怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

文字の大きさ
16 / 69
Fault

第16話 殺人犯の息子

しおりを挟む


 2072年12月3日

 “12月の国会事件”

 この日たった1人の男が、国会に侵入する。
 所持品は、麻酔銃とレーザー光線銃。

 男は、地方に住むごく普通の会社員。
 名は、糸原高成《いとはらたかなり》。
 2人暮らしで、当時高校3年の息子が1人いた。

 事件の目的は、鷲尾の殺害。
 しかしそれは未遂で終わり、高成は誤って他の議員・天谷を射殺――。
 そのまま現行犯逮捕された。

 罪の有無は検察に送られ起訴されてから、裁判で決める事になる。
 しかしそれすら1日で全てが終わり、鷲尾は自分で作った制度――“害刑制度”により、事件からたった3日で彼を処刑した。

 今となっては高成の動機は定かではないが、鷲尾に対する一方的な私怨だろうと、世間からは片付けられている。

 これが一般に知らされている、この事件の

 たった1人残され、忘れ去られた彼の息子のことなど、世間の中では全く興味のない話である。
 放置された悲しみの芽は育ちに育ち、ついに多くの人間を巻き込んで花を咲かせた。

 “12月の国会事件”は、タカがさくら号にやって来る、わずか3ヵ月前の出来事である。


◆◇◆


 2073年5月5日
 午後9時過ぎ

「すっっっごーい! 本当に出た! 怪盗ダーク!」

 ある家のリビング。
 テレビにはヘリにぶら下がる縄梯子に捕まり逃走する、怪盗ダークが映し出されていた。

 それを見て興奮気味に、小学四年生の遠藤ケイトは母親に向かって目を輝かせて言った。

「ねぇお母さん! カッコいいよね!? 怪盗って本当にいるんだね! 会いたいなー!」

「そうね……、私もドラマを見てるみたいよ……」

「タカ達も見てるかなー? 今度さくら号行ってくるね! ダークの話みんなといっぱいする!」

 ……何故この少年がさくら号に精通しているかといえば、その母親がさくら号の大家だからである。
 彼女はシェアハウス専門の不動産を経営しつつ、その大家も兼ねていた。
 ケイトはさくら号によく遊びに行っており、タカ達5人とも既に見知った仲である。

 母親はテレビのダークの姿を見ながら怪訝そうに少し考えて、言った。

「……ねぇケイト。ちょっと面白い事しない?」

「え? 何?」

 彼女は棚から鍵を取り出し、ケイトに渡した。

「さくら号の合鍵。これでみんながいない間にかくれんぼして、何か面白い会話が聞けたら私にこっそり教えて」

「えー! 面白そう! いいよ!」

「ふふ、あとそれから……。最近タカくんとは何か話した?」

「んー……、タカは相変わらず話しかけてもあまり相手にしてくれないんだ……」

「そう。何か彼から言われたら、それも教えてね」

「? わかった」

 ケイトが再びテレビに視線を戻したところで、彼女の笑顔は消え、何か深く考え込んでいた。


◆◇◆


 2073年5月6日
 ダーク事件の翌日

 警視庁

 鷲尾邸に予告通り怪盗が現れ、5,000万円相当のティアラが盗まれたという衝撃的なニュースは、瞬く間に日本中を駆け巡り世間の話題を奪った。

 ネット上では面白半分でダークを擁護する声が大半で、予告があったにも関わらず取り逃がした警察は嘲笑されていた。

 翌日には捜査本部が立ち上がるだろう。
 青山たち警察は、夜通しで事件の洗い直しの作業に追われていた。
 しかし立つ鳥跡を濁さず、隙のない完璧な犯行であり苦戦していた。

 ダークが唯一残した、本物とすり替えたティアラのレプリカ。
 しかし当然の如く、ここから指紋などは一切出ず。

 ダークが乗ったヘリは太平洋方面へ去って行ったのを見届けて以降、行方知らず。
 国内の空の監視網を頼っても見つからなかった、という事は海外逃亡の可能性が高い。

 そして鷲尾邸に設置された監視カメラは全て、犯行の30分前から別日の映像に上書きされていた。
 ……但し、一箇所を除いて。

「あのー……、自分、やられたっす」

 監視カメラのチェックをするまでに、1人の警官が青山に名乗り出た。
 青山の部下でもある、中林巡査部長。

「黒いローブと仮面を被った2人組に挟み討ちにされて、麻酔でやられたっす」

 青山は中林の変な敬語が鼻につきながらも、監視カメラを確認した。
 他の監視カメラは全て書き換えされていたにも関わらず、中林が警備していた非常口だけ映像が残っており、犯行の様子がしっかりと残されていた。

「コイツらがダークか……? でも2人?」

「や、『オレたちはダークを殺しに来た』って言ってたっす」

「ダークを殺しに来た??」

 ここに来て第三勢力の出現に、首を傾げる青山。
 しかも、何故わざわざここの映像だけ残した? 何故、すぐ麻酔銃で中林を眠らさずに自ら名乗った?

 ……答えは明白だ。

「奴ら、敢えて自分の存在も知らしめようとしてるな。ダークに対してか、警察や世間に対してかは分からないが……」

「何のためすかね?」

「それは分からないが……。中林、コイツらの声を聞いてるってことだよな」

「あ、はい、一応っすけど……」

「会議が終わったら聞き込み回るぞ」

「聞き込み? 誰にすか?」

 青山は、中林に携帯の画面のPDFを見せた。

「パーティ客のリストだ。この謎の二人組は無関係かもしれないが、ダークはヘリを使って逃走している。……という事は、背後に金を出したパトロンがいる可能性がある。そしてこのパーティ客は、大富豪ばかりだ」

「成程っす……」

「可能性は低いけどな。しらみ潰しに行くぞ」

 青山は、ずっと興奮していた。
 ここまでの犯罪をやり切った事と、鷲尾を狙い何かを変えようとしているダークに対し、敬服の念すら抱いていた。

 しかし、それ以上に。
 刑事としてこの大犯罪者を絶対に捕まえてやるという、強い正義感と闘争心が燃えていた。


◆◇◆


 2073年5月6日
 ダーク事件の翌日……の、昼過ぎ

 俺とエリンギは、ようやくさくら号に帰ってきた。

 鷲尾邸からヘリでエリンギの隠れ別荘があるロサンゼルスまて飛んだ後、普通の飛行機で東京までとんぼ返り。
 つまり鷲尾邸を離れてから今まで、ほぼ空の上にいた事になる。
 流石に2人ともヘロヘロで口数も少なく、エリンギに至ってはほぼ寝ていた。

 俺はその間、ネット上でのダークに対する反応を見ていた。
 確かに日本中は大騒ぎしている。しかし世界から見れば、ダークの事件はささやき程度の事象だ。

 ……まだ。まだまだ足りない。

「ただいマー……」

 エリンギがヨロヨロとさくら号の引き戸を開ける。
 しかし、他の3人の声は聞こえてこない。……それどころか。

「……酒臭い」

「エ?」

 嫌な予感がして、俺は足早に和室へ向かった。

 呆れた。
 ちゃぶ台の上には大量の酒や菓子。
 そしてそれを囲むように、ひかるとまさかりさんとじーさんが畳に転がって寝ていた。

 ……いや、それは百歩、一万歩譲っていいとしても。

 畳に転がっていたティアラを見て、俺の怒りは一気に爆発した。

「ヒィィイィ……!」

 その惨状と俺の鬼のような形相を見て、エリンギは悲鳴を上げた。

 俺はティアラをハンカチで掴んで安全な場所に置いたあと、ちゃぶ台を蹴り飛ばした。
 空の缶が小気味いい音を立てて落ち、3人はムニャムニャと目を開けた。

 俺は荷物が入ったカバンを、寝ているまさかりさんの顔面に振り下ろした。

「ブッ!? いってえ!」

「おい起きろ。お前ら全員ぶっ殺す!!」

「ボクも!?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...