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世界平和の此岸
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「くっそぅ、なんかジャンの奴完全復旧しやがったぞ?何吹き込んだんだよウチの王さまは」
「良い事ではないか」
無意味な接触を求めるレギオンを張り飛ばし、私は研究所と呼ばれている穴倉から出てきたピーターに一礼。白兎の実験体生物を元とするという、ふわふわする毛に覆われた大きな耳を持つ彼女は、魔導師らしい深めのマントに身を包みいつも通り、何かを書き留める書類の束とペンを手に現れた。
「先だっては色々と、迷惑をかけた」
「そういう自覚が有る事は喜ばしい、ようやく影が取れたようだな、ジャン」
私は強くうなずき、真っ直ぐにピーター女史を見やった。
「いつまでも庭でふらふらしているのは私の性には合わない。私は、私の正義の為の活動をするべきだと思い立った」
レギオンがピーターの隣でひっくり返ったまま露骨に嫌な顔をしてみせている。
「それで、私に何か手伝える事でもあるのか?」
「逆だ、女史。私が貴方を手伝うのだ」
「……ふむ、なるほど」
「なーにがなるほどだ!わけわからん、穴倉ビッチの根暗な研究を手伝うのが、どうやって正義に繋がるんだ?」
「繋がるのだよ、彼の頭の中では」
流石はピーター女史、やはり彼女は私の事をよく理解してくれている。
「ナニ考えればそーなるんだよ、俺にはさっぱり理解できねぇ」
「彼が考える事と云えば正義の事だろう?彼にそれ以外を考えさせる方が愚かというものだ」
「先だってリンガ殿にも同じ打診をしてみたが、助手は不要と断られてな」
フリードに仕事を手伝うと言っても間に在っている返される気がする、その前にフリードを捕まえられない。
「どうやら、この庭の摂理はおおよそ理解出来たようだな。そして、私達が各々にもくろむ事も」
庭に、王を中心に悪が集う。本来は結託する事のない、それぞれ個性的な者達が、一つ同じ目的を持って結束する。
全ては愛すべき、恐るべき庭の王の為に。
私は、彼の所業に悪を見出し、彼を抹殺せしめなければならない。
この庭に集う、各々の悪がそう願う事と、同じく。
「私に出来る事は何だろう?」
胸に手をやり、訴えた。
今は、魔王を滅ぼす方法を試す者達の手足となろう。そしていつか彼らの研ぎ澄ます手段の為に剣となろう。そこに確かな正義を感じるなら、私は迷いなく剣を降れる。
「何が有ってもぶれない正義を持ち続ける事だ。喜ぶがいいレギオン」
「はぁ?なんで俺が喜ぶんだよ」
「今後ジャンはお前と同じ職場で働くと言っているんだ、うれしかろう?」
無愛想なピーターの顔が、どことなく笑っているように見える。
「え、そういう事になるの?」
「私の仕事を手伝うと云う事は、レギオンと共に作戦実行部隊に加わると言う事でよいのだな?」
「かまわない、それでレギオンは何をしているんだ?」
「それは……」
どこか言いにくそうに言葉を濁したレギオンを遮りピーター女史が言った。
「実際仕事に加わってみればわかる事だ、それでなおかつ、君は自身の正義を貫きぶれてはならない。簡単な事ではないぞ、多くはそこのレギオンのように悪人であろうとする。何故だかわかるかね?」
「その方が楽だから、だろう」
ケッ、誰だって楽な方がいいに決まってんだろう、とレギオンが悪態をついている。私はそれを横目に見つつ、ピーターに向けて言った。
「結構だ、困難な事であろうと必ず私はやり遂げて見せる」
「よし、では直ちに北西にあるミストラーンへ向え」
北方に近い、かつての北限を意味する地名だ。ミストラーンと呼ばれる地域は北西にかけて広い範囲を差しているが、私はピーターがどこに向えと言っているのかなんとなく理解が及んで小さく頷いていた。
「ミストラーン地方か……確か、ファマメント国から近年独立する動きが有ると聞いた事がある」
「よく知っているな、そのファマメント国から独立しようとしているのがミストラーン内に生じたエヴェスという国家だ、ご存じだろう」
私は頷いていた。かつてファマメント国に属していた都合、良く知っている事だった。
「もちろんファマメント政府はこの独立運動を快く思っていない、近いうちに軍体を率いて武力による制圧に乗り出すのだそうだ」
……そこまで本格的に独立運動が激化しているとは知らなかった。そして西方最大国家であるファマメントが、武力制圧などと云う手段を用いるという話に驚いてもいる。
「どこの情報だ?本当なのか」
「高位殿よりの情報だ、確実であろう」
高位、というのは紫魔導、レッド殿の事だな。彼も大抵庭の外にいて、何をしているのかよく分からないが……。
「しかしファマメント国としても武力制圧などと云う手荒な方法は出来れば、回避したいと考えている。そこで……我々がエヴェスをファマメント代行として、先に落とす事となった」
私は一瞬思考が止まった。
つまり、それは……。
「俺の軍勢でミストラーンのエヴェスを食い散らかす、ってことだよ。二度と独立運動なんか起こさせないように徹底的にな」
レギオンがぞんざいに言ったが、それでも頭が一瞬理解をしようとしない。
ピーター女史に視線を送ると、まるでこちらを試す様な視線を投げかけているのと合って私は、成る程と冷静に事を飲み込む。
このような事で思考停止させていては、この庭の恐るべき悪を裁けはしない、という事か。
「代行……それはファマメント国との密約が交わされている、という事で間違いないか?」
「もちろん、その『真実』は伏せられている事であり、君は実際そうである事を知る必要はない」
笑わないと思っていたピーターがにやりと笑う顔をこの時始めて見たと思う。
「……どうだ、揺らぐか?」
心を見透かされているな……。実際、揺らいだ心を表に出さないように努めているつもりなのだが。それとも、魔導師という肩書なのだから魔法で心でも読まれているのだろうか?魔法使いならともかく、魔導師というのはそういう『ズル』を嫌うものだとレッド殿が言っていたな。
魔法など使わなくとも、人の心を読む事に長けてこそ『魔導師』である、とかなんとか。
私は、息を呑み込みいつの間にか前のめりになっていた姿勢を正し、背を伸ばした。
「……何故『そう』する必要があるのだろう……ファマメントに」
私の問いに、ピーターは即座指を一つ立てた。
「一つ、エヴェスがミストラーン地区に圧政を敷き、ほぼ武力による蜂起をしている事。独立宣言は時間の問題だ、ファマメントがいくら否定しても、一度独立したと声明を出されては回収が出来ない。また、それによる紛争が激化した場合必ず戦争になり双方多数の死者が出る事になる。また、紛争による爪痕は唯でさえエヴェスに搾取されているミストラーン地区の疲弊を招く事にも成ろう」
二つ、とピーターは数えて指を立てる。よく見ると、指にもふわふわな白い毛が生えているんだな……などと若干、私は現実逃避をしそうになっていたのを慌てて振り払う。
「ファマメントはすでに暗殺によるエヴェス制圧に失敗している。その為にエヴェス国家中枢は堅牢な城と町に立て籠もっており、ファマメントにはもはや直接武力以外での制圧方法しかない事」
「……ファマメントには暗殺部隊が有るとは聞いていたが……本当だったんだな」
私は思わず口に出してしまった。動揺は、やはり隠し切れない。
「最後に三つ目。エヴェスは我々魔王の支援を受けていた」
そもそも、独立しようとするミストラーン地区のエヴェスは、元来小さな村だったと聞く。
ミストラーン地方というのは昔から問題の多くある所だ。起きた事件を上げればきりが無い。起こった様々な事件に尾ひれがついて、今現在も人が好んで寄りつく事のない未開拓な地域だ。昔はそれなりに栄えていたが、今は逆に荒廃して森に埋もれてしまった所が多い。
それで、この魔王の森の様に社会にあぶれた者が好んで身を隠す。
エヴェスも例外ではなく、あらくれ者や社会不適合者が住みついて治安が乱れ、その乱れを外に漏らさないようにとファマメント国の方で囲い込みを行っていた。……そういう所である事は知っている。
もちろんエヴェスはこれに反抗した、ファマメント国からの干渉を嫌った、と云う事だろう。
「エヴェスが一つの町と成したのは我々、魔王の後ろ盾があったからだ。だが我々はエヴェスを独立させるために力を貸し与えたのではない。自分たちの安住の地を求め、それを守りたいという願いを叶えてやったにすぎない。しかし、そうやって得た力を過信し、国や地域を乱す行為は……」
「いや、ちょっと待ってくれ、よくわからないが……エヴェスの独立にこの魔王の庭は一枚噛んでいる?」
「それは、まぁ解釈次第だな」
もはや女史は何時もの冷徹な顔をしているだけだったが、なんとなくその背後に軽薄な笑いを仮面に隠したフリードの姿が見える気がする。
「……それなのに、独立を許さないファマメントとの密約を得て、滅ぼしに行く?」
「地獄の沙汰もなんとやら、だろ」
レギオンが珍しく苦笑している。
「連中がどの様な手段で武器に始まり様々な資材、戦略、人材を集めたと思う?ファマメントからの干渉をけん制する為に、エヴェスは魔王の助力を願いそれを我らが王は断らなかった」
……そう、あの王は多分、どんな願いも否定はしない。
その様子が目に浮かぶようで、私は思わず深いため息を漏らしてしまった。きっと、どうでも良い、好きにしろとでも言ったのだろう。そして、……好きにされようとしている。
「フリードやインティがエヴェスを支援していた。……すでに過去の事だ。どうせこうなるだろうと私は忠告したのだがな、庭の王は人が良すぎる」
人が良いと云えるのだろうか?
それは、この未来が見えているなら恐ろしく邪悪にも感じる。しかし恐らく……その未来について、王は興味が無かったのだ。
「王は、貴方の忠告を聞かなかった事にしたのだろうか?」
ピーターは私の考える事を察したと見えて少し、口角を上げて答えるのだった。
「先の事なんて北神だって見通せやしない、どうなるのかなんて、その時になってみなければ分からない事だろう?と、言っていたな。リンガ殿が日記に書き留めているはずだから気になるのなら、後で確認してみると良い。」
インティの言っていた事を思い出していた。
庭の王は優しいのが逆に酷い。残虐だ。
本当に必要な事はどうでもよく……その時願った望みだけを許す。
私は、情報を整理するべく小さく口に出していた。
「エヴェスの者がこの庭に来たのだな」
ピーターは小さくうなずいている。
「そうして、庭の王に謁見を申し出て……エヴェス独立への助力を願った。王はそれを当然とお許しになり、その為に……」
喜んで、フリードとインティは彼らを助けた。そして、
「その次に来たのはファマメントの使者か。今度は助けたエヴェスを滅ぼせと?」
「少し違う、ファマメントからは後始末をしろ、と云われただけだ。王は、別段戦乱を望んでいるわけではない。全てにおいてどうでもよいなどと申されるが基本的に、かの王の心に在るのは『世界平和』なのだよ」
私は思わず口を曲げていた。
「それ故に、火種と成ったかの町を、ファマメントが正式に動いて燃え盛る前に消す事を了承なされたのだ」
ますます、この庭の悪の事が良く分からなくなった。
ピーターはそんな私の迷いを穿つように目を細めて言う。
「君の道は実に困難だ、どうする?エヴェスを滅ぼしに行くのは気が引けるか?」
私は……一度きつく目を閉じ、心を沈めて……考えを纏める。
「いや、少し安堵している」
ピーターは目をさらに細めた。
「何にだ?」
「ファマメント国を悪として滅ぼさなくてもいい事に。その場合、道を誤ったのはどう見てもエヴェスだろう、問題は無い」
剣の柄に手を掛けて、私は強くうなずいていた。
「レギオン、エヴェスを蹴散らしに行こう」
レギオンはいつからか含み笑いを堪えていて、私が振り返ったのに耐えきれなくなって笑い出し、笑い過ぎて咳き込み出した。
「クハッ、それがお前の正義か?ケッ!クソったれだな!」
*** *** ***
西方国の駐屯地であった城壁の町、イースターに早速転位門が設置されたという。前に整備されていたものはもう少し森の奥の隠された場所に設置されていたが、今回は堂々と町の中央部に設置されている。
転位門、というのは……設置型の管理が必要な魔法装置で、その名の通り遠い距離を一瞬で繋げるモノだ。知ってはいるが、実際お世話になったのはこの庭に来てからが初めてだ。俺の祖国はこの魔法が設置しにくい、という特殊な所で、そういう都合移動するには徒歩か、家畜の鞍を借りる必要がある。
転位魔法は便利なんてもんじゃない。
こんな便利すぎるものが普及したら、世の中の物流はどうなってしまうのかと正直、戦慄したものだ。
しかしこの転位門を自由に起動できるのは、魔王の庭において紫魔導師のレッド殿と、インティだけなのだそうだ。しかも常時起動させておけるほど維持費、的なものが安いわけではないという。
魔導都市ではある程度常時起動させているものもあるというが、それは魔導都市という大きな管理体制の中にあるからこそ、だという。
その辺りの講釈を私は防衛的な意味も含めて興味を持ち、インティから詳しく聞き出したのだが……理解が進むにつれて、祖国がこれを使わない方向性に舵を切った意味を理解するに至ったものだ。
それで、祖国ファマメントは『転位門』を使えない土壌を作ってそこに国家の中枢を据えているのだ、と。
一番最初にこの城塞を築いた魔種族、鬼種が駐屯する町の中央にレギオンの軍隊と私が突然現れても、彼らは一瞬注視をして軽い一礼をするだけで元の通り、何事かせわしなくあちこちを行き来するだけだった。
「お片付けがまだ終わって無いって感じだな」
レギオンが、鉄仮面に覆われた顔をあちこちに向け、鼻をあっちこっちに向けて嗅いでいる様な仕草をしつつ言った。彼の能力は云わば『匂い』であるからか、本人も匂いには敏感なのだろうか。
私も少し注意して見廻すと……確かに、まだ少し生臭い気配が漂っている。あまり長く嗅ぎたいとは思わない匂いの気配に思わず鼻の辺りを覆う。
「こっからミストラーンはお隣とはいえ、一日か二日は歩く必要がある。野営の準備は俺の部下どもに任せてあるが、全員分の馬は流石に無ぇ……強歩程度の進軍だな。どーするお前、馬とか使う?」
「急ぐ必要は在るのか」
「あるだろ、あのビッチは直ちにつってただろーが。あれで説明したつもりでいやがるからな、魔導師連中はトンチキ極まりねぇ」
転位門使ってイースターから行け、と云われたのは、そういう意味でもあるわだ。
なるほど、エヴェスが独立宣言をするのは時間の問題で、ファマメント国としてはその前に揉み消しを望んでいる……といった所か。
「問題無い、体力には自信がある」
「わー、まじで助かるぅ~~そんでその無限大体力に興味あるぅ~~」
なぜかレギオンは両手を組み合わせて俺に向けてクネクネと体を捻らせているんだが、意味が分からん。私はさっそくとミストラーン方面に向かう為の道を確認すべく、転位門でたどり着いた部屋の隅に張り付けてあった地図に足を向けた。
この部屋は、あの時から家具の位置もほぼ変わりない。城壁の町イースターの中央部に位置する指令室だ。周辺地図や情報をまとめた書類の置かれた棚などもそのまま利用するつもりなのだろう。小鬼達が綺麗に整頓し直してくれている。
「エヴェスは、確かこの辺りの村だったと思ったが」
舌打ちしつつ私の後に続きやってきたレギオンが壁の地図を見上げた。
「そうそう、ここで正解。割と近いんだよな、ジャン君ががんばって走って行けそうっていうなら、俺達もがんばって一日強歩で一気に畳みかけるものアリっちゃぁアリ」
「……ちなみに、戦略……は?」
「あー、無い無い。行って襲ってぶち壊して終わり終わり」
ここを襲った時は計画的であったから何か、策でもあるのかと思ったのだが。そんな私の疑問を察したようにレギオンは大げさに手を振った。
「殲滅と捕獲じゃ取るセンリャクが違うわけよ、上玉が居るならそりゃピックアップするけどそん時はそん時で、基本エヴェスは殲滅戦でって云われてるじゃん」
そうだったか?ああ……後方援護していたのが魔王軍であるのだから、その証拠も含めて隠滅を願われている、という事だろうか?
「ココみたいに、うちの陣地にする必要がねぇのよ」
「なるほど」
必要が無い、というかそんなものを作ったらミストラーンを曲がりなりにも管理しているファマメント国との折り合いが付かないから、だな。魔王軍としても、独立出来得る力を得た町一つ、無傷でファマメントに返す必要はない。王はそんな事はどうでも良いと思って居そうだが、少なくともフリードは良い顔をしないだろう。
「というか……殲滅戦になるが、フリードは何も言って来ないな」
「奴の都合なんか知るかよ」
鼻で笑う様なレギオンだが、私は別の意図を感じるな……火種になると、ピーター女史が予告したのにあえて力を貸し与えたのには……フリードからすれば何か意図があったのかもしれない。
などと私が考えているのをレギオンは違う違うと、腕を突く。
「そんな小難しい事じゃぁねぇって。お前、アイツの悪癖知らねぇのか?助力して、積み上げて、そんで最後はぶっ壊す。それでアガるのは魔王の名声のみって奴」
「魔王の……名声?」
魔王の所業を、恐るべきモノの名を上げる、か。
「そんな事をしてどうするのだろう?」
「さぁ。ただまぁ、悪の名声上げといた方がぶっ殺すタテマエって奴が立てやすいんじゃね?」
理には叶っている様にも思う。何しろ、あの庭に集う連中の最大の願いは……あの庭の王を害する事だ。正しく、世に無くする事。
いずれ、世界の全てがあの庭の王を殺せと望む時が来るならば、それに呼応する様に……かつて世に在ったと云われる『勇者』が現れるのかもしれない。
それがフリードの作法であるのか?
「まぁいいじゃねぇか、急げっていわれてるんだからよ、さっさと行って、ちゃっちゃと仕事して、帰って庭でそーいう事は悩めよ」
*** *** ***
必要最低限な物資を荷馬車に任せ、レギオン選り抜きの軍隊は殆どが先頭を行くレギオンを追いかける形で『走って』いた。
私も、馬はいらないと言った手前やはり走っている。
比較的軽装とはいえそれなりに武装はしているし、武器も携えている。レギオン軍は斥候の様に移動に特化した装備とは言い難い、皆がそれぞれ結構な重装備なのだが、しかし何故だか無駄に元気だ。
硬く踏み固められた道の進軍であるのが幸いだ、そうでなければ走って移動など出来ていない。
強歩ではない、あきらかにガチャガチャと煩い音を立てながら全員が手足を振り上げて道を走っている。
彼らの息は、結構上がっている気がするがなぜか苦しそうには見えない。不思議なくらい元気に、掛け声さえ上げながら走り続けている。
私はこれで訓練を積んだ身であるため、これくらいの軽い走り込みならさほど問題無く付いて行く事が出来るが、まさかレギオンだけ馬に乗っているとはな。
「へーい、ジャン君大丈夫ぅ~?」
流石に馬は常歩で進ませてはいるが、家畜の種類にもよるとはいえ人が馬の歩く速度に追いつくには、走るしかない。
「この程度は慣れている、から、問題はない」
しかし、走りながらはお喋るするものではないぞ。私は悠々と馬上で寛ぐレギオンを少し睨みつけてしまった。
「確かにこの速さなら一日走り続ければ着くだろうが」
「流石に俺様もこのまま突撃ぃとかはしないって。陽が沈む頃にはかなり近い所までイケると思うから、そこで野営地作ったら休ませるって。イースターの小鬼軍の到着にも合わせないとだしさぁ」
だからといって休憩も二、三度挟む程度で走りっぱなしとは、よっぽどの強行軍でなければ絶対にしないぞ?ましてや、そういう訓練を積ませているという感じでもない。いや、むしろ今その訓練をさせているという気配すらある。
食料は過剰な程持ち込んでいて、休憩の都度がっつりと食わせ、たっぷり休ませて再びの走り込み。
そうこうして、日が暮れる頃にかなりエヴェスに近い所に来た。エヴェスは少し土地の低い所にあって、丘の上から町の灯りが見える程だ。
こんな所に野営地を作っては、あちらからも丸見えだと思うのだが。
あっという間に寝床と食事を用意する火があちこちで上がって、少しの酒も持ち込んでの饗宴が始まっているのを私は、呆れて見ていた。
疲れているだろうから連中、食うものを食ったら即座寝るぞ?もしエヴェス側が気づいて武力を差し向けてきたら……と、心配したのだがレギオンは笑いながらそりゃ無理だと言っている。
「あの町の規模を見ろよ」
天候は晴れ、雨の行軍にならなくて良かった。というか、不意打ちを狙うなら雨の方が良かったと思うが、これは……そういう『作戦』など一切無い行軍だ。
割と大き目な川の西側に、大きく広がる町の灯りをレギオンと一緒に見下ろしている。
「勿論こっちの騒ぎには気が付いているだろうが、俺達もまぁそれなりの規模で来てる。小一軍寄越した程度で制圧できないのは察してるはずだぜ」
レギオン軍は一人一人が武装し、様々な装備を備えて兵站を兼ねているらしい。見ていると、今回の行軍で色々見て学んでいる者も少なくないが……何より、統率されている。レギオンの命令は絶対で、中隊程も人が集まれば横の諍いはある程度出てくるはずだがそれが、一切無い。
レギオンの下に全ては等しく、レギオンの軍として……何と言えば良いか。和気藹々としている、というのが……適切だろうか。
機械的ではない、彼らには感情が確かに在るのだがなんと云うか常に……楽しそうにしているのだ、不思議な事に。
この地獄の様な行軍を苦としていない。どう見ても『楽しんでいる』。
軍隊を率いるうえで、ここまで精神衛生を健全に保てるというのは利点以外の何物でもないだろうな。確かに、苦しみや悲しみ、辛さ、憎しみなど一々部下に抱かせておく必要性は無いし、レギオン自体が楽天主義で快楽至上主義なのだから、彼の精神状態に全てが従うとなれば結果、こうなる訳だ。
この状況をエヴェスの斥候が見ているならば、容易に手を出せない状況になるのは間違いない。こんなにも士気の高い百人にも近い軍勢が突然現れて、野営していたとなれば……どうする?
今この場を突くより、この軍が攻めてくるのを待ち構える陣を敷く事の方が重要だと並の軍師ならば考えるだろう。少なくとも私ならそうだ。
「それで、どう攻める。流石にそこまで無策ではないのだろう?」
「へへっ まぁ俺様がイって来ればそれでもそれなりにイケちまうと思うけど?」
レギオンの異能を使って、か。
「けど折角イースターで補充したうちの軍隊の練度も上げておきたいし。こっちは被害軽微で美味しく蹂躙したいトコではありますがぁ?」
「助力しよう、どう攻める」
「見事なまでの背水の陣、こっから東に逃げた所でここはミストラーンだぜ、東の森が近すぎる、あの川より東は魔物の巣窟と言っても過言じゃぁねぇだろ。よくもまぁこんな所に町を構えさせた」
「逆に言えば川の東からは責められ難い、西の軍隊はあちら側に陣は敷けない、天然要塞に近い作りではある」
「対西方としちゃぁ良い立地って訳だ。が、俺達魔王軍にしてみりゃぁな、へへ」
だからこそ、エヴェスは魔王に庇護を得に来たのだろう。自分達が築こうとしている国の弱点をよく理解していて、どちらと手を組むべきなのか良く分かっていたという事だ。
故に、ここに西方の城砦を築かれるのは魔王軍としてはあまり面白くはないだろうな。西方が、魔王軍、ひいては魔王の庭を攻める日が来るのかどうかは……まだ分からない事だが。
「俺達ゃ殲滅戦を仕掛けるんだ、となりゃ、四方八方からイくしかねぇだろ」
「軍を四つに割いて攻めきれるか?」
「おいおい、手伝ってくれるんだろぅ?俺が一翼、お前で一翼。残りをうちのかわいい軍隊が受け持つんだよ」
確かに、それなら十分に攻めきれる。
「川の東は放置するのか」
「無力な連中は在る程度逃がせ、とビッチから言われてるな、川の東と、あと下流方面は逃げ口としておこう。しかし、戦える連中は逃がすなぁ」
レギオンは、鉄仮面をつけたままで酒瓶を咥えこんで大きく煽る。彼の場合、口が裂けている都合そうしないと殆どを溢すからこういう飲み方になるらしい。
一服ついて、零れた蒸留酒を拭いながら言った。
「皆殺しだぁ、出来まちゅかねぇジャン君~?」
「問題はない」
「本当にぃ~?」
「王が望むのが『世界平和』で、それに向けて殲滅させる意味がある限り正義は、私の下にある」
*** *** ***
私は、西正面を担う事になった。
風向きの都合でレギオンは南側、逃げ口の作られる北や、川の対岸をレギオンの軍隊が受け持つ事となった。
エヴェスは既に厳戒態勢となっており、イースター程立派ではないものの町を囲う城壁は堅く閉ざされていた。レギオン軍はこれらをあまり刺激しないように北側に展開し、私は黙って一番大きな門の設えられた西側で、状況が動くのを見守っている。
エヴェスの軍隊が、たった一人道の真ん中に立つ私を見て動く気配はない。世の中には一人で千人もの働きをする『怪物』が居る事を、良く知っているのだろう。かつて正義と東の国の字が描かれていたという仮面で顔の傷を隠す、私が何者であるのか、彼らは知っているという事だ。
と、町のどこからか煙が上がり、心なしか騒がしい気配が漂ってきた。レギオンが動き出したのだろう、私は……西方においてはそれなりに、知られてはいる人物だろうしイースターでの働きは西方国家ファマメントにおいて仰々しく周知されているものと思う。
戦況が動いたと見えて、数騎が西方の様式に則りこちらに駆けてくる。すでに魔王軍に属する私が西方のしきたりに従う必要性は無いのだが、私はレギオンの様に無抵抗なものに突然刃を向けるような不作法者ではないつもりだ。話くらいは聞いても良いだろう。
正義が、どちらにあるのかはもう少し計ってみても良いのかもしれない。
「ジャン・ジャスティ殿とお見受け致す」
やはり私の事は知っていたか。先方は随分焦った形相で、声が届く状況と見て慌てて伝えて寄越した。
「今、エヴァスを攻めるはファマメントではなく、魔王軍との事!これは、どういう状況であるのか」
「ああ、」
騎馬から降りる気配のない相手を見上げ、私は静かにこれに応えた。
「私はファマメントを出ていて、今は魔王軍に所属しているんだ」
「なん……?」
「私がファマメントを抜けている事自体、もしかすれば明らかにされていない事かもしれない」
その方が、秘密裡に正義を成そうとする私にとって都合が良いと云えるだろう。ファマメントがそこまで気を使ってくれている、というわけではないだろう。アレはアレで、自分の国の剣が行方不明である事を認めたくないだけなのだ。私の祖国はそういう所である。
「私の名前はジャン。貴方は」
しかし騎馬の伝令はそれには答えず剣を抜いた。
「天空国も魔王と手を組むのか!」
それは知る必要の無い事だと、ピーター女史から言われた事を思い出している。
振りかざされた剣があるとすれば、私はそれに剣で答える。
「すまないが、そういう事には感知していない」
とりあえず会話は少ししておこうと、振りかざされた剣と切り結び、振り払わない程度に力を合わせる。
「ただ、あなた方の国がファマメントに対する事で、私の後ろに向けて戦火が広がると聞いて黙っている訳にはいかないと思ったのだ」
「天空国の管理は不要!奴らは都合の悪いものを全てこちらに押し付けておいて、費用ばかり絞り取ろうとする!」
「しかし、先に魔王と手を組んだのは貴方がたなのでは?」
「それは」
門が解放され、控えていた軍隊が土煙を上げてこちらに迫ってくる。騎兵が剣を抜いた時点で交渉は決裂しているとされたのだろう。
「もう少し、事情を良く知る者と話をしたい所ではあるのだが」
この場を任されている以上、これ以上既に知っている事を聞きだす必要性は無いだろう。
騎兵を馬ごとに切り伏せて、私は露を払い一歩前に踏み出して横に、もう一閃。この剣は実に、業物だ。今まで使っていたどんな剣よりも固く、力量さえ釣り合えばすべてを切り伏せる事が可能になる。
騎馬兵を抑えるならまずは馬だ、こちらは馬に乗っていないのだから、剣の届く範囲は大抵馬の足になる。総倒れとなった騎兵の奥から、無遠慮な矢の雨が降る。恐らく、私に向けてこうする段取りが付いていたのだろう。本来矢は騎兵が来る前に放つものだ、そうしなければ味方にもあたる。
実際、矢の雨が同朋を串刺しにする空間を、私は一蹴りで前へと抜け出した。
誓っている、私は生涯自らが何者であるかを語らない。
それは忘れた事として、それでも自分が正義の剣で在る事を。
しかし……知っている者は存外に居るもので、私が如何に戦いに優れていて時にその肩書が『怪物』と冠されるか。
その意味を、正確に知っている場合とるべき正しい対処に対面している。状況は、ただそれだけの事。
今、私の剣を止められる存在が無い。庭の王より受け取った剣の前に、あらゆる物が容易く切り裂かれていく。時に私の力が強すぎて、剣の方が先に砕けてしまうから装備すべき武器は最低でも二本だったが……それは、この剣の前では遠い過去の事となった。
武器には二種類の良し悪しがある。武器が背負った曰くや、出来としての良し悪し。もう一つは言わずもがな、だ。
実際使って使いやすいかどうかの良し悪し。
私にとって武器の良し悪しは前者だけであった、使いやすさなど二の次で、そんなもので実力が変わる事は無いと思っていた。
訂正しなければならない、世の中には……確実に、持ち手の力を格段に引き上げうる名剣が存在したのだ。
気が付けば進軍は止まっていて、返り血を纏う私が一人立つのを、遠くから息を呑んで見守っている。
私は、向かって来た者を一人残らず殲滅せしめ、死屍累々と横たわる屍の中を一歩、前に踏み出す。
「武装を完全に解き、この町から出るならば追いはしないぞ。逃げ口は作ってある、望むのならば北へ逃げよ」
剣で北の方角を指し示し、大きな声で触れれば……しばらくして、武器を捨て、鎧を脱いで一人、また一人と戦線から抜け出すものが現れる。その様子に戸惑っているのはまだ若い兵士が多い、まぁそうなるだろう、年を取る程に、命よりも大切な物が増えていくものなのだ。
「我々は貸したものを取り立てに来た。天空国に、それを渡すつもりがないだけだ」
*** *** ***
それでもかなりの一般人の被害が出たのは、町に入ってみれば分かる事だった。レギオンが実行部隊なのだから仕方がない事ではある。
レギオンの異能に侵されてしまったエヴェスの兵士の死骸が点々と転がっていて、その周辺にその無惨な被害者が散らばっている。可哀想だとは思うのだが、レギオンに抗えないのだから仕方がない、もう過ぎた事だし、レギオンに穏便を願うのも無駄な事だ。
そもそも魔王軍は昨日の夜の時点で姿をはっきりと見せていて、警告はしていたのだ。レギオンにその意図があったのかどうかは分からないが、ピーター女史が進軍を急かせばこの近辺の地形から、そういう事になりうる事は分かっていたのかもしれない。
「ちょっとぉ、そーいう事は打ち合わせに無かったんですけどぅー」
レギオンは、かなり不服そうだな。
「いいではないか、武装はしっかり解除して逃げたのなら問題無いだろう」
軍を練れなければファマメント国に抗う方法は無い。エヴェスが、魔王の庇護で得た安寧が、魔王の取り立てで瓦解する。天空国より独立するんだと息巻いていた連中を突き崩して見れば、結局の所独立なんかより、生きる事を選択する個人が群れを成していただけだと知れる。
民衆というものは大抵、そんなものだという事を私は、良く知っていた。最後まで反抗したのは、この町でそれなりの地位を得ていた者達……つまり軍人、商人、そのあたり。ミストラーンは北方に近い都合、畑はあまり向いていない。狩猟や、林業、漁業を営む者が殆どで……魔物や大国の横暴な重税から逃れるに『楽』な方へ、民衆が群れていたに過ぎなかった様で、あっさりとその手の心得のある者達は北の逃げ口からエヴェスを捨てて行った。
「俺様としてはもうちょっと血みどろな殲滅戦をだな、」
「実際北の方は大分揉めたそうじゃないか。逃げる人を抑え込もうとするエヴェス軍と、お前の軍との戦いが激化してたって」
「うー……チガウ……ソウジャナイ……」
ふむ、相当にレギオンが不満がっている。
「とにかく、お前がいるとどうにも不穏だから、ここは私が見届けておく。とっとと帰ったらどうだ」
絶句しているな、レギオン。
「いえ、ジャン様、そうすると我々も帰らねばならないので、もうしばらくレギオン様を留めておいてはくれませんか」
と、レギオン軍の一人が苦笑を漏らした。レギオン軍は均された軍だと思っていたが、古参の類は居る様で今口を挟んだのはその一人……という事は?
レギオン軍は全員がレギオンの意識に前倣えでは無かったのだ!
私はその事実を今知り得て少し驚いていた。
「ケレスゥ、どういう意味だそりゃ」
「大体は武装解除して敗走してますが、流石に町一つジャン様に任せる訳にはいかないでしょ、それこそジャン様は剣を振うしか方法がないんですよ。我々が去って変な暴動でも起きたら、折角流さずに済んだ血が流れる事になりかねません」
「いいじゃねぇか。願ったりかなったりだぞ」
「お願いですから、今はそう願わないでくださいよ……ね」
ケレス、という名の彼は……レギオンの軍なのだから勿論、整った顔をしている。しかし他よりも随分体格が良いし、顔にもいくつか傷があった。レギオンは……どうにも男か、女か、判別が付かない中性的な容姿を好むらしいと理解しつつあった私だが、確かに全てが全てそういうワケではないな。進軍中はレギオンに習って皆それぞれに鉄仮面を被っていて分からなかった事なのだが。
そうこう考えている内に、ケレスはそっとレギオンの肩に手を回して彼を横抱きにする様に抱えレギオンもそれに完全に身を任せるように寄りかかる。
「レギオン様、ここは穏便に略奪でもして今日は美味しいものを沢山食べて、元気いっぱいに皆の事を労ってください」
「それも……それもワルクナイ……」
丸め込まれている、な。
流石レギオンの古参部下、彼の扱いに慣れている。ケレスはそっと私に意味深な視線を投げた。
「その方が私たちにとっても嬉しい事ですからね」
と、今度は完全にレギオンが一番好きそうな、男女どちらか区別がつかない美貌の、長髪をきれいに結い上げた一人が私の隣で囁いた。
「何しろ、この所レギオン様ったら貴方につきっきりで」
流石に私もちょっと驚く程の流し目で、悪魔的に恨めしそうな笑みを投げかけてくる。
「久しぶりにずっと一緒の作戦行動で、みんな心が躍っているんですよ。みんな、レギオン様が……」
欲しいんですと、この場合の欲しいが何であるのかは一応、私も理解している。が。そんな欲望ギラギラな視線が、レギオン軍から一様に、あのグダグダとしただらしない男に注がれているのに今更気が付いて私は、正直ぞっとした。
「……うん、任せた」
私はレギオン軍に担がれる様に町に消えていくレギオンをその様に、見送ってしまうのだった。
こちらの状況をチラチラ見ながらも、町からの撤退を急ぐ商人達の方へ向き直り、咳払いをして告げる。
「明日の昼過ぎにはイースターから小鬼の軍が略奪に来るけど」
その一言に悲鳴を上げた人々に、問題無いと私は手を上げて答えた。
「私たちがいる限り命の保証はするから、とりあえず引っ越す準備を急ぐ事だな」
終
「良い事ではないか」
無意味な接触を求めるレギオンを張り飛ばし、私は研究所と呼ばれている穴倉から出てきたピーターに一礼。白兎の実験体生物を元とするという、ふわふわする毛に覆われた大きな耳を持つ彼女は、魔導師らしい深めのマントに身を包みいつも通り、何かを書き留める書類の束とペンを手に現れた。
「先だっては色々と、迷惑をかけた」
「そういう自覚が有る事は喜ばしい、ようやく影が取れたようだな、ジャン」
私は強くうなずき、真っ直ぐにピーター女史を見やった。
「いつまでも庭でふらふらしているのは私の性には合わない。私は、私の正義の為の活動をするべきだと思い立った」
レギオンがピーターの隣でひっくり返ったまま露骨に嫌な顔をしてみせている。
「それで、私に何か手伝える事でもあるのか?」
「逆だ、女史。私が貴方を手伝うのだ」
「……ふむ、なるほど」
「なーにがなるほどだ!わけわからん、穴倉ビッチの根暗な研究を手伝うのが、どうやって正義に繋がるんだ?」
「繋がるのだよ、彼の頭の中では」
流石はピーター女史、やはり彼女は私の事をよく理解してくれている。
「ナニ考えればそーなるんだよ、俺にはさっぱり理解できねぇ」
「彼が考える事と云えば正義の事だろう?彼にそれ以外を考えさせる方が愚かというものだ」
「先だってリンガ殿にも同じ打診をしてみたが、助手は不要と断られてな」
フリードに仕事を手伝うと言っても間に在っている返される気がする、その前にフリードを捕まえられない。
「どうやら、この庭の摂理はおおよそ理解出来たようだな。そして、私達が各々にもくろむ事も」
庭に、王を中心に悪が集う。本来は結託する事のない、それぞれ個性的な者達が、一つ同じ目的を持って結束する。
全ては愛すべき、恐るべき庭の王の為に。
私は、彼の所業に悪を見出し、彼を抹殺せしめなければならない。
この庭に集う、各々の悪がそう願う事と、同じく。
「私に出来る事は何だろう?」
胸に手をやり、訴えた。
今は、魔王を滅ぼす方法を試す者達の手足となろう。そしていつか彼らの研ぎ澄ます手段の為に剣となろう。そこに確かな正義を感じるなら、私は迷いなく剣を降れる。
「何が有ってもぶれない正義を持ち続ける事だ。喜ぶがいいレギオン」
「はぁ?なんで俺が喜ぶんだよ」
「今後ジャンはお前と同じ職場で働くと言っているんだ、うれしかろう?」
無愛想なピーターの顔が、どことなく笑っているように見える。
「え、そういう事になるの?」
「私の仕事を手伝うと云う事は、レギオンと共に作戦実行部隊に加わると言う事でよいのだな?」
「かまわない、それでレギオンは何をしているんだ?」
「それは……」
どこか言いにくそうに言葉を濁したレギオンを遮りピーター女史が言った。
「実際仕事に加わってみればわかる事だ、それでなおかつ、君は自身の正義を貫きぶれてはならない。簡単な事ではないぞ、多くはそこのレギオンのように悪人であろうとする。何故だかわかるかね?」
「その方が楽だから、だろう」
ケッ、誰だって楽な方がいいに決まってんだろう、とレギオンが悪態をついている。私はそれを横目に見つつ、ピーターに向けて言った。
「結構だ、困難な事であろうと必ず私はやり遂げて見せる」
「よし、では直ちに北西にあるミストラーンへ向え」
北方に近い、かつての北限を意味する地名だ。ミストラーンと呼ばれる地域は北西にかけて広い範囲を差しているが、私はピーターがどこに向えと言っているのかなんとなく理解が及んで小さく頷いていた。
「ミストラーン地方か……確か、ファマメント国から近年独立する動きが有ると聞いた事がある」
「よく知っているな、そのファマメント国から独立しようとしているのがミストラーン内に生じたエヴェスという国家だ、ご存じだろう」
私は頷いていた。かつてファマメント国に属していた都合、良く知っている事だった。
「もちろんファマメント政府はこの独立運動を快く思っていない、近いうちに軍体を率いて武力による制圧に乗り出すのだそうだ」
……そこまで本格的に独立運動が激化しているとは知らなかった。そして西方最大国家であるファマメントが、武力制圧などと云う手段を用いるという話に驚いてもいる。
「どこの情報だ?本当なのか」
「高位殿よりの情報だ、確実であろう」
高位、というのは紫魔導、レッド殿の事だな。彼も大抵庭の外にいて、何をしているのかよく分からないが……。
「しかしファマメント国としても武力制圧などと云う手荒な方法は出来れば、回避したいと考えている。そこで……我々がエヴェスをファマメント代行として、先に落とす事となった」
私は一瞬思考が止まった。
つまり、それは……。
「俺の軍勢でミストラーンのエヴェスを食い散らかす、ってことだよ。二度と独立運動なんか起こさせないように徹底的にな」
レギオンがぞんざいに言ったが、それでも頭が一瞬理解をしようとしない。
ピーター女史に視線を送ると、まるでこちらを試す様な視線を投げかけているのと合って私は、成る程と冷静に事を飲み込む。
このような事で思考停止させていては、この庭の恐るべき悪を裁けはしない、という事か。
「代行……それはファマメント国との密約が交わされている、という事で間違いないか?」
「もちろん、その『真実』は伏せられている事であり、君は実際そうである事を知る必要はない」
笑わないと思っていたピーターがにやりと笑う顔をこの時始めて見たと思う。
「……どうだ、揺らぐか?」
心を見透かされているな……。実際、揺らいだ心を表に出さないように努めているつもりなのだが。それとも、魔導師という肩書なのだから魔法で心でも読まれているのだろうか?魔法使いならともかく、魔導師というのはそういう『ズル』を嫌うものだとレッド殿が言っていたな。
魔法など使わなくとも、人の心を読む事に長けてこそ『魔導師』である、とかなんとか。
私は、息を呑み込みいつの間にか前のめりになっていた姿勢を正し、背を伸ばした。
「……何故『そう』する必要があるのだろう……ファマメントに」
私の問いに、ピーターは即座指を一つ立てた。
「一つ、エヴェスがミストラーン地区に圧政を敷き、ほぼ武力による蜂起をしている事。独立宣言は時間の問題だ、ファマメントがいくら否定しても、一度独立したと声明を出されては回収が出来ない。また、それによる紛争が激化した場合必ず戦争になり双方多数の死者が出る事になる。また、紛争による爪痕は唯でさえエヴェスに搾取されているミストラーン地区の疲弊を招く事にも成ろう」
二つ、とピーターは数えて指を立てる。よく見ると、指にもふわふわな白い毛が生えているんだな……などと若干、私は現実逃避をしそうになっていたのを慌てて振り払う。
「ファマメントはすでに暗殺によるエヴェス制圧に失敗している。その為にエヴェス国家中枢は堅牢な城と町に立て籠もっており、ファマメントにはもはや直接武力以外での制圧方法しかない事」
「……ファマメントには暗殺部隊が有るとは聞いていたが……本当だったんだな」
私は思わず口に出してしまった。動揺は、やはり隠し切れない。
「最後に三つ目。エヴェスは我々魔王の支援を受けていた」
そもそも、独立しようとするミストラーン地区のエヴェスは、元来小さな村だったと聞く。
ミストラーン地方というのは昔から問題の多くある所だ。起きた事件を上げればきりが無い。起こった様々な事件に尾ひれがついて、今現在も人が好んで寄りつく事のない未開拓な地域だ。昔はそれなりに栄えていたが、今は逆に荒廃して森に埋もれてしまった所が多い。
それで、この魔王の森の様に社会にあぶれた者が好んで身を隠す。
エヴェスも例外ではなく、あらくれ者や社会不適合者が住みついて治安が乱れ、その乱れを外に漏らさないようにとファマメント国の方で囲い込みを行っていた。……そういう所である事は知っている。
もちろんエヴェスはこれに反抗した、ファマメント国からの干渉を嫌った、と云う事だろう。
「エヴェスが一つの町と成したのは我々、魔王の後ろ盾があったからだ。だが我々はエヴェスを独立させるために力を貸し与えたのではない。自分たちの安住の地を求め、それを守りたいという願いを叶えてやったにすぎない。しかし、そうやって得た力を過信し、国や地域を乱す行為は……」
「いや、ちょっと待ってくれ、よくわからないが……エヴェスの独立にこの魔王の庭は一枚噛んでいる?」
「それは、まぁ解釈次第だな」
もはや女史は何時もの冷徹な顔をしているだけだったが、なんとなくその背後に軽薄な笑いを仮面に隠したフリードの姿が見える気がする。
「……それなのに、独立を許さないファマメントとの密約を得て、滅ぼしに行く?」
「地獄の沙汰もなんとやら、だろ」
レギオンが珍しく苦笑している。
「連中がどの様な手段で武器に始まり様々な資材、戦略、人材を集めたと思う?ファマメントからの干渉をけん制する為に、エヴェスは魔王の助力を願いそれを我らが王は断らなかった」
……そう、あの王は多分、どんな願いも否定はしない。
その様子が目に浮かぶようで、私は思わず深いため息を漏らしてしまった。きっと、どうでも良い、好きにしろとでも言ったのだろう。そして、……好きにされようとしている。
「フリードやインティがエヴェスを支援していた。……すでに過去の事だ。どうせこうなるだろうと私は忠告したのだがな、庭の王は人が良すぎる」
人が良いと云えるのだろうか?
それは、この未来が見えているなら恐ろしく邪悪にも感じる。しかし恐らく……その未来について、王は興味が無かったのだ。
「王は、貴方の忠告を聞かなかった事にしたのだろうか?」
ピーターは私の考える事を察したと見えて少し、口角を上げて答えるのだった。
「先の事なんて北神だって見通せやしない、どうなるのかなんて、その時になってみなければ分からない事だろう?と、言っていたな。リンガ殿が日記に書き留めているはずだから気になるのなら、後で確認してみると良い。」
インティの言っていた事を思い出していた。
庭の王は優しいのが逆に酷い。残虐だ。
本当に必要な事はどうでもよく……その時願った望みだけを許す。
私は、情報を整理するべく小さく口に出していた。
「エヴェスの者がこの庭に来たのだな」
ピーターは小さくうなずいている。
「そうして、庭の王に謁見を申し出て……エヴェス独立への助力を願った。王はそれを当然とお許しになり、その為に……」
喜んで、フリードとインティは彼らを助けた。そして、
「その次に来たのはファマメントの使者か。今度は助けたエヴェスを滅ぼせと?」
「少し違う、ファマメントからは後始末をしろ、と云われただけだ。王は、別段戦乱を望んでいるわけではない。全てにおいてどうでもよいなどと申されるが基本的に、かの王の心に在るのは『世界平和』なのだよ」
私は思わず口を曲げていた。
「それ故に、火種と成ったかの町を、ファマメントが正式に動いて燃え盛る前に消す事を了承なされたのだ」
ますます、この庭の悪の事が良く分からなくなった。
ピーターはそんな私の迷いを穿つように目を細めて言う。
「君の道は実に困難だ、どうする?エヴェスを滅ぼしに行くのは気が引けるか?」
私は……一度きつく目を閉じ、心を沈めて……考えを纏める。
「いや、少し安堵している」
ピーターは目をさらに細めた。
「何にだ?」
「ファマメント国を悪として滅ぼさなくてもいい事に。その場合、道を誤ったのはどう見てもエヴェスだろう、問題は無い」
剣の柄に手を掛けて、私は強くうなずいていた。
「レギオン、エヴェスを蹴散らしに行こう」
レギオンはいつからか含み笑いを堪えていて、私が振り返ったのに耐えきれなくなって笑い出し、笑い過ぎて咳き込み出した。
「クハッ、それがお前の正義か?ケッ!クソったれだな!」
*** *** ***
西方国の駐屯地であった城壁の町、イースターに早速転位門が設置されたという。前に整備されていたものはもう少し森の奥の隠された場所に設置されていたが、今回は堂々と町の中央部に設置されている。
転位門、というのは……設置型の管理が必要な魔法装置で、その名の通り遠い距離を一瞬で繋げるモノだ。知ってはいるが、実際お世話になったのはこの庭に来てからが初めてだ。俺の祖国はこの魔法が設置しにくい、という特殊な所で、そういう都合移動するには徒歩か、家畜の鞍を借りる必要がある。
転位魔法は便利なんてもんじゃない。
こんな便利すぎるものが普及したら、世の中の物流はどうなってしまうのかと正直、戦慄したものだ。
しかしこの転位門を自由に起動できるのは、魔王の庭において紫魔導師のレッド殿と、インティだけなのだそうだ。しかも常時起動させておけるほど維持費、的なものが安いわけではないという。
魔導都市ではある程度常時起動させているものもあるというが、それは魔導都市という大きな管理体制の中にあるからこそ、だという。
その辺りの講釈を私は防衛的な意味も含めて興味を持ち、インティから詳しく聞き出したのだが……理解が進むにつれて、祖国がこれを使わない方向性に舵を切った意味を理解するに至ったものだ。
それで、祖国ファマメントは『転位門』を使えない土壌を作ってそこに国家の中枢を据えているのだ、と。
一番最初にこの城塞を築いた魔種族、鬼種が駐屯する町の中央にレギオンの軍隊と私が突然現れても、彼らは一瞬注視をして軽い一礼をするだけで元の通り、何事かせわしなくあちこちを行き来するだけだった。
「お片付けがまだ終わって無いって感じだな」
レギオンが、鉄仮面に覆われた顔をあちこちに向け、鼻をあっちこっちに向けて嗅いでいる様な仕草をしつつ言った。彼の能力は云わば『匂い』であるからか、本人も匂いには敏感なのだろうか。
私も少し注意して見廻すと……確かに、まだ少し生臭い気配が漂っている。あまり長く嗅ぎたいとは思わない匂いの気配に思わず鼻の辺りを覆う。
「こっからミストラーンはお隣とはいえ、一日か二日は歩く必要がある。野営の準備は俺の部下どもに任せてあるが、全員分の馬は流石に無ぇ……強歩程度の進軍だな。どーするお前、馬とか使う?」
「急ぐ必要は在るのか」
「あるだろ、あのビッチは直ちにつってただろーが。あれで説明したつもりでいやがるからな、魔導師連中はトンチキ極まりねぇ」
転位門使ってイースターから行け、と云われたのは、そういう意味でもあるわだ。
なるほど、エヴェスが独立宣言をするのは時間の問題で、ファマメント国としてはその前に揉み消しを望んでいる……といった所か。
「問題無い、体力には自信がある」
「わー、まじで助かるぅ~~そんでその無限大体力に興味あるぅ~~」
なぜかレギオンは両手を組み合わせて俺に向けてクネクネと体を捻らせているんだが、意味が分からん。私はさっそくとミストラーン方面に向かう為の道を確認すべく、転位門でたどり着いた部屋の隅に張り付けてあった地図に足を向けた。
この部屋は、あの時から家具の位置もほぼ変わりない。城壁の町イースターの中央部に位置する指令室だ。周辺地図や情報をまとめた書類の置かれた棚などもそのまま利用するつもりなのだろう。小鬼達が綺麗に整頓し直してくれている。
「エヴェスは、確かこの辺りの村だったと思ったが」
舌打ちしつつ私の後に続きやってきたレギオンが壁の地図を見上げた。
「そうそう、ここで正解。割と近いんだよな、ジャン君ががんばって走って行けそうっていうなら、俺達もがんばって一日強歩で一気に畳みかけるものアリっちゃぁアリ」
「……ちなみに、戦略……は?」
「あー、無い無い。行って襲ってぶち壊して終わり終わり」
ここを襲った時は計画的であったから何か、策でもあるのかと思ったのだが。そんな私の疑問を察したようにレギオンは大げさに手を振った。
「殲滅と捕獲じゃ取るセンリャクが違うわけよ、上玉が居るならそりゃピックアップするけどそん時はそん時で、基本エヴェスは殲滅戦でって云われてるじゃん」
そうだったか?ああ……後方援護していたのが魔王軍であるのだから、その証拠も含めて隠滅を願われている、という事だろうか?
「ココみたいに、うちの陣地にする必要がねぇのよ」
「なるほど」
必要が無い、というかそんなものを作ったらミストラーンを曲がりなりにも管理しているファマメント国との折り合いが付かないから、だな。魔王軍としても、独立出来得る力を得た町一つ、無傷でファマメントに返す必要はない。王はそんな事はどうでも良いと思って居そうだが、少なくともフリードは良い顔をしないだろう。
「というか……殲滅戦になるが、フリードは何も言って来ないな」
「奴の都合なんか知るかよ」
鼻で笑う様なレギオンだが、私は別の意図を感じるな……火種になると、ピーター女史が予告したのにあえて力を貸し与えたのには……フリードからすれば何か意図があったのかもしれない。
などと私が考えているのをレギオンは違う違うと、腕を突く。
「そんな小難しい事じゃぁねぇって。お前、アイツの悪癖知らねぇのか?助力して、積み上げて、そんで最後はぶっ壊す。それでアガるのは魔王の名声のみって奴」
「魔王の……名声?」
魔王の所業を、恐るべきモノの名を上げる、か。
「そんな事をしてどうするのだろう?」
「さぁ。ただまぁ、悪の名声上げといた方がぶっ殺すタテマエって奴が立てやすいんじゃね?」
理には叶っている様にも思う。何しろ、あの庭に集う連中の最大の願いは……あの庭の王を害する事だ。正しく、世に無くする事。
いずれ、世界の全てがあの庭の王を殺せと望む時が来るならば、それに呼応する様に……かつて世に在ったと云われる『勇者』が現れるのかもしれない。
それがフリードの作法であるのか?
「まぁいいじゃねぇか、急げっていわれてるんだからよ、さっさと行って、ちゃっちゃと仕事して、帰って庭でそーいう事は悩めよ」
*** *** ***
必要最低限な物資を荷馬車に任せ、レギオン選り抜きの軍隊は殆どが先頭を行くレギオンを追いかける形で『走って』いた。
私も、馬はいらないと言った手前やはり走っている。
比較的軽装とはいえそれなりに武装はしているし、武器も携えている。レギオン軍は斥候の様に移動に特化した装備とは言い難い、皆がそれぞれ結構な重装備なのだが、しかし何故だか無駄に元気だ。
硬く踏み固められた道の進軍であるのが幸いだ、そうでなければ走って移動など出来ていない。
強歩ではない、あきらかにガチャガチャと煩い音を立てながら全員が手足を振り上げて道を走っている。
彼らの息は、結構上がっている気がするがなぜか苦しそうには見えない。不思議なくらい元気に、掛け声さえ上げながら走り続けている。
私はこれで訓練を積んだ身であるため、これくらいの軽い走り込みならさほど問題無く付いて行く事が出来るが、まさかレギオンだけ馬に乗っているとはな。
「へーい、ジャン君大丈夫ぅ~?」
流石に馬は常歩で進ませてはいるが、家畜の種類にもよるとはいえ人が馬の歩く速度に追いつくには、走るしかない。
「この程度は慣れている、から、問題はない」
しかし、走りながらはお喋るするものではないぞ。私は悠々と馬上で寛ぐレギオンを少し睨みつけてしまった。
「確かにこの速さなら一日走り続ければ着くだろうが」
「流石に俺様もこのまま突撃ぃとかはしないって。陽が沈む頃にはかなり近い所までイケると思うから、そこで野営地作ったら休ませるって。イースターの小鬼軍の到着にも合わせないとだしさぁ」
だからといって休憩も二、三度挟む程度で走りっぱなしとは、よっぽどの強行軍でなければ絶対にしないぞ?ましてや、そういう訓練を積ませているという感じでもない。いや、むしろ今その訓練をさせているという気配すらある。
食料は過剰な程持ち込んでいて、休憩の都度がっつりと食わせ、たっぷり休ませて再びの走り込み。
そうこうして、日が暮れる頃にかなりエヴェスに近い所に来た。エヴェスは少し土地の低い所にあって、丘の上から町の灯りが見える程だ。
こんな所に野営地を作っては、あちらからも丸見えだと思うのだが。
あっという間に寝床と食事を用意する火があちこちで上がって、少しの酒も持ち込んでの饗宴が始まっているのを私は、呆れて見ていた。
疲れているだろうから連中、食うものを食ったら即座寝るぞ?もしエヴェス側が気づいて武力を差し向けてきたら……と、心配したのだがレギオンは笑いながらそりゃ無理だと言っている。
「あの町の規模を見ろよ」
天候は晴れ、雨の行軍にならなくて良かった。というか、不意打ちを狙うなら雨の方が良かったと思うが、これは……そういう『作戦』など一切無い行軍だ。
割と大き目な川の西側に、大きく広がる町の灯りをレギオンと一緒に見下ろしている。
「勿論こっちの騒ぎには気が付いているだろうが、俺達もまぁそれなりの規模で来てる。小一軍寄越した程度で制圧できないのは察してるはずだぜ」
レギオン軍は一人一人が武装し、様々な装備を備えて兵站を兼ねているらしい。見ていると、今回の行軍で色々見て学んでいる者も少なくないが……何より、統率されている。レギオンの命令は絶対で、中隊程も人が集まれば横の諍いはある程度出てくるはずだがそれが、一切無い。
レギオンの下に全ては等しく、レギオンの軍として……何と言えば良いか。和気藹々としている、というのが……適切だろうか。
機械的ではない、彼らには感情が確かに在るのだがなんと云うか常に……楽しそうにしているのだ、不思議な事に。
この地獄の様な行軍を苦としていない。どう見ても『楽しんでいる』。
軍隊を率いるうえで、ここまで精神衛生を健全に保てるというのは利点以外の何物でもないだろうな。確かに、苦しみや悲しみ、辛さ、憎しみなど一々部下に抱かせておく必要性は無いし、レギオン自体が楽天主義で快楽至上主義なのだから、彼の精神状態に全てが従うとなれば結果、こうなる訳だ。
この状況をエヴェスの斥候が見ているならば、容易に手を出せない状況になるのは間違いない。こんなにも士気の高い百人にも近い軍勢が突然現れて、野営していたとなれば……どうする?
今この場を突くより、この軍が攻めてくるのを待ち構える陣を敷く事の方が重要だと並の軍師ならば考えるだろう。少なくとも私ならそうだ。
「それで、どう攻める。流石にそこまで無策ではないのだろう?」
「へへっ まぁ俺様がイって来ればそれでもそれなりにイケちまうと思うけど?」
レギオンの異能を使って、か。
「けど折角イースターで補充したうちの軍隊の練度も上げておきたいし。こっちは被害軽微で美味しく蹂躙したいトコではありますがぁ?」
「助力しよう、どう攻める」
「見事なまでの背水の陣、こっから東に逃げた所でここはミストラーンだぜ、東の森が近すぎる、あの川より東は魔物の巣窟と言っても過言じゃぁねぇだろ。よくもまぁこんな所に町を構えさせた」
「逆に言えば川の東からは責められ難い、西の軍隊はあちら側に陣は敷けない、天然要塞に近い作りではある」
「対西方としちゃぁ良い立地って訳だ。が、俺達魔王軍にしてみりゃぁな、へへ」
だからこそ、エヴェスは魔王に庇護を得に来たのだろう。自分達が築こうとしている国の弱点をよく理解していて、どちらと手を組むべきなのか良く分かっていたという事だ。
故に、ここに西方の城砦を築かれるのは魔王軍としてはあまり面白くはないだろうな。西方が、魔王軍、ひいては魔王の庭を攻める日が来るのかどうかは……まだ分からない事だが。
「俺達ゃ殲滅戦を仕掛けるんだ、となりゃ、四方八方からイくしかねぇだろ」
「軍を四つに割いて攻めきれるか?」
「おいおい、手伝ってくれるんだろぅ?俺が一翼、お前で一翼。残りをうちのかわいい軍隊が受け持つんだよ」
確かに、それなら十分に攻めきれる。
「川の東は放置するのか」
「無力な連中は在る程度逃がせ、とビッチから言われてるな、川の東と、あと下流方面は逃げ口としておこう。しかし、戦える連中は逃がすなぁ」
レギオンは、鉄仮面をつけたままで酒瓶を咥えこんで大きく煽る。彼の場合、口が裂けている都合そうしないと殆どを溢すからこういう飲み方になるらしい。
一服ついて、零れた蒸留酒を拭いながら言った。
「皆殺しだぁ、出来まちゅかねぇジャン君~?」
「問題はない」
「本当にぃ~?」
「王が望むのが『世界平和』で、それに向けて殲滅させる意味がある限り正義は、私の下にある」
*** *** ***
私は、西正面を担う事になった。
風向きの都合でレギオンは南側、逃げ口の作られる北や、川の対岸をレギオンの軍隊が受け持つ事となった。
エヴェスは既に厳戒態勢となっており、イースター程立派ではないものの町を囲う城壁は堅く閉ざされていた。レギオン軍はこれらをあまり刺激しないように北側に展開し、私は黙って一番大きな門の設えられた西側で、状況が動くのを見守っている。
エヴェスの軍隊が、たった一人道の真ん中に立つ私を見て動く気配はない。世の中には一人で千人もの働きをする『怪物』が居る事を、良く知っているのだろう。かつて正義と東の国の字が描かれていたという仮面で顔の傷を隠す、私が何者であるのか、彼らは知っているという事だ。
と、町のどこからか煙が上がり、心なしか騒がしい気配が漂ってきた。レギオンが動き出したのだろう、私は……西方においてはそれなりに、知られてはいる人物だろうしイースターでの働きは西方国家ファマメントにおいて仰々しく周知されているものと思う。
戦況が動いたと見えて、数騎が西方の様式に則りこちらに駆けてくる。すでに魔王軍に属する私が西方のしきたりに従う必要性は無いのだが、私はレギオンの様に無抵抗なものに突然刃を向けるような不作法者ではないつもりだ。話くらいは聞いても良いだろう。
正義が、どちらにあるのかはもう少し計ってみても良いのかもしれない。
「ジャン・ジャスティ殿とお見受け致す」
やはり私の事は知っていたか。先方は随分焦った形相で、声が届く状況と見て慌てて伝えて寄越した。
「今、エヴァスを攻めるはファマメントではなく、魔王軍との事!これは、どういう状況であるのか」
「ああ、」
騎馬から降りる気配のない相手を見上げ、私は静かにこれに応えた。
「私はファマメントを出ていて、今は魔王軍に所属しているんだ」
「なん……?」
「私がファマメントを抜けている事自体、もしかすれば明らかにされていない事かもしれない」
その方が、秘密裡に正義を成そうとする私にとって都合が良いと云えるだろう。ファマメントがそこまで気を使ってくれている、というわけではないだろう。アレはアレで、自分の国の剣が行方不明である事を認めたくないだけなのだ。私の祖国はそういう所である。
「私の名前はジャン。貴方は」
しかし騎馬の伝令はそれには答えず剣を抜いた。
「天空国も魔王と手を組むのか!」
それは知る必要の無い事だと、ピーター女史から言われた事を思い出している。
振りかざされた剣があるとすれば、私はそれに剣で答える。
「すまないが、そういう事には感知していない」
とりあえず会話は少ししておこうと、振りかざされた剣と切り結び、振り払わない程度に力を合わせる。
「ただ、あなた方の国がファマメントに対する事で、私の後ろに向けて戦火が広がると聞いて黙っている訳にはいかないと思ったのだ」
「天空国の管理は不要!奴らは都合の悪いものを全てこちらに押し付けておいて、費用ばかり絞り取ろうとする!」
「しかし、先に魔王と手を組んだのは貴方がたなのでは?」
「それは」
門が解放され、控えていた軍隊が土煙を上げてこちらに迫ってくる。騎兵が剣を抜いた時点で交渉は決裂しているとされたのだろう。
「もう少し、事情を良く知る者と話をしたい所ではあるのだが」
この場を任されている以上、これ以上既に知っている事を聞きだす必要性は無いだろう。
騎兵を馬ごとに切り伏せて、私は露を払い一歩前に踏み出して横に、もう一閃。この剣は実に、業物だ。今まで使っていたどんな剣よりも固く、力量さえ釣り合えばすべてを切り伏せる事が可能になる。
騎馬兵を抑えるならまずは馬だ、こちらは馬に乗っていないのだから、剣の届く範囲は大抵馬の足になる。総倒れとなった騎兵の奥から、無遠慮な矢の雨が降る。恐らく、私に向けてこうする段取りが付いていたのだろう。本来矢は騎兵が来る前に放つものだ、そうしなければ味方にもあたる。
実際、矢の雨が同朋を串刺しにする空間を、私は一蹴りで前へと抜け出した。
誓っている、私は生涯自らが何者であるかを語らない。
それは忘れた事として、それでも自分が正義の剣で在る事を。
しかし……知っている者は存外に居るもので、私が如何に戦いに優れていて時にその肩書が『怪物』と冠されるか。
その意味を、正確に知っている場合とるべき正しい対処に対面している。状況は、ただそれだけの事。
今、私の剣を止められる存在が無い。庭の王より受け取った剣の前に、あらゆる物が容易く切り裂かれていく。時に私の力が強すぎて、剣の方が先に砕けてしまうから装備すべき武器は最低でも二本だったが……それは、この剣の前では遠い過去の事となった。
武器には二種類の良し悪しがある。武器が背負った曰くや、出来としての良し悪し。もう一つは言わずもがな、だ。
実際使って使いやすいかどうかの良し悪し。
私にとって武器の良し悪しは前者だけであった、使いやすさなど二の次で、そんなもので実力が変わる事は無いと思っていた。
訂正しなければならない、世の中には……確実に、持ち手の力を格段に引き上げうる名剣が存在したのだ。
気が付けば進軍は止まっていて、返り血を纏う私が一人立つのを、遠くから息を呑んで見守っている。
私は、向かって来た者を一人残らず殲滅せしめ、死屍累々と横たわる屍の中を一歩、前に踏み出す。
「武装を完全に解き、この町から出るならば追いはしないぞ。逃げ口は作ってある、望むのならば北へ逃げよ」
剣で北の方角を指し示し、大きな声で触れれば……しばらくして、武器を捨て、鎧を脱いで一人、また一人と戦線から抜け出すものが現れる。その様子に戸惑っているのはまだ若い兵士が多い、まぁそうなるだろう、年を取る程に、命よりも大切な物が増えていくものなのだ。
「我々は貸したものを取り立てに来た。天空国に、それを渡すつもりがないだけだ」
*** *** ***
それでもかなりの一般人の被害が出たのは、町に入ってみれば分かる事だった。レギオンが実行部隊なのだから仕方がない事ではある。
レギオンの異能に侵されてしまったエヴェスの兵士の死骸が点々と転がっていて、その周辺にその無惨な被害者が散らばっている。可哀想だとは思うのだが、レギオンに抗えないのだから仕方がない、もう過ぎた事だし、レギオンに穏便を願うのも無駄な事だ。
そもそも魔王軍は昨日の夜の時点で姿をはっきりと見せていて、警告はしていたのだ。レギオンにその意図があったのかどうかは分からないが、ピーター女史が進軍を急かせばこの近辺の地形から、そういう事になりうる事は分かっていたのかもしれない。
「ちょっとぉ、そーいう事は打ち合わせに無かったんですけどぅー」
レギオンは、かなり不服そうだな。
「いいではないか、武装はしっかり解除して逃げたのなら問題無いだろう」
軍を練れなければファマメント国に抗う方法は無い。エヴェスが、魔王の庇護で得た安寧が、魔王の取り立てで瓦解する。天空国より独立するんだと息巻いていた連中を突き崩して見れば、結局の所独立なんかより、生きる事を選択する個人が群れを成していただけだと知れる。
民衆というものは大抵、そんなものだという事を私は、良く知っていた。最後まで反抗したのは、この町でそれなりの地位を得ていた者達……つまり軍人、商人、そのあたり。ミストラーンは北方に近い都合、畑はあまり向いていない。狩猟や、林業、漁業を営む者が殆どで……魔物や大国の横暴な重税から逃れるに『楽』な方へ、民衆が群れていたに過ぎなかった様で、あっさりとその手の心得のある者達は北の逃げ口からエヴェスを捨てて行った。
「俺様としてはもうちょっと血みどろな殲滅戦をだな、」
「実際北の方は大分揉めたそうじゃないか。逃げる人を抑え込もうとするエヴェス軍と、お前の軍との戦いが激化してたって」
「うー……チガウ……ソウジャナイ……」
ふむ、相当にレギオンが不満がっている。
「とにかく、お前がいるとどうにも不穏だから、ここは私が見届けておく。とっとと帰ったらどうだ」
絶句しているな、レギオン。
「いえ、ジャン様、そうすると我々も帰らねばならないので、もうしばらくレギオン様を留めておいてはくれませんか」
と、レギオン軍の一人が苦笑を漏らした。レギオン軍は均された軍だと思っていたが、古参の類は居る様で今口を挟んだのはその一人……という事は?
レギオン軍は全員がレギオンの意識に前倣えでは無かったのだ!
私はその事実を今知り得て少し驚いていた。
「ケレスゥ、どういう意味だそりゃ」
「大体は武装解除して敗走してますが、流石に町一つジャン様に任せる訳にはいかないでしょ、それこそジャン様は剣を振うしか方法がないんですよ。我々が去って変な暴動でも起きたら、折角流さずに済んだ血が流れる事になりかねません」
「いいじゃねぇか。願ったりかなったりだぞ」
「お願いですから、今はそう願わないでくださいよ……ね」
ケレス、という名の彼は……レギオンの軍なのだから勿論、整った顔をしている。しかし他よりも随分体格が良いし、顔にもいくつか傷があった。レギオンは……どうにも男か、女か、判別が付かない中性的な容姿を好むらしいと理解しつつあった私だが、確かに全てが全てそういうワケではないな。進軍中はレギオンに習って皆それぞれに鉄仮面を被っていて分からなかった事なのだが。
そうこう考えている内に、ケレスはそっとレギオンの肩に手を回して彼を横抱きにする様に抱えレギオンもそれに完全に身を任せるように寄りかかる。
「レギオン様、ここは穏便に略奪でもして今日は美味しいものを沢山食べて、元気いっぱいに皆の事を労ってください」
「それも……それもワルクナイ……」
丸め込まれている、な。
流石レギオンの古参部下、彼の扱いに慣れている。ケレスはそっと私に意味深な視線を投げた。
「その方が私たちにとっても嬉しい事ですからね」
と、今度は完全にレギオンが一番好きそうな、男女どちらか区別がつかない美貌の、長髪をきれいに結い上げた一人が私の隣で囁いた。
「何しろ、この所レギオン様ったら貴方につきっきりで」
流石に私もちょっと驚く程の流し目で、悪魔的に恨めしそうな笑みを投げかけてくる。
「久しぶりにずっと一緒の作戦行動で、みんな心が躍っているんですよ。みんな、レギオン様が……」
欲しいんですと、この場合の欲しいが何であるのかは一応、私も理解している。が。そんな欲望ギラギラな視線が、レギオン軍から一様に、あのグダグダとしただらしない男に注がれているのに今更気が付いて私は、正直ぞっとした。
「……うん、任せた」
私はレギオン軍に担がれる様に町に消えていくレギオンをその様に、見送ってしまうのだった。
こちらの状況をチラチラ見ながらも、町からの撤退を急ぐ商人達の方へ向き直り、咳払いをして告げる。
「明日の昼過ぎにはイースターから小鬼の軍が略奪に来るけど」
その一言に悲鳴を上げた人々に、問題無いと私は手を上げて答えた。
「私たちがいる限り命の保証はするから、とりあえず引っ越す準備を急ぐ事だな」
終
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