転生したら凄腕鍵師だったんだが、なぜか美少女パーティの『心の鍵』まで解錠してしまう件 ~俺の技術は物理も概念も開けるらしい~

暁ノ鳥

文字の大きさ
19 / 21

第4章:銀髪の執行官(6)

しおりを挟む
 アルカニアに戻った頃には、既に街は混乱に陥っていた。
 緑の光と共に、街の各所で奇妙な現象が起きていたのだ。
 噴水が逆流したり、建物の一部が浮いたり、道が歪んだり……まるで現実そのものが狂い始めているようだった。

 街の人々は恐怖に怯え、多くが避難を始めていた。

「想像以上に状況が悪化している……」

 エリスが青白い顔で言った。
 彼女自身も疲労困憊の状態だったが、冷静さを失ってはいなかった。

「『森の心臓』の力が現実世界に干渉し始めています。このままでは……」
「急いで『究極ツール』を作るぞ」

 俺たちは「賢者の休息」に戻った。
 幸い、宿はまだ営業していたが、宿主も旅行客も半数以上が逃げ出したようだった。

 部屋に戻り、さっそく道具の製作に取り掛かる。
 俺とエリスが中心となり、他のみんなも協力した。

「『封印の欠片』は?」

 エリスが俺の右手を調べた。
 紋様の中に取り込まれた『封印の欠片』のパターンが依然として輝いていた。

「どうやって取り出せばいいのだろう?」
「ちょっと試してみます」

 エリスは魔法陣を描き、俺の手の上に杖を置いた。

「『顕現』」

 杖から青い光が放たれ、紋様と交わる。
 すると、右手から青白い光の粒子が集まり始め、俺の掌の上に小さな欠片が現れた。

「成功しました」

 エリスは欠片を大事そうに受け取った。
 それは半透明の結晶のようなもので、中に複雑な模様が浮かんでいる。

「これで材料は揃いました。あとは……」
「『究極ツール』の設計図だな」

 俺は頭の中で設計を練り始めた。
 今までのツールよりも遥かに複雑な構造が必要だ。
 『万物解錠』の力を最大限に引き出し、『領界の鍵』と『封印の欠片』の力を結びつけるツール……。

「直感的には分かるが、形にするのは難しい……」
「私の魔法理論が助けになるかもしれません」

 エリスは古代の魔法書を参照しながら、設計の補助をしてくれる。

「『領界の鍵』は地脈と繋がり、『封印の欠片』は『森の心臓』と共鳴する。それらを繋ぐには……」

 二人で議論を重ねながら、少しずつ設計が固まっていった。

「星屑鋼で基本フレームを作り、そこに『封印の欠片』を埋め込む。そして、『領界の鍵』を差し込む溝を設ける……」

 シルフィアは自分のペンダントを見つめながら、議論に耳を傾けていた。

「私の鍵が本当に役に立つならば……」
「ヴァレンタイン家の『領界の鍵』は不可欠だ」

 俺は彼女を見つめた。
 その青い瞳には、決意と覚悟が宿っていた。

「お前がいなければ、このツールは完成しない」

 彼女は小さく頷いた。

「分かった。全力で協力する」

 クロエは市場から追加の材料を集め、ミーシャは自分の持つ珍しい素材を提供してくれた。
 全員が一丸となって、究極ツールの製作に取り組んだ。

 外では、異変がますます激しくなっていた。
 宿の窓から見える街並みは緑色の霧に覆われ、時折、現実が歪むような波動が走る。
 窓ガラスさえも震えるほどだった。

「時間がない……」

 俺は必死で作業を進めた。
 右手の紋様の力を使い、通常なら何日もかかるような精密な加工を数時間で行う。
 エリスの魔法も全面的に役立った。

 夜が更けるにつれ、『究極ツール』の姿が見えてきた。
 それは腕に装着するタイプの装置で、中央に『封印の欠片』が埋め込まれ、『領界の鍵』を差し込む特殊な溝がある。
 全体が星屑鋼で作られ、複雑な魔法の回路が刻まれている。

「もう少しで……」

 最後の調整を終え、俺は『究極ツール』を掲げた。

「できた……」

 完成した装置は淡く青白い光を放っていた。
 機能するかどうかは、実際に使ってみるまで分からないが、理論上は問題ないはずだ。

「素晴らしい……」

 エリスが感嘆の声を上げた。
 彼女の紫色の瞳には純粋な学術的興味が灯っていた。

「トオルさんの技術と『万物解錠』の力が融合した完璧な作品です」
「これで『森の心臓』を安定させられるの?」

 ミーシャが不安そうに尋ねた。
 彼女のリスの耳がぴくぴくと動いている。

「理論上はね」

 クロエが深刻な表情で言った。

「でも、実際に『森の心臓』のところまで行けるかどうかが問題よ。森の状態はきっと最悪になってるわ」
「それに……」

 シルフィアが窓の外を見ながら言った。

「セラフィナが生きていれば、再び邪魔をしてくるだろう」
「彼女が生きているとして……今は『森の心臓』を安定させることが先決だ」

 俺は決意を固めた。

「明日の夜明けとともに出発しよう。一度だけ休息を取り、万全の状態で向かう」

 みんなも同意し、交代で休むことにした。
 しかし、外の状況は刻一刻と悪化していた。
 建物が揺れ、時折、奇妙な音が聞こえてくる。

 俺の番の休息時間、どうしても眠れず、窓辺に立っていた。
 緑色に染まった夜空を見上げながら、明日の任務に思いを馳せる。

「眠れないの?」

 振り返ると、シルフィアが立っていた。
 いつもの毅然とした表情ではなく、少し疲れた、しかし決意に満ちた表情だった。

「ああ、少し考え事を」
「……私も眠れなかった」

 彼女は窓辺に並んで立った。
 二人で外の光景を見つめる。

「明日、うまくいくと思うか?」

 彼女が静かに尋ねた。

「必ずうまくいく。うまくいかせる」

 俺は強い口調で答えた。
 シルフィアは小さく笑った。
 普段は見せないような、柔らかい笑顔だった。

「そうだな……その自信が頼もしい」

 彼女は少し言葉を詰まらせ、何か言いたげな表情をした後、決意したように口を開いた。

「トオル、あなたに言っておきたいことがある」
「何だ?」

 彼女は俺をまっすぐに見つめた。
 青い瞳が月明かりに照らされ、美しく輝いている。

「あなたに出会えて、本当に良かった」

 その言葉は、彼女の普段の態度からは想像できないほど素直なもので、一瞬言葉を失った。

「俺も同じだ、シルフィア」

 彼女の表情が明るくなり、でも少し照れたようにすぐに視線を外した。

「それだけ言いたかった。おやすみ」

 シルフィアは急いで自分のベッドに戻っていった。
 彼女の言葉が心に残る。
 確かに俺も、この世界でシルフィアたちに出会えたことを心から感謝している。
 もし明日、全てが上手くいかなくても……。

 いや、絶対に成功させるんだ。
 全員で無事に帰ってくる。その決意を胸に、俺はようやく眠りについた。

 ◇

 夜明け前、俺たちは宿を出発した。
 街の状況は一晩でさらに悪化していた。
 建物が歪み、道が波打ち、空には緑色の渦が渦巻いている。
 もはや人の姿はほとんど見えず、避難が完了したようだった。

「急ごう」

 五人は急いで街を出て、迷いの大森林に向かった。
 前回と同じ道を通ろうとしたが、地形が変わっていた。

「道が……違う」

 クロエが困惑した表情で言った。

「前に通った場所のはずなのに」
「『森の心臓』の力で現実が歪んでいるのでしょう」

 エリスが説明した。

「地形そのものが変化しています」
「でも、ミーシャなら森の中でも道が分かるよね?」

 ミーシャは少し不安げに耳を動かしたが、勇敢に頷いた。

「ミーシャ、頑張る! 森の感覚はまだあるよ!」

 彼女の先導で森に入ると、想像以上の変化が広がっていた。
 木々が緑色に輝き、中には逆さまに生えているものもある。
 動物たちは姿を消し、代わりに奇妙な光の玉が空中を漂っていた。

「気をつけろ、あれは危険だ」

 シルフィアが光の玉を指差した。
 それは触れるものを焼き尽くすらしく、通過した草木が炭化していた。

 一行は慎重に進んだが、森の状態は進むにつれてより危険になっていった。
 地面が突然陥没したり、木々が動いて道を塞いだりする。

「『森の心臓』に近づくほど、異変が激しくなっている」

 エリスが観察した。

「聖域まで行けるだろうか……」

 その懸念は的中し、『霧の谷』に到達する前に、一行は大きな障害に直面した。
 前方の森が完全に変質し、緑色の炎のようなもので覆われていたのだ。

「これ以上先に進めない……」

 クロエが顔をしかめた。

「別のルートを探すべきか?」
「時間がないぞ」

 シルフィアが空を見上げた。
 緑の渦は激しさを増し、轟音さえ響いていた。

「どうする、トオル?」

 全員の視線が俺に向けられた。

「……やるしかない」

 俺は『究極ツール』を腕に装着した。
 まだ『領界の鍵』は差し込んでいないが、このツール自体にも強力な力がある。

「『封印の欠片』の力で、一時的に道を開けるかもしれない」

 『究極ツール』を緑の炎に向け、『万物解錠』の力を込めた。

「開け!」

 ツールが強く輝き、炎の中に細い道が開いた。
 しかし、それはすぐに閉じようとしている。

「急げ!」

 全員で細い道を駆け抜ける。
 最後尾だった俺が通過した瞬間、道は閉じた。

「何とか突破できたわね……」

 クロエが安堵の息を吐いた。
 しかし、前方はさらに異様な光景が広がっていた。
 木々は完全に歪み、上空には巨大な緑の渦が見える。
 それはまるで天空に開いた穴のようだった。

「あれが……『森の心臓』の力の中心か」

 先を急ぐうちに、見慣れた場所に出た。
 前回、『聖域』への道を発見した湖だ。
 しかし、その姿は大きく変わっていた。

 湖の水は緑色に染まり、渦を巻いている。
 中央にあるはずの島は見えず、代わりに巨大な緑の柱が湖から天空へと伸びていた。

「これは……想像を超えている」

 エリスが驚きの声を上げた。

「『森の心臓』の力が完全に暴走しています」
「どうやって島に行けばいいんだ?」

 湖は渦巻き、通常の方法では渡れそうにない。

「シルフィア、『領界の鍵』を使ってみてくれ」

 シルフィアはペンダントを取り出し、湖に向けて掲げた。

「領地に続く道よ、目の前に現れよ……!」

 ペンダントが輝くが、何も変化はなかった。

「駄目だ……湖の力が強すぎる」
「『究極ツール』と組み合わせてみよう」

 俺は腕の装置を彼女に差し出した。

「ペンダントを差し込むんだ」

 シルフィアは『領界の鍵』を『究極ツール』の溝に差し込んだ。
 ピタリとはまり、装置全体が強く輝き始めた。

「これは……!」

 装置から青白い光が放たれ、湖に向かって飛んでいった。
 光が湖面に触れると、緑の渦の中から水晶のような道が現れ始めた。

「成功だ!」

 まだ不安定ではあるが、道ができた。
 一行は急いで水晶の道を進み始めた。
 道は揺れ動き、時折ひびが入るが、何とか持ちこたえている。

 湖の中央に近づくにつれ、緑の柱の正体が見えてきた。
 それは『森の心臓』そのものだった。
 今や宝玉は巨大化し、制御を失って力を放出している。
 その周りには、かつての島の遺跡が浮かんでいた。

「あれが目標だ」

 道の終点は、浮かんだ遺跡の一部だった。
 そこにたどり着くと、一行は圧倒的な魔力の波動に押しつぶされそうになる。

「この力……尋常じゃない」

 シルフィアが顔をしかめた。

「どうやって安定させる?」
「『究極ツール』を『森の心臓』に直接触れさせる必要があります」

 エリスが説明した。

「それによって、『領界の鍵』と『封印の欠片』の力が融合し、暴走を止められるはずです」
「でも、あんな強力な魔力の渦に近づくのは……」

 クロエの言葉が途切れた時、突然空間が歪み、一人の人影が現れた。

「やはり来たな、『開く者』よ」

 氷のような冷たい声。
 それはセラフィナだった。
 彼女は負傷しながらも、その姿は依然として威厳に満ちていた。

「セラフィナ!」

 シルフィアが剣を抜いた。

「なぜここに……塔は崩壊したはずだ」
「私を甘く見るな」

 セラフィナの表情には怒りが見えた。

「『施錠』の力があれば、どこへでも行ける。お前たちが『森の心臓』に向かうことは分かっていた」

 彼女は一歩前に出た。

「これ以上は進ません。世界の混沌は、私が止める」
「違う!」

 俺は反論した。

「お前の『施錠』こそが世界を歪めている!  自然な流れを止め、全てを固定しようとするから、このような反動が起きるんだ!」
「黙れ!」

 セラフィナの怒りが爆発した。

「無知な『開く者』が何を知っている!  混沌を放置すれば、過去の悲劇が繰り返されるだけだ!」

 彼女の目に、一瞬だけ悲しみの色が浮かんだ。
 何か深い傷を抱えているようだった。

「過去の悲劇……?」
「知る必要はない。今ここで、お前たちの妨害は終わらせる」

 セラフィナは両手を広げ、強大な力を集め始めた。

「シルフィア、みんな、セラフィナを引き付けていてくれ!  俺が『森の心臓』に近づく!」

 俺の指示に、全員が頷いた。
 シルフィアとクロエがセラフィナに向かって突進し、エリスが後方から魔法の援護を始めた。
 ミーシャは高速で動き回り、注意を分散させる。

「無駄な抵抗だ!」

 セラフィナの『施錠』の力がシルフィアに向かって飛んでいく。
 しかし、今回の彼女は前回より弱っているようだ。シルフィアは素早く身をかわし、剣で反撃する。

「トオル、今だ!」

 クロエが叫んだ。
 俺は『究極ツール』を掲げ、『森の心臓』に向かって走り出した。
 緑の渦の強烈な力に抗いながら、一歩ずつ前進する。

「させるか!」

 セラフィナが気づき、俺に向かって攻撃を放った。

「トオル!」

 シルフィアが身を挺して攻撃を受け止める。
 彼女は強烈な衝撃を受け、膝をついた。

「シルフィア!」
「行け……トオル……」

 彼女は苦しみながらも、剣で身を支え、立ち上がった。

「私たちが……時間を稼ぐ……!」

 その言葉に、勇気をもらった。
 俺は再び『森の心臓』に向かって突進した。
 渦の力が強くなり、体がどんどん重くなる。
 それでも、一歩ずつ前に進む。

 ついに『森の心臓』のすぐ近くまで来た。
 それは巨大な緑色の宝玉で、内部で無数の光が渦巻いている。
 その力は圧倒的で、近づくだけで体が押しつぶされそうになる。

「これが……『森の心臓』……」

 『究極ツール』を掲げ、宝玉に向けた。
 装置全体が強く輝き、『領界の鍵』と『封印の欠片』が共鳴し始める。

「万物解錠……!」

 右手の紋様から強烈な光が放たれ、『究極ツール』を通じて『森の心臓』に向かった。
 光が宝玉に触れると、激しい反応が起きた。
 緑の渦と青白い光がぶつかり合い、空間そのものが歪む。

「くっ……」

 余りの力に、体が後ろに押し戻される。
 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

「やれ、トオル!」

 シルフィアの声が聞こえた。
 彼女は傷つきながらも、セラフィナと戦い続けている。
 クロエ、エリス、ミーシャも全力で援護していた。

「みんなのためにも……!」

 俺は渾身の力を込めて、『究極ツール』を押し進めた。
 ツールが『森の心臓』に触れた瞬間、眩い光が広がった。

 宝玉の中の渦が徐々に落ち着き始め、緑色の光が安定していく。
 渦は収まり、『森の心臓』は元の大きさに戻りつつあった。

「成功したのか……?」

 突然、背後から悲鳴が聞こえた。
 振り返ると、シルフィアがセラフィナの攻撃を受け、大きく吹き飛ばされていた。

「シルフィア!」

 その瞬間、俺の注意が逸れ、『究極ツール』の制御が一瞬崩れた。
 『森の心臓』が再び不安定になり、強烈な力の波動が放出される。

「まずい!」

 波動がセラフィナを直撃した。
 彼女は悲鳴を上げ、光に包まれた。
 光が消えると、彼女の姿はなく、代わりに銀色の粉が降り注いでいた。

「セラフィナが……消えた?」

 クロエが驚きの声を上げた。

「いいえ、『施錠』されたのです」

 エリスが震える声で言った。

「彼女自身の力が反転して……」

 しかし、状況は依然として危機的だった。
 『森の心臓』はまだ完全に安定しておらず、渦は小さくなったものの、依然として強い力を放っている。

「シルフィア!」

 俺はシルフィアのもとに駆け寄った。
 彼女は重傷を負っていたが、意識はあった。

「トオル……『森の心臓』は……?」
「まだ完全には安定していない。もう一度試す」

 俺は再び『究極ツール』を『森の心臓』に向けた。
 しかし、装置は損傷し、完全な力を出せなくなっていた。

「駄目だ……力が足りない」
「私の力を……使え……」

 シルフィアが弱々しく言った。
 彼女はペンダントを握りしめている。

「でも、お前の状態では……」
「大丈夫だ……私はヴァレンタイン家の騎士……使命を果たす……」

 彼女の決意に満ちた青い瞳に、迷いはなかった。

「分かった……一緒にやろう」

 俺はシルフィアを支え、共に『森の心臓』に近づいた。
 彼女のペンダントと俺の『究極ツール』を一緒に掲げる。

「万物解錠!」
「領界の力よ、目覚めよ!」

 二つの力が融合し、強力な光の柱となって『森の心臓』に向かった。
 宝玉は光を吸収し、内部の渦が完全に収まっていく。
 緑色の光は穏やかになり、安定した輝きを放ち始めた。

「成功した……?」

 周囲の異常な現象が徐々に収まっていく。
 浮かんでいた遺跡の破片が元の位置に戻り始め、湖の水も通常の色に戻りつつあった。

「やったぞ、トオル!」

 クロエが喜びの声を上げた。
 エリスとミーシャも安堵の表情を浮かべている。

 しかし、その安堵も束の間だった。

「トオルさん、見て!」

 ミーシャが空を指差した。
 緑の渦は消えたが、代わりに黒い穴のようなものが現れていた。

「あれは……!」

 エリスの表情が変わった。

「『封印』が弱まっています!  セラフィナの消失が影響したのでしょう……彼女の『施錠』の力が封印を支えていたのかもしれません」
「どういうことだ?」
「危険です……古代の『混沌の力』が漏れ出す可能性が……」

 彼女の言葉が終わらないうちに、黒い穴から何かが降り注ぎ始めた。
 それは黒い霧のようなもので、触れたものを腐食させていく。

「撤退するぞ!」

 シルフィアを支えながら、俺は全員に退却を命じた。
 『森の心臓』は安定したが、新たな危機が生まれたのだ。

「どうすれば……」

 クロエが不安そうに黒い霧を見上げた。

「今は一旦撤退だ。状況を整理してから対策を考える」

 一行は急いで湖を渡り、森を抜けた。
 異変は収まりつつあったが、黒い霧は徐々に広がっている。
 この新たな脅威にどう立ち向かうか……それは次なる挑戦だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

処理中です...