怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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2nd DARK

第33話 2nd DARK inside ②

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 俺は一人、先程中林たちの服を入れたのとは違う鞄を持って再び部屋を出る。

 階段を降り、辿り着いたのは103号室。
 俺は予めまさかりさんに作ってもらっていたマスターキーを差し込んだ。

 誰もいない。当然。
 ここと203号室は予め俺が、新田(=ひかる)や安藤(=俺やじーさん)とは違う名で取った部屋なのだ。

 俺は持って来た鞄を部屋の隅へ置き、ベランダの窓の鍵を開けておき、直ぐさま退出する。

 そのまま俺が手ぶらで向かったのは、バイキング会場に一番近い一階の手洗い。
 その中の一番広いバリアフリーの個室には、既に中林の顔のじーさんと、安藤健太――けいが待っていた。

「準備出来た」

「おい高英、マスターキーは開いたか?」

 無線はまさかりさんからだ。

「大丈夫だ、今の所作戦通り」

「んだよ、ちゃんと報告しろよ。心配したじゃねーか」

 はぁ、と息を吐くまさかりさん。

「一々聞いてくるな、あんたは自分の腕を信じちゃいないのか?」

「あぁ? んなもん、信じなきゃやってらんないだろ」

「じゃあ心配する必要ないだろ」

「は? お前だって都度状況を報告しろって言ってくるじゃねーか」

「俺は司令塔だから、全体を把握する必要があるんだよ」

「お前だけじゃなくて全員で共有すればいーだろ!」

「タカ、まさかり。今喧嘩はやめんさい」

 じーさんに嗜められ、俺はため息を吐く。

 俺はじーさんが持って来ていた、先程奪った萩本の服を着る。
 さらにその上からDKの黒いローブを羽織る。これで萩本の服は隠れる。
 そして萩本が携えていた拳銃を持って、仮面を被った。

「すごーい。かっこいいーっ!」

 DKの姿となった俺とじーさんを見て、けいが目を輝かせてこちらを見上げていた。

「けい、本当に泣けるんだろうな」

「任せて! 小学校の劇でおれいつも褒められてるから!」

「タカ、青山刑事が会場出ようとしてる!」

 無線からひかるの焦った声。

「……とっとと行くか」

 個室の扉を少し開け、便所に誰もいないことを確認してから、俺たちは早足で歩き出した。

 けいは人質役になる。

 人質役があって良かった。
 勿論一般客を人質にとる事も出来たが、事件の後大きな心的外傷が残るだろう。
 無関係の人間を巻き込む訳にはいかない。

 DKに扮したじーさんはけいの首に腕を回すと、優しく囁いた。

「けい、痛かったら言うんじゃぞ」

「大丈夫だよ。でも痛くなくても、思いっきり泣くからね」

 3人は俺を先頭に、バイキング会場へと続く廊下を闊歩する。
 俺が拳銃を天井に向けているのを見るなり、回りの客は口々に悲鳴をあげ、逃げて行く。

 けいは嗚咽混じりに泣き出した。
 想像以上の、迫真の演技だ。

 先頭の俺は会場の扉を思い切り蹴って開けた。
 驚いた客は、一瞬俺に注目する。

「下がれ。変に動こうとする奴は殺す」

 高々と天井に向けられた拳銃を見るなり、客たちは悲鳴をあげ俺たちから遠ざかる。

 俺の位置からは、客たちの層で桜色の宝のショーケースは確認出来なかった。

「鷲尾敏郎! 我々はDKだ。この会場にいるんだろ? 出て来なければこの餓鬼の頭が飛ぶぞ」

 俺たちDKの目的は鷲尾。

 当然本物の桜色の宝がどこにあるかなんて、分からない。
 ならば本人から聞き出すのが一番、手っ取り早いという訳だ。

「私だ。その子を直ちに解放しなさい」

 鷲尾は人混みの中からすぐに現れた。
 さすが……とは言いたくないが、この状況の割には堂々としている。

 俺は鷲尾に銃口を向けた。

 このシチュエーション、“12月の国会事件”を思い出す。
 親父は、鷲尾に銃口を向けても撃つことが出来なかった。

 体裁を繕って繕って、親父を踏み台にして生きてきた男。
 本当は、今すぐにでも地獄に突き落としたい。

 ただし俺がこの男に与えたいのは死ではなく、事件の真相を語り懺悔させる事だ。

 俺の目的は

 ……今はまだ耐えるべき時。感情は抑えろ。

「賢明な判断だ。ダークが予告した“桜色の宝”を渡せ」

「……そこのケースにあるではないか」

 鷲尾が指差したのは、会場の中央に置かれた偽物の“桜色の宝”が入った、透明なケース。

 ……あれはどう考えても偽物だろうが……。

「ケースに鍵が掛かっているんじゃないか? それをよこせと言っているんだ」

「……では、この鍵とその子を交換だ」

「こちらに貴様の要求を聞く道理はない。早く渡せ。さもなくば……」

 俺は、引き金に指を掛けた。

「わ、分かった。撃つな。受け取りなさい」

 鷲尾は鍵を放った。
 受け取った俺は、すぐさま宝石のケースの錠を開ける。

 成程、桜色の宝はネックレスか。
 ブログの記事だけではそこまでは分からなかった。
 ──つまり前回と違い、今回の作戦ではこちらでレプリカの用意はしていない。

 もちろん、これが本物かどうかは見た目では判別できない。

「さて、これが本物か偽物かなのだが。わざわざこんなわかりやすいところに、本物を置くとは到底思えない」

 俺は懐から、ボールペンのようなものを取り出した。

「それは……?」

「ペンシルタイプのダイヤの鑑定器だ。先端を数秒当てるだけで、結晶構造・熱伝導・屈折率を一瞬でスキャンし、本物のダイヤか判別できる」

「!?」

 当然これは非金属ではない。
 だがペンシルタイプなのが幸いし、他の文房具類と混ぜた事で上手く検査をすり抜けることが出来た。

「さぁよく見てろ。もしこれが偽物だった場合、このガキの命はない」

 俺は、鷲尾に見せびらかすようにゆっくりと鑑定器をダイヤに当てようとする。

「待て!」

 ――声が飛び込んできた。
 鷲尾の声ではない。
 俺は反射的に首だけ声の主の方へ向けた。

 ……青山春樹。
 彼は強い眼差しで俺を見据えていた。

「本物の“桜色の宝”は、俺が持っている」

「何?」

 成程。本物を持っていれば、確実にダークと対峙出来ると考えた訳だ。
 そして俺たちDKの目的も、(建前上は)同じだ。

 だが鷲尾が本当に青山に本物を渡したのか……それは分からない。

 俺は青山の発言直後の、鷲尾の表情を窺った。
 ……が、表情一つ変えなかった。

 手強いな。
 さすが、その話術で世間を味方につけた男だ。

「俺は警察の者だ。ダークから宝石を守るため預かっている」

「……成程。ならばそれを渡してもらおうか」

「渡したら直ぐに人質を解放すると約束しろ」

「それが本物ならな」

 青山はネックレスケースを俺に投げ渡した。
 俺は片手でそれを受け取り、ケースを開いて中を確認する。
 そしてすぐさま2つの宝石に鑑定器を当てた。

 俺は失笑した。
 やはり、予想通り。鑑定器は赤く発光した。

「どちらもレプリカだな」

「!?」

 俺は鷲尾を見た。鷲尾の目が泳いでいる。

「抜かったな鷲尾。今お前はこの少年の命と宝石を天秤にかけて、リスクがあるにも関らず偽物を渡したな。子どもの命より金を取ったんだ」

「……」

「呆れるだろうな、国民は。たった一人の子どもの命すら守れない総理大臣なぞ――」

「分かった。これが本物だ……。投げないぞ」

 鷲尾は懐から出したネックレスケースを床に置いて、少し下がった。
 受け取った俺はそれにも鑑定器を当てる。
 青く発光したことで、俺はニヤリと笑って、銃口を下げた。

「引くぞ」

「うわぁぁん!」

 じーさんは人質 (けい)を解放せずに、そのまま後退して会場の出口に向かう。
 俺も銃を構えたままそれに続く。
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