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2nd DARK
第36話 2nd DARK inside ⑤
しおりを挟むダーク──ひかるは会場に飛び入った。
会場内にいた警官たちは驚いて、ひかるに一斉に銃口を向けた。
2階の入口から入ったひかるは、真っ直ぐ吹き抜けへ向かい、1階を見下ろす。
……いた。
「青山刑事」
ダークの存在に気付くと、青山刑事はニヤリと嬉しそうに笑って下から見上げた。
そして仲のいい友達のような感覚で声をかける。
「よぉ、遅刻なんてお前らしくないな」
「遅刻?」
一回目を通して、ひかるの中でダークのキャラは出来上がっている。
加えて先程のタカとのやり取りにより、ひかるは舞い上がる気持ちで自信満々に演じられた。
ひかるは前回の様にスピーカーを通してではなく、新田の声のまま口を開く。
「それはとんだ勘違いですね、刑事さん」
「は?」
「私はちゃんと見ていましたよ。DKの犯行の一部始終を。酷いものです、子供を使って“桜色の宝”を奪い私をおびき寄せるなど」
……犯行を見てたのはまぁ、事実だしね。
「ちゃんと時間通りに頂いて来ましたよ。ほら」
ひかるはポケットから、ネックレスケースを出した。
タカから先程受け取った、本物の“桜色の宝”だ。
しかし青山刑事は、露骨に信じられないと言った様な顔をする。
確かに、銃を持った男2人から奪うなんて、無茶な設定だと思うけど。
ダークだから、何でも許される気がする。
「このネックレスが偽物だと、今思ってますね」
「まぁな。どう考えてもお前がDKから奪えるとは思えない」
「まぁ、そうですよね……」
ふふ、と笑ってしまう。
「まぁそれは、この事件が終わった後に証明されますよ。あなたが何も手を加えずとも、簡単に」
「何もしなくても……?」
「またこれを換金して、貧しい方達の助けになるよう救いの手を差し伸べます。そうすれば嫌でも耳に入るでしょう? まあ勿論、これが偽物だったらそれも出来ませんけど……」
この宝石が本物ならば、正当な価格で換金され、その多くが寄付される。
そのニュースが広まれば、自然と今持っている宝石が本物であると証明されるだろう。
そうこうしている間に、多くの警官たちが2階に上がってきて、ダークに銃を向ける。
ひかるは回りを見渡して、わざと大きな溜め息をついた。
「やれやれ、物騒ですね」
「貴様が物騒だ。何だそのガスマスクは!」
2階にいる松浦が怒鳴った。
「さあ……なんでしょうね? おっと、防犯ネットなんて小癪な物は使わないでくださいよ。私を怒らせたら大変です。ここは海の上ですから、あなた方も逃げ場はありませんからね」
警官達は、その言葉に身構えた。
「さぁて、そろそろおいとましましょうか」
ひかるは青山を見下ろしていた吹き抜けの手すりから、一歩身を引いた。
足首を回して準備運動をし始める。
「おいおい……、この包囲網の中をどうやって抜ける気だよ」
「それは今から、見ててください」
すぐ側にいる2階の警官達さえ撒いて仕舞えば、1階にいる青山達との距離はかなり開く。
それこそ、初回のダークの時以上に。
余裕だ。
「じゃあ、ここからが真剣勝負ですよ!」
ひかるは素早く懐から催涙ガスが入った瓶を取り出し、それを地面に叩き割った。
勢いよくガスが噴出し、周りを囲んでいた松浦や警官たちがむせ始める。
ガスマスクをつけたひかるは、その警官たちを縫うようにすり抜け、2階の出口から会場を出た。
そしてすぐに甲板に続く廊下へ出る。
2階の警官たちは追って来れず、1階の青山たちもここに来るまで時間がかかる為、まだこの廊下には誰もいない。
「……どうしよう、誰もいないけど。待った方がいいかな」
「ボクはもう準備出来てるヨ?」
タカは少し考えて言った。
「ひかる、余裕か?」
「うん。前回の時よりも」
「なら、せっかく閃光弾を持って来たんだ。わざと追いつかれて、またお前の足の速さを見せつけてやればいい」
「いいね。分かった」
――このタカの言葉……判断が、後のひかるの運命を変えようとは。
数秒の後、青山や警官たちがひかるの前に姿を現した。
青山は、ひかるが待っていたことにびっくりした様だ。
そうしてその後に、ニヤリと笑って言う。
「ダーク。油断大敵だぞ。もしかしたら、お前の計画がどっかで狂う可能性だってあんだぞ」
「……」
ひかるも負けじとニコリと歯を見せて、手招きする。
そして青山たちに背を向け走り出した。
「ひかる! イイ? デッキ(甲板)の一番先端だヨ。絶対一度確認してから飛んでネ。後ろから刑事が来ててモ!」
「大丈夫、もう何回もイメトレして来たから」
ひかるは加速して、青山たちとの距離を広げる。
船内の廊下でダークと刑事たちの追いかけっこは続く。
前回鷲尾邸の室内でも遠慮なく光線銃を撃った青山は、今回拳銃を構えてもいない。曲がり角が多いからだらう。
ひかるはホッとして甲板へ急ぐ。
外へ出ると、真夏の正午の太陽が全身黒のひかるにふりかかる。
甲板はカフェテラス。
ひかるは目的のポイントに、障害物を避けながら走る。
余裕とは言ったものの、息はもう切れ切れで、汗はびっしょり。
あと少し。あと少しで帰れる。
……そう思った、甲板の先端まで後3歩ほどというところだった。
ジュ……ッ
何かが焦げる音がした、と思った瞬間に、右足のふくらはぎに感じたことの無い激痛が走った。
「う……ッ」
思わず呻き声が漏れた。
ひかるは勢いだけで3歩分前進し、甲板の先端の手すりに寄り掛かった。
何? 何で? 何が起こった?
熱い、熱い……ッ!!
「ひかる……?」
タカたちは、ひかるの一瞬の呻き声を聞き逃さなかった。
船の監視カメラをまさかりさんがハッキングし、甲板の様子は皆の端末で見れるようになっていた。
手すりに掴まって動かないひかるの異変に、タカも気付いたようだ。
「おい、どうした?」
「……っ!!」
「ひかる……!?」
「取り押さえろッ!!」
青山の叫びと共に、警官がひかるの元へ全力で駆け出す。
「はぁ……ッ、はぁ……っ」
――やばい。痛い、熱い、どうしよう、次は、何だっけ……?
逃走完了までもう一息のところで、万事休すか。
背後から迫って来る大勢の警官たちと、右足の強烈な痛みのせいで、
ひかるは頭が真っ白になった。
「おいひかる! 閃光弾だ!! 何してるっ? 捕まるぞ!?」
「……あ……っ」
タカがこれまでにない程、大声で叫んだ。
はっとして我にかえる。
ひかるは真下の海を一瞥する。
エリンギが乗る逃走用の潜水艇が、口を開けて待っていた。
ひかるはポケットから閃光弾を出し、スイッチを入れて警官たちの方に放り投げた。
そしてすぐさま甲板の手すりに、最後の力を振り絞って乗り上げ、真下の潜水艇の口へ身を投げた。
すぐ上空で閃光が煌めく。
空中で、シルクハットが風に流された。
ひかるは潜水艇の中に用意されたクッションに着地した。
「うぅ……ッ」
その衝撃で撃たれた右足が悲鳴をあげる。
「行くヨひかる!」
エリンギが叫ぶと、潜水艇のフタは自動で閉まり、そのまま潜水する。
「エリンギっ、エリンギッ!!」
ひかるは右足を抱えて絶叫した。
エリンギは操縦をオートモードにすると、すぐさまひかるに駆け寄った。
「ひか……ッ!?」
エリンギはひかるの足と表情を見て、絶句した。
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