怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Crack

第62話 奴からの接触

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 捜査本部の会議室は、今日一番騒めいた。

「イエロージュエリーだと!?」

「イエロージュエリーと言えば、平野代表の弟が経営する……」

「ダークは反鷲尾勢力じゃなかったのか?」

 驚きを隠せない一同。
 青山も例外なく。

 ダークは初回の時に『鷲尾の破滅の時まで何度も現れる』と明言した筈だ。

 何故、狙いを変えた!?

 敵でありながら、密かにダークのその目的に共感していた青山は、ショックを受けた。

「コピーが、たった今届いたっす」

「画面に映せ中林」

 予告上を会議室のスクリーンに映す。
 紙の装飾や字体を見たら、確かにダークのものに間違いなさそうだった。







***********************************************



 聖夜の亥の正刻

 イエロージュエリー本店にて

 星色の宝石たちを頂きに参る



 怪盗DARK


***********************************************





 ショックを受けたとは言え、およそ5ヵ月ぶりの予告状に青山は感情が昂った。何度もその字を目で追う。

 松浦が問う。

「亥の正刻は……、青山君」

「午後10時です」

「聖夜とは……24か25どっちかな、青山君」

「24日、イブの方です」

「何故……、イエロージュエリーなんだ」

「……分かりません」

 その理由は一番青山だって知りたい。
 ダークが鷲尾を倒そうとするから多くの民衆はダークを指示していたのに、これじゃ期待を裏切ることになる。

 ますます奴の目的が分からなくなった。

「……して、“星色の宝石たち”とは何を指すのだろうか」

「星と言えば、黄色じゃないすか? 子供も大抵、星は黄色で塗りつぶすじゃないすか」

「いや、私の家のクリスマスツリーの天辺の星は確か銀色だったぞ」

「そんなこと言ったら何色でもありになるじゃないですか」

 皆が言い合っている中で、青山は一人懸命に頭を働かせていた。
 引っ掛かったのは“たち”という言葉。
 ……今までとは違い、奴は多数の宝石を盗むつもりらしい。

 色のことは、ただ単に星=黄色と考えていいのか?
 “金色=カネイロ≠キンイロ”だったように、頭を捻らせる必要があるのか……。

「松浦さん、一回目と同様日が落ちてからの犯行です。また照明が落とされては困るので、懐中電灯の所持と、人数分のガスマスクを」

「催涙ガス対策だな。分かってる」

 何としても、次はダークもDKも捕まえる。
 青山は強く拳を握った。





 ひかるが閉じ込められている小さな部屋は、ひっきりなしに昼と夜を繰り返していた。
 そして今日もまた、夜が訪れようとしていた。

 この10日間。ひたすら考えていた。

 一番はやっぱり、タカのことだった。
 有り余る程の時間で冷静に考えて、タカの不自然な言動に気づき始めた。

 ……おれの事が嫌いだったんなら、そもそもどうして自分の身の上話をしたんだろう?

 ひかるが知る限り、タカは国会事件の話をひかる以外には優輝にしかしていない筈だ。
 それは優輝が高成の事をよく知っていて、信頼しているから。それは分かる。

 じゃあ、自分に話したのは?

 タカはダークの本当の目的――注目を集めて国会事件の真相を世界中に流す、という事まで話した。
 これは一撃必殺、絶対に失敗できないと。
 だからそれまでこの思惑は、絶対に外部に知られてはならない。
 ダークの他3人にも言っていない、タカの中でトップシークレットの筈だ。

 ……本当に、どうして話してくれたんだろう……。

 違和感はもう一つ。
 3度目の作戦会議の時、じーさんが気づいた。

『ひかるを前線に出さんようにしとるのか?』

 アレも、やっぱりおかしい。

 タカは船のダークでひかるがしくじったから、代わりを自分がやると言った。
 だけどタカなら分かる筈だ。それこそ自分が捕まるリスクが上がって、ダークの成功率が下がると。

 ここまで来て、合理的なタカが敢えて成功率を下げるやり方を選択する意味が分からない。
 寧ろタカだったら……、おれの事を本当に嫌いだったら、おれを盾にして『やれ』って言いそうなのに。

 何で?

 ……まさか、またおれが撃たれないように庇ってくれてる……?

「はは……」

 なんて。自惚れも甚だしい。
『ストーカーまがいで気色悪い』ってはっきり言われたのに……。
 自分の都合の良いように、解釈しようとしてる。

 ……思い出したら、また泣きそうになってきた。

 ふと時計に目が行って、ニュースの時間になっていることに気付く。
 毎日ニュースだけは欠かさずに見ている。もちろん、ダークの情報を得るために。

 テレビをつけると、思わずあっと声が漏れた。

 ダークの予告状が届いたことを大々的に報じていたのだ。
 そしてその内容は、谷田貝の提示した条件に確かに当てはまっていた。
 野次馬対処が面倒なため、と、日時だけは非公開だったけど。

「……本当に、助けてくれるんだ」

 ……いや、信じていたけど。
 何だかすごくホッとして、胸が熱くなる。

 しかしひかるが助け出されても、ひかるはもうダークには戻れない。
 このダークが成功するということは、ひかるがいなくてもダークは出来ると証明されてしまう訳で……。

 タカの言う通り、本当にさくら号から出て行かないといけないかもしれない……。

 ――こうなったのも全部、おれが誘拐されたせいだ。
 一体みんなは、何のためにリスクを冒してまでおれを助ける必要があるんだろう……。

 申し訳ない気持ちもあるが、それとは裏腹にひかるは成功を祈る気持ちが大きかった。

 ダーク……、上手くいきますように……。





 2073年12月23日
 ダーク作戦前日

 さくら号

 予告状が世間に発表されてからは、ほとんどひっきりなしにダークのことを報じていた。

 そして今まで鷲尾を敵対視していたのにも関わらず、急に平野へ路線を変えたことには、誰もが驚き首を傾げた。
 ネット上ではダークの非難の言葉が容赦なく飛び交っている。そうして一部からは、こんな鋭い指摘も。

『ダークは既に、鷲尾の手の内ではないのか?』
『掌返しだ。失望した』
『鷲尾を敵に回すなんて無謀だった』と。

 ダークが一度目と二度目で得た期待と信頼が、崩れようとしている。
 ……もしかしたら、鷲尾の目的はここにあるのかもしれない。

 ダークを〝希望の象徴〟から、鷲尾への叛逆の〝失敗の象徴〟にする。

 俺がダークという象徴を使って注目を集めようとしているのを、逆手に取られたという訳だ。
 あのダークでさえも、鷲尾に逆らうことができなかったと。烏合の衆共の反骨精神を削ぐのだ。
 だから2度目のダークは、敢えて俺たちを泳がせ煌びやかに輝かせた。……期待から失望への落差を広げる為に。

 鷲尾は、まさにこういったプロパガンダ(情報操作)を上手く使ってのし上がった政治家だ。
 力でねじ伏せる前に、その気力から奪っていく。こうやって内からジワジワと心を蝕んで支配していくのが、鷲尾という男のやり口なのだ。
 ダークを単に逮捕するのではなく、その素材を活用する……。悔しいが、実に効率的でかつ経済的なやり方である。

 ――そして別の意味でダークの糸を引いていた、コンドルは……。

 ♪~

 珍しく、俺の携帯が鳴った。
 ひかるの顔が一瞬頭をよぎったが、メロディは着信ではなくメールの受信を知らせるものだった。

「……?」

 知らないアドレス。
 刹那、俺は驚愕する。

 immortal_condor@******.**.jp

 ――コンドル!?

 俺が自分のアドレスを記した紙を家の郵便受けに入れてから、約5ヵ月。
 平野狙いに変更したため、奴とコンタクトを取るのは絶望的だと思っていたが――。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 糸原高俊


 お前の2度の成果はワタシの想像を超えている
 本当に素晴らしい働きをしてくれたことに感謝している

 しかし今回の平野の件はワタシに対する挑発か?

 今まで接触しなかったことは謝ろう
 お前と向かい合って話がしたい

 27日の午後4時
 皇居前で落ち合おう


 CONDOR


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「来た……」

 この句読点の一切ない文章。間違いない。
 親父とやり取りしていた、国会事件の黒幕・コンドル本人だ。

 まさか、このタイミングで……。
 いや、このタイミングだから来たのだ。

 コンドルにもやはり、ダークの真意がわからない。
 放っておけば勝手に鷲尾政権を終わらせてくれるだろうと思っていたらしいが、そうはいかなくなった。

 ――しかし、直接対談か……。

 どうにか俺を脅して、ダークを自分の手中にしようという魂胆だろう。
 分かっていながら、自分から罠にはまるのもどうかと思うが。

 ……いや、皇居前なら人の目がある。
 連れ去られようものなら、警察沙汰にして逆に好都合だ。

 あと一歩でコンドルの尻尾が掴めるんだ。
 ここで引くわけにはいかない。

「タカ、準備出来たぞ」

 変装したじーさんとけいが立っている。
 前日だが、今回下準備が必要だった。2人はこれから出掛ける。

「じゃ、前日ってことで――」

「いつものやツ、やりますカ」

 和気藹々と円陣を組む4人の中に、俺はごく自然に含まれた。
 ……もう最初から抵抗するのも面倒になった。

 未だ気まずい雰囲気のまさかりさんとも肩を組んだが、彼は表情一つ変えなかった。

「次、誰だっけ?」

「えっト、じーさんかナ」

「あぁ、わしか」

 じーさんは少し考えて、息を吸った。

「行くぞ! ひかる助けるぞぉ!!」

「おーー!!」

「いヤー、珍しくシマったんじゃなイ?」

「……ん? 助ける??」

「次もじーさんにやってもらうか!」

「まじか、ほほ」

 けいが首を傾げていることは、俺しか気付いていなかった。

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