My Dr -貴女は僕の全てになった、だから貴女から僕以外の全てを奪おう

7章

6.誰のせいなのか。《ジョザイア目線》

一瞬、訳がわからなかった。
針はまた、ベットに突き刺さり、
アイリーンは僕の血で真っ赤に濡れている。


僕の口に、むせかえるような鉄の匂いが、
味が広がっていた。


「がっ‥‥ぐ‥！！？？」


僕はアイリーンの上に倒れこむ。
目の前には‥


さっき抜いた注射器が転がっている‥




‥薬を使いすぎたらしい‥



あと‥少しで、彼女を壊して‥
全部僕のものにできたのに‥‥


シーツに血が滲んで拡がる。


手術道具の入ったトレイに
薬の中和剤がある‥‥取らないと‥


無理矢理、体を動かしてトレイに手を伸ばす。
思い通りに体が動かない‥‥


喉が焼ける‥自分の血で窒息死しそうだ‥
頭が割れそうに痛い。
苦しい‥視界が歪む‥


すると、アイリーンが僕の下から、
這い出てくる。
僕の血で濡れて、オロオロと震えながら
涙を浮かべる。


「…え‥え？‥た‥助かった‥？」


彼女はそう言った。

苦しむ僕を見て、安堵していた。


‥‥このまま死にたくない‥
せめて‥彼女と一緒に‥


そう思って、彼女の手首を力強くつかむ。
彼女はビクリと震えて、
僕を睨みつけてくる。

その目は憎悪を、嫌悪をたたえている。


「‥‥‥」


「………」


沈黙が流れる。
彼女は何を考えてるんだろう‥

‥僕はもう動けない。
中和剤を取ることもできない。




せめて‥一瞬でも‥彼女に愛されたかった‥



でも、もう‥それは叶わない。




アイリーンは、手術器具の入ったトレイから
メスを取り出して、僕に向けた。


両手で振りかざすように構え、
僕を見ている。

彼女の蔑むような、哀れむような眼が

僕の心臓をえぐる。


「………」



ああ、僕は彼女に殺されるんだ。


‥当然の報いかもしれない。

仕方がないんだ‥

‥‥

なんで、うまくいかなかったんだろう‥

彼女のために、

あんなに頑張ったのに‥


両親を殺して、拉致もして、彼女を犯した。


何がいけなかったのかな‥

どうして、
好きになってもらえなかったのかな‥


なんで、なんで‥


目が熱くなってくる‥

胸が張り裂けそうだ‥


部屋は静寂に包まれて、
僕の弱くなっていく心音だけが聴こえる。



僕は最期の力を振り絞って、


彼女に手を伸ばす。



「‥ぁ‥アイリーン‥‥ご‥めんね‥
こうするしかないと思った‥んだ‥‥

こうでも‥しないと‥
愛して‥もらえない‥から‥」



僕は、
メスを握る彼女の手を上から握りしめた。


もう‥彼女の感触すら感じることは、
できなくなっていた。


彼女の手を握り、メスを自分の首元にあてる。


一筋の血が、僕の首を流れ、ベットに染み込む。


僕はなんとか口を開く‥
彼女に伝えたいことがあった‥



「‥貴女に‥なら‥殺されても‥いい‥




‥愛してる‥よ。アイリーン‥




凄く‥すごく‥好きだった‥


‥ただ‥それだけなんだ‥」




そう言って、僕は彼女の手を離した。

僕の腕は力なく、ベットに落ちる。


僕はそのまま、そっと眼を閉じて、

刃が降りるのを待つ。


閉じた目に浮かぶのは‥
幼い日々。僕らが幸せだった頃。



ああ、さよなら‥僕の大好きな人‥



殺されたって愛してる‥‥