26 / 69
Trap
第26話 記憶を消す薬
しおりを挟む◆
俺はさくら号から優輝を連れ出し、フラフラと適当に歩きながら会話していた。
「やー。焦った焦った。お前の偽名うっかりド忘れしてよぉ。ポロッと本名言いかけた、ははは」
陽気に笑う優輝に対し、俺は深い溜め息をついた。
「あれほど来るなと言ったろ……。それに、来るなら一言言ってからにしろ」
「言ったって駄目っつーだろお前」
「駄目と言っても来るんだろ」
「んじゃ駄目って言わなくていいんじゃね?」
「だからそれは駄目だと言ってるだろ」
「は? 何が駄目だって?」
「だから……、……?」
「……っ、ははっ」
優輝が笑う。俺もつられて失笑する。
コイツもアホだが、何故だか一緒にいて気が楽だ。
「……で? 今日は何の用だ」
「あー。やっぱ光里のことだよ。もう光里のこと、知ってんだろ?」
「自分からペラペラ喋るからな。インターハイのこととか」
「さすが秀才高俊くん。バレるとは思ってたけど、こんなに早いとはなー。『バレました』って連絡来た時には、もーオレもどーしようかと思った」
「やっぱりお前が一枚噛んでたんだな」
「住所教えただけだよ。行きたいって駄々こねんだもん、あいつ」
優輝はひかるが、わざわざ俺を追って来た理由を知っているのだろうな……。
別にそこまで興味があるわけではないが、聞いてみるか……。
「でよ。高俊。聞きたいんだけど」
「ん」
「女だと知って、どーしてあいつを追い出さなかったんだ?」
優輝の問いに、一瞬ポカンとしてしまう。
「……女だから、追い出す理由があるのか?」
「いやだって、女禁止だろお前んトコ。それにどー考えたってお前目当てで来てる訳だし、お前なら有無を言わさず追い出すかと思った」
「あぁ……」
そうか。確かにいつもなら、そうしていた筈だろう。
……いや、実際最初はひかるを追い出そうとしたんだった。
「もしかして……、まさかまさかの特別な意味が」
……特別な意味?
ひかるを追い出そうとして追い出さなかったのは、俺の計画に使えると思ったから。
実際初回のダークではあいつの脚の速さは際立って活躍したし、次回もその予定だ。
それが『特別な意味』と言うことか?
あいつが女だとバレないようにかばうのは、それが理由だ。
「……ぅおーい。高俊?」
「ん」
「あー……。やっぱ何でもねーよ。お前とはこういう話は合わねーことは知ってるし」
「……こういう話?」
「あーもういいって。つーかオレ、光里とも絡みたいんだけど。やっぱお邪魔していーだろぉ? もーお前らの本名が、他の人達にバレる様なボロは出さねーからよ」
「ダメだ。絶対お前はボロを出す。そんなに会いたいなら今ここに呼べば良いだろ」
「おー、確かに」
優輝が携帯を取り出そうとしたところを、俺は静止する。
「あいつを呼ぶ前に。聞きたい事があった」
「ん?」
「……大分、シリアスな話になるが」
「な、何だよ?」
「“MB”という、精神科の薬がある」
「?」
「それは略称で、“Memory Breaker”というのが正式名称だ。……その名の通り、記憶を消す薬だ」
優輝が一瞬驚いた顔をしたのを、俺は見逃さなかった。
「投与してから数日間の記憶が丸ごと消える。当然、『自分がMBを投与した』という認識も残らない。……そして俺は、過去にこの薬を投与した可能性がある」
「そ、そうなのか?」
「優輝、お前何か知ってるな?」
「え~知らないなあ、そんなの……」
苦笑いする優輝の肩を、俺は強く掴んだ。
「優輝、お前には国会事件のことを全部打ち明けただろ。それはお前の事信じてるからだぞ」
「う、うーん……」
「隠し事はなしだろ。ここまで俺は、お前の事信用して言ったのに……」
優輝は非常に苦しそうに、俺の肩を掴み返した。
「高成さんに、口止めされてます……」
「え……」
「だから本当に言えない。マジで。ごめん。でも本当に、お前の為なんだ……。信じてくれ」
親父が絡んでるのか……? ますます訳が分からない……。
そして俺が親父の意思に背く事は一切出来ないという事を、優輝は知っている。
俺は優輝から手を離した。
「……分かった」
一瞬沈黙したが、優輝は元のテンションにすぐに戻った。
「よしっ、じゃあ光里呼ぶぞ~」
「本当に切り替え早いなお前……」
“MB”。記憶を消せる薬。
元は精神科の治療薬だが、凶悪犯罪で使われることも多くなった為、一般の販売は禁止されている。
あの薬は俺の……トラウマだ。
だが、そのMBを、俺は隠し持っている。
……何か不測の事態が起きても、対処できるように。
◆
数分の後。ひかるが走ってやって来た。
「優輝せんぱーい!」
「光里ー! 会いたかったぞー!」
いきなり軽く包容した二人を見て、俺は少し引いた。
「色々大変だったな光里……。ここでこれからやっていけそう?」
「はい、他の住人の方も優しくて楽しいです! タカも普通に話してくれるようになって……。本当に、先輩が背中を押してくれたおかげです」
「そっか良かった! 高俊、光里のことこれからも頼んだぞ」
「は? 何を頼まれなきゃならないんだ」
「嬉しい、本当に嬉しいです。この3人で会話できる日が来るなんて……。前は眺めてるだけだったから……」
ひかるの目が、何故か潤んでいる。
「何でお前が泣くんだよ」
「な、泣いてないよ! タカだって優輝先輩が来て嬉しいでしょ?」
「はぁ? こっちはいきなりコイツに本名バラされかけたんだぞ?」
「あ……、優輝先輩もおれと同じ事しかけちゃったんだ……。でも優輝先輩には、タカが事前に言っておかないのが悪いじゃん」
「コイツはアポ無しでいきなり来たんだよ!」
「あっははは。光里、高俊にもうタメ口なの?」
そう笑う優輝に、俺もひかるもハッとした。
「……敬語使えよ」
「え、やだ。今更すぎるよ」
「もうお前らそんな仲良いのか~! なんだ良かったー! 心配して損した」
「仲良くない!」
「ふふふ」
ひかるも優輝も、楽しそうに笑った。
その後3人で昔の他愛のない会話などした後、優輝はホテルに一泊して帰って行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる