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Injury
第38話 誰だ、あいつを撃ったのは
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俺とじーさんとけいは、再び安藤一家に変装をした。
ひかるが撃たれた件で動揺がまだ収まらぬ中、警察から呼び出され聴取を受ける。
ダーク捜査本部室にいたのは、青山と書記の中林。
「……で、今日はどういったご用件で乗船を?」
「観光で大阪まで」
答えたのは祖父役のじーさん。
「事件の時、お二人はどちらへ?」
「健太が迷子になったので……、探していたんですが」
「一回お二人を呼ぶアナウンスがあったんですが、すぐには来られなかったようですね」
「えーっと……。何してたかのぅ?」
じーさんは苦笑いしながら、俺に助けを求めた。
「じぃさんが船酔いして、ずっと便所に籠ってました」
「おぉ……、そうですそうです」
俺は少しぶっきらぼうに言い、じーさんはまた大袈裟に笑った。
けいは俺とじーさんを見て、ずっとニヤニヤしている。
話はDKに人質に取られていた健太 (けい)への質問へ移る。
残念ながらこの聴取では、DKの手掛かりは何一つ得られないだろう。
「……では以上で。ご協力ありがとうございました」
青山たちが一礼すると、じーさんも立ち上がって頭を下げた。
「いえ……、健太を助けて頂き、ありがとうございました」
「ございましたーっ」
じーさんが去ろうとしたところで、俺は口を開いた。
「あの」
俺は今、安藤太一・高校生役。
役柄から外れない程度に言葉を選んで発する。
「ニュースを見て知りました……、さっきのダークのこと。警察が足を撃って、海に落ちたと」
「あぁ……」
客の中に記者が混ざっていたのだろう、既にダークが右脚を撃たれて、海に落ちた事まで報道されていた。
「ダークを応援している人が怒りますよね。ただ哀れな人たちを助けようとしただけなのに、あそこまで仕打ちを受けるなんて」
「……君も、ダークが好きなのか?」
青山は苦笑いで言った。
対し、俺は青山を睨み付ける。
ぴりぴりと険悪な空気が流れる。
そして耐えきれず、じーさんがその空気を和らげようとする。
「まぁまぁ! 太一、いいじゃないか! ホラ、青山さんには健太のことで世話になったんだから……」
「誰なんです? ダークを撃ったのは」
誰だ、あいつを撃ったのは。
青山、お前か……?
未だにひかるのうめき声が、頭の中で反復する。
……そんなことを聞いたところで、何か報復をしたり出来るわけではない事は分かっているが。
腹の中で湧き上がるぶつけようのない怒りが、どうしても収まらない。
「誰ですか」
俺の怒りを、青山は苦笑いで逸らした。
「それはお答え出来ません。撃った人間の名前まではマスコミにも公表しないつもりなんで、あなた方だけに教える訳には」
青山がきっぱりと言うと、俺は小さく舌打ちした。
……向こうとしては当然の判断ではあるが。
「だから警察は嫌いなんだ」
「は?」
「ありがとうございました」
俺が早足で部屋を出ていくと、後2人も俺たちに会釈して、急いで後を追った。
◆
レインボー号は時間通り、大阪に着港した。
しかし下船の時も煩わしい荷物検査があった。
DKが、銃を奪って行方をくらませたからだろう。
銃は海に捨てたので、見つかるはずがないが。
下船するのにも長蛇の列に並び、時間を取られた。
その後俺たちは別で降りて来たまさかりさんと合流し、すぐさま羽田行きの飛行機に飛び乗る。
飛行機に乗る前に、エリンギに電話をかけた。
もう既に日が傾きかけている。
「エリンギ、今どこだ」
「今車、もうちょっとでさくら号だヨ……」
「ひかるは?」
「痛み耐えるの辛いかラ、睡眠剤で眠ってもらってル……」
「医者は19時にさくら号に来るらしい」
「ま、まだ時間あるネ……、早くは出来なイ?」
俺は隣のまさかりさんを一瞥する。
「はあ……交渉したよ。けどそれ以上は早くできねーって……」
医者が来る頃には、もう撃たれて7時間……。
俺は医学は分からないが、ひかるにとってかなり苦しい時間。
しかし心配したところで、どうにも出来ない。
「タカ」
じーさんが尋ねる。
「ひかるを撃った人間を聞いて、どうするつもりだったんじゃ」
「……別に」
「別にって、のぅ」
それを聞いたまさかりさんが茶化してくるかと思ったが、流石に何も言ってこなかった。
◆
空港からはタクシーを捕まえてさくら号へ向かう。
さくら号に着く頃には、既に日も落ち真っ暗だった。
到着するなり、まさかりさんとじーさんとけいは金も払わずにタクシーを飛び出して行った。
俺は至って冷静に運転手に金を払い、さくら号の扉を開ける。
玄関に、見慣れない靴が一つ。
……まだ医者はいるらしい。
「ひかる!」
「ひかる大丈夫か!?」
和室の方から話し声が聞こえる。
俺は和室に顔を出すと、一番に目に入ったのは横になったひかる。
そしてひかるを心配そうに皆で囲んでいた。
「あ……、おかえりタカ」
ひかるは生気を失った顔色で、俺に無理矢理笑って見せる。
俺は黙って目を背けて、撃たれた足の方へ視線を逸らした。
ひかるの足は既に包帯で巻かれていて、どれ程の被害を被ったのかは分からなかった。
しかし、袋に捨てられた大量のガーゼを見て、唐突に理解する。
……笑っていられる怪我じゃない。
「あの、ありがとうございました。村田さん」
ひかるの側にしゃがんでいた老人は、ちょうど身支度が済んだ様だ。
「じゃあ、言った通りに手入れしなさいよ」
「……はい」
「通ってあげてもいいんですけどね。金さえ払って頂ければ、確実にお嬢さんの足を治してあげれますけどね」
「……あの、おれ男です……」
口元に深くしわを刻んで、ニヤリと笑う村田。
「……いヤ、やっぱリ見てもらった方がいいヨ。お金はボクが……」
「いや、結構」
俺がきっぱりと断ると、村田は目を見開いて俺を見た。
「あんたの力はもう借りれない」
「……借りれない、と?」
首を傾げる村田を無視して、俺は一番近くにいたエリンギに耳打ちする。
「まだ帰すな。少し時間を稼げ」
「エ? どーゆうこト?」
エリンギの問いにも答えず、俺は自分のベッドからある鍵を取り出す。
そしてそれを持って棚へ。
俺は直ぐさま鍵を棚の鍵穴に差し込み、棚を慎重に開いた。
中には拳銃や麻酔銃、その他様々な小道具や薬品が入っている。
俺はその中の1つの――、小袋に入れられた注射器を取り出す。
袋には大きく、“MB”と書かれている。
「……」
『憎むなら、こんな事件を引き起こした父親を憎むんだな』
「……っ!!」
ぞわりと寒気がして、思わず後頭部を擦っている自分がいた。
過去のトラウマが、フラッシュバックした。
……今は関係ないだろ。あの事は……。
震える指を強引に動かして、小袋を開いた。
注射器を隠し持ち、俺は再び和室へ戻る。
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