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2nd DARK
第35話 2nd DARK inside ④
しおりを挟む「……中林」
「っあ、はいっ」
「合言葉は?」
無線で2人の会話が聞こえる。
「……はは、すみません。忘れました」
無線を聞いていた他の3人も、異変に気付いたようだ。
「タカ、なんかじーさん大丈夫?」
「大丈夫だ、余計な心配はするな」
「でも……」
当然、この会話はじーさんの無線にも届く。
よってじーさんの不安を煽り、ただでさえ不安定な青山との会話で、ボロを出させる発言をする訳にはいかない。
俺は消火器の前で思考する。
直にじーさんの正体はバレるだろう。
かと言って3階の俺たちの部屋に催眠スプレーを取りに行ってる間に、状況は大幅に変わるかもしれない。
青山が一人の今しかチャンスはない。
……強行手段だ。
俺は消火器を手に取った。なかなかの重量感。
「じーさん、これから俺は再び青山にバレない様に部屋に入る。じーさんは不自然に目線を動かしたりしない様に、会話に集中していろ」
じーさんは返事をせずに、青山に言った。
「あの、そろそろいいでしょうか」
「その前に、中林」
「……はい」
「ちょっと両手を見せてみろ」
「は?」
俺はカードキーを差し込むと、静かにかつ慎重に、扉を開く。
青山は俺が立っている扉側を背に、じーさんと向き合っている。
次の瞬間、青山がじーさんの左腕を掴み、素早く手錠を掛けた。
「な!? 何をするんですか!」
「もうそのクサい演技はやめろ、DK。部下の見分けくらい簡単につくんだよ。人間てのは個々に口癖があるもんだ」
「っ……、口癖か……」
そうか。口癖か。
じーさんの変装は完璧だった。
少しホッとした。原因はそこじゃなかった。
俺は息を殺して、一歩ずつ青山の背後に迫る。
「ダイヤはどうした? それと本物の中林と萩本はどこだ。生きてるんだろうな!」
青山の背後に立った。
青山は興奮してるためか、馬鹿なことに俺に気付いていない。
「……青山さん、何を言って」
消火器を持ち上げる。
「しらを切っても無駄だからな! 諦めろ、俺の勝ちなんだよ。お前の相方もな、すぐに見つけ出して捕まえてや――」
俺はそれを、青山の後頭部に振り下ろした。
……物凄く、嫌な感触だった。
青山はそのまま突っ伏し気絶した。
……死んでないよな。殺してしまったら、俺はもう親父の墓前に顔向け出来ない。
「タカ……、すまん。ほんとに」
俺は、青山の首元に手を置いて脈をとった。
……生きてる。後頭部から出血もない。
俺は心底ホッとして息を吐いた。
その後奴の身ぐるみからじーさんの手錠の鍵を探す。
「口癖は想定外だ。……じーさんのミスじゃない」
「……」
俺は鍵を見つけると、じーさんの手錠を取った。
青山が付けている腕時計が目に入った。
「中林たちが目覚める頃かもしれない。急いで部屋に戻るぞ」
「分かった」
◆
けいは今、警官から聴取されている。
俺とじーさんは部屋に戻り、再び安藤秀雄・太一に変装する。
その間に、安藤秀雄を呼ぶアナウンスが流れた。早々に迎えに行かねばならない。
「……ひかる。作戦に少々支障が生じた」
「え?」
「青山を気絶させた。ダークの登場までに間に合うか分からない。青山が会場に現れなくても気にせずにダークを演じろ」
「……うん。分かった」
「じゃあ、予定通りに、今から」
先に変装が終わった俺は、先程奪ったネックレスケースを持って部屋を出た。
少しゆっくりと、誰もいない廊下を歩く。
前方の扉から、新田修が松葉杖をついて現れた。
すれ違い際に、ネックレスケースをひかるの服のポケットに滑り込ませる。
俺はそのまま便所へ向かい、新田はまたすぐに自分の部屋に入った。
◆
「うわ……、きれい……」
タカからネックレスケースを受け取り、ひかるは部屋でピンクダイヤモンドをうっとりと眺めていた。
「触るなよ」
「わ、分かってるよそんなこと……。でも一回つけてみたいって、そりゃ思うでしょ」
「…………」
……謎の沈黙。
タカが呆れて言った。
「……それ、どう見ても女ものだろ気色悪い。男のお前はあげる立場だろ」
「!!」
──し、しまったぁ!!
「あ、当たり前じゃん! つけてみたいって、言うのは、だから……、うん。かか、彼女につけさせてみたいって意味だよ。うん」
「ひかる、ダイジョウブ?」
「う、うん……」
ひかるは熱くなった顔を手で仰いだ。
今回、宝石のレプリカが使えないのは訳がある。
鷲尾のブログには“ピンクダイヤモンド”としか書かれていなかった。
そのためその宝石の形状が、ネックレスかイヤリングかブレスレットか……、分からなかったから、レプリカを作りようがなかったのだ。
よってダークが宝石を持っていると見せかけるには、タカから宝石を預かって、青山たちに見せびらかす必要があったのだ。
無線から聞こえてくる声の様子から、警察に聴取を受けていたけいは、タカたちと無事に合流出来たらしい。
ひかるは腕時計を見る。
【正午10分前】
「じゃあ、そろそろ用意するよ」
「エリンギもそろそろだ」
「ボクはいつでもいいヨ」
ひかる──新田は大きなリュックを背負って、松葉杖をついて部屋を出る。
自分の部屋がある3階からエレベーターを使って2階に下り、そのままバイキング会場に一番近い手洗いに入る。
個室に入り、リュックからタキシードとその他諸々を出してダークの姿へ。
ひかるは松葉杖の先端の、滑り止めのゴムを引き抜いた。
松葉杖は空洞になっていて、中から出て来たのは閃光弾。
そう。最初のネジ作戦だ。
金属検査機は松葉杖の中身と外側のネジの両方に反応しただろうが、検査官はネジのみと勘違いしたのだ。
この作戦は細長い閃光弾だからこそ成功したのであって、拳銃は不可能だった(松葉杖に入らないから)。
【正午】
「12時なったネ」
「あと3分待て」
「うわ、この時間がやだなぁ……」
ひかるは正午を過ぎても、手洗いの個室の中で待機していた。
決して予告時間に遅れている訳ではない。
ダークは本物の宝石の元へ現れる……、つまり、今DKから宝石を盗んでいる時間だ。
その時間を考慮して、敢えてダーク出没の時間をずらすのだ。
タカは何度もひかるに無線を入れる。
「閃光弾を使うのを忘れるなよ。逃走手段がバレれば追われるからな」
「分かってる」
「甲板から飛び降りる時は、一度確認してから飛べよ」
「うん」
「船内の逃走経路も把握出来てるな」
「タカ、そんな心配することないよ。前回も成功したし。おれはタカを信じてるから」
「……緊張してないのか?」
「してないよ、前回の追いかけっこはおれの圧勝だったから。今日も負ける気がしない」
「……そうか。流石だな」
……流石だな?
「え、今、タカおれの事褒めた!?」
「は?」
「褒めタ! さすがって言っタ!」
「うぉおおお! どうした高英!? 人の事お前が褒めるなんて気色悪いぞ!」
「褒めてない!」
ひかるはニマニマが抑えきれずに、胸の前でガッツポーズを作る。
「タカ、ありがとう! おれ本当に頑張るから! 日本記録更新する勢いで走るから!」
「だから! 褒めてないって言ってるだろ!」
タカのしどろもどろする顔が浮かんで、ひかるはその顔を見たかったと、悔しく思った。
……そろそろ時間だ。
「行ってくるよ」
「がんばっテひかる!」
「ひかるなら大丈夫じゃ。今日も上手くいくじゃろ」
「青山達にぶちかましてやれ!」
「ひかるがんばってね~」
ひかるは手洗いから、誰にも見られていないことを確認して出た。
そしてバイキング会場まで一気に駆け抜ける。
「ダークだ!」
一般客はダーク出没の時間、バイキング会場の入場を禁止されている。
しかしダークを一目見ようと、会場の扉の前には多くの野次馬が。意外にも黄色い歓声が上がる。
「みなさーん、通してください。ちょっと危ないですよ」
と、ひかるはガスマスクを野次馬たちに見せびらかせながら歩くと、皆何事かとおののき道を開ける。
警官数人が開場の前の扉を立ち塞いだ。
彼らはひかるに銃口を向ける。
「動くな怪盗!」
「撃つのはやめた方がいいですよ」
ひかるは一般客に見えないように、懐の拳銃をチラつかせた。
……これはプラスチック製のレプリカだけど。
「ここで銃撃にでもなれば被害は避けられないでしょう。穏便に、入れていただけますか」
警官たちは銃を降ろし、道を開けた。
そしてダーク──ひかるはバイキング会場へ入った。
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