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一章
1.再会
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私はアスコット犯罪者精神病棟につくと
看守と患者達の間をカツカツと通り抜け
所長室に向かった。
所長室のドアを開けると所長の
書類だらけの机に手をつき大声で抗議した。
「なぜ私を彼の担当にしたんです!!?」
冷静さを欠いた私に所長は
白髪混じりの顎髭を撫でながら
書類を見て、こう告げる。
「気持ちはわかるが、
落ち着いてくれ。アイリーン先生。
理由はある。適切な理由がな。」
「…適切な理由…ですか?」
所長の冷静な態度に少し頭が冷える。
少し動揺しすぎね…カウンセラー失格だわ。
私は机から一歩下がり、話を聞く事にした。
「ああ、そうだ。
奴は連行されてから一言も発さない。だが
君なら何か情報が得られるかもしれない。」
私は意味がわからず訝しげに首を傾げるが、
所長は続けた。
「確かに奴は君に恨みを持っているだろうが
君の安全は保障しよう」
「恨み…??恨みってなんです?
確かに彼は私の家に遺体を遺棄しましたが…
恨まれてる覚えなんて…」
その時…私は気づかなかった。
看守達の悲鳴にも、
錠が床に落ちる音にも、
獣のような荒い息遣いにも、
こちらに物凄いスピードで迫る足音にも。
そして、その足音の主が既に
真後ろのドアの前に誰かが立っている事に。
ただ緊張の面持ちで所長の話を聞いていた。
「恨まれているさ‥何せ奴は
君の元患者だ」
所長がそう言った途端
勢いよく背後のドアが開く。
バンッという大きな音と共に
蝶番がコンクリの床に跳ねこちらに飛んでくる。
「えっ!!!?」
振り返るとそこには
…男がいた。
大きな身体に巻かれた
白い拘束具はズタボロにされて
太いベルトがダラリと揺れる。
拘束用のマスクと金色の髪の
隙間から覗く大きく見開かれた銀色の眼には
私をハッキリと映していた。
…大変…脱走した患者ね…。
とにかく彼を大人しくさせなければ…
「…お…落ち着いて…大丈夫よ。
傷つけたりしないから…止まって…?」
彼は私の静止を無視して
ゆっくりと歩み寄ってきた。
見開いた眼でしっかりと私を捉えたまま
ヒタヒタと一歩一歩近づいてくる。
彼の大きな影が私の体を飲み込む。
すると彼は目の前でピタリと止まり
大きな手で私の腕を掴んできた。
「ひ…っ…!?」
力が強い…手首が折れそう…
振り払おうとしたらきっと刺激してしまう…
どうしよう…!!?
「あ…あの。落ちついて、大丈夫だから…
…ね?き…聞こえてるかしら…?」
10秒ほどの沈黙。
彼はただ黙って私を見つめていた。
所長がこっそりと机上の
緊急ボタンを押したのが見えたけれど、
既に彼にやられてしまったのか…
中々、看守達が来ない。
私は抵抗できなかった、
声も出せず、ただ震えが止まらない、
額を、
首元を、
冷たい汗がつたう。
心臓が苦しい、
まだ彼は私を見ている。
そして急に彼は笑った。
次の瞬間‥
私の目の前は真っ暗になった。
看守と患者達の間をカツカツと通り抜け
所長室に向かった。
所長室のドアを開けると所長の
書類だらけの机に手をつき大声で抗議した。
「なぜ私を彼の担当にしたんです!!?」
冷静さを欠いた私に所長は
白髪混じりの顎髭を撫でながら
書類を見て、こう告げる。
「気持ちはわかるが、
落ち着いてくれ。アイリーン先生。
理由はある。適切な理由がな。」
「…適切な理由…ですか?」
所長の冷静な態度に少し頭が冷える。
少し動揺しすぎね…カウンセラー失格だわ。
私は机から一歩下がり、話を聞く事にした。
「ああ、そうだ。
奴は連行されてから一言も発さない。だが
君なら何か情報が得られるかもしれない。」
私は意味がわからず訝しげに首を傾げるが、
所長は続けた。
「確かに奴は君に恨みを持っているだろうが
君の安全は保障しよう」
「恨み…??恨みってなんです?
確かに彼は私の家に遺体を遺棄しましたが…
恨まれてる覚えなんて…」
その時…私は気づかなかった。
看守達の悲鳴にも、
錠が床に落ちる音にも、
獣のような荒い息遣いにも、
こちらに物凄いスピードで迫る足音にも。
そして、その足音の主が既に
真後ろのドアの前に誰かが立っている事に。
ただ緊張の面持ちで所長の話を聞いていた。
「恨まれているさ‥何せ奴は
君の元患者だ」
所長がそう言った途端
勢いよく背後のドアが開く。
バンッという大きな音と共に
蝶番がコンクリの床に跳ねこちらに飛んでくる。
「えっ!!!?」
振り返るとそこには
…男がいた。
大きな身体に巻かれた
白い拘束具はズタボロにされて
太いベルトがダラリと揺れる。
拘束用のマスクと金色の髪の
隙間から覗く大きく見開かれた銀色の眼には
私をハッキリと映していた。
…大変…脱走した患者ね…。
とにかく彼を大人しくさせなければ…
「…お…落ち着いて…大丈夫よ。
傷つけたりしないから…止まって…?」
彼は私の静止を無視して
ゆっくりと歩み寄ってきた。
見開いた眼でしっかりと私を捉えたまま
ヒタヒタと一歩一歩近づいてくる。
彼の大きな影が私の体を飲み込む。
すると彼は目の前でピタリと止まり
大きな手で私の腕を掴んできた。
「ひ…っ…!?」
力が強い…手首が折れそう…
振り払おうとしたらきっと刺激してしまう…
どうしよう…!!?
「あ…あの。落ちついて、大丈夫だから…
…ね?き…聞こえてるかしら…?」
10秒ほどの沈黙。
彼はただ黙って私を見つめていた。
所長がこっそりと机上の
緊急ボタンを押したのが見えたけれど、
既に彼にやられてしまったのか…
中々、看守達が来ない。
私は抵抗できなかった、
声も出せず、ただ震えが止まらない、
額を、
首元を、
冷たい汗がつたう。
心臓が苦しい、
まだ彼は私を見ている。
そして急に彼は笑った。
次の瞬間‥
私の目の前は真っ暗になった。
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