拝み屋一家の飯島さん。

創作屋 鬼聴

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飯島家本家

めでたい日 その二

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全身から吹き出す冷や汗を感じていると、
今まで座っていた親戚達も1人また1人と
立ち上がる。全員…黙ったまま。



「…ぁ‥あの‥皆さん‥何を‥‥?」


震える声でもう一度尋ねてみても、
また誰も答えない。

ただ、武器を持ち立ったまま黙って私を見ている。

そしてゆっくりとこちらに
にじり寄ってきた。一歩づつゆっくり‥ゆっくり‥


いつの間にか四方を囲まれていて、
どこにも逃げられない。

そして、全員が示し合わせたように
武器を持った手を一斉に振り上げる。


「ひっ‥!!??」


後悔の中、目を閉じて身構える。

するとグイッと、背を持たれ
身体を引き寄せられた。


「わあっっ!?」


私はそのまま、彼の胸元に
ボフンとダイブした。


「ちょっと。
俺の妻をあんまりいじめないでくださいよ?

これはただのマリッジブルーってやつですよ。
ねぇ、楓さん?」


飯島さんは私を庇うように軽く抱いて、
怪しく微笑む。

その言葉に私の拒否権はあるはずなく、
私は涙の溜まった目で飯島さんを見つめ返し、こくこくと頷いた。


「ほらね。楓さんは利口な子ですよ。
みんな落ち着いて下さい。」


そう笑って、私の頭を優しく撫でた。
優しいのが余計に怖い‥

しばらく沈黙が続いて、
能面を被った親戚の1人が口を開く。


「では、ご結婚される意思が嫁様には
お有りということですね?

そうですね?」


‥その人の手には、大きな植木用の鋏。


「…は‥はい‥結婚…したい…です。」


私がそう答えると
不自然なほどに急に場が和み
さっきまでの様に親戚達は笑い合って
ガヤガヤと話し出した。


「なんだぁ!!
ビックリさせないでくださいよなぁ!嫁様ぁ!」


「うふふ、マリッジブルーかぁ、私もありましたよ。でも大丈夫。了様なら幸せにしてくれますよ!」

「あっははは!!いやぁ!めでたいねぇ!」


まるで何もなかったかの様に席に着き、
また、どんちゃん騒ぎが始まる。

みんなニコニコと
私に笑いかけ祝いの言葉を述べる。
さっきまで包丁を向けていた人も。

‥この家‥どうかしてる‥
‥‥逃げないと‥でも‥逃げても‥


「さて、
あの人達の機嫌も直ったみたいですし、
部屋に行きましょうか!楓さん。」

もうお馴染みになった有無を言わさない笑顔‥。

私には逆らうことはできない。
飯島さんに手を引かれ宴会場をあとにした。

私の不安とは裏腹に飯島さんは上機嫌。

廊下を歩くと
白石さんもズルズルと後をついてくる。


‥あぁ‥これからどうなるんだろう‥


通り過ぎていく障子を眺めながら
私は溜息をついた。
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