異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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12章  望むが侭に   『果たして世界は誰の為』

書の4前半 望むは一つ『懐かしい方へ』

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■書の4前半■ 望むは一つ This is One

 俺もやっぱり同じ事を望むのだろうか。
 そして、どうしようもなくなったらギルみたいに卑劣な方法で自分の滅びを願うのか。
 そうはなりたくない。
 切実にそう思うからこそ、コイツが抱えた苦しみもなんとなく理解出来てしまう気がする。
 誰かから憎しみや妬みを買い、滅びを願う。
 そうするしかなかったって事か?お前には、もうこの手段しかなかったって事なのかよ。
 本当に、どうしようもなかったのか……。

 俺は息を吸う事で物理的な痛みを抱え、ため息によって精神的な痛みを吐き出した。

 ……そんな事、今更迷ったってしょーがねぇ。
 俺は勝って、生き残った方として勝利宣言をしてやればいいんだろう。
 思えば……強敵、あるいはラスボスを倒した後っていつもこんな気分になるような気がするかもしれない。
 もうそんなのいないんだ。もう、戦う強さを求めなくて良いんだ。倒さなくて良いんだ。
 それは、良い事なのになぜか少しだけ寂しかったりする。

「トライアンで決着ついてたかもしれねぇわけだからな。随分待たせちまったと、言ってやるぜ」
「……おかげさまで遺恨は無い。ウリッグを放置する事にはならなかったのは……良かった。奴については諦めてるトコあったからな」
 至極穏やかにギルは呟く。
「あとはお前が俺との縁を切るだけだが、それも今、終る」
「………」
 こういう事言うボスも多いよな。
 そして、その都度俺はモニター画面の前で思うんだ。

 今更それを言うな。卑怯だ。貴様はどこまでも卑怯だ、と。

 アッチとコッチを混ぜるんじゃない?ああ、そうだな。
 でも思い出すんだ。俺が、思い出して比較してしまう。
 どうしようもねぇ。

「……何見てんだよ」
 気が付いたらみんな俺の隣にいてギルを覗き込んでいる。
「俺がくたばるのを見届けてくれるってのか?ククク……良い趣味だな」
「無縁は忌むべき事だ」
 ナッツが俺の隣にしゃがみ込んでギルに言った。
「だから、しっかり弔わせて貰うよ。化けて出てこられちゃ困るし」
「不要だ、……俺は縁なんて欲しくねぇし結んでねぇ……誰も恨みやしねぇよ」
「お前が望む望まない関係なく、縁というものは結ばれるものなんだよ」
「……いいから、行けよ。他にやる事あんだろ?」
 どうしても看取って欲しくないらしい。黒く変色し、煙を上げて溶け始めたギルが呻いた。
「……ああ、そうだ。ギガースの居場所だった、な」
 ゆっくりと呻く。
「こっから北だ、そこに……」
 言葉を途中で止める、もう動かないのだと思っていたギルがとっさに腕を伸ばした、その伸ばされた先にあるのは俺じゃなく、隣に立っているナッツだった。
 ギルは原型をとどめている右手を伸ばして、ナッツの胸ぐらを掴みあげていた。
 俺は慌ててその手を逆に掴んだが、ナッツは特に慌てた様子もなくギルを見下ろしている。
「俺は無縁なんだ……!分かってんだろうな!?」
 最後に何を訴えるのか、必死なその叫びをナッツは……淡々と受け入れる。
「……ああ。分かってる」
 腕が崩れる。
 少しだけ体を起こしていたギルが崩れ落ちそのまま溶けた。最期の悪あがきに……お前は何がいいたかったのだ?
 俺はナッツの胸ぐらを掴んだまま残っている腕を強引に引き剥がしタールみたいな黒い、嫌な臭気を上げているプールの中に投げ捨てた。
「大丈夫か?」
「そりゃ、僕がお前にいう言葉だね?……大丈夫?」
 息を吸う度に肺胞がぷちぷち破れているような得体の知れない苦しさに俺は、必死に喘いでいるのに遅れて気が付く。
 ……空気が吸えてない?
 これ、……大丈夫じゃないかもしれない。
 緊張が解けて、体全体を駆け回る痛みにそのまま後ろにしりもちをついてしまった。
 胸を押さえた。動悸が収まらない、今しがた吹き出した血にまみれた上半身のアンダースーツはボロボロになっていて左肩に張り付いていた残りの金属片が剥がれ落ちていくのが見える。
 ナッツが傷の様子を見ようとするのを俺は、腕で払いのけてしまった。
 左手から腕にかけ、グローブもアンダースーツもボロボロになってしまって地肌が出ているのだ。
 その腕、指先、得体の知れない蔦が浮き上がっていてうごめいているのが見える。
「アイン、燃やしてくれ」
「何言ってるの!」
「こっちの俺はもう限界だ、俺が、第二のコイツになる前に」
 得体の知れない力を抑えられない。
 俺の意識が吹っ飛ぶならまだいい。でも、意識が残ったまま暴走するのはもっと嫌だ。

 俺はやっぱり同じ事を望んでいるのか。
 どうしようもなくなったからギルみたいに、卑劣な方法で自分の滅びを願っている。
 そうはなりたくない、そう思っているのに……!

「問題はない、望み通り。燃やしてやった方が良いだろう」
 冷徹な声で言ったのは……カオスか。
「何言うのよアナタ!」
 アインの抗議の声、俺は頭上のやり取りを見ているだけの気力がない。辛い、痛ぇ、怠い。
 俯いてひたすら息を吸い、暴れそうになる心臓を必死になって抑えている。
「代替があるのだろう」
 ああ、カオスの野郎。やっぱり俺の仕様分かってやがるな。
 俯いた先で俺は苦笑を漏らした。
「……けどよ、代替がここにいるとは限らんだろう。次探すのに手間取るんじゃねぇのか?」
「もっともな意見です。……安易に言わないでください、代替など……あったとしても。そう云う事ではないのです」
 レッドってば、俺に向けても言ってるんだな。
 ふっと、息を吸うのが楽になる。振り払ったはずだったナッツの手が俺の背中に触れている。回復系の魔法でも使ってくれているのかもしれない。
「ヤト、もう少しがんばって」
「……すまない」
 俺はようやく頭を上げて自分の左手を見る。
 いつの間にか蔦の暴走は収まっているが……模様は相変わらず残っているな。しかし立ち上がるまでの気力が回復しねぇ。
 ……眠い。

 寝てしまったら、再びどこか違う所に意識が吹っ飛ばされるのではないだろうか。
 代替えが必ずあるとは限らない……よな。あると思いこむのは良くない。
 今度こそ死ぬかもしれない。
 いままで味わった事のない倦怠感に命の危険を感じる。

「この状態ではギガースの所には行けない、少し……休憩にしよう」
 ナッツの提案を、俺は何時しか目を閉じて聞いている。
 その後、どうする事にしたのか。
 それこまで俺の意識まで届かなかった。



  衝撃で目を覚ます。割と何時もこのパターンな気もする。
 ……例によって左頬がすげぇ痛い。少し眠って気力を回復したのか、俺は条件反射的に飛び起きて殴られた所を抑えながら殴った相手を目の前に見出した。
「お、お前!また俺を殴っただろ!右で!」
「現状把握しなさいよ!」
「寝てるんだよ俺は!」
「寝てるな!」
 いつもの通りケンカになる俺とアベルの間に割って入り、ナッツは深くため息。
「どう、気分は?」
「あ?」
 状況寝ていたらしくスキップしたのは把握。……リコレクト。さっきちょっと血を多く流しすぎた俺はやべぇ、これ死ぬとか思いながら瞼を閉じてしまったが……今不思議と体が軽い。
 アベルが俺を殴ったのに驚き、とっさに立ち上がれている。さっきまで立ち上がるのだって無理だったのに。
 改めて状況を見まわした。俺を取り巻いているのは……どこかで見たことがある人達だ。
「ふむ、問題はなさそうだね」
 様子を覗きこんできているおっさんの顔に驚いた……けど、いや、別人だ。そのどっかで見た事あるようなおっさんの隣に立っているのは……
「……あれ、タナカさん……?」
 この水貴族の女性は大陸座ナーイアスト。ナーイアストのタナカさんは俺の問いに微笑んだ。落ち着いた大人の雰囲気、シーミリオン国で会って以来になる。ここ中央大陸だもんな。方位神やキリさんが現れるくらいだからそりゃ、タナカさんもいる。
「そういえば、言ってなかったけれど私はタナカではないのよ?」
「あ、そうか……ええと、」
 ダイレクトにそのまんまの名前ではないのだった。
「私はナカツというの、まぁそれはいいでしょう。あなたも薄々理解しているでしょうけれど、」
 ナカツさんが語る間俺は。
 自分の両腕が動く事を確認しようと視界の中に持って行き、愕然とした。
「デバイスツールで抑え込める限界を超えているわ」
 黒い蔦模様が白く指先から色が抜け落ちてきている。
 これが何なのか俺は、わかる。
 直観だ。
 ……黒から茶色に変色し白く、俺の中にある得体のしれない力が……枯れ始めている。
「これ以上無理をすれば私が貴方達に託した力のように、イシュタルトの力を使い果たしてしまいます」
「使い果たした方が……いいんじゃないのか」
「盛大な無駄遣いだな、そこまでして君一人を維持する理由は、あるのかね」
 ……そう見た事が在る様な気がするおっさんから言われ……無いかもしれないな、と思った。
 俺は目を閉じ、苦笑を洩らす。
「何が起きてるんだ?」
 どこかで喧噪の音が聞こえる。遠い、しかし確実に何かを重く踏みしめる音、枝をへし折り、金属がこすれぶつかる音が聞こえる。
「いやぁ、ゆっくりしようとした所、新生魔王軍けしけられちゃってね」
 ナッツ、頭を掻きながら笑う。笑うトコじゃないだろう。
 のんびりしてられねぇ、テリーやマツナギは?応戦しに行ったのか?
「ああ、大丈夫。強力な助っ人が来ているから新生魔王軍は彼らにまかせようって話になっている」
「助っ人?」
「……戦場はここか」
 凛とした声が聞えて俺は顔を上げる。
 巨大な木の影にいる俺達の隣に、白い鎧を纏った騎士が……何やら大勢引き連れて現れて現れた。なんだ?……なんかどっかで見た事があるような顔をしている。気のせいか……な?
「あらあら、随分引き連れてきたのね」
 ナカツさん、穏やかに笑って美形の騎士を出迎える。
「最後に一仕事、終えてからでもよいだろう……という事になってな」
 騎士は俺を一瞥し、そのまま遠くに視線を投げた。
「お祭り騒ぎだと聞いてきましたぁ。楽しい事になってたりするか?」
 能天気な声に、苛立った若い声が答える。
「楽しいもんか、あれは彼らの都合だ。僕らが手出しすべきじゃないんだぞ」
「ならなんで俺らについて来たんだよ」
 青みがかった髪を持つ青年と押し問答しているのはさっきの、インティ似の奴。イン・テラールだっけか。北神、てことは何か……!

 こいつら全員あれか!
 方位神か!

「困っている人がいるなら助けないとね」
 そう言って、微妙にミスト王に似ている青年、野良着じゃなくてちゃんと鎧を纏った姿の……ルミザ。南神ルミザ・ケンティランドが剣を引き抜き、金髪碧眼つまり西方人の毅然とした美しい騎士の隣に立つ。
「ああ、なーるほど。ルミザに押し切られた訳だ」
 青みがかった髪の青年の笑い声にイン・テラールはとことん不機嫌に返答する。
「煩いな。僕は手伝わないぞ」
 そう言って俺の所につかつか歩いてくるイン・テラール。
「さっさと決着つけて貰わないと困るのは僕らなんだよ。早くとっととやってこい」
 俺に向け、腰に手を置いてそう言い放つが何を言う、何をしてこいと言うのだ。
「仕方がないから少しだけ手を貸してやっているんだ。ファーステク、どうなんだ?」
 名前を呼ばれ、見た事あるよなぁと思って眺めている緑色の髪をしたおっさんがため息を漏らす。
「やれやれ、人使いが荒いのはいつもの事だが。君で力を貸してやればいいだろう」
「うるさいな、僕は、手伝わないと言った!」
 イン・テラール。律儀というか、融通の利かない方のようです。ファーステクと呼ばれたおっさんは俺の白くなっている手を片方取り上げて眺めながら言った。
「恐らく……君の命をつなぎとめているものの根本が死にかけている。引きずられているのだろう」
 ああ、なるほど。
 つまり、ドリュアートの大樹が死にかかってるって事か。
「同じような症状を見たことがある。……イン、君も心当たりはあるはずだ」
 ファーステクの同意にイン・テラールはなぜだかそっぽを向いた。
 ……ついに俺を『引き抜こう』って話になっている訳だな。
 群れとしての命、不死。その輪を保証しているドリュアートの大樹が……枯れようとしていると言う事か。
「どうして欲しい?延命か?それとも」
 おっさんの問いかけに……何と答えていいのかわからない。俺は……死ぬのか?死ぬというより枯れる?変な気分だ。
 話を聞くに俺はファーステクっつーこのおっさんがくれた薬によって、自力で立ち上がれるようになっているらしい。
 仲間たちの判断で一時的な延命処理が施されていると考えてもらっていい。
 で、その後どうするのか。
 それは俺が判断すべきだろうとこのようにファーステクは、俺がどうしたいのかを聞いてきている。
「人間いつか死ぬんだろ、あんたは俺の死の運命を回避させる事が出来るってのかよ」
「手段にもよる。君が望むに最善を尽くそう」
 死にたくない、そう言ったら俺を死なないようにしてくれるとでも言うのか?
 ファーステク、リコレクトするに方位神だ。リオさんから聞いた事がある……北東の森に棲むという『医学神』とかいう奴じゃなかったっけか?確か三界接合を作ったという医者の説話がどーたらこーたらと聞いたはずだが。
 三界接合は……違うものを接続させる事で延命を可能にし、不死を詭弁的にもたらす可能性がある技術らしい。
 だから禁忌になってて歴史研究をするだけで魔導師協会追い出される。
 ……どうだっていい。技術がどーとか俺には関係ない。
 俺は一瞬ナッツと、ちょっと心配そうな顔で俺を見ていたアベルに視線を投げる。反対側にはレッドも控えていた。それらを見やり……小さくため息。
「で、俺を叩き起こさなきゃいけない状況だろ。何をしようってんだ」
 レッドが無言でうなずいた。
「貴方が枯れるという事はドリュアートが攻撃されているという事でしょう。……ここに、ナカツさんとカオスから手伝ってもらってコウリーリスとの転移門を開いてあります」
「一旦コウリーリスに戻って、もっかいこっちに戻ってくるってか」
「マーダーさんはまだデバイスツールを手元に置いていますが、心配です。この場は方位神と大陸座に任せ、僕らはマーダーさんを救出、ついでに……デバイスツールも確保してこようかと思うのです」
 俺はファーステクを見やった。
「俺は、これでいつまで持つ?」
 俺が何を選んだのか、察したようにファーステクは答えた。
「……君は私の加護の元、今問題なく動けていると考えて貰って良い」
「さっきの薬は、僕に調合出来る薬ではないって事ですか?」
 ナッツの言葉にファーステク、頷いた。
「連環している以上侵食は防げない。一時的に循環を止める……一種の魔法を掛けているのが現状だ。その作用を等しく働きかけるように調合した薬であって、私が使える魔法を扱えない限り君達だけで延命措置は出来ない」
「……どんくらい持つんだよ」
 俺が聞きたいのはそれだけだ。理屈はいらん。
「投入した薬が切れるまで、だ。もしかすると……いや。まぁそれはそれで問題ないか」
 何かの懸念を口ごもりファーステクは誤魔化した。よくわからん。……連環、侵食、循環。俺のへんてこな不死性についても俺は、はっきり把握している訳じゃねぇしな。理屈が分かってれば良いってもんじゃねぇ。
「僕らが真似出来ない魔法、と言う事ですよね?」
 ナッツ、多分どうにか技法を真似ようとしているんだろう。俺に施されたらしい加護の属性を知ろうと探りを入れている。
「無理だよ、基本的にはロックしている種類の魔法だ。術式はロストしているか……まぁ、もしかすればシンクかもしれないけどね」
 イン・テラールがエラそうに腕を組んでナッツを一瞥。
「君は知っていると思うけど、僕らの生い立ちはすこぶる古い。こいつも僕も例外なく『古代種』だ。ファーステクは時空遮断という今では禁忌である種類の魔法を唯一『得意』としているんだよ。医学神と呼ばれている癖にね」
「医学神はとばっちりだ、私は別に医者を主としているわけではない」
 二人のそんなやり取りを無視して俺は立ち上がりあたりの様子を見回した。
 俺には連中の都合などどうでもいい。俺が今なぜ動けるようになったのか、とか。理論はどうだっていい。
 繰り返すが、知った所で何か変わる訳じゃねぇ。どうせ頭の悪い俺には理解出来ない事だろう。
「……これ以上自分の存在歪めたら、俺は魔王八逆星の連中と同じだ」
 だから、訪れるタイムリミットまででいい。
 その決断に、レッドとナッツはただ無言で……うなずいてくれた。
「では急ぎましょう、アベルさん、テリーさん達を呼び戻して来てくれませんか?」
 一瞬俺に視線を投げ、何か言いたそうな顔をしたがアベルは無言で頷いて行ってしまう。
 ……言いたい事はあるんだろう。
 ナッツもレッドも、俺のこの決断に全部納得いってるわけじゃねぇのは……なんとなく、俺にも分かっている。



 西方方位神シュラードは白き騎士。
 東方方位神ラウェイは青い髪の魔導師。
 北方方位神イン・テラールは賢者魔術師。
 南方方位神ルミザは聖剣士。
 そーいうキャラクター付けがされてたよな、確か。
 八精霊大陸で。


 神々しくも……あたりまえだ、奴ら一応神だ。こう目の当たりにするとかなり微妙ではあるけれど。
 鎧姿の怪物が大量に湧いて出てくるのに戦いを挑み、蹴散らす姿が遠くに見える。
「流石神様だなぁ」
 とはいえ、割と戦闘事態は地味だ。神だからといって破天荒に強い……いや、強いか。思えば新生魔王軍の強さがすでに半端ねぇんだ。南国で嗾けた時、なかなか死なないという特性に結構手こずっていたのを遠巻きに見ている。
「神、というのは少々間違っています」
 レッド、眼鏡のブリッジを押し上げて俺を振り返る。
「方位神とは神とはつきますが実際には、方位に座する守護者の概念。神として崇められているのは人間の都合によるもの。本来はこのように、彼らの世界、レイヤーに存在し物語を紡ぐ存在に過ぎないのです」
「どう違うんだよ」
 適切な言葉を探すようにレッドは一瞬天を仰ぐ。その間、ようやくテリー達が方位神と大陸座に場を任せて引き上げてきた。
「ようするに、彼ら自身が自身を神だとは認識していない」

 なぜかその一言で酷く納得した俺である。

「言い得て妙だな、確かにその一言が私達を的確に言い表すのだろう」
 おっさんが苦笑をもらしている。
 髪の毛がワイズみたいに緑色なのだが、このファーステクという方位神。
 ……間違いなくナドゥにそっくりだ。
 故に俺、おっさんと言ってしまいましたごめんなさい。
 実はそっくりさんがこれだけに限らないんだよな。どうにも方位神、どれもこれもどっかで見た事があるような容姿をしている。シュラードはしょうがないな、あれは神としてばっちり崇められていて西教ってのがあり、偶像がどこでも拝める。
 金髪碧眼純西方人。いやぁ、絵画の中から飛び出してきたのでは無かろうかってくらい。
「ひでぇな」
 で、この状況をテリーは酷いと言って笑う。
「何が酷いのよ、加勢してくれるんだから、ありがたいじゃない」
「俺が酷いと思っているのはそこじゃねぇ」
 アベルの言葉にテリー、酷いと笑いながら口の端を歪めている。全くだ、俺もその気持ちに前ならえ。
「早速だが一旦八精霊大陸に戻るぜ」
 俺が動ける時間は長くはないという。急ぐべきなんだよな?
「もっかいここに戻ってくるんだろ?」
 テリーが状況確認するに腕を組んだ。
 段取り的にはそうだ。
 今、ここに刻まれた転移門はいつぞやレッドがドリュアートの大樹に刻んだ転移紋に繋がっている。これを辿って俺達は、中央大陸から八精霊大陸に戻る。
 まだデバイスツールを回収していないドリュアートのマーダーさんトコまで一時的に戻る為の『門』。
 そして、そこで起きている問題を解決したらすぐここに戻ってくる。そして大魔王ギガースに挑む事になる。俺の限界が近いってんなら……駆け足になるんだろうな。
 ……それ、俺がいなくちゃダメなもんかな。
 ふっと心の中でそんな事を考え、口に出したらアベルにぶん殴られるなと思ってしまいこむ。
「それなら、別に全員で行かなくても良いだろう?ここに残ってちゃダメなのかよ?」
 テリーの奴、神々の戦いに闘争心が疼いてやがるな?
「ドリュアートの大樹が攻撃されている可能性があるのですよ?この門の向こうも『同じ』状況かもしれません」
「……それを先に言え」
 テリー好戦的に拳を打ち合わせる。現金な奴だぜ。そもそもドリュアートの大樹がどうなっているのか、奴は率先してこの場に現れた新生魔王軍を殴りに行ったのでまだ話を聞いてなかったのかもしれんな。
「行ってきます、こちらはよろしくお願いします」
 レッド、場に残っているナカツさん、ファーステクというおっさん、そして北神イン・テラールに軽く頭を下げた。
「僕は何もしない」
 イン・テラールはまだ不機嫌に腕を組んでいる。
「意地悪ですねぇ、大丈夫。ちゃんとこの場は守っておきますよ」
 北神は意地が悪い、という噂はガチなんでだな。そしてその意地悪をやんわりと包み込んでナカツさんは笑った。
「まぁ、急いだ方が良いだろうな。あまり遅いと君達を強制召還、なんて事もこの御仁は遠慮無くするから」
 ファーステク、イン・テラールを指さして苦笑い。
「状況、急がねばならないのは分かっています」
「早く戻ってこないとあれは全部、片付けてしまうからね」
 いや、いいんじゃねぇのそれで。
 俺は……俺が分裂しているだけにあいつらなんてここで、綺麗に片づけられてしまえばいいと思う。テリーは腕を組んだまま首をかしげた。
「確かに加勢は在りがたいがなんで、今更手を貸してくれるんだ?」
 だよな。今更だと俺も思う。
「ここまで手伝ってくれるなら貴方達でギガースの奴もぶったおしてくれればいいのに」
 アベルさん。
 言ってしまいましたね。
 俺も心の中でそっと思っていた事を……!
 どう反応するのだろう?ちょっと怖い気もする。ここで、変な答えが返ってきたら俺、流石に怒るかもしれないよ?
「わかっていないな、君達」
 しかしイン・テラールはようやく硬い表情を崩して苦笑いを返してきた。
 俺達全ての都合と感情を恐らく把握した上での苦笑い、なんだろう。奴は、伝承の上では全てを知る賢者、全てを知る故に沈黙する賢者だ。
「僕らの望みが何であるか、それを知らない君達ならその疑問は抱くのかもしれない。まぁ、言うなれば。ギガースとやらを倒す事も、大陸座が存在する事も僕らにとってはどうでも良い事で……どっちかって言えば都合の良い事かもしれない。対して今の現状はよろしくない。君達は困っている、だから手を貸している」
「世界が困ってるんだ、魔王八逆星ってのに蹂躙されて……!」
 マツナギの言葉になぜかナーイアストのナカツさんが言葉を続けた。
「あるいは、大陸座という存在に振り回されて、ね」
「……!」
「そんなの、関係ないね」
 北神、すげぇ意地悪。
「世界は世界、君達は君達、そして、君は君だ。世界とは何だい?君がいて、君達がいて、そして初めて存在するものだ。世界の上に君達がいて君がいるんじゃない。君達はそういう都合でこの世界にいるはずだ。そうだろう?」
 北神は、賢者って称号を持ってる。全ての事象を見通す、とかいう。その全知は、俺らが異世界からやって来た異端者である事、そして俺達はこの世界が自分達プレイヤーありき『ゲーム』として認識している事を知っているのか!
 そう、ゲームというのはいかなる種類であれそうなんだ。
 世界の為にプレイヤーがいるんじゃない。
 ゲームを娯楽として楽しむプレイヤーの為に世界がある。
「でも、俺達にとって今ここにいる世界が『現実』だ」
 俺の思いを吐き出してみる。
「そういう風に勘違いするも自由だ」
「自由……」
 勘違い、という指摘に憤りは無いな。そう、これは俺らの脳味噌が現実だと勘違いする方向で遊んでいる『ゲーム』なのだ。そして、そういうのもアリだと北神は、否定しなかった。
「トビラは、今後も開かれ続けるんだろう?そうしたら君や、君達のような価値観だけがやって来るとは限らない。ここは現実じゃない、夢だ、どこまでも夢だ。そういう風に信じる人も現れるだろう。でも、それも自由だよ」
 イン・テラールは組んでいた両手を広げる。
「君の言う、世界というものは僕らの想像以上に懐が広いのさ。それはきっと『君達の世界』についてもそうだろう、僕はそう思うけどね。ここだから出来る事じゃない。世界は全ての可能性の上に開けるものだ。その可能性を開花させてくれるのは世界という『環境』じゃない。……わかるね?」

 望むが侭に、でも望むのは世界じゃない。
 世界の中にいて1人、確実な主人公である俺達自身。
 ……そういう事?

「世界は何も望みはしない。正確に言うなら……世界には常に矛盾した望みに満ちている。それらを全て叶えるのは無理だろう?矛盾しているんだしね。プラスとマイナスがあるからどっちも叶うと結局ゼロにしかならない。君は気が付いているだろう」
 俺の心中を見事に穿ち、北神は笑う。
「世界はバランスを取るに過ぎないのさ。そういう事をする世界を君達の考える『神』に例え考えてみればいい。だから世界は何も望まないし何も叶えはしないんだ」

 守って欲しいと思いと、破壊してしまいたい思い。
 生きたいと願う事と、死にたいと思う事。

「さっさと行っておいで。その間こっちはキレイに片付けておいてあげるよ。それが君達の望みだろう?バランスが取れないというのなら世界は都合よく『辻褄を合わせる』。問題ない、今ある全てがこの世界の真実だ」
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「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

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