怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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3rd DARK

第63話 3rd DARK outside ①

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【Side : Police】


◆◇◆


 2073年12月24日
 午後8時45分

 イエロージュエリー本店・ショールーム
 警察の警備人数:100人。

【ダーク出没予告時間まで1時間15分】

 捜査員たちは、松浦を筆頭に配置の位置確認をしていた。
 同時に、イエロージュエリーの敷地について整理しておこう。

 建物は平屋だが円形で直径は約150メートル、天井は高い。
 また両隣りにはそれぞれ10階と15階建てのホテルが立っていて、比較的間隔は狭く窮屈な立地だ。

 まず正面玄関をくぐると、数十メートルにわたり廊下が伸びる。
 関係者以外の客はここを真っ直ぐに進む。

 そして廊下の果てにある大きな扉の奥には、巨大なショールームが広がっている。
 ショールームにはおびただしい数のショーケースがあり、その中に種類別に分けられた宝石が入っている。
 ネックレスや指輪等様々な形状のもの、値段が低いもの高いもの、様々である。

 尚ショーケースは鍵で開くようになっていて、ガラスは鈍器や熱(光線銃含む)ではそうそう割れない材質だ。

 ショールームの天井はドーム状で見上げる程高く、壁のほぼ一面がガラスで覆われている。
 そのため窓の開閉や掃除の利便上、壁に沿うように細い通路が設けられている。……分かりやすく言えば、学校の体育館のキャットウォークのような通路だ。
 つまり、この通路からはショールーム全体が見渡せる構造だ。

 ただしショールームとここの通路は直接繋がっておらず、作業員専用の通路を通る必要がある。

 イエロージュエリーの全ての宝石はこのショールームにあるのだ。
 ダークは必ず、この部屋に現れる。

 ショールームの前の廊下を右手に回ると、職員専用の廊下が続いている。
 廊下の先には事務室や社長室等があるが、イエロージュエリー内の大量の鍵を保管する“鍵庫”なるものも存在する。

 イエロージュエリーの全ての扉はオートロックシステムによって電子管理されているが、宝石が入っているショーケースだけは違う。現物の鍵以外でショーケースを開くことは出来ない。
 この部屋は、おびただしい数のショーケースの鍵が保管されている。そしてこの“鍵庫”には、8ケタのパスワードを打ち込まなければ入れない。

 非常口は全部で5つあるが、全て長い廊下の奥にある。
 数メートルおきにシャッターを閉められるようになっているが、これは防犯のため犯人を閉じ込めることが出来るシステムだ。

 イエロージュエリーは強固な防犯対策のおかげで、過去に窃盗の被害にあったことはない。

 今日はクリスマスイブ。
 宝石店にとって書き入れ時ではあったが、早めに閉店し社員は全員自宅待機。
 警察は一般人に日時の公開はしなかったため、野次馬の姿はない。

 世の中がクリスマスムード一色の中、ダークとの三度目の闘いが始まる。

「……広いな」

「そうっすね」

 広大なショールームと膨大な数のショーケースに、青山と中林はため息をついた。
 “星色の宝石たち”が何か分からない以上、ダークが何を狙ってくるのか検討もつかない。

「青山さん」

「ん?」

「……今回も、撃つんすか」

 中林が低い声で言った。
 前回ダークの足を撃ったことに、まだ負い目を感じているらしい。

「ケースバイケースだな。そもそも松浦が何か言わない限りは撃てないし。……分かってる、俺だって可能な限り撃ちたくない」

「そうっすよね……。てかダークも病上がりだし、足が遅くなってる可能性もあるっすよね。そうだったら絶対素手で捕まえましょ!」

 中林の口調は必死に訴えかける様だった。

「そんな甘っちょろい事は言ってられねーけど……。可能な限り、そうだな」

 ダークがそんな不完全な状態で現れるとは、到底思えないが。





 午後9時36分
【ダーク出没予告時間まで24分】

「青山君、松浦だ」

 松浦から無線。

「はい」

「喜べ、ご指名だ」

「は?」

「DKから」

「DK……!?」

 今回は予告時間まで平穏かと思いきや、ここで。

「どういうことですか」

「ここの警備会社にメールが届いたらしい。
『警備中の青山春樹警部補を、午後9時45分までに、武器を持たせず一人で“サファイアホテル”のロビーに行かせろ。さもなくばこのホテルを爆破する』と」

「“サファイアホテル”はここの隣の……、10階建ての方でしたよね」

「そうだな。行ってくれるな?」

 指名された喜びが半分、丸腰で一人で立ち向かわなければならないという不安が半分。
 しかし迷いなく、青山の正義が答えた。

「もちろん、行きます」

 無線を切ると、俺の隣にいた中林と萩本が不安そうな顔をしている。

「青山さん、本当に丸腰で行くんですか? 相手は絶対、銃を持ってますよ」

「そうっすよ、隠し持つだけでも違うっすよ」

「いや、もし持ってるのがバレてみろ。逆上されてそのまま爆破されたら困る。今日は普通に宿泊客がいるからな」

「……」

「それにわざわざあんな人が一杯いる場所だ。向こうもそうそう武器を出さないだろ」

「……そうですね」

 二人は食い下がることはしなかった。





 青山は、DKの指定する5分前にはロビーに着いた。

 宿泊客が普通にチラホラいる。
 DKは変装ができる。ローブを被っていない限り、青山は誰がDKか判別できない。

 ――しかし、DKが俺に何の用事があるのだろう。

 青山は椅子に腰掛けて、真剣に考え始めた。

 DKは今回もダークを殺しに来た筈だ。
 なのに15分前ギリギリに俺を呼び出すなんて――。

 ……まさか。

『誰が撃ったんです?』

 船の上で乗客に変装していた、DKの怒りの滲んだ言葉を思い出す。
 それを、今聞きに? 
 いや、もうそれは終わった話だと思うが……。

 松浦から無線が入った。

「青山、何かあったか」

「いえ、ロビーに不審物らしきものは見当たりませんが――」

 時計が45分を指した。

「DKらしき男も現れません」

 DKは青山の顔を知っている。
 ならば向こうからこっちに来ると思うが……。

「何かやれとか、指示は出てませんか」

「いや、何も……」

「松浦警部! 裏口Bの警備と連絡が途絶えました!」

「!?」

 無線の向こうから聞こえた声だった。
 裏口Bは確か、ショールームの窓を掃除するために取り付けられた通路──キャットウォークに直通する屋上の出入り口だ。

 ……嫌な予感。

「DKの可能性大だ。外にいる者は中に入って至急通路へ――」

「――!?」

「照明が落ちたぞ!? どうした!」

 ――照明が落ちた!?
 奴等のハッカーが、またセキュリティシステムを破ったのか!

「松浦警部! 皆が次々と倒れて──……ぐー……」

「何事だ!?」

 無線の混乱を聞きつつ、青山は迷わずサファイアホテルのロビーを飛び出した。
 訳がわからないが、青山を呼んでおいてDKは既にイエロージュエリー内にいる。

「取りあえず照明を回復しろ! DKは一体何を――」

 ガコン

 青山の無線から大きな音が聞こえた。

「警部! 正面出入口の扉がロックされましたっ」

「こちら非常口C!扉が突然閉じて開きません!」

「警部! 味方の半数以上が倒れてます! もしかしたらガスかも……」

「奴等、中の人間を全員眠らせる気です!」

「ガスマスクをつけろ! DKはどこにいる!?」

「上の通路です! 奴ら、ガスマスクを付けた人間には麻酔銃を上から……ぐー……」

「一部の者は通路に上がれ!  後は下から光線銃を撃て!」

「了解っ」

「行けーっ! 撃て!」

「――!」

「――!」

「――!?」

「……」

 青山がイエロージュエリーの入り口に辿り着く頃には、何も聞こえなくなった。
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