国の頂上双方どちらとも頭が挿げ変わる大転換をしていた事をまだ良く知らず……いつも通り穏やかに、時に騒がしく日常を回しておりました。
夕暮れ時にもそれはまだ変わらず、早ければ明日にでも……事を知らせる新聞が発行されてそれは国の中だけに限らずディアス島の外にも……世界全てに向けて正しく発信されていく事でしょう。
大ニュースなんだから速報でも出るかと思いましたが、情報統制をしている機関は結局最後まである意味『健全』に保たれていた所為でしょうかね。タイミングや文面をギリギリまで練っているのでしょう。
二つの王が、互いに合意して国民に向けるべき正しい情報を精査し、この穏やかな日々を乱さぬように上手い事やってくれる事を祈っておきましょうか。
「やぁ、また会えたね。今日は私のおごりだよ」
大陸座ユピテルト、マツミヤさんと云うそうです。
僕が昼ご飯を食べ損ねたと入った喫茶店で会った初老の御仁です。
どこかでこの顔を見たと思った筈ですよ、そうです……このゲームの開発者チーフ、タカマツ-ミヤビさんにそっくりなんですから。あ、眼鏡は掛けていらっしゃらないですね、この世界何故か眼鏡の文化レベルが低いのでアイテムとして高価なのです。だから眼鏡かけてるのは金持ちとかエラい人に限られます。
こざっぱりとした身形で、小金持ちではあれどディアス国民の一人として国に紛れていた大陸座は笑って、僕と会った店に案内する。
「勿論話は知っているんだ、キシの封が解けてすぐ横の連絡も一応は付けていてねぇ。魔王八逆星との接触は成るべく起こさないようにしていたから、用心をして名乗るに遅くなってしまったね……謝ろう」
「いえ、結果的には上手く行ったのですし……まぁ、法王は自分が願った事を悔いている風ではありましたけれど」
「私たちは良かれと思って事を成しても、大抵の事は万事が万事、上手くはいかないようだね……私達の存在が世界に近すぎたのだろう、それを今更後悔してもしょうがないのかもしれないが」
マツミヤさんは僕らを席に付け、自分は立ったままで寂しく笑う。
「いや、残念だねぇ。もうここのケーキもお茶も食べれないんだよ。心残りはそれだけだと言ったら、君達はきっと呆れる事だろう。あとは君達に全てを託す事になってしまう」
そう言って……バゲットカットされた宝石を取り出す。
「迷惑掛けてすまないね……頼んだよ」
一番近くに居たテリーさんがその、宝石の形をしたデバイスツールを受け取りました。マツミヤさんはそのまま外に続く扉を開けて……店を出て行きました。いえ、その姿はすでに確認できません。
窓から姿を目で追っていたレイ氏は、キツネにつままれたような顔で窓の外と、店内を見比べる。
「……消えた?」
「この宝石っぽいのを手放すと、連中はこの世界から消えちまうんだとよ」
テリーさんが、中心に黒い光を灯した不思議な宝石を手の中で回しながら言いました。
「おいおい、大陸座に魔王討伐の助言を貰うんじゃぁなかったの?」
「貰いましたよ」
僕らは、大真面目に頷いて……こちらにはこちらの都合が在る事を暗に、フィナル・レイ氏に訴える。
「これで、僕らのこの国での仕事は終わりです。もう魔王八逆星がこの国にちょっかいを出す事は無いでしょう」
奴らもソレが狙いなんだな、と察した風にレイ氏は頷く。と、ふいと怪訝な顔をするので伺っている方を見やるに、いつの間にかそこに立っている人物がいますね。
もはやこの唐突な登場には慣れてきました。慣れていないのは……。
「え、誰?」
テリーさんが即座立ち上がって胸倉を掴みに行ったのを、マース君は展開に着いて行けずに止め損ねましたね。
「ちょっと!テリーさん」
「おぅおぅ、俺はこの野郎には言いたい事が沢山在るぜ」
ナッツさんが致し方なく立ち上がり、テリーさんの肩を掴み……カオス・カルマとの間に入る。
「その気持ちは分かるけど、そもそも君が暴走したのはレッドの所為なんだから、彼を殴っても変な縁を結ぶだけだから止めるべきだ」
「ちっ……こいつアレだって話だったからな……」
と言って……テリーさんちょっと僕を睨みましたね。ははは、もしかして本当に誰の所為で暴走してフェイアーン半壊させたのか、失念してたんでしょうかね。ナッツさんてば黙ってテリーさんに悪魔一発殴らせて気晴らしさせていれば良かったのに。どうせカオスの事だから黙って一発位殴られてくれますよ。無心の悪魔ですからね、頭に血が昇るという言葉は彼の辞書には無いに決まっています。なんで殴られたか分からずになんで殴った?って聞き返してくるだけです。
「さて、今回はどういう御用でしたか」
「お前達の片割れが仲違いとなっている」
レイ氏は状況が良く分からず、素直に驚いて目を白黒させていますが……何しろ相手は正真正銘の『悪魔』ですから……このまま、何もわからない内に退散させるのがベストでしょう。
「それは、ご親切にどうも、どういう状況なのでしょう」
皮肉は通じないと知っていても、ついそういう口調になってしまいますね。
「途方に暮れている、連絡のつけようが無く私を頼った様だ。タトラメルツで保護している」
「では、急ぎエイオール船で迎えに行くようにミンジャンに頼みましょう。僕らはこの国の後始末にもう少しかかります」
頷いた、様な動作をして白いローブ姿がぼんやりと薄れ、消えていく。
「え?今の何?」
もしかするとレイ氏、幽霊系ダメな人でしょうかね?さっきのユピテルトもそうですが、全く予測出来ない動きをするモノに恐怖を覚えるタイプなのかもしれません。明らかに顔色が悪い。
「フィナル公、あれは出来れば縁を繋がらない方が良い存在です。残念ながら僕らは魔王討伐の関係で少なからず、縁を結んでしまったのでこの通り近辺に出現する、見なかった事にしてください」
賢明ですねレイ氏は、紫魔導師である僕の言葉でアレが何であったのか理解出来たと見えてさらに顔が青ざめた気がします。
「貴重なモンを見てしまった様が……成程、だからお前さんらは出来るだけエラい奴らとの接触を拒もうとするのね。……わかったよ、面白そうだとお前さんらに着いて行くのは諦めよう」
「何しれっと俺らについて来ようとしてんだテメェは」
「魔王討伐の冒険譚だろう?きっと普段は御目に掛かれない様な不思議な事がいっぱい見れるだろうと思って強引にここまで着いて来て、ついに大陸座ユピテルトとかいうのも見れたのよ?あと……今のとかもな。金銭的な事くらいしか俺、援助できないんだけど、要らない?金銭的な援助とか」
魅力的な誘いではあるのですよ、でも残念な事にお金には余り困って居ないのですよね。もう少し前に会っていれば、ある程度利用価値という意味で仲良くしておいても損は無かったのですが。
「さて……ヤト達の足取りも気になる処だけど、とりあえず膿は出し切っておかないとね」
ユピテルトのマツミヤさんが、一方的な奢りとして……用意してくれていた美味しいケーキを堪能した僕らはすっかり陽が暮れたエルエラーサの町に出ました。
夜闇にまみれ、これからの国についての会合があちこちで行われている事でしょう。
その裏で前体制からの生き残りをかけた悪あがきをしている者達が少なからず、残っている事を僕らは知っています。
新しい国王が誰になったのか、法王側に居ると国王側の事が良く分からないのですがレイ氏曰く、国王側はある程度揉めてるだろうから『古い約束』を持ちだす必要があると言っています。
僕らはそれを『でっち上げ』に行くんですよ、ええ……これからね。
ディアス国の光の剣が引き抜かれ、王を示したその事件は……夜が明ける頃爆発的に語られる事となるでしょう。
多くの人が目撃してしまったのですから、それを国王側は否定する事が出来なくなる事でしょう。勿論それが狙いです。
しかし、正式な発表には今しばらくの時間が掛かりそうですね。
夜を切り裂く一条の光は、黒竜海の向こう側、タトラメルツでも見る事が出来たそうですよ。
ディアス国の宝、シリウス剣を模した国王選定の儀は滞りなく終了しました。
国王を問答無用で選ぶと伝わる宝剣が、すでに実物としては存在しない事を僕は、魔導師という都合知っていますね。故にこのディアス国の神事は、密かに魔導師協会のエラい人を呼んで行われているパフォーマンスに過ぎない。……紫位となったので、そういう国の重大な機密についても知る事となっている訳ですね、僕は。
しかし実際、魔導師が借り出されてこの儀式が行われた例はさほど多くは無い。
国王が変わる度に必ずやる儀式、というわけでは無い様だ。結局の所、国王となるべく人を法王側が強引に選ぶ時に使われる奥の手です。
とはいえ何時でもその強権を振える訳ではない。
シリウス剣での神事が執り行えるのは、国王不在が確定して居る時のみ。
また、法王側が魔導師協会にちゃんと誼を通しておかないと大事な時に、強い光線魔法を行使出来る高位魔導師を召喚出来ない。
法王ロニキス側は近年それをちゃんと守って無いので魔導師協会としては、シリウス剣模倣の話は今後は出ないだろうと言われてました。実際、僕は紫魔導師心得として色々話を聞いた時にそういう風に説明されていましたよ。
フィナル公が情報屋を駆使して集めたロダナム家の麻薬売買の事、他植民地での非人道な行いや、国王側への秘密裡に行っていた金銭的支援とその見返りの話……。諸々きっちり耳を揃えて現国王突き付けてやったそうです。
その指揮を捕ったのは、央軍の指揮を執っている一部の騎士達、穏健派として口封じに麻薬を配られていた有力者です。
彼らの中から国王が決まるとして、では誰にするかというので少なからず揉める事は、フィナル公は分かっていた様です。しかし国王側を一斉に追い詰める為には現国王と敵対する、それぞれは相容れない勢力を纏めてぶつけるしかなかったのでしょう。
ディアス国が例の強権を発動させたいというので……急ぎ連絡を取り、見返りとして今後はディアス国に魔導師が自由に出入りして商売でも何でも出来る様に規制を緩めてもらう事を法王側に約束してもらいました。
僕はこれで紫魔導師なのです、遠く離れていても、魔導都市と意思疎通を図る方法は魔法で幾らでもあります。
若き法王、シュース・ロニキス十二世が指し示した方向へ、強烈な光線魔法を放つ。
この魔法は具体的に言えばレーザーレベル4以上なので当然と、障害物に当ればそれなりのダメージを与えますが……それでも、伝承の上で語られているシリウス剣の威力程ではないですね。あと、科学的に得られるレーザーと光線魔法は理論的に全く同じでは無いので、見え方やらも大分違うと思います。
実際攻撃性のある光魔法として使われているレーザーではなく、あくまでシリウス剣を模倣したレーザーで……いや、これがとんでもない話なんですが……この光、反射しないんですよ。反射しない光の光線って何なんでしょうね?この異様な光は、宝剣と呼ばれる魔法道具が引き起こす現象として語られており、すでに実物が無いとすれば……研究の仕様も無いのでよくわかりませんが。
あらゆる全てを光の軌道で、視界の届く範囲どこまでも貫く、というのが……ディアス国が求めるレベルだそうで。並半端な魔導師ではいくらフォーミュラが整っていたって再現不可能でしょうね。
すでに失われたシリウス剣が、どうやってこの光の選定を行う事になっているかというと……空の上から目標を貫く、という事になっています。秘伝とされていますが、かつては地上で引き抜かれた剣の光が遥か天まで貫いていたそうでそれにちなんだ魔法演出を求められるわけです。
僕らはこの儀式を、もう逃れようのない物として近隣諸国からも良く見える様にする事にしました。本来はそこまで徹底的にやる必要はありません。
ナッツさんから付加魔法の重ね掛けで昇れる限界まで上空に飛んで頂きまして……そこから目的の館に向けて光線魔法を放つ。
目標とした人物には探査の糸をつけました、誤って本人を貫かないように、しかし誰もが彼が『差された』と分かる様に……。
「すごいねぇ、この世界にも『宇宙』はあるらしい」
防御魔法無しでは気圧の関係でこんな所に来るのは難しいでしょう、どれくらいの高さまで来たのかは計測器が無いので良く分かりませんが、ヘタすると成層圏まで来てるんじゃないでしょうか。
相当な上空に居ます。
この世界が僕らのリアルと同じ球体の上に在り、その星の外に宇宙と呼べる空間があるのは間違いないでしょう。この圧倒的『空』を支配しているとされるのが精霊ファマメントです。
「この世界では、宇宙って概念はあんまり定着してないよね」
そうですね、リコレクトする限り無い、というわけでは無い。言葉自体は存在し、瞬く星や太陽や、恒星との関係性を研究している魔導師も少なからずいます。いや、魔導師ではなく単なる学者で調べている人の方が多いかもしれません。
「余り悠長にしている暇は無さそうと見ますが、大丈夫ですかナッツさん、大分寒く感じる様になってきましたけど」
「いやぁ、思っていたより空気圧が低くて防御壁整えてるのでいっぱい一杯になってきた。太陽が昇るまで、もう少しこの空の上に居たい気持ちはあるけど無理っぽいねぇ」
「ではさっさと済ませましょう」
「大丈夫?この距離からでも届きそう?」
「障害物が無いのですから簡単ですよ、問題は出力ですね、一定時間の照射をお願いされていますから出来るだけ収束させて衝撃波の発生を抑えないと大爆発になりますので……」
「よし、集中」
ほんの少しのズレが、大惨事につながる事も在り得る。
こんな時、アーティフィカル・ゴーストがまだついていれば少しは演算も、魔力出力的にも楽なのかもしれません。とりあえず、紫魔導師とはいえここまでの大技をあえて出そう、という僕らの意地に応えてもらうべく……少しばかりユピテルトの力をお借りしましょうか。
情報屋の船は本当に早いですよね、一つの海をまたぐの位一呼吸だと云わんばかりに、夕方に僕らの依頼を受けたミンジャンは即座船を動かし、次の日の朝には戻って来たのだそうです。
湊町メランストリートも、首都エルエラーサも『光の剣』の話で持ち切りで賑わい立つ中、僕らは一仕事終えてミンジャンと合流すべくディアス国側のお偉いさん方のあれこれとしためんどくさそうな式典出席を断り……メランストリートに着いた頃にはアベルさんが仁王立ちで、遅いと待ち構えていました。
「お久しぶりですね……カオスの話では仲違いだ、という事でしたが」
エイオールがタトラメルツから連れ帰って来たのは……アベルさんとマツナギさんだけでした。ふむ、では逸れたのはまたしてもヤトですか?
「他は、どうしたんだい」
「それが、二人の話じゃ全く要領を得ねぇんだ、とにかく早くヤトを見つけての一点張りでよぉ」
それで興奮するアベルさんをなんとか宥めすかして話を聞くに、空間転位してしまったがこの二人はそれから逸れた、という事の様ですね。
トライアンには間違いなく魔王八逆星の施設があり、事も在ろうかそこにギルを要として封印があった、とのマツナギさんの話です。
その封印もろとも、ちょっと二人が距離を取って目を放している隙に、封印ごとごっそりと消えてしまったというのです。
魔法的に空間がどこかに消えた、という気配は精霊使いであるマツナギさんにも分かった様です。問題なのはどこに消えたのかという事。
とりあえずカオスの仕業だろうと、トライアンからは隣の領土となるタトラメルツに移動、この二人なら……国境を超える事位訳無いでしょう。
そうしてタトラメルツ領主の所に推し掛け、カオスに……あれは悪魔ですから呼ばれたら応えますね、それはちょっと危険な行為である事を後でしっかり教えておきましょう。この二人、不要な縁を結びそうで怖いですねえ……。
願われれば答えるのが悪魔というもの、代償については『先払いされている』とか何とか云われたそうです。
それでカオスが、僕らの所に現れた訳です。
誰がカオスに先払いしたものか、怪しいですねぇ。
とりあえず、ディアス国で仕入れた情報もありますので取り急ぎ、エイオール船には遠東方を目指してもらう事にしましょう。
あとは、ヤトと合流して本編の通りですね。
僕がメインとなって動いた話は以上となります。一つの話というよりは、穴埋め的な話がメインになったかと思いましたが皆さん、実にこの文体に辟易為さったことでしょう。
とりあえずはこれにて13章、僕のお話は終わりです。
結局の所僕の、リアルの方の内面的な話は無いのかって?
それはだから、本編だけでいいじゃないですか。あと、番外編とか後日談でもお読みください。
あの通り、割と末永く腐れ縁となって日々……楽しく、僕の方は一方的にかもしれませんが楽しんでいますよ?
こんなゲームに手を出して後悔した事も、振り返れば……勇気を出して、例え致命的な嘘を付いていようとも……良かったと思っていますから。
結果論なんですね、終わりが良ければ全てそれで良いのです。
僕は彼ほど捻くれていませんからね、王道と呼べるお約束というものに集約されていく事は嫌いでは無い。
同時に、彼がどんなに拒否してもお約束、あるいは王道と呼べる展開に転落していくのを、ちょっと羨ましくも思っているのですよね。
本当は……そう在りたかったのは僕だ。
でも今は……王道と僕が言う容易くは無い道を選べたのは彼だからこそだと分かっているんです。だから僕は彼に魅かれ、自分でも異様と感じる執着をしている。
そしてそれは、別にやましい事では無い。きっと許されている……この世界から。
もう、その思いについては嘘で隠す事はもうしないでしょう。
何をしたって、それだけは彼に嘘が吐けない。
いつだって何故か、ばれてしまうんですからね。
終わり
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