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3rd DARK
第66話 3rd DARK inside ①
しおりを挟む【Side : DARK】
◆◇◆
2073年12月23日(ダーク作戦前日)
午後
「こんにちは!」
小学校5年生の加藤智也は、祖父の友治と共に、宝石店イエロージュエリーを訪れていた。
智也が従業員の一人に明るく挨拶すると、従業員も微笑んで挨拶を返した。
「あの、事前に電話していた加藤と申しますが――」
「あぁ、見学されるんですよね」
「はい、そうです」
「係りの者を呼びますので、お待ちください」
「ありがとうございます!」
智也は大きな声でお礼を言った。
ほとんどの小学校は、冬休みに入っている頃である。
智也の学校では社会科自由研究の宿題を課されており、内容は『地域の会社・企業を調べてみよう!』というものである。
そして智也はイエロージュエリーを調査することに決め、今から建物の全てを案内してもらうことになっていた。
智也はカメラで、しっかりと入口から何度も撮影していた。
「お待たせしました」
係員は若い女性だった。
「じゃあ智也くん、まずはショールームに行きましょうか」
「はーい!」
「お祖父さまも見学なさいますか?」
「あ、いや、わしは待っとります」
智也をお願いしますと、友治は小さく会釈した。
「わしの出番……これだけか」
彼は一人、苦笑いした。
◆
智也は係員の女性に連れられ、まずはショールームの写真を取る。
続いて非常口をパシャリ。
他の客をパシャリ。
「あ、他のお客様は撮らないでね!」
叱られたので消す。
天井をパシャリ。
便所をパシャリ。
小学生が従業員のすぐ横でシャッターを切っていたので、誰も不審に思うことはなかった。
そして智也は、いよいよスタッフオンリーの扉の奥へと足を踏み入れることになった。
「ここがオフィスです」
「おー!」
智也は可能な限り大きなリアクションを取り、オフィスの隅から隅までシャッターを切り始める。
そして係員は次の部屋の扉の前で、何やらパスワードを打っているらしかった。
係員は意図して智也の視界を覆うように背中を向けた。
……どちらにしろ、智也の身長では何を打っているのかなんて見えないのだが。
重厚な扉が重々しく開く。
「おぉーっ! すっごーーい!!」
智也は最大級のリアクションを取った。
その部屋は、ショールームの、宝石の入っているショーケースの鍵が保管されている“鍵庫”だった。
智也の視界一杯に、数え切れない鍵が映った。
「すっごいや! 鍵ばっかし」
智也は念入りに、上から下までシャッターを切り続けた。恐らくこれまでで、一番多い枚数を取っていたに違いない。
「智也くん。そんなにたくさん取って、何に使うの?」
待ちくたびれた係員が智也に尋ねると、智也はにかっと笑って言った。
「うん。この写真を繋げてね、この部屋がどれだけ大きいか分かってもらおうと思って!」
無邪気に笑う智也に、係員も思わず頬が緩んだ。
◆
「やるとは思ってたけど、鍵庫だけで軽く100枚撮ってるぜこいつ」
さくら号でまさかりさんは、けいが撮って帰ったカメラのメモリーを見て苦笑した。
「容量余分に入るやつにしといてよかったぜ」
「だってほんとに楽しかったよ! ほんとにいい社会科見学だった! レポートにまとめたいくらい」
けいはじーさんに変装メイクを落としてもらいながら、興奮気味に言った。
「いーよなお前は気楽で。オレはお前らがいない間最悪だった」
「何がじゃ」
「エリンギは今日どーしても学校行かなきゃって留守にしてたから、オレは高英と2人だけだった!」
「何か話したかの?」
「何も! 可能な限りあいつの顔は見たくねーし。あーあ、こういう時ひかるがいれば和んだのによー」
まさかりさんは自分のPCを起動し、メモリーカードを差し込んだ。
「けい、じーさん。ご苦労」
「あ、タカー。楽しかったよーっ」
俺はコーヒーのカップを持って、キッチンから3人の前に顔を出す。
「どうだ、まさかりさん」
「うるせ、今やってる」
まさかりさんはけいが取った写真を、画面の中でパズルのように組み立てていく。
「厄介なのは距離感がバラバラなことだが、いや、枚数が多いおかげで助かった。けい、見ろよ」
「おぉー! こんな感じ!」
写真は4枚に組み立てられ、ちょうど鍵庫の壁四面の写真になった。
「で、これをいじると」
まさかりさんは写真の一部を拡大していく。
一つの鍵が画面全体に映し出されると、鍵番号が分かるまで鮮明に映し出された。
「すごいのぉ」
「これはかなり根気のいる作業だな……。高英。鍵番号、なんだっけ」
「“R6223”」
「かーっ。ホントに感謝しろよなオレに」
ぶつくさ言いながら、まさかりさんは手を動かしていた。
◆◇◆
2073年12月24日
19時24分
ホテルの駐車場にレンタカーを止め、変装したエリンギとじーさんはイエロージュエリーに隣接するルビーホテルへと向かった。
エリンギは髪を黒く染め、じーさんの変装によって日本人の顔に様変わりしている。
どこからどう見ても、2人は祖父と孫にしか見えない。
ルビーホテルは予約必須の人気ホテルだ。
クリスマスイブでイベントを開催しているのもあり、この日は超満員だった。
「原田大輝です」
「原田様ですね。こちらの鍵をどうぞ」
じーさんは手袋をしたまま鍵を受け取った。
部屋は、予約する際にこちらから指定した部屋である。
イエロージュエリーに一番近い部屋で、イエロージュエリーの屋上と部屋のベランダの高さがほぼ同じ高さの部屋。
それが312号室。
遅れること数分。
フロントに、メガネを掛けた大学生くらいの男が現れた。――俺の変装だ。
「岩田文哉です」
「岩田様ですね。こちらのお部屋になっております」
俺に指定されたのは、じーさん達とは階も異なる部屋だった。
手袋を着けたまま鍵を受け取り、部屋に上がる。
俺の部屋には本当に泊まるための荷物を置き、鍵を掛け、ダークセットだけを持ってじーさんの部屋に行った。
俺の姿を誰にも見られていないことを確認しつつ、じーさん達の部屋の扉を二度叩く。
じーさんは覗き穴から岩田文哉の顔を確認すると、静かに俺を中へ入れた。
「指紋は付けてないだろうな」
「抜かりはないぞ」
「後にこの部屋は百パーセント警察に調べあげられる。証拠は一切残すな」
じーさんを先導に部屋の奥へ入ると、奥には原田輝樹――エリンギが落ち着かない様子で歩き回っていた。
「ウォ、誰カト思っタラ、タカダッタ」
「エリンギ、いつもの数倍片言になってるぜ」
無線からまさかりさんが突っ込む。
まさかりさんはイエロージュエリー近くの駐車場の車の中だ。
「エリンギはいつも逃走係だったから、現場は初めてじゃの」
「ソ、ソウナンダヨ」
「人手が足りないから仕方ない。それとエリンギ、歩き回るな。頭髪が落ちないよう自主的に管理しろ」
「エ、抜けないように踏ん張れってこト……?」
「帽子を被り頭を触るなと言ってるんだ。抜け毛を踏ん張れるのなら、元からハゲてる人間なんて存在しないだろ」
「ぶっ」
3人がクク……と堪えるように笑い出すと、場の空気はほんの少し和らいだ。
「……さてタカよ。やるか」
「そうだな」
じーさんは変装の準備を始める。
俺はメガネを外し、じーさんが指定した場所に腰掛ける。
「怖いの……。自らの手で敵の顔を作り出すとは」
「タカ……、心配だから合言葉作らなイ?」
「はぁ?」
「もし本物の青山刑事と会ってモ、大丈夫な様に」
じーさんはまず、岩田文哉の顔から木谷高英の顔へと戻していく。
「お前らがへまをしない限りは、まずそんな場面には遭遇しない」
「いいじゃねーか。考えろよエリンギ」
「考えたヨ。ボクが『ボクたち?』ってふるかラ、タカは『ひかる助け隊!』って言ってネ」
「……」
……苦笑。
「しょーもないギャグじゃのぅ……」
「いや、エリンギの日本語力の進化が垣間見れたぜ。いいと思う」
「良くない。俺は絶対言わないぞ、そんな恥ずかしいギャグ」
「エー。言わないと帰りの車乗せないヨー」
「それは脅しか? 俺を置き去りにして警察に捕まれば、ひかるも死ぬぞ」
「出た。高英の必殺技・脅し返し。言い返してやれエリンギ」
「エー……、じゃア……。
If you don't say the password, you'll be treated to sushi(合言葉言わなかったラ、寿司奢っテ)」
「うぉー! ネイティブだー!」
「寿司しか聞きとれんかった……」
「Cut the crap(寝言は寝て言え)」
「うぉ、返した……」
「さすがタカ……」
「グムムムム……」
数十分の時間を経て、俺は青山春樹へと変装した。
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