異世界創造NOSYUYO トビラ

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番外編・後日談 A SEQUEL

◆トビラ後日談 A SEQUEL『扉を開く一つの合鍵』

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◆トビラ後日談 A SEQUEL『扉を開く一つの合鍵』

※本編終了後閲覧推奨、リアルメインの後日談です※


 よう、元気か。
 俺もそこそこ元気だ。
 生活だけを数えてみると極めて健康的な生活をしているようにも感じるが、実際ぶっちゃけると俺の生活の大半は趣味かつ仕事であるゲームで占められている。
 けど、それが昔からの俺の日常。それが変わっていないと言うのなら、勿論俺は変わらず元気と言う事になるだろう。

 しかしゲームばっかの生活なんて不健全極まりないようにも思えるだろ?
 俺もそんな生活は不健全だと承知でゲームバカをやっていたつもりだ。

 仮想現実に意識を逃がし、逃避してばかりじゃ精神的にもアレだろうという自覚がない訳じゃない。
 それでも構うものかと突き進んだゲームバカの道の先、俺のそのバカっぷりを買ってくれた会社が作った新型ゲーム機時代の到来により……今、ゲームはそういったかつてのマイナスイメージを極めて払拭しつつあるのだという。

 ま、それでもカウンターカルチャーである事には変わりないと思うんだけどな。

 その新型ゲーム機のお陰で、俺はそこそこ元気だったりする。

 *** *** ***

 さてそれで今日も朝からお仕事ですよ。
 朝から新作ゲームのレビューについての打ち合わせ。記事を起すのは担当に投げるとして、どのような記事形式にするか、情報をどこまで開示するか、実際の手ごたえとしての感想はどうか、など上の人を交えて話し合う。
 ミーティングという名前だが、ぶっちゃけ俺達広報芸能部と上の人を交えた雑談に近い。珈琲を飲みながら割とダラダラと話題も時にゲームを飛び越えながら進む。時間が許す限りこの雑談は続き、取りとめもない会話から様々な記事が起こされるようになっている。
 これで大事な朝会議なんだ、これがないとブログ担当やら広報担当やらがアップする記事のネタに困るんだと。
 俺の知らない所で俺が関連しているコンテンツが色々展開しているらしい。いや、ちゃんと説明されたのかもしれないけれど……悪い、よく覚えてねぇや。
 なもので、広報芸能部のミーティングは完全に録画記録されているわけだが、最初こそその事実に緊張しはしたが今では慣れてしまって記録されているとかどーとか、あまり気にしなくなって来た。
 朝ミーティングはそれくらい気楽に、色々な事をぶっちゃけて上の人と話が出来る場になっていると言えるだろう。
 短い時でも1時間強、長い時で昼近くまでかかるこのミーティングが解散された後、俺は自室に向かい日々投げ込まれてくる新作ゲームやそのベータ版などの試遊に費やされる。
 これがメインの仕事ではないのだが、朝のミーティングに向けたネタを探すという意味でも俺は、ゲームをやり尽くす係だからな。仕事として存分にゲームしなければいけない訳だ。
 ヘタすると一日それで終わるのだが、ここん所そうは問屋がおろしてくれない。
 俺としては全然それだけでいいのだが、最近広報営業の方からやたらと仕事が回ってきやがってな……。

 全く、ゲーム相手なら饒舌にもなれる自信があるが、生身の人間との付き合いはめっぽうヘタなんだからな、俺。
 それを相手も知っているというのに色々無茶ぶりしてきやがる。
 割とヘタレな性格と自らを知っているので、断っても良い仕事は遠慮なく断って来た俺だ。ところが、最近はそいつが通用しない。
 交渉は俺達がやるからお前は指示通り『居るだけでいい』などと、本当にこれで営業効果が上がっているのか、やや疑問な外回りに連れ回される事も多くなって来た。

 それで、慣れない面識のない人との接触に大いに疲れて帰って来る訳な。
 毎日のようにこれじゃぁ身が持たないってんで、夕飯食ったら割と早めに寝てしまう事が多くなってきた。
 すると、ものの見事に生活スタイルが改善しちまうのな。
 8時出社に余裕で間に合う早寝早起きの生活スタイルが確定しつつあったりして……俺自身で驚いちまうぜ。

 10時には眠いってんで布団に入って……。

 会社が開発し、世界を圧巻しつつある新しいゲーム機でゲームをしていれば 俺は自然と朝6時半には目が覚めるって訳だよ。

 あ、そうそう言っていなかったな。

 俺はとあるゲーム会社に勤めている。
 そこが開発した最新型のゲーム機は一昔前と比べれば極めて特殊なものだ。

 それは、寝ている間にしかゲームが出来ないという代物である。

 しかも起動できる時間が決まっているから無理に12時間以上眠ってもゲームプレイ時間を引き延ばす事は出来ない。
 違法改造で突破しようとするアホウも居るが、技術的には少し難しい事なので取り締まりはそれほど難しくはなかったりする。
 ゲーム時間は決められていて、引き延ばす事は出来ない。
 勿論だが、睡眠時間が短ければ時間最大までゲームを楽しむ事は出来ないからな、当然といや当然だけど。

 だから……この新型ゲーム機『ロニィ』で遊ぶ奴らは日々ちゃんとした睡眠を取るの事になるんだ、自然と。

 そう、俺みたいにな。

 *** *** ***

 全くこの手のインタビューはどれだけ受ければ終わりが見えるんだろうな?
 営業からの指示で何件かのメディアと会話を余儀なくされ、あからさまに疲れた顔をしながら部署の扉を開ける。

「あら、おかえりなさい。相変わらず酷い形相ね」
 一番手前のデスクに座っていた阿部の言葉を適当に流し、俺はパーテーションで区切られたデスクフロアへ向かった。退社時刻はすでに過ぎているが……今日進めると決めていたノルマが終わっていない。明日に回してもいいが、ぶっちゃけ続きが気になる所で止めているから少し、ゲームを進めておこうと考えたのだ。
 家に帰ってやってもいいのだが……出来る様にセーブデータはクラウド設定になっている。けど、カイシャでやればちゃんと残業手当が付くんだなぁこれが。
 勿論上限値があるから出来る時間に制限はあるぞ。
 今日は適当に夕飯をすませて、気になる処までゲームをやったらさっさと帰って寝ようと決めながらだらだらと移動していると、
「あっ、ヤトさん?」
 反射的に振りかえってしまう自分を呪いながらも一応、言っておく。
「だから、その名前で呼ぶなよ」
 俺の名前はサトウハヤト、確かにハンドルネームはYATOで、仮想世界人格名称としてはヤトと云う名前で通ってはいるけどなぁ。ここでは俺はヤトじゃねぇっつーの。
「あっ……すいませんつい」
 などと口に手を当ててどこか嬉しそうに笑っている、新任の女の子は反省の色を見せる間もなく自分の要件をさっさと俺に押し付けてくる。
「先ほど営業部の方が書類を置いて行きましたよ」
 ちっ、また仕事かよ、そりゃ仕事してんだからイヤだとか駄々を捏ねるわけにはいかねぇけどよー。
 前はそんな激しく無かったのに、あいつがあっちに回ってからと言うもの遠慮がなくなりやがった。
「追い返しておけよ、また照井からだろ?」
「無理ですよぅ、それに阿部さんも……」
 彼女は笑いながらだが否定しない所、やっぱり今回も仕事を回してきたのは照井、と言う事だな。畜生。
「机の上に置いてあるでしょ」
 こちらを振り返りもせず、すでにこの部署における若いクラスのボスと化している阿部からのそっけない言葉が帰って来た。
 ため息を漏らしてフロアに入り、……問題の書類を探す。A4クラスの封筒形式の物体を探すが、それらしきものが見当たらない。
「どこにおいてあるんだ?」
「え、ないですか?」
「机の上よ?」
 ミーティングの時でも座ることの少ない、デスクの上を見渡してみる。俺の定位置はその隣のソファで、そこに座ってひたすらゲームをやっているのだ。
「……これ、か?」
 活用はしていないが何を置いているかは一応把握している。一番見慣れないものをつまみあげてみる。
「おい、書類は?」
「無いんですか?」
 先ほどの女の子が心配してか、見にやって来た。
「あ……そう言えば、書類っては言って無かったかもです」
 おいおい、どっちなんだよ。ともかく……この見慣れない封筒の中身を確かめてみるか。
 長四茶封筒の折りたたまれた口を開け、中身を手の平にあけてみる。
 転がり出てきたのは……
「鍵、ですねぇ」
 覗き込んでくる女の子はどこか嬉しそうだ。おい、何が嬉しんだ?
「お、いいタイミングだぜ」
 聞き慣れた声に顔を上げ、パーテーションから外に顔を出す。
 扉を半分開けて、問題の広報部営業で働いている照井が軽く手を振っていた。
「今日はもう上がりなの?」
「ああ、色々用事があってな」
 奴め、阿部と雑談しつつ結局、部屋の中に入ってきやがった。
「なんなんだよ、帰るんならさっさと帰れ」
「帰るぜ、実は俺引っ越したんだわ」
「……は?」
 驚いたと云う意味ではなくこの場合、だから何?という意味で俺はとぼけていた。
「荷物の整理が終わってねぇんだわ、早いトコ片づけないとだからな」
 ああそう、だから……何?改めてそのように意味が分かっていません的な顔を向けるのだが、聞いちゃいねぇよあいつら。
「そうだったんだ、何、じゃぁ実家から出るって事だよね?」
「おう、色々あって家出るのを遠慮してたんだけどな……シゴトを手伝わねぇ今じゃ邪魔者扱いだろうからな」
「何、ウチの人と上手く行ってないとか?」
「それを言うなら、俺がゲーム関連会社に務める事からして上手くはイッてねぇからな……結局のところ」
 俺を無視して話を進めやがるなお前らッ!俺に用事じゃなかったのかよ。そのようにやや拗ねている俺を察してか阿部がこちらを見るなり言った。
「ところでテリー、ハヤトに用事って仕事の事じゃなかったの?」
 
「あ?仕事?」
 俺と阿部はほぼ同時に……テリー事照井より言伝を受けていただろう新任の女の子を見ていた。彼女は、反省のそぶりもなく笑って軽くごめんなさいのジェスチャーをしている。
 彼女、どうやら良く話を聞かずにいたようだな。
「んで、それ俺の家の合いカギな」
「………はぁ」
 俺のワンテンポ遅れた返答に照井は怪訝な顔になった。
「なんだ?素直に貰ってくれやがるんだな?てっきり投げ返されるかと思ったんだが」
 ……今、投げ返しても遅いよな。
 俺の返事が遅れたのは、勿論……状況をよく理解できなかったからに他ならない。ついでに言うと今も良く理解出来ていない。
「実家から通勤だと交通の便が悪ィし、家の手伝いする訳じゃないから居心地も悪いしな」
「そうだったんだ、何時の間に。それで、どこに引っ越したの?」
 再び阿部が話に乱入してくる。俺だと、ここまで歯切れよく状況を追及はしねぇからな。ぶっちゃいけ今でもその情報はどうでもいいと思ってる訳だし。
「っても、実家からはそんなに遠くはねぇ。隣町になるがこれでサブウェイ使えるから乗り継ぎ不要で通勤的にゃぁ楽になるんだわ」
 俺はふと、頭に浮かんだ疑問を口に出していた。
「じゃ、お前のホームグラウンドともおさらばじゃねぇか?」
 照井は腕を組み、少し笑って頷いた。
「ま、そうなるわな。ってもこの歳になると流石に若い連中には適わねぇからなぁ……卒業宣言みたいなもんか。それに実家じゃ家からネット対戦出来る状況じゃ無かったが、独り暮らしなら自宅から参戦すりゃぁいい話じゃねぇか」
 真っ当な理由だな、そういえば……こいつがわざわざ希少な存在になりつつあるゲームセンターに足しげく通うのは、実家でゲーム好きの嗜好を隠していた都合全くゲームが出来ないからだった。
 嗜好がばれて、ついにはゲーム会社に勤めるようになった今でも状況はあまり変わっていないらしく、照井は自宅で好きな格闘ゲームが遊べない状況だと聞いている。

 ぶっちゃけ、奴が持ってるコンシューマー(家庭用)ゲーム機ってウチのロニィだけだ。

 ロニィで遊べるゲームには格闘系コンテンツも含まれてはいるが、昔からある1オン1の格闘ゲームと同じ系列のゲームは遊べない。

「早速だがネット環境も近いうちに整う。悪いが諸々のセッティングを手助けして欲しくてよ」
 ああなるほど、要するにそういう事ね。うん、でもな。
「それは……加藤に頼むべきだと俺は思うが?」
 加藤は同じく弊社のゲームソフト系の制作サイドで働いているガチ技術畑の奴だ。俺達は阿部その他含めてロニィ開発参加同期でもある。
「俺もそう思ってデイトに頼んだんだが、奴ぁ忙しいんだと」
 デイト、というのは加藤のHNの方である。
 しかし当然と加藤は照井をフッたか、面倒な事は簡単にパスするからな、加藤は。けど、だからってなぁ
「お、俺だってヒマじゃぁねぇぞ!?」
「新作発表を控えて連日修羅場に突入してる奴程じゃぁねぇだろ?レッドに聞いたらいまどきのゲームは設定に専門的な知識は不要だから俺でも設定は出来ると思いますよ、とかいいやがる。が……こればっかりは自信がねぇ」
 俺は思わずため息を漏らしてしまった。
 どうすれば断れるかを考えてみているが、その前にまず……自宅で愛するゲームをしたいという照井の思いと、素直な手助け要求を前に、だな。
 どうして俺はこの願いを断らなければいけないんだ?という自問にぶち当たってしまう。
 ようするに面倒なだけなんだよ、断る理由としちゃぁ。
 そんな理由この照井タテマツにゃぁ通用しねぇよなぁ……はぁ。しかたねぇ、ゲームの話だからな、セッティングしてやるとするか。
 そのように腹をくくった俺に、
「ま、そういうわけでその合鍵をお前にくれてやる」
「…………いや、ちょっとまって」
 再び状況がよくわからなくなった。
「なんでそれで俺に合い鍵を渡す必要があるんだ?」
「必要とか関係ねぇって、結構お前ん家にも世話になってたし、今後は俺ん家で世話してやってもいいってのも込めて自由にしろって言ってるんだ」
「断言するが別に世話になる事は無いと思うが」
「本当に即座断言しやがるが、ぶっちゃけお前ん家より俺ん家の方がこっから近いぜ?」
「そーゆー問題じゃぁなくてだな」
「あのー」
 例の、新任の女の子が受話器を手にしたままで、恐る恐ると間に入って来た。
「内線です」
 照井が首をかしげて問う。
「……誰に」
「あ、ヤトさんだと思います」
 流石に阿部が新人の対応の悪さに反応した。ボスだな、完全に。
「トガちゃん、そこはちゃんと要件は聞いて取りつがないとダメだよ?」
「あ……はい……すいません」
 とまぁ、さっきの照井からの伝言の事も含めて軽い阿部のお叱りが新任の富樫ちゃんに向いている。
 ふむ……ここは拒否すると新任富樫ちゃんに悪いからとりあえず出てみるか、って。
 内線を取り次いでしまって相手が誰なのかを聞きそびれた事を俺はちょっと後悔した。

『ちょッ!ヤト氏!?』

 やな予感がビンビンしたが遅い。

『どういう事なの、お姉さんにちゃんと説明しなさい!照井ちゃんの合い鍵受け取ったって、事実なの!?真実!?ねぇガチ真実!?』

 ……なんとなく、だが。
 電話の向こうの相手がなぜそんな事にこんなに熱心に聞いてくるのか……俺は理由を知っているような気がする。だから俺は今嫌な予感がしているんだよな……多分。

「……あの……その情報は一体どこから」
『そんなのッ!企業秘密に決まってるでしょッ!ヤボな事聞かない』
「何がヤボなんだよ、ったく……」
 そう言いつつ俺は広報部に向けてざっと、視線を走らせた。恐らく内通者がいるな……。目をそらしたのが数人。
「おいテリー、それ発案したのアインさんだろ」
 と言いつつ受話器を指さす。今そのアインと内線で話している事を示すと、照井は少しだけ怪訝な顔をした。
「あ?……ん……?そうだったかな……?」
 若手のやり手営業戦士の癖に、しっかりしてるようで間が抜けてる。というよりも、グランドマネージャー業のアインさんの方が一枚上手って事なのかな。
 俺は合鍵を照井に向けて放り投げた。動体視力および運動神経が現実においても極めて優秀な奴は容易く俺の投げた鍵を掌の中に収め、握り込んだ。
「セッティングはしてやる、近いうちに時間作って行ってやるけど……それは、いらねぇ」
 投げ返された合い鍵を指に引っかけ、回しながら照井は苦笑した。
「そっか、まぁそう言うんじゃねぇかとは思ってたけどな」
「ならなんで渡すし、」
「俺的には別に、お前になら渡しておいてもかまわないと思ったからな」
 意味が分からん、俺はそれを軽く鼻で笑っていた。そんで……保留しておいた受話器を上げる。
「というわけで古谷さん?合い鍵はちゃんと照井氏に返しましたから、そこん所よろしく!誤解無いように!」
『んもぅ、相変わらずツンデレさんなんだから!』
 ちょっとまて、何時から俺はツンデレさん設定になったんでしょうか!?
『照井氏ももうちょっとシチュ考えて渡せばいいのに、どっちも照れ屋さんなんだからぁ』
「意味が分かんないけど、勿論古谷さんは合い鍵貰ってるんですよね?」
『ん?なんであたしが合い鍵貰わないとなの?』

 ………ここのカップルは本当にいろんな所、おかしすぎる気がする。

 内線を切り、深いため息を漏らしてしまった。
 少し、想像力を働かせてみよう……多分、多分、だが。

「テリーさんや、もしかしてその合鍵」
「ああ、アインに渡そうと思ったんだがな。自分から先に邪魔する事は無いからそのカギは」
「俺に渡しておけ、ってか?」
 まったく、どっちがツンデレなんだか。
「なんで大人しく受け取らないんだよ」
 古谷さん事、アインさんは!
「知るか、俺に聞くな」
「あ、多分……まだオネェちゃんに話をして無いからじゃないかな……」
 と、再び阿部が首を突っ込んでくる。
「知らない鍵持ってたら変に怪しまれるわけでしょ、ぶっちゃけアインってうちのお姉ちゃんとテリーと二股状態なわけじゃない」
 え、そうなの?そう云う事なの?俺よくわかんねぇんだけどと照井を振り返ると、照井は同じく少し笑って肩をすくめている。
 別に古谷アイ事アインさんは両刀というわけではない。恐らくそんな事を言ったら本人は喜んで『男同士ホモ専です』って返して来ると思うが、それはあくまで趣味嗜好の話であって……現実的な所れっきとした女性である彼女は真っ当に男性とお付き合い出来ているのだ。
 阿部の姉、カナコとは趣味嗜好が同じである都合ほぼ同棲のような生活様式を持っていて、いかがわしい本を作ったりする活動において同士だ。

 そういった関係も深くなればなるほど恋人同士のように互いに離れがたい関係になるらしく……。
 ましてや、双方ホモ好きでホモ関係を追い求めるばかりに自分の現実をないがしろにしていると言う意味で、通常恋愛というものを無いもののように取り扱ってきたみたいだし。

 しかして古谷さんは照井とのお付き合いを阿部カナコ姉に伝えたら、その行為そのものが裏切りになるのではないかと思ってるんだろうな。
 伝えなければいけないと思っているようだが……未だタイミングが測れていないようだ。
 何事でも抜け目のない古谷さんにしては珍しい、ウィークポイントになりつつある。

「最近どうなんだよ、ちゃんとアインさんと時間は取れてんのか?」
「なんだよテメェ、人の事は心配出来るタチか?」
「俺は仕事上で奴とは色々連携させられてるから心配される必要はねぇよ」
 阿部から、へーふーん、そーなんだー とか脇で言われたが無視だ無視!
「お前から心配されたら終わりだな……けど、ぶっちゃけ最近引っ越し作業で俺の方が忙しくしてたからな……」
「大丈夫よ、おねえちゃんも今修羅場中って言ってたからアインもソッチが忙しいと思うし」

 ちなみに連中の修羅場というのは例のいかがわしい本を作る、趣味活動の創作的修羅場である。

「……もかしてこのまま疎遠になるフラグか?」
 という、俺の軽い脅しに……あ、照井が黙り込んだ。もしかして効いた?効いちゃった!?
 無言で踵を返す照井を俺は、慌てて引きとめる。
「ちょ、そのまま行くなってば!冗談だよ」
「合い鍵を受け取ってもらってくる」
 もしかしなくても照井さん、割とガチに古谷さんの事好きですよね。なんというか、双方リアル恋愛に極めて疎かったそうで……いやそれは俺も割とそうだとは思うが……特に照井の方が元来マジメな性分もあって一所懸命すぎるんだよな。
「だから、多分それはアインの方で受け取りたくても受け取れないんだって」
 阿部も、このままでは上手く進展しない二人を感じ取ってか照井を止めた。
「とりあえずどっか仕舞っておいて貰ってもらえばいいだろ?」
「そりゃぁ、そうだけど……」

 しゃーねぇなぁ、お前さんらの為に俺様がひと肌脱いでやらぁ。

「富樫さん」
「はい?」
 さっき阿部に怒られて尚懲りずに俺達のやり取りをこっそりうかがう、新人の富樫ちゃんを手招きする。
「確か即売会とか行く方の人だったよね?」
「あっ、はい」
 なぜそこで彼女は嬉しそうに答えるのかが俺にはよくわからんのだが、とにかくだ。
「現状、ニュー照井ルームに古谷さんが喜んでやってくる状況を作るにはどうすればいい?」

 俺は、その答えらしきものを察しているのだがぶっちゃけれ俺の口からは言いたくないのです察してください。
 というわけで、新人の富樫さんに先ほどのミスの挽回をさせてあげようと思う。上から目線だが。

「えっと、それは……ヤトさんが合い鍵受け取っておいて、それで照井さんの部屋に居ればいいと思います」

 ……ですよね。

「あー……それ間違いないわ、間違いなくアインホイホイだわー」
「……俺にはなんでそれでアインが喜んで俺の部屋にやってくるのかの意味がわかんねぇんだけど」
 俺は照井の肩を叩いて言っていた。
「加藤がよく言うだろう、世の中には知らなくていい事および、知らない方が幸せな事があるんだよ……って」
 そう言う俺は、多分幸せそうな顔はしていないと思う。今間違いなく不幸な顔をして見せていると思う。
 その俺の不孝そうな顔をまじまじと見ながら照井は言った。
「で、どうすりゃいいんだよ」
「仕方が無いからその合い鍵、俺が受け取ってやるよ」
 そう言いつつスケジュール表を端末から呼び出す。
「次の週末にでもセッティングに行けそうだけど、どうだ」
「ああ、いいぜ。明けておく」
 その事を……あえてアインさんに言う必要は、ねぇな。

 きっとどこからともなく聞きつけて来るだろう。そんで、勝手に押しかけてくる。

 照井に返した合鍵を再び預かり、めんどくさいから端末のストラップに結わえておいた。

「暫くは預かっておいてやる、これでアインさんは合い鍵なんぞ無くてもお前ん家に出入りするようになるだろ」
 分かって無いな、本当にこいつ分かってないんだな。
「……なんでよ」
 首をかしげる照井に向けて、俺は苦笑を漏らす。
「俺は、別に用事が無いからお前ん家なんかにゃいかねぇが?」
 そう前おいて、俺は笑って言った。
「俺は合い鍵持ってるんだから……俺が、居るかもしれない、と」
「アインがあんたの部屋に行きやすくはなるわよねぇ、」

 アインの趣味嗜好の都合、言い訳を立てやすくなるわけだ。
 照井と会いたいからという理由では、あのオネェさん恥ずかしくて部屋に尋ねていけないんだよ。
 俺も素直じゃないが、アインさんは輪を掛けてそういう恥ずかしがり屋な所があると思う。というか、恥ずかしいと言う感覚がものすごくズレてるのか。普通は恥ずかしがるだろう事をズケズケ言うくせに、こういう所は全くあまのじゃくになる。
 全く、素直じゃないんだからアインさん。

 もしかして俺は、こいつらの合い鍵代わりなのかもな。

 そんな事を考えつつ……今日のノルマのゲームをこなす。
 俺は、そこそこに元気にやっている。
 今も変わらず、実は現実でも……余計な事にやや多く足を突っ込んでる気もするけどな。


 *** おわり *** 


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