拝み屋一家の飯島さん。

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伝承

血の海〈了目線〉

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…楓さんとデートに行った日の
夜、俺は目を覚ました。
 

部屋の柱に掛かった和時計を見ると、
時間は大体4時半ほど。

障子越しに見るとまだ外は暗く、
夜は明けていない。


「…」


何かが不自然だ。
起きた時の感じも、家の空気も。


俺は、ぼやける視界に目を凝らした、


…何かが起ころうとしている気がする。


見下ろすと
俺の横では楓さんがスヤスヤと
寝息を立てていた。


「…??」


それにも違和感を感じた。

首輪の紐だ。

寝た時と全く位置が違う。
寝返り程度でこんなに大幅に
位置は変わらないはずだ。


……



「…は?」



俺が寝てる間にどこかに行った?
俺の許可なく?


ゾワゾワと頭に血が上っていくのを
感じる。気づけば俺は千切れんばかりに
布団のシーツを握りしめていた。


「……」


真偽を聞かなくてはならない。



そう思って彼女に
馬乗りになった時にはもう、


先ほど感じた違和感など
どうでも良くなっていた。



彼女の月に照らされた寝顔を見て考える。


「…なんでなんだろう…?どうして…」


どいつもこいつも俺の下で
大人しくしてくれない?


俺の物になってくれないんだ?
どうして、俺の元を去っていく?


あまりの落胆に
頭を抱え、眉間に皺をよせる。


「まぁ…いつものことか…」


そう呟きつつも
俺の気分はいつもと違った。   

いつもだったら怒りしか湧かない。


けど、今回は
なんだかとってもガッカリしてた。
少し悲しかったんだ。


楓さんは何か違う気がしてたから…
他の娘とは違ってて…


なんとなく彼女とは
上手くやれる気がしてた。



愛し合える気がしてた…



「…勘違いだったかぁ…
なんでいっつも上手くいかないんだろ…」



そういいながら、寝ている彼女の
首を掴んで、拳を振り上げる。


そして、特に躊躇うことなく
思い切り彼女を殴りつけた。


「ぎゃっ!!?!」


重く硬い、頬骨の感触が拳に響く。


「いだいっ!!?やめ…ぎやぁ!!?」


静かだった部屋に彼女の悲鳴と
鈍い打撃音が響く。
何回も何回も繰り返し響く。


俺は黙ったまま彼女を殴り続ける。


彼女は話す間も無く、
悲鳴を上げ続ける。


ああ…うん。そうだよ。
俺の言うこと聞かない奴なんて要らない。
また新しいのを探そう。


うん…そうすればいい…



自分に言い聞かせるように繰り返し
そう考えながら、拳を振るった。


殴る腕を止める事なく俺は聞く。


「…ねぇ、楓さん、
俺は貴女に好かれたくて
結構頑張ったつもりです。

どうして、一緒にいてくれないんですか?
どうして、俺に逆らうんですか?

俺の何がダメだったんですか?」


…あぁ、なんか泣きそう。
悲しい。なんで…うまく行かない。


殴るたびに彼女の
血と唾液の飛沫が飛んでくる。


楓さんはもう随分静かになった。
顔の形も、もうわからない。


拳が血に濡れて、ジンジン痛む。



その手を彼女の顔の真横についた。

血塗れで横たわる彼女と
俺の真っ赤になった拳が見えて、


視界が涙で滲む。


「ねぇ、楓さん。

どうしたら

俺は…貴女に
好きになって貰えたんですか?」


まだ多分、死んでないはずだ
俺は彼女に聞いてみた。


彼女は布団の上に横たわりながら、
瞳だけでギョロリと俺をみた。


おそらく首が折れて、
顔が上げられなくなったんだろう。
苦しそうに血を吐きながら
ヒュー…ヒュー…と
息を荒げている。


「………」


その口元をよく見ると、
殴った時に噛んでしまったのか、

折れてまばらになった歯の隙間から
千切れる寸前の舌が見えた。


この状態では、話すことは
もう無理だろうと溜息を吐くと


彼女は俺の腕をガッと
力強く掴んできた。  



「は??」



骨の折れそうなくらい強い…
人間離れした力で。


そして血みどろの顔を俺に近づけた。


すると…


彼女はその血塗れの潰れた顔で 
流暢に話し始める。

あの傷で
そんなことができるはずないのに。

『なぜ…』


「?!」



『何故…また、
こんなことをするのですか?

何故…貴方は私を裏切ったのですか?

何故…私を



愛してくださらなかったのですか?』



話しながらムクリと起き上がって
目の前の女は俺の肩を掴む。


彼女の声を聞いて、呆気に取られた。


「…あんた…誰だ…?」


俺のその質問に女は答えることはなく


目の前の女はグチャグチャになった顔を
さらに、俺に近づけ涙を流し叫ぶ。


「…っ!!!」


声は低い女の声から
血の底から鳴り響くような
耳をつん裂く様な悍ましい声へと変わり
俺にこう言った。



『…答え…て…
 


答えてくだざぁまし!!!



!!』



女の顔からは滝の様に血が流れ出し
俺の身体にドバドバと掛かっていく。


それは部屋全体を満たしそうな勢いで流れ、
既に室内は2センチほどの血の海になっていた。


女はその血の海の中で
気持ちの悪い呻きをあげながら
俺の顔に手を伸ばす。


『ぁ…あ…ぁ…』



…………



「……っ!!テメェ…」




俺は布団の横にあったテーブルからボールペンに手を伸ばし、女の右眼球に突き刺した。


そして、言葉の続きを叫ぶ。


「テメェ!!!
楓さんをどこにやった!!?」



俺は突き刺したボールペンを引き抜き
次は左眼へ。その次は首へと突き刺す。


化け物だろうが関係ない。


楓さんに手を出した奴は殺してやる。


俺以外が彼女を傷つけるのは許さない。


化け物を抑え込み、何度もボールペンを突き刺すが、不安は消えない。


嫌な想像が頭をよぎる。
楓さんは弱い…。 

俺と違って化け物に慣れてるわけじゃない…。
何より彼女がいるはずの場所にコイツがいた。


「嫌だ…楓さん…」



気がつくと血の海の水位は
信じられないほど、上がっていた。

座っている俺の肩までもう飲み込んでしまいそうなほどに。


「あ…クソッ…」


立ちあがろうとすると
穴だらけになった女が俺の顔を掴み、
血の海から顔だけを出してニンマリ笑う。


『カエデ…がいなければいいのね…
当主…様』


その言葉を最後に
血の海は俺とその女を飲み込んだ。




















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