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逆星のインティ
しおりを挟む「ねぇねぇ、どうだった!王さまはもう来てた?」
中庭のある館から出た所、普段は私の事を避けている気配のあるインティが壁に寄りかかって待っていた。どうやら待ち構えていた様だ。私を見つけ、駆け寄ってくる。
私はこの、中世的な外見の少年の事を庭の王の近辺でしか見た事が無かった。普段はどこにいるかもわからないし、何をしているのかも、話を聞いた事が無い。
彼に向けては多くが無関心なのか、あるいはレギオンの様に無用な騒ぎを起こすでもないので無干渉なのかもしれない。
私も、そういう態度をしてきた一人だ。
あえて行方を捜した事も無かった気がする。思い返すと、姿が見えないといつの間にか興味を失っている様にさえ思う。
今、改めて彼を見ていると……この、悪が集うと云われる魔王の庭に、年端もいかない無邪気な少年が戯れている事の違和感がはっきりと感じ取れる。
彼の事を、忘れていた訳では無い。
それなのに意識の外に置いていた……気がする。
「いや……居たけれど、また森に埋もれてしまったよ」
彼はどういう存在なのだろうか?私のそういう興味を悟った様に、インティは笑って壁から離れ、少し私の近くまで楽しそうに近づいて来る。足取りは軽く、ステップを踏むように……いや、何だろう、変な違和感があった。飛んでしまいそうな足取りは、まるで本当に空を飛んでいる様な錯覚があった。
「お兄ちゃんにそれ渡したかったみたいだね、」
「え?ああ……剣か」
腰に、二本の剣を帯びている。柄の造形や長さが同じだから同じ剣を二本差ししているようにも見えるだろうが一つが、フリードから貰った私の祖国の剣。もう一つが先日王から頂いた剣だ。
あげるから奪ってみろと云われ、その通りにしてしまったものだ。少々不本意ではあったが、剣としての質は悪くなさそうだ。好意を無駄にしたくは無いので在り難く使わせて貰う事にしたのだが。
「二本も重くない?」
「鍛錬だと思えば、そもそも私はよく剣を壊してしまうのでね、普段なら四本位は背負って歩いているよ」
「そういえば、最初来た時も4本剣をダメにして最終的には死んじゃった人の剣奪って戦ってたもんね」
それは私が一番最初にこの庭に来た時の話だな、死霊兵を払いのけて後、レギオンが率いる兵と戦い初めた所で私が率いて来た魔王討伐の勇士達がレギオンの誘惑に勝てず……全て私に向かって襲い掛かって来た。
あの時の話か。
「君は、見ていたのか」
「うん、僕は大抵何でも御見通しだよっ!」
にっこり笑って私を見上げる、インティについて私が知っている事は何だろう。
「君は、王様に会いに来たのか?」
「あ、うん……でもまた居なくなったんでしょ?僕さあ、あのタイプの王様ちょっと苦手で」
私に王の所在を訊ねて来たくせに、実は王が『来ていた』事は知っていた様だな。
そう、彼は何故か、何でも知っている。
彼の言う通り大抵の事を見知っていて、それでいて知らない風な態度を取ったりする。それを相手の事など構わず自分のペースで平然と、無邪気に振る舞うから私も気を付けないとすぐ、はぐらかされてしまう。
「嫌いってワケじゃないんだよ、僕はむしろ好きなんだけど、王様の方が苦手っぽくってエンリョしちゃうんだ」
あのタイプの王様、というのが何なのか、前までの私なら何の事か理解出来なかっただろう。しかし今はなんとなく理解している。恐らくあの、若い青年の姿の方だろうか。
話を完全に飲み込めている事では無い、何しろそれを知ったのがつい先日の話なのだ。
先日、私は庭の王を殺してしまった―――のだが、残念ながらそれはこの庭では日常的とは言えなくとも茶飯事であるらしい。何の変化も無く彼の死は迎え入れられ、そして次の日何事も無かったかのように庭の王は再びこの庭に居た。
そういう存在だと説かれて、ハイそうですかと、すんなり理解出来る話では無い。
理屈を解かれていても、だ。
それで、何かの見間違えなのではないかという感覚も捨てきれず、私は改めて王の住まう館を訊ねてみたのだが……残念ながらそれ以来不在だ。代わりに、女王のコドクが居た。館を管理している者達の話を聞くに、彼女が森を出て館にいる事はかなり珍しいとの事だ。
どうにも、レッド殿から私の行動が読まれていたらしい。
私がもう一度確かめに来るかもしれないから、その時は昨日のは夢では無いと言う事を諭す様にお願いされた、とコドクが言っていた。
夢では無い、と言われても……やはり、それであの王の不思議な存在に納得がいかない。
それで毎日では無いが、気が向いた時に王の館の扉を叩く様な習慣が出来ていた。
そうして不在とあらば居座れる場所でもないので館を出て来た、そこをインティにつかまっているという状況である。
「王の、あのタイプ、というのは……青年の姿の事だろうか?」
「そうそう、それそれ」
あの青年が無難に歳を重ねて行けば私が良く知っている初老の王の姿になるのだろうか?……と言う事は、もしかするともっと幼い姿もあるのだろうか?例えば……オウカみたいな。
「そっかぁ、沈んじゃったんだ、まぁあの姿もだいぶ長かったからさ、そろそろ替わり頃だとは思ったんだよね。でもまたあのタイプから始めたら長くなっちゃうはずだし、とするとやっぱり沈めちゃうよね」
……インティの言っている意味が、さっぱり分からないな。そういう顔を私はしてしまっていただろうか?
「大丈夫だよお兄ちゃん、理解なんかしなくったってセイギノミカタは出来るからあんまり悩まないで」
食堂の二階のテラス席は個人会合などで使えると教えて貰って、成り行きで彼とお茶する事になってしまった。
こんな穴場があるとは知らなかった。食堂のある城の、目の前にある庭園を見渡しながら飲む紅茶も悪く無い。
「お兄ちゃん、ここは食堂の城じゃないよ?せっかく僕が西から持ってきたスゴいお城なんだからちゃんと利用してね」
しかもこの少年、こっちが考えている事をサラッと読み取っている気配がある、言葉に出していないのに会話が成立している事があってなんとも奇妙だ。
おまけに何故か……すっかりお兄ちゃんと呼ばれている、可笑しいな?昨日までは名前で呼ばれていたと思ったが……。彼が、そう呼ぶのを気に入ってしまった様だ、いつの間にかすっかり懐かれている気がする。
避けられている、と思っていたのは勘違いだろうか。
「あっちの奥の扉から、城の奥に入れるよ。いつも食堂やってる裏口からしか入った事ないんでしょう?正門閉じてるからしょうがないけどさぁ。この城には図書館みたいな所があるんだよ、お兄ちゃんにも読める本があると思うよ?」
情報が……多すぎる、私はようやく紅茶と一緒にインティの話を飲み込んで、聞き返す。
「……城を持ってきたって?……西から?」
「そう、これはグランソール城。知らない?ファマメントの」
グランソール?それは……薄っすらと記憶にある。ファマメント国首都レズミオの区画名にそういう名前があったが、そこには城の類はなかったと思ったが。
城は無いが、そう……町にそういう名前がついていると云う事は、そこにその名の公族が住んでいたからだ。
とはいえ、城は無い、……今ここにあるから、か?
インティが庭にある城や建物の殆どを『作った』という噂は聞いていた。が、それがどういう意味なのかは、追求してこなかった事を思い出している。
「グランソール家は随分前に政治家辞めちゃって、それでお城が要らなくなったんだよ」
「……無知で申し訳ないが、私はグランソール家の事はあまり知らない様だ」
「そっか、まぁいいや。で、僕は要らなくなった建物とか、フリードが買い取った館とか、そういうのをここに持って来れるんだ」
「どうやって」
「どうって、ううんー……なんていうかな……転位魔法の一種みたいな感じ?」
彼は、理論的な事を意識せずに魔法を使う、典型的な魔法使い……と云う事だろうか。しかも、彼の話が本当であるのなら途方もない力を持った魔法使いと云う事になる。子供の姿で、城一つ物理的にひっくり返せる様な魔法使いなんて……そう、一つ間違えば彼の存在は、どういうものへと成りうるのだろうか?
「……君は、どうしてこの庭に?」
インティも、レッド殿からこの庭に連れてこられた訳アリなのかもしれない。私は、そう思って恐る恐ると尋ねていた。
対し、インティは悪戯っぽく笑う。
「へぇ、僕に関心ある?」
その言葉に私は、少し苦笑いを浮かべていた。
私は多分、インティを始め多くの者に関心が薄かっただろう。私が心奪われるのは何時でも『悪』だ。この庭で、その『悪』を見いだせないものには関心が薄い。
今までは、私がそこに居れば『悪』は、自然と暴かれて私の目の前にあったのに。今はすっかり森の木々に隠されたように見えなくなってしまっていた。
加えてここではすべからく悪であるという事実に騙され、見えるべきものが見えず戸惑っている。
だが、自らが悪である事をあえて訴える者など居るものだろうか?
見えなくて当然だ、ここでは……それらは巧みに隠されている。
悪である事は秘められてしかるべきだろう、そういうものを暴くのも正義たる私の務めだ。
『悪』が見いだせなくなった私は、この庭に居る多くの人達にもっと近寄って、彼らが何をしてこの庭にやって来たのかなどの話をするようになった。自然と、無意識に過ごしていた多くの物に関心を持つ様になっていた。そうする事でいずれ『悪』は見えるのだろうと……。
インティもこの庭に住まう『悪』だと云う。
その一つとして数えられているが、私は彼がどのような形で悪と呼ばれるのか知らない。
だから単刀直入に聞こう。
今まではそうする気もなかったし、そうする機会も無かった。何故だろう、私は彼の施す魔法に捕らわれていたのかもしれない。あるいは彼の方で、視界から消えるや否や存在を忘れたようになってしまう魔法でも行使しているのかもしれない。
「君も外では生きれない、だから……何か都合があってここにいるのだろう?」
「まぁね、」
インティは笑って、スカートをはためかせながらくるりと身をひるがえす。テラスの柵に腰かけて、にっこりと笑う。
そういえば……口調からして『彼』だと思っていたが服装だけ見ると少女にも、見えなくないな、一体どっちなんだ!?
「お兄ちゃんは魔王八逆星って知ってる?」
それはまた、随分と前の話だ。
だが知らないと云う事は無い、正義を順守する職にある以上、その話は必要知識として避けて通れない話ともいえる。
「……ああ、昔世界を脅かした魔王群の事だろう」
「知ってるんだ!今じゃ知らない人も多いのに、なら話は早いよ。僕ね、その昔の魔王八逆星なんだ」
「…………」
「あ、疑ってるでしょ、信じてないって顔してる!」
子供らしく頬を膨らませてインティがしかめっ面をしたのに私は、思わず苦笑いを洩らす。
この庭では本当に、私の理解を超えた事が起ってばかりだ。
人の意識を根本から変えて自分のものにしてしまうレギオンや、どう考えても悪行なのに、それのどこが悪行だったのか分からなくさせてしまうフリード、魔導都市においては絶対的に許されていない研究をしているピーター女史、一日の内に老いて死に、蘇る呪いを解きたいリンガ殿。
魔王の種をばらまく、死が死に至らない庭の王もそうだ。
レッド殿も、突然どこからともなく現れるがあれは、どういう魔法を使っているのか見当も付かない。
そして今、目の前にいる少年が……伝説の魔王群の一人だと言っている。
私は、紅茶を一口飲んでから考えて、ため息を漏らす。
「八逆星は一つを除き、全部討伐されたと言われている、それに……その残りのひとつも我が国の初代王が……」
「そんなの所詮『言われている』じゃないか、お伽噺だよ!」
インティの言葉に私は、お伽噺に歌われた剣を思い、片手で撫でていた。
そんなものなのかもしれない。
「では、信じよう。君は昔魔王だった。……ずいぶん可愛らしい魔王も居たもんだな」
「何それ、可愛らしいとか褒めてんの?」
怒っているようで、どこか嬉しそうにインティは喚いた。足をばたつかせ、不安定な柵の上でふわふわと理を無視した動きで揺れている。
「本当はねぇ、八逆星でちゃんと殺して貰えたのは5人だけなんだよ。僕だって壊してもらいたかったのになぁ……お兄ちゃん、結局それを許してくれなかったから」
インティは、出された紅茶やお菓子に手を出していない様だ。そういえば彼については『人形』だと、フリードが言う事がある。インティも、自分の事を殺してではなく、壊してくれればと言った。
「お茶が冷めるよ」
「……僕、それ飲めないんだ。お兄ちゃんおかわりで飲んで」
「人形、だから?」
「そう、僕は人形。生き物じゃない」
その様には見えない、けれど彼は……人形でありながら魔法使いだ。レッド殿のような魔導師ではない、時に無意識に、願った事をすべての理を捻じ曲げてでも世に通すというのが魔法使いだと云われる。姿形も、彼が望めば幾らでも、変えられるのだろう。
城一つ、海を越えて持って来れるのだ。それに彼は、多分……地に足を付いて歩いてなんかいない。まるで操り人形が糸で吊るされている様に、重力に捕らわれずふわふわと空中を漂う様に移動している。その上で歩いているフリをしているから私は、彼の動作に違和感を感じているのだろう。
「怒ったかな」
「ううん、本当の事だから。お兄ちゃん知りたかったんでしょ」
少しの沈黙があって、私は……それで結局彼の何を知りたいのかを考えていた。
悪が集うとされるこの庭に、彼が居る理由がかつての魔王八逆星だから、というのは……どう思う?どう思うんだジャン・ジャスティ。
それはすぐさま剣を解き、即座斬り臥せるべき悪だろうか?
「聞いていいかな」
「うん、構わないよ」
「……まだ、壊してもらいたいと思っているのか?」
私の問いにインティは、ゆっくりとこっちを振り向いた。それは少年の動作というよりは、人形がぎこちなく首を回すような、少し奇妙な動きに見える。
「王さまはねぇ、優しいのが逆に酷い」
返って来た言葉の意味に、逆に私は戸惑う。
「それは、どういう意味だろう?」
「そのまんまだよ、優しいから、本当にその人の為になる事なんて……どうだっていいんだ。僕はその残虐性が大好きだよ。大好きなんだ、愛してる」
視線をそらした先で、どこか目を輝かせて言う彼の言葉の意味が私には良く分からない。
王様、というのは庭の王の事だろう。彼の優しさは、酷く残虐で……その残虐性を愛すべきだと言っている、多分彼は心から、そう言っている。
「そういう話が僕は昔から大好きだから、ここに居ると退屈しないで済むんだ」
インティは両手を広げて嬉しそうに笑った。
「ここにいれば、僕の方でそういう悲劇を作らないで済むんだもの」
「じゃぁ……この庭に居たいというのが答えかな、インティ」
「それはねぇ、えへへ」
照れた様に笑って、インティは柵に腰かけるのを止めて私の前の席に戻って来る。
「まだ分からないよ、お兄ちゃん」
「分からない?」
インティが手を伸ばす、その先に……私の腰に差す剣の柄があり、柄尻を撫でながら彼は言った。
「そう、そういえば僕ね、昔この剣で真っ二つにされた事があるんだ」
「え?ああ、そうかこれは」
逸話上は、勇者が握った魔王殺しの剣だった。インティが八逆星だと云うのなら、そういう事もあっただろう。
「でも僕、お兄ちゃんが思っている通り魔法使いだからその時は、もうちょっと、もうちょっとだけお兄ちゃんと遊びたいっていう気持ちが強くって、すっかり欺いてしまった。あの時大人しく壊されていればなぁ……」
「じゃぁ今もそういう風に、愛する王の近くに居るのが良いんだね」
「でも、王さまは僕の事、絶対壊してなんかくれないよ。もうそういう事に興味なんか無いのだろうしね……。どっちがいいのか分からないよお兄ちゃん。僕はまだもうちょっと、遊んでいたいのかな」
剣から手を放して、インティは私を上目遣いに見上げてくる。にっこりと微笑んだまま。
「それともお兄ちゃんは僕の事、壊してくれる?」
私が答えるべきは決まっている。
「そこに、悪があるのなら、な」
「あー、じゃぁちょっと暫らく無理かもね。お兄ちゃん、八逆星の事は悪とは見做してないんでしょ?」
そうだな、それはもうだいぶ昔の魔王の話で、今それが目の前にいたとしても。
肩書だけでそれが悪だと認める事は、私はもう出来ないんだ。
ここには、自称悪が多すぎる。
自ら悪を名乗る者に、正義の実行者たるこの私が相応しい悪を感じられないでいるから大いに困っているんだ。
「僕さぁ、実は一旦リセットが掛かってね、色々再教育されてるから八逆星の頃程性格悪く無いんだってさ。でもほら、魔法使いとして規格外だし……それは僕の人形としての規格としてどうしようもない事だから解決策が壊す以外に無いしさ。保護者の人も後々困るんだろうって思ったら、僕はここに居付くしかなかったんだよ」
「レッド殿から連れてこられた訳じゃないのか」
「その前に自主的に、って奴だよ。当時の王さまには渋い顔されたかなー」
この庭には、悪に悪を興させない、何か特別な仕組みでもあるのだろうか?
自らの破壊を望むのに、それを望まなくなってしまった人形の、偽られた笑みは本当に偽物か?人形が生きた少年の様に笑うはずが無い、彼の姿は、人の魂を持つ人形が願う姿として仮想されたものなのだろう。
でもその願う心のままに、彼は本心から微笑んでいるのかもしれない。
滅ぶべき悪は、無いのならそれに越したことは無いんだ。インティは、自分がかつて魔王に連なり世界に仇名す力を持つ存在だと自分の事を理解している。理解をして、迷惑を掛けない様に自主的に……ここに来た。
そこに悪しき心や、悪しき理由があるだろうか?
無い、悪と呼べるモノが無いのならインティは……彼の言う通りに今はまだ『分からない』で良いのだろう。
今はまだこの庭がある。先の事は分からない事だ。その未来に向けて、いずれ悪になるからと剣を振るう様な事は私には出来ないのだから。魔王の種や、王果の未来が必ずしも悪ではないと今でも信じている、私には。
「もう少し、君の事を知りたいかもしれない」
「そう?じゃぁさっき言ったね、この城の図書館の本を読みなよ。魔王八逆星の事とか、当時の勇者の事とか、結構記録が残ってるからさ」
「そう、だな……気が向いたら」
「……あ、さてはお兄ちゃん、本読むの苦手でしょ」
「好きでは無いな、」
私は、誤魔化し切れないと察して素直に答えていた。
インティは魔法使いだ、魔法使いの専売特許と云えば『読心魔法』で、思っている事が容易く相手に知られてしまうというのがある。すべての魔法使いが読心を使うわけでは無いのだが、魔法使いや魔導師の存在が少ない私の祖国ファマメント国ではそういう、偏見があった。今はそれが偏見である事は分かっているが、彼ほどの魔法使いともなると……今までのやり取りからすると心は容易く見透かされているのだろう。
それに対する恐怖は無いな、私は正義だ、嘘は付かない。
「もう、素直だから許すと思わないでよね!僕だってね、あんまり昔の事自分で話すの辛いっちゃぁ辛いんだから。知りたかったらちゃんと自分で調べる事。よし、勉強会しよう」
「え?」
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「……」
自主的に来た、じゃなくてもしかして、本当は保護者から逃げて来た、が……本音か?
私の疑いの視線を受けて、インティは顔を赤くしている。勢いで、言う予定の無い事を言ってしまった様だ。
いや、嘘を付いたとは思っていないよ。どっちも多分、本当の事なのだろう。
私は手を伸ばし、インティの頭を軽く叩きながら観念した風に言った。
「わかった、君の教鞭を受けるとしよう。君は、そういう昔の記録ごとグランソール城をこの庭に隠蔽したというワケだな」
「冴えてるねお兄ちゃん!そうなんだ、本当の事はねぇ、あんまりハッキリ残っててもお偉いさんには不都合だから、ヘタすると無かった事にされちゃうんだって」
「解るよ、それは私の正義が届きにくい分野だ」
終わり
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