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Injury
第37話 決断の代償
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俺はじーさんやけいと一緒に客室にいて、監視カメラの映像からひかるの異変に気付いた。
一瞬、光線が画面内を駆け巡った気がする。
まさか……。
俺は焦燥して無線に叫んだ。
「エリンギ! ひかるはっ!?」
「潜水艇には乗ったけド! みんなどうしよウ……! 撃たれタひかるガ!」
「撃たれたぁ!?」
全員が絶叫した。
「どうしよウどうしよウ! すごい痛そうだヨ!」
「どこを撃たれた!?」
「脚! 右のふくらはぎだヨ!」
ひかるが、撃たれた……!?
俺は思わず強く奥歯を噛み締めた。
そんな、まさか。あいつが。
障害物の多いカフェテラスで、狙いを外さず撃ってくるとは。
よくもやってくれたな、警察……!
しかもよりによって脚か……。
エリンギが泣いた様な声で助けを求める。
さっきからひかるの方は、ずっとうめき声しか聞こえない。
「おい落ち着けエリンギ! お前しかいねーんだぞそこにはっ! ひかるを不安にさせんな!」
「まさかりさん、でモ……」
「おいエリンギ、応急処置出来ないのか」
「い、一応道具はあるけド……」
「やれ。お前の家柄ならそれくらいのことは出来るだろ」
「ム、ムリだヨォ! こんな大怪我なんて見たことモ……」
「エ……エリンギ」
喉から絞り出す様に声を出すひかる。
「お願い……、エリンギなら、……っ」
「ひかる……、ウゥッ……」
「……何でエリンギが泣くのさ……」
「だっテ、もう見てらんないヨ! ……分かっタ、やってみル……」
ぐすぐすと、エリンギが鼻を啜る音が聞こえた。
◆
「い……っ、いぃぃ……ッ」
光線で焼かれたため出血はないものの、ひかるのふくらはぎの皮膚はただれて変色し、筋肉が一部露出していた──目を背けたくなるような光景だった。
消毒液が焼ける様に染みるらしく、ひかるは歯を食いしばって耐えていた。
ひかるのうめき声を聞くだけに耐え兼ねたじーさんが口を開く。
「……エリンギ、東京には帰らずに近くに停泊して、病院を探した方がいいんじゃないかの……」
「ウ、ウン。そうして……」
「馬鹿か! ひかるを更に追い詰める気か」
「な、なんデっ!」
エリンギが怒った様に俺に歯向かう。
「ひかる、お前が撃たれたことは当然、警察も知ってるんだろうな」
「うん……」
「だったら尚更、警察は血眼になって全国の病院を探すぞ? 右足を銃で撃たれた患者なんてそうそう出るものじゃない。そいつがダークだと断定される」
「……!」
絶望に浸った様な空気が、俺たちの間に重くのしかかる。
「それと、すぐに海へ飛び込んだダークを探しに海上保安庁が動くだろうな。エリンギは奴等に見つからない様に、予定通りの場所に停泊しろ」
「だったラひかるはどうなるノっ!?」
「……」
「おいバカ! 黙ってねーで何とか言えよ! ひかるの選手生命がかかってんだよ!」
「うるさい。今考えてる」
「うるさいって何だよ!? お前ちょっとぐらい心配する素振り見せろよ。ほんっと冷酷だよな!」
「まさかり、本当に今タカが考えとるんじゃ。少し黙っとれ」
「……っ」
誰もが口を閉ざすと、やはりひかるのうめき声のせいか、空気が重く暗い。
俺は座ったまま、両手で顔を覆い考え込んだ。
想定していなかった。
あのひかるが撃たれるなんて。
このメンバーの中に医学知識を持った奴はいない。
素人の治療だけでは最悪──、化膿が悪化して脚を切断……なんて事もあり得るだろうか。
ちゃんとした医者に見せなければ。
しかし、それはダークに無関係な第三者である。
警察がダークを撃ったことは、恐らく直ぐに報道されるだろう。
脚を撃たれたひかるがダークだと言うことは、医者に必ず紐づけられてしまう。
どう考えても、ひかるを救うことはリスクでしかない。
警察は懸賞金を出してでも、ダークを治療した可能性がある医者を躍起になって探すハズだ。
……例え俺たちがどれだけ金を積んで口止めしたとしたも、今後ずっとそのリスクは付きまとう。
俺に医学知識があれば、こんな事で悩まなかったのに。
……嘆いてもしょうがない。
トカゲの尻尾切り──。それが、今なのだ。
忘れた訳じゃないだろう。あの時の憎しみと決意を。
〝優しさ〟なんて捨ててやると。親父は優しいから死んだのだ。
それが弱みになるなら、心を鬼にしろと。
そう、決めたじゃないか。
無線から聞こえるひかるの呻き声を、聞こえないふりをしようとした。
それなのに、少し前の公園での光景が脳裏をよぎった。
『……タカがひとりで抱えてること、少しでも軽くなったらいいなって思うんだけどな』
……。
今、ひかるを見捨てなければ。
あの時固く決意した過去の俺に、俺は背く事になる──。
「おい高英、どっちにしろ早く決めろ! これ以上潜水艇と離れると、無線電波が届かなくなる!」
まさかりさんの言葉に急かされた俺は、息を吐いて言葉を胸の奥から捻り出して言った。
「……まさかりさん、医者を探せ」
「……!」
「腕が立つ、とにかく信用出来る医者だ。金ならいくらでも払う、金額にはこだわるな。あと治療場所はさくら号にしろ。出張してもらえ、いいな」
「分かった、すぐ探す!」
「それと、必ず一人で来させろ。複数人はダメだ」
「? ……わかった」
「エリンギも真っ直ぐさくら号に帰れ」
「分かったヨ」
隣にいるじーさんやけいが、少しだけホッとした様な表情を浮かべる。
……違う。これは合理的な判断だ。
今ひかるを見捨てれば、他のメンバーは激怒し二度とダークに手を貸してくれなくなるかもしれない。
三度目がない。ここまで積み重ねて来たのに、そっちの方がどう考えてもリスクだ。
……だから、これは情じゃない。戦略だ。
冷酷な俺は、まだ死んでいない。
こうなったら、いずれひかるには完全復活してもらわねば。
「これから恐らく、俺とじーさんとけいは、青山の取り調べがあるだろうから。何か問題が起きてもそっちで解決しろよ」
「ウン。大丈夫だヨ……たぶン」
その時、ぼそぼそと泣き声が無線から聞こえた。
「……なさい。みんな、ごめ……さい……っ」
「……ひかる?」
「ひかる、誰も責めてないじゃン」
ひかるはかぶりを降った。
「足は絶対に引っ張りたくないのに……! おれの不注意で……っ」
「おいエリンギ、黙らせろ」
「た、タカ」
「……黙らせろ。無駄に体力を使わせるな」
何だか、物凄くモヤモヤする。
ひかるが撃たれる直前──
『ひかる、余裕か?』
『うん。前回の時よりも』
『なら、せっかく閃光弾を持って来たんだ。わざと追いつかれて、またお前の足の速さを見せつけてやればいい』
……。
いや、今は考えるのはよそう。
反省は全て終わってからだ。
暫くすると潜水艇と無線電波が届かなくなり、ひかるのうめき声は聞こえなくなった。
◆
ダークが消えた後、青山は松浦に経緯を説明し、すぐに海上保安庁を呼んだ。
警視庁の方にも事件の経緯を説明し、念のため全国の病院にチェックを入れてもらうことにする。
その後、青山は甲板で少し海を眺めていた。
「青山さん……っ、すみません! オレが撃ったから……オレのせいっす! ホントに、こんなことになるなんて……」
青山の背後から頭を下げる中林。涙目だ。
「言い直せ。『僕のせいです』」
「ぼ、ボクのせいで、す」
「バーカ。撃ったお前のせいじゃなくて、取り逃した俺たちが悪い。お前はよく当てたよ、凄腕だ」
「いや、でもっ」
「それにまだ分かんないだろ。死んだなんて」
「……え?」
「あのダークだぞ? こんな簡単に息絶えるとは思えない」
そう。奴が何の狙いもなく、わざわざ追い詰められるような甲板に逃げたとは思えない。
撃たれるのは計算違いだったろうが、たぶん逃走手段がここにあったハズ……。
「……絶えないか心配なのは俺の首だよ」
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