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2nd DARK
第34話 2nd DARK inside ③
しおりを挟む人質 (けい)を解放せずにそのまま後退し始めた俺達に、青山は怒鳴って言う。
「おい待て、約束が違うだろっ! 人質を解放しろ!」
「それは我々の安全が確立されてからだ。お前も下がれ、さもなければ撃つ」
俺は銃を青山に向けた。
しかし青山は動じた気配を感じさせなかった。
「そんなオモチャの銃じゃ脅しにもなんねぇよ!」
「……玩具?」
「オモチャだよ! あれだけ漏れなく金属検査をしたんだ! それが本物の訳がない!」
わずかにほくそ笑む青山。
……残念。青山、お前に少し、期待外れ。
「あんたは、この俺を馬鹿にしているのか?」
「……は?」
怪訝な顔をする青山。
あんたの弱点は、自信過剰なことだ。
自分のペースになったと思ったらすぐ余裕綽々となる。
だからダークを捕まえられないんだよ。
「試し撃ちしてやろうか?」
「な……」
「あんたがいい? それとも鷲尾か? あの餓鬼か? 賭けの対象だよ。これが本物ならその人間は死ぬ」
「……!」
唇を噛んで俺を睨む青山。
俺が憎むべきは鷲尾だけではない。
鷲尾に加担し俺を失意のどん底に落とした、お前ら警察もだ。
正義面をして俺の前に立ちはだかるな。偽善者め。
「嘘だよ。俺が殺したいのはダークだけだ」
俺は銃口を天井に向けて、発砲した。
「きゃーッ!」
客の悲鳴が響き渡る。
銃口から光線が飛び出し、天井のシャンデリアを割ったのだ。
当然この銃は萩本のだから、本物だ。
青山の間抜けな顔が、目に焼き付いた。
──その瞬間、ほんのわずか、得体の知れない快感が胸を突き上げる。
一瞬の勝利感が、俺の中に熱を宿す。
権力を嘲笑う、この瞬間。
俺を押し潰した“絶対”を覆す、この快感。
あの時権力に屈服するしかなかった俺が、今コイツらと対等以上の闘いをしている事に、高揚感を覚えていた。
「行け」
今度こそじーさんは人質を連れたまま会場を去り、俺もそれに続く。
青山や他の私服警官も銃を構え、少し距離を開けて俺たちの後を追う。
無線から、場にいないまさかりさんとエリンギの呑気な会話が聞こえる。
「しっかし、よくそこまでダークに演じられるよな。ま、高英の性格の悪さが滲み出てて、適任だったって訳だな」
「まさかりさん、褒め言葉ニなってないヨ。あと“ダーク”って言葉使うとややこしいヨ」
「今のはけなしたんだぜ?」
「ウン、まあでも確かにタカ演技上手いよネ。ボクもDKが憎くてしょうがないヨ」
「ちょっと2人とも、今は黙っててあげてよ」
ひかるの言う通り、まだ終わってないんだぞこっちは。
本当に黙れあのバカ2人は。
俺たちは会場を出た後、階段を使い2階へ上がり始める。
俺とじーさんは背中合わせに前進する。
俺はじーさんの背中を頼りに後退しながら、後ろの青山たちに銃を向け進む。
そして計画通り、じーさんは203号室の扉をマスターキーで開き、けいを連れて入室する。
「嫌だぁぁ! 助けて、助けて!」
けいは想像以上に上手くやってくれている。
最後に俺もスキが出来ない様注意しながら入室した。
扉を閉めると、ぱたりと外の音が遮られた。
するとけいはピタリと泣くのをやめて、ケロリとして言った。
「ふぅ……。おれ、こんなに泣き真似して疲れたの初めてだなぁ」
「急げ、時間がない」
俺はベランダの避難口を開け、はしごを下ろす。
俺とじーさんは素早くはしごを使って階下の103号室へ降り、鍵を開けておいた窓から室内に入ると、DKの仮面やローブをはぎ取った。
そして俺は、DK出没の前に予め置いておいた鞄を開く。
中にはロープと、大きな石が入っている。
鞄の中からロープだけを出し、2人分の仮面とローブ、拳銃を詰め込んだ。
客室の窓を開け、俺は鞄を外へ放り投げた。
すぐ下は海。鞄は水しぶきを上げて落ち、中に入った石が重しとなって沈んでいった。
「あーあ……、もったいないなぁ」
けいはゆっくりとはしごを降りてくる途中だった。
「やるぞじーさん」
「おぉ。頼むぞ」
顔も服装も完全に中林と化したじーさんを床に寝かせ、萩本である俺がロープで縛り上げる。
そして俺自身も縛らなければならないのだが……、どう考えても自力では不可能。
「けい、特訓の成果を見せろ」
「ラジャーっ!!」
準備期間中、けいにはこの練習をさせていた。
素早く、かつ正確に縛る練習を。
涙目のままなけいだったが、作業中は真剣そのもの。
青山たちが管理室に行って部屋のキーを取って帰って来るまで、およそ1分半だと見積もっていたが。
間に合うか……。
◆
ドタバタと103号室の扉を開けたのは、青山と数人の警官。
同時に他の警官たちは、上の203号室の扉を開けたらしい。
青山が最初に見た光景は、縛られ気絶している(フリの)中林(じーさん)と萩本(俺)に、部屋の隅で震える人質。
青山は上の警官たちを下に呼び、俺たちの縄を解き始めた。
「今日お前らを一回も見てないと思ったら……、DKにやられたのか」
「そうです。すみません」
一応、謝っておく。
上司と部下の関係だから、話し方はこんなものか。
「中林はホントツイてないな。まさか前回と連チャンで狙われるなんてな。お前カモにされてんじゃねーか?」
「はは、そうかもしれないですね。すみません」
じーさんも特に普通な口調で話す。
……しかしその時青山がわずかに顔を曇らせたのを、俺は見逃さなかった。
すると、青山の上官らしき男がやって来る。
「……!?」
俺は一瞬、目を疑った。
見覚えのある顔だったからだ。
コイツ……、まさか。
ダークの捜査に携わっていたとは。よく覚えている。
確か名前は、松浦。
「青山、DKの捜索だ。オレは本部室へ戻る。中林と萩本は動けるか?」
「はい」
「松浦警部、DKはローブと仮面さえ取れば客に紛れてしまいます。監視カメラで奴らの行方を探すしか手はないかと」
「成程。そうだな」
松浦はけいと他の部下たちを引き連れて、部屋を出て行った。
残ったのは青山と俺とじーさん。
壁の時計は、11時28分を指していた。
「……まぁ、お前ら2人はちょっと残れ。DKに襲われた時の話を聞かせてくれ」
「突然催眠スプレーで眠らされて、気付いたらこの状況です。青山さん……、今どういう状況ですか? 拳銃を取られてしまいまして。すみません」
後で気づくとは思うが、辻褄が合うようにDKの拳銃の入手経路を説明しておく。
青山は手短に、先程バイキング会場で起こった事を説明した。
「そうですか……、あの男の子が人質に……」
まるで負い目を感じた様に、俯いてみる。
「いい。もう終わったことだ。それよりDKは、やはりこの部屋を通って逃げたのか」
「そうです。さっきの男の子を連れて、あのはしごを降りて来ました」
「そうか」
青山の視線が一瞬、じーさんに行く。
「中林」
「え、はい」
「調子が悪かったら休めよ。勤務中とはいえ、被害者になってしまったんだから」
「……いえ。大丈夫です」
再び訝しい顔でじーさんを見る青山。
まさか。やっぱり。
俺はまだいい、じーさんは……勘付かれたか?
いや、じーさんがバレるなら自然に俺も……。
「萩本」
「はい」
「お前はもう行っていいぞ。やばかったら休め」
「……はい」
背中を冷たい汗が伝った。
わざと、だ。
俺とじーさんを引き離したのは、間違いなく意図的。
青山は、じーさんに違和感を抱いた。
それも、確信に近いレベルで。
側から見ればじーさんの変装は完璧だと思ったのだが。
やはり日頃から行動を共にしている上司と部下の関係性なら、見破られるか。
計画は崩れていない。まだ立て直せる。
だが、――焦ってるのは間違いなく俺だ。
ここで気を緩めたら、青山に全てひっくり返される。
……落ち着け。冷静に、計画通りに。
俺は部屋を出て、辺りを見渡す。
廊下に、赤い消火器が設置されている。
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