ヒロインを性奴隷にする能力を得た童貞の俺はヘタレすぎて能力を使えない件

暁ノ鳥

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第14章

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 王都に戻った翌日。
 俺は、ギルドから紹介された安宿の一室で、天井の染みをぼんやりと眺めていた。

 遺跡での一件以来、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
 女性を性奴隷にするためだけの、呪われた力。
 その事実が、鉛のように重く俺の心にのしかかる。

「はぁ……」

 ため息しか出ない。俺なんかが持っていていい力じゃない。
 それに、ルナが言っていた「他の男たち」という言葉も気にかかる。
 俺がこの力を持っていると知られたら、どうなる?

「いつまでメソメソしてるのかしら、つまらない男」

 その時、ベッドのど真ん中を占領していたルナが、寝返りを打ちながら退屈そうに言った。
 彼女は、あの遺跡から当然のように俺についてきて、今ではこの部屋の主みたいに振る舞っている。

「うるせえな……。あんただって、人のベッドで堂々と……」
「あら、いいじゃない。その代わり私があなたを守ってあげるんだから」
「は? 守るって、何を……」

 俺が言いかけた、その時だった。
 コンコン、と控えめなノックの音。

 ドアを開けると、そこにはエリシア、セシリア、そしてリィンの三人が、心配そうな顔で立っていた。

「蒼真、大丈夫? 顔色が悪いわよ」
「蒼真さんのことが心配で……神父様に言って、お見舞いに来ました」
「ふん、別に……あなたのことが心配なわけじゃないんだから。ただ、パーティのメンバーが寝込んでたら、迷惑だから来ただけよ」

 三者三様の気遣いが、逆に俺の罪悪感をえぐる。
 狭い部屋に美少女四人という、普段なら天国のような状況も、今の俺には息が詰まるだけだった。

「ちょうどいいわ。みんな揃ったところで、今後の話をしましょう」

 ルナがベッドから身体を起こし、その小さな唇に妖艶な笑みを浮かべた。

「単刀直入に言うわね。この子……蒼真は、これからいろんな連中に狙われることになる」
「狙われる……?」
 
 エリシアが眉をひそめる。
 
「そうよ。あなたのその『絶対支配』は、それだけ価値があるってこと。権力者のジジイ、好色な貴族、そして……もっと厄介で、危険な連中も、喉から手が出るほど欲しがるでしょうね」

 ルナの言葉に、俺は息を呑んだ。

「考えてもごらんなさい」
 
 ルナは、面白くてたまらないといった様子で、三人の顔を見渡した。
 
「あの能力があれば、どんな女だって意のままになるのよ。気位の高い王妃様でも、清らかな聖女様でも、一晩で自分の命令しか聞かない肉人形にできる。それって、政治的にも、軍事的にも、最強の武器だと思わない?」

 その生々しい言葉に、セシリアが「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
 宮廷魔法使いであるエリシアと、元騎士団員のリィンも、その言葉が持つ本当の恐ろしさを理解したのか、顔を青くしている。

「蒼真は……蒼真は、そんなこと絶対にしないわ!」
 
 エリシアが、俺を庇うように叫んだ。
 
「そうよ! だから、この子は狙われるの」

 ルナは冷ややかに言い放つ。

「この子が善人であることなんて、他の連中には関係ない。問題は、この子からその力を『奪えさえすれば』、自分たちがその力を悪用できるってこと。わかる?」

 その通りだ。俺がどれだけ能力を使わないと誓っても、俺自身が奪われてしまえば、何の意味もない。
 まさに、その時だった。

 部屋の空気が、ぐにゃりと歪んだ。
 壁の染みが、まるで水面のように波打ち、そこからぬるり、と黒い影が滲み出してくる。

 影は瞬く間に人の形を取り、黒いローブに不気味な仮面をつけた、三人の男たちが姿を現した。

「なっ!?」

 リィンが咄嗟に腰に手をやるが、今日は剣を持っていない。
 エリシアとセシリアも、あまりに突然の出来事に硬直している。

 仮面の中から、くぐもった声が響く。
 
「我々と共に来てもらおう」

 三人の魔法使いが、一斉に俺に向かって手をかざす。まずい、捕まる!
 俺が恐怖で身を固くした瞬間、俺の前に、小さな影が立った。

「甘いわね」

 ルナが、心底つまらなそうに呟いた。
 彼女が、ぱちん、と指を鳴らす。
 ただ、それだけ。

 次の瞬間、黒ローブの男たちは、まるで糸の切れた人形のように、ばたばたとその場に崩れ落ちた。
 影となって現れた時と同じように、その姿は再び影となって壁の中に吸い込まれ、跡形もなく消え去ってしまった。

「……え?」

 あまりのあっけなさに、俺も、エリシアたちも、ただ呆然と立ち尽くす。

「今の……は……」

 ルナはふぁ~あ、と大きなあくびを一つすると、呆然とするエリシア、セシリア、リィンの三人に、にっこりと微笑みかけた。

「これから、こういうのがもっと来るわよ。嫌って言うほどね」

 そして、彼女は俺を親指でくいっと指差した。

「だから、私が、この役立たずのヘタレちゃんを守ってあげるわ」
 
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