怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Trap

第24話 巧妙な罠

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◆◇◆
 

 2073年6月上旬

 鷲尾邸

 鷲尾は、ある人物を客間に招いた。
 長いテーブルを挟んで、2人は椅子に掛ける。その空間に、邪魔は誰もいない。
 密議をこらすにはもってこいの場所だ。

「Mホテルでのパーティぶりかな。あなたのことはよく覚えている。お父様は息災でいらっしゃるかな?」

「覚えて頂いて光栄です。父はお陰様で、今も変わらず仕事に励んでおります」

 椅子に座って、鷲尾は微笑する。
 鷲尾は給仕が運んで来たワインを一口含んで、身を乗り出して話を切り出す。

「……で? 早速本題だが。『ダークの尻尾を掴んだ』と言うのは?」

「それを決定づける為に、貴方と組みたいと思って」
「ほう?」

「奴等にトラップを仕掛けたい。貴方の人脈を見込んでの提案です」

「トラップ……。ならあなたの計画を聞かせて貰おうじゃないか」

 来訪者は、静かに微笑んだ。


◆◇◆


 2073年6月上旬

 警視庁

 青山は、鷲尾邸に集ったパーティ客の名簿を穴が開く程眺めていた。
 結局全員に聞き込みに回ったが、有力な情報は得られなかった。

 ダーク事件から一月が経った。
 さすがにメディアで騒がれることは少なくなったものの、未だに奴の存在は民衆の心を掴んで離さない。

「やー。しっかし大人気っすねダークは。悪事を咎めるどころか、次はいつだろうって話でいっぱいっすよ」

 相変わらずの口調で、中林はPC画面を見つめる。
 ダークについてネット上では憶測が絶えない。中林はその内の一つを見ているのだろう。

「あ、ダークとDKの関係について予想してる人もいるっすよ」

「あっそ」

 DK(=Dark Killer)

 中林を襲い監視カメラに映った謎の2人組を、誰かがそう呼び始めたことから広まった呼称。
 奴等の素姓も、未だ謎のままだ。

「ダークに便乗して、貧困者支援団体に物資を提供してる人が増えてるっすよね。良い流れ作っちゃったな~、なんかオレらもやり辛いっすよね~」

 ……それだから、ダークを憎めない。
 民衆には今や政府どころか、警察まで非難を浴びている。

『ダークを捕まえるな』と。

 アホか。

 奴の目的はともかく、私物を盗んだ窃盗犯には変わらない。
 世間がどれだけ騒いでも、ダークを捕まえたいという青山の正義感は揺るがない。

「おい、中林。ネットはロクな情報なんてねーから、もういい。それよりお前が聞いたDKの一人の声、思い出せねーのかよ」 

「うー。む……」

 コイツ、声覚えてるって言うから聞き込みに連れて行ってやったのに。
 いざ全て終えてみたら、やっぱもう忘れたっす……、と一言。

 超、使えない。

「あーっ。もういい。もうお前には頼んねー」

「く……っ、悔しいっす」

「出直してこい。馬鹿」

「うぃっす」

「『はい』だろそこは。変な敬語も直せ」

 それと……ダークには関係ないが。

 調査対象のマイケル・エレンジとルームシェアしていた、あの目付きが鋭い青年。

 めっちゃ……似てた。
 “12月の国会事件”犯人の、息子に。

 まぁ名前違ったし、ただのそっくりさんだろうが……。
 都内じゃなく地方に住んでたし。

 ただ今その息子がどんな生活を送っているか、気になる……というか心配で……。

「青山さーん? 次のダークいつだと思うっすか?」

「……はぁ~」

 流石に青山は、中林の言動に苛つき始めていた。


◆◇◆


 2073年6月下旬

 さくら号

 俺は卓袱台を中心に、ダークのメンバー(けいを含む)を集めた。

「これから2回目のダークの作戦を説明する」

「やったぁ!」

 歓喜したのはけい。

「やっとそれっぽくなってきたね! 楽しみだぁ~」

「それっぽくって……」

「ふわぁ~」

 まさかりさんが長いあくびをした。

 ……あぁ、早速物凄くイライラする。

「今回のは前回と違い、警察は本気でかかってくる。警備はより重厚になるだろうな。よって今回の作戦は前回より複雑になる。全員がしっかりと、全てを頭に入れておけ」

「はーい」

「ねぇねぇ。次はどこで何を盗むの?」

「それは――」

「超豪華客船レインボー号で、ピンクダイヤモンドを長井から盗むんだぜ」

 だからまさかりさん、何でアンタが言うんだ……。
 まさかりさんには見取り図を事前に用意してもらう為、どうしても他の奴等より情報が早くなる。

「あのなまさかりさん……」

「船!? 楽しみーっ!」

「レインボー号って聞いたことあるヨ! 有名だよネ?」

「豪華客船なんて乗るの初めて……。わくわく」

「船の上で飲む酒は美味そうだぜ……」

「船か……。酔い止め飲まなきゃの」

 会話がカオスな事になり、俺は天を仰いだ。
 けいが加入した事と、初回成功したという自信からか、場の空気はフワフワとして緊張感ゼロだ。

 はぁ、本当に……バカばかりで疲れる……。

 ……しかし、苛立ちは抑えろ。
 ここは鵜飼か猿山の飼育員になった気持ちで、上手く手懐けろ。

 まだ会議は始まったばかりだ。ここで俺が感情的になっては本当に収拾がつかなくなる。

 俺がわざと大きく咳払いをすると、皆は同時に俺に目線を向けた。

「期日は7月17日、海の日」
「てか、その日に鷲尾がレインボー号に乗るって確実なの?」

 もっともな質問だ。
 俺は携帯を操作して、画面をテレビに映す。

「ソースはまた、鷲尾のブログだ」
「また……1回目もそうだったよね」
「あぁ。だが初回とは明らかに趣旨が違う。まずは読め」

 以下、ブログの記事。

『2073年7月17日
 横浜発大阪着、午前10時出港の客船レインボー号に乗船予定。
 大阪府知事に就任予定の田中氏に、ピンクダイヤモンドを就任祝いに贈呈するつもりだ。
 ピンクダイヤモンドは希少価値が高く(8,000万は下らないだろう)、きっと喜んでくださる筈だ』

 皆これを読んで、首を傾げる。

「何か、すっごく不自然……」

「普通、宝石の値段まで書ク? 出港予定の時間まで丁寧ニ……」

「しかも府知事に贈呈って、ワイロ? あんまりいい印象は受けないけど……」

「まるで、『ダークに盗んでくれ』とでも言うかの書き込みじゃの」

「その通り。これは鷲尾から、ダークに対する挑発だ」

「挑発?」

「あぁ。船上という鳥籠に、自らをエサとしてダークを招待してくれたんだ。しかも盗品の値段を上げるサービス付きでな。
 普通に考えて海の上なら逃げ道はないからな。警察と示し合わせて計画した可能性もある」

 この中でも唯一勘が働くじーさんが、怪訝な顔で問う。

「タカ……、それはダークを捕まえる罠という事にはならんか? 彼等の懐に入るという事じゃろ、向こうの事前準備も万全じゃろうし、大分リスクが上がる気がするんじゃが……」

「その通り。でもそれもただの知恵比べだ」

 俺は、ほくそ笑んだ。

「鷲尾は見せびらかすのが好きなタイプだ。客船という“劇場”を用意してきた時点で、奴はもう舞台に立っている。そこに俺たちが乗り込まなきゃ、奴は拍子抜けするだろ?」

「……そうじゃの。この挑発を無視すると言うことは、怖気付いて逃げた感じもするしのぅ」

「あぁ。寧ろ俺たちが勝てば、鷲尾も警察もまとめてその鼻を折る事ができる。とても面白いショーになりそうだ……、これは世間から更に注目される怪盗劇場になる。この勝負、受けて立とうじゃないか」

 
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