怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

文字の大きさ
36 / 69
2nd DARK

第36話 2nd DARK inside ⑤

しおりを挟む


 ダーク──ひかるは会場に飛び入った。
 会場内にいた警官たちは驚いて、ひかるに一斉に銃口を向けた。

 2階の入口から入ったひかるは、真っ直ぐ吹き抜けへ向かい、1階を見下ろす。

 ……いた。

「青山刑事」

 ダークの存在に気付くと、青山刑事はニヤリと嬉しそうに笑って下から見上げた。
 そして仲のいい友達のような感覚で声をかける。

「よぉ、遅刻なんてお前らしくないな」

「遅刻?」

 一回目を通して、ひかるの中でダークのキャラは出来上がっている。
 加えて先程のタカとのやり取りにより、ひかるは舞い上がる気持ちで自信満々に演じられた。

 ひかるは前回の様にスピーカーを通してではなく、新田の声のまま口を開く。

「それはとんだ勘違いですね、刑事さん」

「は?」

「私はちゃんと見ていましたよ。DKの犯行の一部始終を。酷いものです、子供を使って“桜色の宝”を奪い私をおびき寄せるなど」

 ……犯行を見てたのはまぁ、事実だしね。

「ちゃんと時間通りに頂いて来ましたよ。ほら」

 ひかるはポケットから、ネックレスケースを出した。
 タカから先程受け取った、本物の“桜色の宝”だ。

 しかし青山刑事は、露骨に信じられないと言った様な顔をする。

 確かに、銃を持った男2人から奪うなんて、無茶な設定だと思うけど。
 ダークだから、何でも許される気がする。

「このネックレスが偽物だと、今思ってますね」

「まぁな。どう考えてもお前がDKから奪えるとは思えない」

「まぁ、そうですよね……」

 ふふ、と笑ってしまう。

「まぁそれは、この事件が終わった後に証明されますよ。あなたが何も手を加えずとも、簡単に」

「何もしなくても……?」

「またこれを換金して、貧しい方達の助けになるよう救いの手を差し伸べます。そうすれば嫌でも耳に入るでしょう? まあ勿論、これが偽物だったらそれも出来ませんけど……」

 この宝石が本物ならば、正当な価格で換金され、その多くが寄付される。
 そのニュースが広まれば、自然と今持っている宝石が本物であると証明されるだろう。

 そうこうしている間に、多くの警官たちが2階に上がってきて、ダークに銃を向ける。
 ひかるは回りを見渡して、わざと大きな溜め息をついた。

「やれやれ、物騒ですね」

「貴様が物騒だ。何だそのガスマスクは!」

 2階にいる松浦が怒鳴った。

「さあ……なんでしょうね? おっと、防犯ネットなんて小癪な物は使わないでくださいよ。私を怒らせたら大変です。ここは海の上ですから、あなた方も逃げ場はありませんからね」

 警官達は、その言葉に身構えた。

「さぁて、そろそろおいとましましょうか」

 ひかるは青山を見下ろしていた吹き抜けの手すりから、一歩身を引いた。
 足首を回して準備運動をし始める。

「おいおい……、この包囲網の中をどうやって抜ける気だよ」

「それは今から、見ててください」

 すぐ側にいる2階の警官達さえ撒いて仕舞えば、1階にいる青山達との距離はかなり開く。
 それこそ、初回のダークの時以上に。

 余裕だ。

「じゃあ、ここからが真剣勝負ですよ!」

 ひかるは素早く懐から催涙ガスが入った瓶を取り出し、それを地面に叩き割った。
 勢いよくガスが噴出し、周りを囲んでいた松浦や警官たちがむせ始める。 

 ガスマスクをつけたひかるは、その警官たちを縫うようにすり抜け、2階の出口から会場を出た。
 そしてすぐに甲板に続く廊下へ出る。

 2階の警官たちは追って来れず、1階の青山たちもここに来るまで時間がかかる為、まだこの廊下には誰もいない。

「……どうしよう、誰もいないけど。待った方がいいかな」

「ボクはもう準備出来てるヨ?」

 タカは少し考えて言った。

「ひかる、余裕か?」

「うん。前回の時よりも」

「なら、せっかく閃光弾を持って来たんだ。わざと追いつかれて、またお前の足の速さを見せつけてやればいい」

「いいね。分かった」

 ――このタカの言葉……判断が、後のひかるの運命を変えようとは。

 数秒の後、青山や警官たちがひかるの前に姿を現した。

 青山は、ひかるが待っていたことにびっくりした様だ。
 そうしてその後に、ニヤリと笑って言う。

「ダーク。油断大敵だぞ。もしかしたら、お前の計画がどっかで狂う可能性だってあんだぞ」

「……」

 ひかるも負けじとニコリと歯を見せて、手招きする。
 そして青山たちに背を向け走り出した。

「ひかる! イイ? デッキ(甲板)の一番先端だヨ。絶対一度確認してから飛んでネ。後ろから刑事が来ててモ!」

「大丈夫、もう何回もイメトレして来たから」

 ひかるは加速して、青山たちとの距離を広げる。

 船内の廊下でダークと刑事たちの追いかけっこは続く。
 前回鷲尾邸の室内でも遠慮なく光線銃を撃った青山は、今回拳銃を構えてもいない。曲がり角が多いからだらう。

 ひかるはホッとして甲板へ急ぐ。

 外へ出ると、真夏の正午の太陽が全身黒のひかるにふりかかる。
 甲板はカフェテラス。
 ひかるは目的のポイントに、障害物を避けながら走る。

 余裕とは言ったものの、息はもう切れ切れで、汗はびっしょり。
 あと少し。あと少しで帰れる。

 ……そう思った、甲板の先端まで後3歩ほどというところだった。

 ジュ……ッ

 何かが焦げる音がした、と思った瞬間に、右足のふくらはぎに感じたことの無い激痛が走った。

「う……ッ」

 思わず呻き声が漏れた。
 ひかるは勢いだけで3歩分前進し、甲板の先端の手すりに寄り掛かった。

 何? 何で? 何が起こった?
 熱い、熱い……ッ!!

「ひかる……?」

 タカたちは、ひかるの一瞬の呻き声を聞き逃さなかった。
 船の監視カメラをまさかりさんがハッキングし、甲板の様子は皆の端末で見れるようになっていた。

 手すりに掴まって動かないひかるの異変に、タカも気付いたようだ。

「おい、どうした?」

「……っ!!」

「ひかる……!?」

「取り押さえろッ!!」

 青山の叫びと共に、警官がひかるの元へ全力で駆け出す。

「はぁ……ッ、はぁ……っ」

 ――やばい。痛い、熱い、どうしよう、次は、何だっけ……?

 逃走完了までもう一息のところで、万事休すか。
 背後から迫って来る大勢の警官たちと、右足の強烈な痛みのせいで、



 ひかるは頭が真っ白になった。



「おいひかる! 閃光弾だ!! 何してるっ? 捕まるぞ!?」

「……あ……っ」

 タカがこれまでにない程、大声で叫んだ。
 はっとして我にかえる。

 ひかるは真下の海を一瞥する。
 エリンギが乗る逃走用のが、口を開けて待っていた。

 ひかるはポケットから閃光弾を出し、スイッチを入れて警官たちの方に放り投げた。
 そしてすぐさま甲板の手すりに、最後の力を振り絞って乗り上げ、真下の潜水艇の口へ身を投げた。

 すぐ上空で閃光が煌めく。
 空中で、シルクハットが風に流された。

 ひかるは潜水艇の中に用意されたクッションに着地した。

「うぅ……ッ」

 その衝撃で撃たれた右足が悲鳴をあげる。

「行くヨひかる!」

 エリンギが叫ぶと、潜水艇のフタは自動で閉まり、そのまま潜水する。

「エリンギっ、エリンギッ!!」

 ひかるは右足を抱えて絶叫した。
 エリンギは操縦をオートモードにすると、すぐさまひかるに駆け寄った。

「ひか……ッ!?」

 エリンギはひかるの足と表情を見て、絶句した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

処理中です...