怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Injury

第40話 静かな亀裂

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◆◇◆

 
 2073年7月20日
 ダーク事件から3日後

 警視庁

 貧困者支援団体に、怪盗ダークから7,000万円の寄付金が届く。
 よってダークの生存が確認されたと同時に、確かにあの時宝石をDKから盗んだことが証明された。

 ダークの生存には青山も他の皆もホッとしていたが、特に中林は涙目になって喜んでいた。

「青山さん! 帰って来ました!」

 萩本が息を切らして、青山に言った。

「新田ですが、やはりシロでしたね……。アリバイも取れましたし、何より右足に撃たれた痕跡もありませんでした」

「まぁ、ダークが名前を残す様なミスをするなんて思えないしな」

 萩本は直接、新田に会って来たのだ。

 新田修《にったおさむ》、21歳。
 あの日乗船した客の中で、

 バイキング会場の近くの2階トイレに、当時新田が持って乗船した私物――松葉杖や上着等が放置されていた。
 しかし直接ダークに繋がる手掛かりは見つからなかった。

 こうして分かったことと言えば、DKだけでなくダークも、変装出来るということだ。

 そしてDKについて――。

 奴等は下船した客の中に入っているハズだ。しかし下船時も念入りな手荷物チェックをしたにも関わらず、何も手掛かりを得ることが出来なかった。
 下船しなかった客は新田1人なので、ダークがDKを海に突き落としたとか、そういうことはなさそうだが……。

 それにDKも、変装出来るのだ。
 ダーク同様、実在する人物の名と姿を借りて乗船していた可能性も……。

「青山さん! 帰って来たっっす!」

 わざわざ大声で青山を呼ぶ中林。
 ダークが無事と分かってから、打って変わって機嫌が良いのだ。
 ……正直、青山にとっては鬱陶しかったが。

「安藤一家は……シロクロ! モノトォンでっす!」

「は? 分かんねーってことか?」

「いやいや、両方ってことっす」

 あの日下船前に、安藤秀雄に連絡先を聞いたのだが、どうにもそれが繋がらない。
 だから中林には、住所を調べて直接会いに行かせた。

「安藤さんち3人とも、その日は乗船してないそうっす。ウラも取れたっす」

「乗ってないだあ!?」

 安藤健太が乗ってないならじゃあ、DKのあの事件は……幻覚?

 ……んなワケ、ない。

「……も、もしかして、この3人はDKとかじゃないすか?」

「……」

 その可能性は高いな。
 ダーク同様、実在する人物の名と姿を借りたのなら……。

「DKは秀雄と太一にしても……、じゃあ人質のチビは!?」

「……グルっすね」

「じゃああのDKの事件は……!」

「奴等が作り出した架空の事件、ですね」

 萩本がわざわざ追い討ちをかける様にまとめた。

 青山は両手で顔を覆った。
 鷲尾や警察はまんまとDKの策略にはまって、宝石を渡してしまった訳だ。

「やられましたね」

「やっちまったすね」

「皆で言うな他人事みたいに……」

 そうか、じゃああれは……。

『誰が撃ったんです?』

 人質の高校生の兄が、青山を強く睨みつけながら撃った人間を聞いてきた。

 DKはダークを、自分らの手で殺したいと思っている。
 獲物を横取りされたと……、憤っていたのかもしれない。

 いやホントに、中林の名前出さなくてよかった。

「しかし本当に、どうやってダークは鷲尾さんのスケジュールの情報を得たんでしょうね……」

 萩本はPCの画面を見ながら、ぼんやり呟いた。

「あの日鷲尾さんがあの船に乗船するなんて、当時のに……」





 同日
 さくら号

「うわ~、マジか、やっべ~……」

 事件から3日後、ちょうどタカとじーさんが外出中の時に、まさかりさんが呟いた。
 ひかるが二段ベッドの下段から顔を覗かせる。

「何? どーしたの?」

「いや、ちょっと……、あまりにもやばすぎることが分かってしまった……」

「ナニ? 事件?」

 まさかりさんは、自分のノートパソコンと携帯を見比べていた。

 ひかるは絶対安静を村田に言われていたが、気になってまさかりさんの元へ這う。
 エリンギもやって来た。

「……聞きたい?」

「エエ? そこまで気にならせといて焦らス?」

「いや、あの……。なら、高英には絶対言うなよこのこと……。あ、じーさんにも。じーさんは正義感あるから、絶対アイツに言う」

「?」

 そう念を強く押してから、まさかりさんはノートパソコン指差す。

「これ……、この前のダークのネタになった、鷲尾のブログのページ」

「あー、うん」

「ダークの前日、高英が『何か怪しいから調べろ』って滅茶苦茶言って来やがったの覚えてるか?」

「うン。珍しくまさかりさんがタカを言い負かしたよネ」

「そうそれ。で、やっと宝石の換金だの何だの終わって落ち着いたから、調べてやったんだけどよ……」

 そこまで言って、まさかりさんは苦虫を噛み潰したように黙り込んだ。

「え、何?」

「そんなニ言いづらいこト……?」

「マジで、絶対高英には言うなよ」

「分かったって」

 まさかりさんは、ノートパソコンの画面を切り替えた。
 ひかるやエリンギには理解できない、プログラミング言語の羅列。

「……いや、全然わかんない」

「よーするにこのページは、オレのこのノートパソコンと、オレ達5人の携帯。この6台から以外は絶対にアクセスできねーようになってた……」

「……え?」

 まだイマイチ、ひかるとエリンギはピンと来てないようだ。

「だからもー! 察してくれー!」

「いヤ、全然分かんなイ」

「だから、ごにょごにょ……」

「早く言ってってば」

「いたっ」

 イライラし始めたひかるは、まさかりさんの腕を叩いた。

「おいお前! 絶対安静!」

「ハッキリ言ってよ。おれとエリンギは怒らないから」

「……だーかーら! この鷲尾のスケジュールは、オレ達5人以外は絶対に把握できなかった! そしてこれに従ったダークは……」

「アッ!」

「おれたちしかないって、特定される!」

「つまり……、どう考えてもこのページを作ったのは鷲尾サイドの人間だから……」

 段々と事の重要度が分かって来て、3人の顔に笑みが消えた。

「もう鷲尾には、ダークがどこのだれってことが、知れちゃってるワケ……」

「えぇぇぇ!?」

「エェェェ!?」

「いやーやられたなこりゃ……。相手はなかなか出来る。オレと同等くらいPC使えるな。まんまとトラップに引っ掛かったってことか……」

「い、いつ逮捕されてもおかしくないじゃン!」

 エリンギは涙声になってまさかりさんに言った。

「いや、たぶんそれは大丈夫だろ……」

「どこガ!?」

「だってもう、3日経つんだぜ? 捕まえる気あんなら鷲尾はとっくに捕まえてらぁ。オレたちが逃げる前に……」

「じゃあ、何デ?」

「さぁ……」

「さぁ、っテ……」

「駄目だよまさかりさん」

 ひかるが毅然として言った。

「尚更、タカに言わないと。もちろんじーさんにも」

「いや駄目! 絶対それはムリ!」

「何で!? こういう情報はみんなで共有しないと、絶対後で揉めるよ!」

「……ほら、お前らはオレを全然責めねーだろ?」

「え?」

「でも高英はちげぇんだよ! さもオレばかりが悪いように言ってくるし。自分が全部正しいとしか思ってねーし!」

「それは……」

「今回だって、オレが先延ばしにして調べなかった事を絶対責められるぜ!?
 大体オレは事前チェックとかあって、前日は何の準備もないアイツよりも忙しかったんだよ! アイツ何も出来ねーくせに、人を顎で使いやがって……!」

「それはそうかもしれなかったけど、でもそれは、まさかりさんしか出来ない事だったし……」

「じゃあもっと、人に頼む時は言い方あるだろ! アイツ自分がリーダーだって言うけどな! オレたちのことをコマとしか見てないぜ!?」

「そんな事ないよ!」

「人としてどうかしてる! 他人を尊重しようとか思い合おうとか、そんな気持ちのカケラもないクソ野郎だ!」

 ひかるは、心底悲しくなった。
 タカが本当は暖かく笑える人だと……過去を知るのはひかるだけだ。
 だけどタカが素性を隠している以上、それを語る事はできない。

「まさかりさん、タカの事誤解してるよ……」

「ひかるだって! お前が撃たれた後、アイツに一言でも『大丈夫か?』って言われたか!?」

「それは……」

「ひかる、それボクも、同じ事思ってタ……」

 エリンギも、まさかりさんに同調してボソボソと言う。

「ひかるが撃たれる前、青山刑事達を待てって言ったのハ、タカだヨ?」

「いや、あれはおれが余裕あるって言ったから……」

「でモ、ひかるに一言くらい謝罪の言葉があってもいいでショ……」

「……」

 何も言えなくなったひかるの肩を、まさかりさんが強く掴んだ。

「もう本当に嫌だ。頼むよひかる。これ以上火種を増やしたくないから黙っててくれ。オレもうアイツと喧嘩したくない。次はもう、手が出ちまう」

 まさかりさんは、少し涙目だった。

 確かに、ここ最近のタカは本当にまさかりさんの事鬱陶しく思ってる気がするし……。
 この事を言ってしまったら、修復できないくらいの喧嘩になる気もする……。

 ひかるは2人を説得することが出来なかった。
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