怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Trap

第26話 記憶を消す薬

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 俺はさくら号から優輝を連れ出し、フラフラと適当に歩きながら会話していた。

「やー。焦った焦った。お前の偽名うっかりド忘れしてよぉ。ポロッと本名言いかけた、ははは」

 陽気に笑う優輝に対し、俺は深い溜め息をついた。

「あれほど来るなと言ったろ……。それに、来るなら一言言ってからにしろ」

「言ったって駄目っつーだろお前」

「駄目と言っても来るんだろ」

「んじゃ駄目って言わなくていいんじゃね?」

「だからそれは駄目だと言ってるだろ」

「は? 何が駄目だって?」

「だから……、……?」

「……っ、ははっ」

 優輝が笑う。俺もつられて失笑する。
 コイツもアホだが、何故だか一緒にいて気が楽だ。

「……で? 今日は何の用だ」

「あー。やっぱ光里のことだよ。もう光里のこと、知ってんだろ?」

「自分からペラペラ喋るからな。インターハイのこととか」

「さすが秀才高俊くん。バレるとは思ってたけど、こんなに早いとはなー。『バレました』って連絡来た時には、もーオレもどーしようかと思った」

「やっぱりお前が一枚噛んでたんだな」

「住所教えただけだよ。行きたいって駄々こねんだもん、あいつ」

 優輝はひかるが、わざわざ俺を追って来た理由を知っているのだろうな……。
 別にそこまで興味があるわけではないが、聞いてみるか……。

「でよ。高俊。聞きたいんだけど」

「ん」

「女だと知って、どーしてあいつを追い出さなかったんだ?」

 優輝の問いに、一瞬ポカンとしてしまう。

「……女だから、追い出す理由があるのか?」

「いやだって、女禁止だろお前んトコ。それにどー考えたってお前目当てで来てる訳だし、お前なら有無を言わさず追い出すかと思った」

「あぁ……」

 そうか。確かにいつもなら、そうしていた筈だろう。
 ……いや、実際最初はひかるを追い出そうとしたんだった。

「もしかして……、まさかまさかの特別な意味が」

 ……特別な意味?

 ひかるを追い出そうとして追い出さなかったのは、俺の計画に使えると思ったから。
 実際初回のダークではあいつの脚の速さは際立って活躍したし、次回もその予定だ。

 それが『特別な意味』と言うことか?

 あいつが女だとバレないようにかばうのは、それが理由だ。

「……ぅおーい。高俊?」

「ん」

「あー……。やっぱ何でもねーよ。お前とはこういう話は合わねーことは知ってるし」

「……こういう話?」

「あーもういいって。つーかオレ、光里とも絡みたいんだけど。やっぱお邪魔していーだろぉ? もーお前らの本名が、他の人達にバレる様なボロは出さねーからよ」

「ダメだ。絶対お前はボロを出す。そんなに会いたいなら今ここに呼べば良いだろ」

「おー、確かに」

 優輝が携帯を取り出そうとしたところを、俺は静止する。

「あいつを呼ぶ前に。聞きたい事があった」

「ん?」

「……大分、シリアスな話になるが」

「な、何だよ?」

「“MB”という、精神科の薬がある」

「?」

「それは略称で、“Memory Breaker”というのが正式名称だ。……その名の通り、記憶を消す薬だ」

 優輝が一瞬驚いた顔をしたのを、俺は見逃さなかった。

「投与してから数日間の記憶が丸ごと消える。当然、『自分がMBを投与した』という認識も残らない。……そして俺は、過去にこの薬を投与した可能性がある」

「そ、そうなのか?」

「優輝、お前何か知ってるな?」

「え~知らないなあ、そんなの……」

 苦笑いする優輝の肩を、俺は強く掴んだ。

「優輝、お前には国会事件のことを全部打ち明けただろ。それはお前の事信じてるからだぞ」

「う、うーん……」

「隠し事はなしだろ。ここまで俺は、お前の事信用して言ったのに……」

 優輝は非常に苦しそうに、俺の肩を掴み返した。

「高成さんに、口止めされてます……」

「え……」

「だから本当に言えない。マジで。ごめん。でも本当に、お前の為なんだ……。信じてくれ」

 親父が絡んでるのか……? ますます訳が分からない……。
 そして俺が親父の意思に背く事は一切出来ないという事を、優輝は知っている。

 俺は優輝から手を離した。

「……分かった」

 一瞬沈黙したが、優輝は元のテンションにすぐに戻った。

「よしっ、じゃあ光里呼ぶぞ~」

「本当に切り替え早いなお前……」

 “MB”。記憶を消せる薬。
 元は精神科の治療薬だが、凶悪犯罪で使われることも多くなった為、一般の販売は禁止されている。

 あの薬は俺の……トラウマだ。

 だが、そのMBを、俺は隠し持っている。
 ……何か不測の事態が起きても、対処できるように。





 数分の後。ひかるが走ってやって来た。

「優輝せんぱーい!」

「光里ー! 会いたかったぞー!」

 いきなり軽く包容した二人を見て、俺は少し引いた。

「色々大変だったな光里……。ここでこれからやっていけそう?」

「はい、他の住人の方も優しくて楽しいです! タカも普通に話してくれるようになって……。本当に、先輩が背中を押してくれたおかげです」

「そっか良かった! 高俊、光里のことこれからも頼んだぞ」

「は? 何を頼まれなきゃならないんだ」

「嬉しい、本当に嬉しいです。この3人で会話できる日が来るなんて……。前は眺めてるだけだったから……」

 ひかるの目が、何故か潤んでいる。

「何でお前が泣くんだよ」

「な、泣いてないよ! タカだって優輝先輩が来て嬉しいでしょ?」

「はぁ? こっちはいきなりコイツに本名バラされかけたんだぞ?」

「あ……、優輝先輩もおれと同じ事しかけちゃったんだ……。でも優輝先輩には、タカが事前に言っておかないのが悪いじゃん」

「コイツはアポ無しでいきなり来たんだよ!」

「あっははは。光里、高俊にもうタメ口なの?」

 そう笑う優輝に、俺もひかるもハッとした。

「……敬語使えよ」

「え、やだ。今更すぎるよ」

「もうお前らそんな仲良いのか~! なんだ良かったー! 心配して損した」

「仲良くない!」

「ふふふ」

 ひかるも優輝も、楽しそうに笑った。

 その後3人で昔の他愛のない会話などした後、優輝はホテルに一泊して帰って行った。

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