怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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3rd DARK

第64話 3rd DARK outside ②





 

 午後9時51分
【ダーク出没予告時間まで9分】

 青山がイエロージュエリーの正面玄関へ辿り着いた時には、既に中は閑散としていた。
 扉は、押しても引いてもびくともしない。

「松浦さん! 返事してくださいっ! 寝てる場合じゃないでしょうが!」

 イエロージュエリー中の扉という扉を押して引いてみるが、どこも固く閉ざされている。

「中林! 萩本! 誰でもいいから返事しろっ」

 無線は先程からずっと、沈黙したままだった。

「マジかよ……」

 ――終わった。俺一人でどうしろと?
 ダークとDK二人なんて、手に負える筈がない。

 それ以前に、このままイエロージュエリーの入口が封鎖されていればダークと対峙出来ないじゃないか。
 DKは無論、ダークももう中にいるだろう。警察がいない今、DKの思う壷だ。

 ダークを殺すまで、もしかしたらここに閉じ込めたままにするつもりなのかもしれない――。

「くそ……っ」

 ダークが殺されれば、全てが謎のまま終わってしまう。
 今日会えなければ、わざわざ家族団欒のクリスマスイブを投げ出して現場に来た意味がない。

「開けろよ!  開けろよDKっ! ふざけんな……、なんでそんなにダークを殺したいんだ!?」

 俺は拳を正面玄関の扉に叩き付けた。

 ガコン

 その時、機械音が響く。
 青山の願いが通じたのか……扉が開いた。

「……!」

 まさか、開くなんて……。
 ダーク出没3分前、ここで扉を開くなんて、DKに喧嘩を売られているに違いない。

 青山は中に足を踏み入れた。

 照明は回復していたものの、静けさが不気味な空気をかもし出していた。
 正面玄関からショールームまで辿り着くまでの廊下に、催眠ガスで眠らされたであろう何人もの味方が倒れていた。

 本当に、青山以外の警官は全滅らしい。
 応援は呼んだが、もう間に合わないだろう。

 生唾を飲み込んだ。
 自分が丸腰だったことに気が付いて、青山は倒れている味方から拳銃を拝借する。もはや麻酔銃では対抗する余地がない。

 青山は銃を構えながら、ショールームに足を踏み入れた。

「青山春樹」

「!」

 頭上から声がした。
 DKが青山の右側と左側に一人ずつ、頭上の窓開閉のためのキャットウォークに立っていた。
 距離は数十メートル離れている。

「DK……、ハデにやらかしてくれたな」

 左右に1人ずつ。どちらかに銃を向けても仕方ないので、青山はゆっくりと銃口を下ろした。

「まだ、これからが本番だ。奴を殺すという大事な仕事が」

「……どうしてわざわざ、俺だけ残した?」

 青山も眠らせてしまえば、DKにも都合がいいだろうに。
 右側のDKが喋り続ける。

「ダークの身体能力は並外れている。だからオレたちはダークを容易には殺せないと悟った……。そこでまだダークに対抗出来そうな貴様に、捕まえてもらおうと思っている」

「俺一人より人数が多い方が勝率が上がるだろうに」

「だが大人数では、たった二人だけのこちらに貴様らが従うとは思えない」

「……」

 それはそうだ。

 DKは壁の時計を一瞥する。
 ――あと30秒。

「ダークを今日こそ捕まえろ。そして身柄をこちらに引き渡せ。奴の処分はオレたちがやる」

「……!」

 当然、そんな要求を呑む訳にはいかない。
 しかし下手に出れば、こいつらは何をしでかすか分からない。

「……断る、と言ったら」

「人質の頭に風穴を開ける」

「人質……?」

 言いながら理解した。
 床の上に無防備に眠らされてる、味方の警官たち。

「本当に、物騒ですね」

「!」

 この声は、DKじゃない……!

「ダーク!」

 腕の電波時計を一瞥すると、ちょうど22時を回ったところだった。

 ダークは青山がいるショールームの正面入口ではなく、反対側に位置する職員入口から出て来た。
 青山・ダーク・DK2人は、ちょうどひし形を描くように立ち、青山はダークと一番遠い対角線にいる。

「人質を取るなんて卑怯ですね。必ず私が殺されなければならないじゃないですか」

「……よく、あの海に飛び込んで生きてたな」

「まぁ、私は怪盗ですから」

 ダークはほくそ笑んだ。

 そして青山は、ダークの声に違和感を感じていた。
 ダークは変装出来るため度々声も変えて来るだろうが、この声……。

 ダークは青山から見て、左の方へ歩き出した。
 青山も、ゆっくりダークに近づく。

 青山とダークの間にはたくさんのショーケースが置かれていて、真っ直ぐ向かうことは出来ない。

 DKはダークに銃口を向けた。

「……一つ、お聞きしたい」

 ダークは歩きながら言った。

「Dark Killer、俗にDKと呼ばれている貴方方は、何故そこまで私に固執するのかを知りたい」

「おぉ……、確かに俺もそこまでダークを殺したい理由を聞きたかった」

 というか、ダークはDKの動機を知らなかったのかよ。

「当然、貴様に対する恨みだ」

 口を開いたのは、また右側のDK。
 恨み……ね。ダークも鷲尾以外の人間から恨まれるのか。

「全くもって見当つきませんね。そもそも私は、貴方方の仮面の下を知りませんから」

「な……、知らなかったのか」

「オレたちのことより貴様だダーク。何故、ここに? 鷲尾を狙うんじゃなかったのか?」

「おぉ……、それも聞きたかった」

 ダークはあるショーケースの前で立ち止まって、悪戯っぽく笑った。
 右手はポケットの中にある。

「私のことより貴方だ、青山刑事。何故警察で貴方だけ立っているんですか?」

 カチッ

「!」

 ダークのすぐ横のショーケースが開いた。
 言いながら、ダークはポケットから鍵を出して開けていたのだった。

「くそっ……!」

 鍵庫の鍵をいつの間に盗んでいたのか……!?
 ダークは大きな袋に、ショーケースの中身をすくうようにして雑に宝石を押し込んでいく。

 青山はダークに向かって走りだし、DKは上からダークに向けて光線を放つ。
 2つの光線はダークに当たらなかった。

 そこら中に捜査員が倒れているのに……!

「馬鹿っ、撃つなDK!」

「ダークを捕まえろ青山春樹!」

「言われなくても……ッ」

 ダークが大きな袋を担いで走り出した頃には、青山との距離は数メートルまで縮まっていた。

 近い……!
 こんなにダークに接近出来たのは初めてかもしれない。

 その時DKがまた光線を撃ったが、明らかにおかしな方向に光線が飛んでいった。

「おい! 警官たちを撃つなよ!?」

 足元には人間が倒れているため、走りながらそっちにも気を取られ、必然的にスピードは落ちる。
 勿論、ダークも然り。

 ……いや、それだけじゃない。
 前回負った怪我のせいか、奴のそもそものスピードも落ちていた。

 ――まさか奴が不完全な状態で怪盗をするとは。
 いくらなんでも警察を舐めすぎじゃないか?

 青山とダークの距離はみるみる縮まっていく。

 これは……追いつける!

 ダークは宝石の入った袋を肩に担いだまま走り続け、逃げ道はどうやら非常口らしかった。
 ショールームから非常口までは数十メートルに渡り細長い廊下が続いている。
 ダークはその廊下に到達していた。

 ――チャンスだ!

「止まれ怪盗ぉぉぉ!」

 青山は壁のスイッチを押して、すぐに走り始めた。
 するとダークの前方のシャッターが突然上から閉まったのだ。

「……!?」

 行く手を塞がれたダークは足を止め、すぐさまこちらを振り返った。
 青山との距離およそ5メートル、その青山のすぐ後ろでまたシャッターが閉まった。

 廊下には窓も扉もない。
 シャッターは外からの操作でしか開かない。

 小さな密室が完成し、青山とダークは2人きりで閉じ込められた。


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