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歪なデート
一瞬でも、許せない。
しおりを挟む話しかけて来た相手は
長細い身体に黒いジャージの銀髪男と、ユルい服にフワフワした茶髪の男。
その見知った銀髪が声をかけて来た。
「よお!久しぶり!元気だった?」
「げ!!山崎じゃん!話かけないでくれる?今、それどころじゃないの!」
逃げる策を考えるので精一杯なのに
なんでこんなのと会うかな!?
「ちょっと元彼に
その態度はないだろー」
そう、あいつが私にダル絡みすると、
山崎と一緒に来た見知らぬ茶髪が
スマホを弄りながら言う。
「いや、元彼だからだろ
さっきイケメンといるの見たし
俺ら邪魔だって」
「えー!俺せっかく、
車止めてまで来たのに…」
…というか
この馬鹿の相手してる場合じゃない。
私は顎に手を当てて考える。
逃げる手段…、電車…は駅から遠いし
一番良いのはタクシー拾うとか…??
うーん…時間がかかり過ぎ…あ。
「…車?…山崎あんた車できてるの?」
「うん?まぁ、ほら
そこに止まってるけど。」
店の大きな窓越しに
路駐された黒いバンが見える。
20秒もあれば乗り込める距離!
「ねえ!今大変な事になってて
とにかく車乗せてどっか連れてってくれない!?今すぐ!!」
「え、いいけど、
彼氏と一緒じゃねぇの?いいの?」
「彼氏じゃないの!あの人は…
とにかく急い…」
そう言った瞬間、
背後から両肩を掴まれた。
背中にぴったりと身体を寄せて
囲い込むみたいにがっしりと。
「ねえ、楓さん。誰ですか?
この人。」
耳元から聞き覚えのある声。
いつもより低くて重い声だった。
「ひっ!!?了さん!?
…あっえっと…は、早かったですね…」
お願い…お願い…何も聞いてないよね?
さっきの会話…
「俺は、そこのいかにも頭の悪そうな
醜男は誰か、聞いています。
俺が早かったとか
どうでも良くないですか?」
肩に置かれた手に
力が入っていくのを感じる。
了さんの少し長い爪が肩に食い込む。
「えっと、友達!大学のね!
とくになにかあったとかじゃなくて…」
私達の会話を聞いて、山崎が
顔を顰めている。
お願い山崎!!余計な事言わないで!!
頼む!
そう思いながらアイツに必死で目配せする。
が、
努力も虚しく山崎は
私を軽く押し除けて了さんに
掴みかかる。
「誰が、頭の悪そうなブ男だ?
残念だったな、
俺はアイツの元彼なんだよ。
アンタこそ楓のなんだ?」
「…もちろん、恋人ですよ。
しかも、婚約済みのね。」
了さんは笑って答える。が、
眼はちっとも笑っていない。
軽蔑する様な目で山崎を見据えている。
「嘘つくんじゃねえよ。
さっき楓はな、俺にアンタから逃げ…」
山崎がそう口走ったとき
どっと冷や汗が吹き出して、
気づいた時には
大声で彼の言葉を遮っていた、
「山崎!!もういいから行って!!」
「え…」
山崎も了さんも、茶髪も
驚いた顔をしてこちらを見る。
「えっと…彼氏とデート中に
元彼が絡んでくるとか超最悪なの!
わ…わかるでしょ?
早く行って!」
これなら自然なはず。
山崎には悪いけど、山崎の身を守ってやる為でもあるの。どっか行って!
「…わかったよ。じゃ…
マジで困ってんなら…連絡しろよ」
山崎は渋々引き下がる。
さすがの山崎でも、
なんとなく察してくれたみたいだ。
「行こうぜ。マトイ。」
「あ、うん。了解」
マトイと呼ばれた茶髪も心配そうに
こちらを見ながらも一緒に去っていく。
2人の後ろ姿を見てホッとしたのも束の間、了さんは私の手を掴んで
顔を覗きこむ。
「楓さん。『アレ』と付き合っていたというのは本当ですか?」
「ひ…一瞬だけね…あの、あれよ!
3日くらいだし、手すら繋いでないから
…お…怒らないで…」
了さんの手の力は強い。
手の骨が折れそうなくらい。
声色こそいつも通りなのに
表情は怒りを押さえ込むので必死
と言った感じで怖い。身体が震える。
「楓さんには、怒ってないですよ。
怖がらないで?」
了さんの冷たい手が首元に触れる。
「ただ、事実かどうか
聞きたかったんです。
以前に、一瞬でも、
俺以外のモノになったのか?って」
「ご…ごめんなさい…」
「謝るのは楓さんじゃありませんよ。」
了さんは静かに微笑んで、
私の横を通り抜けると
店の出口へと向かう。
山崎達を追う様に。
「ちょっ…了さん待って!!」
嫌な予感がする。
了さんは私の呼びかけには答えない。
山崎達は互いにスマホを見ながら
談笑していて、
了さんには気付いていない。
私は了さんと山崎達を追いかけて
店の自動ドアを出ると
山崎達は路駐してあった車に戻る途中で
目の前には道路と行き交う車が見えた。
その行き交う車を了さんはチラッと
見て、山崎の肩を叩く。
「あの、山崎さん。下の名前、
教えてもらえませんか?」
了さんは山崎に聞く。
私は訳が分からなくてその場で
立ち尽くす。
「は…?浩人だけど…え?なんで」
山崎も呆然としながらも、
振り返り、答えた。
それを聞くと、了さんはニッコリ笑って
彼との距離を詰め、
山崎の額を指差す様に捉える。
そして、こう言った。
「『山崎浩人。……
"飛び込め"』」
………
「は…?」
山崎がそう反応した時には
彼は走り出していた。
顔は疑問符を浮かべたまま、
まるで身体だけが勝手に
動いているみたいに走り出す。
そして、道路の方へと
"飛び込んだ"
ーーーゴッッッッっと鈍く重い音がして
…メキメキ…グシャッと言った異音。
山崎は不運にも大型トラックに轢かれ、
その身体はタイヤとタイヤハウスの間に引き込まれて粉砕された。
タイヤの隙間からは、
折れて皮膚から突き出した真っ赤な骨と
辛うじて繋がった脚とアスファルトに
滲んでいく血が見える。
「…あ…や…山崎…?」
心臓がバクバクと鳴り、そう呟いた途端
綺麗な手で目の前が覆われる。
「おっと!楓さん見ちゃダメですよ!
ああ、痛ましいですね!
目の前でこんな不運な
『事故』が起こるなんて!」
眼を覆われたまま、
了さんに抱き寄せられた。
了さんは私に山崎を見せない様に
クルリと方向転換して、眼を覆っていた
手を離す。
激しい鼓動と、冷や汗は止まらない。
了さんがやった???
そんな事が人間にできるの??
どうやって???
山崎…山崎は死んだの…??
あれ…『事故』じゃないよね…?
了さんは私の混乱も気にせず
ニコニコ笑っている。
さっきと違って晴々とした
機嫌の良さそうな笑顔だ。
「さてと、デートの続きしましょう!
ちょっと疲れたし、お茶したいですね!
ケーキとか食べません?」
「う…うん」
了さんは私の手を引いて歩き始める。
私の目の端には唖然と恐怖で腰を抜かした茶髪のマトイくんが映る。
そして、振り返ればきっと
血塗れの山崎が…
でも、どうにもできない。
やっぱり、了さんは
危ない…早く…早く逃げなきゃ…
いつか私も殺されるかもしれない…
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