転校してきた七不思議。〈ヤンデレ恋愛怪異奇譚 〉

創作屋 鬼聴

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夜のプール

泉の異変。 祈目線

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今日は天文学部の観測日だった。


夜空には雲ひとつなく、絶好の観測日和で
なかなか良いレポートが書けた。
けれど、俺の頭の中には暗雲が立ち込める。

真っ暗な帰り道を弱々しいライトが照らし
田圃に挟まれたあぜ道でボロい自転車は
ガタガタと揺れた。

「………はぁ」

自転車を漕ぎながら深く溜息をついた。
悩みの種は、泉…。泉マコの事だ。

俺の可愛い後輩。

最近あの子の事が気がかりで仕方がない。
だって彼女、最近変なんだ。

彼女は先週、俺に
"『免色貞夫』が転校してきた"なんて
言ってたが…

彼女の担任、正清先生に聞いたら

『うちのクラスに転校生なんていない。』

と言われた。
けど泉はそういう冗談を言う子じゃないし…
あの時、彼女は確かに本気だったと思う。

俺はそれが妙に気がかりで
二年生のフロアまで行って
彼女の教室を何度か覗いてみた。

免色貞夫の席は彼女の隣らしいが
いつ見ても、誰も座っていない。

けれど泉はたまに隣の空席に
話しかけている様に見えた。


「…泉…」


俺は泉が心配だった。それと同時に、

泉が変になったのは
俺が肝試しを決行したせいではないか
という疑問と自責もあった。

泉が変になり始めたのは
肝試しのすぐ後だ…それに免色貞夫…。
今日だって、泉はプールを見てから
何かおかしかった。

帰りに忘れ物があるとかで
戻っていったが…

「…まさか……」

俺は自転車のブレーキを引いた。
錆だらけのブレーキがギィーと嫌な音を
立てて自転車を止めると、ライトの光が弱々しく点滅して消える。


…なんとなくの不安が頭をよぎった。

泉は大丈夫だろうか…?

真っ暗な田圃の真ん中で振り返る。

振り返っても、そのあぜ道には壊れた気味の悪い街灯が暗闇の中ポツリポツリと佇んでいるだけで学校はもう見えない…。けれど…

やっぱり泉の元に
行かなければいけない気がした。


「…戻ろう。」


俺はガシャガシャと自転車をUターンさせるとサドルに飛び乗って思い切りペダルを踏み込んだ。

暗い悪路を立ち漕ぎで10分近く戻り
俺は再び学校の正門前に着く。
八咫神学園と書かれた金属製の看板が自転車のライトに照らされて暗闇に浮かび上がる。

「はぁっ…はぁっ」

息を切らしたまま自転車をその場に
放り出し懐中電灯を片手にプールへと向かう。

校舎は闇と静寂に包まれ、虫の声もカエルの声も聞こえない。さっき迄の爽やかな風は凪いで、鉛の様に重い空気が充満していた。
嫌な予感がして額を脂汗が流れる。

いつもだったらなんとも思わない夜の校舎が
今はやけに恐ろしく感じられた。

「泉ー?!まだいるのか?いずみー!!」

声を張り上げ
隈なく周りを照らすが誰もいない。
プールサイドへと続く階段に
自分の声が反響する。


「……どこなんだ…泉…」


"ドボンッ……"


呟いたその時、水音がした。

何かが池に飛び込んだみたいな
大きな音。

そして、バシャバシャと何かが
水面下で暴れるような音。


「…何の音だ?」


うちの学校のプール開きは来週だ。
まだ水は張られていない。

あんな音がする筈はない。


「泉!いるのか?」


俺はシャワーヘッドの下を通り
腰洗い層を走り抜け、プールサイドに出た。

急いでプールの中に降りると、
足元でカサッと落ち葉を踏んだ音がする。

照らしてみると積み重なった落ち葉の間を
大きなムカデがすり抜ていくのが見えた。
やっぱり水なんてない。プールは空だ。

じゃあ、さっきのは…なんの音だったんだ?
俺が懐中電灯をプールの奥に向けると


「…!!!!」


ライトの先に横になった人影が見えた。

「泉!!!」

泉がプールの真ん中で倒れている…

俺は直ぐに彼女に駆け寄り、上体を起こして
肩を揺すった。彼女は息をしていない。


「泉!?泉?大丈夫か?!…


…は?」


触れた泉の身体は不思議な事に
頭から爪先までグッショリと濡れていた。
周りを見ると彼女を中心に大きな水たまりができている。


「なんだこれ…??どういう事だ…?」


疑問に思う間も無く


「ゲホッ…」


泉が咳き込み始めた。
良かった…生きている。


「泉!大丈夫か?!何があった!?」


俺はすぐに彼女の背をさする。
泉は何度も咳き込みながら
水を吐き出し、苦しそうに胸を抑えていた。

かなり大量の水を飲んでしまったらしい。


でも、水なんてどこから…?


彼女は水を吐き終えると
ゼーゼーと呼吸を乱し、倒れそうになった

頭を打つとまずい。
慌てて俺は泉を抱えて
自分の胸に寄りかからせた。


「……先輩…?」


「あ、あぁ俺だ。大丈夫か?
一体どうした?!」


「免色くんが…」


「え?」


彼女は俺の疑問に答える事はなく
ぐったりと身体を預けて気を失ってしまった。呼吸は…落ち着いている。

「えっと…とにかく…拭いてやらないと…」

ひとまず彼女を抱えて保健室に行く事にした。
毛布とか…タオルくらいはあるだろう。

鍵も開いてるはずだ。彼女を抱き上げて
俺がプールサイドに上がった時
背後から変な声が聞こえた。


『あとちょっとだったのに…』


振り返るとプールの真ん中に
男子生徒が立っている。

「え…?」

さっきまでは確かに誰もいなかった筈だ…
なんだアイツは…?俺は振り返ったまま泉をギュッと抱き抱え、その生徒を凝視する。
暗くて容姿はよくわからない。

しかしソイツは徐々に近づいてきて
月の光によってその姿は露わになる。

「…うっっ…!!!?」

その姿を見た瞬間、
全身の血が引いて額を冷たい汗が流れた。

その男子生徒は
髪が長く、小柄で、学ランを着ていて…


頭の上半分がなかった。


その断面は割られたスイカの様に
真っ赤で、端からでろんと
脳と思わしき何かが飛び出ていた。

手脚も変な方向に折れ曲がっている。


が…免色…貞夫なのか?


『あとちょっと』って?


「な…っなんだ…お前……??
免色……?なのか…?」


絞り出す様に訊ねたが答えはない。

そのグロテスクな男子生徒は
こちらに手を伸ばし、変な方向に曲がった脚を引き摺ってズルズルと歩いてくる。

俺は腕に抱えた泉を強く抱きしめた。

暗闇の中ぼんやりと彼の顔が浮かぶ。


その顔の断面に
かろうじて乗ったドス黒いひとみが
俺を物凄い形相で睨んでいる。


『邪魔しやがって…!!
邪魔しやがってっっ…!!!!

マコちゃんを返せよ!!!!! 

僕のだ!!返せっ!!!


返せよっ!!!』


そう叫びながら
迫ってくる奴の頭からは、

更にドクドクと血が溢れて
その形相は
ますます蹶起迫るものになっていく。


「ヤバい…!!」


身の危険を感じた俺は
彼女をしっかりと抱えて走り出した。

グチャッグチャッという足音を背に
全力でプールサイドを駆け抜けて、
階段を落ちる様に降り新校舎へと滑り込む。
幸い保健室の窓の鍵は壊れている筈だ。

窓を飛び越えて保健室に侵入すると
俺は泉を抱えて外から見えない様に隠れた。

荒い呼吸音が保健室に響く。

「はぁっはぁ…はぁ…」

暫くして、グチャグチャとした足音が
外から聞こえた。すぐに俺は息を止め
声を殺した。足音は少しの間
立ち止まり、真横を通り過ぎる。

が、それは徐々に遠ざかって…
聞こえなくなった。

耳を澄ませると新校舎は静まり返り
外に吹く穏やかな風の音だけが聞こえる。

……どうやら奴はここまで来れない様だった。


「…あれが…免色貞夫…か…??」


きっと間違いないだろう。
ひとまずは逃げ切ることができたみたいだが

…奴はきっと諦めない。
確証はないがそう思った。

あの口ぶり
免色貞夫は泉を連れていく気なんだろうか…

彼女は俺の腕の中でスヤスヤと眠っている。
俺は泉の濡れた頬に張り付いている髪を
彼女の耳にかけた。


「ごめんな…泉…
俺が肝試しなんかに誘ったから…

本当に…ごめん…」

















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