怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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3rd DARK

第65話 3rd DARK outside ③

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 シャッターとシャッターの間に閉じ込められた青山とダーク。

 青山は胸が高鳴っていた。
 今までダークと対峙する時は、必ず大勢のギャラリーがいた。

 だが今は初めて、一対一で話せる。
 鷲尾に対抗心を燃やし、自分と対立関係でありながら理念は近いかもしれないこの人物と、ずっと腹を割って話したかったのだ。

 青山は高揚を隠し切れず、喜悦を顔に滲ませながら言った。

「このシャッターは元々、防火目的じゃなくて、ここから逃げようとする泥棒を閉じ込める目的で作られた。……そう、お前のような」

 青山もダークも、肩で息をして向かい合った。
 静かな密室に、2人の息遣いだけが響く。

「まるでサンタさんだな。色違いの」

 白い袋を肩から担いでいたダークに皮肉を言うと、彼は苦笑いした。そして袋を静かに床に置く。
 密室に追い詰められたにも関わらず、ダークも焦る様子はなく冷静である。青山の話を静かに聞いてくれそうだ。

「黒いサンタさんは、一体何をくれるんだろうな。……いや、盗むのか」

 青山は、ダークから僅か3メートル程の距離を取って、両の手を開いてみせた。

「今、俺以外の警官は全滅。無線の先は誰も聞いてない。……そこの防犯カメラは、お前の仲間がもう乗っ取っているか?」

 青山は、この密室に唯一1台だけあるカメラを指差し言った。
 ダークは答えなかった。

「つまり、今この会話は俺の仲間は聞いてないって事だ。ちょうどいい、実はお前と腹割って話したかったんだ。お前を捕まえてしまった後は、こうやって一対一で話せないからな」

「……時間稼ぎですか? まあ、いいでしょう。少しなら話し相手になりましょう」

「俺は、正直、敵ながらお前に期待してた」

 青山はダークの仮面の目を見つめた。

「大きな声じゃ言えないが、俺もアンチ鷲尾なんだ」

「フッ、公務員としてその発言はいただけないですね」

「前に鷲尾に、したくない仕事をさせられてな。警察官という立場でありながら、ある事件の隠蔽に加担したんだ。
 その犯人の息子に、俺は……本当にむごい事をしてしまった。その事を、ずっと悔いている」

 ダークの薄ら笑いが、消えた。

 青山は、絶対に忘れられない。
 “12月の国会事件”の犯人の息子――糸原高俊を。
 松浦達と共に真相を知る糸原を口止めする為、彼にMBを投与しに地方まで出向いた。

 国会事件の三日後。松浦と向かい合わせに座る糸原の真後ろに立ち、警察側の真意に気付き逃げようとした糸原を床に押し付け、麻酔銃を向けたのは──、紛れもなく青山だった。
 そうして糸原にMBを投与する寸前、真実を明らかにする筈の警察に裏切られた糸原の、失望と絶望に沈む顔が……今でも深く胸に刻まれている。

 深い罪悪感に苛まれた青山に出来た贖罪は、眠る糸原を暖かい部屋の布団の上に寝かせてやる事だけだった。
 ……その後の彼の事は、知る由もない。

「その時俺の警官としての正義は揺らいだ。だから俺はお前の敵でありながら、密かに鷲尾を破滅に追い込む、その目的には共感していたんだよ。
 ……でもだからこそ俺の警官としての正義を、責務を果たす為に、忖度なしで窃盗犯であるお前を捕まえる」

 ダークは青山の言葉を、無表情で相槌も打たずただ聞いていた。

「だけど今、本当に分からない。お前が鷲尾に何の因縁があるのかは知らないが、教えてくれ。
 何故、急に平野に狙いを変えた? 俺だけじゃない……、お前に希望を持っていた多くの人々が、失望しているぞ。もう鷲尾に掌を返して味方しているのでは? と思っている人間もいるくらいだ」

「……」

「正直俺も、お前に失望しているんだ。お前なら何か変えられるんじゃないかと……、敵ながら少し期待していたくらいなのに……」

 ダークは、フッと笑った。

「結局、あなたも人任せですか?」

「は……?」

「この国の人間の大多数は思っています。『この世の中が変われば良いのにな』と。しかし大半は他力本願で、自ら動こうとする者は少数派です。何故なら、自ら動く事はリスクを伴うから。
 対岸の火事として安全圏から静観し、火中にいる者が事を成せば手を叩き、犠牲になれば知らぬフリをすればいい。皆都合の良い卑怯者だ」

「……」

「貴方もその烏合の衆の一人だ。正義正義と綺麗事を並べておきながら、結局元凶の鷲尾の言いなりのまま、何もしていない」

「くっ……」

 青山は奥歯を噛んだ。
 悔しいが、ダークの言っている事は正論だ。

「何の事件を隠蔽したのかは存じ上げませんが。犯人の息子にやった事を悔いているのなら、先ずは本人に懺悔し深く頭を下げたら如何でしょう?
 ただし幾ら謝罪したところで、結局貴方が烏合の衆のカラスのままでいるなら、彼にとって貴方のしている事は自己満足のパフォーマンスに過ぎないですけどね」

「……」

 ――その通りだ。しかし、一体今の自分の立場でどうしろと言うのだ。

 悪い人間を捕まえるために警官になったのに、その警察ハコ自体が悪い人間に支配されている。
 相手は国の権力を使い、自分の罪を隠蔽した男だ。
 イチ刑事の自分が出来ることなど、高が知れている……。

 青山が目を伏せた隙に、ダークは麻酔銃を向けた。

「時間です」

 ダークは麻酔銃を青山に撃った。

「……っ!」

「もっと話をしたいのですが、警察の方々が目覚められると逃げにくくなるので」

「……」

「また会いましょう、青山刑事」

「……」

「……?」

 時間が経つにつれ、ダークの表情は変わっていった。
 代わりに青山は、ほくそ笑んだ。

「……なんか、勘違いしてんじゃねーか? 怪盗さん」

「っ!?」

「抗麻酔剤、実は俺だけ自腹切って買って飲んでたりしてな!」

 ダークは完全に油断していた。

 青山は3歩大股で前に飛び込んでダークの腕を掴み、一気に背負い投げた。
 ダークは背中を床に強く打ち付け、その衝撃でシルクハットと仮面が弾け飛んだ。

「あ……ッ」

「拝ませてもらう! お前の素顔を……!」

 そして刹那、ダークの顔を見た青山は、動揺した。

 ダークは……青山春樹だった。

「は!?」

 バチッ!!

 次の瞬間、青山は全身に凄まじい衝撃を受けた。
 ダークは苦しそうな歪んだ表情のまま、一瞬動揺した青山の一瞬の隙をついて、腹にスタンガンを押しつけていた。

「……ッ」

 悲鳴すらあげられず、青山はその場に突っ伏し気絶した。





「――ました」

「えぇ、じゃあ……――」

「青山が――」

「青山さんが――……」

 ……。

「おい、おい起きろダーク」

 誰かに揺さぶられて、青山は重たいまぶたをゆっくり持ち上げた。
 視野一杯に松浦と萩本の顔が映った。

「起きたな」

「……。あ!?」

 ……ダークは!?
 青山は慌てて身体を起こして問う。

「ま、松浦さんっ! ダークはどこに……」

「往生際の悪い奴だな。青山さんに化けようったって無駄だぞ」

「は?」

 萩本が眉間にしわを寄せて、訳の分からないことを言う。

「――22時32分! 怪盗ダーク、逮捕する!」

 ガチャ
 ……“ガチャ”?

 青山の手に、手錠が。
 そして俺の周りで口々に歓喜する警官たち。

 青山は、いつの間にかシルクハットとタキシードを着せられていた。
 ……まるで、怪盗みたいな格好をしている。

「えぇえぇぇ!?」

 そんな馬鹿な!
 焦って周りを見渡すが、ニセ青山の姿はない。

「連行します! さぁ来いっ」

「いやちょっと待て萩本! 俺が本物だ! 青山春樹本人だ!」

「その格好でよくそんなことが言えるな!」

「気絶させられた間にすり替えられたんだよ! ……ならもう1人の青山を連れて来い! 化けの皮をはがしてやるからっ」

 手錠を掛けられた青山が、今すぐに己が本物だと証明出来るものは……ない。
 こうしている間にもダークは、悠々と逃げてしまう!

「青山さんは宝石を持って先に帰られました! さぁお前も来いっ」

「宝石を持ってっただとぉ!? やめろッ! 嘘だろぉぉ!?」

 青山の絶叫が、イエロージュエリー中に響き渡った。


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